声なき声が叫ぶ地獄行 「怨みの刺客 鬼一法眼 鬼哭之章」
そのタイトルのためか長らく幻の作品となっていた「唖侍・鬼一法眼」の原作コミックが復活。既にTV版の方は「鬼一法眼」のタイトルでDVDボックス化されていたので、もの凄く意外、というわけではないのですが、数年前に名著「蔵出し絶品TV時代劇」での紹介を読んで以来(って、今読み返してみたらこの作品の紹介してるの牧秀彦先生だった!)読みたい読みたいと思いつつ、叶わなかった作品が復刊(しかもコンビニ売りコミックで!)するというのは、非常に嬉しいものです。
内容は、少年時代にスペインの剣士に家族を皆殺しにされた上、自分も喉を潰されて声を失った賞金稼ぎ・鬼一法眼(ゴルゴ似のルックスにスキンヘッドwith太いモミアゲというロックなビジュアル)が、仇を追って諸国を流浪しつつ、様々な事件に巻き込まれるというもの。
炎暑の中、村の水を独占する無頼漢たちと対決する第一話、密書を胸に嵐の川を越えようとする女性に助太刀する第二話、異人に怨みを持つ剣士との道行きから裏街道の輸送路の利権争いに巻き込まれる第三話、そして護送中何者かに狙われる凶悪犯の護衛をするうちに隠し金山を巡る悪党同士の争いに巻き込まれる第四話と、この巻では全四話収録されていますが、共通するのは、人情紙風船というか人間地獄というか、凄惨としか言い様のない人間模様。テイスト的にはいかにも70年代の時代劇チック…というよりもむしろマカロニ・ウェスタンチック(唖のガンマンが主人公である「殺しが静かにやって来る」に影響を受けた、という説もアリ)と言えるでしょうか。
とにかく、主人公の傍らに居る者が、尽く――普通、このポジションのキャラは殺さないだろうというのも含めて――次々と無惨に死んでいく様は、今日日のある種平和な時代劇を見慣れた者の目には、衝撃的の一言。特に第四話のラスト数ページの救いようのなさには、度肝を抜かれました。
そしてそれを目の当たりにするのが、慟哭の声すら満足に上げられぬ主人公であるだけに、その悲壮さは一層重くこちらの胸にも響くのです。
己の主義主張を口に出来ず、ただ剣でのみ道を切り開くしかない主人公の地獄行の行方に果たして何が待つか、来月刊行の完結編が待ち遠しく感じます。
「怨みの刺客 鬼一法眼 ~鬼哭之章~」(神田たけ志&五社英雄 リイド社SPポケットワイド)
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