髑髏城の七人 アオドクロ
既にちょっと触れましたが、土曜日に日生劇場で「髑髏城の七人 アオドクロ」を観てきました(しかしブログで過去のことを今更書くのってどうよ、という気もしますな。日付だけ遡って設定すればいいのかなあ)。
「髑髏城~」については97年版のDVDも手に入れたので比べてみてようやくわかったのですが、春に上演された「アカドクロ」の方がむしろ特殊なケースだったんですね。このアオの方が、97年版の方を引き継いだ正常進化というべき作品となっていました。
アカの方が(今観てみれば)ひたすらシンプルに、必要最小限の要素で物語を組み上げていったのに対して、アオの方は歌あり踊りあり、バカ度も相当にアップして、物語に豪華絢爛なデコレーションを積み上げていった作品という印象。プログラムでいのうえひでのり氏が、アカは麺とスープで勝負したラーメンだとすれば、アオは具材をたっぷり乗せたこってり風味のラーメンと表現していましたが、全くその通りだと感じました。時代劇という目で見ればアカの方がよりそれらしいのでしょうが、私は新感線の劇中歌が大好きなこともあり、アオの方ももちろん非常に楽しめました。
このアオでは、これまで初演以来古田新太が演じてきた主人公・捨之介を市川染五郎が演じるということで、非常に楽しみにしていたのですが、これがまた予想通り期待通り、イキでスマート、実に痛快なキャラクターとなっていました。所作の決まり様とカツゼツの良さは言うまでもなく、普段は脳天気な二枚目半でありながら、決めるときは決める男の中の男を好演していました。
…が、贅沢を言えば、あまりに格好良すぎて、古田捨之介にあった必死さの中にある男の格好良さ、過去を背負った人間の重みという点では少し物足りなかったかな、という印象があります。
一方、二役の天魔王の方。これが実に素晴らしかったと思います。元々、アカに比べれば一幕二幕両方の冒頭に出番が増えており、そういう意味では脚本や演出に依るところもあるのでしょうが、とにかく劇中で描かれる天魔王の姿は、強く恐ろしく、そして美しいという、ある意味敵役の理想型。後半の無界の里襲撃時の残虐ファイトもあって、「どうやってこんな奴に勝つんだよ」感が頭抜けておりました。また、二幕冒頭の、敦盛を舞いながら忍びたちを殺戮していくシーンは、染五郎ならでは、と言ってよいのではないでしょうか。
その他のキャストでは、忠馬と蘭兵衛は、個人的にはやはりアカの方が良かったかなあというのが正直なところ。忠馬は、これまでの版で忠馬に当たるキャラだった兵庫が「豪快」とすれば、むしろ「やんちゃ」というべきキャラだったのがちょっと違和感がありました。
また、蘭兵衛については、うーん、普通に演じていたなあという印象。元々色々と立ち位置的に難しいキャラクターだと思いますが、もう一ひねり、蘭兵衛のもつ歪みというものを表現して欲しかったように思います(こう考えると、登場時点から歪みが生じていたアカの蘭兵衛は、うまく考えられたキャラクターだと思えます)。もっとも、この辺りはまだまだ上演が始まったばかりということもあり、これからどんどん練られていくに違いない、と思います。
そのほか、鈴木杏は「男勝りで無鉄砲な元気少女」という、ある意味時代劇定番キャラクターをばっちりと好演、高田聖子サマも相変わらず女っぷりがステキでした。
と、知ったかぶりしてグダグダと書きましたが、やっぱり面白い作品、伝奇時代劇ファンにとってはたまらない作品でありました(各版で微妙に筋やキャラが違うという、バージョン違い萌えにとってはたまらない点もありますし)。今年最強を謳われる台風にもめげず、嵐の直撃を食らって下半身ビシャビシャになってまで行った甲斐は十分にあったと思います。カーテンコールで染五郎が列車の運休情報を読み上げるという、超レアもののボーナスもありましたしね。
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