逢魔が源内
江戸に知らぬものとてない天才蘭学者・平賀鳩渓源内。冴え渡る美貌と類い稀なる頭脳を持ち、不遜とすら言える自信過を持つ源内には、しかし、夕刻の一時、誰にも姿を見せず引き籠もるという奇癖があった。源内が憎しみと畏れを抱く「あいつ」とは何者か? そして源内の周囲に現れる菅笠被りの鎧櫃の男とは? 妖人怪人入り乱れる江戸を、源内が行く。
もはや時代小説家、と言っても過言ではないほどこの分野でここ数年めざましい菊地先生の連作短編集。主人公はタイトル通りあの平賀源内ですが、菊地先生が書く以上、もちろん並みのヒーローであるわけはなく、知勇優れながらも(西洋拳闘術の使い手!)ひねくれ者で自信家、生臭いところも持ち合わせている源内先生のキャラクターは、既存の平賀源内のイメージを活かしつつもその延長線上にある、非常に魅力的な人物となっています。
と、ここで終わらないのがこの作品、というか菊地先生。平賀源内には、タイトルの由来であり、源内自身が畏れるもう一人の顔があった! というわけで、源内先生、菊地作品ではお馴染みのアレなのがこの作品のさらに面白いところ。
いわば探偵と犯人が同一人物とでもいうべき状況で、そこにまた菊地時代伝奇の常連の人形遣いが絡んできていよいよ混沌模様。果たして物語がどこに進むのか見当も付かないエピソードも多く、一歩間違えれば構成がとっちらかりそうなところをまとめているのは、これはもう作者の腕だなと素直に思います。
毎回冒頭に入る菊地先生と担当のやりとりも不思議な味わいがあって、最近の菊地先生の時代小説の中で、個人的に一番好きな作品かもしれません。アンケート最下位なんてご冗談を、シリーズの続編に期待します。
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