入門者向け時代伝奇小説百選

 約十年前に公開した「入門向け時代伝奇小説五十選」を増補改訂し、倍の「百選」として公開いたします。間口が広いようでいて、どこから手をつけて良いのかなかなかわかりにくい時代伝奇小説について、サブジャンルを道標におすすめの百作品を紹介いたします。

 百作品選定の基準は、
(1)入門者の方でも楽しめる作品であること
(2)絶版となっていないこと、あるいは電子書籍で入手可能なこと
(3)「原則として」シリーズの巻数が十冊以内であること
(4)同じ作家の作品は最大3作まで
(5)何よりも読んで楽しい作品であること の5つであります

 百作品は以下のサブジャンルに分けていますが、これらはあくまでも目安であり、当然ながら複数のサブジャンルに該当する場合がほとんどです(また、「五十選」の際のサブジャンルから変更した作品もあります)。
 そのため、関連のあるサブジャンルについては、以下のリストからリンクしている個々の作品の紹介に追記いたします。

【古典】 10作品
1.『神州纐纈城』(国枝史郎)
2.『鳴門秘帖』(吉川英治)
3.『青蛙堂鬼談』(岡本綺堂)
4.『丹下左膳』(林不忘)
5.『砂絵呪縛』(土師清二)
6.『ごろつき船』(大佛次郎)
7.『美男狩』(野村胡堂)
8.『髑髏銭』(角田喜久雄)
9.『髑髏検校』(横溝正史)
10.『眠狂四郎無頼控』(柴田錬三郎)

【剣豪】 5作品
11.『柳生非情剣』(隆慶一郎)
12.『駿河城御前試合』(南條範夫)
13.『魔界転生』(山田風太郎)
14.『幽剣抄』(菊地秀行)
15.『織江緋之介見参 悲恋の太刀』(上田秀人)

【忍者】 10作品
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

【怪奇・妖怪】 10作品
26.『おそろし』(宮部みゆき)
27.『しゃばけ』(畠中恵)
28.『巷説百物語』(京極夏彦)
29.『一鬼夜行』(小松エメル)
30.『のっぺら』(霜島ケイ)
31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)

【SF】 5作品
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

【ミステリ】 5作品
41.『千年の黙 異本源氏物語』(森谷明子)
42.『義元謀殺』(鈴木英治)
43.『柳生十兵衛秘剣考』(高井忍)
44.『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』(はやみねかおる)
45.『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介)

【古代-平安】 10作品
46.『諸葛孔明対卑弥呼』(町井登志夫)
47.『いまはむかし』(安澄加奈)
48.『玉藻の前』(岡本綺堂)
49.『夢源氏剣祭文』(小池一夫)
50.『陰陽師 生成り姫』(夢枕獏)
51.『安倍晴明あやかし鬼譚』(六道慧)
52.『かがやく月の宮』(宇月原晴明)
53.『ばけもの好む中将』シリーズ(瀬川貴次)
54.『風神秘抄』(荻原規子)
55.『花月秘拳行』(火坂雅志)

【鎌倉-室町】 5作品
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

【戦国】 10作品
61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)
66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)

【江戸】 10作品
71.『螢丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)
76.『退屈姫君伝』(米村圭伍)
77.『未来記の番人』(築山桂)
78.『燦』シリーズ(あさのあつこ)
79.『荒神』(宮部みゆき)
80.『鬼船の城塞』(鳴神響一)

【幕末-明治】 10作品
81.『でんでら国』(平谷美樹)
82.『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(澤見彰)
83.『慶応水滸伝』(柳蒼二郎)
84.『完四郎広目手控』(高橋克彦)
85.『カムイの剣』(矢野徹)
86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)

【児童文学】 5作品
91.『天狗童子』(佐藤さとる)
92.『白狐魔記』シリーズ(斉藤洋)
93.『鬼の橋』(伊藤遊)
94.『忍剣花百姫伝』(越水利江子)
95.『送り人の娘』(廣嶋玲子)

【中国もの】 5作品
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)



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2020.01.28

大塚已愛『ネガレアリテの悪魔 黎明の夜想曲』 ファンタジーから伝奇へ――新たなる、本当の物語の幕開け


 19世紀末のロンドンを舞台に繰り広げられる――そして新人の作品とは到底思えぬ完成度の高さに度肝を抜かれた異形のファンタジー待望の続編であります。少女と青年人形による異界「ネガ・レアリテ」を巡る戦いは実は序章に過ぎず――いよいよ本当の敵、そして巨大な秘密の数々がここに明かされるのです。

 偶然訪れた画廊で異界に呑み込まれ、ルーベンスの贋作から生まれた奇怪な魔に襲われたことをきっかけに、美青年サミュエルと出会った男爵家の少女・エディス。
 日本の刀と呪法を用い、人間離れした力で贋作から生まれた異形の魔と対決するサミュエルに救われたエディスは、サミュエルと彼を付け狙う妖人ブラウンとの間の戦いに巻き込まれていくことになります。

 その過程で明らかになるサミュエルの秘密――実は彼が人間ではなく、何者かによって造り出された精巧な人造人間だったことを知りながらも、恐れることなく彼の傍らで戦い抜いたエディス。そして女王の私生児であり、母に殺されたという怨念を抱えて暴走するブラウンは、サミュエルに敗れてネガレアリテの中に消えて……


 という前作を受け、やはり贋作から生まれた魔――今度は絵画ではなく楽器――との戦いから始まる本作。が、それはあくまでも導入部、前作の展開を踏まえたこちらの予想は、完全に――当然ながら良き意味で――裏切られることになります。

 自分の存在が危険をもたらすと、エディスに別れを告げたサミュエル。それを受け入れた彼女は、侯爵家の三男・ヘイズから結婚を申し込まれることになります。
 父を知らぬ私生児である自分を今まで育ててくれた男爵家の人々のため、エディスはその申し出を受けるのですが――しかしヘイズには彼女と、さらにサミュエルと意外な繋がりがあったのであります。

 そして思わぬ自分の秘密に驚く間もなく、彼女に襲いかかる新たなる敵。かつてブラウンが変じた魔の中でも、さらに力を持つ古き血を持つ存在に襲われたエディスを救うべく、強大な敵に挑むサミュエルですが……


 贋作から生まれる魔との戦いを描いた前作において、自分たちもまた一種の「贋作」として――エディスは男爵家の実子ではない私生児、そしてサミュエルは人間ですらない――受け止める姿が描かれた二人。
 本作では、その二人の真実が描かれることとなります。エディスの父は何者なのか、そしてサミュエルは何のために造り出された存在なのか――ある意味物語の根幹に繋がるほどの真実が。

 その大秘密を(物語の比較的早い段階で判明するのですが)ここで語るのは控えましょう。しかし一つだけそれを評するとすれば、前作がファンタジー――我々の世界と隣り合わせの世界に潜む魔との対決であったとすれば、本作は伝奇――この世界で我々が重ねた歴史と平行して、陰の歴史を生き長らえてきた者との戦いである、と表すのが適切と感じます。
 そう、まさかこの物語でこれを持ってくるとは! と好きな人間にはたまらない、そしてどこか懐かしい題材の数々で組み立てられた物語は、紛うことなき一級の伝奇ものならではの興奮を与えてくれるのであります。

 そして驚くべきは、これだけ血沸き肉躍る(ある意味本作に相応しい表現であります)物語であるのと同時に、本作は、極めて美しくそしてプラトニックな、ボーイミーツガールの物語として成立していることでしょう。
 贋作であるという二人を結ぶある種の共通項から解き放たれながらも、なおも強く結びついた二人の絆の目映さ。それはサミュエルに昏い執着を見せる敵の存在とは好一対のものであり――そして人が人以外に抗し、そして人以外と生きるに当たっての、一つの希望の姿としても感じられるのです。

 そしてもう一つ唸らされるのは、大量の情報や怒濤の展開を、くどさや退屈さなしにさらりと読ませる作者の構成力と文章力であります。この点は前作から強く印象に残っていたものですが――本作のそれはそれをさらに上回るものとしか言いようがありません。
 特に物語中盤、本作の――本シリーズの背景となる真実と秘密に関する説明描写の数々を、違和感なくテンポ良く描いてみせる水際だった手腕には感嘆させられるばかりなのであります。


 あえて難を言えば、前作で前面に出ていたネガ・レアリテの存在が、本作では遠景に留まっている点ですが――それは新しい物語の前では、小さいことと思うべきなのでしょう。
 二人の絆の、そして何よりも新たな伝奇世界の誕生を垣間見せてくれた本作。今はその先の姿を見たい、つまりは続編希望! と強く願うばかりなのであります。


『ネガレアリテの悪魔 黎明の夜想曲』(大塚已愛 角川文庫) Amazon
ネガレアリテの悪魔 黎明の夜想曲 (角川文庫)


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 大塚已愛『ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲』 少女と青年と贋作の戦いと救済の物語

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2020.01.27

安達智『あおのたつき』第1巻 浮世と冥土の狭間に浮かぶ人の欲と情


 正式なジャンル名はわかりませんが、「迷える魂の案内人」ものとも言うべき作品群があります。本作もそんな作品の一つというべきでしょうか――江戸は吉原の浮世と冥土の狭間で、そこに迷い込んだ遊女たちの魂を救うべく奮闘する遊女・あおを主人公とした物語であります。

 吉原は羅生門河岸の角、九郎助稲荷のその奧にあるという、強く霊験のご利益を求める者だけが迷い込む浮世と冥土の境に近いところ……
 そこに迷い込んできたのは花魁姿の童女、いや童女姿の花魁・濃紫。その前に現れた宮司・楽丸は、ここが生前の想いに囚われた姿で人々が暮らす、冥土の吉原遊郭を管轄とする鎮守の社と語るのでした。

 はたして何に囚われているのか童女の姿となり、それでも金を稼がなければと強い執着を見せる濃紫。突然放り込まれた世界に混乱する彼女ですが、その前に、新たに社を訪れた遊女の霊が現れます。
 時代遅れな勝山髷――はいいとして、白粉を塗りたくった巨大な顔だけの遊女・富岡の生前の物語を聞くことになる楽丸と濃紫。果たしてそこに込められた「わだかまり」とは……


 という第1話の物語をきっかけに、鎮守の社に奉公することとなった濃紫――楽丸には童女の頃の「あお」と呼ばれることになります――が、迷える魂と向き合い、その秘めた「わだかまり」を知り、導いていく本作。
 吉原に行ってそこで暮らしたいという三つ子の童女たち、身請けが決まった相手の旦那の変貌に心を痛める花魁――様々に悩みを抱えた魂を、あおは時に受け止め、時に叱咤し、時に共に涙を流しながら、その悲しみを解きほぐしていくことになります。

 そんな本作は、冒頭に述べたとおりまさに「迷える魂の案内人」ものなのですが――しかしその舞台選びの妙にまず感心すべきでしょう。何しろ吉原といえば江戸中の人間の欲望と情念が集まる地。そしてそこでどれだけの人間の魂が迷い、わだかまりを抱くかは、言うまでもありません。
 しかし同時に見事なのは、ここでその物語を描くのに、冥土というフィルターを一度通していることであります。そのフィルターを通すことによって、本作は真実を一種俯瞰した立場から描くことを可能にすると同時に、一歩間違えれば途方もなく生臭く凄惨で、やりきれない物語になりかねないところを救っているのですから。
(そもそもあおのキャラクターも、童女でなければかなりどぎついものではあります)

 そしてまた、そんな物語を描き出すアートもまた実に魅力的で――現実に存在したもの、冥土に存在するかもしれないものをミックスし、まさにその狭間の世界にしかないものを、巧みに浮かび上がらせている様には感心させられます。
 作者のTwitterアカウントを拝見すれば、元々は日本画を専攻されていた方とのこと。さてこそは――と納得であります。
(そしてTwitterといえば、作者の別名義での活動にびっくり仰天)


 さて、個々のエピソードもさることながら、背骨となる物語――すなわち、あお自身のそれも気になる本作。
 何故童女の姿となったのか、何故金にあれほど執着するのか、そして何故命を落とすこととなったのか――それとは別に、わずかに触れられた楽丸の過去も含めて、この先の展開が気になる作品であります。

 そして最後になってしまいましたが、本作に登場する鎮守の社の御祭神は命婦薄神、すなわちお稲荷様――ですが、現時点ではほとんどマスコット扱い。しかしこの神様の仕草がまた実に可愛らしく、動物好きには悶絶ものである点も見逃せない(?)点であります。


『あおのたつき』第1巻(安達智 DeNA) Amazon
あおのたつき (1)

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2020.01.26

『無限の住人-IMMORTAL-』 十六幕「肢転 してん」

 狂気に陥った末、無数の被験者を犠牲にして実験を続ける歩蘭人。一方、捕らえられた夷作を救い出そうと奔走する凜と瞳阿は、同様に捕らえられた人々が不死力の実験に使われていると知り、地下道から江戸城に乗り込む。群がる役人たちを蹴散らしながら進む二人だが、ついに見つけた夷作の姿は……

 「相変わらず狂ってる歩蘭人の実験」「瞳阿と夷作の過去」「百琳と偽一の想い」「凜と瞳阿の救出作戦」と、一話で結構盛りだくさんであった今回。原作では単行本2巻分とあまり進んでいない気もしますが、前話があの調子だったので、非常に大きく話が動いたという印象であります。

 まず歩蘭人は――相変わらず無駄に気合いの入った演出でその狂人ぶりをアッピール。もうそれはええっちゅうんじゃ、と言いたくなるような心象風景ですが、今回はそれほど時間は長くなかったのが救いではあります。
 しかしその被害は甚大で、とんでもない分量の死体が遺棄されたり、江戸城地下がバイオハザード状態になっていたりとやりたい放題。一応裏があるとはいえ、鉤群もやりすぎなのでは……

 一方、これまでの気の強さはどこへやら、ほとんど共依存状態だった夷作がいなくなって瞳阿のメンタルはどん底。今回は幾度かに分かれて二人の出会いから旅立ちまでの姿が描かれますが、片やアイヌの村出身、片や外国人宣教師の息子と、二人ともこの時代のこの国においては異邦人であるだけに、肩を寄せ合って生きてきたことはよく理解できます。
(しかしこの二人を仲間に迎え入れた天津は度量が大きい――と思いきや、怖畔というさらにとんでもない奴がいるので、彼らはまだまだ目立たないだけかもしれませんが)

 そして百琳と偽一ですが――以前にちらりと仄めかされていましたが、逸刀流残党に捕らえられた際の暴行が元で、妊娠していた百琳。もう鬼畜(原作が)としか言いようがない展開ですが――生まれてくれば最悪の記憶を思い出させるであろう子供を堕ろそうとする百琳を偽一は静止するのでした。
 もちろんこれは百琳の気持ちを思えばあまりに無神経な行動であるかもしれません。しかし百琳がこの世界に入ることとなった理由が我が子を殺された怒りからであったことを思えば、そして偽一もまた病の息子のために――そしてその息子も世を去ったことを思えば、子殺しを止めようというのは、それなりに理解できるところではあります。

 そしてその百琳を頼るのは凜――ほとんど断片的な(描写しかない)情報で万次の、夷作の行き先を突き止めた彼女は、百琳に陽動を依頼。役人に捕らえられて連行された人々の家族たちを百琳が煽動して周囲を騒がしている間、ついに凜と瞳阿は江戸城地下に広がる迷宮に潜入することに――嗚呼、ここまでが本当に長かった。
 しかし無駄に露出の多い衣装で潜入したり、いきなりポッと出のキャラに捕まって凜が拷問受けたりブチ切れた瞳阿が皆殺しにしたり(怖畔の出番が……)、そこら中うろついているゾンビをダッシュ回避で先に進んだり、(たぶん果心居士のところからギってきた)火薬に黄金蟲で格好良く火をつけたら自分も巻き添え食ってダメージ受けたりと、これまでの鬱憤を晴らすような凜の大冒険活劇ぶりに、前回自分が見たものは何だったのだろう――と再び思わないでもありません。

 しかし今回の凜、非常に覚悟が決まっているようでいて、殺人は瞳阿に任せるという形になっているのがどうにもスッキリしないところで、その直後に瞳阿を庇って百叩きを受けたとはいえ、万次を用心棒に雇っていた時以上に、都合のよいスタンスが気にならないでもありません。
 とはいえ、その瞳阿も故あって途中で脱落し、ただ一人で先に進むことになった凜。やたらと暗い画面の中、先に進む凜という、何となく中途半端な場面で次回に続きます。


 ……今回万次の出番あったかしら?


『無限の住人-IMMORTAL-』(Amazon prime video) Amazon

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 『無限の住人-IMMORTAL-』 六幕「羽根 はね」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 七幕「凶影 きょうえい」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 八幕「無骸流 むがいりゅう」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 九幕「群 むら」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 十幕「獣 けもの」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 十一幕「秋霜 しゅうそう」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 十二幕「終血 しゅうけつ」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 十三幕「誰そ彼 たそかれ」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 十四幕「改起 かいき」
 『無限の住人-IMMORTAL-』 十五幕「臓承 ぞうしょう」

 無限の住人

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2020.01.25

仁木英之『魔王の子、鬼の娘』  鬼と人の狭間の旅路で織田信忠が見たもの


 以前「読楽」誌に読み切りとして掲載され、アンソロジー『妙ちきりん』にも収録された物語が、長篇として帰ってきました。父とほぼ時同じくしてこの世を去ったはずの織田信忠を主人公に、人と人以外――鬼たちの姿を描く異形の戦国活劇であります。

 明智光秀の謀反により父・信長が本能寺で炎に消え、自分もまた、二条城の炎の中で死を目前とした織田信忠。しかし次に目覚めた時に彼がいたのは信州――かつて彼が妻に迎えようとした人の故郷であり、そして彼が滅ぼした武田家が治めていた地でありました。
 そこで彼の前に現れたのは、武田勝頼と、信忠の義姉の間に生まれたという少女・霧――昼の間の穏やかな人格と、夜の間の皮肉で苛烈な人格の二つを持つ彼女は、ある者の手により、信忠は鬼の王の面をつけて生き延びたことを告げるのでした。

 大きすぎる運命の変転に戸惑う信忠。さらにその前に現れた死んだはずの信長は、自分が魃鬼(おに)たちを従えた魔王となったと宣言するではありませんか。
 この国の安寧のために戦っていたと信じる父の変貌を嘆きつつも、魃鬼の力を用いて天下を狙う父に挑むことを決意した信忠は、霧とともに旅立つことに……

 という短篇版を物語の冒頭部分、第一章として始まる本作。この後、甲府を旅立った信忠と霧は、三日天下で光秀が敗れた末に信長の後継者を巡る駆け引きが始まったことを知り、京に向かうことになります。
 人に似て人ならぬ者、古の民の系譜を継ぐ者たちの道「山の道」を急ぐ二人。しかしその前に現れた童顔に巨躯の異形の存在・鞍馬の月輪が、信忠の前に立ちふさがります。

 織田の旗印を掲げた軍勢により故郷を焼かれたという月輪と激突し、何とかこれを下した信忠は彼を一行に加えますが――同様に何者かによって古の民の末裔たちが襲撃を受けていることを知るのでした。
 その背後に蠢く、人を鬼に変える鬼成りの蟲を操る者の存在。光秀の生存も囁かれる中、旅を続ける信忠たちが最後に出会う者とは……


 信長の天下布武の結末というべき本能寺の変から始まる本作。そこで信長が生存/復活したり、信長が魔性の者となる/であった作品は枚挙に暇がありませんが――しかしそこに信忠が絡む作品は、本作ぐらいではないでしょうか。

 織田信忠――信長の嫡男であり、そして(あるいは名目上のものであっても)信長から織田家の当主を譲られた男。父があまりに有名であるために、そしてその父とほぼ同時にこの世を去ったためにあまり目立たない存在ではありますが、決して無能などではない、実に「面白い」人物であります。
 その信忠が生存して鬼面のヒーロー(?)となり、彼とは因縁深い武田家の娘と行動を共にするという設定の時点で、本作の面白さは半ば約束されたと言えるかもしれません。

 しかし本作のユニークな点は、それに留まりません。本作で描かれる旅の中で、戦いの中で信忠が知るのは、これまで彼とは無縁だった――いや、存在することも知らなかった民たちの存在であり、本作の物語は、そんな人々の姿を描くものでもあるのですから。


 この国に生きるのが歴史に名を残した者たちだけではなく、またこの国の歴史を紡いだのが表舞台に現れた者たちだけではない――それはもちろん武士や貴族といった支配階級に対する庶民のことを指すものではありますが、しかし同時にそれは制外の民、道々の者、まつろわざる者などと呼ばれた者を指すものでもあります。
 本作に登場する、鬼と呼ばれる存在はまさに後者でありますが――ある意味時代伝奇ものにはお馴染みの彼らの存在を、本作は作者らしい筆致で描きます。その暮らしや社会が我々のそれと同じものではなくとも、共にこの世界に生きる、同じ世界の住人として。

 本作で描かれる信忠の冒険は、魔王信長との戦いの旅であると同時に、支配者信長の子として世界を見ていた彼が、そんなこの世界に生きる鬼と人間のことを――この世界の多様性を知る旅でもあるのです。
 そしてそれは、これまで作者が描いてきた様々なファンタジー――特に『まほろばの王たち』『くるすの残光』――の主人公たちの旅路に重なるものでもあります。


 しあしその信忠の物語はまだ始まったばかりであり――その戦いに一つの決着は見られたものの、まだ無数の謎が残った状態であります。
 信忠がこの先何を見て、何を選ぶのか――鬼と人の間に立つ彼の旅の先が描かれることに期待します。


『魔王の子、鬼の娘』(仁木英之 徳間文庫) Amazon
魔王の子、鬼の娘 (徳間文庫)

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2020.01.24

ロバート・ウェストール『ブラッカムの爆撃機』(その二) 戦争のもたらす死とそれに抗する生の希望と


 ロバート・ウェストールが描く奇怪な戦争物語『ブラッカムの爆撃機』の紹介の続きであります。本作で我々を震え上がらせてくれる怪異。それが示すものとは――

 爆撃機の中で仲間たちと軽口を叩きながら、ドイツ本土に爆弾を落としてきたゲアリーたち。彼らにとって最も身近な死は、それまで」敵ではなく自分たちの方のものでした。
 しかし、それが一度「敵」の死を――不幸なゲーレンの最期を目の当たりにした時、彼らはほとんど初めて、自分たちの行為の意味を知ることになるのです。敵もまた人間なのであり――さらにいえば、自分たちが無数に降らせる爆弾の下にも人間はいるのだと。

 もちろん、本作はその行為に単純に善悪の判断を下すものではありません。しかしその事実を知った直後のゲアリーたちが、ほとんど「死」に取り憑かれたような状態となったことを思えば――ウェストールが戦争に対して向ける眼差しが含むものの意味は明らかでしょう。
(そしてそんな彼らに対する親父のケアがまた実に見事なのですが――実にそれは、本作を覆う戦争が生み出す「死」に対する最大の反撃であったことが後にわかります)


 しかし本作のユニークな(人によっては困った)点は、本作が単純に反戦を声高に謳っているだけではないことでしょう。それは上に述べたある種フラットな視点にも表れていますが、より明確な表れがあります。

 と、突然ながら、ここで私が本作を読んだ版を紹介すれば、それは岩波書店から2006年に刊行され、今なお版を重ねている版であります。本作の他に短編『チャス・マッギルの幽霊』『ぼくを作ったもの』が併録され、背表紙には「ロバート・ウェストール作 宮崎駿編 金原瑞人訳」とクレジットされていて――宮崎駿!?
 そう、本書にはウェストールの作品、なかんずく本作に惚れ込んだ宮崎駿のエッセイ漫画『タインマスへの旅』が併録されているのであります。

 正直なところ、本書を手に取った時には宮崎駿がかなり前面に押し出された作りに――そもそも表紙だけ見ると、本書は誰が書いたものなのかすらわかりにくい――鼻白んだものでした。
 しかし宮崎駿が空想の中でウェストールと対面し、その作品の方向性を語り合う『タインマスへの旅』は見事な本作の見事な解題であり、そしてより即物的にいえば、見開きで描かれた爆撃機の図解は、本作の理解に非常に役立つものであり、この組み合わせには大いに納得したものであります。

 ――さて、話がずれましたが、ここで宮崎駿がほとんどファン目線で語っているように、本作は純粋に戦争文学として見ても、非常にリアルに感じられるものであり――これが真実のものであるかはもちろんわかりませんが、少なくとも本作の爆撃機描写の緻密さは凄まじい――そしてそこで描かれるものは、実に魅力的に感じられるのです。
 これはもう作者の愛ゆえ、作者は純粋にこういうものが好きだとしか思えない――好きという言葉が適切でなければ、並々ならぬ関心があったとしか思えないところであります。

 なるほど、この辺りの戦争(あるいは兵器)に対する複雑な視線は、まさに宮崎駿のそれと重なる――と感心したのですが、いずれにせよ、そんな作者だからこそ描けるものが、本作にはあります。戦争文学と、児童文学と、ホラー――その三つを自分自身のものとして描ける作者ならではのものが。
 だからこそ本作は――戦争がもたらす死と、それに唯一抗することができる生の希望を描く本作は、複雑で、そして豊饒な味わいを持つのでしょう。


 ちなみに先に述べた併録作『チャス・マッギルの幽霊』『ぼくを作ったもの』についても簡単に紹介しておきましょう。

 『チャス・マッギルの幽霊』は、主人が疎開した屋敷に一家で住むことになった少年チャス・マッギルが、屋敷にあるはずのない部屋に蠢く者の存在を知り、ついにそれと出くわして――という短編。「幽霊」と言いつつ実は――というひねりも面白く、またチャスの機転がもたらす非常に心温まる結末が印象的なのですが、しかし人間何度も戦争という愚行を繰り返しているのだな、という苦味も見逃してはならないでしょう。

 また、『ぼくを作ったもの』は、作者と、第一次世界大戦に従軍した祖父の物語。気難しい祖父がふとした時に見せる人間性と、やがて二人が辿る和解の姿、そして作者に遺したもの――それらを通じて、戦争に対して人間ができること、ある種の希望を描いてみせる、掌編ながら印象的で象徴的な一編であります。


『ブラッカムの爆撃機 チャス・マッギルの幽霊 ぼくを作ったもの』(ロバート・ウェストール 岩波書店) Amazon
ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

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2020.01.23

ロバート・ウェストール『ブラッカムの爆撃機』(その一) 戦争文学として、児童文学として、ホラーとして


 第二次世界大戦中、イギリス軍が行ったドイツへの夜間爆撃を背景に、搭乗した者を死に至らしめるという爆撃機にまつわる奇譚――一級の戦争文学であり、児童文学であり、そして何よりもホラー小説でもある名品であります。

 「親父」と呼ばれるベテランパイロットと、同年代の若者たちとともに南オードビーの基地からドイツ本土への夜間爆撃を繰り返す新米航空兵のゲアリー。彼らが乗るウィンピー――ウェリントン爆撃機は、アルミ管の骨組みの上に、布を張って作られた代物であります。

 そんなウィンピーでのある爆撃の帰路、彼らは同じ部隊ながら、粗野で下品で鼻つまみ者のブラッカム軍曹の機体と遭遇するのですが――そこにドイツ空軍のユンカースが襲来。ゲアリーの警告で難を逃れたブラッカムの爆撃機はユンカースを攻撃し、敵の機体は炎に包まれるのでした。
 ドイツ軍の周波数に合わせていた無線機から聞こえてくるドイツのパイロット・ゲーレンの断末魔の叫びと、それを嘲笑うブラッカムたちの声――それを耳にしたゲーレンたちは、自分たちが今している行為に、強く心を痛めることになります。

 しかしその後の出撃において、ブラッカム機で奇怪な事態が発生します。出撃から帰還した機体の中ではクルーの一人が拳銃で撃たれて死に、後のクルーはパラシュートで脱出に失敗して死亡、唯一の生存者であるブラッカムは正気を失っていたのです。
 結局原因は不明のまま、別のチームに回されることとなったブラッカム機。しかしそのチームも、その次のチームも、出撃から帰還した後におかしな様子を見せ、その次の出撃で命を落としたではありませんか。

 司令官の要請で元ブラッカム機に乗ることになった親父と、志願して彼に同行することになったゲアリーたち。無事に爆撃を終えて帰還する一行ですが、その時、通信機からドイツ語の声が……


 自分の第二次大戦中の経験等を題材として、数々の児童文学を残したロバート・ウェストール。それと平行して、作者は超自然的な題材を扱った作品も描いてきたとのことですが――本作はその両者が、非常に密接に絡みあった作品であります。

 作中でブラッカムの爆撃機を巡る怪異の正体――その詳細は伏せますが、ホラーは比較的良く読む人間にとっても、その様は非常に恐ろしく、そして不気味かつ悍ましいものであります。まず間違いなく飛行機――特に無数の爆弾を腹に抱えた爆撃機の中では最も遭遇したくないものの一つであると、本作を読みながら震え上がりました。
 とはいえ、それは冷静に考えれば直接的な脅威ではないと言えるかもしれません。しかしそれはある意味「死」を具現化した存在であり――そしてそれに遭遇したパイロットたちの生きる意思を奪っていくという点で、非常に恐ろしい存在であります。

 本作はそんな怪異の存在を、語り手であるゲアリーの目と口を通じて、臨場感たっぷりに浮かびあがらせてみせます。
 あり得べからざるもの――それも形を持たぬものと、それが生み出す恐怖を描くのがホラーの醍醐味であるとすれば、本作は第一級のホラー小説であることは間違いありません(特にクライマックスで描かれる怪異の凄まじさたるや!)


 そして本作は同時に、戦争を舞台として初めて成立する作品でもあると言えます。
 それは本作の主な舞台が(そして怪異が猛威を振るう場が)爆撃機の中という、戦争でなければ登場したいような場であることはもちろんですが――それだけでなく、本作の背景に広がるもの、そして怪異の源ともいうべきものが、まさしく「戦争」に由来するものであるからにほかなりません。

 ゲアリーと(親父を除く)チームの仲間たちは、皆つい先頃まで学生であり――それがほとんど促成栽培のような形で最前線に投入されてきたことが、ゲアリーの語りの中から浮かび上がります。
 彼らにとってそれまで全く無縁だった、どこか遠くの話であった戦争が、突然身近なものになる――というほど、しかし状況は単純なものではないでしょう。空の上から爆弾を落とす彼らにとって最も身近な死は、敵ではなく自分たちの方のものであり、それに対する恐怖は、は戦争とはまた微妙に異なるものとも言えるのですから。

 しかし――と、中途半端なところで恐縮ですが、長くなりましたので明日に続きます。


『ブラッカムの爆撃機 チャス・マッギルの幽霊 ぼくを作ったもの』(ロバート・ウェストール 岩波書店) Amazon
ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

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