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2005.10.31

「闇鍵師」第1巻 枢り屋初お目見え


 「勇午」の赤名修が、劇団☆新感線の中島かずきと組んで「漫画アクション」誌で好評連載中の「闇鍵師」がいよいよ単行本化。
 第1巻では、主人公・くるり屋錠之介登場編の「枢り屋」、妖刀に魅入られた浪人の辿る悲劇を描いた「逆縁の太刀」、そして手妻遣いを狙った猟奇殺人と手妻遣いの美女の魂が複雑な交差を見せる「胡蝶の夢」の全三話が収録されています。

 基本的に雑誌連載時に全て読んでいたのですが、改めてじっくりと読み直してみると、やはりまず何よりも赤名氏の圧倒的な画力に感心させられます。舞台は江戸の町、主人公も錠前師という表の顔を持つという、いわば地に足のついた世界の中で描かれる物語だけに、その世界を壊さない(しかもその中に世界を壊さんとする異物たる魔を内包しつつ!)で描ききる画力が必要とされるわけですが、氏の画はそれに見事に応えていると言えるでしょう。
 そしてまた、人の心の闇が魔を喚び、魔と化すという、伝奇もの・ホラーものにはしばしば見られる設定を用いつつも、それを封じるに「錠」という形を与えて、心の闇というわかったようなわからないような代物を具現化してみせた原作の中島かずき氏の着想もまた巧いと思います。

 個人的にこの巻の中で一番印象に残ったエピソードは、「逆縁の太刀」。
 「魂の地獄」とも言うべき壮絶な愛憎の中でのたうちまわる浪人夫婦の姿を容赦なく描きつつ(「但し一回五十文だ」の台詞はあまりにキツすぎる…)、物語のラストでその裏にあった美しい情を描くという展開にうならされつつ、さらに魔の封じられた錠の姿に感動させられるという、実に見事なドラマであります。

 なお、巻末のあとがきによれば、江戸とは魔を封印するために作られた都市であり、錠之介らは、その魔を封じる異能の民、「まつろわぬ民」(出た!)とのことで、これから先どのようにその設定が生かされるか、興味深いことです。
 ちなみにこのあとがき、赤名氏の方が新感線の舞台(アオドクロ)に惚れ込んで中島氏を指名したとか、錠之介のモデルは沖雅也とか、面白いエピソードが多く、こちらも満足。


「闇鍵師」第1巻(赤名修&中島かずき アクションコミックス) Amazon bk1


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2005.10.30

「BEHIND MASTER」第6巻 血塗られた手が掴んだもの


 人ならぬ不思議な力を持つ少年・佐助を主人公とした時代ファンタジーの待望の続巻…というか最終巻。
 清海、鎌之介と共に遂に九度山の幸村のもとに向かうこととなった佐助ですが、時既に遅く宿敵・裏伊賀の手で九度山は壊滅、幸村は配下の命を救うため自ら敵に囚われることに、という展開。

 新たな仲間、符術使いの望月六郎(美女)と共に敵の本拠と言うべき駿府城に向かう佐助・鎌之介・六郎ですが、その前に次々と裏伊賀の魔人たちが立ち塞がる、という盛り上がる展開。
 その一方で、服部半蔵の腹心にして弟分だった霧隠才蔵が、裏伊賀により変質していく半蔵に強い違和感を感じると同時に、敵である佐助に強く惹かれていくというシーンがあり、初登場時は一体どうすれば味方になるんだ、的キャラとして描かれていた才蔵も、なるほどこういう展開で仲間になっていくのかな、と感心していたのですが…ですが…

 何とも残念なことに、駿河城から幸村を救い出して佐助が己のあるべき場所を見出し、そして真の、いずれ戦うべき敵と対面したところで作品は幕、ということになってしまいました。
 上記の通り、キャラクター、ストーリーともに盛り上がる要素ばかりで、いよいよこれからが本当の戦いか!? と思っていたら、「本当の戦いはこれからだ!」的結び(要するに打ち切りEND)になってしまったのは本当に口惜しいことです。

 もっとも、本来であれば自分と同様の存在=人ならぬ力を持つ者たちである裏伊賀と戦う中で、自分の行くべき道を見失い、血塗られた自分の手に絶望した佐助が、幸村の導きにより、その手で掴んだもののもう一つの意味に気づくという終盤の展開は、佐助の魂の遍歴に対する一つの答えであり、文芸的にもエンターテイメント的にも実に美しいもの。
 これはこれで、見事な決着であり、ラストに虚脱感よりも爽快感と希望を感じるのも、この点によるものなのでしょう。

 とはいえ、物語にまだ解答のない謎が多いのも事実。
 裏伊賀の真の狙いは何か。果心居士と佐助の因縁は。幸村は佐助の何を知るのか。そして何よりも、「サスケ」とは「何」なのか。
 作者の「ひとまず」完結、という言葉に希望をつなぎつつ、続編を心から待つ次第です。


「BEHIND MASTER」第6巻(坂本あきら ガンガンWINGコミックス) Amazon bk1


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2005.10.29

「龍神剣始末帳 夜叉」 魔剣再び目覚める


 天翔る龍を刀身に浮かび上がらせた瑞刀ながら、持つ者を次々と凶行に誘う血に飢えた魔剣・龍神剣の写し出す出す人間模様を描いた連作短編集第二弾。この巻では武士の夫を惨殺された妻が再び目覚めた龍神剣と出会い夜叉と化す「仇討ち無情」、前巻にも登場した尾張宗春が怨敵・吉宗を討つために凄腕の暗殺者を送り込む「将軍暗殺」、残忍非道な盗賊団の頭領に育てられた純真な青年の悲劇「魔剣純情」の全三話が収録されています。

 いつものことながら安心して読める城作品、この「夜叉」も、時代エンターテイメントとして一定の水準を保っており、十分楽しめました。
 持つ者を凶行に駆り立てる魔剣というのは、時代ものでは珍しいものでは全くありませんが、本来はまれに見る瑞刀でありながら、生まれ落ちる時に人の怨念を吸い、邪悪な魔剣と化したという本作の龍神剣の設定なかなかユニークではないでしょうか。
 瑞刀といい、魔剣といい、作り出すのも振るうのも畢竟人間。当たり前のことでありますが、本作を読むとそれが実感されます。

 と、かなりヘビーな印象もあるこのシリーズですが、決して沈鬱一辺倒にならず、時代エンターテイメントとして成立しているのは、狂言回しの二人――人が龍神剣の美しさに取り憑かれた研ぎ師の辰と、辰を追う腕利きながら運勢大凶の同心・結城半介の存在があってのこと。
 龍神剣を中心に置きながら、その回りでほとんどトムとジェリー並みの追い駆けっこを繰り返す二人の姿は、二人が必死になればなるほど申し訳ないことながら逆に可笑しく、一服の清涼剤…というのは大袈裟かもしれませんが、どこかホッとさせてくれるものがあります。これもまた人間の姿か。

 まだまだ龍神剣が始末されしまうには惜しいこのシリーズ。振り回される二人には悪いのですが、末永く続いていただきたいものです。


「龍神剣始末帳 夜叉」(城駿一郎 学研M文庫) Amazon bk1


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2005.10.28

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 紅十字の守護士見参

 サスケ・幸村らを嘲弄する鎭明。その袖口から覗くのは、京四郎と同じ紅十字だった。先代紅の王がその血肉から生み出したという「紅十字」の四守護士――その生き残り二人こそが鎭明と京四郎だったのだ。壬生を、人を、できそこないをもてあそぶ先代と鎭明らに怒りを露わにするサスケは、妖刀・紫微垣の力を借りて鎭明の重力球を打ち破るが、本気を出した鎭明のサングラスの下が、真の紅の目に変わる――

 レッドクロス・ナイツ…テ○プル・ナイツ? というツッコミは置いておくとして、今まで謎だった京四郎と鎭明、二人の出自が一気に明らかにされた今回。幸村が指摘するまで、この二人の共通点に全く気づきませんでしたよ…幸村の推理にもちょっと感心してしまって、そんな自分に何だかものすごい敗北感。

 それはさておき、四人中二人が既に他界ということは、紅の王陣営は残すところあと三人? す、少ない…幾ら壬生勢が脱落したといえ、味方側はまだ少なくとも狂・トラ・凡・幸村・サスケがいるのに…(治療以外決め手がなくなった灯と、既に見せ場のあったアキラを除くとして)
 先代ももうちょっと景気よくクローン作っておけばいいのにねェ。もっとも、本当にあと二人の守護士が死んだのか、非常に疑わしいところではありますが…少なくとも誰かの先祖とかいうオチはありそうな。実は徳川の先祖とか。もしくは実は鳥居のおっさんが守護士だったとか(それはない)。

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2005.10.27

「替天行道 北方水滸伝読本」 替天の旌旗 青史に永遠なり


 ついに完結巻・第19巻が発売された北方謙三版「水滸伝」ですが、同時に発売されたのがこの副読本「替天行道」。替天行道といえば、元々水滸伝では梁山泊の旗印ですが、この北方版では、それと同時に、宋江の革命思想を伝えるものとして幾多の好漢の心を動かした書物の題名であり、まこと副読本にふさわしい名前と言えます。

 内容的には、作品が連載されていた「小説すばる」誌に掲載されていたエッセイ、推薦文の類でかなりの割合が占められており、正直なことを言えば、特に作者以外の者のエッセイに興味を持たない身としては「どうにもなあ…」というところもあるのですが、人名辞典(内容的には公式HPに掲載されているものと同じものの模様)や年表等、データ企画的なものはやはりとてもうれしい…というよりこれ目当てで買ったようなものですがですし、また、カンシ(毎回の連載時に表紙ページに掲載されていた惹句)が全話分収録されているのも、単行本派としては非常に有難いところです。

 特にカンシは、ファンであればこれを見ただけで作中の名シーンの数々が浮かんでくる優れもので、読むたびにあの好漢の生き様、あの好漢の死に様が浮かんで、何だか非常に懐かしい気持ちにさせられました。
 …そして年表のページの扉で「呉に因って誤る」と書かれてしまう呉先生(´Д⊂

 巻末には注目の続編「楊令伝」に言及した、作者と北上次郎氏の対談も掲載されており、全19巻読みきったファンであれば、まず読んで損はない一冊かと思います。

 ちなみにこの「楊令伝」、これまで以上に原典から離れた、というより水滸伝の舞台と人物を使った別の作品となりそうで、少々複雑な気分でもあるのですが、楊令vs岳飛が描かれるという噂もあり(立場的に十分すぎるほどあり得るシチュエーションではあります)、やはり楽しみであることは間違いありません。


 …などと考えながら帰りに丸の内の丸善に寄ったら、まさに「水滸伝」完結記念の北方先生サイン会をやってましたよ! 嗚呼、知っていたら吉祥寺でなく丸の内でこの本を買ったのに…買ったのに…
 それにしても昔から北方先生はイメージとビジュアルが変わらないですなあ。


「替天行道 北方水滸伝読本」(北方謙三 集英社) Amazon bk1


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2005.10.26

「任侠伝 渡世人一代記」発表 元気、止まるところを知らず

『任侠伝 渡世人一代記』今冬発売決定!
 ということで、時代劇ゲームの鬼、元気の新作は、渡世人の世界を舞台にしたアクションゲームとのことです。
 また元気の不思議時代劇ゲームが…まったくもって元気は止まるところを知りません。こんなblogを運営している私が言うのもなんですが、客はいるのか元気。本当に大丈夫なのか元気。大好きだ元気!

 最初タイトルを聞いたときは、これみたいに現代を舞台にしたヤクザものかと思ったのですが、考えてみれば元気なんだから時代劇に決まっていますね。
 現在は公式のプレビューサイトでOP動画が公開されている位であまり情報はありませんが、内容的には時代劇ゲームのライバル(?)、スパイクの侍道2みたいなノリなのでしょうか。
 …個人的には、パッと見て「くにおくんの時代劇だよ全員集合!!」を思い出してしまったのはナイショ。

 なお、主人公の声は子安武人氏ということですが、普通に格好良い時の子安声なんだろうなあ…勿体ない。出入りの時に思わず恋人の名前を呼んでしまった弟分に「兄弟よぉ! いま女の名前を呼ばなかったかい?(以下略)」とか言ってくれたらいいのに<言わない言わない。
 というか、元気作品なのに普通に「豪華声優陣」を売りにしている辺り、かえって不安になります(失礼な)。

 中古屋で驚異的な買い取り・販売価格の下降を見せた「必殺裏稼業」の後だけに、ここは一つ、気合いを入れていいものを作って欲しいものです(あ、その前に戦神があった)。

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2005.10.25

「武死道」第1巻 武士道とは土方に見つけたり


 待ちに待っていたヒロモト森一&朝松健の「武死道」単行本第1巻がようやく発売。Webコミック「GENZO」で連載されているこの作品、単行本になってからまとめて読もうとじっと我慢していたのですが、さてようやく手にした「武死道」の世界は…いやもう何というか、「スゲェもん見た!」というのが正直な感想であります。

 この作品、朝松健の「旋風伝」が原作ではあるのですが、背景設定と登場人物が同じの他はまるで別の物語としか言い様のないヒロモトワールドが満開。特に仙頭左馬ノ助(名前違うんだなあ、原作と)の狂いっぷりは、あまりにもヒロモトキャラそのまんまでひっくり返りました。
 とりあえず、原作のことは忘れて読んだ方が素直に楽しめるかもしれません。

 しかし、この第1巻で出色なのはなんと言っても土方歳三のキャラクター。土方と言えば誰もが思い浮かべるあの洋装姿の写真を元にしながらも、そこから受ける印象に比べてこの作品の中で描かれる土方像は、はるかに野性的で、暴力的で、そして何よりも魅力的と言えます。
 何と言いますか――文章で本の感想を綴るものとしてこれだけは言ってはいけないこと、敗北宣言以外の何者でもないのですが、この土方の魅力は、実際の絵を見て下さい、としか言いようがありません。
 実際の土方がどのような人物であるかは(記録に残されたものを除けば)知るよしもありませんが、この「武死道」の中で描かれた土方は――初めは新之介と同様に違和感や反感を感じるかもしれませんが――まさしく我々が心に抱く、そしてこうあって欲しいと期待する「土方歳三」そのものであったと感じた次第。

 正直、第1巻ラストで描かれる土方の死の姿はあまりに鮮烈で、ここで「武死道」完! となっても納得できてしまうほどのインパクトではありますが、しかしこの先、本当の物語は(おそらく)これから。
 第1巻では読者と同じ目線でもって土方を見ていた新之介が、その土方の「生きろ!!」という言葉を背負ってどのように生き抜いていくのか。
 そして、執拗に繰り返される「死に場所」「サムライ」「生きる」「武士道」といった言葉の、この作品ならではの意味がどのように描かれていくのか。
 期待して待ちたいと思います。


「武死道」(ヒロモト森一&朝松健 バーズコミックス) Amazon bk1

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2005.10.24

「忍者 グレイテスト・ヒッツ」 忍者を歌にしてみたならば


 古本屋に行く楽しみの一つに、それまで発売されていたことも知らなかったような本との偶然の出会いというものがあると思っていますが、CDにもそういうことはやはりあります。
 昨日、友達と一緒に秋葉原に行って、中古ショップを色々と物色していたのですが、そこで出会ったのがこの「忍者 グレイテスト・ヒッツ」というコンピレーションCD。ひと頃結構発売されていた(今でも出てる?)時代劇の主題歌・挿入歌のコンピレーションCDの一つですが、これはタイトルで一目瞭然の通り、忍者もののドラマ・映画・アニメから集めたものとなっています。

 収録曲は以下の通り

1.サスケ(「サスケ」主題歌)
2.忍者マーチ(「仮面の忍者赤影」主題歌)
3.忍者部隊月光の歌(「忍者部隊月光」主題歌)
4.ワタリ(「大忍術映画ワタリ」主題歌)
5.熱血猿飛佐助(「熱血猿飛佐助」主題歌)
6.忍者ハットリくん(「忍者ハットリくん」主題歌)
7.風よ光よ(「怪傑ライオン丸」主題歌)
8.少年忍者風のフジ丸 主題歌(「少年忍者風のフジ丸」主題歌)
9.誠之介武芸帳(「妖術武芸帳」主題歌)
10.「コント55号 俺は忍者の孫の孫」メインテーマ(「コント55号 俺は忍者の孫の孫」)
11.いつも君のそばに(「雪姫隠密道中記」主題歌)
12.忍者ハットリくん(「忍者ハットリくん」(アニメ版)主題歌)
13.赤影の歌(「仮面の忍者赤影」挿入歌)
14.いざ行け猿飛佐助(「熱血猿飛佐助」副主題歌)
15.ピュンピュン丸(「ピュンピュン丸」主題歌)
16.ライオン丸がやって来る(「怪傑ライオン丸」挿入歌)
17.妖術武芸帳(「妖術武芸帳」挿入歌)
18.たたかう少年忍者(「少年忍者風のフジ丸」副主題歌)
19.江戸の隠密渡り鳥(「隠密剣士」主題歌)
20.メインタイトル/別れの百合/駿府山中の忍術戦(「忍びの者・霧隠才蔵」)
21.君よ綺麗になれ(「隠密・奥の細道」主題歌)

 基本的に誰でも知っているようなメジャータイトル中心ですが、中には驚くような作品の曲もあったりして(「俺は忍者の孫の孫」なんて、山風の幻の作品「忍法相伝73」の映画化ですぜ)、バラエティに富んだ楽しい内容になっています。
 「サスケ」や「妖術武芸帳」はオープニングのナレーションも入っていて、実に良い感じですし(あのナレーションがなければ印象が全然変わってきますからね)、「風よ光よ」など一部の曲はカバーバージョンが収録されていますが、これはこれで今となっては珍しいですし、やっぱりオリジナルには及ぶべくもない歌・演奏にそこはかとなく郷愁を感じたりして。

 ちなみに私が気に入っているのは、前奏を聴いただけでテンションがガーッと上がってくる「忍者マーチ」、熱血の名に恥じない伸びやかな歌い声が気持ちいい「熱血猿飛佐助」、そしていかにも80年代! という味わいの「君よ綺麗になれ」でしょうか。あと、小学生の時に再放送で見たっきりの「ピュンピュン丸」の歌を久々に聴けたのもちょっと嬉しかったかな。

 それにしても全体を通してきてみて感じるのは、同じ「忍者」という存在をテーマにして、これほど異なる曲が作られるのか、というちょっとした驚き。もちろん、コメディからシリアスものまで、中には現代ものもあったりして、作品自体がバラエティに富んでいるので当然といえば当然なのですが、しかし、忍者を歌にしてみたならば、その中からフィクションの中での忍者の受け入れられ方の多様性が浮かび上がってきたようで、なかなか興味深いことです。

 …そして、CDのオビを見てみたら、同じレーベルで「忠臣蔵グレイテスト・ヒッツ」というCDが。うわ、こっちもすごく欲しい。


「忍者 グレイテスト・ヒッツ」(テイチクエンタテインメント 音楽CD) Amazon

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2005.10.23

「幽王伝」第三部第1話 意外な新キャラクター登場

 もう一月近く前になるので何を今さら! と言われてしまいそうですが、角川春樹事務所HPで菊地秀行先生の「幽王伝」三の巻第1話が掲載されています(もうすぐに次回分が掲載されるような気がしますが…)。
 正直、シリーズ再開はもう少し先になるのかな、と思っていたので嬉しいところです。

 ストーリー的には、相変わらず進展しているようなしていないような…ですが、それでも何となく許せてしまうのは、主人公・仏陀蒼介のキャラクターゆえではないでしょうか。
 ひねくれ者や人知を超えた魔人が多い菊地ヒーローには珍しく、人間として極めて真っ当な――それはこの作品の描くところからすれば必然ではあると思いますが――好漢の蒼介ですが、どこかのんびりしたムードが漂うのは、これはもう彼の人徳?なんでしょうなあ。「哲之進」戦は大笑いさせていただきました。

 と、それよりも何よりも、菊地ファンにとってはビッグサプライズの新キャラクターが…その名は大摩鍼兵衛先生。もちろん針遣いの超美形であります(でも口調は…)。
 そういえば大昔からの家系でしたなあ…大摩先生のとこ。これは嬉しい盲点でした。

 そのうち鎧櫃を背負った菅笠男が出てきたりして…ってこれはちょっと洒落にならないか。

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2005.10.22

「秘剣瀑流返し 悪松・対決「鎌鼬」」 劇画チックな奥義が唸る大血闘


 示現流の遣い手の荒ぶる巨漢・大安寺一松の死闘を描くバイオレンス・アクション第二弾。前巻のラストで薩摩の剣士団を退けた一松ですが、当然それで薩摩が引き下がるはずもなく(というかシリーズが続く限り引っぱるでしょうな)、新たな剣士を投入。一時は平穏な暮らしに身を置いていた一松に再び戦いの日々が…という展開です。

 今回一松の前に現れるのは、触れずして相手を斬るという秘剣「鎌鼬」の遣い手にして、示現流祖東郷家の出身・東郷重綱。剣の達人でありながら心根は正しくないこの男、何と一松の名を名乗って行く先々で悪行を重ね、一松を追いつめていくという、何とも卑劣な手段を用いる人物で、強烈なキャラクターを持つ一松の敵としてまず不足はない人物です。さらに援軍として、助命と引き替えに一松の命を狙う、国元で死罪を待つ凶悪犯ばかりを集めた選抜隊まで登場。
 そんな強敵を迎え撃つ一松の方も、最初に会得した秘剣雪割りのアッパーバージョン・瀑流返しを会得して挑みます。猛烈な振り下ろしが真空状態を造り出し、相手の隙を作り出してそのまま叩き潰すという雪割りも凄まじいですが、瀑流返しはそれに輪をかけて豪快な劇画チックな秘剣となっています。

 この劇画チックというのは、この作品のある種キーワードで、重綱の「鎌鼬」や、選抜隊の登場シーン、そしてクライマックスの決闘シーンでの一松の「鎌鼬」破りなど、良くも悪くも荒唐無稽でインパクトあるシーンがしばしば登場します。
 しかしながら、主人公の一松自身が規格外れのインパクトを持つキャラクターであるためか、そういったシーンの数々が違和感なく受け止められ、むしろこの作品にとっては魅力になっているのが面白いところであります。

 そして薩摩との死闘の一方で、なんと水戸光圀に佐々木介三郎に安積覚兵衛(言うまでもなく助さん格さんのモデルの二人。もちろん印籠などは出したりしませんが)が登場。一松と直接的間接的に関わることとなりますが、さてこの出会いがこれからの一松の戦いに何をもたらすか、楽しみになってきました。

 ちなみに前巻の感想でどうにも感情移入できないと書いた一松のキャラクターですが、この巻では冒頭から最後までひたすら血闘の連続であったためか、さほど気になることなく読むことができました。こちらの方もこれからどのように描かれるのか、気になるところです。


「秘剣瀑流返し 悪松・対決「鎌鼬」」(佐伯泰英 祥伝社文庫) Amazon bk1


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 孤独な豪剣の血闘行 「秘剣雪割り 悪松・棄郷編」

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2005.10.21

黒い星消ゆ 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」

 狂が朔夜を斬ろうとしたのは、彼女自身の望みだった。先代紅の王の刻印を胸に刻まれた朔夜は、先代が生きる間生き、死ぬ時に共に死ぬ。ならば、彼女が死ねば先代もまた…。それでも先代を斬ろうとする狂。それが二人のキョウの対立の原因だった。そして先代が全てを支配すれば世界から不幸はなくなる、それを阻むならば狂のみならず紅虎たちも斬ると宣言する京四郎に、真の紅目の力で立ち向かう狂だが、同じく真の紅目と化した京四郎の力は、狂の力を凌駕していた。

 先代と戦う黒い星の宿命を持つ狂と、先代を守る白い星の宿命を持つ京四郎。そんな二人が、一人の女性(あと先代)を挟んで対照的な生き方を見せるわけですが…しかし、仮に全く同じものを見てきたのだとしたら、どう考えても京四郎の方が(悪い意味で)甘っちょろい、弱い人間に見えます。

 そして、ますますわからなくなってきた朔夜の秘密と先代の狙い。
・先代は未来視の力を持つ朔夜を殺そうとしている
・先代は朔夜の力を利用して何事かを企んでいる
・先代の命と朔夜の命はつながっている
・朔夜は壬生一族最大の秘密を知っている
これらを全て同時に成立させる解は…

 そしてラスト、消えゆく黒い星を目撃する朔夜ですが…よく見えたな、黒い星。

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2005.10.20

「現実」があるからこその優しさ 「ものぐさ右近義心剣」


 鳴海丈先生の人情連作活劇第3弾。この巻には7編の短編と、書き下ろしの幕間1編が収められています。
 鳴海先生と言えば、普段はバイオレンス&エロスで鳴らす時代小説家。そんなわけでこのシリーズの第1弾「ものぐさ右近風来剣」を手に取った時には、正直なところ、「え?」という気持ちでした。鳴海先生、宗旨替えしたのかしらん、と――そして本当に申し訳ない話なのですが、人情ものを書けるのかなあ、と。

 しかし一度読んでみれば、それが全く杞憂であることがわかりました。そして後書きによれば、鳴海先生が尊敬する作家に、山手樹一郎先生がいることも。山手先生といえば、明朗時代小説・人情ものの第一人者、というより神様のような方。なるほど、そういうことでありましたか、と納得しました。

 このシリーズの主人公は、天下の素浪人・秋草右近。箪笥に手足を生やしたような、と形容される巨躯の持ち主で鬼貫流抜刀術の達人ですが、人を斬るのが嫌いで腰のものは刃のない鉄刀、という一風変わった好漢であります。非人間的な武家社会のやり方で妻と子と生き別れになった右近は、元掏摸で押し掛け女房のお蝶と暮らしながら、江戸の萬揉め事解決屋として今日も弱きを助け、強きをくじく大活躍――というのが基本設定。
 単に強く明るいだけでなく、自身も浮き世のしがらみに苦しんだ身だからこそ人に優しい、そんな右近のキャラクターが実に気持ち良く、彼を取り巻くレギュラー陣もみな好人物ばかりで、安心して読むことのできる、心地よい作品となっています。

 もちろん、だからといって人間の善意を免罪符にしたぬるま湯に浸かったような作品かと言えばさにあらず。作中にしばしば登場する江戸のアンダーグラウンドな世界・住人たちの描写は、バイオレンスものを書いている時の筆致そのままで描かれており、凄惨とすら言えるものも少なくなく、目を背けたくなるような時すらありますが、しかしそんな「現実」があるからこそ、苦しむ人々に優しい目を向け、悪党どもに本気で怒りをぶつける右近の存在は輝いて見えるのでしょう。

 この巻での個人的なベストは、お蝶姐さんの過去を描いた「お天道さま」。辛かった過去に直面させられながらも、天に恥じぬ自分の今の生き方を貫くために命を張るお蝶と、その心意気に応えるかのように大暴れを見せる右近の姿には、思わずほろりとさせられました。
 これからも末永く続いていただきたいシリーズです。


 と、ここで伝奇オタ的なことを一つ。
 作中、馬上筒(小型火縄銃)遣いの悪漢と対決することになった右近が見せた神業的奥義、どこかで聞いたような、見たような…と思ったら、実に懐かしい鳴海先生原作のある作品に登場する技でありました。そうかあ、あの技は今(?)でも受け継がれていたのだなあ、とマニア以外にはわかりそうもない感慨にふけってしまったことです。


「ものぐさ右近義心剣」(鳴海丈 光文社文庫) Amazon bk1

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2005.10.19

その熱い涙は何を語るか 「鬼一法眼 鬼刃之章」

 凄腕ながら声を失った剣客・鬼一法眼の復讐行を描いた作品の完結巻。この巻では、若年寄と大商人の癒着事件に夜鷹の女の意地が意外な展開をもたらす「白刃無情の大川端で一文夜鷹の意地を見た」、ある仇討ちを背景に男と女の複雑な色と欲が渦巻く「剣を踏む」、そしてイスパニアに渡った法眼が決闘に次ぐ決闘の果てに遂に怨敵と対峙する「ジパングの狼」の全三話が収められています。

 前巻同様、人間のどうしようもない「業」や「情」が生み出す悲劇を描いたこの巻で、特に印象に残ったのは「剣を踏む」。
 自分の仇討ちのために、自分の肉体を使って周囲の男たちを繋ぎ止め、利用する女性というのは、時代小説ではさほど珍しくないシチュエーションではありますが、この作品では、彼女をはじめとして仇を討とうとする者、仇として狙われる者、そのそれぞれの側の人間たちの生き様を、生臭すぎる部分まで含めて余すことなく提示してみせることにより、残酷で愚かしい、だからこそ読む者の胸に迫る人の姿を描き出すことに成功していると言えます。
 そしてまた、自分もまた仇討ちという大望を抱えているが故に、女の仇討ちの愚かしさを知りつつも、助太刀として、心を通わせた青年剣士と剣を交える法眼が、決闘の後に痛切な慟哭をあげる姿が、強く胸に迫ります。

 そしてラストエピソード、遂に自分自身の仇討ちを遂げた法眼が迎えるのは、読者であるこちらも思わず言葉を失う何とも残酷で皮肉な結末。
 海を越えてまで探し求めた仇の最期に流す法眼の涙の中に込められたものはなにか――考えてみるのも無駄なことではないと思います。


「怨みの刺客 鬼一法眼 鬼刃之章」(神田たけ志&五社英雄 リイド社SPポケットワイド) Amazon


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声なき声が叫ぶ地獄行 「怨みの刺客 鬼一法眼 鬼哭之章」

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2005.10.18

一休さんが偉いのは 「一休和尚漫遊記」

 お馴染み一休禅師の活躍を描いた講談。一休さんと言えばやはりとんち坊主の印象がありますが、この講談では小坊主時代のエピソードは少なめで、成人してからのエピソードがメインとなっています。
 タイトルでは漫遊記とありますが、別に水戸黄門のように旅メインのお話しではなく、むしろ一休さんの一代記といった内容。少年期(例の屏風の虎退治)から始まって、二十七歳で禅師となり、有名な「門松は冥土の旅の一里塚」で髑髏といっしょに年始参りや、地獄太夫発心のお話など、有名無名のエピソードが散りばめられていて、まずは肩の凝らない読み物となっています。

 しかし、この講談を読んで感心したのは、後小松帝の子であるという一休さんの出自のエピソードが、冒頭にほんの少し触れられているだけで、後はほとんど全く現れないこと。つまり、物語の中では、一休さんはあくまでも一人の人間一休さんであって、やんごとなき血を引くお方としては扱われず、従って一休さんの反骨奇矯の言動が許されるのもみんなの尊敬を集めるのも、要するに一休さんが偉いのは、一休さんの血筋からではなくて、一休さん個人の人格から、ということになるわけです。
 何を当たり前のことを言っていやがる、と思われるかもしれませんが、貴種流離譚というものがいやになるほど転がっているエンターテイメント、なかんづく時代劇の世界において、日本で一番偉い人の血を引いていながら(ちなみに現在は一休さんの墓は宮内庁が御廟所として管理しております)、その点を全く売りにしないで物語が描かれている点に、ちょっと感心してしまいました。

 よく考えてみれば、一休さんは史実においてもフィクションでも反骨の人。その人が自分の血筋を前面に出していたらイメージが崩れるので、当たり前といえば当たり前なのですが――

 いずれにせよ、後世に名を残す名僧が、我々庶民の目線にまで下りてきて、難しそうに見える仏の教えをかみ砕いて語ってくれたり、ふんぞりかえっている世俗の権威をやっつけるのを見るのは、現代人である我々の目から見ても楽しく嬉しいものでありますし、立川文庫の栄えある第一号が「一休禅師」であったのも、決して故なきことではないのだろうな、と思いました。


 ちなみに、一休さんでお馴染みのしんえもんさんは、何故か新左衛門という名で登場、二十七歳の一休さんに帰依して、以後頼もしい下僕…いや弟子として活躍しています。やっぱり一休さんには頭上がらないのですね。


「一休和尚漫遊記」(講談名作文庫)

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2005.10.17

底抜け脱線嫁取り騒動 「射雕英雄伝 3 桃花島の決闘」


 全5巻の「射雕英雄伝」も中盤、前巻終盤で、黄蓉との結婚の許しをもらうため桃花島に向かった郭靖ですが、到着早々黄蓉とはぐれ、そこで出会った怪老人・周伯通と義兄弟の契りを結び、究極の武術書である「九陰真経」を巡る過去の達人たちの争いを聞かされることに。

 そうこうするうちに桃花島にやってきたのは、東邪・西毒・北乞・南帝の一人・西毒こと欧陽峰。名前のみは前の方から出ていた西毒ですが、西毒(洪七公曰く「毒物じじい」)の名に恥じぬ毒物の達人で、この手の作品で毒を遣う人間のご多聞に漏れず、卑怯卑劣な悪漢であります。
 この西毒が何をしに東邪・黄薬師の支配する桃花島に現れたかと言えば、甥の欧陽克と黄蓉を娶せ、あわよくば東邪が持つという九陰真経を奪い取ろうという企み。かくて、黄蓉を賭けて、郭靖は欧陽克と共に三番勝負で対決する…という展開。

 正直なところ、この辺りまで来ると、偶然が偶然を呼び、誤解が誤解を招き、一体この人たちは何のために闘っているんだろう? 感が非常に高くなってきて、個々のエピソードは非常に面白いのですが、全体のストーリーが見えないために些か読んでいて腰の座りが悪い気分になるのは否めません。
 特にこの巻の中盤あたりまでの展開は、ドタバタ喜劇という印象すらあり、むしろこの作品をベースにしたオールスターパロディバカ映画「大英雄」を思い出してしまいました(いや、それはそれで大いに面白いんですけどね)。

 もちろん、そんな状況でも凡百のエンターテイメントが束になっても敵わないパワーとアイディアを秘めているのが金庸作品の凄いところ。特にこの巻では、東邪と西毒という二人の達人が、己の内功(“氣”によるパワーですな)を込めた笛と箏の演奏で美しくも恐ろしい死闘を繰り広げるという名シーンがあり、作者のイマジネーションの豊かさに感心させられました。

 さて、残るは二巻、相変わらず話の落としどころは見えませんが、それはいつものこと。金庸先生の手腕に期待します。


「射雕英雄伝 3 桃花島の決闘」(金庸 徳間文庫) Amazon bk1


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金庸健在なり 「射雕英雄伝」第1巻
混沌の心地よさ 「射雕英雄伝 2 江南有情」

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2005.10.16

11月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュール

 11月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールを更新しました。右のサイドバーからも見ることができます。

 今月は何と言っても初旬に「Y十M 柳生忍法帖」の初コミックが、それも1,2巻同時発売されるのが一番のニュース。「シグルイ」の第5巻も発売されますし、なかなかコミックが熱い月です(個人的には「公家侍秘録」の最新刊が発売されるのも嬉しいですね)。

 小説の方では、暗夜鬼譚シリーズラストになるかと思われる「暗夜鬼譚 剣散華」の後編が発売。シリーズ第1巻が1994年だったので、実に十年越しの完結になるのでしょうか。そのほか、忍者小説と言ったらこの人、の沢田黒蔵先生の新作「真田の影忍(仮)」や、徳川家斉を主人公とした痛快活劇「将軍まかり通る」の続編も登場します。
 単行本の文庫化も、「天下騒乱 鍵屋ノ辻」「役小角仙道剣」「ぬしさまへ」となかなか気になる作品が揃っています。特に「天下騒乱」は来年正月の「新春ワイド時代劇」の原作なので、予習しておかなければいけません。
 また、長らく入手困難となっていた「新吾十番勝負」が嶋中文庫から復刊開始。嶋中文庫の復刊パワーはもの凄いですね。この調子で他の絶版名作も復刊していただきたいものです。

 そしてナインナップをチェックして驚いたのがゲーム。新作は「忍道 戒」「戦神-いくさがみ-」そして「ソウルキャリバー3」と注目作が並びますが、ベスト版(廉価版)が「天誅 紅」「剣豪3」「サムライスピリッツ零」「どろろ」と、もの凄いことに。来月発売される「侍 完全版」(って、これ前にもベスト化されていたような)、発売日がまだ微妙に固まっていないけどそろそろ発売の「月華の剣士1・2」も加えれば、PS2のメジャー時代ゲームシリーズがほとんど揃うということになります。
 クリスマスが近いということもあるのかと思いますが、この機に普段ゲームをやらない方も手を伸ばしていただけると嬉しいですね。私? 私は「必殺裏稼業」の後遺症がまだ…

 DVDについてはまた後で掲載の予定です。

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2005.10.15

三豪傑ここに揃う 「岩見重太郎」

 狒々退治でお馴染みの(…って言っても若い人は知らないですね)豪傑・岩見重太郎の仇討ち記。少年期に山中に籠もって不思議な老人から武術を会得した重太郎が、武者修行の旅に出た途中で暗殺された父の仇討ちのために諸国を巡り、首尾良く仇・広瀬軍蔵らを討ち取るまでの物語であります。

 言ってみれば典型的な講談の仇討ち譚であって、善男善女が佞人ばらの凶刃にかかり、残されたものが諸国流浪で様々な出会いと冒険を重ねた末、天下万民の前で堂々と仇を討ってめでたしめでたし…というパターンからははずれない作品ではあるのですが、何と言っても面白いのは、クライマックスの決闘のスケールの大きさです。
 流浪の末、丹後中村家十四万石の指南役に収まった広瀬らは、暗君をたぶらかして重太郎との決闘に調練を名目に藩士三千人(!)を動員、ここで逃げるようでは講談の主人公にはなれませんから、重太郎もまっこうからこれに立ち向かい、天の橋立にて大血闘ということになります。
 しかし幾ら荒唐無稽が許される講談の世界であっても、一対三千ではさすがに旗色が悪すぎる…とばかりに助太刀に駆けつけるのは、塙団右衛門と後藤又兵衛という講談界の二大スーパーヒーロー。実は団右衛門も又兵衛も、その前に挿入される山賊退治のエピソードに登場して重太郎と交誼を結んでいるので、ここで登場するのはある程度予想は出来るのですが、それはさておき、仮面ライダーV3の危機に1号2号ライダーが帰ってきたというか、新マンの危機にウルトラマンとウルトラセブンがやってきたというか(たとえがいちいち古いよ今回)、三豪傑夢の揃い踏みで、これは講談を実際に聴いていた人は堪らなかっただろうなあ、と思います。

 …それにしても岩見重太郎も謎の多い人物で(例えば、何故重太郎=薄田隼人になったのか、いまだに私にはよくわかりません)、そもそも実在したかどうかも大変疑わしい人物ではあるのですが、そんな人物が後藤又兵衛・塙団右衛門といった豪傑たちと肩を並べ、豪快に暴れ回ることができる講談という世界は、素敵だな、とつくづく思った次第です。


「岩見重太郎」(講談名作文庫)

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2005.10.14

対極の漢、対極の剣 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」

 見るものを圧倒する気迫で対峙する狂と京四郎。 狂の放つ朱雀・白虎をあっさりと受け流す京四郎の太刀は、全ての攻撃を無効化する陰の太刀、同じ流派であっても力押しの陽の太刀を操る狂には相性の悪い相手だった。そして京四郎は語る。共に朔夜を守り通そうという二人の約束を違えたのは狂だったと…

 バトルシーンになると書くことが少なくなるこの作品。にらめっこからの奥義の激突というのはいつものパターンですが、今回登場した、全てを受け流して相殺してしまうという京四郎の技がちょっと面白い。確かにこの作品、真っ正面から奥義同士をぶつけて威力が勝った方が勝ちという、ドラゴンボールみたいなバトルシーンが多かったですが、確かにそういう連中にとって京四郎は非常に相性が悪いでしょうし、またそういう技が京四郎の個性に合っているかと思います。また格ゲー出してくれないかなあ。

 そして遂に狂と京四郎、二人の仲違いの真相がいよいよ語られるか? というところで今回はヒキ。朔夜を斬ろうとしていた狂というのは少し意外ですが、やはり朔夜が知るという壬生最大の禁忌と関係があるのでしょうか。戦闘人形話以上の秘密とは、さて…


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 今週のSAMURAI DEEPER KYO

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2005.10.13

復讐のカウントダウン開始! 今週の「Y十M」

 第一部完、という印象のある今回、話自体の動きは、前回同様比較的おとなしめではあったのですが、十兵衛の迫力が垣間見れたのと、そしてついにあの名フレーズ「蛇の目は…」が登場、なかなか満足度の高い回でありました。

 庄司甚右衛門絡みのエピソードは、前回の感想でも書いたように、さっさとすましてしまった方がよかったのではと思いますが、甚右衛門を脅しつける時の視線(=表情)の素晴らしさといったら…!
 原作以上に飄々としたイメージの強い「Y十M」の十兵衛先生ですが、ここでギラリとしたものを見せつけてくれたのはナイスアレンジ(原作ではこの部分の台詞、むしろ「んふ」とかやりながら言ってそうな描写なので)かと思います。

 その後はほとんど猟奇殺人の「髯を生やした京人形」。七本槍…いや六本槍の台詞がちょっとくどい印象はありましたが、その後の虹七郎が見開きでかましてくれた豪快剣技のインパクトの前には、そんな不満も雲散霧消、忍者とはまた異なる剣法者のアクションを見せてもらった、という印象で感心しました。
 そして――もちろんラストは見開きで「蛇の目は六つ」! 復讐のカウントダウンの始まりであります。やっぱり何度見てもこのフレーズは胸躍ります。

 そして次回はカラー付きで新章突入、来月には単行本1,2巻同時発売と、いい具合に弾みがつきそうかな。


 …しかし「むこうさか」はやっぱり誤植じゃないかなあ。少なくとも私にとっては初耳ですし、高坂弾正の子孫という説があるのだから、やっぱり「こうさか」かと思います(ちなみに向坂甚内は「神州纐纈城」の高坂甚太郎のその後の姿)。

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2005.10.12

孤独な豪剣の血闘行 「秘剣雪割り 悪松・棄郷編」


 文庫書き下ろし時代小説界の鉄人、佐伯泰英先生のシリーズの一つ。中間の子・一松改め大安寺一松弾正が無頼の剣を振るう剣豪バイオレンス・アクションです。

 同じく中間であった一松の父は、賭場での諍いで死亡、一松も面倒を嫌った主家に依頼された定廻り同心に罪を着せられて江戸所払いに。放浪の果て、箱根山中で世を捨てた薩摩示現流の達人と出会った一松は、三年間の修行の果てに十尺の樹をも両断する秘剣雪割りに開眼、大安寺一松弾正と名を改め、江戸に戻って糊口を凌ぎ、同時に武士に復讐するため道場破りを始める――というのが基本設定となっています。

 物語のストーリーとしてはむしろシンプルな展開、全体の1/3程度で上記が語られ、その後は、自分をはめた同心とその手下に対する一松の復讐行と、お家流である示現流で江戸を騒がす一松を倒すため集結した薩摩剣士団との死闘が描かれますが、次々と描かれる決闘の描写が面白く、だれることなく一気に最後まで読むことができました。特に、ラストの示現流剣士二十三人との富士見坂一本松での死闘は、大血闘の名にふさわしい壮絶な内容でありました。

 が…主人公である一松のキャラクターにはどうにも感情移入ができない、というのが正直なところ。世間、特に自分たちを見下してきた武士への復讐心と、飽くなき闘争本能のみで動くかに見える、一松の夢も希望もない生き方に共感できないのは、私がお人好しすぎるからでしょうか。
 遊女の娘を持った老尼や、天真爛漫な心を持つ遊女との出会いが、一松を変えていくのか、いかないのか。この先の展開が気になります。


「秘剣雪割り 悪松・棄郷編」(佐伯泰英 祥伝社文庫) Amazon bk1

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2005.10.11

異形列伝特別編 車大膳

 遂に復刊なった「駿河城御前試合」ですが、予想通り…と申しますか、「車大膳」で検索してこちらのblogにおいでになる方も結構いらっしゃるようですので、「車大膳」でググるとトップに来るblogとしては捨ててはおけぬ、ということで、「異形列伝」特別編として、車大膳を紹介。
 一部、作品のネタバレが含まれますのでご注意下さい。

車大膳 (くるまだいぜん)【人名】
武魂絵巻陰流の剣を遣う怪剣士。総髪の着流し姿で顔色の悪い、顎の尖った男。福島正則の臣・車常陸介の子だが、長の浪人暮らしで荒みきった精神を持ち、自分を含めた全ての人間を蛆虫呼ばわりして見下す。普通の女性には興味を持たず、汚れを知らぬ美少女にのみ強烈に欲情する変質者で、物語のヒロイン・宇都美を執拗に付け狙う。各地で凶行を重ねた末に駿河に現れ、城から奪われた徳川忠長の寵姫・織姫を横取りして山中に潜み、心身ともに蹂躙。更に駿河城御前試合に乱入、月岡雪之介を斬るが主人公・五位鷺志津馬に敗れ逃走、追ってきた小村源之助を返り討ちにするが、片腕を失う。その後、山狩りにあって追いつめられ、志津馬の前で割腹して果てた。

 …というわけで、「駿河城御前試合」と同じ作者の「武魂絵巻」に登場の車大膳氏のプロフィールでした。
 ちなみに「異形列伝」は、このblogの親サイト「妖々日本史」の一コーナーで、こんな妙なことばかり書いてますので、興味とお時間のある方はどうぞ。


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武魂絵巻

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2005.10.10

白凰坊復活! 「修羅鏡 白凰坊伝綺帖」


 朝松健が久々にジュヴナイルを、それも朝日ソノラマで書いた一冊。この朝松健待望の新作は、伝奇時代ファンにとしても、そして朝松逆宇宙ファンとしても非常に感慨深い作品となりました。
 何と言ってもこの作品、「現在の」朝松健の伝奇時代小説であるとともに、実に「14年ぶりの」逆宇宙シリーズ最新刊、そして白凰坊復活の書なのですから。

 逆宇宙シリーズとは、1986年(約20年前か…)開始の「逆宇宙ハンターズ」全5巻、1990年開始の「逆宇宙レイザース」全6巻を中心とする伝奇ホラーアクションシリーズ。
 「逆宇宙」とは、一言で言えばこの世界(宇宙)を一つの「精神」として見た場合の「狂気」とも言うべき世界。物理法則に支配された現実世界の背後に存在する、あらゆる超自然現象や妖術魔術の源となる、混沌と狂気の世界であり、顕在的にせよ潜在的にせよ、朝松健の作品の中核に位置する概念と言えます。。
 そして白凰坊、またの名を神野十三郎は、逆宇宙の力に抗い、逆宇宙を招かんとする者を狩る者でありながら、決して正義の味方などではない、善悪を超えたいわばトリックスター。浅黒い肌に純白のスーツを纏い、手には倶利迦羅龍の短刀、常に人を小馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いを浮かべ、全ての権威権力に牙を剥くヒーローにしてアンチ・ヒーローであります。

 ある時は立川流の流れを汲む邪宗・苦止縷得宗と、またある時はアジアの黒社会を支配する妖術結社・晦幇と死闘を演じてきた白凰坊がスーツを白衣と変えて今回敵とするのは、あの織田信長。
 真の世界の覇者となるために奇怪な儀式を行い、「大魔主」と化した信長と配下の西洋魔術師・森蘭丸に、白凰坊が如何なる活躍を見せるか…というのが本作の趣向ということになります(と、現代が舞台のシリーズで活躍していたキャラが何で戦国時代に出てくるの、という点については、作品を実際にご覧下さい)。

 正直な話、信長を魔王――比喩ではなく、本当に魔力を備えた存在――として描いた作品は、今では珍しくはないのですが、今作での信長は、その誕生の過程もさることながら、存在自体が世界を変容させ、逆しまの世界――逆宇宙を招来させるという設定が秀逸。
 古今の宗教・神話・秘教的要素を混淆させ、新たな驚異・恐怖を生み出してみせるのは、作者の元より得意とするところですが、そこに世界変容の脅威を絡めてくる辺り、例えば「一休魔仏行」とも通底する中世神話的世界観・神話観も感じられて、興味深く感じられた次第です。

 などといいつつも、昔からの朝松ファンとしては、やはり白凰坊が、活躍する時代こそ違え、まんまのノリで復活してくれたのが本当に嬉しいところ。「この展開は…あの術が来るな」とか「ここはやっぱりこれだろう」というこちらの期待に悉く応えてくれるかのような白凰坊の活躍は、14年間のブランクなどは全く感じさせない千両役者ぶりでありました。
 そしてまた、十兵衛さんが、この世界でのあの人物役だったりと、往年のファン向けサービスも楽しい作品でした。


 約一名、えらく便利に使われたキャラがいたのは気になりましたが、それはまあ置いておくとして、ここ最近の朝松時代伝奇とはまた一味違った風味で楽しませてくれたこの作品。逆宇宙シリーズを読んでいた昔の読者の方には是非読んでいただきたいですし、逆に、この作品で初めて白凰坊を知った方には、是非逆宇宙シリーズ(特に「逆宇宙レイザース」)の方も読んでいただきたいな、と思います。

 そして何よりも、次の白凰坊の活躍は、あまり待たないでくれたら嬉しいな、と心より祈っている次第です。


「修羅鏡 白凰坊伝綺帖」(朝松健 ソノラマ文庫) Amazon bk1


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「一休魔仏行」

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2005.10.09

そして迎える大団円 「秘太刀馬の骨」第6回(最終回)

 感想が遅くなってしまいましたが、TVドラマ版「秘太刀馬の骨」もついに最終回。前回ラストで大怪我を負って半十郎の家に担ぎ込まれた銀次郎は、半十郎とともに、前回対決したばかりの北爪平九郎のもとへ。
 ここで銀次郎は叔父・小出帯刀の陰謀について平九郎と半十郎の前で語る銀次郎ですが、原作とは異なり、銀次郎には父から、いざとなれば帯刀を斬ってでも主君と家を守れと命じられていたという設定(銀次郎を主人公とする上では、なかなか面白いアレンジだと思います)。
 そして原作ではお互いを利用し、利用されるというドライな印象にあった銀次郎と平九郎の面談シーンですが、こちらでは前回の仕合を通じて心を通わすという描写があったためか、むしろ闘いを通じて理解し合った同士が共通の目的に向かって手を組むというニュアンスがあり、その後の矢野道場高弟衆が助っ人として味方につく展開も、むしろスムーズに受け入れることができました。

 その後色々あって(省略)帯刀の陰謀を知る証人の口封じを図る怪剣士・赤松と、謎の覆面剣士との死闘を目撃する銀次郎と半十郎。
 ここで赤松がフェンシング殺法を使うのがえれぇ不評のようですが、私はあーフェンシングなんだ…という感じで、もう慣れました。怪鳥音の後ですから。時代小説でもフェンシング殺法使い今までいましたしね。「髑髏菩薩」の主人公とか(マイナーすぎだ)。
 そんなことよりも、あれじゃ馬の首は斬れないだろ、的な秘太刀の方が気になりました。豪快すぎるそのフォームと、その直後の銀次郎と覆面剣士(の正体)の対峙シーンは、なかなかよかったと思いますが。
 さらにその後、「秘太刀など幻だ」と言い切り、藩の暗部を闇に返そうとするのが、あれだけ秘太刀に執着を見せた銀次郎であった、というのはなかなか深いものが感じ取れるうまいアレンジであったと思います。

 そして迎える大団円。原作とはまただいぶ変わった展開ではありますが、銀次郎を主人公として描かれてきたこのドラマ版のラストとしてみれば、きれいにまとまった、そして実に気持ちの良いシーンばかりであった、良いラストであったと思います。
 ハッピーエンドの連発という印象でありますが、その中でも、杉江が多喜に対し亡き者との心のつながりについて語りかける場面と、銀次郎と半十郎が「権力の魔」と言うべきものについて語る場面は、ドラマオリジナルながらも、しみじみとした味わいがあってなかなかの名場面であったと思う次第です。

 予想通り、と言っては失礼かもしれませんが、真面目な原作ファンの方からは不評だったようですが、原作を離れた――と言っては何なので、原作をベースとしたTV時代劇作品としてみれば、本作は実に面白い作品であったと思います(諸所に見られた珍演出はどうかと思いましたが、実はNHK時代劇ってそういうの結構好きだから、まあこれも伝統かも…)。
 何よりも、内野氏をはじめとする出演者の方々が、皆、個性的で、それでいて妙なリアリティを持つキャラクターたちを楽しそうに演じられていて、それだけでもとても楽しい作品であったことです。


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2005.10.08

陸奥三代と闘った男 「修羅の刻 雷電編」第3回

 さて、短期集中連載の「雷電編」も遂に最終回。前回の記事で、前回は起承転結の承と転か、と書きましたが、とんでもない、今回は転の連続、驚かされっぱなしでありました。

 雷電と対峙する葉月ですが、哀しいかな女の身では圧倒的に身体的パワーが足りず(まあ、なんだかんだ言って九十九もパワーファイター的側面あったからなあ)、実は陸奥を継ぐことができなかったことが判明。そして葉月の父・左近も実は病死していたと意外な展開となります。
 そして刻は流れ二十年後。既に力士を引退していた雷電の前に現れた葉月の傍らには、新たな陸奥――陸奥兵衛の姿が。それに対する雷電も、年齢を感じさせぬ凄まじいまでのグッドシェイプの肉体でがっぷり四つの大勝負と相成ります。

 この雷電vs兵衛の仕合シーンは、格闘描写の巧者たる作者ならではの格闘表現が縦横無尽に炸裂、雷電が一発の凄みをいやというほど見せつければ、若き陸奥・兵衛(他の陸奥とちょっと違う印象の顔立ちなのは、やはり…の血が入ったせいか)もまた一歩も引かずに修羅の修羅たる由縁を発揮して真っ向からぶつかるという、格闘漫画ファンとしてはたまらない展開でありました。
 今に始まったことではないですが、血や汗、筋肉といった描写を最小限に抑えつつも、迫力ある肉体と肉体のぶつかり合いを描くことができる川原先生の筆には感心します。

 そしてついに雷電と陸奥の永い永い闘いにも終わりがやってきます。そしてそれと同時に語られる、雷電が力士となった――闘いを続けてきた理由。これには唸らされました。
 詳しくは書けませんが、一種妄執すら感じられた雷電の闘いへの執着の原点が、あんなところにあったとは――と驚かされると共に、鬼神の如き力を持ちながらも、あくまでも優しい人間であった雷電の心映えというものがしみじみと伝わってきて、感動させられたことです。

 格闘アクションとしては言うに及ばず、人間ドラマとしても優れた作品だった今回の「修羅の刻」。三代の陸奥(正確には二代ですが)と闘うという、おそらく空前絶後の偉業を成し遂げた偉大な力人に心からの敬意を。


 …あと、この二ヶ月ずっと男じゃないかと疑ってた葉月さんには心からお詫びを。何故か前回の記事のラストで名前間違えてるし。
 そして雷電の奥さんは、今回も素敵にイイ女でありました。


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2005.10.07

戦力減のナイスアイディア 「今週のSAMURAI DEEPER KYO」

 消えゆく父・吹雪と対面した時人。初めは強がっていた彼女も、アキラに事実を告げられ、涙ながらに先代紅の王に父の助命を懇願するのだった。そんな時人を狂たちは暖かく迎え入れ、吹雪もまた娘を彼らに託すのだった。と、そこ現れた先代の攻撃から時人をかばい、吹雪は消滅。さらに先代の力は、ほたるら壬生一族の生命活動を一瞬で凍り付かせてしまう。非道な先代への怒りに燃える狂の前に、京四郎が立ち塞がる。

 なかなか面白いシーンが多かった今回。一体どのような行動に出るかと思われた時人は、「たった一人の父様なんだ。どうか助けてください!!」といきなり可愛らしくお願いし、それに対する吹雪も「罪人の父などお前には必要ない。聖人・村正の子として生きろ」と美しく応えるのでした。
 ああ、自分を悪と自覚していたからこそ、時人を村正の子にしていたのね…と一瞬思ったけども、そのおかげで周囲は迷惑を被りまくった気がするのでしょうがねえ親子だな、まったく。

 と、そんな泣かせが入る一方で、自分のために戦わない人形はただの人形、と、狂側の壬生の人間を戦闘不能にしてしまう先代。その力と冷酷さを強烈にアピールしつつ、増えすぎた狂側の戦力(狂・四聖天・紅虎・辰怜・遊庵と親父・あと幸村とサスケ)を一瞬のうちに半分近くに減らしてしまうナイスアイディアでありました。いや、真面目に感心しました。
 折角面白くなってきたんだから、狂vs京四郎なんてやってないで、他の連中にも出番を下さい。特に梵天丸とか梵天丸とか梵天丸とか。

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2005.10.06

仇討ちに生きた少年の貌 「田宮坊太郎」

 サルベージシリーズ。「魔界転生」でお馴染み(いきなり身も蓋もない表現ですが)田宮坊太郎の一代記を描いた講談です。
 田宮流小太刀の達人にして紀伊徳川家の重臣の血を引きながらも、数奇な運命の果てに讃岐丸亀で一家を構えることになった田宮源八郎が、遺恨から藩の剣術指南役・堀源太左衛門の卑劣な剣の前に斃れるまでが前半。後半は、父の死と同日に生まれた源八郎の一子・坊太郎(元服して後は小太郎)が、柳生飛騨守宗冬の下で腕を磨き、水戸頼房と徳川家光の肝煎りで首尾良く父の仇を討つというのが後半のお話となっています(途中、宗冬の剣術開眼や源太左衛門の前半生などが挿話として描かれます)。

 物語としては、仇の源太左衛門が(生き方の上でも腕前の上でも)あまりにも小物で、その点では仇討ちのカタルシスというものはあまりないのですが、むしろ仇討ちものであると同時に少年の成長譚として読むのがいいのかもしれません――まあ、講談の常として、登場人物の内面描写が今ひとつ(というかステロタイプ)なので成長譚というのは大袈裟かもしれませんが。

 しかしこの田宮坊太郎、ほとんど親の仇を討つために生まれてきたような存在であるのが、他の仇討ちものの主人公に比べて特異な点とも言えるでしょうか。講談なのでコミカルなタッチで描かれていますが、冷静に考えてみれば凄まじい話で、なるほど、山田風太郎先生はこの辺りに目を付けたのか、と変なところで感心してしまいました。

 田宮坊太郎という人物については、またいつか稿を改めて書きたいと思っています。


「田宮坊太郎」(講談名作文庫)

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2005.10.05

そして青春は終わる 「かくれさと苦界行」


 サルベージシリーズ。先日再読した「吉原御免状」の続編、吉原の惣名主となった松永誠一郎のその後を描いた物語です。
 前作ラストで宿敵・柳生義仙を退けた誠一郎は、実の父との対面も果たし、これで吉原も安泰――となったかに見えましたが、そこに柳生の守護神「お館さま」(正体は時代劇ファンお馴染みのあの人物)が出現、さらに復讐鬼と化して復活した義仙は、吉原に対し経済的にゆさぶりをかけるため、意外な作戦を展開します。かくて武力・経済力の二面から危機に陥る吉原と誠一郎の運命や如何に!? というのが今回の趣向であります。

 本作での誠一郎は、おしゃぶとも結ばれ、吉原の惣名主として活躍する姿で登場しますが、しかし良くも悪くも青い部分を残していた彼が、どのようにして青春時代を終え、大人として生きていくことになるのか、が主要なテーマの一つとして描かれています。
 誰でも必ず一度経験する青春時代の終焉。しかし誠一郎のそれは、あまりに衝撃的で残酷なもの。一歩間違えれば義仙のような外道へと堕ちかねぬその悲しみから彼を救ったのは、おしゃぶら周囲の人間のぬくもりであり、そしてまたそこからは、人間に対する作者の厳しくも優しい眼差しというものが感じ取れます。

 また、剣豪小説として見ても、伝奇ものとしても「お館さま」の存在はユニーク。○○○○○の生存説自体は珍しいものではありませんが、その「死」と生存に係る挿話がなかなか面白く、何よりもその魔人としか言い様のない存在感とは裏腹に、人間臭さを色濃く残した(何せ登場するなり誠一郎の元でしようとしたことが…)人物造形が面白くも、また切ないものとなっていて感じ入るものがありました。

 と、優れた点は数あれど、全体として見れば、前作には及ばずというのが正直な印象。上記に加え、酒井忠清の陰謀、様々な要素を詰め込みすぎて、物語の焦点が全体的に拡散してしまっている印象は否めません。
 前作が比較的短い期間の物語であったのに対し、今作では史実(結末で物語とリンクするそれには感心させられましたが)との兼ね合いからか、妙に長いスパンの物語となっている点もそれを強めている観があります。
 もちろん、それでもそこらの時代小説が束になってかかっても及ばぬほどの作品ではありますが…

 今となっては叶わぬ夢ですが、四部作を予定していたといわれる吉原と松永誠一郎の物語、その物語がこの後如何なる展開を迎え、誠一郎が如何に己の生を全うすることとなったのか――やはり見てみたかった、という気持ちは強くあります。


「かくれさと苦界行」(隆慶一郎 新潮文庫) Amazon bk1

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2005.10.04

もう一つの甲賀忍法帖として 「甲賀忍法帖・改」第2巻


 発売日に並んでいないなあ…と思っていたら発売日が変更になっていたらしい「甲賀忍法帖・改」の第2巻が発売になっていました。初めて読んだ時は、(もともと浅田寅ヲ氏の作風が得意でないこともあって)あまりポジティブでない印象でしたが、こうして第2巻を読んでみると、慣れたのかはたまた元々私の目が濁っていたのか(たぶん後者)、実に面白い作品に感じられました。

 キャラクターデザインや背景の独自性に比して、ストーリー展開的には忠実すぎるといってよいほど忠実に原作をトレースしているこの作品、この巻では、お胡夷が捕らわれるシーンから、弦之介の眼が封じられるまでが収録されています。

 最初はやはりどうしても違和感を感じてしまったキャラクターたちのコスチュームですが――見慣れてくると素直に格好良いですし、絵的にも印象的な場面が様々に散りばめられていたことにようやく気づいた私。
 特に好きなのは、弦之介の果たし状(この文章、原作の頃から大好きでした。「忍法死争の旅(たる)もまた快ならずや」というところなど特に)の文面をバックに、弦之介ら五人が荒野を旅していくシーン。荒涼とした昏い大地を、旅人とも、巡礼者とも取れるような姿の五人が行くシーンは、何ともいえず心に残りました。

 そしてまた、弦之介と朧が、花園の異形の薔薇に自分たちの姿を見るシーン、弦之介と豹馬の、見えぬ目に映る光を評しての会話など、原作にない(よな?)オリジナルの会話でありながら、違和感を感じさせぬ、巧みな台詞回しと情景描写も散見され、素直に感心いたしました。

 原作や他のメディアの作品と並び、もう一つの「甲賀忍法帖」として、この作品もまた、立派に成立していると言えると思った次第です。


 と、その一方でやっぱり油断できないこの作品。
 おそらくは風太郎忍者のビジュアライズにおいてトップクラスのインパクトを誇るであろう地虫十兵衛亡き今、そういう方向性はもう期待できないかと思いましたが、思いもよらぬ伏兵が登場です。陽炎という名の伏兵が。
 ビジュアル的にはボディスーツとマスクで身を覆い、その美貌が全く見えぬというデザインの彼女ですが、もうそんなのは小さい小さい。思いあまって弦之介を押し倒し、素晴らしい筋肉で「ビキッ ビキッ」という擬音と共に彼を押さえつけ、思いの丈を込めた毒の吐息を…あれ、吐息じゃなくて何か妙なものが弦之介の口に? 
 そして数ページ後に明かされるその正体。…俺、何か読み間違えた? と我が眼を疑いました。

 こりゃあ天膳との対決が楽しみですよ? この作品の陽炎さんには、もう一人の陽炎さんとして我が道を突き進んでいただきたいと思います。


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2005.10.03

バディものとしての馬の骨 「秘太刀馬の骨」第5話

 遂に全6話完結したTVドラマ版「秘太刀馬の骨」(原作本はこちら)、ビデオに撮っていてようやく見ることが出来たので、まずは第5回から。

 第5回「最後の一人」は、タイトル通り矢野道場の高弟最後の一人、北爪平九郎との対決。名家の出ながらも、家は兄が継ぎ、自分は次男坊として剣術で身を立てようとしていた矢先、兄が亡くなってやむなく家を継いだ平九郎は、明朗なようでいてどこか鬱屈したものを抱えた人物として描かれています。
 と、次男坊で剣術に没頭、明朗なようでいて鬱屈した人物と言えば、主人公たる銀次郎もまさに同様の人物でありました。。そんなわけで、銀次郎と平九郎との対決は、極端な言い方をすれば鏡像同士の戦いとも言えるもの。そんな二人の対決は、終わってみればノーサイド、仕合が終わった後の平九郎の表情が印象的でした。

 が、このまま爽やかなままで終わらないのがこの物語。秘太刀探しも落着(?)し、用済みとなった銀次郎は叔父である小出帯刀に狙われ、帯刀の子を連れた多喜と逃避行(それにしても内野聖陽は、また終盤に赤子を連れた女性を連れて逃げるのか…)。と、そこに現れたのは帯刀の配下の刺客・赤松織衛なのですがこれがまた絵に描いたような怪剣士! で素晴らしい。そして赤松にボロボロにされた銀次郎は半十郎の元に逃げ込みますが、半十郎もここで男気を見せる。
 と、ここでようやく「そうかこの作品、バディものとしても成立させることができたんだな…」と気づいた私。原作では結局厭な奴のまま消えてしまった銀次郎ですが、銀次郎が主人公であるこのドラマ版では、半十郎との絆が描かれていて、これはこれでお茶の間時代劇としては正しい姿かと思います。

 第6回の感想については、しばしお待ちを。

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2005.10.02

ユニークな存在感の雑誌に 「コミック戦国マガジン」第2号

 先日紹介したメディアファクトリー「コミック戦国マガジン」の第2号、前号に引き続き、なかなかユニークな執筆陣が揃っていて、決して少なくない時代劇コミック誌の中でもユニークな存在感を感じさせる一冊となっています。
以下、目についた作品を。

「俺たちの戦国」神崎将臣
 しばらく休筆していた作者の久々の新作。羽柴秀吉に憧れる小作人の子供たちが、秀吉に出会うも…というストーリーで、まあ、可もなく不可もなしという感じですが、絵に乱れがないのはなにより。短編の中でも様々な顔を見せる秀吉の表情が印象に残りました。

「満腹大名徳川。」(日高建男)
 ある意味今号最大の爆弾。「コミックバンチ」誌の「満腹ボクサー徳川。」のセルフパロディというか…いやこりゃ反則だろ、というほかないのですが、内容的には実に面白い。一見、天下を狙う気概もなくただの大飯喰らいに見えた家康が実は天下取りのための方策として、「健康」を己の武器にしようとしていた、という視点が見事で、単なるネタで終わらない内容でした。半身脱いで見せた家康の肉体描写も流石。

「戦、売ります! 雑賀孫市伝」島崎譲
 全二回の後編。ついに敵対することとなった孫市と藤吉郎ですが、孫市は何と藤吉郎の陣に忍んできて酒盛りを…という破天荒ぶり。一見ムチャクチャをやっているようでいながらも、限りある領地が戦の元であり、銭の力で富と平和をもたらそうと考える孫市の人物像が魅力的でありました。

「殿といっしょ」(大羽快)
 前回ほどのインパクトはなかったかもしれませんが、信長の鬼神のような対叡山戦略や、すっかり今川氏真に洗脳された太原雪斎のキャラクターが面白すぎ。

「新 鬼武者 TWILIGHT OF DESIRE」(矢口岳)
 連載第二回の今回は、天海のパートナー・阿倫(出雲の阿国)と傀儡師舞いの美女・雛菊が魔殿と化した聚楽第に潜入する展開。雛菊が細川ガラシアの元侍女ということで、天海・ガラシアと登場人物に明智関係者が増えてきたのはニヤリとさせられますが、驚いたのは秀次の懐刀として前野景定が登場したこと。秀次の謀反に連座して自刃した実在の人物ですが、ガラシアの娘婿だったという史実を物語に絡めてきたのには感心しました。


 と、いうわけで、今号もなかなか面白い雑誌になっており、満足。第3号は9月15日発売、連載陣に加えて、怒濤の戦国ギャグまつりと題して、ほりのぶゆきや安田弘之の作品が掲載されるようです。
 しかし表紙はあくまで「信長」でないといかんのかなあ…


「コミック戦国マガジン」第2号(コミックフラッパー10月号増刊 メディアファクトリー)


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2005.10.01

消えゆく命と受け継がれる魂 「今週のSAMURAI DEEPER KYO」

 吹雪より早く立ち上がった狂。狂は、紅の王なぞそんな小さなことにこだわっていられるか、オレはオレの求める最強を目指すと言い放つ。そして、狂になおも向けられる吹雪の太刀を止める辰怜。他の者たちを踏みにじらなくとも壬生一族は生きていけると辰怜は訴え、ほたるたちもそれぞれの言葉で未来を語る。その言葉を耳にした吹雪は、辰怜の刀で自らを貫く。最後は自らの命を持って悪行を清算するつもりであった吹雪。吹雪もまた、道こそ違え、壬生一族の未来を考えて行動していたのだった。と、そこに時人たちが現れる――

 ついに吹雪もまた塵に帰る時がやってきました。ひしぎに続き、「死ぬ間際にイイ奴になってんじゃねえ」的展開ではありますが、その魂を受け継ぐ者として辰怜を対比することにより、そんなひねくれた見方をしてしまう人間にとっても読み応えのある内容となっておりました。
 正直、辰怜は力でもって吹雪を超える(もちろんその上で和解する)のだろうと、ずっと考えておりましたが、このような形で吹雪と和解し、その心を知ることになるとは、少々意外であったと共に、こういうやり方もあるかと感心させられました。
 そして、自決に等しい形で吹雪が辰怜の刃を受けた後に、水舞台で舞う辰怜の姿や、少年時代の辰怜の「なりとう存じます。吹雪様のような一族を愛する真の侍に」という台詞が描かれるイメージシーンはもう反則級。

 と、これで丸く収まるかと思いきや、もう一人吹雪と因縁――それも特大の――を持つ時人が登場。さて、時人と吹雪の間にどのようなドラマが生まれるのか、作者の腕前に期待します。

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