そして青春は終わる 「かくれさと苦界行」
サルベージシリーズ。先日再読した「吉原御免状」の続編、吉原の惣名主となった松永誠一郎のその後を描いた物語です。
前作ラストで宿敵・柳生義仙を退けた誠一郎は、実の父との対面も果たし、これで吉原も安泰――となったかに見えましたが、そこに柳生の守護神「お館さま」(正体は時代劇ファンお馴染みのあの人物)が出現、さらに復讐鬼と化して復活した義仙は、吉原に対し経済的にゆさぶりをかけるため、意外な作戦を展開します。かくて武力・経済力の二面から危機に陥る吉原と誠一郎の運命や如何に!? というのが今回の趣向であります。
本作での誠一郎は、おしゃぶとも結ばれ、吉原の惣名主として活躍する姿で登場しますが、しかし良くも悪くも青い部分を残していた彼が、どのようにして青春時代を終え、大人として生きていくことになるのか、が主要なテーマの一つとして描かれています。
誰でも必ず一度経験する青春時代の終焉。しかし誠一郎のそれは、あまりに衝撃的で残酷なもの。一歩間違えれば義仙のような外道へと堕ちかねぬその悲しみから彼を救ったのは、おしゃぶら周囲の人間のぬくもりであり、そしてまたそこからは、人間に対する作者の厳しくも優しい眼差しというものが感じ取れます。
また、剣豪小説として見ても、伝奇ものとしても「お館さま」の存在はユニーク。○○○○○の生存説自体は珍しいものではありませんが、その「死」と生存に係る挿話がなかなか面白く、何よりもその魔人としか言い様のない存在感とは裏腹に、人間臭さを色濃く残した(何せ登場するなり誠一郎の元でしようとしたことが…)人物造形が面白くも、また切ないものとなっていて感じ入るものがありました。
と、優れた点は数あれど、全体として見れば、前作には及ばずというのが正直な印象。上記に加え、酒井忠清の陰謀、様々な要素を詰め込みすぎて、物語の焦点が全体的に拡散してしまっている印象は否めません。
前作が比較的短い期間の物語であったのに対し、今作では史実(結末で物語とリンクするそれには感心させられましたが)との兼ね合いからか、妙に長いスパンの物語となっている点もそれを強めている観があります。
もちろん、それでもそこらの時代小説が束になってかかっても及ばぬほどの作品ではありますが…
今となっては叶わぬ夢ですが、四部作を予定していたといわれる吉原と松永誠一郎の物語、その物語がこの後如何なる展開を迎え、誠一郎が如何に己の生を全うすることとなったのか――やはり見てみたかった、という気持ちは強くあります。
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