御隠居二人の北紀行 「御隠居忍法 唐船番」
高橋義夫先生の御隠居忍法シリーズ第4弾。前作のラストで江戸から奥州の隠居所に帰ることとなった御隠居・鹿間狸斎ですが、津軽で消息を絶った御庭番時代の同僚の消息を探るため、同じく隠居で親友の元奉行・新野耕民さんと共に隠居所で落ち着く暇もなく探索の旅に出る、というストーリーです。
これまでは隠居所のある奥州笹野藩(江戸も少し)が舞台となっていたこのシリーズですが、今作では笹野の地を離れての旅物語。御隠居二人に加えて、鉄人流日月の太刀を操る男装の女剣士も加わり、いつものことながら、陰謀と剣戟には事欠かない展開となっています。
サブタイトルとなっている「唐船番」とは、異国船の出没に備え、密貿易に目を光らせる公儀の隠し目付のこと。その唐船番がどのように事件に絡んでくるかは読んでのお楽しみとして、暗殺者との死闘あり、海賊の襲撃ありと、舞台は変わっても、相変わらず御隠居とは名ばかりの狸斎さんの活躍が楽しい作品となっています。
その一方で、この作品では、狸斎さん耕民さんだけでなく、様々な御隠居たちの――必ずしも幸せとは言い難い――姿も織り込まれており、そしてまた、ある意味理想の老後とも思える生活を送る狸斎さんであっても、過去のしがらみからは逃れられない――今作での冒険行は、まさしくそこから発したものであります――ということもまた、描かれています。
どんな人間であっても、生きていく限りは必ず何かを背負い、それを引きずっていくという、当たり前ではあるけれども普段はなかなか認識し難いことを目の当たりにさせてくれるこの作品、エンターテイメントとして楽しいだけでなく、人の正しい生きる(=老いる)道とは何か、自由とは何か、ということは何か、ということも考えさせられるものとなっているのが、いかにも高橋先生らしいと感心しました。
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