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2005.09.24

再び吹けよ剛神風! 「大江戸超神秘帖剛神」

剛神―大江戸超神秘帖 人類が太陽系内に六つの惑星と十の衛星しか知らなかった頃、地球最大の都市・江戸八百八町は宇宙からの侵略者「星夷」に狙われていた。立ち向かうは、時の老中田沼意次が結成した蘭学攘夷隊…だが、人知を超えた星夷の力はあまりにも強大、江戸の町が危機に陥ったその時、一陣の旋風と共に現れた巨大な影…それこそは星夷を打ち砕く偉大な勇者・剛神だった!  今こそ吹けよ剛神風!

 ついに…ついに幻の名作が復活しました。無理矢理内容を一言で表せば、SF時代伝奇巨大変身ヒーローアクション(解説の田崎監督に怒られそうな表現だな)とも言うべきこの作品。時代劇ファン、特撮ファン、伝奇ファンの方には是非読んでいただきたい快作、まさしく「レジェンド・アーカイブス」から出版されるにふさわしい伝説の逸品であります。

 時代劇で変身ヒーローものをやりたい! というのは、時代劇ファン兼特撮ファンであれば当然一度は抱くであろう夢であることは言うまでもないこと。が、それをある一定以上のリアリティと整合性を持たせて成立させるというのは、実際には非常に困難であることもまた言うまでもないことであります。いわんや、巨大変身ヒーローものをや(ミツルギという微妙な前例はありますが)。
 ――そして、そんな困難な夢を実現させたのがこの作品。

 巨大で奇怪な侵略者たち、いずれも一癖ながらも頼もしい特捜チーム、そして絶対絶命のとき現れる正義の巨人…お馴染みと言えばお馴染みのシチュエーションが、時代劇の世界と結びつくことで、何倍にも魅力的に見えてきます。今でも、旧版コミックスでこの作品に触れた時の衝撃は忘れられません。
 そしてネタだけ見れば全く無茶な内容ながら、伝奇時代活劇としても違和感なく楽しめるのは、安易なパロディやギャグに逃げることなく、時代劇として押さえるべきものを押さえつつ(実)、ブッ飛ばすところはブッ飛ばすという(虚)、虚実織り交ぜた「わかってる」作り手の愛ある態度あってこそ、なのでしょう。

 そのスタンスが端的に表れているのは、たとえば「日光山変化獣攻防戦(にっこうざんばけものかっせん)」のエピソード。日光東照宮を襲う巨大星夷との攻防戦を描いたこのエピソードでは、星夷がよりにもよって○○○を喰って巨大化するという虚の部分(そして何故星夷が東照宮を狙うか、という理屈付けも面白い)もさることながら、それに立ち向かうのが日光千人同心、更に喜連川公方まで登場するという実の部分の肉付けが面白くも熱い展開となっています。喜連川公方なんて、普通の(という言い方は好きではないですが)時代劇にも滅多に登場しないような面白い玉ですよ?


 さて、今回の単行本化では、旧版に収録されていなかった、レギュラー陣が紀州を目指して旅する長篇シリーズ第二部「血風魔道篇」第二段目までを描き下ろしを加えて収録した、いわば決定版。が、大変残念なことに、物語としては中途で終わってしまっているのも事実。
 伝説を伝説のままで終わらせないために、単なる一過性の復刻で終わらせないために――この作品が、少しでも多くの方の目に留まり、受け入れられることを心から祈る次第であります(本来であれば単行本発売直後に記事を書かせていただくつもりが、こんなに遅くなってしまったのは、ひとえに思い入れがありすぎるものにはかえって筆が重くなるという私の悪癖ゆえということで乞うご寛恕)。

 そしていつの日か――再び吹けよ剛神風!


「大江戸超神秘帖剛神」(近藤ゆたか&滝沢一穂 チクマ秀版社レジェンド・アーカイブス) Amazon bk1

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