「シグルイ」第1巻
あの「覚悟のススメ」の山口貴由が、南條範夫のあの「駿河城御前試合」をコミック化する、という報に喜び、掲載誌を手に取り、第1回のわずか2ページ目に描かれた駿河大納言忠長の表情に秘められた狂気に、まず衝撃を受け、そしてラスト近くに描かれた無明逆流れの画から迸る妖気に再び衝撃を受け――この作品の「成功」を感じ取ったのがおよそ半年前。そして第2回目からは、全く予想しなかったことに原作にない二人の剣士の過去のエピソードを延々と語り始めて面食らわせると共に、そこに描かれている、唖然とするほどの狂気と血飛沫の世界にこちらを金縛りにしてくれた「シグルイ」の第1巻がようやく発売になりました。
この作品を表するとすればただ一言。「狂ってる…!」のみ。物語が展開される世界(を支配する論理)も、その中で生きる登場人物も、全てが狂気の色濃く描かれ、うかつな触れ方をすれば、読者であるこちら側もどうにかなってしまいそうなほど。元々、精神的にも肉体的にも過剰な描写で鳴らす作者でしたが、ついにそのリミッターを外してきたか、という印象があります(よりによって原作付き作品で外してくるのがまたこの作者らしい)。
呆れるほど原作とかけ離れた(というより原作に描かれていない)エピソードを展開しながらも、それでもなお、原作の、原作者の描く狂気の世界を見事に写し取った作者の力量こそ端倪すべし、ではないでしょうか。
到底万民にお勧めできる作品とは言いかねますが、優れた原作付き時代コミックは「バガボンド」や「バジリスク」ばかりじゃないんだよ、ということだけは声を大にして言っておきたいと思います。
…で、昼休みにこの本買ってきた帰りに会社の女の子と会って、「一体何買ったんですか? 見せて下さいよ」と言われても、「いやちょっと…」としか言えなかったのが何ともかんとも。せめて2日前に買った「バジリスク」だったら見せられたのに。
「シグルイ」第1巻(山口貴由&南條範夫 チャンピオンREDコミックス)
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