仇討ちに生きた少年の貌 「田宮坊太郎」
サルベージシリーズ。「魔界転生」でお馴染み(いきなり身も蓋もない表現ですが)田宮坊太郎の一代記を描いた講談です。
田宮流小太刀の達人にして紀伊徳川家の重臣の血を引きながらも、数奇な運命の果てに讃岐丸亀で一家を構えることになった田宮源八郎が、遺恨から藩の剣術指南役・堀源太左衛門の卑劣な剣の前に斃れるまでが前半。後半は、父の死と同日に生まれた源八郎の一子・坊太郎(元服して後は小太郎)が、柳生飛騨守宗冬の下で腕を磨き、水戸頼房と徳川家光の肝煎りで首尾良く父の仇を討つというのが後半のお話となっています(途中、宗冬の剣術開眼や源太左衛門の前半生などが挿話として描かれます)。
物語としては、仇の源太左衛門が(生き方の上でも腕前の上でも)あまりにも小物で、その点では仇討ちのカタルシスというものはあまりないのですが、むしろ仇討ちものであると同時に少年の成長譚として読むのがいいのかもしれません――まあ、講談の常として、登場人物の内面描写が今ひとつ(というかステロタイプ)なので成長譚というのは大袈裟かもしれませんが。
しかしこの田宮坊太郎、ほとんど親の仇を討つために生まれてきたような存在であるのが、他の仇討ちものの主人公に比べて特異な点とも言えるでしょうか。講談なのでコミカルなタッチで描かれていますが、冷静に考えてみれば凄まじい話で、なるほど、山田風太郎先生はこの辺りに目を付けたのか、と変なところで感心してしまいました。
田宮坊太郎という人物については、またいつか稿を改めて書きたいと思っています。
「田宮坊太郎」(講談名作文庫)
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