入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2021.03.08

『半妖の夜叉姫』 第22話「奪われた封印」

 千日行の最中の弥勒のもとに現れ、せつなの封印の法を奪った是露。次に夜叉姫たちの前に現れた是露は、とわを操り、せつなの封印を解いてしまう。妖怪の血を抑えきれず暴走するせつなを止めようとするも、苦戦を強いられるとわともろは。そこに弥勒の娘・金烏が駆けつけるが……

 アバンタイトルで描かれるのは、「現在」の麒麟丸と是露の姿、そしてかつて(前々回)妖霊星が地球に近づいた時の二人と犬の大将の姿。後世の敵対関係など微塵も感じられない――犬の大将の傍らで平然と居眠りをする麒麟丸――三人の姿には、ある種の感慨を抱かされます。
 そして美形ながら実にシブい格好良い声で、是露に声をかけて颯爽と去って行く犬の大将に、彼女は何を想ったのか……(しかし犬の大将、是露たちから「大将」「大将」呼ばわりされるのはさすがに、こう)

 さて、「現在」、その是露が現れたのは千日行の最中の弥勒の前。お露を名乗り、妖力を感じさせない(虹色真珠に分離してしまったので)是露を一目で只者でないと見抜き、意味ありげな彼女の物言いもさらりと流す弥勒からは、彼も年齢を重ねたことを感じさせますが――油断してあっさりと彼女の放つ蜘蛛糸(?)に動きを封じられ、せつなに施した封印の法を奪われるのはいかがなものか。
 この時気になるのは、弥勒が風穴に未練があると指摘する是露の言葉ですが――弥勒に投げかけた「いずれの行もおよびがたき身なれば、とても地獄は一定すみかぞかし」という歎異抄の親鸞の言葉の意味を考えれば、なかなか不穏な印象です。

 一方、そんなことになっているとはつゆ知らず、その封印がほどこされた長刀を研ぎに出そうと獣兵衛の元を訪れたせつな(ととわ)ですが、獣兵衛が紹介しようとしていた研ぎ師とはなんともろは。自分で「器用貧乏」と自称する(あまりにしっくり来すぎて、それ以降何を見ても「ああ、器用貧乏だしな……」と思う羽目に)もろはは、長刀研ぎにもその腕を発揮した上で、切れ味に違和感が生じているのは、せつなの封印の力が弱まっていることが影響しているのでは、と告げるのですが――もろはを信じ切れないせつなは、研ぎ師を探して町に向かうのでした。
 と、そこでとわを呼び止めたのは、今度は林檎売りに扮したお露こと是露。前回、理玖に虹色真珠をプレゼントしてしまったおかげで魔防が低下していたとわは、あっさりと是露の催眠術にかかり、ハイライトの消えた目に。そしてとわが動きを封じた隙に、せつなの封印は解かれてしまったのであります。

 はじめは、是露が子供時代の自分ととわを引き裂いた張本人と直感して怒りに燃えていたせつなですが、やがてヨウカイノチニクルフセツナになってしまい大暴走。何と蝶のような羽根を背中から生やして町を文字通り飛び出してしまったではありませんか。そのせつなに対して、暴走には暴走をぶつけんだよ! ともろはも紅夜叉モードになって後を追うのですが、器用貧乏の悲しさ――じゃなくて動きを封じるのにも限界があり、結局伸されてしまうのでした。
 と、そこに現れたのは、(第13話で妹の玉兎しか登場しなかったので)ファンの間では死亡説も流れていた弥勒の娘・金烏。父の法力の才を継いだらしい彼女は、父から状況を聞いて弟とともに駆けつけたのであります。

 しかし封印の法をほどこすには、せつなの動きを止める必要があるものの、それが簡単にできるはずもなく――と、ここでとわが姉としての自分の想いをぶつけるべく、後ろからせつなを抱きしめます。暴走に傷つけられつつも貫いたとわの想いは確かに届き、己を取り戻して動きを止めたせつなは、再び封印を施されるのでした。しかしその腕には、以前にはなかった妖怪の血の名残が……

 そして場面が映り、画面に映し出されたのは旅客機――えっ!? と思いきや、舞台は「未来」、すなわち現代に。空港らしき場所で夜空を見上げているのは、とわの担任・希林先生であります。再び夜空に輝く赤い妖霊星のことを明らかに知っている口ぶりの彼の正体は……


 と、メインのエピソード自体もなかなか面白かったのですが、ラストの衝撃に全て持って行かれた感のある今回。名前と声からしてあからさまに怪しかった希林先生ですが、はたして麒麟丸本人なのか、あるいは分身のようなものなのか。大妖怪なので現代まで生き続けていても不思議はありませんが……

 そのほか、是露とりんに何らかの繋がりがあることが仄めかされたり、刀々斎も一瞬登場、意味ありげなことを言っていたりと、この先の展開が気になりまくる上に、次回予告にはどこかで見たような美女――「殺生丸の母」までもが登場。
 どう考えてもあと二話で完結する気はしませんが、さて……
(少なくとも弥勒が千日行終わる前に番組が終わってそうで心配です)


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関連サイト
公式サイト

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2021.03.07

4月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 色々大変な中でも時間は過ぎて、寒かったり暖かったりの繰り返しの中、桜の芽も膨らんできました(あと、花粉も飛んできた)。冬は厳しくとも、着実に春は近づいている――というわけで、もう4月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 といっても文庫小説はかなり寂しい4月。シリーズ第3弾の吸血鬼バトル『源平妖乱 鬼夜行』(武内涼 祥伝社文庫)という特大の玉はあるものの――というより、新刊はほぼ本作のみ。
 そのほか伝奇以外で、『おんな与力 花房英之介』第2巻(鳴神響一 双葉文庫)と、ハヤカワ時代ミステリ文庫の新刊として『吉原美味草紙 人騒がせな蟹祭り』(出水千春)、『風待ちのふたり 薫と芽衣の事件帖』(倉本由布)があるくらいでしょうか。

 一方、復刊・文庫化の方では、何といっても最大のサプライズが『新・里見八犬伝』上下巻(鎌田敏夫 角川春樹事務所時代小説文庫)の刊行。何故今!? という気は非常にしますが、角川映画化で大いに話題になった作品だけに、復活は嬉しいところです。
 そのほか、中村春吉シリーズの長編『大聖神』(横田順彌 竹書房文庫)も登場。『幻綺行』装丁が仰天ものだっただけに、今回も期待です。

 もう一つ気になるのは、『映画ノベライズ るろうに剣心最終章 The Final(仮)』(田中創&和月伸宏ほか 集英社オレンジ文庫)。色々と公開まで大変だった作品だけに応援したくなります。


 一方、漫画の方では、何といっても先日大団円を迎え、アニメ化も決定した『地獄楽』の最終巻、第13巻(賀来ゆうじ 集英社ジャンプコミックス)が登場。同時に『地獄楽 解体新書』も刊行されます。

 その他にも漫画の方は大充実であります。新登場としては、明治初頭にあの絵師が活躍する『画鬼の爪』第1巻(ユウキケイ マッグガーデンコミックBeat’sシリーズ)があるほかに、シリーズものの新巻も大盤振る舞い。
 『峠鬼』第4巻(鶴淵けんじ KADOKAWAハルタコミックス)、『カンギバンカ』第2巻(恵広史&今村翔吾 講談社コミックス)、『信長のシェフ』第29巻(梶川卓郎 芳文社コミックス)、『鬼切丸伝』第13巻(楠桂 リイド社SPコミックス)、『無限の住人 幕末ノ章』第4巻(陶延リュウ&滝川廉治ほか 講談社アフタヌーンKC)、『MARS RED』第2巻(唐々煙&藤沢文翁 マッグガーデンコミックBeat’sシリーズ)と並んだほかに、『高丘親王航海記』第3巻(近藤ようこ&澁澤龍彦 KADOKAWAビームコミックス)、『琉球のユウナ』第6巻(響ワタル 白泉社花とゆめコミックス)――さらにさいとうちほの『輝夜伝』第7巻と『VSルパン』第5巻(いずれも小学館フラワーCアルファ)と新刊2点が並びます。

 そのほかにもクライマックス目前の『海王ダンテ』第12巻(皆川亮二&泉福朗 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス)があり――小説はちょっと寂しいですが、漫画はかなりのラインナップの4月であります。


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2021.03.06

たみ『幕末隠密伝 ブレイガール』第2巻 最後の決戦 より派手に、よりブッ飛んで! 

 幕末の京を舞台に、青年武士と伊賀・甲賀・根来のくのいち三人――公儀隠密零番隊・八咫烏が、闇に蠢く悪党たちに挑む時代アクションの第2巻、完結編であります。芹沢鴨ら壬生浪士組、そして異国からやってきた怪人科学者との戦いが激化する中、四人の向かう先は?

 京で評判の南蛮菓子屋・朝陽屋を表の顔として、京の闇で人々を苦しめる悪党たちを退治する公儀隠密零番隊・八咫烏。勝海舟によって組織されたこの八咫烏を構成するのは軍艦操練所出身の俊英・小此木一真と、マサナ、アンジュ、コザサの三人のくノ一であります。

 「伊賀のマサナは忍びの本家 地駆け天飛び軽業無双」「根来のアンジュはからくり上手 わけて銃には覚えあり」「甲賀のコザサは惑いに誘う 古き忍びの元祖なり」――それぞれ得意の術を持つ腕利きながら、無礼上等の三人のくノ一。
 そんな彼女たちと公儀の武士としての心を捨てきれない一真の間にもようやく身分や流派を超えてチームワークも生まれてきましたが――そこで海舟から下された次のターゲットは、京の廃寺で夜な夜な怪しげな集まりを開く白塗りの異人ジョー・スミスであります。

 密かに阿片を持ち込んでスミスが繰り広げるハードロックな感じの乱痴気騒ぎに潜入したくノ一(ライブメイクのマサナがかわいい)たちですが、そこに現れたのは宿敵である新見、平山ら芹沢派の壬生浪士組。さらに沖田総司まで加わっての大乱戦の末、何とかスミスの身柄を確保した一真ですが――その前に現れた者こそ真の敵だったのであります。

 その名はスチーム・ジョーンズ――かの武器商人グラバーと結び、スミスだけでなく、これまで京を騒がしてきた悪党たちを陰から指嗾して来た狂気の科学者であります。登場するなり蒸気船で八咫烏を襲撃、前哨戦を繰り広げたジョーンズ。そしてその傍らには、土佐弁を使う青年・坂本の姿が……


 これまでは市井の悪党や芹沢一派ら、比較的地に足の着いた(?)敵と戦ってきた八咫烏。この巻では、よりブッ飛んだ敵の登場に、物語はある意味彼女たちにより相応しい、ハデな方向に展開していくことになります。
 しかしそれこそはむしろ作者の――原作者の真骨頂というべきでしょう。時代ものとしての枠を抑えつつも、そこを敢えて踏み越えて、派手で遊び心溢れる活劇を展開する――『危機之介御免』『CLOCKWORK』などで描かれてきた時代アクションの系譜に、本作はあるといえるでしょう。

 そしてエスカレートする敵(○○○○○を持った平山五郎なんて初めて見た!)に対して、八咫烏側も鞭使いの異国の美女・カトリーヌ、そして科学には科学とあの超有名人が装備開発に協力。三人くノ一もコスチュームチェンジしてテンションは高まります。
 その一方で、芹沢一派の暴走に対して試衛館組、さらには見廻組の佐々木只三郎も参戦し、狂気の大破壊を企むジョーンズとの最後の決戦が派手に展開することに……!


 というわけで第1巻以上に派手な活劇が展開するこの第2巻。冷静に考えたら彼女たちは隠密――というのはヤボな話で、上で述べたとおり、「らしい」活劇を楽しませていただきました。

 とはいえ、全2巻というのはやはりちょっと短くて、くノ一たちの活躍もちょっとあっさり目になった感はあります。
 さらに言ってしまえば、歴史ものとしての部分――この巻でいえば、芹沢の暴走を巡る会津藩や試衛館組、見廻組の政治的な思惑のくだりが、物語の爽快感を削いでいたのは否めません(この辺り、武士側の物語ということで、一真ばかり目立ってしまった印象も……)

 とはいえ、豪快なところを見せつつもきっちりと歴史の枠内に着地させ、くノ一たちにもそれぞれらしい未来(これまたマサナがかわいい)が描いて完結してみせたのは、大団円というべきでしょう。最後まで肩の力を抜いて楽しめる作品でありました。


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2021.03.05

菅野文『誠のくに』 斎藤一が最後に見つけた「その場所」

 おそらく近藤・土方・沖田に次いでフィクションの題材となりやすい新選組隊士といえば斎藤一ではないでしょうか。本作はその斎藤の戦いの人生を、『北走新選組』『凍鉄の花』の菅野文が描いた歴史漫画であります。

 少年時代、会津藩江戸屋敷の道場で剣を学んだ山口一。常に寡黙に、己の生きる場所を探してきた彼は、しかし些細な争いがきっかけで旗本を斬り、京に逃げることになります。
 そこで壬生浪士組に参加することとなった彼は、土方から斎藤の姓を与えられ(斎藤は清河八郎の旧姓から取ったという設定が面白い)、土方の懐刀として時に粛清を、時に伊東一派への潜入等の裏仕事を担うのでした。

 しかし鳥羽伏見の戦で幕府軍は大敗。新選組も甲府へ、そして会津へ転戦を重ねることになります。しかし会津の敗色も濃くなる中、斎藤は近藤の遺志を継ぎ、そしてかねてよりその士魂に共感を抱いていた会津を死に場所と心に決めるのでした。
 北へと戦いを続けるという土方とも決別し、会津藩とともに戦い続ける斎藤が辿り着いた先は……


 冒頭に述べたように、新選組のトップ3に次いでフィクションで扱われる(主役になる)回数が多いと思われる斎藤。それは彼の剣の強さもさることながら、その謎めいた前半生と、新選組で果たした(とされる)役割、そして会津戦争を経て明治まで生き抜いたという史実が大きいと感じられます。
 本作はそんな彼の少年時代から西南戦争従軍に至るまでの半生を、全一巻で描いた物語であります。

 特徴的なのは、全五話のうち第一話で少年時代から新選組誕生まで、第二話の前半で御陵衛士への参加、後半で鳥羽伏見から甲府へ、第三話・第四話で会津藩の敗北まで、そして第五話で斗南以降の姿が描かれる――という形で、京でのエピソードが相当圧縮されていることでしょう。
 冷静に考えれば京での斎藤はあまり表に出る仕事が少なかったわけで、納得と言えば納得かもしれませんが――その分力が入れられているのが、会津戦争なのであります。

 本作では少年時代から会津の人間と――佐川官兵衛や中野竹子と――縁があり、会津士魂に惹かれていたという設定の斎藤。
 冷静に考えてみると、史実でも土方をはじめとする新選組のメンバーが北に(それこそ北走して)戦場を求める中で、(彼のみではないとはいえ)会津に残り、そして戦後に斗南にまで行ったというのは、不思議といえば不思議であります。

 その疑問に対して本作は、会津こそが、自分の生きる場所を、そして死ぬ場所を求め続けてきた斎藤が見つけた「その場所」――人々が信念を持ち、そのために命を賭けることも辞さない「誠のくに」であったからと語るのです。
 彼にとって会津こそは新選組――斎藤にとってはそれとイコールであった土方の傍ら――と同様に、いやそれ以上に大切な、魂のふるさとであったのです。

 しかし、会津は敗れ、そして武士たちは斗南に移住することになります。それでは、会津という藩がなくなってしまった時、斎藤の「場所」もなくなってしまったのでしょうか。確かに「死に場所」はなくなったかもしれません。しかし……


 正直なところ、新選組ものというよりも会津ものという色彩が強く、会津の人々に感情移入できるかどうかによって、作品の評価が大きく分かれるのではないかと思われる本作。

 個人的にも、やはりほかに道はなかったのかと会津籠城戦の結末には考えさせられてしまうのですが――しかしその点は、会津戦争の結末における斎藤の選択が、一つの答えとなっていると考えるべきでしょうか。
 自分の場所を求めて剣を振るい、そして幾度も名前を変え、放浪と戦いを重ねてきた斎藤。その彼が最後に見つけた場所とは――数多くの血が流され、命が失われる物語だからこそ、その答えは尊く感じられます。

 そしてこれまでいずれも「死」をもって結末を迎えてきた作者の新選組ものの中で、はじめて「生」を描いて終えた本作に、何かしらホッとしたものを覚えるのであります。


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2021.03.04

川原泉『殿様は空のお城に住んでいる』 オーソドックスで個性的な時代活劇

 デフォルメを効かせた絵柄と強烈な情報量で独自の世界を作り出す作者が、江戸時代を舞台として描いたコミカルな活劇ものであります。とある外様藩に嫁いだ姫君が、藩政を牛耳る奴ばらを向こうに回して大活躍――というと当たっているようで当たっていない、何ともユニークな一編であります。

 時は江戸時代中期、老中首座・高坂伊豆守の娘・鈴は、屋敷を抜け出して一人歩きをしているうちに迷子になり、凧揚げを楽しんでいた若侍、実は秋吉田藩25万石鳴沢家の世継ぎ・信之介と出会うことになります。その時は故あって慌ただしく別れた二人ですが、それが縁となってか、十年後に鈴は信之介改め鳴沢景宗に嫁ぐことになったのでした。

 しかし幼い頃は英明に見えた景宗も、今はアヒルの亀千代の散歩が趣味の呑気な人物。しかも裕福に見えた藩も、いつの間にか借財が10万両に膨れ上がっているというではありませんか。不審を抱いた鈴は、参勤交代で国元に帰るという景宗から、十年前に廃嫡され、自害した兄の遺書――「ぽんぽこ山」とのみ記されたそれを見せられるのでした。

 ぽんぽこ山とは秋吉田城下で天下に知られた秋吉田マツタケの産地。食欲と好奇心に駆られた鈴は、なんと男装して参勤交代に加わり、秋吉田藩に同行することになります。
 そこで子供の頃に出会った景宗の腹心・帯刀、そして同じく腹心で三つ子の矢走兄弟と再会した鈴ですが、城代家老が実権を握る藩内では彼らは閑職に追いやられた状態。しかも景宗の周囲でも、鈴の心中を穏やかでなくするような事態が……


 というわけで、幼い頃からお転婆(何と柳生新陰流免許皆伝)の鈴と、ちょっとトボケて頼りない景宗のカップルを中心に展開する本作。印象に残るタイトルは、おつむが軽い人のことを「空のお城に住んでいる」という秋吉田地方に独特の言い回しで、要するに景宗に対する周囲の見方を指したものであります。

 先に言ってしまえば、本作の物語自体は実は非常にオーソドックスな御家騒動もの――とある藩で権勢を振るう者たちに、英明な若き主君とその腹心たちが立ち向かう、という趣向なのですが、しかしコミカルな部分が全面に押し出されていることによって、今読んでみてもなかなか新鮮に感じられる作品であることは間違いありません。

 何しろ主人公が天真爛漫というより破天荒な性格の上に行動力の塊(しかし後半はほとんど食欲だけで動いている感が)の上に、物語の6、7割(いやもっと?)は、作者ならではのデフォルメされた絵柄で展開されるのですから、楽しくならないはずがありません。
 お話的にはシビアな部分ももちろんあるのですが、そうした部分をうまく中和して、重さや悲壮感を感じさせない味付けになっているのは、この作者ならではでしょう。

 それでいて、世のしきたりや常識に縛られない鈴が武家社会とそこに生きる人々に向ける眼差しや、まだ実質的に夫婦らしいことをしていない鈴と景宗の微妙な心の触れ合いといった、時にドキリとさせられるような、時にしみじみとさせられるような――そんな心情描写の巧みさもまた、実にいいのです。

 そしてもう一つ、ページ一杯に詰め込まれた台詞や解説といった作者ならではの情報量も健在。特に江戸時代の殿様の一日について、実に10ページ以上にわたって解説を繰り広げるくだりには圧倒されるのですが――しかしそれがスルッと楽しく頭に入ってくるのもまた、やはりこの作者の巧みさと感心してしまうのです。


 全部で100ページ弱と分量自体はさまで多くはないものの、作者ならではの個性的な楽しさがギュッと詰め込まれた本作。もちろん結末はめでたしめでたしで(何しろ秋吉田家は現代まで残ったわけで……)、実に気持ちのいい時代活劇なのであります。

『殿様は空のお城に住んでいる』(川原泉 白泉社文庫『中国の壺』所収) Amazon

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2021.03.03

水守糸子『乙女椿と横濱オペラ』 凸凹コンビの賑やかでほろ苦い怪異譚

 明治から大正へと移り変わる頃の横濱を舞台に、純粋で明朗な女学生・紅と、ぐうたらでいい加減な青年絵師・草介のコンビが街を騒がす怪異の数々を追う連作集であります。数々の怪異の真相とは、その背後に存在するものとは――凸凹コンビの賑やかで、そしてほろ苦いドラマが始まります。

 華族などの上流階級の庭を手掛ける裕福な庭師の家に生まれた女学生・茶木紅。そんな彼女が今日も足を運ぶのは、父の長屋に暮らす売れない絵師・時川草介のもとであります。
 紅がまだ幼い頃に京都から横濱に流れ着き、家族同然の付き合いをしている草介。実は彼は幼い頃に大江山で神隠しに遭ったという経験の持ち主であり――神隠しから帰って以来、人には見えないものを見たり聞いたりする力を得ていたというのです。

 そんな草介に対して紅が頼んだのは、行方不明になった婚約者の青年・誠一郎探し。やはり庭師であった彼は、出入りしていた男爵の屋敷の古椿によって、神隠しにあったのではないかと囁かれていたのです。
 まだ会って日は浅いものの、「まことの恋」ができるかもしれない相手を助け出すため、以前からとかくの噂のあるその古椿を調べて欲しい――そんな紅に、ぼやきつつも付き合うこととなった草介は、その男爵屋敷の「化け椿」を検分するのですが……


 この第一話「椿の神隠し」に始まる本作は、全三話構成であります。
 紅の女学校に出没するリボンに洋装の少女の亡霊の謎と、紅の学友の美少女・桂花と草介の恋(?)を描く第二話「リボンの花幽霊」
 一夜の恋の代償に狗神の祟りに遭っているという幼馴染・つや子と祖母のミクズが草介の故郷からやって来たことから、草介と紅が思わぬ事件に巻き込まれる第三話「狗神の恋」

 主人公である紅と草介の立場はあくまでも一般人、そして物語も巻き込まれる形で展開するだけに、怪異ものとしては本作ははあまり派手な部類ではありません。また、謎解き要素についても、特に第一話と第二話は(分量的に第三話の半分くらいということもあってか)比較的シンプルで、真相の予想もつきやすいところであります。

 しかしそれを補ってあまりあるのが、登場人物の描写です。紅や各話のゲストキャラクターといった登場人物たちの描写は、さり気ない中にも細やかな心の動きが感じられ、怪異という極端な状況の中で、人の心情/真情というものを浮かび上がらせてくれます。
 そして彼女たち/彼らの背景事情が実は毎回かなり重い内容であるだけに、それが一層胸に迫るのであります。


 と、敢えて「紅や各話のゲストキャラクターといった登場人物たち」と書きましたが、そんな物語の中で、なかなかその心中が見えてこないのが草介です。

 普段、飄々というより茫洋として何を考えているかわからない草介。感情がストレートに出やすい紅に対して、草介は果たして何を考えているのか、わかりやすいようでいて実はほとんど見えない男であります。
 この世ならざるものを見ることができる彼がはっきりと真実を語っていれば、もっと早く事件が解決していたのに、と思わされることも度々なのですが――何よりも彼が紅のことをどう思っているのか、それがなかなかわからないところに、何ともやきもきさせられるのです。

 しかしそんな草介の想いは、第三話において、彼の秘められた過去とともに描かれることになります。
 冒頭で述べたように、幼い頃に神隠しに遭い、そして帰ってきた草介。しかしそれは、事実の全てではありません。異界で過ごしてきた彼が背負ったもの、そして帰ってきた時に見たもの、それは――ここでは述べませんが、それが語られた時、彼が周囲に見せる態度の理由も、そして紅へ抱く想いも、全てが明らかになるのです。

 そしてそれを知った時、草介という人物が大いに愛しく、魅力的に感じられるようになるでしょう。そして彼と共にある紅も、そしてその二人の日常と怪異との遭遇を描くこの物語そのものもまた。


 そんな紅と草介が、この先何を見て、何を想うのか――この賑やかでほろ苦くて、そして愛おしい物語のその先を、是非とも見たいと感じている次第です。


『乙女椿と横濱オペラ』(水守糸子 集英社オレンジ文庫) Amazon

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