太閤暗殺
実子お拾(後の秀頼)誕生により、甥秀次の存在を疎ましく思い始めた太閤秀吉。危機感を募らせる秀次の側近木村常陸介は、自分の前に現れた一人の男に、太閤暗殺を依頼する。その男の名は石川五右衛門。捕らえられて釜茹でにされたはずの五右衛門は、不可思議な方法で牢獄から脱出していたのだった。五右衛門と常陸介の繋がりを察知した前田玄以と石田三成は、暗殺を未然に防ぐため、五右衛門を追うが。
本日読了。いやはや、2001年の日本ミステリー文学大賞新人賞もむべなるかなの傑作でした。時代(伝奇)小説として読んでも、不可能ミッションに挑む冒険小説として読んでも面白いのですが、それでいてさらにミステリーとして成立しているのが本書の素晴らしいところ。
ネタバレにつながるのであまり詳しくは書けませんが、五右衛門の力を示すためだけのエピソードと思っていた脱獄の謎が、終盤に意外な形で物語に絡んでくるのには驚かされましたし、何よりも、物語の構造が全て崩れ去るようなラストのある人物の述懐にはただ嘆息。何故、太閤が暗殺されなくてはならなかったのか、そしてそれを本当に望んでいたのは誰なのか――この作品が単に時代小説の世界にミステリー風味を持ち込んだものではなく、まさにこの時代でなければ成立しえなかったミステリー、すなわち真の意味での時代ミステリーであったかと感じ入りました。
なお、蛇足ながら付け加えれば、本作での石川五右衛門像は、その過去を含めてあまりに殺伐として感情移入できなかったのですが、ある意味戦国時代の光と言えるある人物との対比として、このような戦国の闇を凝り固めたような人物として描かれているのだな、そしてその五右衛門だからこそ、光の中の闇を浮かび上がらせることができるのだな、とラストまで読んで感じました。
何はともあれ、本作はまぎれもない大快作。降参です。
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