入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



| | トラックバック (0)

2021.04.19

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3』 第3話「愛執の皇女」

 迷い込んだ先の西幽の宮殿で嘲風と再会した浪巫謠は、彼女の情念に同情した末にその身に刃を受けてしまう。深手を負った浪巫謠を抱えて逃げる殤不患一行の前に、かつて交誼を結んだある将軍が現れる。その導きで地下道を逃れる一行だが、将軍――萬軍破が案内した先こそは、禍世冥蝗の根城だった……

 逢魔漏の力で異世界から逃れたものの、よりによって、としかいいようのない皮肉な運命により、かつて逃れた鳥籠である西幽の宮殿に戻ってきてしまった浪巫謠。そして彼が迷い込んだ先は、あの嘲風の部屋で――と、幾重にもどうしようもない運命が重なった末に、嘲風と再会してしまった浪巫謠ですが、当の嘲風はしおらしいことを言いながら、浪巫謠にしなだれかかってくるではありませんか。
 が、次の瞬間その場に滴り落ちるのは、真っ赤な血――浪巫謠がついにやったかと思いきや、やったのは嘲風のほう。手に入らぬのならこの手でグッサリと――という、ヤンデレの面目躍如たる彼女の行動を、浪巫謠は思わずほだされて受け止めてしまったのです。

 一瞬遅れて乱入してきた殤不患と捲殘雲、ついでに凜雪鴉によってその場は逃れたものの、浪巫謠はかなりの深手。しかも宮殿の守りは厳重で、もはや彼らは袋のネズミに――と思いきや、そこに現れたのは実に男らしくて良い声のナイスガイであります。
 殤不患とは国境で共に胸躍る冒険を繰り広げた仲らしいその西幽の将軍の導きで秘密の地下道に入り、一行は辛くもその場を逃れることになります。将軍――すなわち萬軍破の導きで……

 一方、鬼奪天工によってワイヤードフィスト付きの片腕ロボと化した婁震戒。自ら作り出した装置によって異空間の扉が開いたのを捉え、無界閣に乗り込んで空間制御の秘密を我が物にしようと企む鬼奪天工ですが――婁震戒が失った剣を「姫」呼ばわりしているとは夢にも思わず、剣を嘲ってしまったのが災いし、脱出を目前に叩きのめされた上に装置を破壊され、ただ一人異世界に置き去りにされてしまうのでした(公式サイトのキャラクター紹介にいないからおかしいと思ったんだ……)。

 そして舞台は再び西幽に戻り、殤不患を相手に悲憤慷慨語り続ける萬軍破。防人の要として夷狄から辺境を守り続けてきた彼は、しかし一人嘲風に呼び戻された上、殤不患を討ち、浪巫謠を連れ戻すように勅命を受けたというのであります。そうしている間にも指揮を受けられぬ部下たちは辺境で次々と命を落とし、そしてそれが彼一人ではなく、他の将軍たちも同様という国家存亡の事態に、ついに彼は皇帝を見限ったというのですが……
 そして到着した扉の前。凜雪鴉が目ざとく異様な空気に気づくも時既に遅く、扉が開いたその先にあったのは、背中に目を持つかのような異様な飛蝗――禍世冥蝗の紋章。そう、扉の先こそは神蝗盟のおそらくは本拠、視聴者はとっくに気づいていたことながら、皇帝を見限った萬軍破は神蝗盟に加わり、「百足」の紋章を授かっていたのであります。

 最後の誘いとして魔剣目録を渡すように促すも、殤不患がそれを肯うはずもなく、ついに巨大な青竜刀・虎嘯山河を抜き、久々の念白とともに襲いかかる萬軍破。さらに異飄渺まで現れた上に、浪巫謠は深手と圧倒的に不利な状況で、ついに殤不患も己の剣を抜いて本気を出すことに……


 一難去ってまた一難どころではない大波乱の連続となった今回。ヤンデレ姫の次は振り幅の極端過ぎる武人という、関わり合いになりたくない手合ばかりが次から次へと襲いかかります。まったく、「こじらせた大塚明夫は面倒くさい」とはよく言ったものではありませんか。(誰も言ってない

 はたしてこの苦境から逃れる手段はあるのか? あるとすれば、禍世冥蝗と対面(?)した時、歯ごたえのありそうな悪人見たりと嬉しそうだった凜雪鴉の存在が鍵になるのかもしれませんが――と、次回予告に映し出されたあの手は!?


関連サイト
 公式サイト

関連記事
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3』 第1話「無界閣」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3』 第2話「魔境漂流」

 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第1話「仙鎮城」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第2話「奪われた魔剣」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第3話「蝕心毒姫」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第4話「親近敵人」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第5話「業火の谷」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第6話「毒手の誇り」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第7話「妖姫の囁き」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第8話「弦歌斷邪」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第9話「強者の道」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第10話「魔剣/聖剣」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第11話「悪の矜恃」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第12話「追命靈狐」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第13話「鮮血の恋歌」

 『Thunderbolt Fantasy 西幽ゲン歌』 浪巫謠、無頼の漢として江湖に起つ

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

2021.04.18

「コミック乱ツインズ」2021年5月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」5月号の紹介の後編であります。

『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
 島村盛実に祖父・能家を殺されて城を奪われ、連載第2回にして全てを失ってしまったところからスタートという、テンションの高いタイトルとは裏腹に、重野作品の主人公でも屈指のどん底っぷりの直家。
 今回は両親とともに備後国・鞆に流れ、直家というより宇喜多一家(除く親父)の苦心惨憺の日々が描かれることになりますが、その中でもチラリと直家の「殺っちゃえ!!」な顔を入れてくるのが、らしいといえばらしいといえるかもしれません。(にしても父親の興家、「宇喜多興家(暗愚)」と名前の後にキャプションされるキャラ初めてみました)

 ラストには阿部善定が登場、キャラデザイン的には見るからにうさんくさい冷酷キャラっぽく見えますが――宇喜多一家の今後に多大な影響を与えるこのキャラが、本作ではいかに描かれるのか、気になるところです。


『カムヤライド』(久正人)
 前回はモンコのところを離れて、彼の周囲の各キャラクターの状況が描かれましたが、今回はモンコのところを離れつつも、描かれるのはモンコ自身の物語というユニークな構成。以前もチラリと登場し、その魚めいた顔つきが妙に印象に残った大王の側近らしい男・タケゥチが、死んだはずのモンコ――いや、ノミの宿禰の跡を追って、各地を巡る姿が描かれることになります。

 宿禰の処刑前にその指を斬った剣士(タジマモリの非時香菓探索に同行していたという、何気に一エピソード作れそうな設定にシビれます)、宿禰を処刑した処刑場と、そこから何かを持ち出したらしい謎の三人組と出会った水木チックなタッチの盗賊団、そして「モンコ」とノツチ師匠が出会った伊那山中のあの村――ここで描かれるのは、恐るべき力を持つ謎の鎧を生み出した末に宿禰が処刑されてから、モンコとして、カムヤライドとして再誕するまでの足取りを追う旅であります。

 カムヤライド誕生秘話が鮮烈過ぎる形で描かれたために、すっかり謎は解けたような気分になっていましたが、しかし冷静に考えてみればこの部分は、物語の大きなミッシング・リンクというべき部分としていまだに残されています。それを一話じっくり使って再確認させられたわけですが――それにしても印象に残るのは、それがほとんどホラータッチで描かれることです。
 宿禰に直接関わった人々が、まるで見てはならない、触れてはならない存在と出会ったかのように狂気に陥っている様を見れば、宿禰=モンコの、カムヤライドの存在には、まだまだ暗い闇が隠されていることが痛いほど感じられます。

 にしてもタケゥチ、このような仕事をただ一人で任されていることから察せられるように、その死んだ魚のような目とは裏腹の恐るべき力の持ち主。そのタケゥチがついにモンコたちに迫ることになって――まだまだ波乱が待ち受けていそうであります。


『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 「梅安影法師」編も今回で完結、梅安を巡る一つの因縁が、ここに決着を迎えます。
 白子屋残党が送り込む刺客たちを返り討ちにし、江戸の白子屋の拠点を預かっていた伊八をも討った梅安たち。残るは、清助の仕掛けを依頼した奥右筆・駒井助右衛門退治ですが――それを危なげなく終わらせた梅安に、かつて撃退した鵜ノ森の伊三蔵が異常な執念でもって迫ることになります。

 白子屋との抗争の後始末であり、そして降りかかる火の粉を払うためとはいえ、今回はほとんど仕掛人の仕事抜きで戦うこととなった梅安と彦さん。ある意味私情でその技を振るう姿には、ある種の危うさが漂うように感じられますが――それは伊三蔵も同様といえるかもしれません。
 かつて白子屋から依頼された梅安殺しをしくじり、それでも命永らえた伊三蔵。白子屋亡き後、その依頼はキャンセルになったといえるはずですが――しかし己の姿を無残なまでに変えても梅安を付け狙う姿からは、仕掛人の矜持以上のものが感じられます。(しかしそんな彼にも、打算抜きで献身的に支えてくれる存在がいるという描写がまた……)

 そしてその二人の運命が再び交錯した時、生き残るのがどちらであるか――それは言うまでもありませんが、サブタイトルの意味が明かされる結末の索漠とした味わいは、何とも印象に残ります。

 そして次回からは、最終章と銘打って「梅安冬時雨」がスタート。原作者の病没により未完に終わった物語を完結させてみせるとのことですが、果たしていかなる結末が待つのか――期待したいと思います。


「コミック乱ツインズ」2021年5月号(リイド社) Amazon

関連記事
「コミック乱ツインズ」2021年1月号
「コミック乱ツインズ」2021年2月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2021年2月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2021年3月号
「コミック乱ツインズ」2021年4月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2021年4月号(その二)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

2021.04.17

「コミック乱ツインズ」2021年5月号(その一)

 「コミック乱ツインズ」5月号は、森秀樹の新連載『ビジャの女王』がスタート、わざわざ「異端時代劇」と銘打つその内容が気になる作品です。その他『暁の犬』が久々の登場です。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『ビジャの女王』(森秀樹)
 というわけで新連載巻頭カラーの本作は、公式のあらすじによれば「13世紀のユーラシア大陸で、絶大な勢力を誇った蒙古帝国に立ち向かい消えていった、ペルシャの小都市・ビジャの抵抗の様子」を描く物語。消えていった――といきなり結末が語られてしまっていますが、もちろんそのままので終わる物語ではないのでしょう。
 さて第1話では、蒙古の小隊二万人に包囲された人口五千人のビジャの状況が描かれます。父王不在の中、ビジャを守るオッド姫(左右の瞳の色が違うからオッド?)を中心に、様々な人々(妙な仮面を被った人物が非常に気になる)が集まって会議を開くも、打開策は浮かばず――という中で、ある隊商の長が意外なことを語りだすのですが……
 と、ここで第1話のサブタイトルを見てみれば「墨者を見た」。エッ、もしかして本作は、作者がかつて作画を担当したあの作品の、実質続編ということなのでしょうか……?

 しかし、仮にその人々が13世紀も存在するとして、助けを求めに行くには、当然この重包囲を抜けなくてはなりません。さっそく最初の試みが無残な失敗に終わった中、王女の語る意外な手段とは――というところで、全く先が読めぬ中、次回に続きます。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 絵島生島事件の衝撃も冷めやらぬ中、その仕掛け人である紀伊国屋文左衛門を呼びつけた徳川吉宗。いきなり頂上対決の趣ですが、しかし食わせ物同士、なかなか腹の底を見せぬ探り合いが続きます。そして吉宗の「余に仕えよ」が炸裂するのですが――聡四郎には滅茶苦茶効いた殺し文句を吐いた吉宗も、紀文にとっては吝い小物扱いなのは、むしろ痛快ですらあります。(確かに緊縮政策の吉宗と紀文では、水と油ですが……)

 一方聡四郎の方はといえば、相変わらずエラそうに指図するばかりの新井白石に肚の据わりを疑われてついに爆発。あんたこそ何もしてないじゃないかと、勤め人であれば誰もが上司に言ってみたい、しかし言っちゃいけない禁句の連発であります。これはこれで大いに痛快ですが、しかしまあもちろん怒られた聡四郎は、絵島事件の裏を探る羽目に……
 もう勘定吟味役の仕事ではない気がしますが、探索に当たった聡四郎は、裏に居るのが紀文と知り、再び対峙することになります。もちろん良いようにあしらわれた聡四郎ですが、しかしラストには黒幕に対して宣戦布告と格好良いところを見せて――しかし実際問題この先どうするんでしょう、というところで次回に続きます。


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 二番目の標的である稲垣を、根岸大隅とのコンビネーションで斬った佐内。しかしその過程で、稲垣の恋人であるまだ若い娘を、口封じ兼己の覚悟を高めるため斬り捨てるという、一線を越えた行動を取ることに……

 という展開を受けて久々掲載の今回、もう縁は切れたと思っていた満枝が何故か道場にまで現れたと思ったら、相良まで押しかけ、佐内を巡って矢印入り乱れる争いに――ということはありませんが、佐内的には鬱陶しいことこの上ない状況であります。
 しかし満枝さんは満枝さんで、佐内の複雑な内面を直感的に理解し、そして受け止める気持ちを持つとても良い娘さん(本当に良い人過ぎて何かの罠ではないかと疑うほど)。一方相良は相良で、妻子持ちの遊び人ですが理解力と抱擁――いや包容力は無駄にあるし、まあよいのではないでしょうか(無責任)。そしてそんなやりたい放題の一方で、(裏方の)武家としての覚悟をサラリと語る姿がまた痺れるのであります。

 それはさておき、二本松派の物頭の下に、国元では探索方だった先手組の若党が――という相良からの情報に、佐内は相手がかつて自分に襲いかかってきた刺客かどうか確認することに……
 という、いよいよ緊迫の度合いを増す展開ですが、今回印象に残るのは、若い娘を斬ったことで心の中に何がしかの屈託を抱えた佐内の姿であります。剣士としての、殺し屋としての佐内は、そんな苛烈な行動に納得しつつも、人間としての彼はそこに(特に満枝を前にした時に)複雑な想いを抱えざるを得ない――本当に様々な顔を持つ佐内という男ですが、しかしそんな複雑さも含めて彼であり、そして(相良がそうであるように)人間はそういうものなのだろうと、改めて感じさせられた次第です。


 その他の作品は次回にご紹介いたします。


「コミック乱ツインズ」2021年5月号(リイド社) Amazon

関連記事
「コミック乱ツインズ」2021年1月号
「コミック乱ツインズ」2021年2月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2021年2月号(その二)
「コミック乱ツインズ」2021年3月号
「コミック乱ツインズ」2021年4月号(その一)
「コミック乱ツインズ」2021年4月号(その二)

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

2021.04.16

『セスタス The Roman Fighter』 第1話「拳奴セスタス」

 ネロがローマ皇帝に即位した年――少年奴隷セスタスは、拳奴養成所での最終選考で親友・ロッコと対戦することになる。師・ザファルの教えで快勝するセスタスだが、ロッコは無残にも処刑されてしまう。敗北すれば死の過酷な環境の下、セスタスはネロも観戦するデビュー戦に臨むが……

 ついにスタートしたアニメ版『拳闘暗黒伝/拳奴死闘伝セスタス』。原作は古代ローマを舞台に、負ければ死という文字通り死闘を繰り広げる少年拳奴・セスタスの姿を描く歴史格闘アクション漫画ですが――さて、それをどのようにアニメ化するのか、と思いきや、第一話冒頭から度肝を抜かれることになりました。

 というのも、このアニメ版の冒頭で描かれたのは、原作『拳闘暗黒伝』11巻冒頭のシーン――実質第1シリーズ最後の試合である、ポンペイ最強の拳奴・エムデン戦から。
 このエピソード、試合の中で強打を食らったセスタスは記憶を飛ばし、そこに至るまでの記憶を甦らせていく――という構成なのですが、原作ではポンペイに着いてからの記憶だったものが、どうやらこのアニメ版では、拳奴になるところからの記憶を甦らせることになるようです。(ずいぶん豪快に記憶を飛ばしたな……)

 さてアニメ化の報を聞いた時、真っ先に気になったのは、一体原作のどこまでをアニメ化するのだろう――ということでしたが、これで少なくともエムデン戦までは描かれることがわかりました。
 このアバンタイトルに続くオープニングでは、『拳奴死闘伝』冒頭で激突した強豪・フェリックスが顔を見せているので、そこまでいくのかもしれませんが……
(一方でルスカたちローマ組が全くOPに登場しないので、本編でどれだけ出番があるのか、些か心配ではあります)

 前置きが長くなりましたが、ここから先は基本的に原作冒頭からほぼ忠実に(細かい描写などはかなり省いているようですが)アニメ化されています。
 この第1話では、拳奴養成所での最終選考からロッコの無残な死、ローマでの養成所対抗戦におけるセスタスのデビュー戦と、奇妙な友情で結ばれるルスカそしてネロとの出会い、ルスカの鮮烈なファイトまで――原作第1巻のほぼ3/4が、一気に描かれています。

 物語の掴み――すなわち物語全体の方向性を描くこの冒頭部分は、全編を振り返ってみても特にハードな展開が印象に残る部分。最終選考に勝てば親友が殺され、デビュー戦に勝てば相手が殺されるというので止めようとしたら自分も殺されかけ(昔同じことした師匠に怒られ)、そしてもし負けたら自分が殺され――書いていて嫌になるほどツラい設定であります。

 もっとも本作の場合、この設定があるからこそ、セスタスが負けられない理由になり、そして肉体的には不利な彼が技を磨く理由にもなるという点が、最大の特徴であることは言うまでもありません。
 もう一つ、これだけ容赦ない史実を描きながらも、徒手格闘において究極の万能性を備えるに至った「総合格闘術 パンクラティオン!!!」などと、実に格闘漫画らしいケレンを効かせてくれるのも楽しいところであります。

 しかし触れるのが遅れましたが、冒頭のエムデン戦はCGで描かれていたため、フルCGもしくは試合シーンだけCGという趣向かと思いきや、本編は全て普通のアニメというのがすっきりしないところです。
 特にCGアニメが好きというわけではないのですが(冒頭のシーンも、審判のおじさんまでCGなのが違和感)、しかし作品の間違いなくメインの部分だけに、そこは気合を入れて欲しかった、というのが正直な印象です。

 特にセスタス以上にルスカの試合は……
(にしても初登場時のルスカのいい子っぷりたるや、「今」から見ると隔世の感が)


 などと、とりとめもなく書いてしまいましたが、ザファルやデミトリアス、それにナレーターはベテランの渋い声がしっかり固め、正直なところ初主演ということで不安だったセスタス役も違和感なく、その点は一安心いたしました。


関連記事
技来静也『拳闘暗黒伝セスタス』第1巻 熱血格闘漫画と歴史物語の高度な融合!

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

2021.04.15

皆川亮二『海王ダンテ』第12巻 力が欲しいか? 海王悪夢の目覚め!

 ダンテ=若き日のネルソン提督の冒険を描いてきた『海王ダンテ』もいよいよ最終章に突入であります。自分の誕生の秘密と、その身に秘められた力の存在を知りつつも、それを拒否し、人間として生きようとするダンテ。しかし悪意に満ちた運命が、彼を恐るべき存在に変えるべく動き出すことに……

 天空に浮かぶ超科学都市アトランティスで、自分が地球意志の代行者にして裁定者ともいうべきドゥランテ――魔人モーセ復活のための器であり、既にモーセの魂が自分の中で目覚めていたことを知ったダンテ。
 しかしその人間としての強きそして善き心でモーセを抑えた彼は、かつての惨劇を繰り返すことなく、アトランティスと友好関係を結び、帰還したのでした。

 そして人間として、イギリス海軍の軍人としての道を歩み始めたダンテ。ついにレイゾナブル号の艦長として船を任せられることになった彼の初任務は、東インド会社からの依頼で、インドから清に厳重に密封された品物を運ぶというものだったのですが――これはどう考えてもマズい予感しかしません。
 どう考えてもその中身はアレしか考えられないというこちらの予想は的中し、ダンテは愛すべき祖国の、文明国にあるまじき恥ずべき行為の存在を知ってしまうことになるのでした。

 そしてついに自分の前に姿を現した育ての親、実は不死人のコロンバスから、人間たちへの復讐のためにモーセ復活に手を貸し、数え切れない無残な所業の果てに自分を生み出したと聞かされるダンテ。
 その言葉にも耳を貸すことなく、人間としての道を歩まんとするダンテですが、その決意を無にするような人の悪意が、最悪の結果を招くことに……


 ついに核爆発すら抑え込むほどの力を得て、地上最強ともいうべき存在となったダンテ。その力は、もはやナポリオが事実上のお手上げ宣言をするほどのものですが――しかしその力がかつてのモーセのように人間の文明を崩壊させていないのは、ひとえにダンテが人間としての心を持ち続けているからにほかなりません。

 これまで、様々な苦境に陥り、そして様々な人間の蛮行を目にしながらも、決して自分に、人間に絶望することなく、自分の成すべきことを果たしてきたダンテですが――しかし彼が、心を捨て、力のみを求めることがあったとしたら? この最終章では、その問いかけが描かれることとなります。

 正直なところ、この巻での展開は、いささか性急な印象も否めません。しかしあのダンテの心に人間不信を芽吹かせるのが、今なお世界史上で「あれはない」と言われ続けるあのイギリスの行為というのは、それなりに説得力があるといえるでしょう。
 思えばこれまで、ナポリオがその一角を担うフランスの蛮行は幾度も描かれてきたものの、イギリスはほぼ一貫して「善い国」「文明国」として描かれてきた印象のある本作。それはいささか一面的に感じられるものでしたが――それがこのような形でひっくり返されるとは。

 そしてもちろん、ダンテを苦しめるのはそれだけではなく、あまりにショッキングな展開がこの巻のラストでは待っているわけですが……


 ついに「力が欲しいか?」という問いに対し、肯ってしまったダンテ。しかし本作における力は、決してダンテを救うものではありません。それどころかダンテを、いや全てを滅ぼす力であります。
 その力の前に、果たして人類の命運は、そしてダンテの未来は――現時点ではどうにもすっきりしない展開が続きますが、おそらく最終巻であろう次巻において、皆川作品らしい人間の強さと希望を見せていただきたいものです。


『海王ダンテ』第12巻(皆川亮二&泉福朗 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon

関連記事
 皆川亮二『海王ダンテ』第1巻 二人の少年が織りなす海洋伝奇活劇
 皆川亮二『海王ダンテ』第2巻 いよいよ始まる異境の大冒険
 皆川亮二『海王ダンテ』第3巻 植民地の過酷な現実と、人々の融和の姿と
 皆川亮二『海王ダンテ』第4巻 新章突入、新大陸で始まる三つ巴の戦い
 皆川亮二『海王ダンテ』第5巻 今明かされる二人のルーツ、そしてこれからの戦い
 皆川亮二『海王ダンテ』第6巻 オーストラリア編完結 動物軍団大暴走!
 皆川亮二『海王ダンテ』第7巻 大乱戦、エジプト地底の超科学都市!
 皆川亮二『海王ダンテ』第8巻 秘宝争奪戦! 四つ巴のキャラが見せる存在感
 皆川亮二『海王ダンテ』第9巻 驚異の乱入者!? エジプト編完結!
 皆川亮二『海王ダンテ』第10巻 アトランティス編開幕 ダンテのルーツ、モーセの過去
 皆川亮二『海王ダンテ』第11巻 内なる敵との対峙 そして「人間」の条件

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

2021.04.14

響ワタル『琉球のユウナ』第6巻 衝撃のルーツ! 引き裂かれたふたり

 15世紀の古琉球時代、後世にその名を残す尚真王・真加戸と、強い神力を持つ朱色の髪の少女・ユウナの物語もいよいよ佳境であります。第二尚氏に対して各地で不穏の動きが高まる中、何とか真加戸の力になろうとするユウナですが、あまりにも意外な真実が彼女を打ちのめすことに……

 王府の祝女として、世の安寧を祈願して作られたという「太陽の依り代の勾玉」を集めようとするユウナ。しかし七つの勾玉探しは思うように進まず、逆に第一尚氏の生き残りであり、真加戸とユウナを執拗に狙う男・ティダによってその一つを奪われてしまうのでした。
 そんな中、五穀豊穣を祈るために東方の聖地を訪れた真加戸が、何者かに襲撃される事件が発生し……

 と、この巻の前半で描かれるのは、いまだ不安定な琉球王国の国内情勢、それも群雄割拠の先島諸島の状況を踏まえた、真加戸暗殺計画の行方。
 よせばいいのに(いや公務がメインなのですが)ユウナと一緒だとほいほい外出してしまう真加戸がまたも危機に――と思いきや、伊達に子供の頃から陰謀に揉まれて育っていない彼の用心深さ、果断さが描かれているのは、ユウナの前での甘々な顔と(そしてユウナ自身の甘さと)好対照で印象に残ります。

 しかしそれ以上に印象に残るのは、第一尚氏一党に唆されて真加戸を狙った宮古島側の動きであります。
 このエピソードで陰の主役ともいうべき青年「玄雅」の一癖も二癖もあるキャラクターと思わぬ真加戸との因縁、そしてそれが物語を大きく動かしていく展開がなかなか面白いと思っていたら――彼の後の姿を知って感心。琉球史に詳しい方であれば一発でわかったのだと思いますが、こういう仕掛けはやはり史実を背景にした本作ならではでしょう。


 しかし、こうした真加戸の側のドラマが動く一方で、ユウナの側にも、それに負けぬ激しい動きが生まれることになります。
 暗殺騒動の最中、久々に再登場した赤犬子が真加戸に語った「あの小娘は手放せ。いずれお前に大きな禍をもたらすだろう」という予言めいた言葉。その言葉に誘発されたように、ユウナは前巻登場した幸地里之子――第一尚氏側に立つ謎めいた男に拐われてしまうのです。

 初登場時から、「真鍋樽」という名の朱い髪の娘を探しているという設定であったことから、あるいはユウナのルーツと関わりがあるのでは、と思われた幸地里之子。その予感は的中し、ここで彼女のルーツが描かれることになるのであります。

 幼い頃から山原で二頭のシーサーと孤独に暮らしてきたユウナ。これまでその境遇にほとんど疑問を抱かず読んできましたが、はたして彼女の両親は、何よりも彼女自身は何者なのか――それは確かに本作において、大きな謎であったと言えるでしょう。
 そしてこの巻の後半で描かれたそれは――さすがにここで明かすことは憚られるほどの特大級の爆弾。なるほど、これは確かに赤犬子の言葉も真実というほかない――そしてこれまで物語の中で描かれてきた数々の描写に頷ける、思わぬそして納得の展開であります。

 好き合っている男女が、本人たちの責任ではない過去からの因縁で引き裂かれる(あるいは身を引くことを余儀なくされる)というのは、歴史ラブロマンスの基本中の基本ではあります。
 しかし本作でそれが――今までもそうした要素はあったものの、それらとは比べ物にならないほど高い壁でもって――描かれると、これまでのユウナと真加戸の甘々な姿が目に残るだけに、思い切り胸に突き刺さるものがあります。

 はたして二人はこの最大最悪の障害を乗り越えることができるのか――クライマックスは遠くない日に訪れることでしょう。


『琉球のユウナ』第6巻(響ワタル 白泉社花とゆめコミックス) Amazon

関連記事
 響ワタル『琉球のユウナ』第1巻 異能の少女と伝説の王が抱えた孤独感
 響ワタル『琉球のユウナ』第2巻 二人にとってのもっともやりにくい「敵」!?
 響ワタル『琉球のユウナ』第3巻 ややこしい琉球の、ややこしい人間関係
 響ワタル『琉球のユウナ』第4巻 もう一人の祝女、もう一人のユウナ
 響ワタル『琉球のユウナ』第5巻 二転三転、真加戸vs北山国

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

«鳴神響一『おんな与力 花房英之介 一』 奇想天外、おんな与力颯爽の登場