貧乏同心御用帳
貧乏暮らしながら九人の孤児を養う、奉行所きっての敏腕同心・大和川喜八郎の活躍を描いた連作短編集。「南蛮船」「埋蔵金十万両」「お家騒動」「流人島」の全四編からなっています。
柴錬作品に触れるときにいつもながら感心するのは、どの作品を読んでもハズレがない、一定のレベルを満たしているということ。この作品も、そんな柴錬作品の名に恥じない快作でありました。
喜八郎は、町方同心という柴錬作品にしては一見無頼度の少ない主人公ですが、ピシッと一本筋が通った生き方(そしてそれこそが柴錬先生のいう「無頼」というダンディズムだと思うのですが)を備えた男。
そんな彼が挑む事件は、どれも皆、武家の醜いエゴが絡んだもの。庶民に比べれば遙かに恵まれた暮らしをしているはずの武家のそんな有様は、貧しいながらも凛とした姿勢の暮らしを崩さない喜八郎と九人の子供たちと好対照を為し、柴錬先生ならではの「人として望ましい生き方」が、エンターテイメントの姿を取りつつもここでは描かれているように感じ取れたことです。
まあ、非常に特徴ある設定である九人の孤児たちが積極的に活躍するのが、前半二作だけというのはかなり勿体ないな…という感はなきにしもあらずですが、肩の凝らないエンターテイメントとして見れば、申し分ない作品だと思います。
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