孤独な豪剣の血闘行 「秘剣雪割り 悪松・棄郷編」
文庫書き下ろし時代小説界の鉄人、佐伯泰英先生のシリーズの一つ。中間の子・一松改め大安寺一松弾正が無頼の剣を振るう剣豪バイオレンス・アクションです。
同じく中間であった一松の父は、賭場での諍いで死亡、一松も面倒を嫌った主家に依頼された定廻り同心に罪を着せられて江戸所払いに。放浪の果て、箱根山中で世を捨てた薩摩示現流の達人と出会った一松は、三年間の修行の果てに十尺の樹をも両断する秘剣雪割りに開眼、大安寺一松弾正と名を改め、江戸に戻って糊口を凌ぎ、同時に武士に復讐するため道場破りを始める――というのが基本設定となっています。
物語のストーリーとしてはむしろシンプルな展開、全体の1/3程度で上記が語られ、その後は、自分をはめた同心とその手下に対する一松の復讐行と、お家流である示現流で江戸を騒がす一松を倒すため集結した薩摩剣士団との死闘が描かれますが、次々と描かれる決闘の描写が面白く、だれることなく一気に最後まで読むことができました。特に、ラストの示現流剣士二十三人との富士見坂一本松での死闘は、大血闘の名にふさわしい壮絶な内容でありました。
が…主人公である一松のキャラクターにはどうにも感情移入ができない、というのが正直なところ。世間、特に自分たちを見下してきた武士への復讐心と、飽くなき闘争本能のみで動くかに見える、一松の夢も希望もない生き方に共感できないのは、私がお人好しすぎるからでしょうか。
遊女の娘を持った老尼や、天真爛漫な心を持つ遊女との出会いが、一松を変えていくのか、いかないのか。この先の展開が気になります。
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