曼陀羅華
末法の世が到来した永承七年。右大臣藤原冬忠の妻・蒼井の上が懐妊したことにより、冬忠の住まう東三条殿の空気が、次第に狂ったものと化していく。蒼井の上のもとで執り行われる奇怪な儀式、妻と子を憎むが如き冬忠の言動…冬忠の娘・桂姫の強い胸騒ぎが現実化していくかのようにその後も奇怪な事件は続き、ついには怪奇な植物の出現により、屋敷に死と汚穢が撒き散らされていく。頼る者を失った桂姫は、魔を打ち祓う力を持つ天文博士・土御門典明の門を叩くが――。
「夢魔の森」「闇の大納言」に続く土御門年代記の第三弾…というより番外編。桂姫を主人公に、奇怪にしておぞましく、かつ美しくも哀しい怪事の数々が語られていきます。形而上的な側面にまで踏み込んで綴られた前二作(特に「夢魔の森」)に比べると、今作ではそういった側面がかなり少なく、正直なところそこが少々物足りなくも思うのですが、桂姫がまだ十二歳であることを思えばそれもまた自然であり、また作中の哀しく残酷な人と人の世のありようは、無垢な少女の目を通して描かれるだけに一層響くものがあるとも言えましょう。
いずれにせよ、今作では思索的な側面が薄まった分、エンタテイメント性は非常に強く、物語が半分過ぎたところでようやく登場し、怪事に立ち向かう典明の姿は、まさしく怪奇探偵(ゴーストハンター)で、その手の作品も大好きな私にとっては楽しめました。そして何よりも、登場する植物の怪の「活躍」たるや――! 頭の悪い感想を言えば、植物怪獣ファン(特にスフランとかグリーンモンスとか、非人間型のが好きな人。…俺だけ?)にはたまらない作品と言えるかもしれません。
ちなみにこの作品、第1回ホラー小説大賞の候補作だったんですなあ…
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