青春小説として 「吉原御免状」再読
今晩劇団☆新感線の「吉原御免状」を見に行くので、その前に…と思って原作を再読しました。
実はこの作品を読むのは、文庫初版が出てからなので実に16年ぶり。何故そんなに長い間読み返すことがなかったと言えば…初読のとき、そんなに面白いと思わなかったからなんですね、これが。
何と言いますか、文体にあまりケレン味がなかったり過去話の割合が大きすぎたり、主人公の言動にあまり共感できなかったり――と、十代半ばの私は感じたのです。
まあ、文体については今でも苦手な部類なのですが、少なくとも再読してみると当時気づかなかったこの作品の魅力、というか「ああこのシーンいいなあ…」と心に残るものに多く気づき、また主人公にも深く共感できるようになっていました。
再読してみて心に残ったシーンというのは、例えば、主人公・誠一郎が『みせすががき』を聴いて涙を流すシーンであり、水野十郎左衛門と揚屋の屋根の上で人生を語るシーンであり、高尾と迎えた始めての朝のシーンであり、絶望に沈むなかで羅生門河岸の連中と酒盛りするシーンであり…つまりは、誠一郎が吉原で生きる中でに様々な人々、物事に触れあい、心を動かされるシーンでありました。
基本的に、これらは一部を除いて物語の本筋には関わってこない部分かもしれませんが、しかし、そこに込められた、人生の機微というものの深い味わいと、人間存在への優しい眼差しは、間違いなくこの物語を奥底で支え、単なるチャンバラ活劇に止まらない、一人の無垢な若者が、初めて触れる人の善意と悪意の中で成長していく様を描いた、優れた青春小説として成立させているのだと強く感じました。
考えてみれば、初読のときは私も人生経験の欠片もない若造だったわけで(いや、今も頭の中身はあんまり変わらんかもしれませんが)、その時はこの味わいはわからなかったのだろうなあと、気恥ずかしくも微笑ましく思った次第。
さて、舞台版の「吉原御免状」は、果たして如何なる作品となっておりますか――
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