SHIROH
昨日、劇団☆新感線の新作「SHIROH」を帝国劇場で見てきました。
今作は、島原の乱を舞台としたロック・ミュージカル。新感線初の(っていうのがかなり意外に感じられますが)ミュージカル、しかも場所は帝劇というわけで果たして…と思いつつ見に行きましたが、やはり水準以上のデキで、「ジーザス・クライスト・スーパースター」を彷彿とさせる「神と人間」「信仰と人間」を描いた好篇となっておりました。
内容的には、かの天草四郎を二人のSHIROH、すなわち、かつて神の子と呼ばれながらもその力を失った青年・益田四郎と、神の歌声を持つがゆえに乱の旗印として立つこととなる少年・シローとして描いている点が伝奇的にも面白く、そしてそれが些末なことに思えるほど、物語を単なる夢や希望を描いたものでなく、深い陰影に富んだものにしている点が、やはり強く印象に残りました。
益田四郎を演じているのは、上川隆也。正直、歌については微妙…でしたが、やはり決める時の台詞の格好良さは無類で、また剣戟シーンの腰の据わりようも及第点(さすがに橋本じゅんの方が動き良かったですが)。何よりも、ある事件が元で神の力を失い、罪の意識と無力感に苛まれながらもリーダーとして立つことを求められる青年の揺れ動く心を、しっかりと体現して見せていたのは流石の一言。
そしてもう一人のSHIROH、シローを演じたのは中川晃教。私は恥ずかしながらこの人の歌を、歌声を聴いたのは初めてなのですが、正直、参りました。月並みな言い方は――そしてこの作品の内容を考えれば――あまりしたくないのですが、まさしく天使の歌声。4時間近い長丁場でも枯れることないその歌声はむしろ驚異と言えるほどで、夢やら希望やらといった甘ったるい代物を謳った歌も全く鼻につくことなく――そしてそれだけにそれが終盤ズタズタにされていく様がより一層鋭く胸に響きました。
この二人のコントラストによって、ともすれば説教臭く、あるいは宗教臭く(って題材的に当たり前に思えますがそうなっちゃいけないのは観ればわかる)なりかねない物語に深みを与えていたのは、紛れもない事実。そして、微妙に異なる想いを抱えつつも、様々な人々がこの二人を軸に集まり、そして散っていく様もまたドラマチックでありました。
特に、シローを利用するために近づきつつも、彼に、彼の夢に惹かれ、主人である松平伊豆守を裏切るくノ一・お蜜の姿が非常に印象的で、設定的にはよくあるパターンながら、シローの無垢な魂に触れて、最後は一揆勢からも、幕府軍からも追われながらもシローのために命を賭ける姿は、演じる秋山菜津子さんの力も相まって、そんな意地悪な目を改めさせるに十分な力を持っていたと言えましょう。もう周囲の女の子たち泣く泣く。
その他の出演者としては、何だか存在感的に往年の丹波哲郎めいた困ったオーラを発する江守徹や、後半出番は少ないながらも、一声発するだけで「ああやっぱり素敵な声」と思える杏子さん、そしてビジュアル的になんというか無闇なチビカワイイ(そして演技・歌声ともに地力を感じる)高橋由美子が印象に残りました。
…と、ここまで書くと気づく人は気づくと思いますが、少々残念なのは新感線(ほぼ)プロパー組が、ほとんど完全に脇に回っていたこと。もちろん、歌も演技もアクションも安心して観られるクオリティの方々が脇を固めるのは大事なことですし、ある意味盤石の体制なのですが、やはり聊か気になります。特に個人的に好きな橋本じゅんは、柳生十兵衛というおいしい役を演じながら、シナリオ段階より出番減ってるし歌もないし…
といった点や、やはり演出(特に終盤)に結構な青臭さを感じるもの事実であり、また、やっぱり題材的にこうなるしかないのね的ストーリーも(新感線≒痛快活劇というイメージを持っているところからすると)重たいのですが、しかしそれらを補って余りある意欲作であり、ミュージカルらしいミュージカルを観た、という気分になりました。
悲しみや残酷さの中にも、ある種の希望と、そして「まつろわぬ者」の叫びを織り込んでいるあたり、描かれる世界・対象はこれまでと違え、やはりいのうえひでのり&中島かずきの作品だな、と感じ入りました。
…しかしやっぱり高橋由美子のルックスは中川晃教の歌声並みに衝撃的ですた。あれはある意味反則。
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