入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2021.01.19

坂ノ睦『明治ココノコ』第1巻 明治の物の怪と対峙するもの、その名は……

 明治初期の日本を舞台に、この世に取り残された物の怪の成れの果てと対決する特別警察隊を描く、ユニークな妖怪漫画の第1巻であります。何がユニークかといえばこの特別警察隊、主要メンバーとなるのが、誰もが名を知るあの大妖怪なのですから……

 平安時代にこの世を荒らし回った末、天狐に敗れて妖力と八本の尾を奪われ、地獄の奥深くに封印されていた(元)九尾狐。それから900年後、天狐から封印を解かれ、地上に送り出された彼が見たのは、文明開化の帝都・東京――鉄道が走り、瓦斯灯が夜を照らす、彼の知るのとは全く異なる世界でした。
 しかし最大の違いは、この都には物の怪の姿が影も形もないこと。既にその存在を信じる人間がほとんどいなくなったことにより、物の怪たちが消え去り、九尾狐自身普通の人間たちに触ることも、存在を感じられることもなくなってしまったのです。

 そんな中、自分のことを視ることができるという風変わりな男から、このところ瓦斯灯を相次いで破壊され、ついには瓦斯灯を点検する点消方まで焼き殺されるという事件が起きていると告げられる九尾狐。
 そんな二人の前に現れたのは、その犯人にして、物の怪の成れの果てだという不気味な怪物「ニゴリモノ」。その無様な姿に怒った九尾狐はニゴリモノを粉砕するのですが――そこに現れた天狐から、意外なことを告げられることになります。

 実は謎の男こそは、警視庁の川路大警視(!)。そして川路と協力関係にある天狐は、九尾狐を警視庁ニゴリモノ対策課の邏卒隊に任命するというのですが……


 というエピソードから始まる本作。文明開化により妖怪たちが既に過去のものとなってしまった世界を舞台にした物語というのは、これは決して珍しくはありませんが――そこで物の怪の成れの果てを狩る役目を、あの九尾狐が担うというのは、これは空前絶後と言うべきでしょう。

 しかしユニークなのはそれだけではありません。邏卒「隊」というからには、(元)九尾狐――今は尻尾を取り戻すまで白(ビャク)と名乗ることとした彼の他にも、メンバーがいるのです。それもどこか白に似た、そしてかつて彼の持っていた力を操る妖狐たちが。
 それが何を意味するのか――それはここで述べるまでもないかと思いますが、なるほど、そのためのこの主人公、この設定か、と感心させられた次第です。

 ただ、この隊のメンバーたち、それぞれにキャラクターも、そして何よりも得意とする能力も異なるのですが、やはり設定上どうしても似通った存在に見えてしまうのは、いささか勿体ないところではあります。


 しかし――それ以上に気になるのは、ニゴリモノたちの存在です。

 本作のニゴリモノは、上で述べたように、忘れ去られ、零落したかつての物の怪たち。白たちがこのニゴリモノの能力を暴き、倒すためには、その正体を知ることが必要であり――そしてそれが忘れ去られた彼らの救済に繋がる、という設定自体は、本作ならではのもので面白いと思います。
 が、そのニゴリモノたちの所業が結構洒落にならない(普通に死人の山を気付いたりする)ため、彼らにはあまり感情移入できないというのが正直なところであります。

 もちろん、物の怪に人間が感情移入できないのは当然かもしれません。しかし犠牲になる人間側としては、彼らの境遇に同情も、そこからの解放を祝福も、どちらも難しい――というのが、素直な気持ちなのです。
 この辺りのギャップをどのように埋めるのか(あるいは埋めないで貫き通すのか)、気になるところではあります。


『明治ココノコ』第1巻(坂ノ睦 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon

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2021.01.18

『明治開化 新十郎探偵帖』 第5回「ロッテナム美人術」

 美顔術で女性たちに人気を博すロッテナム美人館の信奉者として知られる元大名・大伴家の夫人・シノブ。彼女から新十郎は、夫の宗久が、シノブと二人の侍女が三人で一人などと言い出し、刀を振り回して暴れるという相談を受ける。調査を始めた新十郎だが、さらに美人館が関わる殺人事件まで起こり……

 原作『明治開化 安吾捕物帖』でも特に印象的なものの一つである「ロッテナム美人術」と同じタイトルの今回は、それだけでなく内容の方も、このドラマ版において、これまでで一二を争うほど原作に近い内容のエピソードであります。

 インド・アラビアに古来より伝わる美顔術を施すロッテナム夫人が開いた美人館。上流階級の夫人たちに人気のその美人館を訪れた梨江は、その美貌と才知で知られる大伴家夫人・シノブから声をかけられ、新十郎に彼女を紹介することになります。
 実は彼女を悩ませているのは、夫の宗久のこと――普段は物静かで学問を好む宗久なのですが、最近突然に日本刀を振り回して暴れるようになったというのであります。それもシノブたちの顔を見ては、彼女と侍女のカヨとキミの二人が、実は三人で一人の人間などと、とても正気とは思えないようなことを口走るというではありませんか。

 その奇怪なあらまし、さらには英語を操り豊かな学識を持つシノブに興味を持ったか、彼女からの依頼を引き受けた新十郎。しかし大伴家を訪れた彼は、初めは穏やかだった宗久が、シノブが語った通りに突如態度を変え、暴れ出す姿を目の当たりにすることになります。
 一方その頃、川から発見された男の射殺された死体が、実は美人館の下男のものであったことが判明。この奇妙な暗合に美人館を調べに向かった新十郎は、美人館が突然店仕舞いし、ロッテナム夫人が姿を消してしまったことを知らされます。勝は、美人館は外国の間諜のアジトであり、下男の死は間諜であった夫人の仕業などと推理するのですが……


 原作を大きくアレンジした内容であった前回に比べると――登場人物数が大きく減っていたり、後述の部分など、変更点はないわけではないものの――冒頭に述べたとおり、原作にほぼ忠実な内容であった今回。久々に勝の頓珍漢な安楽椅子探偵ぶりも披露され(もっともこれは原作にはないくだりなのですが)、フォーマットの上でも、原作に近い内容と言えます。

 もっとも、大きくアレンジされているのは、「犯人」の動機であります。その直接の目的は原作と同じ――ある意味非常に世俗的なものなのですが、しかし本作においては、実に本作らしいというべき、「その先」の狙いが語られることになります。
 そしてその狙いを支えるものは、ある意味新十郎の抱くものと重なるものであり、しかしそしてその手段において大きく異なるものでもあることが、クライマックスにおいて、描かれるのです。
(一方原作で描かれた、犯人の背後に存在する黒々とした闇の存在と、その前にさしもの新十郎も屈するしかなかった、という苦い結末も実に良かったのですが……)

 しかし残念なのは、このようにアレンジがうまく機能した部分がある一方で、あまりに便利な××が犯行に使われたり、犯人にとっては致命傷になりかねない証拠がそのまま残されていたり、何よりも犯人が墓穴を掘るとしか思えない行動(それ自体はミステリでまま見かけるものなのですが)を取っていたり――と、首を傾げるようなアレンジも多かったのも事実。
 おかげでミステリとして見ると、かなり残念な内容となってしまった、という印象は否めないところであります。


 ちなみに今回、事件とは関係ない部分で、西郷と大久保がこの国の在り方について議論を戦わせる場面が描かれることとなります。内容的にはほぼ征韓論争と重なるものなのですが、今回わざわざこれが描かれたのは、今後の本作の――まず間違いなく、クライマックスの展開に繋がるものなのでしょう。
 歴史に示される西郷と大久保の結末が本作で描かれるとすれば、新十郎がそこでどのように関わっていくことになるのか、ドラマの結末に関わる可能性が高いだけに、気になるところであります。

関連サイト
公式サイト

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『明治開化 新十郎探偵帖』 第1回「仮装会殺人事件」
『明治開化 新十郎探偵帖』 第2回「死神人力車」
『明治開化 新十郎探偵帖』 第3回「万引き一家」
『明治開化 新十郎探偵帖』 第4回「リンカーンの影」

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2021.01.17

「コミック乱ツインズ」2021年2月号(その二)

 新年最初の刊行となった「コミック乱ツインズ」2月号の紹介の後編であります。今回はそれぞれある意味一線を越えたというべき二つの作品を紹介いたします。

『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 唐津藩のお家騒動の走狗として人斬りを続ける中、ついに父を斬った秘剣「二胴」の遣い手と思しき相手と遭遇した佐内。いまだにその剛剣に対する恐怖心を拭えぬまま、彼が根岸とともに狙うことになった、二胴の遣い手候補の一人・稲垣との対決が今回描かれることになります。

 稲垣と馴染みの女・おまつとが逢瀬を終えた後を狙い、襲撃を仕掛ける二人。しかし闇討ちを仕掛けようにも、稲垣の傍らにはまだおまつが――というところで、いきなり根岸がトンチみたいなアドリブを仕掛けたおかげで、惨劇の幕が上がることになります。
 根岸が単身稲垣に勝負を挑む一方で、(稲垣が二胴の遣い手ではなかったことを確かめた上で)逃げたおまつを追う佐内。自分たちの顔を見たおまつを追い詰めた佐内は、そこで……

 殺し屋ものではある意味定番ともいえる、殺しの場を第三者に目撃されてしまうという展開。それに対してどのように振る舞うかによって、その殺し屋のプロフェッショナリズムと人間性が問われることになるわけですが――だとすれば、ここで佐内が取った行動を何と評すべきか。

 詳細は伏せますが、ここで描かれたのは、完全に一線を越えた――それも結果ではなく動機において――というべき行動。それは彼が単なる殺し屋ではなく剣士、いや剣鬼であることの証明というべきでしょうか。
 本作ではこれまで幾度か、佐内の精神性の奇妙さに驚かされることがありましたが――しかし今回はこれまでとは比較にならないほどのインパクトがあったと感じます。

 しかし凶行は凶行を呼びます。度重なる犠牲者に業を煮やした相手方が見せる不穏な動き――それは佐内の、読者の予測もつかぬ展開に繋がることになるのでしょう。とりあえず、立ち位置に根岸さんが立ち位置的に危ないと思います(身も蓋もない予想)。


『カムヤライド』(久正人)
 一線を越えたといえば、こちらも前回からまさに時代ものとしての一線を越えた感のある本作。高速で飛翔する国津神に対して、未だ傷の癒えぬカムヤライドが得た新たな力、それは――言って良いのかな、いや言っても未見の人には絶対信じてもらえないような、そんなスーパーマシンであります。
 その底知れぬパワーで一瞬のうちに人質(?)となっていたノツチ師匠を奪還し、あとは国津神との決戦あるのみ。果たして勝負の行方は……

 というわけで、本当に想像を絶するパワーアップ編の後編ともいうべき今回。見開き連続8ページという豪快なビジュアルでスタートした国津神との超高速バトルは、その先も我が目を疑うというか、古代ものというジャンルへの挑戦というか、とにかく本作以外では絶対に絶対に見られないような異次元展開の連発であります。

 しかしシビれるのは、これだけ無茶苦茶をやりながらも、前回同様、パワーアップ編であると同時に、カムヤライド誕生編とも言うべき内容となっていることでしょう。
 カムヤライドが国津神を封印する、あの必殺ムーブ。そのロジックと、誕生の瞬間とは――過去のエピソードと現在のエピソードが交錯する(そしてなんかさらにとんでもない技が飛び出す)クライマックスには、ただただ快哉をあげるしかありません。

 しかし残念なのは、ここまで盛り上がっておいて、次号は休載の模様であることですが……


 というわけでその次号3月号は、『軍鶏侍』と『はんなり半次郎』が掲載。そのほか、これまで何度か作品が掲載されてきた鶴岡孝雄の特別読切『隠居武者』が掲載とのことです。


「コミック乱ツインズ」2021年2月号(リイド社) Amazon

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「コミック乱ツインズ」2021年1月号

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2021.01.16

「コミック乱ツインズ」2021年2月号(その一)

 まだ年を越して間もない気もしますが、号数の上ではもう2月号の「コミック乱ツインズ」。巻頭カラーは『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)です。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介していきます。

『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)
 というわけでシリーズ連載の第2回。元盗人の捨丸(15歳)と元百姓の春(13歳)――大胆にも天下取りを夢見た二人の「凄春」を描く物語であります。

 今回の舞台となるのは、徳川軍が武田軍の高天神城を攻めた戦い。その武田方に加わっていた二人は、落城寸前の城から逃げ出すのですが――その途中、二人は徳川の兵に襲われて傷を負った、武田勝頼からの伝令・山科実直正義と出会うことになります。
 主への恩義のため、命を賭けて城に向かおうとする山科のまさに実直さに感動する春。その一方で、捨丸は密かに……

 というわけで、今回も吹けば飛ぶよな若き雑兵二人の、何とも世知辛い戦国渡世が描かれる今回(そもそも、春が自分の属していた側の大名の名を知らないという時点で、もう何と言ったらよいのか……)。
 前回の舞台となった長篠城の戦で名高い(けれども本作には登場していない)鳥居強右衛門を思わせる山科と出会った二人の、対照的な行動が今回の見所となります。

 しかしそれ以上に印象に残るのは、それを受けての山科が選んだ道と、その結果。高天神城の戦いの結末については、歴史が示すところですが――その背後にあったかもしれない名も知れない者たちの物語は、何とも切なく苦い味を残すのであります。
(しかしこの二人、長篠の戦いの時と今回で年齢が変わっていないのですが、そういう設定でこの先も展開するのでしょうか)


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 いよいよ今回から新章『暁光の断』開幕となった本作。作中でも正月を迎え、和やかなムードの水城家ですが――艶やかな晴れ着姿の紅さんを置いて、職場の年始回りに行かないといけない聡四郎には勤め人の悲哀が漂います。

 それも尋ねる先が、正月から仏頂面の白石のもとだったりして、しかもいやいや屋敷に上がってみれば、白石は疑心暗鬼バリバリだったりするものだからもうこれは災難としかいうほかありません。おまけに最後に紀州家に寄ってみれば、こちらでも上がっていけと言われるではありませんか。
 そして何と吉宗とサシで呑むことになった聡四郎。呑みながら酒に絡めて吉宗の政談を聞かされたり(一番胃に悪い酒の飲み方)、かと思えばいきなり杯を取り替えてサシもサシ、目の前で呑もうと言われたりと完全に吉宗に「呑まれる」羽目になります。

 挙げ句、余にのために、いや御上のために手を貸せ、と殺し文句をぶつけられることになってしまった聡四郎。今の上司に比べるとぐっと頼りがいはありそうですが、仕えたら仕えたらで大変そうな相手のヘッドハンティングに揺れる――剣戟こそありませんでしたが、この先の激動の一年を予感させるような今回のエピソードであります。

 そしてその一方で山村座に現れた紀伊国屋文左衛門は、看板役者の生島新五郎にあるお女中の接待を命じて――と、これまた不穏な動き。どう考えてもあの事件の前フリとしか思えませんが、こちらが聡四郎にどう絡むのかも気になるところであります。


 思った以上に長くなってしまいましたので、残りの作品は次回に紹介いたします。


「コミック乱ツインズ」2021年2月号(リイド社) Amazon

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「コミック乱ツインズ」2021年1月号

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2021.01.15

ふくしま政実『格闘士ローマの星』 死闘と信仰と――古代格闘士の愛と誠!

 今年は『拳闘暗黒伝セスタス』のアニメ化もあり、古代ローマ格闘の波が来る! と思ったわけではありませんが、今回紹介するのは、やはり皇帝ネロの時代に生きた格闘士の愛と戦いを描いたバイオレンスアクション――ふくしま政美と梶原一騎というある意味ゴールデンコンビの異色作であります。

 西暦63年、暴君ネロに支配されたローマ――連日コロセウムで格闘士たちが命がけの戦いを繰り広げる中で、「ローマの星」と呼ばれ、実力・人気ともに頂点にある青年格闘士・アリオン。
 それを快く思わないネロは、双剣術の使い手であり、ローマに敗れて囚われの身となったカリビアの王女・ライザとアリオンの試合を組むのでした。

 やむなくライザと戦い、公衆の面前で殺めたかに見えたアリオンですが、秘術を用いて彼女を仮死状態にし、埋葬されるところを救出。互いの気高い心を知り、強く惹かれ合う二人ですが――それも束の間、アリオンと父のゴリアスが自分のことで争うのを見たライザは、自らの命を絶つことになります。

 かくて真相を知らぬ市民たちからは女性をその手で殺した悪魔と罵られ、そして自らも最愛の人を失って自棄になったアリオンは、残虐ファイトを繰り広げる悪役格闘士に転向。なおも送り込まれるネロの刺客たちと血みどろの死闘を繰り広げることになります。
 しかしそんなある日、闘技場でライザと瓜二つの女性――実はライザの妹のロザリアと出会ったアリオン。熱心なキリスト教徒であった彼女を通じてキリストの教えを知った彼は、大きく心を揺さぶられるのですが――しかし非道なネロの魔手は、なおも執拗にアリオンたちを苦しめるのであります。


 直前まで『女犯坊』、そしてほとんど同時期に『聖マッスル』という二つの代表作を連載し、脂の乗り切っていたふくしま政実。そして既に一連のスポ根もので向かうところ敵なしとなっていた梶原一騎。
 この希有の才能二つが出会った本作は、予想通りと言うべきか、誌面から熱気――というより血と汗の匂いが漂ってくるかのような強烈な作品であります。

 史上名高い暴君ネロの治世を背景に――物語の終盤にはローマ大火とネロのキリスト教徒迫害が大きな要素に――展開する物語は、血も涙もない、いや血も涙もありすぎる人々が繰り広げる一大スペクタクル。作中でロザリアを導く使徒ペトロも思わず「クォ・ヴァディス」と言ってしまうような(言いません)熱く濃い物語が展開いたします。

 もちろん梶原一騎の格闘漫画らしく、ボクシング(の源流)を得意とする黒人格闘士や、タイ式キックボクシング(の源流)の遣い手のインド人格闘士なども登場、プロレス技を操るアリオンと激闘を展開。
 その一方でアリオンとライザ、そしてロザリアとの純愛も、この殺伐とした物語に花を添える――いや物語を動かす巨大な力として展開し、最後の最後まで運命に苦しめられるアリオンたちの姿から目が離せません。


 しかし――個人的に本作で強く印象に残ったのが、アリオンの父・ゴリアスの存在です。

 眼帯に片足の禿頭の中年(ちょっと女犯坊似)という強烈なビジュアルのゴリアスは、かつて名うての格闘士として知られながらも、身を持ち崩して全てを失い、唯一残されたアリオンに虐待同然の修行を課してきた男。
 暴行で牢にぶち込まれた過去があったり、自分たちの身を危うくするとアリオンが連れ帰ったライザを放り出そうとしたりと、かなりのヒューマンダストなのですが――しかしそんな彼の存在が、物語が進むにつれて大きく輝くようになるのであります。

 己の欲に動かされる、ある意味極めて等身大の存在であるゴリアス。しかしそんな彼が、アリオンとともに数々の苦難に遭う中で、やがて息子を想い、そのために自らの命も擲とうとするほどに変わっていく――その姿は、善と悪の間を結構容易に移ろうアリオン以上に、人間というものの在り方、そしてその成長を強く描き出すのです。

 そしてそんなゴリアスの、ヒーロー然としたアリオンとはまた異なる人間臭さが、やがて同じ人間であるローマ市民を動かし、大きな歴史のうねりに繋がっていく――というクライマックス(これがまた幾重にも及ぶ危機また危機!)は実に素晴らしく、単行本3巻と決して長い物語ではないものの、素晴らしい読了感を与えてくれるのです。


 しかし本作のローマ市民、基本的に残酷ショー好きな上に容易に暴徒と化すし、アリオンへの評価もコロコロ変えるという、これまたある意味非常に人間的な存在で――ここだけ見るとまさに「人間の性悪なり」なのがまた何とも、であります。


『格闘士ローマの星』(ふくしま政実&梶原一騎 グループ・ゼロ) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon/ 第3巻 Amazon

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2021.01.14

『半妖の夜叉姫』 第14話「森を焼いた黒幕」

 山の邪神・焔に連れ去られ、共に暮らしていた玉乃。しかし焔の異常な嫉妬深さに苦しみ逃げ出した彼女を助けた理玖から、夜叉姫たちは焔退治を依頼される。早速、雪山の中の焔の屋敷に向かった三人だが、とわとせつなを見た焔は驚きの表情を浮かべる。実は二人が離れ離れになった火事の犯人こそは……

 新年1回めで第2クール1回め、そして新OPED1回めの今回。親世代キャラが登場しまくりのOP映像にテンションが上がりますが、物語の方は、何となく核心に踏み込んでいくことになります。

 育ての親の元から攫われ、その名の通り火焔を操る妖怪・焔の屋敷で暮らしていた美少女・玉乃。しかし彼女と目を合わせた植木職人を瞬殺するなど細川忠興のような(直喩)ヤンデレ気質の焔に愛想を尽かし、閉じ込められていた座敷牢から逃げ出してきた彼女は、雪山で行き倒れかけていたところを、何故かその辺にいた理玖に拾われるのでした。
 理玖が絡んだとなれば、当然のように話は屍屋経由でもろは、そしてとわとせつなに入り、賞金に目の眩んだもろは先導で、三人は焔の屋敷に向かうことになります。
(その前に、今頃になってスマホを見て挙動不審になるせつなや、焔の執着を自分のスマホ依存症になぞらえるなど、今ひとつ伝わらないネタが……)

 ということは、夜叉姫たちの境遇に重ね合わせて、妖怪と人間の報われない恋の話が描かれるのかな、と思いきや――実際、理玖はそういう視線で見ていたようですが――とわとせつなを見た焔がいきなり挙動不審となり、いきなり旧悪を自分から語りだしたことで、物語は思わぬ(ただしタイトル通りの)方向に向かうことになります。
 かつてとわとせつなが引き離されるきっかけとなった森の火事――実はそれこそは、OPにも顔を出している謎の女妖怪・是露に命じられ、二人を抹殺するために焔が火を付けたもの。それはともかく、是露と焔の傍らには殺生丸がおり、この暴挙も彼が認めたものとして描かれているのは、一体何故なのか……

 それはともかく、とわにとってはこの真実はまさに彼女の怒りの炎に油を注いだようなもの。これまで見たことのないような怒りの表情で焔に挑むとわ、そしてせつなともろはなのですが――しかしそんなクライマックスの場に、ここでやっぱり自分で言いたいことは言わないと、と戻ってきた玉乃に真正面から別れの言葉をぶつけられた焔は、驚愕と悲嘆に暮れた末に、自らの炎で自らを焼き尽くしてしまうのでした。


 ……と、大事な真実がいきなり判明したわりには、ビジュアル的にもキャラクター的にも何だか微妙な焔(と玉乃)のおかげで、すっきりしない展開となった今回。結局とわのスマホ依存ネタもあまりうまく機能しておらず、中途半端な印象は否めません。大きな物語的には(そして前作ファンにとっては)焔の回想シーンでの殺生丸の行動が、今回のメインと言うべきかもしれません。
 以前、麒麟丸とともにかごめを追い詰めていた場面もそうでしたが、どうにも行動が怪しい殺生丸。この彼の真意が、物語の鍵を握ることは間違いないでしょう。そしてもう一人、第三勢力的な位置に立ち、半妖に隠れた敵意を向ける理玖の存在もまた……

 と思っていたら、次回予告では衝撃の展開のオンパレード。ついに親世代に何があったのか、何が起きたのかが描かれるようですが――第2クールに入っていきなりクライマックスの連続には驚かされるばかり。どうかこの怒涛の展開にとわ・せつな・もろはの存在感が飲み込まれることがないことを祈ります。


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