入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2021.09.23

『長安二十四時』 第12話「未の刻 裏切りの予兆」

 聞染の香を頼りに彼女の跡を追う張小敬と崔器。その頃、新たに二人の狼衛を仲間に引き入れた龍波たちは、いよいよアジトを発とうとしていた。曹破延らが時間稼ぎのために残ったアジトに近づく小敬だが、その頃嫉妬に燃える魚腸は聞染を殺そうとしていた……

 冒頭で描かれるのは記録坊の史書で狼衛のことを調べていた李必が、探していた部分が破られていたことから徐賓の仕業と疑い、彼を拘束、記録坊の鍵を没収する一幕。さすがに過剰反応では? という気もしますが……

 一方、犬を利用して聞染(の香)を追っていた張小敬と崔器は、犬の鼻が回復するのを待ちながら、しばしダベることになります(「ミントよこせよ」「しょうがねえなあ」的な男臭いやりとりが実にいい)。そこで明らかになるのは、崔器の人となり――長安を初めて訪れた時、兄に三日三晩、街を案内されて様々な人間と出会った。俺は王族や貴族ではなく、そんな市井の人々を守りたい……
 そのために出世しなくては、という目標はともかく、地方軍に参加していたという経歴を含めて、この男、実は小敬とあまり変わらない志を持っているのでは!? と驚かされたこのくだり。これまでニヤニヤクチャクチャしてばかりの男と思っていましたが、わずかな時間でキャラの印象をガラリと変えてくる巧みな演出に感心です。

 そしてその頃、昌明坊の龍波のアジトにやってきたのは、右刹の使者だという二人の狼衛――マガル曰く戦神と恐れられるルーダーとルイゴ。つまり右刹の側近、最強の戦士ということか!? という期待は、しかし次の瞬間二人が魚腸に叩きのめされて土下座というギャグのような展開で、マガルたちの尊敬の念もろとも粉砕されます。さっそく殺しにかかる魚腸を止めて、二人を説得して仲間に加えた龍波は、いよいよ真・チェラホトに向けてアジトを出発しますが――足がつかないようにアジトを破壊するために後に残ったのは曹破延たち。当然というべきか、生還確率は極めて低いミッションですが……

 一方、檀棋が告げた小敬の言葉に対し、そのとおり聞染(実は王ウン秀)の解放を命じる永王。母の位牌の前で小敬の縁者には手を出さないと誓ったと、たぶん中国では最高レベルの約束をしたとのことですが(どれだけ小敬が怖かったの永王……)、それに不満顔の封大倫に対して、小敬本人については、大理寺の評事に命じて囚人の引き渡しを求める公文書を書かせろ永王は命じます。そして王ウン秀も、大理寺に引き渡されることに……

 大理寺といえばかのディー判事もいたところですが、ここで白羽の矢を立てられた男・元載は――何というか、とてもふくよかな女性たちを集めておしくらまんじゅう状態にして、その中で暖を取るというインパクト満面のビジュアルで登場。何かそういう特殊な趣味がある方なのかと思いきや、単純にボロ屋で寒いので暖房代わりの様子です。
 しかしその支払いをケチるというセコさ――というより貧乏ぶりのようですが、本人はその才能を自負しているらしく、いい屋敷に住みたいとか、お偉いさんの娘と結婚したいとかブツブツ言っております。この辺り、史実を知っていると大いに笑えるのですが――召使らしいこれまたコロコロした少女とのやりとりも愉快な元載。しかし立ち位置的には敵に回りそうなのが不安です。

 そんな動きも知らず、ようやく昌明坊に近づいた小敬と崔器ですが、この辺りに軍の望楼はなく、空き屋敷が多いと、如何にも潜伏には適した地域なのを知った小敬は、崔器に援軍を連れてくるように命じます。その報は李必にも伝わりますが、その時彼は姚汝能と靖安司に潜むらしい内通者の存在について話している最中。冒頭の徐賓への処置は、内通者のあぶり出しのためだそうですが、どう考えても目の前の人が怪しい……
 そして犬を連れてただ一人先に進む小敬の前に立ち塞がったのは、賈十七なる浮浪者をリーダーとした三人組――ですが言うまでもなく小敬はこれを瞬殺。曹破延に雇われたこいつらはどう考えても時間稼ぎにしか思えませんが、その頃大事件が発生します。

 龍波と距離が近い(ように見た)聞染に対して魚腸の殺意が爆発、辛うじてマガルがこれを止めたものの、今度はマガルに殺させようする魚腸。女子供は殺さないというマガルは、聞染に井戸に飛び込めと命じ、彼女はやむなく従うのですが――水落ちは生存フラグとはいえ、魚腸の暴走ぶりをどうすべきか。
 いずれ彼女についても、そのキャラが深掘りされると思いますが――最初は龍波に利用される哀れな女性かと思われたのが、今ではむしろ龍波のストーカー状態で、全く感情移入できないのが正直なところです。


 というわけで、全体の1/4に達したものの、まだまだ先は見えない状況の今回。冷静に考えると今回は大きな動きはなかったものの、様々な場所で並行して事態が進行するため、全く停滞している感はありません。しかし、そろそろ色々な意味で大爆発しそうですが……


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『長安二十四時』 第3話「午の正刻 遺された暗号」
『長安二十四時』 第4話「午の刻 窮地の靖安司」
『長安二十四時』 第5話「午の刻 人脈を持つ男」
『長安二十四時』 第6話「午の刻 地下都市の住人」
『長安二十四時』 第7話「未の初刻 信望の結末」
『長安二十四時』 第8話「未の初刻 小敬の過去」
『長安二十四時』 第9話「未の正刻 誰がために」
『長安二十四時』 第10話「未の刻 重なる面影」
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2021.09.22

さいとうちほ『輝夜伝』第8巻 地上に残る天女!? 天女を巡る男たちの奮闘

 比叡山での月に帰らなかった天女との出会い、そして天女の昇天と、前巻において物語の核心に迫る展開が描かれた本作。ついに月に帰らないで済む方法を知った天女たちの選択は、そして彼女たちを前にした男たちの選択は――意外な展開が続きます。

 葛城の里で自らの過去を知ったものの、治天の君の配下となった大神に最愛の兄・竹速(梟)を殺された月詠。辛うじて竹速は復活したものの人事不省の状態の中、月詠は帝の使者として向かった比叡山で、地上に残った天女と出会うことになります。
 地上で子を成した天女は天に帰らないですむ――すまわち昇天しないですむ。その事実を知ったかぐやと月詠ですが……

 と、思わぬ形で、ある意味少女漫画的な展開となってきた本作。なるほど、いわゆる天女伝説においては、地上の男と子を成した天女は天に帰れなくなるというのが定番ですが――と納得する一方で、しかしそれをおいそれと実行に移せるわけでもないのも、また事実であります。
もっとも、かぐやと帝の間には少なくとも障害はないように思えますが、やはり、こう気持ちというか覚悟というものが……

 しかしさらにややこしいのは、言うまでもなく月詠の方であります。彼女が恋うる竹速は今なお半死半生の状態。そして二人に複雑極まりない想いを抱く大神は、今なお形の上は治天の君の配下、そしてかつての親友である凄王は彼と敵対する月詠サイドにあるのですから。

 そして天女と聞いたら黙ってはいられないのが治天の君。天女の像を作らせようと、仏師である比叡山の双子の天女の子孫を召し出した治天の君は、像のモデルに月詠を使い、かつて自分が愛した天女の残した服や装飾品を身に着けさせて……


 月詠とかぐや、二人の天女が中心となる物語だけに、どうしても彼女たちに振り回される形となってしまう本作の男性陣。しかしこの巻ではむしろ、後述のように月詠が身動きが取れない状況ということもあり、彼らの奮闘ぶりが印象に残ります。

 その中でも特に目立つのは、やはり大神でしょうか。月詠を恋するあまり敵対する立場となり、竹速の仇という立場となった大神ですが――しかし今回、竹速が凄王のもとで匿れた後も彼に迫る治天の手の者に対し、成り行きとはいえ思わぬ行動を取ってしまうのですから。

 思えば月詠の前に竹速が現れる前は、真っ直ぐな態度で月詠に接していた大神。それが彼の元々の姿だとすれば、恋に迷った今の姿を何と評すべきでしょうか。その点、物慣れた凄王の態度が、ある意味救いと言えるのかもしれませんが……
(月詠から「口止め料」を払われてかえってダメージを受けるのが、もう何というか……)

 そしてもう一人印象に残るのは(意外にもというべきか)治天の君であります。本作における最大の悪役として、ひたすら天女たちに執着する姿が描かれてきた治天ですが――その様々な欲望に塗れた姿は、ある意味、男性というものの悪しき側面の象徴のようにすら思えます。
 しかし先に述べたように、彼がかつて愛した天女の衣をまとった月詠に対して向ける眼差しは、普段の彼の傲岸な態度から予想もつかぬような、真摯で、優しさとどこか哀しみに満ちたものだったのですから……

 考えてみれば天女に去られた帝である治天の君は、ある意味「竹取物語」の帝のその後の姿――すなわち本作における帝のあり得るかもしれない未来の姿といえるのかもしれません。
 そんな彼の姿から、天女に惹かれた者の哀しみが感じられるのは、むしろ当然というべきでしょうか。
(ここで胸に刺さる、凄王の「天女に…のめり込むもんじゃあないな」という言葉……)

 そしてまたここで明らかになった、月詠の母が手にしていた数珠の持ち主との思わぬ因縁も、大いに気になるところですが……


 といいつつ、月詠にかつての天女の姿を見た末、我が物としようとして拒まれれば監禁、ひたすらしつこく迫るのが、やはり治天という男。
 そんな月詠の危機に対して、これまでそれぞれの形で彼女を守ってきた三人の男たちが、呉越同舟立ち上がる! という実に盛り上がる形で、この巻は終わることとなります。

 どうやら次の巻でも、天女たちを巡る地上の男たちの方のドラマも、大いに盛り上がりそうです。


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2021.09.21

劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』 安倍晴明vs九尾の妖狐! フルスペックのいのうえ歌舞伎復活!

 久々の劇団☆新感線であります。平安のヒーロー・安倍晴明と平安の大妖怪・九尾の妖狐の激突を、中村倫也と向井理という豪華キャストで描く、知恵比べあり大立ち回りありの大活劇――中島かずき脚本・いのうえひでのり演出のいのうえ歌舞伎、堂々の新作『狐晴明九尾狩』を観劇して参りました。

 平安の夜の闇を切り裂く流星――それをこの世に災いをもたらす凶兆と見て、帝に奏上せんとする安倍晴明(中村倫也)。ところが宮中で疎まれている晴明の言は容れられず、代わって重きを為すようになったのは、大陸留学から帰ったばかりの陰陽道宗家・賀茂利風(向井理)でありました。

 しかし自分にとっては親友だった利風こそが、大陸でその身を乗っ取り、日本にやって来た九尾の妖狐の化身であることを見破った晴明。その事実を伝えに来日した狐霊のタオフーリン(吉岡里帆)らと共に、その正体を暴き、京を救おうと奔走する晴明ですが、逆に利風の策にはまり、窮地に陥ることになります。

 その間にも宮中に取り入り、新たな貨幣鋳造を進める利風。果たしてそこに秘められた利風=九尾の妖狐の恐るべき思惑とは何か。そして晴明は九尾の妖狐を倒し、親友の仇を討つことができるのか――丁々発止の知恵比べが始まります。


 個人的なお話で恐縮ですが、昨年の『偽義経冥界歌』は(観劇しようと思っていた回が)中止となり、『神州無頼街』は延期となり――本当に久々の新感線観劇となった今回。

 このご時世ゆえでしょう、いつもの新感線の舞台よりも明らかに短い二幕で三時間弱という構成ですが、その分、かなりテンポ良く進んでいく印象があります。
 出演陣のメインは外部の俳優中心、脇をベテラン劇団員が固めるというパターンですが、メインどころは吉岡里帆以外、全員新感線経験者ということもあり、まったく違和感ない内容でした。

 物語に目を向ければ、晴明と蘆屋道満以外は全て架空の登場人物となっており、ファンタジー要素が強い内容の本作。その分、史実に縛られずに、自由に人と妖の物語が展開されていた印象があります。
 細かいことをいえば、九尾狐が日本に現れるのは晴明の時代から約二百年後ですが(といってもこういうお話もあるのですが)、作中で語られる設定は全くのオリジナル、性別も男ということで……

 ちなみにいのうえ歌舞伎で晴明というと『野獣郎見参』を思い出して、思わず身構えそうになりてしまますが、本作の晴明は比較的シンプルな、色々な意味で心正しき陰陽師。
 飄々として物柔らかな、しかしどこか油断ならないキャラクターは、演じる中村倫也という役者のイメージ通りですが――その一方で、時に驚くほど喜怒哀楽の激しい側面を見せてくれるのが印象的で、それが物語の諸所で効果的に描かれています。

 それにしてもいのうえ歌舞伎というか新感線の主人公は「好漢」と言いたくなるキャラが多いのですが、今回の晴明は「イケメン」それも「やだ、イケメン……」と言いたくなるような反則的な造形。
 一方、彼とは人間時代には肝胆相照らす親友、妖狐に乗っ取られてからは不倶戴天の敵となる行風役の向井理は、絵に書いたようlなクールな美形悪役ぶりに感心であります。

 物語のメインとなるのは、この二人が騙し騙されの知恵比べなのですが――内容的にアタック&カウンター・アタックの連続という印象ではあるのですが、しかし終盤の畳み掛けるようなどんでん返しの連続(ここからまだ来るか!? と本当に何度も思わされるほど)が実に強烈。
 何よりもクライマックスに至り、その知恵比べの構図の意味が、晴明と行風の二人の想いのぶつかり合いと共に浮かび上がる様は、ただただ圧巻というほかありません。

 そしてその先に、一種のパブリックイメージとしての超人晴明像をフォローしていくのも、心憎いところであります。


 正直なところ、時間が短いわりには(特に味方側の)キャラクターがバラエティに富みすぎていて、個々の出番が少なめに感じる部分はあります。
 しかし得体の知れない強キャラ感と変態ぶりを兼ね備えた千葉哲也演じる道満や、普段のイメージとは全く異なる武人キャラだった浅利陽介演じる検非違使など、いつもながらに個性的なキャラの乱舞に惹きつけられたのもまた事実であります。
(しかし、私もたいがい色々な道満を見てきましたが、こんな性癖のは初めて見た……)

 キャラ・物語・演出――フルスペックで復活した劇団☆新感線、復活したいのうえ歌舞伎を堪能させていただきました。


関連サイト
公式サイト

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『野獣郎見参』 晴明と室町と石川賢と

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2021.09.20

三好昌子『幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻』 人と妖と自然の美を通じて見つめた足利義政の姿

 京を舞台に、妖と美と情を題材とした物語を中心に発表してきた作者が、足利義政の時代を舞台に描く連作集であります。主人公は絵師・土佐光信――この世ならざるものを感じ取る力を持つ彼の前に次々と現れる妖、人と自然の不思議な物語が描かれます。

 時の将軍・足利義政から、絵の題材として「花の如く匂い、鳥の如く舞う 鬼の如く嗤い、人の世の如く乱れる 我は何ぞや」という判じ物を与えられた土佐光信。その答えに頭を悩ます光信は、密かに考え事をする際に忍び込んでいた御所の梨花殿で、謎めいた老人・唐朱瓶と艶やかな美女・緋扇にその謎を語るのでした。
 その答えは義政の心の中にあると、緋扇の導きで義政の過去を覗く光信。それは幼い頃の義政と先代将軍だった兄・義勝、そして奇妙な言い伝えを持つ瓶にまつわるもので……


 そんな「風の段」に始まる本作は、光信が義政の下で関わることとなった様々な妖異・怪異を描く全七話で構成されています。

 建設中の御所を彷徨う半面血染めの女の怪を探るよう命じられた光信が、呪詛屏風なる怪異の存在を知る「花の段」
 孤独だった少年時代の光信と、捕らえた大鯉を逃すことと引き換えに得た二人の友人の出会いを描く「雨の段」
 義政から四条河原で評判の鳥を操るという鳥舞の見聞を命じられた光信が、舞い手の悲痛な過去を知る「鳥の段」
 出会った者の影を喰らうという妖・影喰らいと出会い、病に倒れた日野富子のため、光信が真相究明を命じられる「影の段」
 筆で紙に打った筆の一点で運勢を占うという男を連れてくるように義政に命じられた光信が、意外な過去の因縁に巻き込まれる「嵐の段」
 血塗られた因縁から音が鳴らなくなり、鳴った時は良からぬことが起きるという小鼓が予感させる京の、日本の未来を描く「終の段」

 そんな本作の主人公とも狂言回しともいうべき立場となる土佐光信は、言うまでもなく実在の人物――大和絵に水墨画の画法を取り入れて様々な作品を残し、土佐派の地位を確立したと言われる人物であります。
 本作はその光信を、人ならざる妖を感じ取り、交流する力を持つ人物として描きます。妖に「心に壁がない」と言われる彼の目は、人の世と妖の世、此岸と彼岸を同時に見つめ、その複雑な世界で描かれる物語をつぶさに見届けることになるのです。

 そしてそんな物語を飾るのは、様々な美の姿。霏霏として降る雪や闇夜に降り注ぐ一筋の月光のような自然の美もあれば、人の手になる絵画や器物といった人造の美、さらには人の外面のあるいは内面の美といった美と――様々な美が、作者一流の筆で描かれることになります。
 そしてその美は、妖の中にも存在し得る、あるいは妖として存在するものでもあります。本作においては、美を通じて、人と妖と自然と――それらが全て同一の世界にあることを描いていると感じられます。


 さて、その光信が表の主人公とすれば、裏の主人公というべき存在は、義政であります。
 室町幕府第8代将軍として疫病や飢饉、そして政治的・武力的紛争が相次ぐ中で、それらに背を向けて美と遊興に耽り、その果てにあの大乱を招いた人物――本作の義政はそのイメージそのままに美に耽溺し、それ故に光信と結び付き、そして彼に(主に妖絡みの)無理難題を押しつける人物として描かれることになります。

 しかし彼が決して単なる暗君ではなく、複雑な――だからこそ絶望的な――内面を持つ人物であることは、冒頭の「風の段」をはじめとして、物語の随所で描かれていくことになります。
 その人物的造形の深さにおいては、正直なところ光信よりも上――というより、義政という極めて複雑な人物の内面を、光信が先に述べたように美を通じて辿っていく物語こそが、本作の本質といえるかもしれません。

 光信という文化芸術の世界に生きた人物を主人公にしていることもあり、本作は歴史上の事件を真っ正面から取り扱う物語ではありません。
 しかしそれでいて本作に極めて濃厚な歴史小説としての味わいがあるのは、この義政を中核とした構造による故なのでしょう。
(もちろん義政抜きでも、「雨の段」のように時代の当事者としての光信を通じて「歴史」を感じられるのですが――「二人の少年」の名を知ったときの衝撃たるや!)


 絵師として頂点を極める一方で、現代にまでその名を残す「百鬼夜行絵巻」を残した光信。本作の結末で地獄の釜の蓋が開いた世において、何を光信が見つめ、そして奇妙な絵巻を残すことになるのか――この先の物語を見てみたいと思わされる作品であります。


『幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻』(三好昌子 新潮社) Amazon

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2021.09.19

梶川卓郎『信長のシェフ』第30巻 ようやく繋がった道筋? そしてケン生涯の一大事

 ついに明らかになったヴァリニャーノの狙いを前に、あまりにも意外な決断を下す信長。それを耳にした光秀もある決意を固めます。その一方でケンの身の上にも重大な変化が――といよいよクライマックスが近いことを予感させる『信長のシェフ』第30巻です。

 これまで西国、そして畿内で怪しげな動きを見せていたイエズス会。その中心人物であるヴァリニャーノとついに対面した信長は、彼から、そして彼が連れてきた黒人従者――ヤスケから、得た情報から、ついにイエズス会の裏の目的を知ることとなります。
 それは世界領土分割体制下のポルトガルとスペインの領土争いにおいて、軍事大国たる日本のキリスト教徒をポルトガルの兵として利用し、日本を支配下とすること――しかしポルトガルのスペイン併合が、さらに事態を変えていくことになります。

 追い詰められ、自ら欧州の真の目的が「明国征服」であると明かしたヴァリニャーノ。そして彼は、信長に明への出兵を依頼するのですが――信長は光秀に対し、「わしは明に出兵しようと思う」と意外な言葉を……

 そんな前巻の衝撃の結末を受けて始まるこの巻。明のついでに日本を侵略しようという南蛮に対して、逆に南蛮に侵略するための第一歩として明を狙う――いわゆる「唐入り」を狙うと信長は宣言したのであります。
 しかしいかに日本を守るためとはいえ、これが無謀な企てであり、そして後世に悪名を残すことは間違いありません。それを知ってしまった光秀は何事か決意を固め……

 というわけで、長きに渡り描かれてきたイエズス会との対峙が、ここに至ってついに「あの事件」に繋がっていく道筋が見えてきた本作。しかし(日本人を)誰も悪人にしないためとはいえ、やはり陰謀論めいた展開――最近妙に喧伝されている説とはいえ――には大きく違和感が残ることは否めません。
 そして流石に信長の決断にも無理がありすぎるとしか思えないのですが――という点については、これこそが光秀の「動機」になっているのですから、この点は巧みと言うべきかもしれませんが……

 もっとも、これが「あの事件」の真相と考えるのは早計にすぎるかもしれません。以前意味有りげに描かれたケンの父が現代で見つけたもの――そしてその父についてケンが何かを思い出そうとしていることは、おそらくこの先に影響を与えるのでしょう。
 そしてそのケンも、信長の南蛮侵攻に際し、料理外交のための貢献を求められることに――という展開には流石に驚かされますが、冷静に考えれば、これは今までも散々やってきたことではあります。

 何はともあれ、ようやく安土を、日本を去ることになったヴァリニャーノ。正直なところここまで引っ張りすぎた感は否めないのですが――そのラストに待っていたのは、ケンの生涯にとっての一大イベントであります。作中でもツッコまれているように、まだだったのか!? という感じではありますが、何にしろ実にめでたい展開。信長の珍しいニヤニヤ笑い――はともかく、粋なはからいにこちらも嬉しくなります。
 そしてもちろんこれは単なる慶事にとどまらず、ケンが真にこの時代の人間になる決意を固めたという証明でもあるわけですが……(そこに重ねて、もう一人の異邦人であるヤスケの決意を描くのも巧みであります)


 しかし信長の天下一統に向けてはまだまだ数々の障害が残ります。その最大の一つ――武田との決戦に信長が動く中、信忠からある依頼を受けるケン。
 一方、日本を去る途中に伊予の一条家を訪れたヴァリニャーノは、そこでかつてのケンの同僚、望月と出会い――と、まだヴァリニャーノが出てくるのか! とツッコミつつ、次巻に続きます。


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2021.09.18

恵広史『カンギバンカ』第4巻 夢の始まり、そして受け継がれる想い

 今村翔吾の『じんかん』漫画版たる『カンギバンカ』もこの第4巻で完結。三好元長の命で安芸に向かい、鏡山城を巡る戦いに加わった九兵衛が見たものとは。そしてその先、彼は如何なる道を選び、どこにたどり着くことになるのか……

 多聞丸らかつての仲間を失った末に、「奪い奪われることのない場所をつくる」という夢の第一歩として、三好元長に目通りするために堺に向かった九兵衛と弟の甚助。そこで九兵衛は、安芸に向かい、鏡山城攻めを見聞するよう元長に命じられるのでした。
 三好と結ぶ尼子経久と敵対する蔵田房信・直信兄弟が守る鏡山城。そこで多治比元就の隊に加えられた九兵衛と甚助は、初めての合戦で手痛い洗礼を受けることになります。

 そして戦いの末に、蔵田直信を捕らえた経久。経久に説かれ、兄に降伏を勧めることとなった直信ですが――実は経久の真意が、兄弟を同士討ちさせて鏡山城を奪うことにあると知った九兵衛は、それを止めるために決死の策にでることに……

 というわけでこの巻の前半に描かれるのは、原作にないオリジナル展開の鏡山城編のクライマックス。
 房信と直信の骨肉の同士討ちを避けるため、甚助とただ二人で鏡山城に潜入し、先に房信を討たんとする九兵衛ですが――いかにもこの強引な策は既に読まれていた上に、傲岸な一方で疑り深い房信の暴挙によって、事態は最悪の方向に向かうことになります。

 それでも辛うじて状況を収め、経久と直信の和睦の場に臨むこととなった九兵衛。しかし彼がそこで見たものは……


 先に述べたとおり完全オリジナル展開ということもあり、当初は(九兵衛・甚助と房信・直信の対比があったとはいえ)その意図が掴みにくかったこの鏡山城編。しかしこの結末における経久の行動と、それに対する九兵衛の想いを見ることによって、それが理解できたように感じます。
 たとえこの先の被害を抑え、自分の守るべきものを守るためとしても、一度言葉を尽くして迎え入れた相手を裏切ることが、滅ぼすことが許されるのか。そしてそれができる武士とは何者なのか――それは人ではなく修羅というべき存在ではないか?

 そのことを九兵衛に(そしてもちろん読者に)突きつけることによって、本作は彼の歩むべき道を示すと同時に、その道と重なり合う、この後に三好元長が語る大きすぎる夢に、ある種の説得力を与えていると感じられます。
 そしてここに至り、九兵衛が姓を名乗る展開には、否応なしにグッとくるものがあるのです。


 そしてこの巻の後半では、原作の展開に戻り、元長の参加で堺の傭兵・堺衆を束ねる立場となった九兵衛――松永久秀が、将軍・義晴を擁する細川高国・若狭武田軍と激突する桂川の合戦が描かれることになります。

 宇治の国人領主・海老名権六と四手井源八、柳生流の若き達人・瓦林総次郎――その後も行動を共にする頼もしい仲間たちとともに激闘に挑む九兵衛と甚助。
 その前に現れた凄腕の使い手・坊谷仁斎――それこそはかつて多聞丸をはじめとする仲間たちを皆殺しにした男、いわば九兵衛の運命を大きく狂わせた相手であります。

 その相手との激突の結末は、そのクライマックスの演出も含め、実に良い意味で漫画的で、はっきり言えば、原作を超えるインパクトが確かにあったと感じました。


 そしてこの桂川の合戦のエピソードをもって過去のエピソードは終わり、ラストで描かれるのは「現在」――物語の時間軸は冒頭に戻り、再び信長に叛いた久秀の姿が描かれることになります。
 はたして何ゆえ彼は叛いたのか、そこまでして彼が求めるものは何なのか――それを描くとともに、その想いを受け止め、受け継ごうとする者の姿を描いて、物語は終わりを告げることとなります。

 実は桂川の合戦辺りまでで原作は約半分。つまりは本作においては原作の後半部分は描かれなかったわけですが――こうして読んでみると、これはこれで一つの物語としてきちんと形になっていると感じられます。
 もちろん、元長の夢の結末、そしてそれを受け止めた久秀がなぜ大悪人と言われるようになったか――それらが描かれなかったのは勿体無くはあるのですが、それを描かないことによって、物語には原作以上に前向きな空気を漂わせる結末だと感じます。

 それは当初の狙いとは違うものかもしれませんが、それはそれで意味のあるものであったと、結末まで読んで感じた次第です。


『カンギバンカ』第4巻(恵広史&今村翔吾 週刊少年マガジンコミックス) Amazon

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