不思議なチョイスの古典怪談集 「江戸怪奇草紙」
先日紹介した「新編 百物語」に続き、快調な志村有弘先生の古典怪談アンソロジー。収録作品は「牡丹灯籠」「死霊解脱物語聞書」「稲生物怪録」プラス二作品(後述)となっています。
この中で個人的に一番面白く読めたのは、「死霊解脱物語聞書」。いわゆる怪談累ヶ淵(の原作)、二重三重に重なった因果因縁が招く惨劇と、それに立ち向かう祐天上人の物語であります。
この作品、性格としては唱導文学――言ってみればありがたーい仏教の宣伝物語(ほら、今でもあるでしょ?)なのですが、村人たちの目に映る死霊憑きの姿はまさしく「エクソシスト」の先駆というべき一種ドキュメンタリーチックな迫力があり、また累の死霊が語る村人たちの親兄弟たちの死後の物語が村人たちの間で物議を醸すシーンなどは、図らずも奇妙なリアリティを生み出していて、単なる因果話を超えたユニークな怪談物語として楽しむことができました。
と――そんな真っ当な作品ばかりでないのが志村先生の凄いところ。本アンソロジーでも、不思議なチョイスが炸裂、上記三作品の他に収録された、「怪談 一軒家の怪」「怪談 青火の霊」は、その…何というか、前者は安物の花嫁衣装を掴まされたばかりに婚礼の席で大恥をかいて死んだ女性とその母の復讐譚、後者は心映えの悪い本妻に追い出され、殺害された妾さんと二人の子供の復讐譚というあらすじを見ればわかるように、失礼を承知で言えばB級ホラーテイストというか、往年の怪談映画的味わいというか、そんな作品。
怪談史上に残る作品群の中に(そして角川ソフィア文庫の本の中に)、こうした作品を紛れ込ませてくる志村先生の意図については色々と考えさせられますが、まあここに収録されなければ絶対読めなかったような作品なのでそれも一つの出会いでしょう。
何はともあれ、メジャーどころの古典作品を文庫本一冊で読めるという点では、なかなか有り難い本であります。
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