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2004.03.31

太閤暗殺

 実子お拾(後の秀頼)誕生により、甥秀次の存在を疎ましく思い始めた太閤秀吉。危機感を募らせる秀次の側近木村常陸介は、自分の前に現れた一人の男に、太閤暗殺を依頼する。その男の名は石川五右衛門。捕らえられて釜茹でにされたはずの五右衛門は、不可思議な方法で牢獄から脱出していたのだった。五右衛門と常陸介の繋がりを察知した前田玄以と石田三成は、暗殺を未然に防ぐため、五右衛門を追うが。

 本日読了。いやはや、2001年の日本ミステリー文学大賞新人賞もむべなるかなの傑作でした。時代(伝奇)小説として読んでも、不可能ミッションに挑む冒険小説として読んでも面白いのですが、それでいてさらにミステリーとして成立しているのが本書の素晴らしいところ。
 ネタバレにつながるのであまり詳しくは書けませんが、五右衛門の力を示すためだけのエピソードと思っていた脱獄の謎が、終盤に意外な形で物語に絡んでくるのには驚かされましたし、何よりも、物語の構造が全て崩れ去るようなラストのある人物の述懐にはただ嘆息。何故、太閤が暗殺されなくてはならなかったのか、そしてそれを本当に望んでいたのは誰なのか――この作品が単に時代小説の世界にミステリー風味を持ち込んだものではなく、まさにこの時代でなければ成立しえなかったミステリー、すなわち真の意味での時代ミステリーであったかと感じ入りました。
 なお、蛇足ながら付け加えれば、本作での石川五右衛門像は、その過去を含めてあまりに殺伐として感情移入できなかったのですが、ある意味戦国時代の光と言えるある人物との対比として、このような戦国の闇を凝り固めたような人物として描かれているのだな、そしてその五右衛門だからこそ、光の中の闇を浮かび上がらせることができるのだな、とラストまで読んで感じました。

 何はともあれ、本作はまぎれもない大快作。降参です。


「太閤暗殺」(岡田秀文 光文社文庫)


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「弩」怖い話~螺旋怪談~

 「超」怖い話シリーズの加藤一氏がピンで送る怪談集。タイトルにあるように「超」怖の姉妹編に当たる怪談集で、実話を短編小説の形に整えた怪談集といった趣でしょうか。。氏が本書の前書きで、「超」怖が引き算の怪談とすればこちらは足し算の怪談、と実にわかりやすく述べているように、恐怖の中枢にディテールを積み重ねてリアリティを増していく手法が撮られています。この新しい試み、個人的には最近の「超」怖い話には長めの話も多いこともあって、是とも否とも感じなかったのですが、登場人物の名前に注目すると、怖さが何割か増すという構成はうまいものだな、と感心しました。

 本書にはもう一つの試みとして、ネット上に、というか2ch上に書き込まれた怪談をベースとした作品も収録されていますが、つい最近発売された2chの怪談本が特に原著作者に確認を取らずに本を発行した(そしてネット上の著作権を甘く見てもの凄い吊し上げを食った)のと対照的に、こちらでは原著作者と連絡を取り、許可を受けたもとで掲載しているとのこと。2chのオカルト板に書き込まれる怪談には、非常に秀逸なものも多いだけに、クリアすべきところはクリアして、より多くの怪談ファンの目に触れるように公開するこういう試みは大歓迎です。今後にも是非続けていってもらいたいですね。
 ちなみに2ch発の怪談のうち一編は僕も以前元スレの方で見ていたものでしたが、これ、オチが非常にネタ臭くて萎えた記憶が…個人的な感想ですが。

 何はともあれ、前回の「超」怖い話Γ同様、飛び抜けて凄まじいものはないものの、かなり高レベルで手堅くまとめた怪談集として、楽しく(?)読むことができました。個人的にはタクシー怪談「客を拾う」がベスト。ラスト近くまできて、ようやく「そうかそうだったのか!」と堀口博士チックに驚かされました。
 是非ぜひ、続刊を希望。

「「弩」怖い話~螺旋怪談~」(加藤一 竹書房文庫)


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2004.03.30

今日の小ネタ

 仕事が一段落ついて安心したら風邪ひいた…だけならいいんですが、歯まで痛くなってきました。半年くらい前に治療したところなので、ソ○ータイマーよろしく何か仕込んであるんじゃねえの、と疑いたい気分。歯医者イヤ…orz

 そんな中で昼休みに「「弩」怖い話~螺旋怪談~」(加藤一 竹書房文庫)を探しに新橋へ。前に「超」怖い話を買った時は、発売日前日にすぐ見つかったのに、発売日というのに本屋3,4軒を巡っても見つからず、ようやくコンビニで発見。フラフラになりながらも怪談本探して歩く自分の存在がよっぽど怪談だと思いました。


 そんなことはさておき、そろそろ自分の伝奇時代劇に対する態度やら知識やらをきっちりまとめておく必要があるんではないかと思いつつ、あまりの壁の高さにクラクラとしているところであります。

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嶽神忍風2 飛鳥の舞い

 死闘の末「猿」の頭領を倒した多十は、蓮と勝三、そして自分をつけ狙う「猿」の小頭と共に、再び旅を続ける。が、信玄の遺金を狙う大蔵十兵衛に付いたかつての仲間・山の民に捕らわれ、蓮と勝三を奪われてしまう。二人の後を追う多十は、自分が山の民から追放された事件の真相を知る。一方、同じく信玄の遺金を狙う徳川家は、服部半蔵保長と殺戮機械とも言うべき伊賀四天王を送り込んでくるのだった。

 痛快忍者活劇「嶽神忍風」は第2巻を迎えていよいよ快調。今回は、謎のままであった多十の過去の秘密と復讐が描かれる一方で、嬉しくなるほど王道真ッ直線の伊賀四天王との死闘が展開されます。特に煽りに煽って迎えるクライマックスの四天王との対決は、多十に加えて成長した蓮たちをも加えた総力戦、無敵の忍術に対して自然を武器にした山の民、ムカデ衆の殺法で迎え撃つ様は、実に痛快。
 そんな中でも、重い過去を背負いながらも、一文の得にもならない男と男の約束のために命を賭ける多十の男らしさが、押しつけがましくなく描かれていて好感が持てます。何よりも、権力の亡者・権力の狗たちにより依るべきものを奪われたアウトローたちが、乏しい力を束ね集めて、権力による理不尽な暴力に立ち向かうのが気分の良いところです。
 ただ一つ、絶体絶命の危機に陥った多十を救うのがお○○○様というのは唖然としましたが、それも愛嬌、ということにします(何かの伏線かもしれないし…いやそれは無いか)。

 過去への復讐を果たしながらも、山の民全てから追われることとなった多十。そして復仇のため禁じられた伊賀の切り札を解き放とうという服部半蔵保長。相変わらず多十一行の行く手は前途多難ですが、それだけ一層先が楽しみになるわけで、ああ、早く次巻の発売をお願いします。


「嶽神忍風2 飛鳥の舞い」(長谷川卓 中央公論新社C・novels)


関連記事
 岳神忍風 1 白銀渡り
 嶽神忍風3 湖底の黄金

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うしおそうじ先生没

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040329-00000189-jij-soci

 昔からの特撮ファンにはお馴染みの、このサイト的には「怪傑ライオン丸」「風雲ライオン丸」を製作したピープロ設立者うしおそうじ先生(82)が亡くなられたとのこと。色々と面白いエピソードを聞いていましたが、非常にエネルギッシュな方であったように思います。個人的にはご自分で描かれた「風雲ライオン丸」の漫画が好きでした。
 ご冥福をお祈りいたします。


 …しかし珍しい名字だと思ってたら、鷺巣詩郎さんは息子さんだったんですね。

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時代ゲームリンク

 突然ですが、自分用メモもかねて、最近の伝奇時代(周辺)ゲームの公式サイトを列記

風雲新撰組
http://www.genki.co.jp/games/ssg/

サムライスピリッツ零 SPECIAL
http://www.samurai-zero.jp/special/
サムライスピリッツ零
http://www.samurai-zero.jp/

東京魔人学園外法帖血風録
http://www.mmv-i.co.jp/game/majin/

戦国無双
http://www.gamecity.ne.jp/sengoku/

どろろ
http://www.segawow.com/dororo/index.html

天誅 参
http://www.fromsoftware.jp/top/soft/tenchu3/
天誅 参 ~回帰ノ章~
http://www.fromsoftware.jp/main/soft/ten3_kaiki/
天誅 紅
http://www.fromsoftware.jp/main/soft/ten_kurenai/

九怨 -kuon-
http://www.ku-o-n.net/

O・TO・GI ~百鬼討伐絵巻~
http://www.o-to-gi.net/top/

天外魔境3 NAMIDA
http://tengai.jp/pc/ten3/index.html
天外魔境シリーズ
http://tengai.jp/pc/

SEVEN SAMURAI 20XX
http://www.sammy.co.jp/japanese/product/game/consumer/samurai/

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2004.03.29

「空蝉挽歌 暗夜鬼譚」全5巻

 いとこの深雪に連れられて市で暴れ牛に出くわした夏樹の危機を救ったのは、久継という男だった。夏樹は、不敵な笑みと魅力をたたえた久継に、理想の兄に対するような好感を抱く。一方、深雪の仕える弘徽殿の女御の周囲では、怪事が頻発。解決の依頼を受けた夏樹と一条だが、意外な強敵の前に、一条が倒されてしまう――

 暗夜鬼譚シリーズ第7弾は全5巻の大長編。一条や権の博士の術すら通用しない強敵の前に、一度はあの一条が冥界送りにされるという大事件が発生。ラストでは天変地異に襲われた京を舞台に、冥界をも巻き込んだ一大決戦が展開され、これまで控えめだった派手さも充分で楽しめました。特に、これまではクールというか極めてシニカルだった一条が、一度は完膚無きまでに敗れた相手に対し、感情むき出しで立ち向かう様は非常に燃えるものがありました。

 …と感想を終われればよかったんですが、正直に言って結末には大いに不満があります。この作品も、シリーズのこれまでの作品同様、どうしようもない人間の業が積もり積もって怪事・惨事が起きてしまうのですが、その業が、夏樹を初めとして登場人物たちが物語の中で背負った想いが、一切拭われることなくスッパリと終わってしまうのが、どうにもすっきりとしない。
 もちろん、物語の中では何も解決することなく、その先は読者の想像の中にゆだねられている、という結末も大いにありですが、この作品はそういう物語ではないでしょう。少なくとも、ここまで延々とひっぱったのであれば、作中のある人物への夏樹の想い(の一部)は、何らかの形で昇華されてもよかったのでは、とつくづく思います。
 まあ、実は同様の形の結末はこれまでのシリーズでもあったのですが、それは前後編などの場合。(非常に即物的に言ってしまえば)5冊かけてこの終わり方は、シリーズということに胡座をかいているんではないでしょうか、と失礼なことも言いたくなってしまうのでした。

 
「空蝉挽歌 暗夜鬼譚」全5巻(瀬川貴次 集英社スーパーファンタジー文庫)


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2004.03.28

模様替え

 このblogのスタイルシートをいじって、ちょっとだけ模様替えしてみました。
 といっても大筋は変えておらず、フォントのサイズや色を変えたくらいなのですが、今まで毎日目にしながら、「どうも違うんだよなあ…」と思っていたので、ようやくすっきりしました。
 しかしスタイルシートの書式・内容が全然わかっていなかったので、ほぼ半日かけて今まで使っていたスタイルシートの構造を一から勉強。疲れましたがなかなか面白い時間を過ごせました。
 その他、「抜忍伝説」攻略に小源太の巻・幻妖斎の巻のデータを追加。これで攻略に必要最小限のデータが揃った…かな?

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2004.03.26

避難場所

 いつの間にかに行方不明になってしまった朝松先生のサイト。突然見れなくなったので、「奴ら」の手が回ったかと「黒衣伝説」読み過ぎな心配をしていましたが、こちらに避難されたということでまずは安心しました。

 仮とは言えblogを開始された様子で、そういえば村某さんとこもblogになりましたが、blogって結構流行ってるのねえ。ちなみに私は始めて3ヶ月くらいになりますが、いまだに仕組みをあんまり理解してません。トラックバックなんてこないだ初めて使いましたよ?

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「岳神忍風」その他

「岳神忍風2 飛鳥の舞い」(長谷川卓 中央公論新社C・novels)を本日購入。半分くらいまで読みましたが、相変わらず王道ド真ん中の忍者活劇で嬉しくなります。その一方で、重い過去を背負う男が、一文の得にもならない男と男の約束のために立ち上がるという非常に熱い男の世界を描いているのが素敵。

 ちなみに並行して今読んでいるのは「太閤暗殺」(岡田秀文 光文社文庫)。秀次の臣・木村常陸介が、主君に不利な状況を打開するために選んだ策は、生きていた石川五右衛門を使っての秀吉暗殺だった…という設定からして非常に引き込まれる作品ですが、暗殺もの、というより不可能ミッションものという印象で先が楽しみです。

 そうそう、五右衛門が秀吉をムッコロスと言えば、以前講談社ノベルスから発売されていた朝松先生の「妖術 太閤殺し」が、タイトルを改めて「五右衛門妖戦記」として来月発売と。当然「妖術~」も持っていますが、当然「五右衛門妖戦記」も買う予定。

 しかしこちらに表紙も公開されていますが、今までずっとずっと、新版のアルスラーンや篠田真由美の作品の表紙描いているのは末見先生だと思ってました…orz 薄味過ぎる。

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2004.03.25

「新しびとの剣」第2巻

 本日購入。信玄騎馬軍団vs信長鉄砲隊から紫靡帝の佐助スカウト、そして紫靡帝vs信玄第2ラウンドまで。細かい感想は、毎回こちらに書いているので省きますが、やはり何度読んでも佐助スカウト話はグッときます。

 また、安土城での信長と光秀の会話シーン、信長の言葉や表情に微妙な翳りが差していているのには、単行本で落ち着いて読んでみてようやく気づきました。アクションシーンもさることながら、キャラクターの微妙な心の動きをビジュアライズできるのは、やはり漫画の長所ですね。

「新しびとの剣」第2巻(しろー大野&菊地秀行 幻冬舎バーズコミックス)


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人造記

 その筋の人には非常に有名な西行の人造人間作りのエピソードに基づいた表題作をはじめとして、歴史の隙間にひょっと現れた不可思議な人々・事件を綴った短編集。かなり期待していたのですが、個人的にはう~んというところでした。

 題材は面白いものばかりですし、文章や物語運びも水準以上、しかし、個人的な印象で言えば、心に響くものがなかったというか…(「人造記」のラスト、生まれ出た「もの」を挟んで、西行と従者の精神的立ち位置が逆転する場面は非常に好きなのですが)。失礼を承知で言えば、歴史小説としても、幻想小説としても、小体にまとまりすぎているように感じました。

 もちろんこれは私が普段刺激の強いものばかりに触れていて、いわば舌バカ状態になっているだけだとは思うのではありますが。


「人造記」(東郷隆 文春文庫) Amazon bk1


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2004.03.23

新雑誌…

 司書房から成年向け漫画誌「くノ一斬!」が3月末に新創刊とか(「最後通牒」さんより)。

 何というか、時代劇コミック熱もここまで来たか、という気がしないでもないでもないですが、どうしたもんかなあ。一応、エロものと801は手を出さないようにしているので…何故って恥ずかしいから。うーん…

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本に埋もれた日

 忙しい忙しいと言いつつ、昼休みに新橋の駅前の古本市へ。言ってみればでっかいワゴンセールなわけで、品揃え的には微妙なところなわけですが、何となく雰囲気が楽しいので毎回欠かさず足を運んでいます。今日はかなりの寒さに震えながら、「ひよどり草紙」(吉川英治 講談社吉川英治文庫)「異聞・万華鏡」(伊藤榮 廣済堂文庫)「素浪人無惨帖」(島田一男 春陽文庫)と、「服部半蔵」全10巻(戸部新十郎 光文社文庫)を購入。一番最後の「服部半蔵」は、全部で500円という異様な安さに重さも忘れて飛びつきました。
 帰り道には「鉄人28号 皇帝の紋章」第1巻を買って、さらに注文していた「ヤングジャンプ増刊 漫革」のバックナンバー2冊が届いたとの知らせでそれも受け取って帰宅(買おうと決めていた漫革も残り1冊まで来ました)。

 家に着いてみたら、ビーケーワンに注文していた「太閤暗殺」(岡田秀文 光文社文庫)「毒牙狩り 波浪島の刺客」(早坂倫太郎 集英社文庫)「仕組人必殺剣」(増田貴彦 学研M文庫)「細雪剣舞 暗夜鬼譚」(瀬川貴次 集英社コバルト文庫)「凶剣凍夜 暗夜鬼譚」(瀬川貴次 集英社コバルト文庫)「ゴージャス★アイリン」(荒木飛呂彦 集英社YJC-UJ愛蔵版)「変人偏屈列伝」(荒木飛呂彦&鬼窪浩久 集英社YJC-UJ愛蔵版)が届いていましたが、いつ読むんでしょ、これ。

 う、さすがに本の名前並べるだけの日記ってつまらないな…

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2004.03.20

平蜘蛛の妖し夢 黎明に叛くもの1

 元亀二年晩秋、明智光秀は、比叡山焼き討ち以来、身辺で相次ぐ怪事を封じる法を求めて信貴山の山城を訪れていた。その光秀の前に現れたのは、金髪碧眼の傀儡師「果心」を操る怪老人・松永久秀。その久秀こそは、かつて兄弟子・松波庄五郎――後の名を斎藤道三――とともに、波斯渡りの暗殺術「波山の法」を修め、稚児から戦国の世を左右する存在にまでのし上がった妖人だった。戦国乱世の陰で妖しく輝く明けの明星、黎明に叛くもの松永久秀の過去とは如何に。

 本日読了。先にハードカバーで出版された「黎明に叛くもの」を、4分冊とし、各巻に書き下ろし外伝を収録するという形でノベルズ化されたこの作品、前々から気になっていたのですが、やはり非常に魅力的な、というより蠱惑的な、伝奇ファンとしては堪えられない作品のようです。
 この作品の秀逸な点、最大の魅力は、あの悪名高き松永弾正久秀を、波斯渡りの暗殺術(しかもその由来はかの暗殺教団、ニザリ・イスマイリ!)を操り、金髪碧眼の生き人形その名も「果心」を連れた美貌の妖人として描いているところ。古今、松永久秀を題材にした小説は少なくありませんが、このような魔王ルシファー(いやペルシャだからイブリースですな)にも比されるキャラクターとして描いて見せたのは、空前絶後でしょう。というか、小島文美様の手による表紙に描かれた美青年を誰が弾正久秀と思おうか(笑)。
 この第1巻では、現在(元亀二年)の場面では久秀と光秀の信貴山での出会い、過去の場面では久秀が三好長慶と共に天下を窺う辺りまでと、まだまだ物語は始まったばかり。久秀が、道三がどのようにして戦国の世でのし上がっていくのか、道三は、長慶は何故史実のような運命を辿ることとなったのか、光秀と久秀の過去に秘められた因縁とは何か、そして光秀の運命は…。先が気になるのはもちろんのこと、一気に単行本でまとめて読んでしまうのも手ですが、じっくりと一冊一冊自分を焦らしながら読むのもまた快感。残り3巻、心から楽しみに待とうと思います。書き下ろし外伝も楽しみですしね。


「平蜘蛛の妖し夢 黎明に叛くもの1」(宇月原晴明 中央公論新社Cnovels)


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特捜戦隊デカレンジャーvs新選組!!

「特捜戦隊デカレンジャーvs新選組!!」

 「仮面ライダー555vs宮本武蔵」「イケメン新選組」に続き、東映特撮ヒーローと時代劇の狂ったリンクがまた一つ。まあ、どちらも法の番人的側面はあるっちゃあありますが…。「新選組!!」と「!」が一個多いのが泣かせどころ。
 よく見ると新選組側の登場人物に芹沢鴨がいるのが微妙なところで、これはあれですか、鴨さんにアリエナイザーが取り憑いて何かやらかすんでしょうか。そしてジャッジメントでダメ出しされた挙げ句デカレンジャーと新選組にフクロにされる鴨さん(´Д⊂

 そんなことよりもグランセイザーもこんなバカ企画やってくれよう…

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2004.03.19

剣豪i 戦国群雄篇

 折角新しめの携帯電話を使ってるんだから、iアプリにも手を出すか! と(やめときゃいいのに)考えて、この「剣豪i」シリーズをプレイ開始。
 「剣豪」といえば元気の看板シリーズの一つたる剣客シミュレーションゲームですが、タイトル通りこれはそのiアプリ版。あの内容をどうiアプリで展開していくのかな、と思いましたが、なかなか面白い内容に仕上がっています。
 一番の眼目であるチャンバラシーンは、さすがにPS2版のようなバリバリのアクションではなく、タイミングよくボタンを押していく音ゲーチックなノリではあるのですが、単純なようでいて相手との距離や構えによって技を繰り出していくのはなかなか面白く、画面はまったく異なるのに「剣豪」シリーズのテイストをうまく再現しているように思います。

 面白いのはこのシリーズ、様々な時代を舞台にいくつかのシナリオが発表されていて、データをある程度共有できること。一つのシナリオはそれほど長くはないのですが、こういうスタイルであれば納得でしょう。
 で、今回プレイしたのは、時代的に一番最初(…と思ったら実は違った)の「戦国群雄篇」。戦国と言いつつ舞台は江戸時代初期だったり、十兵衛がいるのに石舟斎が存命だったり、小野忠明が城下の道場主を不甲斐ないとブチのめしたりと、時代ものとして見れば工エエェェ(;´Д` )ェェエエ工的な部分も多いのですが(最後のはあんま違和感ないですが)、上記の通りゲームとしてはなかなか面白いので良しとします。現在は「巌流島篇」プレイ中。相変わらずツッコミどころは多いですが、楽しんでます。


 …しかし前から思ってたんですが、ゲームのプレイに特化した(と言わないまでもある程度合わせた)iモード端末って結構いけると思うんですけどね。iアプリのゲームも驚くほど種類が出てますが、少なくとも携帯電話で弾幕シューをやるのは限界あると思うんですけどね。


「剣豪i 戦国群雄篇」(元気 iアプリ)

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五月雨幻燈 暗夜鬼譚

 久方ぶりに平和に暮らす夏樹。そんなある日、一条が師匠の弟・真角と二人、丹波の師匠の父のもとへ旅することになる。犬猿の仲の二人の道中を気遣う夏樹だが、思わぬ災厄が彼を襲おうとしているとは知るよしもなかった…

 何だか最近すっかり暗夜鬼譚ファンサイト化ですが、それはともかくシリーズ第6弾は、ほとんど番外編的ノリのコメディ色の強い一編。一条と師匠の賀茂権の博士を逆恨みした術者の呪いがなぜか夏樹を襲撃、一条のいない京で悪戦苦闘する夏樹の姿がに同情しつつも、やはり笑ってしまいます。その設定・キャラの華やかさ・可笑しさの一方で、ストーリーの上では哀しい部分・重い部分も少なくないこのシリーズですが、たまにはこういうのもいいでしょう。


「五月雨幻燈 暗夜鬼譚」(瀬川貴次 集英社スーパーファンタジー文庫)


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2004.03.15

今日の小ネタ

アニメ「修羅の刻」情報

その1
その2

 やばい…シリーズ構成がT大先生だったorz
 月刊マガジン本誌にはもう少し詳しい情報が載っていましたが、確か陸奥出海の声が郷田ほずみだったはず。キリコ…


ラヴクラフト先生の命日(UNCLE DAGON TEMPLE)
 3月15日は怪奇小説の鬼、 H.P.ラヴクラフト先生の命日だったと恥ずかしながら初めて知りました。まあ、フリッツ・ライバー先生によればラヴクラフト先生はユゴス星人に脳みそ取り出されて宇宙旅行しているんですが。
 リンク先の3月15日の日記に掲載された小論は、ラヴクラフトファンとしても当時のパルプホラーに興味を持つ者としても、非常に興味深い内容でした。


「平蜘蛛の妖し夢 黎明に叛くもの1」(宇月原晴明 中央公論新社Cnovels)
 今日から読み始めました。まだ冒頭部分ですが、松永弾正が怪老人としか言いようのない姿で登場してきただけでもうワクワク。話の中に釣り込まれました。他の本も平行して読んでいるので、まだまだ先は長いですが、楽しみです。


「ヤングジャンプ増刊 漫革」
 思うところあって、「ヤングジャンプ増刊 漫革」のバックナンバーを集め始めました。運の良いことに、1冊を除いて、探している分は全て集まりそう。ここまで来て残り1冊が揃わないのは非常に悔しいので、どなたか2002/9/25 No.29をお持ちの方は、定価ぐらいでお譲りいただけないでしょうか。真剣にお願いします。

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陰流・闇仕置 悪党狩り

 生け花の宗匠として深川に暮らす花月庵蒼生こと松平蒼二郎は、父・松平定信の密命の下に政敵を斬る刺客という裏の顔があった。不思議な縁から伝説の渡世人・辰次、茶器を利用した戦闘術・武家手前の達人の澄江、豪剣を操る青年医師・丈之介と出会った蒼二郎は、仲間たちとともに、江戸の闇に巣くう許せぬ悪を斬る闇仕置きを開始する。

 「陰流・闇仕置」シリーズ第2弾。シリーズの基本フォーマットは前巻でほぼできあがっているためか、今作では安定した内容で作品世界を展開している印象。内容的には貴種流離譚+必殺と、正直に言ってしまえば非常に良くある設定ではあるのですが、キャラ設定の巧みさと、何よりも剣戟描写の確かさ・面白さで、凡百の作品に堕していないのが見事なところです。蒼二郎の必殺剣である「蜘蛛糸の太刀」も、一見理屈無用の必殺技のようでいて、きっちりと説得力ある理論が用意されているのには感心しました。
 圧巻は第2話「鞍馬流血讐剣」で、それぞれに個性的なキャラを持ち、それぞれ異なった武術を修めた敵味方の登場人物たちが、それぞれの業を展開してみせるラストのアクションシーンは、チャンバラの妙味を充分堪能させてくれました。
 主人公の立場は、言ってみれば権力の走狗である刺客人。今作ではたまたま標的が非道の悪人であったため問題はありませんでしたが、今後悪人ではない相手を斬らざるを得なくなった場合、蒼二郎は、仲間たちはどうするのか。そういった興味も含めて、今後が楽しみな上質の娯楽時代劇と申せましょう。


「陰流・闇仕置 悪党狩り」(牧秀彦 学研M文庫)


この記事に関連した本など

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紫花玉響 暗夜鬼譚

 葵祭りも近い頃、息抜きに「運命の出会い」求めて夜の京をお忍びで行く帝の供を務めることになった夏樹。見事な藤の花咲く家で出会った藤香姫に一目惚れした帝だが、次の日、その家は跡形もなく消えてしまっていた。藤香姫を捜して京をさまよう羽目になった夏樹は、ある晩夜盗に襲われていた美少年・馨を助けることとなる。一方、承香殿の女房となっていた藤香姫と再会した帝だが、不可思議な様子でやつれ果てていくことに…

 暗夜鬼譚シリーズ第5弾。キャラクターの掛け合いも愉快ですが、それだけで終わることなく、きっちりとストーリーをそれに連動させて展開させていくのには好感が持てます(当たり前のことのようですが、それが出来てない作品も世には多いですからね)。結末で明かされる魔の正体にも一ひねりあって、ちょっと感心しました。
 今作で初登場した馨のキャラクターもなかなか面白く、今後のシリーズにも大いに絡んで欲しいものです。深雪は恋する乙女というよりむしろ腐女子になってますが…


「紫花玉響 暗夜鬼譚」全2巻(瀬川貴次 集英社スーパーファンタジー文庫)

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2004.03.14

「抜忍伝説」攻略始めました

http://homepage2.nifty.com/mitamond/nukeden/nukeden_top.htm

 だいぶ前にクリアし終わったのに、その他にやることが色々出来たので放置状態になっていた「抜忍伝説」の攻略ページをようやく始めました。
 データはプレイしながら集めていたので、後はそれをまとめるだけ! と思っていたら、そのだけが辛かった。とりあえず邪鬼丸の巻分だけ公開。これから徐々に追加していきます。

 しかしあれだ、ページ作ってる時間の1/3くらいは、壁紙探しとレイアウトに悩んでいたような気がします。

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今日のちょっとやな話

 友達の子から来たメールに書かれていた話。
 遠くの友人から届いたホワイトデーのお返しの箱を開けてみたら、

蛇とわら人形と八つ橋

が入っていたとのこと。

 こんなプチ平山夢明先生の世界めいたことが身近で起きるとは、と感動しつつ、「蛇は生きてた? わら人形は未使用?」とメールしたけれども、返事はまだ返ってこない。

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2004.03.10

4月の新刊など

 発売スケジュールに4月の新刊情報を追加しました。今のところ、伝奇時代劇絡みではどうもパッとしないのが正直なところ。その中で目を引くのが、ちくま文庫からスタートする「山田風太郎忍法帖短編全集」。正直、どのようなラインナップになるかわかりませんし、私ゃ角川・文春etc.で山風の短編忍法帖はほとんど読んでいるので、よっぽどのレアものが入らないと手を出さないかな(ちくまって高いしね…)
 そして個人的に一番気になるのが、13日発売予定の加野厚志「姫巫女烏丸龍子 京都魔性剣」。烏丸龍子さんといえば、かつて廣済堂文庫で沖田総司をあごでさんざんこきつかって女性ファンの怒りを買った素敵な女王様ですが、果たしてあのシリーズの続編なのか、それとも出版社が変わっての再版なのか。前者であれば総司がタイトルに出てこないのは、「探偵沖田総司」(毎日新聞社)の後の世界ってことなのか…(´Д⊂


 しかし伝奇時代劇からは全く外れますが、驚くのが「「超」怖い話」シリーズの躍進ぶり。3月にはシリーズ番外編と言うべき「「弩」怖い話」が発売されて、4月にはコミック版と、「東京伝説」の新刊が発売。どうも5月にも何かあるようで(ビデオ版かな?)、ファンとしては嬉しいような心配なような。特に、チキンレースで言えばとっくにライン越えてるのにアクセル全開な平山先生は、いつか新聞の三面記事に載るんじゃないかと気が気でありません。

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2004.03.09

中毒

 何だかずいぶん久しぶりに「今回の伝奇時代コミック」を更新。「鬼哭忍伝 霊牙」「無限の住人」「幻蔵人形鬼話」「新・しびとの剣」「SAMURAI DEEPER KYO」の最新号までの感想を追加しています。

 ちなみに最近は、「戦国無双」を放っておいて「GUNGRAVE O.D」を狂ったようにやってます。まさにOver Dose(薬中)状態。3人の主人公がそれぞれ全く違った性能だし、やればやるほど自分の上達がわかって面白い。細かい不満は色々ありますが、値段以上の価値はあるなあ。

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サロメ

 日記を書き損ねてましたが、7日に新国立劇場でオペラ「サロメ」を観てきました。当方、オペラについては知識がからっきしで、これくらいの場で行われるものであれば、それは歌や音楽は見事に決まっているだろうと、個人的にはむしろ「なぜ、サロメなのか?(サロメを戯曲化したのか、何故今上演するのか)」という点に注目していました。

 サロメと言えば、やはりヨハネ(ヨカナーン)の生首に口づけするというイメージが鮮烈で、頭の中では妖女・毒婦の代名詞のような印象があったのですが、このオペラで描かれるサロメは、むしろ純粋で、いかにも思春期(設定年齢たしか16歳)の少女、という印象を受けました。そのサロメが、利己的で、欲望まみれな周囲の大人たち(義理の父は娘に色目を使うゲス野郎で母はド淫乱、王の周囲の者たちは文字通りの神学論争に明け暮れてる)の中で強い孤独を感じ、そんな人間たちとは違う存在と感じられたヨカナーンからは、手厳しく拒絶された時――何かが壊れたか、父王の前で妖艶な踊りを舞い、その褒美としてヨカナーンの首を所望することになる。そんなサロメの姿は、むしろ悲劇のヒロインで、ラスト、物言わぬヨカナーンの生首に切々と語りかける様は、強い哀しみと切なさを感じさせてくれました。
 冷静に考えてみれば、サロメのエピソードは有名であるし、舞いのシーンはあるし、舞台で演じるにはむしろ適した題材なのかもしれません。しかしこのオスカー・ワイルドの手になる「サロメ」からは、サロメの姿に女の業と、純粋であるが故に壊れていく若い心の悲しさが感じとられて、それは現代にも――いかなる時代にも――通じるものであるのだな、それだからこそ、今に至るまで演じ続けられているのでないかな、という感想を抱きました。と、聞いたような口をきいてみる。
(まあ、最近、物語(特に古典)は何故語られ続けるのか、という点に興味を持っている人間なので、変な感想でも勘弁して下さい)


 まあ、照れ隠しにベタなツッコミをすると、周囲から心配されるほどやつれているサロメを、すばらしく豊満な(婉曲的な表現)方が演じているのはどうよ、ってな感じでした。もちろんそこは目をつぶるのがお約束、なのでしょうが、舞いのシーンはちょっとツラかったわよねえ、というのが、一緒に行った面子の共通した認識であったことですよ?

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血染雪乱 暗夜鬼譚

 夏樹のいとこの深雪に文を送る者が現れた。それが事もあろうに一条の師・賀茂の権博士であると知った夏樹は、深雪の真意も知らずに権博士の真意を探ることを請け負う。一方、都の魔所の一つ・河原の院では鬼による吸血殺人事件が発生。被害者が夏樹の友人の武士・弘季の親友夫妻であったことから、弘季に同行して鬼退治に向かう夏樹だが、彼の前に現れた鬼は、権博士と瓜二つの顔をしていた。

 まだまだ平安ものを。「暗夜鬼譚」シリーズ第4弾は権博士から深雪に送られた文にまつわる騒動を縦糸に、その権博士と瓜二つの吸血の鬼の謎を横糸に展開。すっかり軌道に乗ったシリーズものらしく、レギュラーキャラのからみだけで楽しく、安心して読むことができますが、その一方で、権博士の弟の、兄への複雑な想いが悲劇を起こす様も織り込まれていて、単なるキャラもの小説に終わってはいません。深みはないですが、何も考えずに楽しむのにはうってつけでした。
 …しかし、美人だけど強気で主人公には強く当たってばかりだけど実は主人公のことが――という幼なじみという設定は、太古の少女漫画から今日びのギャルゲーに至るまで、永遠なんですなあ。


「血染雪乱 暗夜鬼譚」(瀬川貴次 集英社スーパーファンタジー文庫) Amazon bk1


この記事に関連した本など

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2004.03.04

「修羅の刻」アニメ化

http://gameonline.jp/news/2004/03/03019.html

 「修羅」でゲーム化っていうと(黒い)笑いがこみ上げてきますネ。なお、別に見たところでは、アニメ化されるのは、宮本武蔵篇(単行本1巻)、寛永御前試合篇(5,6巻)、幕末篇(2,3巻)の模様。よかった、源平篇じゃなくて…。
 個人的に原作では寛永御前試合篇が最高傑作だと思っているので、期待しているところであります。声優さんが楽しみだなあ。

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岳神忍風 1 白銀渡り

 掟を破って山の民から追放された「一人渡り」多十は、天目山の戦いで敗れた武田勝頼一行と出逢い、末子・若千代を落とすこととなる。旅の途中、信玄遺金を求める大蔵藤十郎らに一族を虐殺された金堀衆「ムカデ」の少女・蓮を加えた多十一行だが、同じく信玄遺金を狙う真田配下の忍者団「猿」により、若千代改め勝三が奪われてしまう。多十は蓮とただ二人、絶望的な戦いに挑むが。

 最近、平安時代専門サイトとなってしまっていましたが、久々に戦国時代ものを。「南稜七ツ家秘録」シリーズで山の民という特殊な存在を描いてきた長谷川卓氏ですが、今作の主人公も山の民。その人ありと名を知られながらも、いかなる理由でか一族を追われ、孤独な旅を続ける主人公・多十のアクションは、豪快かつ実戦的なもので、他の作品では見られない、この作品の大きな売りとなっています。ストーリー的にも、逃避行あり少年の成長あり、敵討ちあり宝探しありと盛りだくさんで、時代アクションエンターテイメントの王道を行く内容。この第1巻ではかろうじて「猿」との戦いを凌いだ一行ですが、蓮の仇の一人である大蔵藤十郎(後の大久保長安)は家康と結び、おそらくこれからは徳川配下の忍者との戦いが待っているのでしょう。まだ見えない信玄遺金の在処、多十の過去、蓮の復讐の行方――次巻が大いに楽しみです。


「岳神忍風 1 白銀渡り」(長谷川卓 中央公論新社C・NOVELS)


関連記事
 嶽神忍風2 飛鳥の舞い
 嶽神忍風3 湖底の黄金

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2004.03.03

GUNGRAVE O.D.

 明日発売のソフトをフライングゲット。とりあえずステージ1をクリアするところまでやってみました。前作のファンなので楽しみにしていたのですが、ざっとプレイした感覚は、良くも悪くも変わってないな、というところ。元々、簡単操作でバキバキそこら中をブッ壊せるというのがこのゲームのウリなはずですが、そこは全く変わらず。殺られる前に殺れ! よけてる暇があったら飛び込んで撃ちまくれ! というブッ飛んだゲーム性は相変わらずで気持ちがいい。

 とはいえ、主人公側のキャラクターがドッと増えた上に、子供はいるわ大塚芳忠はいるわとずいぶん賑やかになってしまって、雰囲気はだいぶ変わってしまったな、という印象。あと、敵のグラフィックは前作より粗くなってるような…セーブポイントが増えているのも、テンポが削がれるような気がします。

 とはいえ、世の二丁拳銃アクションファンならば当然買いのゲームでしょう。さて、もうちょい進めてみますか(このもうちょい、もうちょい、と思ってしまうのがこのシリーズの怖いところだなあ)

「GUNGRAVE O.D.」(レッドエンターテイメント PS2用ソフト)

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2004.03.02

夢源氏剣祭文

 父・藤原秀郷を訪ねての旅の途中に母を亡くした少女・茨木は、黒蔵主なる鬼に襲われて耳を噛まれ、鬼の毒により年を取らない体となってしまう。いずれは千年の魔鬼と化す宿命を見抜いた安倍晴明の導きにより一度は大江山で眠りにつくも、やがて目を覚まし都に出た茨木。彼女を待っていたのは、羅城祭開催に向け奸計を巡らす藤原一門に命を受けた源頼光による鬼騒動だった。果たして茨木の運命や如何に――

 平安時代を舞台にした伝奇ロマンの大快作。年に百作以上伝奇時代もの、時代ものを読んでいれば、いいかげん作品に対して冷静に接するようにもなってくるものですが(…そうか?)、この作品に関しては、薄幸…というより明らかに不幸な主人公・茨木の運命にハラハラしっぱなし。特に中盤の坂を転がるような茨木の転落ぶりは、「史実」に残る茨木童子の運命から鑑みて明るい未来は想像しにくいだけに、真剣に気持ちが暗くなったり心配したりと感情移入しまくりでした。
 そうした優れたエンタテイメントである一方、作品の早い段階で「見える鬼=いわゆる人ならぬ者としての鬼」と「見えぬ鬼=権力とそれに対する執着」という2つの「鬼」の概念が提示され、登場人物のそれぞれが、その両者の間で揺れ動き、物語を紡いでいくのがまた味わい深い。人の心が見えぬ鬼を生み、そしてその見えぬ鬼により脅かされた人々が、見える鬼と化していく。物語の中に様々な形で登場する「鬼」は、陳腐な言い方かもしれませんが、人間の業の象徴なのでしょう。言い換えればこの作品を貫くテーマは、鬼とは何か――裏返せば人間とは何かという普遍的かつ重いものと言えます。さすがは小池一夫先生。
 ちなみにこの作品、上に上げたほかにも、平将門、藤原純友、八百比丘尼、芦屋道満、藤原道長、渡辺綱、金太郎etc.と平安時代の有名人、オールスターが勢揃い。歴史を知っている方であれば、あれ、ちょっと時代ずれてない? と気づくかと思いますが、何せ茨木は年を取らないという設定なのでそこもまたうまいところ。時代伝奇ものとして、一風変わったお伽ばなしとして、そしてそれらの姿を借りた優れた人間ドラマとして、少しでも多くの人に読んでいただきたい作品です。


 おまけ話。この作品、NHK-FMのラジオドラマ「青春アドベンチャー」でドラマ化されているようですが、このシリーズ、改めて見るともの凄いラインナップですね。いわゆるYA向けノベルから新本格、SF、歴史時代ものまで非常に幅広いラインナップで、ちょっと聞いてみたくなる作品が山のように…が、その中にあの「妖異金瓶梅」が入っていたのにはさすがに驚きました。いいのか、そんなんやって。


「夢源氏剣祭文」全2巻(小池一夫 毎日新聞社) Amazon bk1


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鬼神新選II 東京篇

電撃文庫の新刊

「鬼神新選」の続巻キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 京都篇が連載されてた「電撃hp」にも続きが載っていないようだし、もうアレなんじゃ…と心配していたのですが一安心(考えてみれば新撰組ブームの時期に出さない手はないですわな)。ベタベタな予想としては、斎藤一が出てくるんじゃないかと思うのですが(主人公側、戦力なさすぎですし…)、さすがに安直な予想かな。

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2004.03.01

夜叉姫恋変化 暗夜鬼譚

 秋の野で出会った美少女・常陸の君に一目惚れした夏樹。しかし常陸の君には、こともあろうに主上も一目惚れしてしまうのだった。一方、都では残虐な盗賊・俤丸が跳梁し、宮中では物の怪の出没が相次いでいた。俤丸一味、そして物の怪に一条の手を借りつつ立ち向かう夏樹だが、その両者と常陸の君には意外なつながりがあった。

 「暗夜鬼譚」シリーズ第3弾。読本、歌舞伎などで有名な滝夜叉伝説をモチーフに、オールスターキャストで展開されたシリーズ初の上下巻本で、理屈抜きで楽しめました。内容的には、ベタな三角、四角関係が展開されて、いい年こいた野郎が読むには非常に気恥ずかしいものがあったのですが、終盤で明かされる滝夜叉の「真実」には驚かされました。ネタ的にはよくあるものなのですが、それがここで――妖術や幽霊が当たり前に出てくる世界で――出てくるとは思わなかったのもので、嬉しい驚きを味わいました。
 個人的には、夏樹と一条の友情にもう少しスポットを当てて欲しい気もするのですが、その辺は一歩間違えると怪しからぬ世界に突っ走ってしまいそうなのでまあ良し。


「夜叉姫恋変化 暗夜鬼譚」全2巻(瀬川貴次 集英社スーパーファンタジー文庫)


この記事に関連した本など

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