アツいシチュエーションの冒険行 「灼熱の要塞」
サルベージシリーズ。幕末を舞台に、薩摩藩の一大軍事工場・集成館破壊の極秘命令を受けた将軍直属の隠密機関・中町奉行所の面々の死闘を描く時代伝奇冒険小説です。
最初、内容は知らずに、「時代小説に「要塞」というのはちょっと珍しいな…」と思い手に取ったのですが、個人的に大好きな、特殊チームによる不可能ミッションもの、(よくあるたとえで恐縮ですが)アリステア・マクリーンの軍事冒険小説を彷彿とさせるなかなかの快作でありました。
何よりも、舞台設定が見事、の一言です。強大な薩摩の軍事力に圧倒される幕府。その状況を覆すため、薩摩の強大な軍事力の背景である一大軍事工場にして大要塞・集成館を爆破してしまおうというミッションは、あまりにも豪快かつ無謀でありますが、それだけに読んでいるこちらもアツくなるシチュエーション。
そしてそれに挑むのが、南原作品には何度か登場した隠密組織・中町奉行所(中町奉行所自体は、江戸時代、一時期実際に存在した組織であります)の無頼与力とその一党、というのがまた良い感じ。更に彼らの前に立ち塞がる、いわば薩摩の国境守備隊・鰐塚の郷士衆が、大坂の陣で敗れて落ち延びた真田一党の末裔というのも面白いアイディアだと思います。
正直なところ、展開(特に薩摩に潜入してからの)が、些かおとなしい、というか平板に感じられる部分もあり(個人的には、この手の作品では定番の○○りネタがなかったのが残念)、主人公たちの前に現れる謎のヒロインの使い方もそれほどうまいとは思えないのですが、上記のような冒険小説としてのお膳立ての巧みさの前に、それもまあ許せるかな、というところ。
何よりもラスト、集成館爆破ミッションがある歴史的事件につながっていくあたりの展開は見事で、素直に感心させられました。
時代小説としてはなかなか珍しいと思われる正統派の冒険小説として、このジャンルが好きな方は読んでみても損はないと思います。
| 固定リンク
コメント