入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2021.12.06

久正人『カムヤライド』第6巻 激走超絶バイク! そしてそれぞれに動き出すものたち

 日本最古の変身ヒーロー譚もいよいよ佳境――ヤマトでの死闘の傷も癒えぬまま強敵に挑むカムヤライドは、新たな力を手に入れることになります。その一方で、天津神が、ヤマトの使者が、そしてヤマトタケルがそれぞれの思惑を秘めて動き出し、封じられた過去に近づいていくことに……

 ヤマトでの天津神との死闘で深手を負った末、オシロワケ大王に追手をかけられ、辛くも逃れたモンコ。その先で命の恩人であり「師匠」であるノツチと再会したことにより、謎めいた彼の過去の一端がが明かされることになります。
 しかしそこに急襲したのは国津神・晩蜩神(ヒュグラ)――鈍重な幼生から、空を自在に舞う成体に羽化した晩蜩神にノツチを拐われたモンコですが、いまだ傷の癒えぬ中、超音速で飛行する強敵には及ぶべくもありません。

 しかしそこで己の原点を思い出したモンコは、土とノツチの燃える粉の材料から新たな己の力を生み出します。二輪で爆走する乗機を……

 というわけで、ここまでやるか! ここまでやったか! というしかない超絶バイクの登場。この巻の表紙を飾るのがそれですが――もうこのとんでもない存在が、しかし違和感なくそして何よりも文句なしに格好良いのは、もちろんこの作者だからとしかいいようがありません。
 四連続見開きでその速さを見せた上で、圧倒的だった晩蜩神をものともしない力で粉砕するこの戦闘シーンは、全編EDテーマがかかっているような状態の盛り上がり、いきなりクライマックスであります。


 そして冒頭のこの一大バトルの後は、モンコサイドを離れ、この物語に関わるその他の者たちの動向が語られることになります。

 ヤマトに多大な被害を与え、モンコとオトタチバナに深手を負わせつつも、自分たちも痛み分けに近い形で撤退することとなった天津神・イシコリドメとコヤネ。
 イシコリドメは、草薙剣を手に変身したヤマトタケルに圧倒されたことを恥じて過激な山籠りを始め、一方、コヤネは死闘を繰り広げたカムヤライドの正体とも知らず、一目惚れしたモンコを求めて旅に出て――と、ある意味マイペース極まりない行動ですが、それだけにこの先、再びモンコたちと対峙した時に何が起きるか、予想もできません。
(その一方で、イシコリドメに敗れて意識を失っていたオトタチバナもようやく復活――こちらも今後の動向が気になります)

 そして、オシロワケ大王の腹心と思しき、何とも印象的な面構えの男・タケゥチは、モンコの――いや、その前身と思しきノミの宿禰の動向を追い、単身各地を巡ることになります。
 かつて大王の命により何か――今にして考えればカムヤライドのプロトタイプ――の開発に当たったものの、暴走した末に捕らえられ、死を命じられた宿禰。彼と瓜二つの顔を持ち、そして形は違えどやはり人知を超えた特異な姿に変じて力を振るうモンコとの関係は、果たして……

 前巻で、ノツチを通じて過去――記憶を失って科野で目覚めてから、九州に現れるまでのそれはほぼ語られたモンコ。しかし彼と同一人物であろう宿禰の過去は、未だ謎に包まれたままであります。
 ここでは、その謎の過去を埋める数ピース――入牢していた時の、処刑される時の、そしてその後の、宿禰の足取りが、タケゥチの調査の形で語られることになります。もちろんそれは、第三者たちの目を通じたものに留まるために、あくまでも数ピースに過ぎませんが――しかしそこで語られる宿禰にまつわるエピソードの禍々しさは、否が応でもこちらの心をかき乱してくれます。

 ある意味、冒頭のバトルと並び、この巻のハイライトというべき内容かもしれません。


 そしてもう一人――父たるオシロワケと対峙して、モンコを弁護し、そして逆にオシロワケの行動の中の謎を指摘してみせたヤマトタケル。彼はその父の命により、ある真実を知るために、伊勢に向かうことになります。
 敬愛する兄・オウスとただ二人、仲睦まじく旅した末に、伊勢に到着した彼を待つのは、父の妹であるヤマトヒメ。彼女がヤマトタケルに見せたものとは、あまりにも意外なモノで……

 と、ここまではこの巻の収録分ですが、ここから先、ヤマトタケルが知る真実は現時点では掲載誌でもまだ語られる途中ではあります。しかしこれまでの段階でも、そこで描かれるのは、恐るべきという表現も生ぬるい、地獄のような真実の連続でした。
 果たしてその先に何が待ち受けるのか――ある意味、ここからが物語の核心というべき事実が、次巻では語られることとなります。


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2021.12.05

『半妖の夜叉姫』 第34話「決戦の朔(前編)」

 朔の晩、狸穴将監に再戦を挑む決意を固めるかごめ。八衛門狸は、彼女にかつて犬夜叉とかごめたちが、将監と満月狸を破った時のことを語る。一方、朔で力を失い猛烈な眠気に襲われたせつなは、襲いくる妖怪たちへの対処法を仲間たちに書き残す。そしてとわは是露の術によって囚われの身になり……

 三パート構成はまだまだ続き、今回はもろはサイドがメイン。とはいうもののむしろメインは過去の犬夜叉たちのエピソードという印象で、それに加えて朔の晩のとわとせつなの姿が描かれるといったところでしょうか。

 前回、あっさりと狸穴将監に敗れて紅夜叉の副作用で眠りについたもろはですが、ようやく復活。かつて自分が動きを封じられた巨大な目玉が朔の晩は機能しないと聞き、現代に行った時にTVで見た怪盗(ああ、お父さんに似た声の……)が乗っていたというハングライダーを作り、空から島に潜入を決意するのでした。にしても現代から本を持ち込んだとはいえ、いきなりハングライダーを作るという転生系みたいなことをするもろはよ……

 一方、朔を迎えたとわは、自分のことよりもせつなの方を心配するのですが――理玖はそんな彼女のある意味執着心に、かつての是露に通じる危険なものを感じるのでした。
 そしてそのせつなは、北国から帰る途中でしたが――今まで夢の胡蝶がいたためにある意味守られていた朔の影響をモロに受け、ただでさえ長い髪がさらに伸びた(解いただけ?)上に、顔つきや声音までいつもと違う、普通の少女らしい状態となってしまうのでした。そんな中で、自分を狙って妖怪たちが現れることを知ったせつなは、何とか翡翠たちに対処法を書き残して眠りにつくのでした(この対処法の巻物が妙に大量なのはツッコミどころか……?)

 さて、紅の爆流破まで弾き返すというある意味とんでもない力を持つ将監と満月狸を、かつてどうやって自分の両親が破ったのか、八衛門狸に聞くもろは。
 かつて弥勒とつるんでいたものの、元々は狸穴島の家老の家の出だった八衛門。その縁で、弥勒と珊瑚、そして犬夜叉とかごめは、将監の野望を阻むために島に向かうことになります。踊り子に扮したかごめと珊瑚によって昂ぶった気持ち(意味深)になった狸穴将監は本性を現して暴走することになります。幻術で美女たちを呼び出して弥勒を幻惑せんとする将監ですが、さすがに奥さん同伴で戦っている相手に効くはずもありません(といいつつ弥勒が結構動揺してるのはお約束)

 一方、八衛門とともに満月狸に挑むかごめは、八衛門に乗って目玉の死角である直上方向から天空の矢衾で攻撃、さすがのとてつもないパワーで満月狸を一発封印、満月狸は屏風と化すのでした。しかしその後、厳重に封印されていた満月狸は嵐で封印が解けてしまい、将監は復権――将監に毒殺されかかった幼い竹千代を救い出した八衛門ですが、既に犬夜叉とかごめは消息不明だったため、弥勒はやむなく屍屋の獣兵衛に竹千代を預けたのでした。
 ――と、長い過去話を聞いたもろはでしたが、結局将監の術を犬夜叉たちがどうやって破ったかは、八衛門は見ていないので謎のまま。それは竹千代の家来のタカマルを通じて弥勒か珊瑚に聞いてみることとして、とりあえずもろはは八衛門・竹千代とともに、再び出たとこ勝負で狸穴島に挑むことになります。

 そして引き続き理玖・りおんと行動を共にするとわですが、そこに現れたのは、是露が送り込んだ無数の光る蝶・夜行蝶。咄嗟にりおんを庇ったとわですが、是露の狙いはあくまでもとわ――蝶は術符に姿を変え、その力で彼女が飛ばされた先は、あの公家妖怪・七星の庭園で……


 というわけで、八衛門狸と愉快な仲間たちこと、犬夜叉一行の姿を久々に見ることができた今回。あまり目立ちすぎると娘たちを食ってしまいますが、こういう語られざる過去の冒険という形での登場は歓迎です。

 そして三元中継のうち、ようやくもろはに出番が回ってきましたが、決着はおそらく次回。せつなのエピソードは終わったかと思いきや、朔のおかげでちょっと波乱含みの展開、そしてとわの方はいよいよこれからが本番といったところで、まだまだ三人が再会する日は遠いようです。

 遠いといえば、もろはのパワーアップもまだ遠そうですが……


関連サイト
公式サイト

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『半妖の夜叉姫』 第25話「天生牙を持つということ」
『半妖の夜叉姫』 第26話「海の妖霊」
『半妖の夜叉姫』 第27話「銀鱗の呪い」
『半妖の夜叉姫』 第28話「産霊山の結界」
『半妖の夜叉姫』 第29話「りおんという名の少女」
『半妖の夜叉姫』 第30話「退治屋翡翠」
『半妖の夜叉姫』 第31話「竹千代の依頼」
『半妖の夜叉姫』 第32話「七星の小銀河」
『半妖の夜叉姫』 第33話「魔夜中の訪問者」

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2021.12.04

畠中恵『またあおう』(その二) 後を継いだ者の奮闘

 『えどさがし』に続く、『しゃばけ』シリーズの外伝集第二弾の紹介の後編であります。今回は残る二話をご紹介いたします。

「一つ足りない」
 かつて中国大陸から九千の河童を率いて海を越え、九州に上陸した九千坊河童。やがて河童の王となった彼が気にしているのは、自分の名が万から千欠けた九千であること――そのせいか常に欠落感に悩まされていた九千坊ですが、ある日それどころではない事態が起きます。

 加藤清正お気に入りの小姓を川に引きずり込んで死なせたという濡れ衣を着せられた末、猿の攻撃を受けることとなった九千坊。実はそれは河童が持つ人間に化けることができる秘薬を狙う、猿側の陰謀だったのです。
 配下では猿に敵わないと、九千の河童を連れて九州を離れ、東に向かった九千坊。しかし北条家と結んだ猿に、禰々子河童が拐われてしまったと聞かされた彼は、行きがかり上、禰々子を救いに向かうことに……

 本作の主人公となる九千坊は、禰々子同様に「実在」の――伝説にその名を残す河童であります。しかしその伝説というのが、上で触れたように、清正の小姓に手を出した挙げ句、攻められて九州から逃げ出したというあまり格好良くないものであります。
 そして本作の九千坊もまた、どこか人が良くて心配性、さらに名前へのコンプレックスも相まって、あの強烈な禰々子と出会ったらどうなるのか、心配になってしまいます。

 しかし――結末に向かうにつれて、どんどん九千坊に対する我々の印象が変わっていくのが楽しい。そして九千坊自身も、己の為すべきことを見出した末に、自分自身を肯定する境地に至るのが、また後味が良いのです。

 それにしても本作で描かれた猿の陰謀が、何気に一大伝奇ものな内容だったのも、個人的には大いに楽しかったところであります。


「かたみわけ」
 若だんなが長崎屋を継いだ、「いま」から少し先の時代――先だって広徳寺の寛朝が亡くなり、その後を継いだ弟子の秋英から、長崎屋の妖たちはある頼みごとをされることになります。それは、かつて寛朝が封じた一番強い怪異が宿った品々が、手違いで寛朝の護符から解放され、逃げ出したのを捕まえてほしいというものでした。

 若だんなが仁吉とともに商用の旅に出て、佐吉も長崎屋を守って動けない中、秋英の手伝いを引き受けた屏風のぞきや金次たち。しかしなくなった六つの品物を探す中、そのうちの一つである幽霊画が、地獄に通じる袋を持っているのを知ることになります。
 しかも新弟子の寛春を拐ってその袋にいれてしまった幽霊画。他の品物を探しつつ、寛春を救い出そうと奔走する秋英と妖たちですが……

 帯に「えっ、若だんなが長崎屋を継いだって!?」とあるように、ある意味この『またあおう』の目玉であるエピソードが本作。
 しかし、若だんな自身は商用旅で不在、作中でも皆から「若だんな」と呼ばれていることもあってほとんど未来感は薄く、「えどさがし」に比べると、イベント的な要素はかなり小さいといえます。
 もっとも、冒頭の「長崎屋あれこれ」ではあんなに元気だった寛朝が――と少々感慨深くなるのですが、そこで師匠の尻をひっぱたいていた秋英が、今度は自分が人を導く側としての重圧を味わうというのは、やはり『しゃばけ』らしい、展開といえるでしょう。

 また特筆すべきは、登場する妖たちのバラエティとパワーですが――これが鳥の根付け・猫の絵が描かれた文鎮・美人絵の掛け軸・幽霊画・ビードロの金魚そして「失せし怪異」と、あるいはこの話だけで一冊になるのでは、という強敵揃い。若だんなと兄やたち抜きで立ち向かう妖たちの奮闘ぶりも印象に残ります。
 特に本作一の強敵というべき幽霊画は、登場シーンの「おいっ……拙い、怖い、何だ、あれ」という屏風のぞきの台詞だけでもヤバさが伝わってくる怪物で、携えるのが地獄の風が吹く袋(近づくだけで異様な気配が強まっていくという描写も凄まじい)というのも恐ろしく、怖さという点ではシリーズ屈指であったかもしれません

 イベント性はともかく、内容の豊かさでは本書でも屈指の作品です。


 というわけで、外伝が冠されていても『しゃばけ』としての楽しさは変わらない本書。次の外伝集は当分先だと思いますが、そちらも楽しみに待っていようという気になるものです。


『またあおう』(畠中恵 新潮文庫) Amazon

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 『えどさがし』(その二) 旅の先に彼が探すもの

 しゃばけ
 「ぬしさまへ」 妖の在りようと人の在りようの狭間で
 「みぃつけた」 愉しく、心和む一冊
 「ねこのばば」 間口が広くて奥も深い、理想的世界
 「おまけのこ」 しゃばけというジャンル
 「うそうそ」 いつまでも訪ね求める道程
 「ちんぷんかん」 生々流転、変化の兆し
 「いっちばん」 変わらぬ世界と変わりゆく世界の間で
 「ころころろ」(その一) 若だんなの光を追いかけて
 「ころころろ」(その二) もう取り戻せない想いを追いかけて
 「ゆんでめて」 消える過去、残る未来
 「やなりいなり」 時々苦い現実の味
 「ひなこまち」 若だんなと五つの人助け
 「たぶんねこ」 若だんなと五つの約束
 『すえずえ』 若だんなと妖怪たちの行く末に
 畠中恵『なりたい』 今の自分ではない何かへ、という願い
 畠中恵『おおあたり』 嬉しくも苦い大当たりの味
 畠中恵『とるとだす』 若だんな、妙薬を求めて奔走す
 畠中恵『むすびつき』(その一) 若だんなの前世・今世・来世
 畠中恵『むすびつき』(その二) 変わるものと変わらぬものの間の願い
 畠中恵『てんげんつう』 妖より怖い人のエゴと若だんなの成長
 畠中恵『いちねんかん』(その一) 若だんな、長崎屋の主人になる!?(ただし一年間限定
 畠中恵『いちねんかん』(その二) あっという間に過ぎ去る一年間の果てに








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2021.12.03

畠中恵『またあおう』(その一) 久しぶりの「しゃばけ」外伝集登場!

 『えどさがし』以来久しぶりのしゃばけ外伝が、今回も文庫オリジナルで刊行されました。描き下ろしを含めて全五話、普段とはっちょっとだけ違う、しかしいつもと変わらないしゃばけの世界が広がります。ここでは収録作を一話ずつ紹介しましょう。

「長崎屋あれこれ」
 冒頭に収められた本作は、長崎屋に集まる妖たちや人間たち、神様たち――つまりは『しゃばけ』の世界観の紹介編といった趣の掌編。
 若だんなが暮らす離れにあった大福を通じて妖たちが語られ、若だんなの病(という誤解)を通じて仁吉と佐助の兄や達と二親のことが語られ、さらに広徳寺の寛朝と秋英のことが、さらには神様たちまでも――と、次々とキャラクターが増えていくことになります。

 内容的には長崎屋の日常風景といったところで、目立った点はありませんが(唯一、若だんなの一人称から物語が始まるのは「おっ」と思わされましたが、それも冒頭のみ)、分量は少ないながらもなかなかに賑やかなエピソードです。


「はじめての使い」
 戸塚宿の猫又たちの長・虎の命で、長崎屋にきつね膏薬を届けることになった虎の玄孫のとら次。親友のくま蔵とともに初めて江戸に行くとら次ですが、途中で路銀を盗まれてしまうのでした。
 さらに、保土ヶ谷で幅を利かせる口入れ屋・大阿部屋が猫取りをしているのを見て猫を逃し、袋叩きになってしまう二人。途中で知り合ったおかしな雲助の亀助と鶴吉に助けられたものの、今度は彼らにきつね膏薬を奪われる羽目になります。

 それでも雲助たちが大阿部屋に捕まったと知り、助けに向かう二人ですが、事態はさらに悪化することに……

 扉絵の楽しそうな旅姿の猫又二人を見ているだけで思わず顔がほころぶ本作。しかし旅先で二人が出会うのは、何とも油断のできない悪党ばかりという、なかなかにシビアな内容であります。
 そんなある種の世知辛さもさることながら、こうした悪党たちが、単純に恐ろしいだけでなく、どこか人が良かったり、実は抜けていたりと、複雑な造形なのも、いかにも「しゃばけ」らしいところです。

 そんな中で奮闘する若き猫又二人はまだまだ未熟者で、見ていて危なっかしくてしかたないのですが――そんな自分たちの姿を自覚して、自分たちにできることを探す姿には、シリーズの一つのテーマというべき「成長」の形が確かにあるといえるでしょう。


「またあおう」
 寝込んだ若だんなの代わりに、主のお供で「連」(趣味人の集い)に参加した金次と屏風のぞき。様々な品物の品評の場である連で数々の付喪神と出会った二人ですが、突然の竜巻で付喪神たちがびしょ濡れとなってしまいます。
 彼らを助けるために取りあえず長崎屋に預かることとした二人。何とか直しに成功した妖たちですが、その時、草双紙から現れた手が妖たちを掴むのでした。

 気付いてみれば、どことも知れぬ土地にいた妖たち。やがてここが草双紙の中の世界と気付く妖たちですが、しかし『桃太郎』であったはずの草双紙とは、内容が大きく異なっていて……

 表題作の本作は、若だんながダウンし、兄やたちもいない中で、お馴染みの妖たちが奮戦する物語。しかもその舞台が草双紙、しかも桃太郎の物語の中というのは、これは妖たちが主人公のエピソードならではのユニークさというほかありません。
 しかも面白いのは、桃太郎という極めてメジャーな物語ながら、妖たちが目の当たりにするその内容も登場人物も、全くそれらしくないことであります。はたして見たこともない登場人物たちは何者なのか、そして何故物語は奇妙な形に変わってしまったのか……

 その真相には驚きつつも思わずホロリとさせられるのですが、しかしこの状態をそのままにしておけないのも事実。知恵袋の若だんな不在の中、誰がどうやってこの難題を解決するのか――その意外な答えもさることながら、ラストに至りタイトルの意味が明らかになるのもグッときます。

 表題作にふさわしい快作というべきでしょうか。


 残る二作品は次回紹介いたします。


『またあおう』(畠中恵 新潮文庫) Amazon

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 しゃばけ
 「ぬしさまへ」 妖の在りようと人の在りようの狭間で
 「みぃつけた」 愉しく、心和む一冊
 「ねこのばば」 間口が広くて奥も深い、理想的世界
 「おまけのこ」 しゃばけというジャンル
 「うそうそ」 いつまでも訪ね求める道程
 「ちんぷんかん」 生々流転、変化の兆し
 「いっちばん」 変わらぬ世界と変わりゆく世界の間で
 「ころころろ」(その一) 若だんなの光を追いかけて
 「ころころろ」(その二) もう取り戻せない想いを追いかけて
 「ゆんでめて」 消える過去、残る未来
 「やなりいなり」 時々苦い現実の味
 「ひなこまち」 若だんなと五つの人助け
 「たぶんねこ」 若だんなと五つの約束
 『すえずえ』 若だんなと妖怪たちの行く末に
 畠中恵『なりたい』 今の自分ではない何かへ、という願い
 畠中恵『おおあたり』 嬉しくも苦い大当たりの味
 畠中恵『とるとだす』 若だんな、妙薬を求めて奔走す
 畠中恵『むすびつき』(その一) 若だんなの前世・今世・来世
 畠中恵『むすびつき』(その二) 変わるものと変わらぬものの間の願い
 畠中恵『てんげんつう』 妖より怖い人のエゴと若だんなの成長
 畠中恵『いちねんかん』(その一) 若だんな、長崎屋の主人になる!?(ただし一年間限定
 畠中恵『いちねんかん』(その二) あっという間に過ぎ去る一年間の果てに








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2021.12.02

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第18章の1「渡裸の渡し」 第18章の2「九つの目の老人」

 しばらく間が空いてしまいましたが、北から来た盲目の美少女修法師・百夜の活躍を描く『百夜・百鬼夜行抄』の第十八章の開幕であります。前話――通算百話記念の特別長編に登場した少女・むつの存在を軸に、百夜たちの新たな旅が始まります。

「渡裸の渡し」
 母の行いによって人間を遥かに超える力を得て、新たな八百比丘尼になる運命を背負わされたむつ。彼女を導くために津軽での修行を請け負った百夜の師・峻岳坊高星ですが、まだ子供っぽさの抜けないむつに手を焼き、百夜(と左吉)も津軽への旅に同行することになります。

 その旅が始まって間もない千住大橋で、とある船宿から加持祈祷の依頼を受けた高星と百夜。船宿のある渡羅の渡しで、舟に水を吹きかける何者かが出没――ついに姿を現したそれは、人間ほどもある巨大な鼈だったというのです。
 百夜たちに興味を持って強引に同行してきた浪人・久保田五郎右衛門とともに、渡羅の渡しに舟を出した百夜が見破ったその正体とは……

 前話の結末において、いずれは人でなくなり、神に近い存在になると語られたむつ。彼女を善導するために高星が引き取って前話は終わったのですが――この第十八章では、あっさり音を上げた高星の頼みで百夜も同行することになった旅が描かれることになります。
 単純に力だけでいえば百夜どころか高星を上回りつつも、まだ子供っぽさが抜けないむつの存在があるために、これまでのシリーズとはちょっと趣が異なる展開ですが、本作の内容自体は、オーソドックスな怪異譚であるといえます。
(もっとも、川の中から現れる人間大の鼈というのはちょっと怪獣めいた趣もあり、心がときめきますが……)

 もう一つ、おそらくはこの章のもう一人のキーパーソンになるのではないかと思われる浪人・五郎右衛門もここで登場。腕は立ち世知に長け、それでいてどこか抜けたところも感じさせる愉快なキャラクターで、物語の良いアクセントになりそうです。


「九つの目の老人」
 宇都宮宿で男どもが遊びに出かけた一方で、宿で頭に角を生やし、目のない顔を持つ白髭の老人と、その周囲を回る九つの光の玉と遭遇した百夜とむつ。
 むつはその正体をすぐに見破ったのに対し、自分が見破れぬことに苛立つ彼女は、通りすがりの旅人の言葉からあることに気付くことになります。そしてあくる晩、再び彼女たちの宿に現れたモノと、その正体とは……

 前話で述べたとおり、霊力という点では完全に百夜を上回る力を持つむつ。ほとんど未来予測に近い力まで発揮する彼女の存在は、本シリーズの探偵役として怪異の正体を暴き、物語を引っ張る百夜にとっては、まことにやりにくい存在であるといえます。
 事実、(前話でもそういう部分はありましたが)本作では完全に百夜はむつに食われた状態で、これまでの物語に親しんできた身にとっては、いささか違和感を感じないでもありません。

 もちろんそれは計算の上、百夜の複雑な心境を描くための構成ともいえますが――その果てに明かされる怪異の正体は意外性たっぷり(そしてそこにむつの存在そのものが絡んでくるのもまた心憎い)な上に、本シリーズならではの神仏の世界のロジックというべきものを感じさせてくれるものとなっていて、満足いたしました。

 それにしてもむつは、単に強力な力を持つだけではなく、それが行く先々の様々な超自然的な力を刺激し、怪異の出現に繋がるという意味でも、台風の目のような存在。その一方で、やがては人間性を失うことが予告されており、その点でも彼女のこれからが大いに気になります。
 百夜にとっては色々な意味で頭の痛い妹弟子の登場というべきですが、それは同時に、超然とした部分が多く描かれていた――もちろんそれは彼女の一面に過ぎないのですが――百夜の新たな一面を描くのでは、という期待もあります。

 しかし頭が痛いといえば、左吉も高星も五郎右衛門も、今回の男性陣は全員遊び好きでボケ属性のため、ツッコミ役の百夜はこちらでも苦労させられそうであります。


『百夜・百鬼夜行帖』(平谷美樹 小学館) 『渡裸の渡し』 Amazon/ 『九つの目の老人』 Amazon


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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第9章の1『千駄木の辻刺し』 第9章の2『鋼の呪縛』 第9章の3『重陽の童』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第9章の4『天気雨』 第9章の5『小豆洗い』 第9章の6『竜宮の使い』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第10章の1『光り物』 第10章の2『大筆小筆』 第10章の3『波』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第10章の4『瓢箪お化け』 第10章の5『駒ヶ岳の山賊』 第10章の6『首無し鬼』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第11章の1『紅い花弁』 第11章の2『桜色の勾玉』 第11章の3『駆ける童』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第11章の4『桑畑の翁』 第11章の5『異形の群(上)』 第11章の6『異形の群(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第12章の1『犬張子の夜』 第12章の2『梅一番』 第12章の3『還ってきた男(上)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第12章の4『還ってきた男(下)』 第12章の5『高野丸(上)』 第12章の6『高野丸(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第13章の1『百夜の霍乱』 第13章の2『溶けた黄金』 第13章の3『祈りの滝』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第13章の4『四十七羽の鴉』 第13章の5『錆』 第13章の6『あきらめ聖』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第14章の1『あぐろおう』 第14章の2『妖刀』 第14章の3『幽霊屋敷』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第14章の4『強請(上)』 第14章の5『強請(中)』 第14章の6『強請(下)』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第15章の1『白い影(上)』 第15章の2『白い影(中)』 第15章の3『白い影(下)』
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 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第16章の4『鐵次』 第16章の5『白木村のなみ』 第16章の6『首くくり村』
 平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 通算第100話記念特別長編『邪教の呪法』

 ファー「冬の蝶」/中村茉莉子「花桐」 バラエティに富んだ漫画版『百夜・百鬼夜行帖』

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2021.12.01

椎橋寛『岩元先輩ノ推薦』第2巻 始まる戦い、その相手は……

 一種のゴーストハンターもの+能力バトル+学園もの+軍の特殊部隊ものという非常に贅沢な取り合わせの異色作の第2巻であります。陸軍のエリート養成機関・栖鳳中学校に各地から能力者を「推薦」する岩元先輩と自後輩たち。彼らの冒険は、新たなステージに突入することに……

 栖鳳中学校で、3年生にして書記長を務める少年・岩元胡堂――学園長から寵愛を受ける彼の主たる任務は、日本各地で起きる超常現象の調査、そしてその現象の原因たる能力者の「推薦」。
 実は栖鳳中学校で岩元が率いる分隊「隔離施設」こそは、彼が推薦してきた能力者の集う場であり、世間に居る場のない能力者を保護することが彼の目的なのであります。

 そしてこの巻の冒頭で岩元が調査に赴くのは浅草六区――一見、軍務にも超常現象にも無関係に思える地での彼の調査対象は、そこで「宝石ノ女優」と呼ばれる天空橋須磨子。
 狂的ファンに顔を深く切り裂かれながらも、わずか二日後には傷一つない顔で舞台に立っていた彼女が、何らかの能力者と考えた岩元と後輩の原町と天羽は、彼女のもとに向かいます。

 しかし舞台の終わった後の彼女と会おうとしても、劇場から出た形跡は全く無いにもかかわらず彼女はいない。そして朝から晩まで楽屋に張り込んだ岩元たちの前に意外な人物が現れ……

 と、学校の設定的に能力者は男のみと勝手に思い込んでいた――というのはさておき、須磨子の顔の謎と、劇場からの消失の謎の絡み方がなかなか面白いこのエピソード。
 いささか不気味な真相が明かされる際のインパクトがなかなか強烈なのですが、その真相を受けての岩元の判断も面白く、能力者を絡めた怪奇ものという、本作らしさを感じさせる一編でした。


 そして冒頭のエピソードを除いた残り八割あまりで描かれるのは、一大能力バトル編であります。

 料亭・竜宮城にて、八十人以上もの死傷者が出たという、能力者によると思われる事件が発生。緊急指令により現場に急行した岩元と原町・天羽が見たものは、訓練された軍人たちまでもが折り重なって斃れた凄惨な状況と、体中から薔薇の花を咲かせた奇妙な犠牲者たちでした。
 と、そこで三人に襲いかかってきたのは、その薔薇の花を咲かせた犠牲者たち。中には明らかに死んでいるにもかかわらず動き、襲いかかる者たちの背後には、ある能力者の存在があったのです。しかし、その能力者も実は前座。その背後に潜む真の敵の正体は、そしてその目的と能力は……

 というわけで、いつかはこの展開になるだろうと思われた(能力)バトル編に突入したこの竜宮城編。
 もちろんこれまでも能力者の能力の前に岩元が危機に陥り、相手の能力に対して岩元が自らの能力で対抗する場面はありましたが――バトルが主体、それもそもそも岩元たちと戦うことを目的としている相手というのは、これが初めてでしょう。

 もちろんここで登場する敵の能力は(少なくとも一人目は)、怪奇色が強い、いかにも本作らしいもの。そしてその能力を用いる敵とのバトルもまた本作らしいものであることは間違いありません。
 ただ本作のこれまでのパターンである、超常現象の種明かしがそのまま能力者との対峙に繋がっていくという展開が魅力的であっただけに、いささか勿体なく感じたのは事実であります。

 また、能力バトルという言葉のイメージに比べると、結構力押しに近い直球勝負が多いバトル内容も、個人的にはちょっと苦手な展開ではありました。
(直球といえば、真の敵の名もちょっとさすがに……)


 とはいえ、先に述べたように、能力バトル自体主体の展開は、いつかは必ず突入するだろうと思われたものではあります。

 そしてこの新たな「敵」(この巻のラストで明かされたその正体には、なるほど学園で一種の能力者だ、と大受けしました)と、これまで作中に登場した、あるいは登場するであろう岩元の仲間たちとのトーナメントバトルが展開するのだとしたら――それはそれで、もちろん大歓迎であります。

 X-MENかと思いきや、まさか○○○・○○○○だったとは――と、驚きつつ、この先の展開に期待が膨らむのです。


『岩元先輩ノ推薦』第2巻(椎橋寛 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon

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