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2005.09.30

血闘者の肖像 「柳生一族と闘った男」


 サルベージシリーズ。神陰流の奥伝を印した印可書を巡り、二階堂主水(松山主水)が、時代劇世界で一番敵に回したくない連中・柳生一族を真っ向から敵に回しての大血闘を展開するアクション時代劇画、以前「血闘者」として発表された作品を、廉価版コミックとして再編集したものです。

 メインのストーリーは、主水と柳生一族の対決ですが、その他にも宮本武蔵や山田浮月斎も登場して戦いに加わり、五味康祐の「柳生武芸帳」を意識しているのかな、という印象もあります。が、あちらでは「政治」というものが重要なファクターとなっていた一方で、こちらは主水がひたすら斬って斬って斬りまくる展開。
 二階堂主水が神陰流の流れを継いでいたり(二階堂流は中条流がベースのはず)、石舟斎存命中に十兵衛がいたりと、アレ? と思う部分がないでもないですが、剣戟アクションとして見れば水準以上の出来であり、特に明国からやって来て柳生一族の助太刀となった中国武術の遣い手・李朱明一党が登場してからは、日本の剣法vs中国武術という一種の異種格闘技戦的趣向もあって、バラエティに富んだ殺陣が楽しめました。

 ただ、刃を持って自分に対する者であれば、老若男女容赦はしないという苛烈な生き方をする主水が、惹かれ合うようになった女忍の無惨な死に様に遭って初めて自分の生き様に疑問を抱くという終盤の展開に、今ひとつ共感できなかったのが残念なところではあります(もちろん、それなりに心情描写はされているので、あくまでも個人の感覚ですが)。
 とはいえ、そんな自らの全存在に対する疑いと虚無感に苛まされながらも、なお柳生一族・李朱明との絶望的な決戦に向かう主水の姿は、まさに「血闘者」と言うにふさわしいものであったと言えるかと思います。


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2005.09.29

ちょっと小休止? 今週の「Y十M」

 先週一気に動きのあった「Y十M」ですが、今週はまたちょっとおとなしめ…というか小休止の印象。大道寺鉄斎戦の後始末その1、という印象で、十兵衛が一計を案じて庄司甚右衛門を脅かすところまでが描かれています。
 この庄司甚右衛門絡みのエピソードは、いかにも時代劇時代劇している部分なので、さらっと流してしまった方がいいような気がするのですが…
 が、それはさておき、甚右衛門を脅かすために幽霊の扮装をした元・京人形の皆さんが、なんというかエ…あ、いや、体の曲線が艶めかしくてGJ。
 そうそう、全般的に原作に忠実な描写の今回でしたが、鉄斎の体に刺さった七本の刀を十兵衛が抜くシーンは、原作では刀の方を抜いているような描写でしたが、こちらではむしろ鉄斎の体を引き抜くという印象で、悪党に対する容赦のなさがダイレクトに伝わってきてこれもGJでありました。

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2005.09.28

時代小説の現在を見よ! 「読んで悔いなし!平成時代小説」


 「時代劇マガジンSPECIAL」という扱いのこのムック、昨日の朝刊の広告で見て早速購入しましたが、期待以上に面白い、よく出来た本でした。
 内容的には「平成生まれの傑作&名作100」という、平成になってから出版された(発表された、ではなく)時代小説の中からの100選という企画がメインですが、それ以外の企画記事もかなりの充実ぶりでありました。

 何よりもこの本が面白いのは、例えば池波正太郎や司馬遼太郎といった大御所層の作品をあえて外し、平成になってからにターゲットを絞ったこと。
 もちろん平成も早17年、その間に出版された時代小説も相当な数になるかと思いますが、しかし、これまでに出版された時代小説解説本のほとんどが昭和初期(あるいは明治大正)以降の作品からチョイスしており、紙幅の都合等から結果的に最新の作品や、文庫書き下ろし作品のようないわゆる大衆向け作品が漏れることとなっていることを考えると、「時代小説」の「現在」を見せるために対象を絞って見せたこの本の企画の妙が光ります。


 その他、メインの企画以外で特に面白かった記事を挙げますと…
○「時代小説書き下ろし文庫の“現在”」
 上でも触れたように、現在の時代小説界のメインストリームを形成しつつありながら、これまできちんと語られたことの無かった文庫書き下ろし作品の世界を、文庫書き下ろし界の鉄人・佐伯泰英先生へのインタビューや出版社担当編集者への取材で語っています。

○「心に残る平成キャラクターたち」
 「無宿狼人キバ吉」の作者・森野達弥氏のイラストによるキャラクターエッセイ。「妖藩記」の紫暮右近・左近のイラストがまた格好良いんだ。原作を知っている方なら「どうやって右近を描くの?」と思うかも知れませんが、これがまたうまいことになってます。

○「ライトノベルはキャラクターで読む時代小説?」
 これまた今までの時代小説解説本でほとんど黙殺されてきたライトノベル――特に女の子向けを中心に――の中の時代小説を紹介してます。「鬼神新選」の紹介文、間違えてないけど容赦ないです。

○「ながめて楽しいビジュアル系時代小説のすすめ」
 これまた(以下略)児童文学や絵本の中の時代小説の紹介記事。これはかなりの方にとって未知の世界かと思われるので、実に興味深い内容です。私にとって軽いトラウマ作たる「ベロ出しチョンマ」がいの一番に紹介されていて驚きました。


 …と、上記の内容でも大体おわかりかと思いますが、この本の実に素晴らしいところは、従来の読者層である中高年男性のみならず、女性層、若者層にも時代小説をアピールしていこうとしている点。

 現在確かに時代小説は一種のブームではありますが、あくまでもそれは一部(決して少なくはない人数ですが)の層を対象としたものに過ぎない、という印象があります。そして、真に時代小説ブームを盛り上げ、継承していくためには、バラエティに富みかつ内容豊かな時代小説が生み出されていくためには、もっともっと広い層を対象として、老若男女全てを対象とするくらいの気持ちで作品を、情報を発信していく必要があると私は常々考えています。

 この本は、そんな私にとって、まさに我が意を得たり、な内容。
 名作を読むのはもちろん大変結構なことではありますし、「高尚な」作品に触れるのももちろん素晴らしいことですが、それだけではない、実にエネルギッシュでバラエティに富んだ時代小説の「現在」を、色々な層の方々に知ってもらうための紹介役、指南役として、この本はうってつけの内容かと思います。


 ちなみに、個人的には「近藤ゆたか先生の(参加している)時代劇本にハズレなし」と思っていますが、この本の中でも近藤先生は大活躍。そして私のその印象も間違っていなかったことがまたも証明されたと感じた次第。


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2005.09.27

戦国武将の人間力を見よ 「影風魔ハヤセ」第1巻


 今までもこのブログで何回か紹介してきた森田信吾先生の最新作「影風魔ハヤセ」の第1巻が遂に発売。改めて収録の10話分まとめて読んでみると、やはり実に面白いのです。

 物語の始まりは本能寺の変から。光秀の謀反により自刃に追い込まれたと思われた信長ですが、彼に付き従う影の陰、忍者(しのび)に忍び寄る者・玄忍者(くろしのび)こと影風魔ハヤセの策により信長は生存。そして光秀もまた、真犯人によりはめられたことを悟り、逆襲に転じんと策謀を巡らし――というのがメインのストーリーとなっています。

 元々、バイオレンス時代劇を描かせたら当代五本の指に入るであろう作者ですが、その筆の冴えは初の忍者もの(だよな?)であるこの作品でも全く衰えることなく、いやむしろ、何でもありの戦いが繰り広げられていた戦国時代の合戦、忍者同士の死闘というものを、全く容赦ない、徹底的な描写でもって描ききっております。
 特にハヤセが初登場で見せた、そのイケメンっぷり(たぶん森田主人公一の色男)にも似合わぬダーティーファイトは非常に鮮烈なインパクトがありました(まあ、1巻で主人公が大活躍するのここくらいなんですが…)。

 …と、しかしこの作品で――少なくともこの第1巻の時点で――より強い印象を残すのは、忍者たちよりも三人の戦国武将、すなわち信長・秀吉・光秀のキャラクター(あ、ほんの一シーンでしたが家康も面白かった)。いずれも綺麗事の効かない、何でもありの戦場修羅場をくぐってきた男としての人間力が読んでいるこちらにビンビンと伝わってきて、これだけでもこの作品を読んだ甲斐があったというもの。
 特に、比較的従来のイメージに沿っている信長・秀吉はともかく、光秀のキャラクター造形は強烈の一言。光秀といえば、どうしても「悲劇の文化人」とか「身の程知らぬ小才子」のイメージがつきまといますが、どうしてどうして、この作品での光秀はそんな小さな人間ではありません。というか、あたかも森田イズムを体現したかのような言動にもうメロメロ。
 以下、特に印象的な台詞を抜き出せば…
「この俺相手に謀略戦挑むとは……愚かな奴もおったもんだ!! ……のう?」
「この明智……もともと流浪の我が身ひとつ! 機が満ちるまでたかが俺ひとり……身を隠すすべなど心得ておるわ!!」
「あまたの戦場修羅場くぐり抜けてきたこの光秀……詩歌ひねるだけが取り得の……そこらのヘナチョコ公家・坊主と同じだと思うなよ!!」
 特にね、三番目の台詞には、本当にごめんなさいという感じです。

 と、これだけ書くとキャラの魅力だけで保っている作品のようですが、伝奇的に見ても、例えば山崎の合戦の解釈などなかなかユニークかつ納得できるものがあり、そして何よりも本能寺で死ななかった信長がこれからどのように動いていくのか、興味は尽きません。

 連載の最新回では、信長と玄忍者たちを狙って、日本中の腕利き忍者たちが集合、これがまたいかにも、な面々で、忍者ものとしてももちろん大いに期待出来そうです。


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2005.09.26

10月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュール

 10月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールを更新しました。右のサイドバーからも見ることができます。
 さて、内容ですが、小説の方では、上田秀人の三田村元八郎シリーズの最終巻「蜻蛉剣」が発売。そしてそれと同じ徳間文庫から、名作「駿河城御前試合」がようやく! の再刊。まず間違いなく「シグルイ」効果だと思いますが、今まで原作を読みたくても読めなかった若い読者の手元にこの名作が届くことになるかと思うと、非常に喜ばしいことです。そして皆、車大膳の正体に悩むがいい(笑)。

 また、個人的に非常に嬉しいのは、武侠小説御三家で唯一作品が邦訳されていなかった(よな?)梁羽生の「七剣下天山」がやはり徳間文庫から登場。いったい何故今頃…と思ったら、10月公開の「セブンソード」(私がもっとも敬愛するアクション俳優ドニー・イェンが大活躍するらしいので今から楽しみでなりませんよ! チャーリー・ヤン、ずいぶん年取ったけどやっぱり綺麗だなあ。レオン・ライは…まあいいや。ああ、試写会に応募すればよかった)の原作なんですね。他の作品も出してくれないかなあ…
 そうそう、単行本のみの発売だった「忍法創世記」が小学館文庫で文庫化。まだの方はぜひ。「書院番殺法帖」の続編も楽しみです。

 漫画の方は、「武死道」「闇鍵師」の第1巻がそれぞれ発売。前者は朝松健の「旋風伝」を原作にしながらも全く別の世界を描き出し、後者は中島かずきが実力派・赤名修と組んでの異色時代伝奇ということで、どちらも注目度高、です。
 が、個人的に一番気になっているのは。正直に言って打ち切りエンドなのですが、異色の十勇士ものとして非常に面白い存在だったこの作品のラストをきちんと見届けたいと思います。
 そのた、最終巻といえば「隠密剣士」も発売されるので、こちらも要チェックでしょう。

 その他、DVDは「新東宝名画傑作選 DVD-BOX 9 伝奇時代劇編」「鍋島怪猫伝」「忍術児雷也」「逆襲大蛇丸」を収録)や映画版「阿修羅城の瞳」が大いに気になるところ。特に「阿修羅城の瞳」の方は、2003年の劇場版をパックしたものも出るようなのですが、私、丁度2003年版のソフト持っていないので、うーん手を出してしまいそう。

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2005.09.25

狐の姿に漂う情念 文楽「芦屋道満大内鑑」

 国立劇場の9月文楽公演「芦屋道満大内鑑」を観てきました。
 今日上演されたのは、「大内の段」「加茂館の段」「保名物狂の段」「葛の葉子別れの段」「信田森二人奴の段」。題名に付けられているにもかかわらず、芦屋道満の出る段・場面が全てカットというのには泣けましたが、いわゆる「信田妻」のエピソードを中心に構成されていて、これはこれで致し方ないのでしょう。

 この「芦屋道満大内鑑」は初めて観るのですが、思っていた以上にバラエティに富んだ内容。「加茂館の段」の奸臣の悪巧み・継子虐めと、そこから一転しての復讐劇(人形でなければ演じられないような豪快かつ妙にリアルな殺しの場面には驚かされました)、「保名物狂の段」の狂った保名が見せる美しい舞い、「信田森二人奴の段」の瓜二つの二人奴のコミカルな活躍と、観る側の喜怒哀楽全てを刺激するような筋立ての盛り込み様には感心しました。

 が、やはり一番心揺さぶられたのは何と言っても「葛の葉子別れの段」。安倍保名に命を救われた白狐が、葛の葉姫に姿を変えて保名に添い、子供(後の晴明)をもうけて幸せに暮らすも、本物の葛の葉姫の登場により狐の姿を現し、信田の森に去っていくという非常に有名なエピソードですが、吉田文雀氏操る女房葛の葉の姿がひたすら感動的でありました。
 首は美しい女性の姿のままで、体は半ば白狐という異形に変わりながらも(ちなみにこの時の一瞬の変貌も人形浄瑠璃ならではの面白い仕掛け)、眠る我が子に、語りかける姿。感情が高ぶれば狐の本性が現れるのか、人とは異なる獣めいた所作を交えながらも、あくまでも母親として切々と語り、涙する姿は、圧巻の一言。
 更に、完全に白狐の姿と変わって去っていく際に、愛しい夫と我が子に振り返ってみせる姿(所作)には、形では狐でありながらも、まぎれもなく女性の情念が漂っていて、思わず唸らされました。

 私は、人形が人間を演じてみせることにより、人間の情念というものがはっきりと見えてくる点に惹かれて人形浄瑠璃を観ているようなものですが、人形と人間のみならず、人間と獣の関係を加えることによって、より一層はっきりと人の情を浮かび上がらせて見せた様には感じ入った次第(そしてそれは、現実と虚構と組み合わせることにより、より一層現実というものの姿を浮かび上がらせてみせる、伝奇ものの手法に通ずるものがあると思うのですが…さすがにこれは牽強付会すぎるかな)。
 この場面だけでも、観に来た甲斐があったというものです。

 人間国宝の吉田玉男氏が休演だったのは残念でしたが、満足できる公演でありました。


 ちなみに同じ敷地内の伝統芸能情報館で、「大幽霊展」という小さな展示が行われていて、四谷怪談の戸板返しや瀧夜叉姫の蝦蟇が展示されていたの、怖かったんですよ…何がって展示場の隅にさりげなく於岩稲荷の御札が貼られているのが。

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2005.09.24

再び吹けよ剛神風! 「大江戸超神秘帖剛神」

剛神―大江戸超神秘帖 人類が太陽系内に六つの惑星と十の衛星しか知らなかった頃、地球最大の都市・江戸八百八町は宇宙からの侵略者「星夷」に狙われていた。立ち向かうは、時の老中田沼意次が結成した蘭学攘夷隊…だが、人知を超えた星夷の力はあまりにも強大、江戸の町が危機に陥ったその時、一陣の旋風と共に現れた巨大な影…それこそは星夷を打ち砕く偉大な勇者・剛神だった!  今こそ吹けよ剛神風!

 ついに…ついに幻の名作が復活しました。無理矢理内容を一言で表せば、SF時代伝奇巨大変身ヒーローアクション(解説の田崎監督に怒られそうな表現だな)とも言うべきこの作品。時代劇ファン、特撮ファン、伝奇ファンの方には是非読んでいただきたい快作、まさしく「レジェンド・アーカイブス」から出版されるにふさわしい伝説の逸品であります。

 時代劇で変身ヒーローものをやりたい! というのは、時代劇ファン兼特撮ファンであれば当然一度は抱くであろう夢であることは言うまでもないこと。が、それをある一定以上のリアリティと整合性を持たせて成立させるというのは、実際には非常に困難であることもまた言うまでもないことであります。いわんや、巨大変身ヒーローものをや(ミツルギという微妙な前例はありますが)。
 ――そして、そんな困難な夢を実現させたのがこの作品。

 巨大で奇怪な侵略者たち、いずれも一癖ながらも頼もしい特捜チーム、そして絶対絶命のとき現れる正義の巨人…お馴染みと言えばお馴染みのシチュエーションが、時代劇の世界と結びつくことで、何倍にも魅力的に見えてきます。今でも、旧版コミックスでこの作品に触れた時の衝撃は忘れられません。
 そしてネタだけ見れば全く無茶な内容ながら、伝奇時代活劇としても違和感なく楽しめるのは、安易なパロディやギャグに逃げることなく、時代劇として押さえるべきものを押さえつつ(実)、ブッ飛ばすところはブッ飛ばすという(虚)、虚実織り交ぜた「わかってる」作り手の愛ある態度あってこそ、なのでしょう。

 そのスタンスが端的に表れているのは、たとえば「日光山変化獣攻防戦(にっこうざんばけものかっせん)」のエピソード。日光東照宮を襲う巨大星夷との攻防戦を描いたこのエピソードでは、星夷がよりにもよって○○○を喰って巨大化するという虚の部分(そして何故星夷が東照宮を狙うか、という理屈付けも面白い)もさることながら、それに立ち向かうのが日光千人同心、更に喜連川公方まで登場するという実の部分の肉付けが面白くも熱い展開となっています。喜連川公方なんて、普通の(という言い方は好きではないですが)時代劇にも滅多に登場しないような面白い玉ですよ?


 さて、今回の単行本化では、旧版に収録されていなかった、レギュラー陣が紀州を目指して旅する長篇シリーズ第二部「血風魔道篇」第二段目までを描き下ろしを加えて収録した、いわば決定版。が、大変残念なことに、物語としては中途で終わってしまっているのも事実。
 伝説を伝説のままで終わらせないために、単なる一過性の復刻で終わらせないために――この作品が、少しでも多くの方の目に留まり、受け入れられることを心から祈る次第であります(本来であれば単行本発売直後に記事を書かせていただくつもりが、こんなに遅くなってしまったのは、ひとえに思い入れがありすぎるものにはかえって筆が重くなるという私の悪癖ゆえということで乞うご寛恕)。

 そしていつの日か――再び吹けよ剛神風!


「大江戸超神秘帖剛神」(近藤ゆたか&滝沢一穂 チクマ秀版社レジェンド・アーカイブス) Amazon bk1

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2005.09.23

四大奥義遂に出揃う 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」

 ひしぎの心臓で一命を取り留めるも、秘術の効力が薄れゆく吹雪。一方、狂にも死の病が発症し、血を吐いてしまう。二人を止めようとするほたるだが、ひしぎの記憶を受け継いだ灯は、狂は吹雪の想いも知りつつ、諸悪の根元である先代紅の王を倒すため壬生に帰ってきたと語る。そして最後の奥義・極光緋龍翔を放つ吹雪。対する狂は、ついに無明神風流奥義の一つ・青龍を放つ。吹雪を捉える狂の一刀だが、狂も力を使い果たし、共に地に伏してしまう…

 ついに最後の四大奥義・青龍が登場。無数の「みずち」(懐かしー)が文字通り竜巻と化して相手の動きを封じて宙に浮かせ、そこに叩き込むという…動きを封じるの好きだな、無明神風流。
 それ以外に目を引いたのは、過去の記憶の中で描かれる先代紅の王のあまりに非道な言動。すぐに次の戦闘人形を造るから、滅んじゃっていいよ、と言われれば、そりゃ村正も逃げるでしょう。

 そして――ああ、遂に倒しちゃったよ、狂が吹雪を(相討ちですが)。辰怜の、時人の立場がない…全くもって狂は空気読め。そして作者は体に気を付けて頑張れ。超頑張れ。

 …あ、言われてみれば、京四郎も造られし者(死の病を発症したため、そう判断できる)なのに紅の王を継ぐことができるのでしょう。今まで気にも止めてなかったけれども確かに謎であります。

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2005.09.22

第一印象は… 「必殺裏稼業」ファーストインプレッション


 昨日、「必殺裏稼業」を入手したので、早速プレイしてみました。プレイ時間は約二時間、第一話「暴利貪る一粒の塩」クリアまでのプレイです。
 第一話は、いわばチュートリアル。新しいアクションが可能になる度に、操作方法と内容が表示されますし、次の目的地も簡単にわかるようになっています。
 ストーリーもかなりシンプル、裏稼業に参加するのは主人公ともう一人、破戒僧の謙冶のみですが、裏稼業パートでの操作はかなり特殊ですし、最初からあまり仲間の人数が多くても混乱しそうなので、これはこれで問題ないと思います。

 さてこのゲーム、大きく分けて二つのパート、「昼」パートと「裏稼業」パートに分かれます。
 「昼」パートはいわばアドベンチャーパート、依頼を受けた事件の裏を探り、裏稼業を仕掛ける相手を特定するのが目的で、江戸の町を歩き回って人と会話し、時には急病人の治療に当たり(主人公の表の顔は医者なので)、情報を集めるというモード。
 一方の「裏稼業」パートは、相手の元に忍び込んで幾つもの障害をくぐり抜け、標的を暗殺してのけるというモードで、出来るだけ敵に見つからぬよう行動し、仕留めるときは一撃で仕留めるという、一言で言えばステルスアクションゲームとなっています。
 もっとも、ステルスアクション自体は最近では珍しいものでもなく、特に時代劇ゲームでも「天誅」という老舗(しかも最近ではすっかり「必殺」テイストを導入)があるため、ゲームとしての独自性をアピールするのは「昼」パートの方だと思ったのですが…

 正直なところ、「昼」パートの出来は、かなり苦しい印象。基本的にはお使いゲームで、江戸の町をあちこち歩き回るのですが、移動スピードが妙に遅いのにイライラさせられます。もちろん、移動には歩くほかに「走る」という手段もあるのですが、走ると満腹度を示す「はら」ゲージが減っていくので、走ってばかりもいられない。
 もっとも、町中の料理屋(って言われてますが飯屋って言うべきではないかなあ)で食事をすればゲージは簡単に復活するので、ゲーム中はとりあえず走り回るのが基本になります。つまり「はら」ゲージは単なる縛りにしかなっていないわけで、これはちょっとなあ…という印象。

 それ以上にイライラ感を煽るのは、会話の先送りボタン表示が出るタイミング。このゲームでは台詞はフルボイスなのですが、その読み込みの関係か、台詞を言い終わってからボタン表示が出るまで(つまりボタン入力を受け付けるまでに)に、ワンクッション置かれてしまうのですね。「昼」パートは会話がメインになるだけに、この仕様には相当ストレスを感じさせられました。×ボタンで音声スキップが出来るので、とりあえずあまり重要でない会話の場合は、ほとんど音声は飛ばすことになります。

 ちなみにストーリーに関わる情報を聞くと「恨み度」というポイントが増えていくのですが、基本的にこのポイントが増える会話をするのは、道に立ち止まっている人間だけくさいので、時短のためには無駄な会話はしない、というのも一つの手ではあります(とても味気ないですが…)。

 と、いきなりきついことを書きましたが、「裏稼業」パートはやはりなかなか面白いゲームとなっています。まず最初にステージを構成するいくつかのブロックに、主人公と仲間を配置します。仲間を配置するには「取り分」を支払う必要がありますが、仲間の体力が0になってもゲームオーバーになりませんし、何よりもキャラクターによって殺し技が違うのでここは出来るだけ仲間を使いたいところ(まあ、上記の通り第一話は二人しかいないのですが)。

 そして裏稼業がスタートすると、後は敵地に潜入して、見張りの連中を後ろから羽交い締めにして気絶させたり、角から不意を突いて一撃必殺したり、障子やふすま越しに一撃必殺したり、屏風の陰に隠れて一撃必殺したり…と「必殺」テイスト溢れるアクションを繰り広げていくことになります。操作はちょっと複雑になりますが、やっぱりこれが面白い。
 華麗に必殺攻撃を決めたときも面白いですが、失敗してもそれはそれで面白いんです、これが。

 私の場合、一回目の裏稼業では、角からの飛び出し攻撃を失敗しまくって見事に敵に発見されまくり。それでも何とか標的のところまでたどり着いたと思ったら、標的の間近でまたもや飛び出し攻撃を失敗、騒ぎになって駆けつけてきた敵の仲間たちと乱闘中に、逃げてきた標的を偶然叩き斬って暗殺成功という、なんともしまらないオチになってしまいました。ステージクリア後の評価は見事に「半人前」。
 それでは悔しいと二回目にチャレンジしたら、再びラストの標的のところまでたどり着いたものの、標的のいる座敷のすぐ側の便所から用を足し終わった敵が出てきて、そいつは倒したものの、駆けつけてきた用心棒に便所の中に追いつめられた挙げ句、なます斬りに…三回目でようやく「一人前」の評価をもらいました。

 まあ、これは単に私がヘボなだけなのですが、気分はほとんど珍プレー好プレー状態で、これはこれで一種のロールプレイ(新米仕事人)かな、と変なところで感心してしまいました。ちゃんと自分がうまくなれば、きっちりとアクションを決められますし。


 …と、何だかまとまりのない文章になってしまいましたが、少なくとも第一話の時点では、「裏稼業」パートはなかなか面白いものの、「昼」パートが正直微妙…といったところでしょうか。
 このゲームオリジナルの「昼」パートがゲームのテンポを削ぐ結果になっているのは何とも残念ですが、そこで我慢すればするだけ、「裏稼業」パートで爆発できる…のかなあ。

 もちろん、繰り返しになりますが、私がプレイしたのは全十話の第一話。これから裏稼業の仲間も増えていきますし、この第一印象がいい方向に覆されることを期待します。


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2005.09.21

まずは大健闘 「SHINOBI」

 遅めの夏休みを取ったので、昨日は昼間に「SHINOBI」を観てきました。村某さんのところで比較的好意的に書かれていたので、これはこちらも観てくるしかない! と、いうことで。
 感想としては…なかなか頑張っていたのではないでしょうか。難点は色々とありましたが、まずは大健闘かと思います(正直、もっとどうしようもないものを想像しておりました)。
 以下、ネタバレも含む感想を。

 ストーリーは、原作をかなりコンパクトにまとめた印象。十対十を五対五に縮め、原作前半部分の弦之介の伊賀行きや人別帖争奪戦をバッサリとオミットして、甲賀伊賀の忍法合戦に基本的に集中しており、思い切ったアレンジではありますが、これは限られた時間の中で物語を展開させるのになかなか効果的であったと思います。

 この作品の最大の見所である忍法合戦ですが、これがビジュアル的に大健闘。三人ほど何しに出てきたのかわからない面子もおりましたが、それぞれの忍者の能力を、なかなか迫力ある形でビジュアライズしており、好印象でした。特に、林の中での筑摩小四郎対夜叉丸の対決は、作中最高の名勝負。特に夜叉丸の黒糸術の使い方が面白く、感心させられました。
 もっとも、ワイヤーアクションやストップモーション使いまくりのアクションシーンに拒否反応を示す方もいらっしゃるかと思いますが、私は別に構わないと思いますね。中国の武侠映画を思えば、日本映画でこういったアクションを見せるのも十分アリだとは思います(少なくとも、カット割りでズタズタになったチャンバラを見せられるよりずっとずっとよろしい)。

 そしてキャラクター。印象に残ったキャラクターを列挙しますと…
○朧
 原作と一転して、非常にリアリスティックなキャラクターに。最初は弦之介との戦いにためらいを見せるものの、戦いに巻き込まれ、仲間を討たれ、遂に敵に止めをささんとする時に微笑すら浮かべるようにまで変わる姿は、原作――というより「バジリスク」の朧を見ている身としてはちょっとしたカルチャーショック。
 しかし、「甲賀忍法帖」ではなく、山田風太郎の作品で見れば、こういう女性キャラって結構いるような…山風作品では女性の方が現実を積極的に受け入れて変化していきますから。そこまで考えてキャラクター設計がなされていたら驚異ですが…

○薬師寺天膳
 コンセプトデザインの山田章博のイラストから抜け出してきたような美麗な無限の住人(だって、なあ…)。原作のような野心家的側面は無く、むしろ「死ねない」自分の存在に虚無的となったあまり滅びを望む人物として描かれており、意外とあっさり退場するにもかかわらず、強く印象に残るキャラクターでした。
 ドジっ子天ちゃんじゃないのが、むしろ違和感な方もいるかも(最後のあれは、覚悟の上の行為という気がしますし)

○夜叉丸
 一人だけ「甲賀忍法帖・改」のキャラが混じっているようなビジュアルの、本編のアクション担当。キャラ自体は大して掘り下げられていないのですが、上記の通り黒糸術の見せ方が面白かったので非常に強いインパクトが残りました。

○蛍火
 初登場シーンの、寄ってくる蝶をちょん、ちょんと突く様が印象的だった美少女。演技なのかガチなのか、ぽやーんとしたお人形的な表情が多かったキャラですが、そこがむしろ、突然戦いの場に投げ込まれた普通の女の子感が出ていて私個人としては好印象でした。

 …あれ、何故か伊賀側ばっかりに。あ、甲賀側にも悪い意味で印象に残った人が。
○甲賀弦之介
 ある意味、本作最大の問題児。シナリオもさることながら、半分以上は役者の責任で、本当にとほほな駄目人間になておりました。格好いいことを言いながらも結局何一つ現状を打開することが出来ず、やることと言えば突然わめき散らしてキレるカリスマ性ゼロの厨坊っぷり。最後の行動も、ある意味人任せではありますし…

 悪い部分ついででもう一つ。この作品、ストーリー構成――それも終盤の――が、どうにも残念なことになっていた、というのが正直なところ。
 この作品のテーマは、言ってみれば「武器としてしか扱われない忍びの悲劇」。登場するキャラクターたちは、皆、この忍びの宿命の元に最期を遂げていくわけですが、それはいい。舞台が戦国最後の大戦争である大坂の陣直前ということを考えれば、なかなか面白い着眼点ではあると思います。
 が、その悲劇に無理矢理人道的決着をつけてしまったおかげで、どうにも中途半端な印象が否めなくなってしまっているのですね。これが例えば、原作のように弦之介と朧の決着をつけたところでスッパリと終わり、後は浜崎あゆみのバラードが流れる中、卍谷と鍔隠れの里が○○されていく様をバックにエンディングロールが流れれば、悲惨は悲惨だけれども非常に印象的な終わり方になったと思うのですね。
 それが、人道的決着のために十数分間費やされるので、それまでの流れが一気に断ち切られて、すっかりダレてしまったのが本当に残念でなりません。

 また、予告編等から受ける印象ほど、純愛ものしていなかったのも、中途半端な印象を受けますし、勿体ない気もするのですが、実際純愛ものされてもそれはそれで困るので、まあ、それは良しとしましょう(本当は良くない)。


 などと、相当厳しいことも書きましたが、総体としての印象は、なかなか面白いものでありましたし、原作を知らない方が見れば、また別の印象を受けるかもしれません。少なくとも、ここ数年のアクション時代劇につきものだった「やってもうた」感は、相当低めだったように感じます。
 そして何よりも、忠実に実写化すればするほど陳腐になってしまう山風忍法帖のキャラクターや忍法を、うまくアレンジしてビジュアライズして見せたのは大いに見事だったと思いますし、そうしたキャラクターたちがぶつかり合うアクションシーンも、最近の邦画・時代劇としては相当良くできた部類ではなかったかと思います。
 原作原理主義者の方、オダギリジョー嫌いの方にはおすすめできませんが、予告編を見て興味を持った方は映画館に足を運ばれてもいいんではないかな、と思います。

 ちなみに平日昼間でしたが、結構な人の入り。しかも、観客の中の老若男女の割合が、結構均等になっていたのはちょっとした驚きでした。これはこれで、ちょっと嬉しい話ではあります。

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2005.09.20

いよいよ物語は佳境に 「秘太刀馬の骨」第3,4回

 いよいよ佳境に入ってきたTVドラマ版「秘太刀馬の骨」(原作本はこちら)、前回書き損ねたため二話まとめて。

 まず第3回「拳割り」は、前回の続きの内藤半左衛門との仕合があり、そして高弟三番手・長坂権平のエピソードまでが収められています。
 内藤半左衛門役は、個人的に好きな役者さんの本田博太郎氏なので、エピソードが二話に分かれてしまったため印象が些か薄くなってしまったのが残念なのですが、銀次郎の防禦の上からも構わずガッツンガッツンぶん殴る殺陣は豪快で、奇妙な爽快感すらありました。
 そして長坂権平の方は――原作では私が一番好きなエピソードだったのですが――芸達者の尾美としのり氏の好演もあって、なかなか良くできたエピソードに仕上がっていました。特に、権平が本気を出してからの勝負は、それまでのバタバタしたチャンバラから一転しての一撃必殺ぶりが印象深く、サブタイトルとなっている「拳割り」の説得力も十分でした。

 しかし何よりも印象的なのは、この回のエピソードの背後に、様々な母と子の姿があること。半十郎の妻・杉江と直江、半左衛門の息子の嫁とその子供、権平の妻・登実とその腹の中の子、多喜とその腹の中の子、そして銀次郎とその母…男どもが殺伐と闘っている後ろに、母と子――妻子の姿があるというのは、なかなか面白い対比だと思います(だからどうした? という見方もできますが…)。


 そして第4回「甦る対決」は、半十郎の部下・飯塚孫之丞のエピソード。好きだった女性のためを思って、彼女との結婚がかかった御前試合でわざと負けたという孫之丞の過去を暴いて仕合に持ち込む銀次郎の姿は、さすがにやりすぎ感が強く、結果オーライならそれでいいんか、と言いたくなってしまう結末を含めて、原作では個人的に一番すっきりしないエピソードだったのですが、ドラマの方では、銀次郎の姿に、好きな女を前にして手をこまねいていただけだったという孫之丞に自分の姿を重ねていたのかな、と感じられる部分があり、感心させられました。
 上記の第3回の母と子といい、ドラマの方では、原作にあった要素をうまくつなぎあわせて見せてくる演出が色々と見られ、個人的には好印象です(もっとも、それ以上に珍演出が多いのですが…)

 …が、凄まじかったのは孫之丞と銀次郎の仕合シーン。孫之丞、仕合中に叫ぶ! 吠える! いやまったく、時代劇で久々に怪鳥音を聴きました。
 まったく、女性人気がなかったのは顔というよりファイトスタイルのためではないかと。

 と、それはさておき、全体のストーリーの方は、銀次郎のやり方の汚さと家老の酷薄さについに半十郎が反発、派閥からの離反と介添役お役御免を宣言するという展開。そして銀次郎の方も何やら江戸表との動きで含むところがあるらしく…と大きく動き始める雰囲気に。
 これから先の展開は、主人公は銀次郎と謳っている以上、原作とドラマでは大きく異なってくるはず。真面目な原作ファンの方は怒るかもしれませんが(いやすでに怒ってると思いますが)、ここまで来たら、もう一つの「秘太刀馬の骨」の世界を全うして欲しいなと、私は期待しています。

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2005.09.19

松平蒼二郎再び 「陰流・闇始末 悪人斬り」


 新刊予定表を見たときに、何かの間違いでは、と思いつつも密かに期待していた牧秀彦先生の新刊。「陰流・闇仕置」全5巻で一端完結した松平蒼二郎が帰ってきました。その名も「陰流・闇始末」。これまで心ならずも父・松平定信の命で「闇仕置」を行っていた蒼二郎が、その呪縛から解き放たれたことを物語るタイトルと言えましょうか。紛らわしいですが。

 さて、物語は「闇仕置」完結直後からスタート。既に外道に堕ちた父を誅するために一人白河に向かう蒼二郎ですが、途中、父の腹心であり自分の師、そして仇でもあった田嶋源太夫の妻子が、父により命を狙われていることを知り、二人を守るために戦うことを決意するところから始まります。敵は白河藩全体、そして守るべき二人にとって蒼二郎は仇という複雑な状況の中、江戸へ江戸へ、蒼二郎の旅が続くことになります。

 そんな基本設定の中、全4話で語られる物語は、全般的に男泣き度高し。
 蒼二郎を狙いながらも母子への理不尽な暗殺命令に怒る忍びとの死闘の果ての共闘、罠が待つと知りつつも一旦請け負った舞台から逃げることはできぬと立ち向かう能楽師兄弟、蒼二郎暗殺を請け負いながらも堤防の決壊に苦しむ村人たちを救ってしまう治水家一族の末裔、そして何よりも、いずれは自分の命を狙うであろう母子の命を守るために命を賭ける蒼二郎――
 基本的には理不尽な権力の前に泣く人々の姿を描きながらも、決して後味の悪くない、むしろ爽やかな読後感となっているのは、そんな熱い男たちの姿が物語にあるから、ではないかと思います。

 剣豪小説作家、時代小説作家・牧秀彦の一つの到達点…と言うのは大袈裟かもしれませんが、続きを読んでみたい気持ちにさせられる作品であることは間違いではないと思います。


「松平蒼二郎無双剣 陰流・闇始末 悪人斬り」(牧秀彦 学研M文庫) Amazon bk1

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2005.09.18

混沌の心地よさ 「射雕英雄伝 2 江南有情」


 先日紹介した「射雕英雄伝」の続巻を読了。いやはや、今回も冒険百連発というかいきなりクライマックスというか、とにかく尋常ではないテンションで冒頭から巻末まで駆け抜けています。

 なにしろ、あらすじをまとめるのが尋常でなく難しいのがこの作品。筋立てが複雑、というより物語を構成する要素が非常に多いのです。思い出すままにつらつらと書き出せば…
○南宋・金・元の三国の覇権争い
○主人公とヒロインの恋の行方(というかどうやってヒロインの父に仲を認めさせるか)
○父の敵討ち
○生き別れの義兄弟の再会と相克
○伝説の武芸書の争奪戦
○悲劇の名将・岳飛の秘宝探し
と、マクロなレベルからミクロなレベルまで、およそ大衆エンターテイメントに必要な要素をほとんど網羅。

 さらに、そんな物語の中を縦横無尽に賭けまわる登場人物たちが、また異常に濃い。魔人怪人妖人奇人、何でもありの多士済々、一番地味なのが主人公という愉快な状態になっております。
 この巻では、前巻でもその名がほのめかされていた四人の伝説の達人、東邪・西毒・北乞・南帝のうち、東邪・黄薬師と北乞・洪七公が登場。中国武術界の最高峰を競ったメンバーだけに、腕前はもちろんのこと、そのキャラクターもかなり強烈で…と思ったら、ラスト近くになってそんな面子も霞むような強烈な人物が出てきたのでまた驚かされました。
 その名は周伯通、武術は東邪と互角ながら、「老頑童」の自称が物語るように、わがままで天真爛漫な子供がそのまま老人になったような怪人…いや快人。主人公・郭靖と偶然(金庸作品、「偶然」がまた非常に多いんですが)出会った周伯通、無理矢理郭靖に迫って義兄弟の契りを結び、自分を兄貴と呼ばせてご満悦、何故かうさんくさい関西弁でしゃべりまくる様はまさに抱腹絶倒、主人公が何をしていたんだか、どうでも良くなってきました。

 と、このように、「混沌」としかいいようのない状況のこの作品なのですが、それでもつまらないなどということは決してなく、むしろ一種不思議な心地よさすら感じられるのは、とにかく面白いものは全てぶち込んでしまえ! という金庸先生のプロ精神が伝わってくるからでしょうか。
 とにかく、一読巻置く能わずというのはこのような作品に対して贈られるべき言葉でしょう。早く続巻も読まねばなりません。


「射雕英雄伝 2 江南有情」(金庸 徳間文庫) Amazon bk1


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 金庸健在なり 「射雕英雄伝」第1巻
 底抜け脱線嫁取り騒動 「射雕英雄伝 3 桃花島の決闘」

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2005.09.17

七対六 今週の「Y十M」

 さて、今週の「Y十M」は、会話シーンばかりだった前回からうって変わってアクションのつるべ打ち。
 …の前に、突然さくらが着物を! 着物を! と、新感線「吉原御免状」を見に行った時に私の隣に座っていた、女性キャラが諸肌見せる度にばっとオペラグラスを目に当てていた人みたいなリアクション(失礼な上によくわからない表現)になってしまいましたが、これがなんと、さくらがどうやって吉原を抜けてきたか、そしてなぜ原作でのお千絵の役回りをさくらが果たしたか、という両方の疑問の解決であり、更にお沙和のキャラ立てともなっていたという離れ業につながっていったのには驚きました。
 …それはさておき、ここからが本題。

 ついに、会津七本槍初の犠牲者が! くさり鎌じじい、大道寺鉄斎死す。
 十兵衛先生考案&仕込みの二段重ねのくさり鎌封じの秘策の前に、分銅も、鎌も奪われた鉄斎は、復讐に燃える七本の刃の前に壮絶死という結末になりました。
 一見、あまりにもあっさりした最期のようですが、原作でもこの辺りは「二、三分しかたってはいなかったろう」という、短期決戦の一発勝負。敵の特技を逆手にとって攻撃を封じ、大逆転という頭脳プレーの快感が今回はあります。

 ただ、ちょっと残念だったのは、鎌が何にささったのか、一見わかりにくかったこと。もう少し大コマ取っても良かったように思いますが、まああれをあんまり大きく描かれるのも何なので、それはいいのかな。
 …今頃気づきましたが、せがわ先生の漫画は、ナイトシーンの場合、紙質が悪いと皆川亮二先生並みに何を描いているかわからなくなりますね。この辺りは単行本に期待でしょうか。


 ちなみにこの号のヤングマガジンには、せがわ先生と映画版「甲賀忍法帖」たる「SHINOBI」のコンセプトデザインを担当した山田章博先生の対談の一部が掲載されておりました。デザインの話だけでなく、「SHINOBI」作中のキャラクター設定の話などもあり、なかなか興味深い内容となっています。やっぱりコンセプト画集も買うかなあ。

 …しかし、山田先生のデザイン画の時点では、弦之介に無精髭はなかったのね、やっぱり。

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2005.09.16

「影の伝説」映画化…?

 さあ、また一週間くらい遅れたニュースサイトモードですよ。今回は、レゲー(レゲエに非ず)ファンなら思わず目を疑う「影の伝説」映画化。

 「影の伝説」といえば、約20年も前にゲームセンターに登場、ファミコンにも異色された忍者ゲームの古典。私も昔かなり熱中してプレイした記憶がありますが、つい先日発売されたばかりのPS2用ソフト「タイトーメモリーズ 下巻」にも収録されているタイトルです。
 ある意味タイムリーといえなくもないですが…さて公式サイトを見てみますと。

 出演者:水野晴郎 林家木久蔵 杉作J太郎
 …
 …
 うむ。

 これはあれですね、タイトル(あとヒロインの名前が霧姫なこと)以外は、全くの別物と思った方が良さそうですね。
 霧雪之介は? 雪草妖四郎は? やっぱりジャンプは一跳び30mくらい? とかそういう期待はしない方がよいようです。

 ああ、でも監督・主演の有村昆さんのブログを見ると、これはこれでなかなか楽しそう…ちょっと気になるかな。

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2005.09.15

不思議なチョイスの古典怪談集 「江戸怪奇草紙」


 先日紹介した「新編 百物語」に続き、快調な志村有弘先生の古典怪談アンソロジー。収録作品は「牡丹灯籠」「死霊解脱物語聞書」「稲生物怪録」プラス二作品(後述)となっています。

 この中で個人的に一番面白く読めたのは、「死霊解脱物語聞書」。いわゆる怪談累ヶ淵(の原作)、二重三重に重なった因果因縁が招く惨劇と、それに立ち向かう祐天上人の物語であります。
 この作品、性格としては唱導文学――言ってみればありがたーい仏教の宣伝物語(ほら、今でもあるでしょ?)なのですが、村人たちの目に映る死霊憑きの姿はまさしく「エクソシスト」の先駆というべき一種ドキュメンタリーチックな迫力があり、また累の死霊が語る村人たちの親兄弟たちの死後の物語が村人たちの間で物議を醸すシーンなどは、図らずも奇妙なリアリティを生み出していて、単なる因果話を超えたユニークな怪談物語として楽しむことができました。

 と――そんな真っ当な作品ばかりでないのが志村先生の凄いところ。本アンソロジーでも、不思議なチョイスが炸裂、上記三作品の他に収録された、「怪談 一軒家の怪」「怪談 青火の霊」は、その…何というか、前者は安物の花嫁衣装を掴まされたばかりに婚礼の席で大恥をかいて死んだ女性とその母の復讐譚、後者は心映えの悪い本妻に追い出され、殺害された妾さんと二人の子供の復讐譚というあらすじを見ればわかるように、失礼を承知で言えばB級ホラーテイストというか、往年の怪談映画的味わいというか、そんな作品。
 怪談史上に残る作品群の中に(そして角川ソフィア文庫の本の中に)、こうした作品を紛れ込ませてくる志村先生の意図については色々と考えさせられますが、まあここに収録されなければ絶対読めなかったような作品なのでそれも一つの出会いでしょう。

 何はともあれ、メジャーどころの古典作品を文庫本一冊で読めるという点では、なかなか有り難い本であります。


「江戸怪奇草紙」(志村有弘編 角川ソフィア文庫) Amazon 楽天 bk1

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2005.09.14

そして10年…修羅が立つ 「修羅の刻 雷電編」第2回

 陸奥左近と名乗る男と土俵上で対峙する雷電。相手の体を気遣った投げを見せる雷電をあっさりと打倒した左近の前に、谷風が現れ相撲で勝負を挑む。相撲で勝ったが深手を負った谷風は、それが元で世を去り、雷電に十年間は相撲界を支えるよう遺言を託す。それから十年、奥州巡業に出た雷電は、陸奥らしき者の噂を聞きつけ、おびき出そうとする。その前に現れたのは左近の娘・葉月だった。

 今回も実に骨太で面白い「修羅の刻」。今回は起承転結の、承と転と言ったところでしょうか。過去に張り手で人を殺してしまった記憶から力をセーブする雷電では陸奥に敵わず、師の谷風が代わりに戦い、それが原因となって死亡(こうやってみると陸奥がまるっきり悪役ですね)、その事件がきっかけとなって雷電が横綱を名乗ろうとしなかった、というのはなかなかうまい設定だと思います。

 そして十年後、奥州(やはり陸奥は北の人間か…)巡業でついに陸奥と対峙する雷電ですが、そこでの台詞が実に良い。
「今のわしは 他の技でも人を殺せる」
 ここで言う「他の技」とは、張り手以外の技、という意味。上記の通り張り手で人を殺し、谷風に入門以来張り手を禁じ手にしていた雷電がついに封印を解いた…と思いきや、それ以外の技でも人を殺せるという言葉が出た意味は、張り手が人を殺すのではなく、自分自身が人を殺すということ。
 「修羅の門」「修羅の刻」(特に前者)を通じて描かれる修羅の条件の一つは、人を過失でなく、自らの意志で・自らの手で殺せるか、というもの。その観点からすれば、雷電もまた、修羅の一人たり得る条件があるということなのでしょう。

 そしてついに激突する雷電と陸奥…というところで以下次号(最終回)。次回が実に楽しみです。


 …ちなみに春日が本当に女か、小生いまだに疑っております(表紙まで飾っておいて男ってことはないとは思いますが)。
 そして女といえば、雷電の奥さんはわずか数ページの出番ながら、非常にいい女ぶりを見せているのが印象に残りました。

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2005.09.13

いざ、出陣! 「コミック戦国マガジン」第1号

 もう第2号の発売も目前という時期に今さらながらで恐縮ですが、メディアファクトリーから新創刊された「コミック戦国マガジン」第1号を紹介。
 メディアファクトリーと言えば既に三国志もののコミックで雑誌を出していますが、こちらは一冊丸ごと戦国時代。それ自体であればリイド社のコミック乱の増刊などで出ていますが、こちらで目を引くのはその執筆陣。

 矢口岳、島崎譲、玉置一平、北崎拓、池上遼一…これまで時代もの漫画を描いているものの、時代もの専業ではない作家、そして(池上遼一はともかく)主に十代~二十代向けの雑誌で活躍している層がメインとなっています。少なくとも、他の時代劇コミック誌ではまず見られない、なかなかユニークなチョイスの作家陣と作品であり、その独自性は大いに買いたいと思います。
 とはいえ、表紙には「全世代に贈る、決定版戦国コミック誌誕生!!」と謳われておりますが、全世代に受けるかは微妙で、少なくともフツーの時代劇劇画を読んでいるお父さん層にはちょっと合わないだろうなあ…という印象。その代わり、ゲームで戦国ものに触れている層には十分アピールできる内容ではないかな、と思います(その意味では、表紙が池上遼一というのはどうかな、という気もしますが)。

 ちなみに第2号は9月15日発売(本当に目前…)。もちろん第2号も読みたいと思います。


以下、特に印象に残った作品を(ほとんど全作品になってしまいましたが)。

「新 鬼武者 TWILIGHT OF DESIRE」(矢口岳)
 カプコンから発売予定の「新 鬼武者 DAWN OF DREAMS」の公式プレストーリー。鬼の籠手を守る浄化師・南光坊天海が主人公で、幻魔の力を得た豊臣秀次との戦いが描かれます。個人的には矢口先生は「甦りし蒼紅の刃」のコミカライズがかなり良作で、期待している漫画家の一人なのでここで読めて嬉しいですね。

「戦、売ります! 雑賀孫市伝」島崎譲
 破天荒な自由人・雑賀孫市の一代記。木下藤吉郎に請われて出陣した孫市ですが、自儘(=自由)を旨とする孫市は、自分の配下になれと言う信長に昂然と反抗して…(以下次号)というストーリー。さすがベテランだけあって登場人物のキャラと絵柄が見事にマッチしているのに感心しました。

「朧月 風林火山の後継者」玉置一平
 信玄没後一年に起った武田勝頼を主人公にした短編。勝頼と言えば武田家を滅亡させた凡才というイメージがついて回りますが、ここでは信玄以上の才を秘めながら時代の流れに苦しむ青年武将として描かれ、スタイリッシュな絵柄と相まって実に印象的な作品でした。「痣丸」続き読みたいなあ…

「乱風半蔵」ゆづか正成
 桶狭間の戦を背景に、服部半蔵正成を、忍びとしてではなく一人の武将として描いたフレッシュな短編。忍びの統領としての自分と武松としての自分の間で揺れる正成の姿が爽やかに描かれていて好印象でした。また、正成の主君としての度量を見せる家康のキャラクターも面白く、今回初めて触れた漫画家さん(の一人)ですが、他の作品も読んでみたいという気持ちになりました。

「殿といっしょ」(大羽快)
 戦国武将たちを主人公にした4コマ。ベタな作品ではあるんですが、何だか面白いんだなあ。秀吉と三成の漫才(事前打ち合わせ済み)とか正宗とホトトギスとか禁断の愛に目覚めた信玄とか。


「コミック戦国マガジン」第1号(ダヴィンチ9月号増刊 メディアファクトリー)


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2005.09.12

さらば信念の漢 「今週のSAMURAI DEEPER KYO」

 狂もろとも自爆して果てようとするひしぎ。自分たちを作り出した真の壬生一族と先代紅の王に憎悪を抱く彼だったが、ただ親友・吹雪のために命を張ってまで狂を止めようとしていたのだ。しかし、そのひしぎの決意も虚しく狂は倒せず、ひしぎそして吹雪の命はつきようとしていた。が、ひしぎは自らの心臓を吹雪に与えて塵に帰る。そのひしぎの記憶を受け継いだ灯は、彼の非情の仮面の下の情を知るのだった。

 もう次の週入りましたが今週休載らしいのでご勘弁。
 奮闘虚しく、ひしぎ散る。しかしその最後は、ただ死ぬ時を待つだけだった自分に生きる道を与えてくれた親友をかばい、さらに灯に記憶と後事を託し――あえて灯を名前で呼ばず、Noで呼んでいたひしぎの葛藤がラストにわかるのがうまい――文字通り散るという天晴れ漢の死に様でありました。
 まあ、極悪非道に見えた敵キャラが、死の間際になってイイ奴になるというのは少年漫画の定番中の定番ではありますが、しかし、登場して以来一貫して何を考えているかわからない鉄面皮として描かれていたため、前回・今回でようやく描かれた彼の心中は実に印象的で、その所業はとうてい許せるものではないにせよ、それなり納得できる(説得力のある)信念を持った人物として描ききった作者の腕には素直に感心しました。

 ちなみに、上のあらすじには書きませんでしたが、冒頭で久々に時人・アキラ・梵天丸・紅虎が登場。時人の、アキラ・梵天丸に対するツンデレっぷりが凄まじく…とそれはともかく、いよいよ因縁の時人と吹雪の対面が近づいているのでしょうか。

 そしていい加減に狂は空気読め。

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2005.09.11

時代劇ファンとしては満足だが… 劇団☆新感線「吉原御免状」

 昨日の記事にも書きましたが、昨日劇団☆新感線「吉原御免状」を観てきました。
 感想を一言で言えば、時代劇ファンとしては満足、新感線ファンとしては微妙…といったところでしょうか。

 直前に原作を読み返した目からすれば、原作の再現度は二重丸。もちろん、舞台ゆえの時間的・空間的制約から来る改変はありましたが、それも最小限で、原作の要素を巧みに活かしつつ、三時間弱の舞台に再構成してみせた演出のいのうえひでのり氏、脚本の中島かずき氏の手腕にはいつものことながら感心させられます。ラスト、誠一郎が決断するまでのシーケンスがあっさりしすぎていることを除けば、原作のイメージを裏切られたという印象はありませんでした。
 内容的にまず再現できないだろうと思っていた(というかあまり見たいものではないですが)勝山がアレされるシーンまで忠実に再現されていたのには驚きました。

 ただ…今までの新感線を期待すると完璧に裏切られるのが今回の舞台。ものすごーく即物的に言えばお笑いなし・歌なしというのが大きいのですが、何よりもかなり優等生的な文体で描かれた原作をそのまま再現したかのような舞台上の空気は、これまでの新感線の舞台からするとかなりの違和感を感じさせられます。
 正直に言わせてもらえれば、観ながら何度も「これ新感線でやる意味はあるのかなあ…」と感じさせられました。いや、演じる役者の方々ははまり役が多く、その意味では劇団としての地力を再確認させられた面はあるのですが、新感線以外の劇団が演じても同じ味わいになったのでは…というのは暴言としても、新感線の舞台を観ているときのワクワク感があまり感じられなかったのは残念でなりません(まあ、よりによって前日に「レッツゴー!忍法帖」のDVDを観てしまったというのは大きいと思うんですが(笑))。

 いや、すみません、一カ所「ああ、これは新感線でなくちゃ」と思わされたシーンがありました。それは過去の場面、傀儡子一族の宴のシーン。無国籍的雰囲気の中で、傀儡子の民たちが騒ぎながら、陽気に人生の喜びと一族の誇り、そして差別への怒りと闘志を歌い上げるシーンは、原作にあったテーマ性をより先鋭的に、エネルギッシュに描きあげたものとして強く印象に残りました。さすがは「まつろわぬもの」たちを描き続けてきた中島脚本、いのうえ歌舞伎と申せましょうか。

 などと色々と書いてみましたが、やはり振り返ってみると、真っ当な時代劇ファンには自信を持って薦められるものの、新感線ファンにはどうかなあ、という印象(そもそも、この二つが相対するものなのか、という疑問は自分でもありますが)。
 もっとも…考えてみればこの舞台は昨日で三日目。新感線の舞台が後半に行けば行くほど洗練されていくことを考えれば、後半大化けする可能性も大きいわけであって、できればもう一回、後半に観に行きたいなと思っている次第です。

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2005.09.10

青春小説として 「吉原御免状」再読


 今晩劇団☆新感線「吉原御免状」を見に行くので、その前に…と思って原作を再読しました。
 実はこの作品を読むのは、文庫初版が出てからなので実に16年ぶり。何故そんなに長い間読み返すことがなかったと言えば…初読のとき、そんなに面白いと思わなかったからなんですね、これが。

 何と言いますか、文体にあまりケレン味がなかったり過去話の割合が大きすぎたり、主人公の言動にあまり共感できなかったり――と、十代半ばの私は感じたのです。
 まあ、文体については今でも苦手な部類なのですが、少なくとも再読してみると当時気づかなかったこの作品の魅力、というか「ああこのシーンいいなあ…」と心に残るものに多く気づき、また主人公にも深く共感できるようになっていました。

 再読してみて心に残ったシーンというのは、例えば、主人公・誠一郎が『みせすががき』を聴いて涙を流すシーンであり、水野十郎左衛門と揚屋の屋根の上で人生を語るシーンであり、高尾と迎えた始めての朝のシーンであり、絶望に沈むなかで羅生門河岸の連中と酒盛りするシーンであり…つまりは、誠一郎が吉原で生きる中でに様々な人々、物事に触れあい、心を動かされるシーンでありました。

 基本的に、これらは一部を除いて物語の本筋には関わってこない部分かもしれませんが、しかし、そこに込められた、人生の機微というものの深い味わいと、人間存在への優しい眼差しは、間違いなくこの物語を奥底で支え、単なるチャンバラ活劇に止まらない、一人の無垢な若者が、初めて触れる人の善意と悪意の中で成長していく様を描いた、優れた青春小説として成立させているのだと強く感じました。

 考えてみれば、初読のときは私も人生経験の欠片もない若造だったわけで(いや、今も頭の中身はあんまり変わらんかもしれませんが)、その時はこの味わいはわからなかったのだろうなあと、気恥ずかしくも微笑ましく思った次第。


 さて、舞台版の「吉原御免状」は、果たして如何なる作品となっておりますか――


「吉原御免状」(隆慶一郎 新潮文庫) Amazon 楽天 bk1

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2005.09.09

新感線ファンは買いでしょ 「髑髏城の七人」ドクロBOX

 昨日、「髑髏城の七人」ドクロBOXが届きました。劇団☆新感線の「髑髏城の七人」、過去三作を収められるBOX+特典ディスクというセット、私は1997年版アカドクロの過去二枚は持っていたので、アオドクロ+BOXのセット、limited editionを購入しました。

アオドクロの方の映像特典は、
・メイキング
 染五郎へのインタビューを中心に40分弱。ナレーターは蘭兵衛役の池内博之
・「ゲキ×シネ」東京初日舞台挨拶
 染五郎・鈴木杏・ラサール石井の舞台挨拶が約10分。女の子らしい格好をした鈴木杏という素敵なものが
・佐藤アツヒロおまけ映像
 別録りしたオーディオコメンタリーの映像版
・予告編
 「ゲキ×シネ」の予告編映像
と、お約束ですがなかなか楽しい内容。特にメイキングの染五郎インタビューはなかなか愉快な内容でありました。

そしてBOXの特典ディスクの内容は
・髑髏城の七人~1990 特別編集版
 唯一ソフト化されていない1990年版のダイジェスト。1時間弱
・年末!ドクロイヤー対談 古田新太VS市川染五郎
 アカ&アオの主演二人の対談。約35分
・歴代!百人斬り
 本作の見せ場の一つ、百人斬りシーンを1990年版からアオドクロまで全四作分収録
・アカドクロ メイキング
 ナレーターは吉田メタル。約20分
・アカドクロ インタビュー
 約40分。後ろの方では何故かフィーリングカップルが…
・「ゲキ×シネ」アナウンス映像(アカドクロ-古田新太、アオドクロ-市川染五郎)
 「ゲキ×シネ」上映時に館内で流されたアナウンスの映像版
・いのうえひでのり「ドクロ」を語る
 髑髏城の七人の生みの親、いのうえひでのりへのインタビュー。30分弱
・おまけ
 アオドクロDVD収録中にカメラと目が合っちゃった人とカメラを意識しまくっていた人の特典映像
と、ファンにとってはかなり充実の内容。特にうれしかったのは1990年版が、ダイジェスト(しかも舞台の斜めからホームビデオで撮った映像)とはいえ、約1時間収録されていたのは、遅れてきた新感線ファンとしては大変嬉しいプレゼントでありました。いや、驚きましたよ…舞台の狭さと古田新太の細さに。

 まあ、興味ない人には全くアレですが、ファンにはたまらん内容となっているこのBOX、私はかなり満足できました。新感線ファン、髑髏城ファンならとりあえず買い、です。


 あ、特典フィギュアは、まああんなものだと思います。しかし古田捨之介と市川捨之介、並んでいるととても同じキャラとは思えなくて愉快ですね。フィギュアというより置物という質感です。

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2005.09.08

作品集成久々更新

 親サイトの作品集成を更新しました。前回更新してから約三ヶ月分のデータを入力したのですが、その間ほぼ毎日更新していただけに分量も多く、もう8月31日に夏休みの宿題をやっている子供の気分(つまり、今度からは溜めないようにします…)。
 このコーナー、何のことはない、このブログを含めたサイト全体で扱った本のデータを掲載しているだけなのですが、いつかこのコーナー自体が伝奇時代エンターテイメントを網羅したデータベースにできれば…とあまりにも先が長すぎる夢を抱いております。

 ちなみにこのコーナーを作る上で非常に助かったのが、オンライン書店のアフィリエイト(ここではAmazonbk1楽天を使ってます)。何が助かるといって、このアフィリエイト、本等の表紙画像を使うことができるのですね。やはり表紙画像があるとわかりやすいし、何よりも見ていて楽しい。一番見て面白がっているのは私自身かもしれません。
 問題は、これらオンライン書店に表紙画像が掲載されていない(主に)古い作品ですが…自分で写真を撮って掲載しようにも著作権の問題もあり、何か良い手がないかと思案しているところです。

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2005.09.07

三人の牢人のドライな流浪譚 「おれは侍だ」


 関ヶ原の戦直後を舞台に、それぞれの道を行く三人の牢人の姿を描いた柴練作品。虚無的な剣の達人・室戸修理之介、腕は立つが金に目のない柏木新蔵、腕はからっきしな好色漢・宇留田兵馬というそれぞれに個性的な三人の生き様が、殺伐とした時代の中で描かれていきます。

 この作品が書かれたのは1961年、柴練としては脂の乗りきった時期の作品ではあるのですが、まったくもって残念なことに、あまり面白い作品とはいえないのが残念なところ。掲載誌が潰れたおかげで、物語が動き始めた時点で終了、いわば「第一部完」という状態なので仕方ないと言えば仕方ないのですが…
 何よりも、第一の主人公と言うべき修理之介が、その虚無的な心の裏にあるもの――柴練作品のキーワードの一つである「心意気」――を見せる間もなく幕となってしまったため、実に人間的な他の二人と比べ、魅力に乏しいキャラクターになってしまっているのが痛いところであります。

 とはいえ、物語が中途で途切れたことにより、物語にドライな味わいが生まれているのは、思わぬ効果と言えるかもしれません。

 ちなみにこの作品、「おれは侍だ 命を賭ける三人」というタイトルで映画化されているようですが、ここでは修理之介は名誉欲の強い男として描かれているようで、柴練主人公としてそれはどうかと思いつつも、名誉・金・女と三つ揃うのは、それはそれで面白いキャラ配置ではあります。

 また、これは完全に個人的な考えなのですが、この作品、約10年後に書かれた「最後の勝利者」のパイロット版的存在ではありますまいか。
 虚無的な男・強欲な男・好色な男の、三人の「戦後」を描くという、物語構成が非常に良く似ているのが、最大の理由ですが、それと同時に、この作品が中断されなければ、秀吉の朝鮮侵攻を背景に朝鮮と日本の関わりをテーマの一つとして描く予定だったというのも、またそう感じさせられた理由の一つ(「最後の勝利者」は、慶長の役から始まる物語であります)なのでありました。


「おれは侍だ」(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon 楽天 bk1

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2005.09.06

今日も二本立て 「大江戸火盗改・荒神仕置帳」&「破斬 勘定吟味役異聞」

 今回も二本立てですよ。
大江戸火盗改・荒神仕置帳―音無しの凶銃 破斬―勘定吟味役異聞
 一本目は、剣術と砲術の達人である火付盗賊改長官・荒尾但馬守成章を主人公にした新シリーズ第一弾「大江戸火盗改・荒神仕置帳 音無しの凶銃」。荒尾成章は、以前紹介した「陰流・闇仕置」シリーズのキャラクターですが、そこからからスピンオフして、堂々の主役に就任です。

 物語は(これまでの牧作品と同様)一巻に三話構成。第一話と第二話は、タイトルにある「音無しの凶銃」による連続通り魔事件の謎を追う物語。残る第三話は、恍惚とした死微笑を浮かべた美女連続殺人事件の謎を追うエピソードとなっています。
 正直に言って、全三話で最初の二話が続き物というのはちょっとバランス悪いかな、という印象もありますが、いわば前後編、あるいは新番組第一話時間拡大スペシャルみたいなものだと思えばいいのでしょう。むしろ、犯人の特異な動機が光る第三話の方が、印象的だったように思えました。

 剣術+砲術という、この作品ならではの設定が十分に生かせているとはまだ言えないようにも思えるのですが、これからの展開に期待と言ったところでしょうか。


 もう一本は、快調に作品の刊行が続く上田秀人氏の新作「破斬 勘定吟味役異聞」。新井白石により抜擢された新任の勘定吟味役・水城聡四郎が、貨幣改鋳にまつわる闇に挑むという内容です。

 まず目を引くのは、主人公の遣う剣の流派が一放流という点。富田流の流れを汲む一放流については、今までほとんど戸部新十郎先生の独壇場という印象がありましたが、なかなか渋くも面白い流派に目を付けたものだとまず感心しました。

 物語としては、幕府経済の陰の部分に切り込んでいく、ある種経済小説的味わいが面白い反面、これまでデビュー作以来一貫して濃厚だった伝奇性がほとんど感じられないのが個人的には非常に残念でありました。
 複雑な事件を如何に解決するか、という点も、結局大変乱暴な手段(ある意味非常に時代劇的ではありますが…)で終わらせてしまったのが残念でした。

 とはいえ、政治の最も黒い部分に直面しながらも純粋さを失わない聡四郎と、彼を取り巻く人々のキャラクターは個性的で面白く――特に狷介極まりない新井白石が強烈――、これから先、ある意味四面楚歌の状況下で聡四郎が如何に戦い、成長していくかが楽しみです。


「大江戸火盗改・荒神仕置帳 音無しの凶銃」(牧秀彦 学研M文庫) Amazon 楽天 bk1
「破斬 勘定吟味役異聞」(上田秀人 光文社文庫) Amazon 楽天 bk1

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2005.09.05

今明かされる冥府流誕生秘話 「幽王伝 魔剣烈風篇」

幽王伝(魔剣烈風篇) 冥府流の魔剣を破るべく、山に籠もる仏陀蒼介。その前に、冥府流総帥・雅楽樹方佰がついに現れる。東雲藩主夫妻を籠絡した冥府流は将軍家指南役の座を狙い、柳生・小野両家は冥府流を滅ぼすべく刺客団を送るものの、奇怪な魔手の前に、柳生刑部が倒される。更に、奇怪な野望を胸に秘めた薬屋・陣吾も独自の動きを見せ、事態はいよいよ混迷。果たして蒼介の剣は能く魔剣を破り得るか!?

 「幽王伝」の続編。前巻では影を見せるくらいであった冥府流総帥が前面に現れ、いよいよ総力戦の様相、そんな中で主人公・仏陀蒼介はひたすら己の剣を磨くも…という展開であります。
 何と言っても今回面白いのは、遂に明かされる冥府流誕生秘話でしょうか。総帥自らの口から語られるその内容は、まさしく冥府流がしびとの剣であったと知れる奇想天外なもの。一種パラドキシカルなロジックに見える部分も不思議に納得できる菊地節横溢な内容で、菊地先生が好んで描く、この世の裏面に存在する世界としての死人の世界の妖気が伝わってくるような、たまらなく魅力的な物語でした。

 が…それ以外の部分は、菊地作品にしてはちと微妙だなあというのが正直な感想。登場人物たちに、今ひとつ生彩がないように(いや、死人だからとかではなくて)感じられるのと、物語展開に起伏がいささか乏しく感じられたのです。
 登場人物については、役者はほぼ出揃ったと思われるのですが、強烈な個性を発揮しているキャラが(あくまでも菊地作品にしては)少ないのではないかなあという印象。特に、以前も述べたように前巻でも感じられた冥府流の門弟たちのキャラの薄さが、総帥の影に隠れてしまったのが残念です(その総帥も今ひとつ言動が小物っぽいしなあ…)。
 その中で、人間的にも剣客としても、不思議な個性を見せる蒼介のキャラクターは光っており、なるほど、この男ならば死人たちを打ち破ることが、と思わされるものがあったのは収穫でしょう。
 後者については、その蒼介がこの巻を通して修行中(一エピソードとしてではなく、一冊丸々修行中というのは、菊地主人公としてはやはり珍しい…よなあ)であり、戦いの渦中に飛び込む、というより、降りかかる火の粉を振り払うといったスタンスであったためにそう感じられたのかも知れません。

 何はともあれ、今回は起承転結で言えば、承・転に当たるであろう部分(つまり「次巻につづく」)。果たして物語がどのような結末を迎えるか、心して待ちたいと思います。

追記:
 登場キャラの一人は、姿と言動こそ大きく違え、最近復刊されたAmazon(旧題「妖人狩り」)の狩谷四人氏を思わせる存在なのでしょうか(これもまた、死人の物語でありました)。
 も一つ、この巻には「菊地先生がメフィストと同じ趣味に!?」と読んでいて焦らされる問題シーンがあるのですが、この前後の展開は、先生らしいギャグと取るか、悪ふざけが過ぎると取るか、人それぞれでしょうね。


「幽王伝 魔剣烈風篇」(菊地秀行 ハルキ・ノベルス) Amazon 楽天 bk1

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2005.09.04

ちっちゃいバジリスクに感慨深く

 また微妙にタイミングがずれた記事ですが…「バジリスク~甲賀忍法帖」公式ブログに、SDバジリスクキャラ全25体の画像が掲載されています
 第一印象としては、何よりも「山風キャラがこんな形で扱われる時代が来るとは…」という、感慨深いものがありました。うれしいようなそうでないような、不思議な気分。

 しかしこれ、立体化して食玩にしたら絶対売れるのではないかなあ…少なくとも箱買いしそうな人が、一人二人<他人事のように言うな
 リアルタイプのヴィネットにしても結構いけるんではないですかね(「カムイ外伝」ヴィネットなどありますし)。ネタ的にちょっと足りなければ、いっそのこと忍法帖全体でどうだ! …と思いましたが、半分以上がエロヴィネットになりそうでダメか。

 と、狂人の妄想はさておき、その他、じっくり眺めて思ったこと
・陣五郎はSDの方が違和感
・服を着た霞刑部は誰だかわからん
・一番左下の人が一瞬誰だかわかりませんでした。若本様にあやまります。
・お胡夷、なんだか空気入れて膨らませそうなビジュアルです。あんまりです。欲しがる人は多いと思いますが。

 …それにしても、物事のなんたるかがリアルよりも時としてよく見えるディフォルメというフィルターを通して見てみると、このキャラクターたちがいかに個性的に描かれているか、よくわかります。
 元々のキャラを生み出した山風先生はいうまでもなく、それをビジュアル的にきっちりと立てて見せたせがわ先生の力量に改めて感服した次第。

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2005.09.03

木刀勝負が魅力 「秘太刀馬の骨」第2回

 金曜日のお楽しみTVドラマ版「秘太刀馬の骨」(原作本はこちら)、第2回は「受けの沖山」こと沖山茂兵衛との対決、そして矢野道場の長老・内藤半左衛門の登場の辺りまでが描かれています。

 今回のハイライトはなんと言っても主人公・銀次郎と茂兵衛との対決シーン。弱みを握って茂兵衛を引きずり出した銀次郎は、生死の境ぎりぎりの仕合の中で相手の秘太刀を誘い出すべく、危険な木刀での勝負を挑む(これが毎回のパターンなのですが)わけですが、そうして始まったこの仕合がまた…いい意味で実に汚い。
 つばぜり合いの状態で腕や足を絡め、相手を引きずり倒す、至近距離から相手の顔面に頭突きを連発…などと全くなりふりかまわない、美しさとは無縁の、全くもって滅茶苦茶な戦いなのですが、それが、「きれいな」殺陣がほとんどの最近の時代劇を見慣れた目には、実に面白い。
 一歩間違えると子供の喧嘩になってしまうのですが、それをギリギリのところで踏みとどまって、ガツンガツンとぶつかりあうのが、何ともプリミティブな迫力に溢れていて、むしろ爽快さすら感じます。
 考えてみればこんな無茶な殺陣ができるのも、竹刀でもなく真剣でもなく、木刀での勝負という設定ならでは。必ず木刀で勝負するという設定が、このような形でドラマを盛り上げることになるとは、映像になってみないとわからないことだったと思います。

 ちなみに決着シーンは、狭い道場の中のはずなのに銀次郎が遥か遠くからまさしく奔馬の如く突進、宙に舞った銀次郎を迎え撃つ太刀…という、冷静に見るとかなり突っ込みどころのある演出なのですが、これは第1話の決闘シーンでも見られた演出。してみると毎回このパターンで行くのではないかと思うのですが、主人公が必殺技を放つシーンの演出がパターン化されるのは珍しくありませんが、主人公が必殺技を喰らうシーンの演出がパターン化されるというのは、前代未聞なのではないか、と思います。

 演出と言えばこの作品、真面目に見ているとかなり頭を抱えたくなる珍妙な演出がしばしば見られます。あからさまに作り物めいた太陽や、ピアノ線が丸見えの蝶々など…もちろん、わかっていてやっている演出なのは間違いないのですが、見ていてちょっと引くのも事実。今回は突然黒子が出てくるシーンもありましたし、登場人物たちのやや過剰なまでの演技ぶりから考えると、舞台的な味わいを狙っているのかなあ…という気がしないでもありません。

 そして後半は、銀次郎が半左衛門と対面するシーン。半左衛門の息子の嫁が、半左衛門の着物を着せ替えるシーンで、二人のただならぬ関係を感じ取る銀次郎というのは原作通りですが、屋敷に帰ってみると自分が想いを寄せていた女中の多喜が、叔父の着物を着せ替えていて…というのは、何とも皮肉で面白い演出でした。こういう演出は大歓迎ですね。

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2005.09.02

衷心と忠心と 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」

 自らの命を賭した禁断の奥義で戦闘力をアップさせた吹雪。一方、ひしぎは死の病が発症し、その身からは悪魔の眼が次々と崩れ落ちていく。ひしぎにとって悪魔の眼とは生命維持装置でもあったのだ。目の前で苦しんでいる人間を見捨てられないと、そんなひしぎを救おうとする灯と遊庵だが、ひしぎはその手を振り払って苦戦する吹雪のもとへ向かう。かつて生に倦んでいたひしぎに死に場所を与えると言ってくれた吹雪のため、ひしぎは狂もろとも自爆しようとするのだった。

 お耽美な美形に見せかけておいて、実は歩くグロ画像という姿を見せつけて全国の腐女子を愕然とさせた快男児・ひしぎ。今週もGENKAITOPPAなグロ画像を見せてくれたひしぎですが、その一方でついに彼の内面が描かれました。死の病に冒され、自分の命ですら無関心となってしまったひしぎに死に場所=生きる目的を与えてくれた吹雪のために散ろうとするひしぎの姿は、先週の吹雪に引き続き、一体どっちが主人公!? と言いたくなるほどでした。
 そしてそんなひしぎに利用されながらも、彼もまた一つの命として救おうとする灯もまた、ベタではありますがなかなかの良シーン。特に灯の涙は印象的で、これで灯(と遊庵)のひしぎとの因縁も解消かな? おそらくひしぎが灯に残した記憶が、死の病から壬生を救う鍵となるのでしょう。
 つうかいい加減狂は空気読むべきだと思います。

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2005.09.01

「それっぽさ」以上のものを出せるか 「必殺裏稼業」




 気がついたら発売まで一ヶ月を切っていた「必殺裏稼業」以前も一度紹介した時にはまだ情報が出かけでしたが、今では公式サイトは動画も色々と紹介され、なかなかの充実ぶり。

 一番長いプロモーション動画などはなかなかの見応えで(こういうとき光回線って本当にありがたい)、イベントムービーやらゲーム中の探索画面(江戸の町をブラブラしているだけでも面白そうです)、裏稼業のメンバーたちの紹介、そしてもちろん最大の見せ場である殺しのシーンまで一通り入っています。
 正直なところ、あまりにも「それっぽさ」が過剰で、見ていて気恥ずかしさすら感じさせられる部分もあるのですが、これはもうそんなことは承知の上、狙いまくって作っているのですから、あれこれ言うのは野暮かもしれません。

 が、やはり折角こうしてこのご時世に新作として登場するのですから、「それっぽさ」以上のものも期待するのが当然のところ。
 時代劇というものにだいぶ以前から並々ならぬ愛情を持つ元気ライトウェイト製のゲームなのですから、時代劇ファンの期待を裏切らない作品になっていると思いますが…お手並み拝見といきましょう。


「必殺裏稼業」(元気 プレイステーション2用ソフト) Amazon 楽天(9月22日発売)

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