底抜け脱線嫁取り騒動 「射雕英雄伝 3 桃花島の決闘」
全5巻の「射雕英雄伝」も中盤、前巻終盤で、黄蓉との結婚の許しをもらうため桃花島に向かった郭靖ですが、到着早々黄蓉とはぐれ、そこで出会った怪老人・周伯通と義兄弟の契りを結び、究極の武術書である「九陰真経」を巡る過去の達人たちの争いを聞かされることに。
そうこうするうちに桃花島にやってきたのは、東邪・西毒・北乞・南帝の一人・西毒こと欧陽峰。名前のみは前の方から出ていた西毒ですが、西毒(洪七公曰く「毒物じじい」)の名に恥じぬ毒物の達人で、この手の作品で毒を遣う人間のご多聞に漏れず、卑怯卑劣な悪漢であります。
この西毒が何をしに東邪・黄薬師の支配する桃花島に現れたかと言えば、甥の欧陽克と黄蓉を娶せ、あわよくば東邪が持つという九陰真経を奪い取ろうという企み。かくて、黄蓉を賭けて、郭靖は欧陽克と共に三番勝負で対決する…という展開。
正直なところ、この辺りまで来ると、偶然が偶然を呼び、誤解が誤解を招き、一体この人たちは何のために闘っているんだろう? 感が非常に高くなってきて、個々のエピソードは非常に面白いのですが、全体のストーリーが見えないために些か読んでいて腰の座りが悪い気分になるのは否めません。
特にこの巻の中盤あたりまでの展開は、ドタバタ喜劇という印象すらあり、むしろこの作品をベースにしたオールスターパロディバカ映画「大英雄」を思い出してしまいました(いや、それはそれで大いに面白いんですけどね)。
もちろん、そんな状況でも凡百のエンターテイメントが束になっても敵わないパワーとアイディアを秘めているのが金庸作品の凄いところ。特にこの巻では、東邪と西毒という二人の達人が、己の内功(“氣”によるパワーですな)を込めた笛と箏の演奏で美しくも恐ろしい死闘を繰り広げるという名シーンがあり、作者のイマジネーションの豊かさに感心させられました。
さて、残るは二巻、相変わらず話の落としどころは見えませんが、それはいつものこと。金庸先生の手腕に期待します。
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