辻風の剣
牧秀彦先生の光文社文庫での第一弾。記憶喪失ながら抜群の剣の冴えを見せる青年・辻番所の老爺・辻謡曲を生業とする娘連れの浪人の三人がチームを組んで、悪党を闇から闇に葬り去るという、いわば仕置人ものです。
同じ作者で、つい先日完結した「陰流・闇仕置」シリーズも同様の仕置人もの、しかも形式も一冊に短編三話という形式も同じですが、あちらの主人公は、市井の仕置人であると同時に政治的な暗殺者であるという二面性を持ったキャラであり、そのため物語の軸がぶれがちに感じられたのですが(もちろん物語に複層的な味わいを加える効果もありましたが)、こちらは人物設定的にはかなりシンプルになっており、その分主人公たちの視点がわかりやすくなっていると言えるでしょう。
もちろん、記憶喪失の青年の過去には、何やら陰謀の、未だ明らかにされない影が示されており、シリーズものとしての目配りもしっかりなされています。また、憎々しげな態度を見せつつも決して悪党ではなく、主人公たちと立場上敵対しつつも青年の腕に惚れ込むという岡っ引きの存在が面白く、このキャラがどう動くかによって、今後のシリーズ展開も変わってくるように思えます。
もちろん定評ある剣戟描写は相変わらず巧み。伝奇性は薄いですが、「人情もの」+「仕置人もの」としては及第点の出来ではないでしょうか。
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