入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2021.06.22

青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第3巻 金と宋の関係、宋の中の事情

 北宋の徽宗皇帝の時代を舞台に、宋を訪れた金の皇女アイラの恋と冒険を描く歴史漫画の第3巻であります。宋の軍事機密である火薬を巡る陰謀に巻き込まれたアイラの(一方的な)想い人・白凜之。彼の冒険はアイラたちの運命とも関わり、思わぬところで大事件に発展して……

 親善大使として宋の都を訪れたアイラ。旅の途中で、そして宋に着いてからも幾度も窮地に陥った彼女たちを助けてきた宋の花火の工匠・白凛之に、アイラはベタ惚れであります(――が、凛之には全くその気なし)。
 そんな中、凛之の上司が金目当てで火薬を横流ししていたことが判明。初めはどこかの闇商人かと思われたその相手は、実は遼人であり、仲間に化けて潜入した凛之は窮地に陥ることになります。が、刺客を送ってきた遼人を追って、アイラと兄たちが駆けつけ……

 という場面から始まるこの第3巻。ああよかった、これで助かったと思いきや――元々アイラの兄・オリブから疑われていたところに、遼人の装束でその場に居合わせたことから、凛之はまた別の窮地に陥ることになります。
 それでも火薬の存在はいわば軍事機密、事態の全てを語るわけにはいかない――苦しい立場に立たされる凛之。何とかその場は切り抜けたものの、しかしアイラと凛之たちを襲う本当の危機は、これからだったのであります。

 というわけで、前巻の食中毒&刺客騒動から一変、物語は凛之の側にと思いきや、さらにアイラの側と合流し、意外な展開を見せることになります。その結末はここでは伏せますが――印象に残るのはオリブの存在でしょう。
 金の二太子にして名将として歴史に残るオリブ。それが本作においては、もちろんその側面は持ちつつもアイラにデレデレのシスコンお兄さんなのが愉快な一方で、彼は一貫して凛之には厳しい目を向けてきました。

 それは単純に妹をたぶらかす奴(事実誤認)だから、という理由だけではなく、金と宋という二つの国に横たわる本質的な、そして歴史的・政治的な理由にもよるものなのですが――それだけに、凛之の存在、というより行動を認めるこのエピソードの結末は、人と人との心が通じ合った瞬間を目の当たりにできたようで、嬉しい気持ちになれるのです。(ところが……)


 そしてこの巻の後半からは新展開――オリブとウジュが北方の戦線に参加するために帰還する一方で、アイラは引き続き金と宋の友好のため、宋に残ることになります。
 皇宮に滞在することとなった彼女は、そこで絵画マニアの皇帝(史実)と親しく話すようになり、そして最も彼に可愛がられている第三皇子・ウン王の存在を知ることになります。

 その一方で、アイラと縁談が持ち上がっている康王(この巻の表紙)は相変わらず裏表のある猫かぶりっぷりで、アイラとの相性は最悪。
 そしてその康王に懐いていた妹の円珠は、最近冷たくなった兄に悩んでいて――というところで、紆余曲折を経てすっかり円珠と仲良くなった(微笑ましい!)アイラが一肌脱ごうとしたことで、また思わぬ騒動が起きることになります。

 寡婦であるため、人前で美しく着飾ることができない円珠。夜の庭園で密かに着飾っていた彼女をそれぞれの形で支えるアイラと康王ですが、そこを何者かに目撃され――ってこのシルエットはどう見ても?
 それをきっかけに思わぬ形で前進(?)するアイラと康王の関係。しかし目撃者探しは、まったく意外な方向に展開していくことに……

 本作を読んでいるとどうしても金と宋の関係に目が行きますが、しかしこの時代の宋の国内も色々と大変なことになっていたのは、たとえば水滸伝ファンであればよく知るところでしょう。
 この新展開で描かれるものは、あるいは、いやおそらく、その宋の国内事情に関わるものなのでしょう。だとすれば、この展開の背後にいる人物も想像できるのですが、それはそれでこの先かなりややこしいことになりそうな……


 天真爛漫で前向きなアイラの活躍に胸踊る本作ですが、やはりその背後に――そしてこの先に待っているのは厳然たる史実。
 果たして本作がそこにどのように至るのか、そしてそれをどのように描くのか――優れた歴史ものならではの楽しみが、本作には確かにあるのです。


『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第3巻(青木朋 秋田書店ボニータコミックス) Amazon


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2021.06.21

鮫島圓『竜王の娘 中国幻想選』 唐代から現代に繋がるボーイミーツガール

 中国怪異譚を巧みにアレンジして人気を博した短編集『蓬莱トリビュート』(鮫島円人名義)の実質的続編というべき作品集であります。唐代の伝奇小説『柳毅伝』を題材とした表題作をはじめとして、全五編+αの奇妙でユーモラスな、そしてどこか心温まる物語で構成されています。

 科挙に落ちて故郷に帰る途中、貧しい身なりながら美しい女性・靈珠と出会った青年・柳毅。柳毅は、洞庭湖の竜王の娘であり、涇水の竜王の王子に嫁いだものの、邪険に扱われた末に囚われの身であると語る彼女の言葉に、大いに同情するのでした。
 両親を思って泣く靈珠の姿に勇気を奮い起こし、彼女の手紙を洞庭湖の竜王の元に届けると誓った柳毅。紆余曲折の末に竜王のもとにたどり着いた柳毅ですが、事態が竜王の弟で封印されていた竜・銭塘に伝わったことで、思いもよらぬ大騒動に繋がることに……

 唐の時代、隴西出身の李朝威なる人物が著したという『柳毅伝』。今は田中貢太郎の翻案を手軽に読むことができますが、本作『竜王の娘』は、この原典に巧みにアレンジを加えて、中編漫画化しています。

 その最たるものが、原典では豪放磊落な男であった柳毅を、平凡ながら心の中に勇気と正義感と持った若者として描き、そんな彼と靈珠のボーイミーツガールの物語として原典を再構成した点でしょう。
 印象的な部分(竜王と銭塘のやり取りなど)は、驚くほど原典を踏まえつつも、しかしそこに少しずつアレンジを加えていくことにより、本作は、原典とはまた印象の異なる物語として成立させているのです。

 原典では、手紙を届けたほかは、実はほとんど傍観者の役割に留まっている柳毅。しかし本作においては――決して人としての域は超えないものの――彼が靈珠への想いから、自分自身の決断としてある行動を取り、それが靈珠の彼への想いと、そして何よりも読者の彼への共感を強めることになります。
 特にある意味物語のクライマックスである銭塘と柳毅のやり取りは、結論としては原典通りではあるものの、柳毅の言葉のその理由、そしてその内容は全く異なる――そして「人」として実に正しいものであり、大きな感動を呼ぶのです。

 もちろん、『蓬莱トリビュート』でも大いに評価が高かったその絵柄と描写力はここでも健在です。
 その美しさに目を吸い寄せられる表紙の靈珠の存在感や、作中での銭塘の暴れっぷりの凄まじさ、はたまたキャラクターたちのコミカルなやりとりなど――緩急自在の絵柄は、上で述べた柳毅の描写と相まって、見事に「今の」物語として、千二百年以上前に記された物語を生まれ変わらせているといえるでしょう。

 もちろん単品でも優れた作品ですが、ぜひ原典と比べていただいて、その素晴らしさを知っていただきたいと思います。


 一方、残る四つの短編は、いずれも唐の段成式の随筆であり、『蓬莱トリビュート』でも題材となっていた『酉陽雑俎』からの作品であります。
 山で手にした可愛らしい葉が思わぬ変化を遂げる「龍を拾った話」
 旅人と象狩りの会話で綴られる「象捕り」
 獺を飼う百姓の物語(ラストの周囲のリアクションに共感)「獺を飼う男」
 鷹を慣らす新米鷹使いと鷹の交流を描く「鷹使い」
 これらの作品の方が、むしろ『蓬莱トリビュート』に近い内容なのですが、短編の分、さらにアレンジの巧みさが光るように感じられます。

 実のところ「龍を拾った話」と「獺を飼う男」はほぼ原話通りである一方で、驚かされるのは残り二話であります。
 「象捕り」は、象捕りの男が語る象の生態の数々がメインなのですが、実はその内容が原典に記された内容。しかしそれが現代の我々から見ると実に荒唐無稽で、山海経の幻獣たちとほとんど同列の存在に見えるのですが――それを逆手に取って、新たなファンタジーを生み出しているのに圧倒されます。

 一方「鷹使い」は、原典に記された熬鷹なる訓練過程を中心に物語として再構成しているのですが、ここで描かれる鷹のビジュアルに、こう来たか、と驚かされます。
 もちろんこれは現実のものではないのですが、しかし若き鷹使いの目にはこう映っているのであり――そしてそれによって本作は、人と鳥との美しい交感の物語として、見事に成立しているのであります。


 以上五編に加えて、電子版では特典として「紀聞」のエピソードを原典とする冬山の怪異譚「土地神」を収録した本書。まだまだ題材はほとんど無尽蔵にあるだけに、是非ともさらなる中国幻想譚を読みたいものです。


『竜王の娘 中国幻想選』(鮫島圓 双葉社アクションコミックス) Amazon


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2021.06.20

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3』 第12話「烈士再起」

 過去に飛び、骸を回収した刑亥と婁震戒により、ついに復活した照君臨。一方、無界閣では皇軍・神蝗盟双方の前で萬軍破が照君臨復活の企てを明かし、団結を呼びかける。そして刑亥からの手紙を受け取って無界閣にやってきた丹翡の前に、牢から解放された凜雪鴉が現れるが……

 まさに風雲急を告げるというべきか、善の側が圧倒的に不利な状態となってしまった本作。冒頭で刑亥からの手紙で誘き寄せられた丹翡が無界閣に現れ、浪巫謠と合流したものの、刑亥の企てを考えれば、むしろ悲劇の序章にしか思えません。
 そしてその刑亥はといえば、七殺天凌を手にした婁震戒をお供にあっさりと時を超え、照君臨が死亡したその時その場所に出現。全く状況が掴めていない婁震戒をこき使い、刺されて崖落ちして間もない照君臨の亡骸を確保します。そしてすぐに死霊術で七殺天凌の魂を照君臨の亡骸に移そうとするのですが――驚いたのは婁震戒。良く知らん女の死体を拾ったと思ったら怪しげな術が始まり、姫の輝きが鈍く!? と思ったら女が復活、自分が七殺天凌だと言い出して艶然とすり寄り――と、ここで普通の人だったら喜ぶかもしれませんが、全く期待を裏切らないのが婁震戒という男であります。解釈違いを起こしてお前なぞ知らん、姫を返せ! と暴れるのですが――しかし照君臨にあっさり返り討ちにされ、そのまま彼を置き去りに、妖女二人は無界閣に帰還するのでした。

 と、その頃無界閣では、皇軍兵士と神蝗盟兵士双方を集めて、当の照君臨復活の企ての存在を萬軍破が暴露。暴露したのはそれだけでなく、自分が神蝗盟の一員であること、禍世螟蝗は照君臨を放置する方針であることまで明かしてしまうのですが――西幽への郷土愛を核バズーカを発射するくらいの勢いでブチかますものですから、両軍とも一気に心を動かされ、過去の恩讐は一時捨てて、萬軍破の名の下に一致団結するのでした。それにしても凜雪鴉に手玉に取られていた頃はあんなにチョロかったのに、軍破殿はすっかり成長して――というか、これはある意味禍世螟蝗の期待通りのようにも思います。

 しかしいくら数を集めてもと思いきや、照君臨を無界閣に閉じ込めるため、萬軍破は片っ端から逢魔漏を破壊するよう、兵士たちに命令。そして無界閣が賑やかになった中で牢を訪れた萬軍破は、薬中状態の凜雪鴉は適当に逃したものの、殤不患のことは、たとえ一時的に手を取ったとしても魔剣目録を挟んで王道と覇道、二人の道は決して交わることを理解し、そのまま立ち去るのでした(今回も漬物樽の中のままで終わる主人公)。
 さて、人海戦術は意外と効いて、ちょっとイライラの照君臨と刑亥。しかしそこに通信をよこした阿爾貝盧法は、自分の手勢を無界閣に送り込んできたではありませんか。これで戦力的には互角と喜ぶ刑亥たちですが、しかし阿爾貝盧法が単なる善意で他者を助けるとは思えないのですが……

 そしてそんな状況とは露知らず、ただ二人無界閣の奥に足を進める丹翡と浪巫謠ですが――その前にヨレヨレになって現れたのは解放された凜雪鴉。その彼に刀を突きつけ、捲殘雲の件を問いただそうとした丹翡ですが――何故かその口調はそれまでと異なり、出来の悪い生徒に教えを叩き込むようなものに変わったではありませんか。彼女の目に映った凜雪鴉の構え――それは自分の夫・捲殘雲のもの。そう、七殺天凌に魅了されていた凜雪鴉は、実は捲殘雲だったのです!
 この姿なら安心とか何とか凜雪鴉の口車に乗り、懐かしの凜雪鴉変装袋を被っていた捲殘雲。それがこんな目に遭わされるとはどこまで凜雪鴉が見越していたかはわかりませんが――では今まさに刑亥がゾンビ化させようとしている捲殘雲は? と思いきや、それは異飄渺! 捲殘雲に化ければ殤不患から魔剣目録を奪うのは簡単ですヨ(事実、一度は成功したわけで)とこれまた凜雪鴉の口車に乗ってみれば、ご覧の通りであります。

 では今いる異飄渺は? 自分自身の義を貫く萬軍破を見限り、ポンコ――いや凡骨と吐き捨てた彼は、口元に煙管を運び……


 というわけで、最終回一話前に相応しく、大大大逆転の連続だった今回。さすがに凜雪鴉が大人しく操られるはずもないと思っていましたが、いやはや想像以上に痛快で、そして悪辣な仕掛けには脱帽であります(にしても久々に主人公っぽいムーブしたなこの人)。あとはいつもの、やり過ぎてギャフン、ということにならなければいいのですが……
 そしてこちらは想像通りだった婁震戒ですが、その結果一人過去の世界に置いてけぼりに。しかし、以前パワーアップ版の逢魔漏を懐に入れていた気がしますし、過去の世界で生まれたばかりの七殺天凌を強奪しそうな気もするし、まあ照君臨については、この人が〆る気がいたします。

 というわけで次回ついに大団円! ただただ楽しみであります。


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関連サイト
 公式サイト

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2021.06.19

馳月基矢『帝都の用心棒 血刀数珠丸』 梁山泊屋敷の腕利き、妖刀を追う!?

 デビュー作『姉上は麗しの名医』で、日本歴史時代作家協会の文庫書き下ろし新人賞を受賞した作者による伝奇アクション――大正時代の帝都を舞台に、妖刀にまつわる連続殺人に訳あり用心棒コンビが挑む、虚実入り乱れた活劇であります。

 巷で囁かれる、人々を血祭りにした後に血染めの数珠を残す妖刀の噂。梁山泊屋敷の腕利きコンビ・加能碧一と行成光雄は、東京帝国大理学部の山川健次郎教授から、この血染めの刀を目撃した刀剣マニアの帝大生・中村泉助の身辺警護と真相究明の依頼を受けることになります。
 妖刀の影を追って奔走し、次の犠牲者と目される人物を知った二人は、ついに人斬り刀を振るう巨漢と対峙するのですが――相手は二人がかりで辛うじて撃退するのがやっとの遣い手だったのであります。

 犠牲者たちの共通項を追う中、近頃一部の富裕層から絶大な支持を受ける謎の女性・多摩峰トワ子が主催する「蜘蛛の会」なる団体が、近頃刀剣を集めているのを知った二人。
 常にヴェールで素顔を隠したトワ子とは何者なのか。凶行を繰り返す巨漢の正体と目的とは。そして妖刀の正体は、天下五剣の一つにして今なお所在不明な数珠丸なのか?

 藤田五郎翁や梁山泊屋敷のお嬢様・千鶴子も巻き込んだ乱戦の末に明かされる真実とは……


 というわけで、大正刀剣伝奇アクションとでもいうべき本作ですが――まず印象に残るのは、多彩かつ魅力的なキャラクターでしょう。

 そしてその中でも中心となるのは、もちろん主人公二人――美形ながら人嫌いで酒浸り、剣の達人にもかかわらず刃を嫌う碧一、如才なく明るい男ながら得体が知れず、飛び道具や潜入術を得意とする光雄であります。
 全く正反対のキャラクターを持つ二人がコンビを組み、時に衝突しながらも互いの得意分野を活かして活躍――というのはバディものの定番ですが、本作はまさにその魅力が横溢しているといえます。

 さらに感心させられるのは、二人が属する「梁山泊屋敷」の設定であります。
 よろず請負業である水城よろづ商会の本拠である屋敷、人呼んで梁山泊屋敷。そこには、日頃から各分野の腕利きが腕を撫してたむろっている――なるほど梁山泊とはよく言ったものですが、どんな腕利きが、そしてどんな過去を持った者が居てもおかしくないとこの設定は、宝の山というべきでしょう。(実は物語の結末も、この設定ならではというべきなのもまた巧みです)

 そしてこの屋敷の令嬢である千鶴子も、好奇心旺盛なじゃじゃ馬という、ある意味定番キャラかと思えば、その度合いと能力(特に戦闘力)の高さが段違い――と、登場人物一人ひとりについて語っているだけで終わらなくなってしまうような個性的な面子揃いなのであります。
 そしてその一方で史実のキャラクターも、明治・大正ものでは常連(?)の藤田五郎だけでなく、山川健次郎がメインキャラクターの一人という変化球。それも本作ならではの人物像で描かれているのも楽しいところなのです。(ちょい役で山本忠次郎が登場するのにもニヤリ)


 そして本作のもう一つの主役が、刀剣――その中でもタイトルロールともいうべき数珠丸であります。
 いわゆる天下五剣――童子切・鬼丸・三日月・大典太そして数珠丸。その中で日蓮上人の護刀であった数珠丸は、唯一武張った逸話を持たぬ刀であり、かつこの物語の舞台となる大正2年の時点では行方不明となっていたという特殊な刀であります。

 そんな数珠丸が連続殺人に使われた!? という謎で物語を動かしてしていくのは実に面白い趣向であると同時に、人を斬らない数珠丸を、既に戦で使われることがなくなった刀たちの象徴としている――さらにそこに碧一ら時代の流れから外れた者たちを重ね合わせている――のも印象に残ります。
 さらにこうした数珠丸の、この時代の刀剣の存在が、犯人の動機と犯行内容に結びついていくのもまた見事で、この辺りは一種のミステリとしても納得いくものがあります。


 そんな盛りだくさんの要素を巧みに配置した上で、スピィーディーかつドライに展開していく、ハードボイルドタッチも魅力の本作。
 まだまだ解き明かされていないキャラクターたちの過去や因縁も多く、そして上に述べたようにいくらでも応用の効きそうな梁山泊屋敷の設定もあり、ぜひとも続編を期待したい快作であります。


『帝都の用心棒 血刀数珠丸』(馳月基矢 小学館文庫) Amazon

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2021.06.18

『セスタス The Roman Fighter』 第10話「静かなる布石」

 予選決勝戦、フェリックスの左右の連打によって壁際に追い詰められた上、足を挫いてしまったセスタス。得意の速攻も使えぬまま苦戦を強いられるセスタスだが、不屈の闘志で耐え抜き、わずかながら反撃を繰り返していく。そして地道な布石が実り、最後の最後に生まれたチャンスにセスタスが放つのは……

 今回も妙に長い前回の振り返り(だけかと思ったらその後のシーンも含まれているのですが)に不安になるアバンタイトルですが、改めてフェリックスの「赤い暴風」こと両腕ぶんまわしパンチをセスタス視点ではなく闘技場の上から見ると、こういう動きなのか――となかなか新鮮。どう見ても大振りなので、結構隙が大きいんじゃないかな、と思いつつ、いや体重乗せて(しかも見せかけ以上のリーチで)ブンブン来たら、確かにこれは怖い――というところに、それでも飛び込むのがやはりセスタス流であります。
 どれほど勢いがあろうと、やはり両手をぶん回しているだけに正面の防御はがら空き。そこに思い切りよく踏み込んでのストレートの一撃は、見事にフェリックスの顔面を捕らえダウンを取ることに成功! が、前回挫いた足の影響は大きく、踏み込みの浅さから、一発逆転まではいたらず、フェリックスを本気にさせることになります。

 むしろフェリックスの腕ぶんまわしは舐めプの状態、本来の彼は着実なインファイター――ガードを固めつつ猛打で相手のガードを突き崩しにかかるという、今のセスタスとはまことに相性の悪い相手。しかも職業拳闘士としてあちこちの闘技場を知っているフェリックスは、今回の狭い闘技場を利用した戦い方も知悉し、つねにセスタスを壁際へ壁際へと押し付けるようなファイトを展開――数話前にザファルが危惧した通りの、狭い場でどう戦うかを熟知した難敵であります。
 しかしここからがセスタスは強い。ある意味彼の最大の武器は、悪戦苦闘慣れしていること――この窮地にあっても踏みとどまり、果敢にフェリックスのある一点に攻撃を重ねていくのであります。そしてここでザファルの――『拳奴死闘伝』予告編で使われたことで妙に印象に残る――「…困難なればこそ成し遂げる価値があるッ 何故そう考えん!!?」に始まる熱いお言葉が小山力也の声で炸裂するのですから、盛り上がらないわけがありません。

 フェリックスの猛打の前に何度も崩れ落ちかけながらも踏みとどまり、果敢に反撃を続けるセスタス。そしてついに地道に重ねてきた勝利への布石が活きる時がやってきます。これまで一点に――そう、腹に集中的に打ち込んできたセスタスの拳が、「ボディーブローのように効く」という喩えのとおり、いや「ように」ではなくまさにそのままに体力を奪い生まれた一瞬の隙に、ほとんど背中側に踏み込んでから炸裂したのは、圧縮打法によるキドニーブロー!
 かつてザファルがセスタスに授けた(ん?)魔拳――現代のボクシングでは危険すぎるために反則となっているキドニーブローを、直撃すれば大の大人もワンパンKOの圧縮打法で打ち込むのですから(そしてその説得力を増す大塚明夫のナレーション)、いかにフェリックスが頑丈であっても堪えられるはずがありません。

 さしものフェリックスも立ち上がることはできず、ここにセスタス決勝進出決定――!


 というわけで、ほぼ原作に忠実に、そして丁寧にフェリックス戦の後半戦を描いた今回。上に挙げたザファルやナレーションだけでなく、セスタスの力の入った声の縁起もあり、このアニメ版のクライマックスに相応しく盛り上がる一戦でした。
 ただ一つ残念なのは、セスタスがザファルにこの魔拳を伝授されたくだり――ヴァレンス拳闘士養成所の崩壊前後――が、このアニメ版で丸々カットされていることで、あそこで荒削りながらセスタスが繰り出した技が、新たに会得した圧縮打法と組み合わさって(原作ではほぼ10年ぶりに)炸裂というのが、大いに盛り上がる展開だったのですが……
(その前にザファルとの訓練シーンで、急所として喉と鳩尾が――という指導を受ける場面が入るのも意図不明)

 まあ何はともあれ、いい具合に盛り上がったところで大会本選に突入、予告を聴いたところでは懐かしい顔ぶれが登場するようですが――えっ、次回で最終回!?


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2021.06.17

清水朔『奇譚蒐集録 弔い少女の鎮魂歌』 驚愕の民俗伝奇ミステリ!? 葬送儀礼の陰の人と鬼

 民俗学+ミステリ(そして伝奇)の新星として話題を集める『奇譚蒐集録』シリーズの第一弾であります。大正初期、黄泉がえり伝承と奇怪な葬送儀礼が伝わる南洋の孤島を訪れた帝大講師と書生が挑むのは、過酷な葬礼を担う御骨子の少女たちにまつわる謎。そしてその背後にある残酷な真実とは……

 大正二年、琉球本島からさらに船で二日半の孤島・恵島を訪れた帝大講師・南辺田廣章と書生の山内真汐。薩摩の伯爵家の四男坊である廣章は、自分の道楽である奇譚蒐集――それも鬼にまつわる伝承を集めるため、真汐をお供にはるばるこの孤島を訪れたのであります。

 かつて島で死から黄泉がえり、幾多の人々を虐殺したという鬼、「青の化け物」。以来この島では、黄泉がえりを防ぐためにある特殊な葬送儀礼が行われ、その過酷な作業を御骨子(ミクチヌグヮ)と呼ばれる少女たちが担っていたのでした。
 その一人であるアザカと知り合った真汐は、彼女を除く御骨子たちにはみな手足に青い痣が現れ、そして十八歳になると忽然と姿を消してしまうことを知ることになります。

 果たして御骨子たちを襲う呪いの正体は何なのか。そしてかって島を襲った青の化け物は実在するのか。その謎を追う廣章と真汐は、やがてある真実を突き止めるのですが、しかし……


 様々な伝承や儀礼を題材として、あるいは背景として扱った、「民俗的」「民俗学的」要素を持つフィクションというのは、エンターテイメントのサブジャンルとして、根強い人気を持ち続けています。本作はその最新の成果の一つ――日本ファンタジーノベル大賞2017の最終候補作『御骨奇譚』(淤可見明名義)を改題・改稿した作品であります。
 舞台となるのは沖縄本島からさらに離れた孤島、そして題材となるのは葬送儀礼という、私を含めほとんどの読者にとっては二重に縁遠い題材ですが、しかしそれが本作においてはむしろプラスに働き、非常に独特の世界観を生み出すことに成功していると感じます。

 まず何よりも圧倒されるのは、葬送儀礼の内容とその描写であります。冒頭の後御骨(アトミクチ)、すなわち洗骨の場面からして涙目なのですが、儀礼のメインというべき抜き御骨(ヌジミクチ)たるや、もう……
 しかしそれが鬼面人を驚かす体の扱いで終わらないのが本作の本作たるゆえんであります。そう、この凄惨ともいうべき儀式には、それが生まれ、行われ続けるだけの理由が、ここにはあるのです。

 風習というものは、決して何の理由もなく生まれるものではなく、そして生まれた時から不変のものではありません。本作で描かれる葬送儀礼はおそらくフィクションのものですが、この風習のあり方をきっちりと踏まえて描くからこそのリアリティが、ここにはあります。
 そしてその民俗学的アプローチから儀礼の誕生過程を追うことが、そのままミステリとしての本作の物語展開と重なっていく点は、実に巧みというほかありません。

 こうした物語の姿勢は、この時代の人間としては異例なほど「異文化」に対してフェアであり、理性的な廣章のキャラクターとも重ね合わされるものであります。
 そしてそんな理解者の存在があるからこそ、本作のヒロインであるアザカと御骨子たちの哀しみが、いや増して感じられるのも、また間違いないのであります。


 しかし本作は、終盤において驚くべき真の顔を見せることになります。ここではその詳細は伏せますが、本作はそういう物語だったのか!? という初読時の衝撃は忘れられません(その「顔」がまた、実に好みのものであるだけに……)。
 もちろん、ほとんどジャンルそのものが変わりかねないどんでん返し故に、評価が分かれるかもしれません。しかしそこに至るまでの上記の姿勢があるからこそ、このどんでん返しのインパクトは絶大なのであります。

 何よりもそこからクライマックスの怒涛のの盛り上がりが絶品である上に、その中で描かれる人と鬼の境目――言い換えれば人間性の在り処を巡る物語も印象的で、見たいものを見せていただいた、と感じ入った次第です。

 先に触れたように、人によっては描写的にキツい部分はあります。結末も、受け入れがたい方はあるかもしれません。それでも、唯一無二の大正民俗伝奇ミステリとしての本作の魅力が大きいことは、紛れもない事実であります。
 シリーズ第二弾『北の大地のイコンヌプ』も、近日中にご紹介いたします。


『奇譚蒐集録 弔い少女の鎮魂歌』(清水朔 新潮文庫nex) Amazon

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