矢柄頓兵衛戦場噺
本日読了。三河以来の家康の忠臣、矢柄頓兵衛翁が、太平の世を憂いて一族郎党に昔語りをして聞かせるという形式の連作短編。私のようなひねくれ者からすると、「プッ、前時代の遺物がおめでてえな」と本人に聞かれたら真っ向両断されそうな失礼極まりないことを言いたくなるような設定ですが、武士道武士道ちとうるさいのを除けば、その豪快さ・豪放さはむしろデュマの「三銃士」のような戦場豪傑譚を思わせる楽しさで、一編一編は短いながらも、それぞれに趣向を凝らした作風で楽しめました。
この作品、設定や内容から何となく想像できるように、戦時中まっただ中に書かれた作品で、そうと知ればああなるほどと思う部分もあります(というか基本設定からしてそんな感じではある)。マジメな文学ももちろんですが、大衆文学が、大衆文学作家が戦争とどのように相対してきたか、戦後の動きも含めて考えてみるとなかなか面白いものが見えてきそうに思います。
しかしこの作品を読んでいたら、山田風太郎先生の「彦左衛門忍法盥」で、大久保彦左衛門に対して「戦中派の、真相はこうだ!」と哄笑する由比正雪が自然と浮かんできたことです。
「矢柄頓兵衛戦場噺」(横溝正史 出版芸術社「変化獅子」所収)
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