入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2021.10.17

『半妖の夜叉姫』 第27話「銀鱗の呪い」

 十四年前、りんの前に現れた是露がかけた銀鱗の呪い。全身に広がっていく銀の鱗の進行を止めるため、りんは時代樹に封印され、さらに夢の胡蝶によってせつなの夢と眠りを与えられていたのだった。一方、とわたちは朴仙翁のもとに向かい、吸妖魂の根の在り処を尋ねるが……

 吸妖魂の根を探す夜叉姫三人の姿が描かれる今回、しかしそれ以上に印象に残るのは、やはり現在のりんの姿にまつわる真実(そしてそれに伴う様々な謎の解明)であります。

 十四年前、犬夜叉と殺生丸が妖霊星の破片を破壊していた頃――地上で無事を祈るりんの前に現れた是露。麒麟丸を滅ぼすと予言された半妖の子、そして妖怪と結ばれた人間を憎む是露によって、りんは銀鱗の呪いなるものをかけられてしまったのであります。
 首筋についた一片の鱗がやがて全身に広がっていき、見るも無惨な姿に変わって死に至る――この呪いから解放されたければ半妖の娘たちの居場所を教えろという是露に対して、平然と自らの命を捨てようとするりん。あわやというところに殺生丸が帰ってきたことで最悪の事態は免れたものの、是露がりんと「縁」を繋がれたことで、是露を殺して呪いを解くこともできない――是露が立ち去るのを見ていることしかできない殺生丸ですが、邪見の提案で、呪いの進行を止めるため、時代樹にりんを封印するのでした。

 ところがそれだけで終わらず、その中でも進行していく呪い。夢の胡蝶によって近親者から夢と眠りを与えればよい――という時代樹の精霊の助言により、邪見はせつなに夢の胡蝶のさなぎをつけ(とわは現代に飛んでしまったので)、そのおかげでせつなは眠らなければ夢も見なくなってしまったのであります。
 さらに、麒麟丸側についたと見せかけて、是露を倒しかねない犬夜叉(とかごめ)を黒真珠の中に封印した殺生丸――というわけで、ここに第一期で謎となっていた部分の多くが明かされたことになります。

 その一方で夜叉姫たちは、相変わらずせつな以外は騙されたり鈍感だったりと、どうにも不安な状況。そのせつなも、まだまだ所縁の断ち切りを使いこなすことができず、見るからに雑魚妖怪にも手間取る始末――と思いきや、その妖怪は虹色真珠の一つを宿していたのですが、それを横から現れた理玖は一撃で倒し、真珠を回収していきます。
 結局、理玖に教えられたとおりに朴仙翁に会えた三人は、もろはの最強技であるところの話術でまんまと朴仙翁から吸妖魂の根の在処が、産霊山であることを聞き出すのですが――そこは奇しくも夢の胡蝶が生息しているという山。以前からとわが探しながらも、何となく有耶無耶になっていましたが、ここでついに三人は山に向かうことになります。しかし山は見るからに異様な気配を漂わせて……

 そして理玖の働きもあって、あっさり虹色真珠を全て回収した是露ですが、既に真珠にはこれまでの持ち主の記憶が蓄積されている状態。しかももろはが紅差しに入れていたことで、天敵に等しい犬の大将の妻・十六夜の記憶まで入っていたのは皮肉というほかありません。
 一方、是露に相変わらず献身的に仕える理玖ですが、今回是露が語ったその正体は、かつて犬の大将に折られた角から作られた麒麟丸の分身。それゆえ理玖が見たものは麒麟丸に筒抜けになると、理玖は是露から追い払われてしまうのでした。姐さんから捨てられ、もはや理玖にはとわにつきまとうしか途はないのか?(まあ、今までとあまり変わってない気もしますが)


 というわけで、ほとんど謎の在庫一掃状態だった今回。しかし第一期同様、主人公たちはその真実を知らず、視聴者のみ知らされるという構成はいかがなものか……
 それはともかく、殺りん勢にとっては絶許対象となった是露。彼女がどうにかなれば、本作の大抵の問題は解決する気がしますが――何となく虹色真珠の中の十六夜の記憶が事態打開の鍵になる気もいたします。
(そして邪見も、真実が明らかになったらとわに殴られても文句は言えないと思う)


関連サイト
公式サイト

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『半妖の夜叉姫』 第13話「戦国おいしい法師」
『半妖の夜叉姫』 第14話「森を焼いた黒幕」
『半妖の夜叉姫』 第15話「月蝕、運命の惜別」
『半妖の夜叉姫』 第16話「もろはの刃」
『半妖の夜叉姫』 第17話「二凶の罠」
『半妖の夜叉姫』 第18話「殺生丸と麒麟丸」
『半妖の夜叉姫』 第19話「愛矢姫の紅夜叉退治」
『半妖の夜叉姫』 第20話「半妖の隠れ里」
『半妖の夜叉姫』 第21話「虹色真珠の秘密」
『半妖の夜叉姫』 第22話「奪われた封印」
『半妖の夜叉姫』 第23話「三姫の逆襲」
『半妖の夜叉姫』 第24話「殺生丸の娘であるということ」
『半妖の夜叉姫』 第25話「天生牙を持つということ」
『半妖の夜叉姫』 第26話「海の妖霊」

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2021.10.16

三好昌子『むじな屋語蔵 世迷い蝶次』 秘密の記憶 預けるか、背負うか?

 デビュー以来、京を舞台に伝奇色・ファンタジー色の濃いユニークな作品を発表してきた作者が描く、人の秘密を預かる不思議な質屋「むじな屋」を巡る物語であります。ふとした出来事からむじな屋に関わることになった青年・蝶次が知った店の真実とは……

 大店の妾腹の子として生まれ、父親に引き取られながらも道を誤って勘当――その後庭師「駒屋」に弟子入りするもうまくいかず、今は奉行所同心の手先を務める青年・蝶次。そんなある日、久々に駒屋の親方に呼び出された彼は、思わぬ頼みごとをされることになります。
 かつて駒屋が手入れをしていたものの、様々な行き違いから縁が切れてしまったさる大店の寮。そこに暮らしていた先代の主の妻が亡くなったために寮を売りに出そうとしたところ、母と住んでいた主の妹・千寿が、家から離れたくないと言っているというのです。

 事情を探るために寮を訪れた蝶次が千寿から聞いたのは、実は母の秘密と引き換えに、この寮の庭が質屋「夢尽無(むじな)屋」の抵当になっているという奇妙な事実でした。
 訪れた家には死人が出る「閻魔の使い女」と評判の主人・お理久が、化野で営む夢尽無屋。あまりに理不尽に思われる取り引きの内容に、義憤に駆られて夢尽無屋を訪れた蝶次が見たものは……

 そんなあらすじだけを見ると、いかにも(ちょっとだけ変わった)人情もののようにも思われる本作。しかし物語はここからさらに奇妙な姿を見せていくこととなります。

 化野念仏寺からさらに奧の山中にある夢尽無屋で蝶次が出会ったのは、常人の目には映らない奇妙な老婆と美しい公家の若君。そして若君が守るという倉の中に並ぶ壺の一つに触れ、割ってしまった蝶次ですが――そこには夢尽無屋が集めた人の記憶が入れられていたというのです。

 実は預かり賃と引き換えに、他人の秘密の記憶を預かり、壺にしまっているという夢尽無屋。そして預かり賃が反故にされるか、壺が割られると、その秘密は預け主の最も身近な人物に届けられるというのです。
 割ってしまった壺と引き換えに、お理久に使われることとなった蝶次は、そこで様々な怪異と秘密を目にすることに……


 そんなわけで、本作は「奇妙な商人もの」とでも言いましょうか、奇妙な対価やルールで、通常ではありえないような効果を持つモノを売る――そんな商人を題材とした物語
 そこで扱われるモノは秘密――さらにいえば記憶であり、その忘却であります。そしてその秘密とはなんなのか、何故それを忘れようとしたのか(さらに何故その質草なのか)、それを、蝶次は追っていくことになります。

 この辺りの謎解きの面白さはまさに作者にとって自家薬籠中のもの。デビュー作以来、物語を構成する大きな要素として、必ずといってよいほど「秘密」や「謎」が存在するのが作者の作品ですが――一見理不尽に見えた事柄の数々が、本作ならではのロジックで結びつき、一つの「理」として立ち上がる様は、快感ですらあります。

 しかし本作のさらにユニークで、そして魅力的な点は、夢尽無屋に頼る人々、頼らざるを得ない人々の存在を描くのと同時に、あえて背を向け、自らの記憶を背負って生きる人々を描くことであります。

 確かに、夢尽無屋に辛い記憶を預けることで救われる人々はいる。しかしそれだけが答えなのか。それだけが正しいのか――? たとえ辛く愚かにすら見える途であったとしても、それを選ぶ人々の存在は、本作のような設定の物語だからこそ、ある種の輝きを持って感じられるのです。


 ――そしてそんな人々の生き方は、やがて蝶次自身の物語にも繋がっていくことになります。
 夢尽無屋で働くうちに、この店と自分に様々な繋がりがあったことに気づく蝶次。そしてその繋がりの陰の意外な真実を知ることによって、これまで自分自身の居場所を、生き方を見つけることができなかった――この世に迷いながら生きてきた彼にも、一つの変化が生まれることになります。

 それが純粋に彼自身の幸せ――安心・安逸と言い換えてもよいかも知れませんが――に繋がるのか、それはわかりません。しかし、あえて自分の記憶を背負い、言い換えれば自分が自分であることを受け止めて生きることは、それだけで価値あることであると――本作は教えてくれるのです。

 作者ならではの趣向で描いた人間模様、人間賛歌というべき物語であります。


『むじな屋語蔵 世迷い蝶次』(三好昌子 祥伝社文庫) Amazon

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2021.10.15

『MARS RED』 第12話「道化の王」

 数を増すヴァンパイアに対抗できる唯一の戦力である金剛鉄兵の指揮官として増長するルーファス。次はアメリカに向かおうとするルーファスだが、その前にデフロットが現れ、一転恐怖に震えるのだった。そしてタケウチたちが東京を脱出しようとする中、秀太郎はただ一人、前田を迎え撃つ……

 帝都に雪が降る中も活動を続けるヴァンパイアの群れと対峙する陸軍。しかし軍でもヴァンパイアの前には及ばず、ただこれを制する力を持つのは金剛鉄兵のみであります(しかし、ヴァンパイアとはいえ自国民に普通に銃を向ける軍隊……)。東京の中心部以上の意味を持つ丸の内防衛まで任され、隊長であるルーファスは得意絶頂。月島の地下に幽閉した中島元中将の前に現れ、老害呼ばわりして自決用の拳銃を置いていくくらいの調子に乗りっぷりであります。
 そして各地のヴァンパイアを始末したルーファスは、仕上げとばかりに千本鳥居の天満屋を襲撃。火炎放射器で豪快に焼き尽くすのですが――その手引きをしたのは、前回意味ありげな行動を取っていた彩芽であります。どうやら最初からルーファスの下にいたらしく、綺麗な衣装で彼に付き従っていますが、そのルーファスは、成り上がった後はさっさと日本を捨て、今度は新大陸で一旗揚げようと船の手配までしていたのでした。

 が、ルーファスの行動など、天満屋や零機関残党にとっては完全に予想の範囲内。千本鳥居は囮だったのさ! と言わんばかりに既に避難民は浅草に移動済み。スワによれば彩芽がスパイであることは完全にバレていたようですので、その辺りも織り込んでの作戦だったのは間違いありません。今回冒頭から、東京の地図上で、ヴァンパイアや金剛鉄兵が行動する地点にみかんが置かれる場面が描かれていたのですが――これは実は天満屋に避難してきた子供のヴァンパイアたちの行動。ちょっとわかりにくかったのですが、おそらくヴァンパイアとしては最低ランクに近い彼らならではの感覚で、ヴァンパイアを察知した地点をチェックしていたのでしょう。
 何はともあれ、いよいよ東京を離れて地方に避難しようというタケウチたちですが、スワはこれまで彩芽を泳がせておいた責任を取ると、ここで別れを告げることになります。さして名残惜しげな顔もせず、サバサバと見送るタケウチですが、これはこれで彼ららしい別れ方というべきでしょうか。

 そして前回ラスト、どうなることかと思いきや無事に助かっていた葵は、天満屋での手伝いに充実感を感じている様子。やはり助かっていた秀太郎と、ようやく幼馴染らしい――しかし内容は血を飲む飲まないだったり、吸血鬼らしいところを見せてほしいだったりなのですが――会話を見せます。しかしそんな微笑ましい会話もつかの間、彼女の前からフッと消える秀太郎。若旦那から、秀太郎たちが去ってしまうことを聞いた葵は、必死に秀太郎を追いかけることに……

 そしておそらくは米国大使主催のパーティーに参加して、そこでも調子に乗っていたルーファスですが、その会場でサロメを演じる影が。演じる声は岬のものながら、その姿は――デフロット。前回完全に殺したと思い込んでいたルーファスは、ビビりまくった挙げ句、相手の影に怯えてほとんど浮浪者のような状態で町中を転がりまくるはめに……
 もはやあまりの醜態に笑うしかないのですが、東京駅前に逃げてきた彼の前に現れたのは秀太郎。「やっと見つけましたよ」の言葉に、ついに年貢の納め時かと思いきや、続く秀太郎の言葉は「そこの民間人の方、逃げてください」――そう、秀太郎が戦おうとしていたのはルーファスなどではなく、そこに現れた前田だったのであります。

 もはや誰にも相手にされずプライドもズタボロなルーファスは、何とかアメリカに向かう船に乗り込みますが、そこで彼を応対した客室係はデフロットの変身。かくて彼が案内されたのは客室ではなく船の乗船口――そのまま海に転落したルーファスは、そのまま浮かび上がってくることはなかったのでした。
 一方、船室の彩芽の前に現れたのはスワ。投げやりに殺せという言葉を放ちつつも、自らの手を日光に当ててみせるスワに驚いて止める彩芽ですが――スワはそんな彼女にまだ生きたいという気持ちがあることを指摘するのでした。ルーファスに作られた自分には汚れた血が流れているという彩芽に対して、スワは自分も同様だが、オレたちは血で生きてるんじゃねえ、心で生きてるんだと殺し文句。彩芽が一人で生きられないのであれば自分がついていてやると語るのでした。


 ラスト前ということで、作画も演出もかなり向上していた今回。ルーファスのあまりの調子に乗りっぷりから転落は容易に予想できたものの、まさかデフロットをあれで葬った気になっていたとは――天満屋放火の時ともども、確認しようという気が待ったくないのに驚かされます。ある意味、中島とは似たもの同士だったというべきでしょうか。
 そしてスワまさかの女の子と旅立ちエンドにも仰天でありました。


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2021.10.14

『弁慶外伝』 鎌倉伝奇RPG! しかし色々な意味で古典……

 実に今から32年前、PCエンジン用ソフトとして発売された時代伝奇RPGであります。鎌倉時代を舞台に、奇しき因縁を背負った少年・鬼若が、かの弁慶らと共に繰り広げる戦いを描いた本作を、今に至りようやくクリアいたしましたので、今回ご紹介いたします。

 おそらくは鎌倉時代の初期、房総のとある寺で都の僧・法眼に育てられていた少年・鬼若(きじゃく)。何者かに拐われた幼馴染の少女・おコトを救出した彼は、それをきっかけに、自らの出生に秘められているという謎を解くための旅に出ることになります。
 やがて金屋吉次郎こと金売吉次の縁で、衣川の戦を密かに生き延びた伊勢三郎(実はおコトの父)を仲間に加えた鬼若。魔界の侵略が始まったことを知った鬼若は、出羽の法術師・沙夜香、結界の中で眠りについていた弁慶をも仲間に加え、諸国に向かうのでした。

 そして旅の中で、自分の両親の正体を知る鬼若。その後も都から奪われた三種の神器の行方を追って東奔西走、さらには義経の姿が現れたという蝦夷の地に渡り――ついに決戦の地・裏鎌倉に乗り込んだ鬼若たちの前に現れた真の敵とは……


 冒頭に述べたように、今から32年前の1989年(平成元年!)に発売された本作。当時は和風ファンタジーというべき作品はそれなりにありましたが、正史を(一応)背景とした作品はまだ珍しかった印象があります(ちなみに和風ファンタジーの雄・『天外魔境』第1作は同年の発売)。

 ゲームシステム的には当時から見ても非常にオーソドックスな4人パーティー形式のRPGである本作――今の目で見ると当然ながら古さは否めないのですが、それはもちろん言うだけ野暮というものでしょう。当時としては珍しい漢字を用いた画面はなかなか見やすく印象的です。

 さて、ストーリーの方は、上に述べたのがある意味全てというか、かなりシンプルで、ほぼ一本道の、お使いの連続で展開していく内容――というのはこれまた時代を考えれば仕方がないとして、ある意味お約束の物語を日本の舞台設定に当てはめたものといえます。
 主人公の両親があの二人であるとか、ラスボスが――正確にはその裏に真のラスボスがいるのですが――あの人物というのは、これはもう設定的には定番中の定番ですぐ予想がつくのはちょっと残念なところではありますが……(この数年後に発売されたスーパーファミコンの『鬼神降臨伝ONI』とかなり被る)。

 もっともその一方で、常陸坊海尊の扱いや、蝦夷地を異国から来た魔法使いたちが治めているなどユニークな部分があるのは評価できます。


 そんなわけでストーリー的にはそれなりに楽しめたのですが――ゲームとして大きな減点ポイントなのは、その異常なまでのエンカウント率。もちろん運はあるものの、ひどい時は数歩歩いただけで敵が出現。
 さらに、フィールドではエンカウントを封じる術があるものの、ダンジョンでは使えず、ストレスは溜まるばかり(またこのダンジョンの階段が実質ワープポイント並みの滅茶苦茶な繋がり方なので迷いまくる)。

 本作を今頃になってプレイした理由の一つが、最近の色々とリッチなゲームは疲れるので、イベントは少しで、ひたすら戦うゲームがしたいと思ってのことだったのですが――まさかこういう形で叶うとは。

 さらに睡眠と毒以外のデバフ・バフ系の術はそのターンしか効果がないという、ちょっとどうかしているとしか思えない仕様もあったりして――この頃よくあった、プレイアビリティの低さが難易度の高さになっているゲームとなってしまっているのは、やはり残念というほかありません。

 私は今回このゲームを、PlayStation VitaのPCエンジンアーカイブスでプレイしたのですが、携帯機のどこでもセーブ機能がなければとてもクリアできなかったのは間違いないかと思います。
 そんなわけで、物語的にはそれなりに面白いものの、やはり今プレイするにはよほどのことがないと――というのが、今回最後までプレイして確認できたことでありました。

 ちなみに本作、スーパーファミコンで元寇の頃を舞台とした続編『弁慶外伝 沙の章』が発売されており、こちらはなかなかよくできているようなので、いずれプレイしたいと思います。


 ちなみに本作、作中で三年前に義経が蝦夷に現れたという言及があるので、その辺りの年代の物語なのでしょう。
 鬼若の年齢がちょっとややこしいのですが、鬼若は常人より成長速度が早いという設定があるので……


『弁慶外伝』(サンソフト PCエンジンアーカイブス)

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2021.10.13

「本の雑誌」11月号で「宮本昌孝の十冊」を担当しました

 「本の雑誌」2021年11月号で、読み物作家ガイド「宮本昌孝の十冊」を担当しました。宮本昌孝の作品から十冊、おすすめの作品を解説付きで紹介させていただいています。

 この読み物作家ガイド「作家の十冊」は「本の雑誌」に毎月掲載されているコーナー。「この作家が気になるけど、たくさん作品があって何から読めばいいのかわからない」という声にこたえる作家ガイドとして、様々な執筆者が毎月一人の国内作家を取り上げ、その作家の代表作・おすすめの作品十冊を紹介するという趣向であります。
 2011年にスタートしたこのコーナーで紹介された作家はこれまで122名、そのうち100名分は、これまで「この作家この10冊」「この作家この10冊2」のタイトルで2冊(それぞれ50名ずつ収録)出版されております。

 さて、今回ありがたいことにこのコーナーで執筆してみないかというお声掛けをいただいたわけですが――宮本昌孝といえば、もちろん希有壮大かつ綿密な歴史描写と、濃厚な物語性、というか伝奇性を兼ね備えた大作(分厚い単行本で全2巻(文庫版は全3巻)!)を次々と発表してきた作家。そして颯爽とした好漢たちを描いてきた作家であります。

 身も蓋もないことを言ってしまえば全作品面白いのですが、その中からどのように十冊を絞るか――そしてその紹介をどうやって規定量に収めるか。ファンとしては実にやりがいがあると同時に、非常に悩ましい経験をさせていただきました。
(特に後者、書きたいことが多すぎて気付けば大量に枚数オーバー……)

 その結果、はたしてどの十冊を選んだのか? それはもちろん本誌を読んでいただくとして、作者の経歴を俯瞰しつつ、可能な限りバラエティを持たせて、そしてもちろんどれも面白く――と、我ながら充実のチョイスとなりました。
 宮本昌孝ファンの方はもちろんのこと、これまで何冊か読んだことのある方、そしてもちろんこれから宮本作品に触れる方まで、参考にしていただければ、これに勝る喜びはありません。


「本の雑誌」2021年11月号(本の雑誌社) Amazon

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2021.10.12

『鬼滅の刃 無限列車編』 第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」

 無限列車の周辺で続発する行方不明者の調査に向かった炎柱・煉獄杏寿郎。無限列車が整備中の工場を訪れた煉獄は、そこで整備士を襲う鬼と遭遇、これを撃退するが、次に鬼は先に煉獄が会っていた弁当売りの老婆と孫娘を狙うのだった。超高速で移動する鬼に対し、煉獄は……

 昨年超ヒットした『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が、全7話のTVアニメに再編集される――それも第1話はアニメオリジナルの煉獄主役編と聞いた時、本当に正直なことを言ってしまえば、今更という印象がありました。
 しかしいざ放送された第1話を見てみれば、これがなかなか出来が良い補完エピソードだったのに驚かされました。それも補完しているのは物語の内容だけでなく……


 開幕早々、蕎麦屋でおろしそばを手繰り、「うまい!」を炸裂させる煉獄。近頃40人以上もの人々が行方不明になっている無限列車の調査に来た煉獄ですが、沿線では切り裂き魔の被害も出て、前夜も彼らは出動したばかりの様子です。
 そんな物騒な状況に加えて無限列車の運行も止まり、客も減って景気が悪いという店の親爺。しかし煉獄の豪快な食べっぷりには気を良くしてお代わりの時にかきあげをサービス――そばともども妙に作画が良い、飯テロ展開であります。

 さて、そこにやってきた隊士から最新の状況を聞き、まずは調査のため駅に向かった煉獄。そこでも事件の余波で周囲が店を閉めている中、煉獄は唯一開けていた弁当屋の老婆・トミと、手伝う孫娘のふくと出会うのでした。
 そこでド直球に鬼について尋ねる煉獄にふくはドン引きですが(一方トミは意味ありげな態度を……)、この騒動で弁当が売れなくなっていると聞いた煉獄は全部お買い上げ。隊士たちのおみやげに持たせると同時に、自分は無限列車が整備されている工場に、役所からの差し入れと称して潜入するクレバーなところをみせることになります。

 さて工場に入ってほとんどを情報を集める間もなく早速起きる騒動。何と若い整備士が、鬼に捕まっているではありませんか。スピード自慢を自称する鬼は、整備士を人質にとって得意顔ですが、もちろん煉獄はそれをものともせず、あっさりその腕を切って人質を救出。しかし逆恨みした鬼は、煉獄と出会った弁当屋を殺すと宣言、猛スピードで駅に向かうのでした。
 そうとも知らず、早朝に弁当を運んでやってきたトミとふくに襲いかかり、ふくを捕らえる鬼。しかしそこに駆けつけた煉獄がふくを救出! 一体どうやってと驚く鬼ですが、柱に不可能はありません。もちろん鬼の悪あがきなど及ぶはずもなく、煉獄の炎の呼吸 壱ノ型 不知火が鬼の頸を断つのでした。

 そんな煉獄の姿に、再び助けてくれたと歓喜の涙を流すトミ。そう、彼女は20年前にも、燃える炎のような髪の剣士によって、鬼から救われていたのです。そして煉獄は、それは自分の父であると語るのでした。
 そして煉獄のもとに入る無限列車運行再開の知らせ――倒した切り裂き魔の鬼がとても40人以上の人を食ったとは思えないと考える煉獄は、無限列車に乗ることを決意します。そんな彼を見送るトメとふくの「近くに来たらまた寄ってください」という言葉に、「あなたがたのことは父に必ず伝えます。喜ぶことでしょう』「ではお元気で! また会いましょう」と返して無限列車に乗り込む煉獄。二人から買った大量の牛鍋弁当を手に……


 というわけで、原作の頃から気になっていた、あれだけ行方不明者が出れば普通は運行停止になるのでは? という疑問や、(これは言われてみれば――というレベルですが)うまいうまい食べていたあの弁当はどこから、という点に答え、快男児・煉獄杏寿郎の活躍をたっぷり見せた上に、彼の父のありし日の姿まで語ってみせた今回。
 ラストに交わされる何気ない会話が、グッと胸に刺さる構成も見事であります。

 それにしても今回、冒頭に述べたとおり補完エピソードとして実によくできていたと感心しましたが、それと同時に驚かされたのは、作中の幾つかの描写でした。
 鬼が引き起こした騒動のあおりで店に客が入らなくなった人々や、鬼に襲われて心身に後々まで残る深い傷を追った人々、そして鬼に襲われた人々の下に駆けつけ、これを救おうとする鬼殺隊士――これらの姿が、何を指すかは明らかでしょう。

 昨年、劇場版を観た際にも、ある意味理不尽な物語と、そんな中でも全力を尽くして人を救う煉獄(そしてそんな彼のことを涙ながらに肯定する炭治郎の)姿に、これは「今(求められているもの)」を描いた物語であると感じました。
 その想いは、このTV版第1話で描かれたものを観て、より一層強くなった次第です。


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