遅めの夏休みを取ったので、昨日は昼間に「SHINOBI」を観てきました。村某さんのところで比較的好意的に書かれていたので、これはこちらも観てくるしかない! と、いうことで。
感想としては…なかなか頑張っていたのではないでしょうか。難点は色々とありましたが、まずは大健闘かと思います(正直、もっとどうしようもないものを想像しておりました)。
以下、ネタバレも含む感想を。
ストーリーは、原作をかなりコンパクトにまとめた印象。十対十を五対五に縮め、原作前半部分の弦之介の伊賀行きや人別帖争奪戦をバッサリとオミットして、甲賀伊賀の忍法合戦に基本的に集中しており、思い切ったアレンジではありますが、これは限られた時間の中で物語を展開させるのになかなか効果的であったと思います。
この作品の最大の見所である忍法合戦ですが、これがビジュアル的に大健闘。三人ほど何しに出てきたのかわからない面子もおりましたが、それぞれの忍者の能力を、なかなか迫力ある形でビジュアライズしており、好印象でした。特に、林の中での筑摩小四郎対夜叉丸の対決は、作中最高の名勝負。特に夜叉丸の黒糸術の使い方が面白く、感心させられました。
もっとも、ワイヤーアクションやストップモーション使いまくりのアクションシーンに拒否反応を示す方もいらっしゃるかと思いますが、私は別に構わないと思いますね。中国の武侠映画を思えば、日本映画でこういったアクションを見せるのも十分アリだとは思います(少なくとも、カット割りでズタズタになったチャンバラを見せられるよりずっとずっとよろしい)。
そしてキャラクター。印象に残ったキャラクターを列挙しますと…
○朧
原作と一転して、非常にリアリスティックなキャラクターに。最初は弦之介との戦いにためらいを見せるものの、戦いに巻き込まれ、仲間を討たれ、遂に敵に止めをささんとする時に微笑すら浮かべるようにまで変わる姿は、原作――というより「バジリスク」の朧を見ている身としてはちょっとしたカルチャーショック。
しかし、「甲賀忍法帖」ではなく、山田風太郎の作品で見れば、こういう女性キャラって結構いるような…山風作品では女性の方が現実を積極的に受け入れて変化していきますから。そこまで考えてキャラクター設計がなされていたら驚異ですが…
○薬師寺天膳
コンセプトデザインの山田章博のイラストから抜け出してきたような美麗な無限の住人(だって、なあ…)。原作のような野心家的側面は無く、むしろ「死ねない」自分の存在に虚無的となったあまり滅びを望む人物として描かれており、意外とあっさり退場するにもかかわらず、強く印象に残るキャラクターでした。
ドジっ子天ちゃんじゃないのが、むしろ違和感な方もいるかも(最後のあれは、覚悟の上の行為という気がしますし)
○夜叉丸
一人だけ「甲賀忍法帖・改」のキャラが混じっているようなビジュアルの、本編のアクション担当。キャラ自体は大して掘り下げられていないのですが、上記の通り黒糸術の見せ方が面白かったので非常に強いインパクトが残りました。
○蛍火
初登場シーンの、寄ってくる蝶をちょん、ちょんと突く様が印象的だった美少女。演技なのかガチなのか、ぽやーんとしたお人形的な表情が多かったキャラですが、そこがむしろ、突然戦いの場に投げ込まれた普通の女の子感が出ていて私個人としては好印象でした。
…あれ、何故か伊賀側ばっかりに。あ、甲賀側にも悪い意味で印象に残った人が。
○甲賀弦之介
ある意味、本作最大の問題児。シナリオもさることながら、半分以上は役者の責任で、本当にとほほな駄目人間になておりました。格好いいことを言いながらも結局何一つ現状を打開することが出来ず、やることと言えば突然わめき散らしてキレるカリスマ性ゼロの厨坊っぷり。最後の行動も、ある意味人任せではありますし…
悪い部分ついででもう一つ。この作品、ストーリー構成――それも終盤の――が、どうにも残念なことになっていた、というのが正直なところ。
この作品のテーマは、言ってみれば「武器としてしか扱われない忍びの悲劇」。登場するキャラクターたちは、皆、この忍びの宿命の元に最期を遂げていくわけですが、それはいい。舞台が戦国最後の大戦争である大坂の陣直前ということを考えれば、なかなか面白い着眼点ではあると思います。
が、その悲劇に無理矢理人道的決着をつけてしまったおかげで、どうにも中途半端な印象が否めなくなってしまっているのですね。これが例えば、原作のように弦之介と朧の決着をつけたところでスッパリと終わり、後は浜崎あゆみのバラードが流れる中、卍谷と鍔隠れの里が○○されていく様をバックにエンディングロールが流れれば、悲惨は悲惨だけれども非常に印象的な終わり方になったと思うのですね。
それが、人道的決着のために十数分間費やされるので、それまでの流れが一気に断ち切られて、すっかりダレてしまったのが本当に残念でなりません。
また、予告編等から受ける印象ほど、純愛ものしていなかったのも、中途半端な印象を受けますし、勿体ない気もするのですが、実際純愛ものされてもそれはそれで困るので、まあ、それは良しとしましょう(本当は良くない)。
などと、相当厳しいことも書きましたが、総体としての印象は、なかなか面白いものでありましたし、原作を知らない方が見れば、また別の印象を受けるかもしれません。少なくとも、ここ数年のアクション時代劇につきものだった「やってもうた」感は、相当低めだったように感じます。
そして何よりも、忠実に実写化すればするほど陳腐になってしまう山風忍法帖のキャラクターや忍法を、うまくアレンジしてビジュアライズして見せたのは大いに見事だったと思いますし、そうしたキャラクターたちがぶつかり合うアクションシーンも、最近の邦画・時代劇としては相当良くできた部類ではなかったかと思います。
原作原理主義者の方、オダギリジョー嫌いの方にはおすすめできませんが、予告編を見て興味を持った方は映画館に足を運ばれてもいいんではないかな、と思います。
ちなみに平日昼間でしたが、結構な人の入り。しかも、観客の中の老若男女の割合が、結構均等になっていたのはちょっとした驚きでした。これはこれで、ちょっと嬉しい話ではあります。