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2005.06.30

ファンの飢えを癒す小説化 「サムライスピリッツ零~黄泉の黎明~」

 サルベージシリーズ。「サムライスピリッツ零」公式サイトに掲載されたWebノベルであります。
 この作品の企画担当としてスタッフロールにも名前の見える、さくらいとおる氏によるゲームの小説ですが、なかなか良くできていると思います。
 ゲームでも主人公であった徳川慶寅の視点を中心に、兇國日輪守我旺が起こした黄泉ヶ原の乱の顛末が、丹念に描かれており、好感が持てます。ゲーム中からの引用台詞が多用されている(ゲーム中で使われる台詞のリズムと、小説中で使われる台詞のそれは、やはり異なってくるものだと思います)のと、時代劇を意識しすぎた言葉遣い・台詞回しがちょっと読んでいて気になりますが(あと舞台は天明だというのに我旺が幾多の戦場を経験していることとか)、まあこれは気にするだけ野暮というものですね。

 慶寅以外の登場人物顔ぶれは、敵方を除けば覇王丸柳生十兵衛服部半蔵という面子(あ、あと右京)。話をややこしくしそうな風間兄弟や魔物組、外国勢や女性キャラは極力オミットされ、ファンタジックな部分は極力抑えられ、かなり渋めの色彩となっています。
 少し残念なのは、ラスト近く登場する闇キ皇(と雲飛)の存在がいささか唐突で浮いて見えることですが、これは元のゲームでもそうだったしなあ…

 が、そんなことよりも、ゲームをプレイしただけでは謎であった「慶寅=家斉なのか?」「慶寅vs覇王丸の決着はどうなった?」といった疑問の数々がきっちりと解決されているのは、ファンとして非常に嬉しい限りでありました。
 思えば「サムライスピリッツ零」という作品、随分と不遇な作品でありまして、その完成度や人気、コンシューマにも移植されたことなどにもかかわらず、攻略本の一冊も出なかったという状況。昔であれば何冊か攻略本・ムックが発売され、その中で裏設定などが掲載されたものですが、それがなかったこの作品では――シナリオにかなり力が入れられていたにもかかわらず――キャラクターの設定やストーリーの詳細で不明な点もままあり、歯がゆい思いをしていたのですが、それがかなりの部分解決されたのは欣快の至りです。

 シリーズとしての先行きは不透明な「サムライスピリッツ」シリーズですが、またこの小説「黄泉の黎明」のような作品に触れることができるよう、祈っている次第です。

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2005.06.29

懐かしい顔ぶれとの再会も サムライスピリッツ総合サイトその他

 以前にも一度紹介しましたが、SNKプレイモアの「サムライスピリッツ」シリーズ総合サイトがえらい充実してきてます。
 シリーズ作品の紹介、キャラクター紹介、壁紙ダウンロードに過去作品のポスター掲載などもあって、データベースとして見てもなかなか面白いものとなっています(個人的にはキャラクター紹介で各作品での声優と担当絵師まで載っているのに感心)。

 作品紹介の方は、現在「侍魂」まで掲載されていますが、オープニング動画が公開されているのが見所。今のところシリーズで唯一コンシューマー機(含むNEOGEO)に移植されていない作品(「アスラ斬魔伝」はネオジオポケットにアレンジ移植されてますので)だけに、なかなか貴重なものを見ることが出来てありがたい限りです。

 もう一つ、オールドファンに見逃せないのは、シリーズ前期のオフィシャルイラストを担当していた白井影二(またの名を米良仁)氏によるコミック「サムスピ同窓会」。
 要するにシリーズのキャラクターたちが居酒屋でダベってる様子を描いたパロディコミックなのですが、白井氏の絵で見ると何だか非常に懐かしくも嬉しく、「同窓会」とはよく言ったものだと思います。

 何はともあれ、サイトとしての充実度は、倒産前のSNKのサムライスピリッツサイトに迫るのではないか、とも思わされるこの総合サイト、全作品全データが掲載されるのを楽しみにしています。
 ちなみに倒産前のサイトについては、こちらで見ることが出来ます(海外の人が保管しているページらしく、普通に開くと文字化けしているので、ブラウザの設定でエンコードして下さい)ので、興味のある方はぜひ。


 ところで今さら気づいたんですが、シリーズ最新作の「天下一剣客伝」のトップページ、「サムライ剣劇、ついに完結!」って書いてある…本当に今さらですが。
 まあ、何やかんやで「キング・オブ・ファイターズ」の次にドル箱であるコンテンツを早々簡単に絶やすことはないとは思いますが、やっぱりショックですね。こうして見るとサムスピ同窓会が何だか急に哀しく思えてきます。

 そして「天下一剣客伝」の最新キャラ情報がバーチャル格闘ゲーマーアイドル・かすみ19歳様(6月29日の記事参照)のところに。
 うわ、これネタ画像じゃなかったんだ…そしてシゲルしろー大野先生お気に入りの人が復活。あ、魔道の人その他http://members.at.infoseek.co.jp/mist_blue/cg/tenka00.jpgも。
 …こりゃ真面目に2Dサムスピのキャラ総登場ですね。
 やっぱり完結なのか…orz

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2005.06.28

世なおしへの絶望と希望 「天保世なおし廻状」

天保世なおし廻状
 歴史ファン・時代劇ファンなら当然知らぬ者とてない大塩平八郎の乱に始まる、知られざる暗闘の世界を描いた一作。
 タイトルや、「大塩平八郎が乱を起こす直前、江戸へ発した書状を巡り、老中・水野忠邦や勘定奉行・矢部定謙などの幕府要人たちが繰り広げる激しい争奪戦に巻き込まれた浪速の町人の活躍を描く」という帯の謳い文句を見るに、いわゆる痛快活劇ものかな、と思っていたら、良い意味でも悪い意味でも完全に裏切られました。

 この作品で描かれているのは、大塩が(最終的には)武力で行おうとした「世なおし」に、それと同じ方法で、あるいは異なった方法で挑んだ者たちの苦闘と挫折の物語。物語の主人公、というよりは物語の見届け人となるのは、大塩の書状を託された大坂の町人・因果の仙吉と、矢部の用人である狩野晋助の二人でありまして、つまり庶民の立場と統治者の立場という二つの視点から、世なおしの顛末が描かれていく形となっています。この複層的視点により、物語がより厚みと現実感のあるものとなっているのは、作者の構成の妙と言えましょうか。

 それにしても天保という時代は、文化・社会が爛熟を過ぎて退廃の域に達したかのような時代。そんな世相、時代の流れの中で、何とか世の中を良くしていきたい、不正を懲らし弱き者を助けたいという思いを強く持った者たちが、必ずしも正しく遇されるわけではない――というよりもむしろ迫害され無念の涙を呑んでいく――というこの物語の中で描かれる歴史的現実は、非常に重く、できれば目を背けたくなってしまうもの。
 更に――これは作者もあとがきでも述べていることですが――天保という過去と、平成という現在の二つの時代の姿が、あまりに似通っていることを思うと、物語の重みはより一層増して感じられます。庶民に負担を強いる場当たり的な経済政策、改革という美名の下の統制、そしてそれに対して怒りも見せず一時の楽しみに溺れる庶民…それでいて現代には大塩も矢部もいない、いや、不平不満を言うだけで自分からは何もしない庶民の習い性に自分が染まっていることに気づかされて(いや直視させられて)、実に重ぉい気分となりました。

 しかし、この物語はもう一つの歴史的現実をも、力強く語っています。どれほど挫折しようと、絶望に直面しようと、そんなことは無理だからやめろと人に言われようと、強い世なおしの意志を持った者がいつの時代にも必ずいる、立ち上がるということを。そして直接世なおしに加わらなくとも加われなくとも、それを望み、助け、支える人々がいることを。
 それは正直に言って歴史の大きな流れの中では儚い動きであり、またたとえ世なおしが成功したとしてもそれが最初に望んだ通りの形になることもまた稀ですが、それでも歴史は完全に真っ黒というわけでも、個々人は全くの無力というわけでもないのでしょう。
 結末近くに明かされるこの物語の題名の意味は、それを物語っているように感じられます。

 世なおしへの絶望と希望。非常に重たいテーマであり、辛く厳しい現実を否応なしに味合わされる作品でもありますが、しかし今という時代からこそこのような作品に触れることは、やはり意味があると思います。


「天保世なおし廻状」(高橋義夫 文春文庫) Amazon bk1


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2005.06.27

闇鍵師と戦国BASARA

 「漫画アクション」誌最新号で連載第3回、2エピソード目にあたる「闇鍵師」ですが、なかなか堅調な展開。今回は、鍵によって厳重に封印された妖刀を持った浪人が、体を売る妻の姿を目撃して(というような生易しいものではないですが)狂気の辻斬りと化すというエピソード。
 まだ第3回でこんなことを言うのは早いかもしれませんが、少なくとも今のところ、画力描写力ともに折り紙付きの漫画家が絵を描いているだけあって、人と人の生の感情のぶつかり合いというものがしっかりと描き出されていて、妖や魔が跳梁する作品に、一定のリアリティを与えているように思えます。
 今回のエピソードは次回で完結のようですが、服部家の頭領が登場したりして、果たしてどう転んでいくかわからない状態で、うまくヒキとなっておりました。
 しかし絡みのシーンよりお琴さんの足占いの方が扇情的に見えるのがすごい。


 一方、今号から全3回の短期集中連載が開始の「戦国BASARA」ですが…微妙、というのが正直なところ。
 信長の御台となる帰蝶(濃姫)が、実は道三に拾われて忍びとして育てられた女だった、という設定はなかなか面白いのですが、後はあんまり…何よりも、元のゲームの最大のウリであるアクションのスタイリッシュさが作品から感じられないのは痛い(ある意味、掲載誌に合っているというのは、皮肉が過ぎますか)。
 あと2回でこの第一印象をどれだけ払拭できるでしょうか。とりあえず最後まで見届けたいと思います。ちなみにこちらで冒頭のページを見ることができます。

 ちなみにゲームの方のネット限定予約特典はしゃもじだそうで…( ゚Д゚)

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2005.06.26

職人芸的うまさの娯楽作 「大江戸殺法陣 紅き炎」

大江戸殺法陣 紅き炎
 将軍家斉により信州の小藩へ転封された本郷大和守は、逆恨みから凄まじい威力をもつ大砲により将軍爆殺を目論む。一方、素浪人・三木兵庫は、かつて自分が禄を捨てる原因となったある事件の真相を探るため、かつての主家を探ることを決意するが、その主家こそが、本郷家だった。果たして過去の事件の真相は、そして兵庫は大和守の陰謀を阻むことができるか!?

 サルベージシリーズその6。最近いきなりタイトルを変えてシリーズ第3作が発表された三木兵庫シリーズの第2作です。
 シリーズ第1作「大江戸殺法陣 斬る」では主人公の設定の一部として語られたのみだった、兵庫の過去――妻と友人が不義の果てに心中したという事件――にまつわる事件がここで解き明かされるのですが、そこに暗殺というにはあまりにド派手過ぎる将軍抹殺の陰謀が絡むのが面白い。

 もちろん主人公たちの活躍によって謎は解明され、陰謀は未然に防がれて悪は滅びるのはわかりきっているのですが、それでも読んでいる間は読者の気を逸らさずに、十分に楽しませてくれるのがこの作品。そしてまた、人死にも決して少なくはないのですが、それでも作品の雰囲気が変に重くなったり暗くなったりしないのは、巧みにユーモアが織り込まれているからであり、純粋にエンターテイメントを期待している者としては有難いところです。
 …つまり、これまでの作品がそうであったように、この作品もまた、いかにも作者らしい職人芸的うまさが満載されていると言えるでしょう。

 あまりハイブラウな時代小説ファンを自認する人には薦めにくいですが、学研M文庫に廣済堂文庫、ベスト時代文庫やコスミック時代文庫のファンならば安心して楽しめる、というか是非読んでいただきたい作品かと。


「大江戸殺法陣 紅き炎」(城駿一郎 ベスト時代文庫) Amazon bk1


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2005.06.25

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 週刊少年マガジン第31号

 間一髪のところで割って入った狂の刀身に映った自分を見て滅びる悪魔の眼。灯と、石化しつつあった狂たちの体も元に戻った。と、次の瞬間、背後から襲ったひしぎの刃から灯をかばって深手を負う狂。怒りに燃える灯の法力も効かないひしぎだが、その前に遊庵が立ち塞がる。

 刃に映った自分の姿を見た程度で滅びる悪魔の眼には口あんぐり。あれだけ凄そうに見せていて、こんな古典的手段で倒されるとは…悪い意味でKYOらしさが出たような(尤も、悪魔の眼=メデューサ・アイなんだから、この倒し方でいいといえばいいんですが)。
 その一方で、いつまでもつまんねえ夢を見てんじゃねえ! と灯に言ったすぐその後に、お前が儚い夢だと思っていたことは全て現実じゃねえかと続ける狂は、主人公らしくていい感じ。灯の「儚い夢」に対するうまいアンサーでありましたし、それまで自分の目的のことしか考えていなかった遊庵の心を動かしたのもむべなるかな。
 そしてこのままお流れかと思っていた遊庵vsひしぎが第2ラウンド開始。…遊庵にかませフラグが立った気もしないでもないですが。

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2005.06.24

凶刃対妖刃 「シグルイ」第4巻

シグルイ 4 (4)
 異常なテンションでひた走り続ける残酷無惨剣戟時代漫画「シグルイ」の待望の最新刊が発売されました。
 ストーリー的には新章に突入といったところ、その一方でさほど展開のない巻ではありますが、まったくもって、読んだ後に何から感想を書けば…と思ってしまうような密度の濃さ。一言でこの巻を表せば、「凶刃対妖刃」と申せましょうか。
 自流派の誇りを守るためであれば、たとえ無実の者であってもためらいなくその手にかける(まったく掛川の治安はどうなっているのか! と思ったら統治者が一番のアレなのでどうしようもないのでした)虎眼流門弟衆を「凶刃」の群れとすれば、彼ら虎子を一人、また一人と狩り立てていく「妖刃」の影。

 この巻に収められた各エピソードは、ある意味同じパターンの繰り返しではあるのですが、虎子一人一人の強烈なキャラクターが、ほとんどホラー漫画並みの執拗な描写の積み重ねで描かれているため、全く食い足りなさというものはありません。
 それでいて、この巻のラストエピソードの中の見開き一つの描写で、彼らも一個の血の通った人間であることを見せてくれるというのは、やはり見事としかいいようがありません。単にショッキングな展開や描写で読者を驚かせるだけでなく、その中に、綿密な描写でもって人間のある種の生の姿が克明に浮き彫りにされているのが――原作者である南條範夫先生の作品がそうであったように――この作品の大いなる魅力だと思っております。

 唯一残念な点があるとすれば、凶刃の中の凶刃(というか狂…)たる我らが虎眼先生の出番が非常に少ないことですが、しかしそのわずか数ページの出番が、トラウマ級の迫力を備えており、実に行きとどいております。
 そして次の巻では、いよいよ虎眼先生が本格始動となる見込み。ああ、今から次巻の発売が待ち遠しいことです。


 ちなみに、この作品が連載されている「チャンピオンRED」誌の最新号において、作者の山口“若先生”貴由への100問100答が掲載されたのですが、さよならテリー・ザ・キッド様が、これを全てテキスト化するという偉業を成し遂げられておりますので、未読の方はぜひ。
 何というか、同じ号に登場した富野由悠季が書いているといっても違和感のないようなテンションです。


「シグルイ」第4巻(山口貴由&南條範夫 チャンピオンREDコミックス) Amazon bk1

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2005.06.23

無住心剣術の剣戟を堪能 「幻影の天守閣」

幻影の天守閣 無住心剣術の遣い手にして江戸城の天守番・工藤小賢太は、初めての宿直の晩に天守閣に侵入せんとする一団を発見、これをかろうじて撃退する。このがきっかけで大目付・北野薩摩守に見込まれた小賢太は、薩摩守に事件の探索を命じられる。一方、余命幾ばくもない将軍家綱の後継を巡り、幕閣は暗闘を展開。何者かの襲撃を受けた将軍家側室・お満流の方を救った小賢太は、その争いにも巻き込まれていく。明暦の大火で廃墟と化した天守閣に何が潜むのか、そして将軍家後継争いの行方は?

 サルベージシリーズその5。上田秀人先生の光文社文庫での第1作です。
 以前「悲恋の太刀」紹介した際にも述べましたが、この作品もまた、歴史の背後で張り巡らされる権力者の陰謀と、それに立ち向かう個人の剣というモチーフで描かれていると申せましょう。
 この作品のタイトルであり、そして重要な舞台となるのは明暦の大火で焼失した江戸城天守閣。城であれば当然存在すべきものが存在しない――それでいてそれを守るお役目は存在する――というのはなかなかミステリアスであり、それだけで伝奇的な存在であります。それを物語の中心に据えたというのは、作者の着眼点が光ります(ただし、ラスト近くでの秘密の明かし方は、もう少しケレン味があってもよかったかな、と個人的には思います)。
 そして天守閣の謎と平行して描かれるのが、次代の将軍の座を巡る争い。その座を巡って暗闘が繰り返される将軍、すなわち江戸城の頂点に立つ者は、もう一つの「幻影の天守閣」と表してもよいのでしょう。

 そしてこの作品においては、上に述べた仕掛けやテーマ性だけでなく、無住心剣術を操る主人公が、次々と登場する刺客たちと展開する剣戟、つまりチャンバラシーン描写も見所の一つ。
 無住心剣術と言えば、甲野善紀先生が「剣の精神誌」で扱っておられますが、「相抜け」という独特の概念を持った流派。そのためか、どうしても哲学的で浮世離れしたイメージもある剣ですが、この作品における無住心剣術の描写は、そうした流派の特徴を抑えつつも、徹底した超実戦流派として描かれていて実に痛快であります。
 特に後半は剣戟また剣戟とチャンバラシーン満載。ラスト近くで対主人公のために集められた刺客群との連戦のシーンは、敵キャラクターの存在もなかなか面白く、名場面の一つと言えましょう。
 また主人公の兄弟子としてゲスト的に登場する小田切一雲とその弟子・真理谷円四郎の描写も面白い。特に敵の一派が道場を襲撃した際に見せる二人の剣の鮮やかさ、実戦的な行動の数々には、感心すると共に思わず敵の方に同情してしまいました。

 そんな死闘の数々を経て主人公がたどり着いたラストシーンには、一瞬「こんなのあり?」と驚かされましたが、これはこれで一つの幸せな結末なのでしょう。
 何よりも、権力という「幻影の天守閣」に主人公が背を向けることができたことを示す主人公の姿は実に清々しく、気持ちの良いものに思えたことです。

「幻影の天守閣」(上田秀人 光文社文庫) Amazon bk1


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2005.06.22

勧善懲悪裏稼業アクション PS2「必殺裏稼業」発表

元気、江戸にはびこる悪を成敗する時代劇アクションPS2「必殺裏稼業」GAME Watch
 先週発売のゲーム雑誌でも第一報が紹介されていましたが、時代劇アクションゲームの一方の雄・元気(もう一方はフロム・ソフトウェア)から、PS2用ゲームソフトとして勧善懲悪裏稼業アクション「必殺裏稼業」が発表されました。

 タイトルを見れば一目瞭然の通り、いわゆる「必殺もの」というべきジャンルに属するこの作品、表の顔は町医者、裏の顔は凄腕(たぶん)の剣士というキャラクターを主人公として、江戸の町にはびこる悪を退治して回るゲームのようです。まだ公式HPも準備中、キャラクターも主人公をはじめとして3人が紹介されているだけですが、「いかにも」という感じになっているようです。
 ただ、この3人だけではいまいち地味なので、やっぱり面白殺し技のキャラクターが敵味方に現れるのでしょうね。このスクリーンショットを見た限りでは、まだ何人か気になる(そして「いかにも」な)キャラクターが登場するようです。
 ちなみに版権表示を見た限りでは、TVの必殺シリーズとは無関係の作品のようですね。

 それにしても小説やコミックの世界を見ても、「必殺もの」は相変わらずの大人気。ゲームの世界では(版権ものを除けば)、忍者ゲームだったはずの「天誅」シリーズがいつの間にかすっかりこの路線を走っていますが、果たしてこの「必殺裏稼業」はそれにどこまで迫れるか。期待したいところです。

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2005.06.21

あのフレーズが初お目見え-今週の「Y十M」

 二週に一度のお楽しみ、「Y十M」も第6回。
 前半は会津軍団の鬼畜エロぶりをアッピールしておいて、後半は般若侠vs七本槍のアクション。特にここ何回かがおとなしかった分、アクションシーンはページ数こそ多いというわけではないもののなかなか密度の濃い描写でした。
 平賀孫兵衛との空中での交錯は、もちろん原作でもあったシーンなのですが、漫画では両者の攻防がよりダイナミックに描かれていて好印象。いきなり般若侠の正体がバレバレになってましたが、まあこれはすぐわかることですからよろしい。

 しかし今回の見所はなんといっても、サブタイトルにもなっている「蛇ノ目は七つ」。この物語の一つのキーワードというか、「甲賀忍法帖」で言えば人別帖に当たるこのフレーズの初お目見え、どのように描かれるか期待していましたが、真っ正面からインパクトのある描写で描ききられていて満足いたしました。

 一方、こちらも初お目見えの花地獄ですが…人がいないと何というか普通の拷問部屋というか、ぶっちゃけ安っぽく見えてしまうのがちょっと残念ではあります(もっとも、ここで行われていることを真っ向から描かれたらこんな暢気な感想など書いているどころではなくなってしまうのですが)。

…ゲーッ、Y十Mでググるとせがわ先生のサイトの次がこのblogだった。

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2005.06.20

「黒田・三十六計」久々掲載-「コミック乱ツインズ」7月号

 今月も買いました「コミック乱ツインズ」
 今月号は、私が楽しみにしている連載四本、すなわち「武蔵伝」「伊庭征西日記」「真田十勇士」「黒田・三十六計」が全て載っていた(というか「黒田・三十六計」が久々に掲載されていた)のでお得感が高い一冊でした。

 「武蔵伝」はまた新たな武蔵が登場。あからさまに偽物ですが。今回はどちらかというとギャグ比率が高く、特に武蔵たちが口々に巌流島の決闘の様子を自慢し合う様子は、フィクションの中の宮本武蔵という存在に対する皮肉とも読めてなかなか愉快でありました。そしてそこから一変してのアクションシーンでは、「義経武蔵よ」「オオ 新免武蔵」という阿吽の呼吸で太刀を振るう(しかも狭い廊下で二人並んで!)息のあった二人の武蔵の姿が実に格好良いのでした。

 「伊庭征西日記」は、正直、絵の方がかなりメタメタなのですが、初登場の新選組が、実に森田漫画らしいバイオレンス集団っぷり。特に、伊庭にはにこやかに接しながら、敵対した長州浪人たちには一切容赦しない黒さが凄まじい。近藤でこれなら土方は一体どうなることでしょう。
 しかし何よりもこの作品が楽しいのは、そんな血腥い世界を描く一方で、カステイラを食べて「これ!!(中略)甘ァい!」と「駅前の歩き方」の花房先生ばりに喜ぶ伊庭の姿。たぶんこの調子で毎回伊庭が何か食べるシーンがあるのでしょうね。やっぱり「幕末の歩き方」です。

 「真田十勇士」はセンターカラー。えらいじっくりとした描写が続くので物語はあまり進んでいないのですが、いちいち気合いの入った人物の表情が素晴らしい。特に扉ページの十勇士勢揃いは、見ているだけでワクワクするものがあります。

 そしてお待ちかね「黒田・三十六計」は「擒賊擒王」の章が完結。荒木村重の城に捕らえられて長期の監禁生活という連載始まって以来の危機に陥った官兵衛ですが、独房の中で密かにしたためた「擒賊擒王」――すなわち主君と家臣を分断させ、主君を孤立させる計――を信長に授けて、村重を孤立させ、ついには荒木の勢力を壊滅させるという意表を突いた手を見せました。
 今回の見所は、計によるとはいえ主従が分断され孤独に去る他なかった荒木村重と、病に冒された中で主君や盟友からその身を案じられ惜しまれつつ逝った竹中半兵衛のコントラストでしょうか。弱肉強食の世界を描きながらも、人と人との心の結びつきを何よりも尊重すべきものとして描くこの作品ならではの描写であったと思います。
 その一方で、宗教を弾圧する信長に対し、フランクな怒り方を見せる村重には、作者の姿が一瞬だぶって見えたのも面白いところです。
 次回から新章突入ということですが、しかし次号予告には載っていないのが残念至極…増刊の方で信長ものを連載されるようなので、しばらく不定期連載なのでしょうか。

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2005.06.19

ドラキュラ伯爵の知られざる貌 「明治ドラキュラ伝」

YA! ENTERTAINMENT 明治ドラキュラ伝1
 サルベージシリーズその4。伝奇という世界で吸血鬼――なかんづくドラキュラを描かせたら当代まず右に出る者のない菊地先生が、明治の東京を舞台にドラキュラの物語を書く! …どうやって? と最初に聞いた時は思いましたが、なるほどこういう切り口があったか、と唸らされた佳品でありました。
 物語自体は吸血鬼ものの定番とも言える展開。すなわち、何処からともなく現れた怪しい隣人と、やがて始まる怪事の数々。「敵」の正体を知ったわずかな人々の命と魂を賭けた反撃…なのですが、登場する役者がいかにも一筋縄ではいかない。主人公は死病にとりつかれた白皙の天才剣士、そして彼と共に魔人に挑むのは西郷四郎少年とその師・嘉納治五郎…見事な配置であります(特に嘉納治五郎がいわゆるヴァン・ヘルシング役を演じるのには驚かされました)。
 しかしこの物語が、何よりも他の吸血鬼物語よりも抜きんでたものとしているのは、こうした意外性のみならず、ドラキュラという人物の中のある部分にスポットライトをあてたこと。

 …「武人」としてのドラキュラという貌に。
 ブラム・ストーカーに始まり、これまで様々な者の手で、幾度となく描かれてきたドラキュラの物語ですが、魔人・魔王・不死者としてのドラキュラを描いたものは数多くあれど(というよりほとんどですが)、武を貴び愛する武人としてのドラキュラの姿――思えば生前の「彼」は、一面から見れば侵略者の手から故国を守った武将でありました――を描いた作品は、あまりなかったのではないかと思います。
 そうしてみると、一見、鬼面人を驚かすようにも見える登場人物のチョイスも、さすがにちょっと無理があるのでは…という印象もある、そもそもドラキュラが日本をなぜ訪れたか、という部分も、それなりの必然性を持っているのだと理解できます。

 今回の物語には、一つの結末がついているようにも見えますが、タイトルについているのは「1」という文字。果たしてこの先主人公が、そして何よりもドラキュラが明治の日本で何を見るのか――この続きをいつ読むことが出来るのか、それはわかりませんが、期待して待ちたいと思います。

「明治ドラキュラ伝1 妖魔、帝都に現る」(菊地秀行 講談社) Amazon bk1


この記事に関連した本など

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2005.06.18

そして替天行道は続く 北方謙三「水滸伝」最終回

 6年近く連載されてきた北方謙三の「水滸伝」「小説すばる」誌最新号掲載分をもって完結しました。
 未読の方のために詳細は書きませんが、壮絶としかいいようのない死闘の中で、ある者は命を落とし、ある者は姿を消し…と、梁山泊の壊滅が全く容赦なく描かれ、梁山泊という世界の終焉が描ききられていました。
 結末が、あのキャラクターで締められるというのは、ほとんどの読者が予想していたことと思いますが、私が予想していたよりも遙かに激しく厳しく、そして結末であって始まりである、そんな非常に印象的な結末でありました。
 冷静に読んでみると、かなりのキャラクターの生死が明らかにされておらず、また敵側のドラマにもまだまだこれから展開がありそうなことを考えると、ここで終わり? という気がしないでもありませんが、これはあくまでも「水滸伝」という物語の終わりであって、「替天行道」の物語は、まだまだ続いていくということなのでしょう。
 果たして北方版「水滸後伝」が描かれることがあるのか、そもそもそれを望むことが良いことなのか(終わった物語はそっとしておくべきではないのか)、それはわかりませんが、今はただ、素晴らしい漢のドラマを読むことが出来た満足感で一杯です。そしてまた、これほど物語作家というものが羨ましく思えたのは、生まれて初めてかもしれません。
 なにはともあれ、北方先生お疲れ様でした。

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2005.06.17

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」

 狂の玄武は、アシュラ=灯の左手の悪魔の眼を封じただけだった。が、既に全身に広がっていた悪魔の眼の力は玄武の軛から脱出してしまう。悪魔の眼を滅ぼすには、灯に開ききった悪魔の眼を見せればよいと告げるひしぎだが、それは同時に灯の死をも意味するのだった。そしてついには灯の力である法力をも操り始めるアシュラ。だが狂は、アシュラの、灯の全ての攻撃を無抵抗に受け止める。ついに灯を抱き留めた狂の言葉に我を取り戻した灯は、悪魔の眼を自ら直視する――

 仲間と呼べる者を持つことが夢だった灯。それがやはり夢でしかなかったと絶望した灯の心を救ったのが、どんな姿になろうとも自分をまっすぐ見つめてくれた狂の言葉と行動だったというのは、ベタですがまあよし。仲間というキーワードを念頭において灯のこれまでの登場シーンを読み直すと、なかなか感慨深いものがあります。
 悪魔の眼を自ら見て自爆に等しいヒキでしたが、まあここでGENKAITOPPAするんでしょうな。
 そして遊庵vsひしぎは狂と灯が乱入してきたおかげで双方真の力を見せぬまま水入り。双方を傷つけない収め方はなかなかうまいと思います。


 と、ここで気づいたんですがこの作品、「眼」が一つのキーワードとなっていますね。狂・サスケ・ほたる・辰怜の紅い眼は言うに及ばず、今回の灯の(おそらくは悲しい現実の象徴たる)悪魔の眼、現実を拒否していたアキラの閉ざされた眼、重い過去の痕であろう梵天丸の隻眼…
 意識してか否かはわかりませんが、レギュラーキャラのほとんどのに「眼」が潜在的にせよ顕在的にせよ関わっているのはなかなか面白いことだと思います。
 その他、幸村は鶺鴒眼を使うし、心の底を見せぬ鎮明はサングラスをしているし…とここまでくるとこじつけめいてきますが。

 で、何が言いたいかというと、つまり紅虎のあの糸目にもきっと意味があるんですよ! …ないない。

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2005.06.16

「仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼」製作発表

「仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼」製作発表
 何だかここのところこればっかり書いているような気がしてきた劇場版「仮面ライダー響鬼」。正式タイトルも「仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼」に決定して、堂々の製作発表であります。気合い入ってるなぁ。
 しかしここで思わぬ隠し球、安倍麻美が。しかも悪役。じゃあ来年の劇場版には、あびr(以下略)
 しかし安倍麻美で特撮といったら、土曜の朝から番組に合わない暗ぁーい曲歌ってたのがやっぱり連想されますね。ライダーじゃないですが。というか東映ですらないですが。

 それにしても上記の記事では、驚くくらいたくさんの写真が掲載されていますが、この写真なんて実にいい感じですね。何だか大変久しぶりにいい意味でいかがわしい東映時代劇テイストに触れた感じです。
一方こちらの写真、こいつら仮面ライダーより化身忍者…というよりむしろゴースン魔人って言われた方が違和感ないですね。

 ちなみに主題歌はまたm.c.A・T絡み…時代劇にm.c.A・T。

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2005.06.15

新撰組異聞 暴流愚

オンライン書店ビーケーワン:新撰組異聞
 サルベージシリーズその3。少年画報社の「アワーズライト」に連載されながらも、同誌の休刊により未完となっていた異色の新撰組漫画が、大幅な書き下ろしを加えて復活&完結。もう読めないのかなあ…と思っていただけに、嬉しい驚きでした。
 内容的は、新撰組に雇われて陰働きを担当する渡世人にして暗殺者のアイヌ人・ボルグとその同業者のアウトローたちが、やがてはその新撰組を敵に回し、ある者は滅び、ある者は傷つきながらも生き延びていく…という、幕末バイオレンスアクションであります。

 絵柄は少々癖のあるアニメ絵(知っている人にとっては常識でありますが、芦田氏はアニメ界の大ベテランであります)で、いささか描写に粗い部分があるのは正直なところ。
 また、池田屋事件の後まで芹沢鴨が生きているなど、史実を無視した展開も多いため、真面目な時代劇ファン(特に真面目な新撰組ファン)はしかめ面するかな…という気はします(個人的には、土方歳三の出自の件が、ちょっと無理があるなあと思いつつ、伝奇的には魅力的に感じました)。

 しかし、この作品で描かれる人間群像は、重苦しく、残酷でありながら実に魅力的。ただひたすらに自分の道を往く者、道を見失い外道に堕ちる者、人間らしく生きようとしつつも果たせぬ者…幕末という時代でなければ描けないドラマがそこにあります。

 ボルグという人間は一人でも、登場するキャラクター全員が「暴流愚」なのだなあと思った次第。


「新撰組異聞 暴流愚」(芦田豊雄 ぺんぎん書房SEED! COMICS) Amazon bk1

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2005.06.14

7月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュール

 7月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールを掲載しました。このブログの右サイドバーからも見られます。

 7月で注目のアイテムは、既報の「鬼神新選」続巻(8日発売予定)と、先月連載終了したばかりの「源平天照絵巻 痣丸」最終巻(23日発売予定)でしょうか。21日発売の「戦国BASARA」は、はたしてどんな感じになるんでしょうかね。
 また、日本の時代ものではないですが、長らく絶版になっていた駒田信二版水滸伝(ほとんど唯一の百二十回本の翻訳)が復刊されるが水滸伝マニアにとっては非常に嬉しいお話であります。


 と、7月ではなく、そのまた次の8月の気になるアイテムの話。
 リイド社の8月の新刊を見ていたら「恨みの刺客 鬼一法眼 鬼哭之章」というタイトルが!
 微妙に変わってはいますが、これはやっぱり元タイトルのおかげで幻になりかかっていたあの作品が復活したってことでしょうか!?
 リイド社は相当以前の作品をこのような形で復活させてくるので油断ができないですね。

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2005.06.13

“ご当地ライダー”シリーズ初の時代劇

“ご当地ライダー”シリーズ初の時代劇
 劇場版「仮面ライダー響鬼」の続報。

 以前から噂になっていましたが、正式発表ご当地ライダー。
「歌舞鬼(カブキ)」
「西鬼(ニシキ)」
「煌鬼(キラメキ)」
「羽撃鬼(ハバタキ)」
「凍鬼(トウキ)」

 …もう、全身全霊をかけてツッコミ待ち状態という印象ですが、さすがは話題作り(だけ)は超一流の白倉プロデューサー。
 限定版ライダーの登場で商品化への対応も万全ですし、とりあえずスポンサーは喜ばせておいて、あとは俺たちの好きにやるぜ! という白倉イズムがひしひしと伝わってきて素敵です(いや、私好きですよ? こういう姿勢)

 脚本の井上敏鬼…いや敏樹氏は、「獣兵衛忍風帖 龍宝珠篇」以来久しぶりの時代劇脚本ですし、こちらも大変心配楽しみです(ご存知の方も多いと思いますが、井上氏の父君は「隠密剣士」「仮面の忍者赤影」「変身忍者嵐」といったヒーロー時代劇脚本を多く手がけた伊上勝氏です)。

 記事によれば響鬼さんが忍者バージョンになるらしいですが、これが噂に聞く「紅フォーム」というやつなのかな?

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2005.06.12

悲恋の太刀 織江緋之介見参

オンライン書店ビーケーワン:悲恋の太刀
 サルベージシリーズその2。最近続編が出た、上田秀人先生の新シリーズ第1弾であります。
 物語の舞台となるのは吉原。その吉原にふらりと現れた謎の青年剣士、そしてそれを受け入れるこれまた謎を抱えた吉原の惣名主とくれば、否が応でも思い出されるのは隆慶一郎先生の「吉原御免状」でありますが、この作品は、隆先生のそれとはまたベクトルを異にしつつも、面白さでは決して劣らない作品となっています。

 上田先生の作品に一貫するのは、誰もが知る歴史の背後で張り巡らされる権力者の陰謀と、それに立ち向かう個人の剣というモチーフ。私は単行本化された上田作品は全て読んでいますが、読む度に、よくもまあこれだけ「表の史実」に影の如く張り付く「裏の史実」を考えつくことができるものだと感心させられています。
 そして、その一方で、作品が単なる陰謀小説にも政治小説にもならず、痛快なエンターテイメントとして成立させているのは、そんな影の歴史とそれを隠そうとする者たちに立ち向かう剣士たちの活躍。理不尽な暴力にも権力にも屈せず、正義の剣を振るう剣士というのは、一歩間違えればうさんくさい、リアリティのない存在になりかねませんが、そんなことを微塵も感じさせないのは、これは作者の筆力と言うしかないでしょう。

 この作品でもそんな上田作品の魅力は遺憾なく発揮されていますが、これまでの作品よりも一段とひねってあるのは、主人公である緋之介の正体が伏せられている点。物語の背景に存在する秘密に加えて、主人公自体が抱える秘密があることで、物語により一層の深みと、ダイナミズムが生まれたと言えるでしょう。そしてまた、物語後半で明かされる緋之介の正体と、なぜ正体を隠して吉原に現れたかという秘密については、なるほど! と感心させられました。

 そしてラスト、物語を貫く二つの秘密が交差して(その舞台となるのが、史上有名なあの事件というのがまたうまい)、その結果緋之介が手にすることとなるものは――正直なところ、タイトルである程度予想はついていたのですが、それでもなお切なく、そしてこの先、緋之介がどのような道を歩むことになるのか、気にかけずにはいられませんでした。


「悲恋の太刀 織江緋之介見参」(上田秀人 徳間文庫) Amazon bk1


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2005.06.11

「戦国扮装エキストラ」大募集

「戦国扮装エキストラ」大募集のお知らせ
 時代劇になるということで注目の劇場版「仮面ライダー響鬼」ですが、太秦映画村での撮影にあたってエキストラを募集とのこと。
 この手の作品でエキストラ募集というと、最近だとやはり劇場版「仮面ライダー555」やこの夏公開の「妖怪大戦争」が浮かびますが、なかなかうまい手だと思います。
 ファンにとってみれば、好きな作品に自分が参加できるチャンスですし、製作側にとってみれば、エキストラを無料で集められるし(まあ、これについてはなんやかやでかえってお金がかかるように思いますが)、何よりも話題作りとしては大きな効果があるのではないでしょうか。映画村の客寄せにもなるし(笑)。

 しかし募集内容を見ると悩んでしまうのは、その条件。

「戦国時代、とある城下町での群衆シーンです。」
「あなたが時代劇版「仮面ライダー響鬼」にふさわしいと思う扮装。」

 …難しいでしょ?
 さらに同じページに掲載されている出演者の衣装が、「これ戦国時代?」と思ってしまうような感じ(特に看板娘二人の格好がなんだか大和時代チック)であまり参考にならないため、これァかなりの難題です。
 私なんぞ響鬼で時代劇らしい格好というと、虎皮のふんどし一丁で太鼓のバチを持っている姿しか思いつかないんですが、そりゃあ単なる変態ですな。
 しかも参加希望者は扮装を済ませた上で朝8時に映画村正面入り口に集合なので、そういう意味でもハードですなあ。コスプレの世界のことはよくわからないのですが、慣れた人はこういう時でもうまく着替え場所を見つけられるのかな?

 私はこういう方面は苦手だし遠いので、他力本願に参加者のレポートを待ちたいと思います。

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2005.06.10

血路 南稜七ツ家秘録

血路―南稜七ツ家秘録
 先に文庫化された「死地」に先立つ南稜七ツ家秘録シリーズの第一弾。戦国時代、落城の危機に瀕した城から、城主の妻や子を「落とす」ことを生業とする山の民・南稜七ツ家秘録の活躍を描く時代アクションです。
 一読しての印象は、(ありがちな表現で恐縮ですが)頭から尻尾まで餡のぎっしりつまった鯛焼きのような作品。叔父に親兄弟を皆殺しにされた芦田家の若君が山の民として成長する様を縦糸に、七ツ家秘録と武田家の忍者集団「かまきり」との死闘を横糸に、冒頭から結末まで、一読巻を置く能わずという言葉がぴったりで、まさに七ツ家同様に、走り出したら止まらないノンストップアクション巨編でありました。

 何と言っても面白いのは、従来の忍術・剣術とは異なる、七ツ家の面々が操る秘術の数々。自らを取り巻く自然環境を最大限に活かしたサバイバル術とそれと表裏一体の戦闘術は、この作者の作品でしか見られない、独自の魅力溢れるアクションとなって炸裂、直接的な戦闘力では上回る「かまきり」の暗殺者たちに立ち向かう七ツ家の活躍がこの作品の見所となっています。

 そのほかにも、たくましく成長して七ツ家の一員に加わった主人公・喜久丸と七ツ家の奇想天外な方法による復讐劇あり、五対五のトーナメントバトルありと、盛りだくさんのこの作品、活きのいい時代アクションを求めている人には是非お薦めします。
 なお、残念ながら現時点では南陵七ツ家秘録シリーズは「血路」「死地」の二編しか書かれていないのですが、作者の同じく山の民が活躍する作品として「嶽神忍風」全3巻もお薦めであります。


「血路 南稜七ツ家秘録」(長谷川卓 ハルキ文庫) Amazon bk1


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2005.06.09

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」

 ほたるの力を借りた辰伶は吹雪を押すものの、本気を出した吹雪の前にあっさりと技を破られ、再び打ち倒されてしまう。怒りの力だけでは勝てんと冷たく吹雪は言い放つが。
 一方、完全に阿修羅と化した灯の奥義に抗すべく→、狂はついに無明神風流四大奥義が一つ「玄武」を放つ。一度は灯に破られたかに見えた玄武。しかし戦いを目撃していた寿里庵は、かつて村正から聞いた玄武の特徴を思い出す。天地を象徴する玄武を体現する完全絶対防御拘束業…蛇のように絡みつく風と亀の甲羅のように壁となる風が灯の攻撃を受け止め、カウンターの一撃が灯を襲う!

 がははははは、出た出た狂のキメ台詞玄武バージョン。「お前も抱かれただろう。天地(「玄武」)の大気(腕)に」って面白い、面白すぎる。
 初登場の玄武は、やはり防御主体の技。亀だけだとビジュアル的に何なので、たぶん蛇が絡みつくんだろうな、と思っていたら予想通りでした(それにしても無明神風流の奥義は後の先というか、一度防がれてから発動する技ばかりですな)。

 そして今週も出番のない遊庵(とひしぎ)。この調子だと、再登場したときにはいきなり遊庵が地面に伏してるという展開もあり得るような気がしてきた…

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2005.06.08

今週の「Y十M」

 隔週化二回目の「Y十M」、前回に引き続き今回も十兵衛と掘の女たちの対面編。原作でも印象的だったお笛のビンタから、十兵衛の冷酷とも(助平とも)取れる発言があって、いよいよ十兵衛がコーチに就任し、ラスト1ページで怪傑般若侠登場という流れでありました。
 正直、前回に続いて説明回なので、隔週化と相まって、いきなり物語のテンションが下がったような印象も正直ありますが(原作読んでいる人間でもこうなのだから、漫画で初めてこの作品に触れる読者は更にでしょうなあ)、お笛のキャラ立てが実に愉快で、楽しく読むことができました。

 お笛は元々原作でも掘の女たちの中では目立つキャラではありましたが、その特徴をより良い方向に伸ばして、更にキャラ立てしてみせるせがわ先生のセンスは相変わらず見事です。
 キャラの特徴と言えば、十兵衛が今のままだと何だか単なる助平兄貴にしか見えない気もしますが、これは十兵衛が単なる四角四面の聖人君子ではない、血の通ったキャラクターという描写の一環でしょう。十兵衛が色にだらしない人物では決してないことは、この先のあのシーンやこのシーンでしっかりと描かれるでしょうし、その時今の描写がよいコントラストとなるのだろうなあ…と期待しています。「んふっ」連発しすぎな気もしますけどね。

 ちなみに「腰の鈴」、恥ずかしながら原作読んだ時にはどういう原理だかわかっていませんでしたorz 今回の描写を見てようやくわかったよ…。
 っていうかさくらさん、「…できる…」って何ですか。

 そしていよいよ般若侠登場。次回では堀の女たちの復讐行を彩るあの名フレーズが登場するかな?

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2005.06.07

「吉原御免状」インタビュー&キャスト公開

 この秋公演の劇団☆新感線「吉原御免状」。この舞台の主人公・松永誠一郎役の堤真一と柳生義仙役(!)の古田新太の対談が、e+特集ページに掲載されていました。

 なかなか面白い内容なので実際に読んでいただきたいのですが、やっぱり古田新太の発言はいちいちナイス。
「だってファンのみなさんは、このメンバーが『吉原御免状』をやるってだけで怒ってるはずだから…。」
「ああー、(中島)かずきさん、(隆慶一郎に)影響受けてんなぁ」
「「こんな理屈っぽい本だったっけ?」っていう驚きもちょっとありましたね」

 うむ、確かに。

 ページの下の方には、キャストも紹介。上記のお二人以外は

松雪泰子 :勝山太夫
京野ことみ:高尾太夫
梶原善  :水野十郎左衛門
橋本じゅん:柳生宗冬
高田聖子 :八百比丘尼
粟根まこと:狭川新左衛門
藤村俊二 :幻斎

ということで、ほぼ予想通りでしたがじゅんさんが宗冬ってのはちょっと意外だったかな? とりあえず古田・橋本・高田・粟根という面子が揃っているだけでもの凄い安心感があります。おひょいさんの幻斎も楽しみですね。

 いずれにせよ、あの有名な、有名すぎる原作を新感線がどう料理してくれるのか。当然、お笑い満載アレンジ一杯の、それでいて熱いスピリットの漲った一筋縄ではいかない作品になることでしょう。
 もちろん、私ゃ観に行きますよ、絶対に!

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2005.06.06

玉藻の前

岡本綺堂妖術伝奇集―伝奇ノ匣〈2〉
 だいぶ前に読んだのに感想書きそびれていた作品をサルベージシリーズ。
 インド・中国の王朝を騒がせ世に災いをばらまき、日本では玉藻の前と名乗って朝廷に入り込むも、大陰陽師安倍泰成に正体を見顕され、ついには那須で討たれて殺生石と化した金毛九尾の狐の狐は、古典芸能の世界から、現代の小説・漫画に至るまで非常に有名な存在ですが、この物語も、その伝説に依ったものであります。

 が、さすがは岡本綺堂と言うべきか、単なる怪奇・伝奇ものに収まらず、むしろ少年少女の非常に切ないロマンス(ロマンスも伝奇ではありますがな)として成立しているのがこの作品の独自性であり、素晴らしいところ。
 平凡ながらも微笑ましい、幼いカップルであった藻と千枝松が、奇怪な運命に引き裂かれ、藻は玉藻の前に、千枝松は安倍泰親の弟子にといわば敵味方に分かれるという悲劇は、決して派手でも扇情的でもない、静かに、淡々とした――それは綺堂が怪異を描く時にも共通する態度ですが――筆致で描かれるだけに、むしろより一層読む者の心を打ちます。
 この作品のベースとなっているのが、綺堂も自ら訳している吸血鬼小説の古典「クラリモンド」にあるのは有名ですが、この「玉藻の前」は、誰でも記憶の底に眠っているであろう幼い日の淡い恋心を思い起こさせるだけに、「クラリモンド」よりも一層多くの人に、普遍的に訴えかける力を持つのではないかな、とも思っています。
 綺堂先生お気に入りの作品であったというのもむべなるかな。


「玉藻の前」(岡本綺堂 学研M文庫「岡本綺堂妖術伝奇集」所収) Amazon bk1

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2005.06.05

剛神復活

 まんがの森の7月の新刊案内を見ていたら、7月下旬にチクマ秀版社のレジェンドアーカイブスというレーベルから、近藤ゆたか&滝沢一穂の「大江戸超神秘帖 剛神」が復刊されるというビッグサプライズが。
 江戸を狙う星夷(宇宙人)たちに立ち向かうべく田沼意次により結成された蘭学攘夷隊(隊長のあの人)と、一陣の風とともに現れる謎の巨大ヒーロー・剛神の活躍を描いたこの作品、アニメ・特撮などで脚本家として活動されていた原作者と、特撮&TV時代劇について語らせたら右に出る者がいない作画者がコンビを組んだだけあって、単なる悪ノリやパロディなどに堕すことなく、真っ正面から「巨大ヒーロー時代劇」を描いた隠れた大名作であります。
 …と聞いたような口をききつつも、雑誌連載時に読んでいなかったので、バンダイ版の単行本に未収録のエピソードは読んでいない私としては、それらのエピソードも完全収録されることを期待している次第。

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2005.06.04

「大江戸バーリトゥード」第2巻

大江戸バーリトゥード 2 (2)
 赤穂藩秘伝の起倒流を操る「やわら取り」・堀田玄武が様々な流派の達人たちと対決する大江戸異種格闘技漫画の完結編。この巻ではタイトルにもなっている「大江戸バレトド相撲」が開幕され、格闘技漫画の華たるトーナメント戦が展開されるわけですが…
 何というか、よく言えば破綻無くきれいにまとまった(最初からこの分量で構想されてたんでは?という)、悪く言えばこじんまりとした展開という印象。
 江戸のプロデューサー・平賀源内がバレトド相撲の開催にこぎ着けるまでのエピソードや、かの忠臣蔵の事件が起倒流の奥伝を巡って起こされたものであったという伝奇的ガジェットなどは、なかなか面白いのですが、格闘技ものとしてみると、どうも淡々と始まって淡々と終わってしまったという感が強いのです。

 これはたぶん、一つにはトーナメント戦に登場する選手たちのキャラ立てが今ひとつ(キャラ一人一人のすごさを物語るエピソードが少ない等)だったのと、登場する格闘技に正直さほど新味が感じられなかったというのが原因なのではないかな、と個人的には思うのですが…。特に後者は、折角時代劇なんだから柔術vsムエタイとかやらないで、もっと時代劇でなければできないような戦いが見たかったなあと思った次第です。いや、時代劇にムエタイ出したのはそれはそれで凄いのですが(綾妙(アユタヤ)流というネーミングが秀逸)。
 やはりバレトド相撲という大会形式を取る以上、あんまりブッ飛んだ展開にはしにくかったということかもしれませんが、少々勿体ない作品だったなというのが偽らざる印象です。最終決戦でかつてのライバルたちの技を使うとか、主催者の横暴に、選手や観客が立ち上がるという展開は――お約束ではありますが――バトルものとしてはそれなりだっただけに、なおさらそれを感じました。

 それにしても「素性不明の選手は主人公の決勝戦の相手」「主人公の後見的立場の達人は準決勝辺りでの←の相手に倒される」「ライバルっぽく登場した選手は案外早い段階で決着がついたりする」ってのはトーナメントものの定番なのだな、と今更ながら感じたり。


「大江戸バーリトゥード」第2巻(山根和俊&福内鬼外 ジャンプ・コミックスデラックス) Amazon bk1


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2005.06.03

カムナガラ外伝

オンライン書店ビーケーワン:カムナガラ 0
 「ヤングキングアワーズ」誌に連載中の伝奇コミック「カムナガラ」の外伝が収録されたこの一冊。アワーズの増刊に掲載された「カムナガラ前史」全四話と、本編で主人公と共に戦う剣豪巨乳女教師(と書くと別の漫画のキャラみたいだ)鳴神遥日の学生時代を描いた一編が収録されています。

 「カムナガラ前史」の舞台は大正時代、関東大震災直後の東京となっています。人々の心を封じ、それを統治の力とする天能御柱。大震災により御柱が損傷したことにより現れた「さとがえり」の亡者を封じるために帝都で戦う剣の一族だが、その背後では軍部と宮内省によるある計画が、そしてさとがえりたちによる陰謀の影が…というわけで、暗澹たる世相の中で、非常に暗澹たる物語が繰り広げられます。
 特にかなりゆるやかにと丁寧に描かれている本編と比べると、いささか物語の展開が早すぎるように感じられる部分もあり、(たとえば青年巡査・皆川と剣の一族の少女・朔弥の交流のくだりなど)もう少しじっくり描いた方が、結末部分で剣の一族に――そして日本という国に――降りかかる悲劇がより印象的になったような気もしますが、それは贅沢というものでしょう。
 単体の伝奇物語として見た場合でも、天能御柱を巡る陸軍と宮内省の計画はなかなか面白いものがありますし、両者を結びつけ、その計画を推進するのが大川周明というのも、伝奇心をそそります。
 もちろん「カムナガラ」という物語の前史としても、なぜ剣の一族が現代にはごくわずかしか生き残っていないのか、かつての宮内省鎮守職天野家が引きずる怨念とは、などとバックグラウンドのより詳しい解説となっているのが嬉しいところです(ちなみにカバーを外すと前史と本編の人物対比表があって非常に親切です)。

 もう一編の外伝「10YEARS」は、伝奇色0の、いい意味での痛々しいも切ない青春もの。単体で、知らない人が読んだら「カムナガラ」外伝とは全く気づかない作品だと思いますが、こういった方向性の青春ものを描かせたら絶品の作者だけあって、印象的な作品となっていました。
 本編ももう少しで完結だと思いますが、鳴神先生には幸せになってもらいたいですなあ…(無理)。


「カムナガラ外伝」(やまむらはじめ 少年画報社YKコミックス) Amazon bk1

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2005.06.02

御隠居忍法 不老術

御隠居忍法 不老術
 御隠居・鹿間狸斎の活躍を描くシリーズ第二弾。前作は基本的に連作短編集の形式でしたが、今回は長編作品と言ってよいスタイルとなっており、前作で感じた個々のエピソードがやや未消化という不満は解消されています。
 さて今回の事件は、藩の山中で白骨化した死体が発見されたというのが発端ですが、駆けつけてみればその死体は消え失せてしまったという怪事。さらに近隣の村で密かに続く神隠し、跳梁する謎の山伏、何事かを隠しているかのような藩の人々、迫る微塵流の剣客…と四面楚歌の中で、狸斎が数々の事件の背後に隠された巨大な陰謀を暴くという趣向となっています。

 今回の御隠居、冒頭でいきなりナニが役に立たなくなってしまうという男としての大ピンチに陥りますが、それ故…というわけでもないでしょうが今回は苦闘の連続。なかなか全貌を見せない怪事件に立ち向かう中で、ある時は自分が傷つき、またある時は親しい人間を人質に取られと厳しい戦いを強いられます。もちろんそれだけに最後の勝利の味わいは良く、それまでさんざん御隠居ともども振り回された溜飲が下がった思いがありました。
 主人公の設定が設定だけに派手さはないですが、かといって枯れてしまっているわけでもない、そんな深みのあるエンターテイメント作品として、楽しい作品でした(ちなみにこのシリーズ、勤め先の年配の方が大ファンで熱心に薦められたのですが、なんとなくわかるような気がします)。次回作がまた楽しみです。


「御隠居忍法 不老術」(高橋義夫 中公文庫) amazon bk1


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2005.06.01

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」

 一度は先祖返りの紅い輝きを放つも、たちまち元に戻った辰伶の瞳。それにも構わず辰伶は吹雪に戦いを挑むが、吹雪の水の力は辰伶のそれを遙かに上回り、辰伶は全ての水を奪われてしまう。そんな辰伶に、ほたるは、かつて吹雪に憧れ目標とした自分を否定しているようでは勝てないと突き放す。と、辰伶はほたるに生涯一度の頼みをするのだった。
 そして再び迫る吹雪の水の中に飛び込む辰伶。そこにほたるは螢惑輝炎を放つ。辰伶もろとも焼き尽くすかに見えた炎の中から、しかし更なる力を得て現れる。辰伶に流れるほたると半分同じ血は、相手に強制的に焔血化粧を施し焼き尽くす螢惑輝炎を己のものに変えたのだった。吹雪の知らない絆を得た辰怜の力は――

 今週は辰伶vs吹雪のみ。どこいった遊庵。
 個人的な見所は、まるで巻頭カラーのためだけに紅くなったかのような辰怜の瞳と、辰伶に説教するほたるでしょうか。
 特に後者は、かつて戦いの中で、師たる遊庵に受けた教えを受け入れ、師の想いを理解したほたるの言葉だけになかなかよい台詞。
 壬生編においては、味方キャラクター(例えば太白戦の紅虎、遊庵戦のほたる、時人戦のアキラ)は、それぞれ過去の自分と自分を取り巻く境遇・人々を受け入れ乗り越えることによって勝利し、力だけでなく心の強さを手に入れて成長していきますが(ちなみに梵や幸村にいまいち出番が少ないのは、二人が既にそういうものを乗り越えてきたからじゃないかな、と常々思ってます)、辰伶も果たして成長できるでしょうか。今週号を読んだ限りじゃまだまだですが。

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