「妖かし斬り 四十郎化け物始末」 心に闇、人が化け物
最近は人情ものの方に力を入れているかのように感じられる風野先生ですが、新作は、一風変わった用心棒もの。
浪人剣士が糊口をしのぐために雇われた先で事件に巻き込まれて…というのは用心棒もの・○○稼業ものの定番パターンですが、この作品が異彩を放つのは、タイトルにある通り、化け物専門の始末屋稼業という点であります。
と書くと、何だかもの凄く伝奇テイストバリバリのアクションものを想像してしまいますが、そういう方向には行かないのが面白いところ。
何せ、主人公からして何とも言えない味わいが漂う人物造形です。剣の腕はひとかどのものですが、使う技はフェイント主体のちょっとセコい剣、三匹のからすを常に連れているためにからす四十郎と渾名されていますが、要はいつも烏に執念深くつきまとわれているという状態。
家庭の方を見れば、書物マニアの妻は病弱で薬代がかさみ、蘭学医志望の息子は長崎留学のために学費がかかり、嫁に出した娘は先の家との折り合いが心配…と、読者であるお父さん方には心当たりありまくるんじゃないか、という強烈なまでにペーソス漂う主人公であります。
そんな四十郎が、ある日辻占から死相が現れていると告げられ、半ば自棄になって始めたのが、普通の仕事よりも実入りの良い化け物退治、というのが本作の基本設定となっています。
人並み(以上)に怖がりの彼がおっかなびっくりに対峙する事件の数々は、しかし真相を知ってみれば、化け物よりも始末に悪く、恐ろしくももの悲しい人間の心の諸相の現れ。四十郎が毎回のように口ずさむ「心に闇、人が化け物」という言葉が、――なまじ彼がスーパーヒーローでないだけに――一層実感をもって迫ってきます。
そうした「化け物」退治の一方で、変死を遂げた友人から預かった謎の書状を巡るサスペンスもあり、連作短編集でありながらも、一本筋の通った本作。
ラストで書状の謎も解け(ここで登場する人物に思わずニヤリ)、辻占の理由もわかるのですが、まだまだ四十郎さんには、ブツブツ言いながらも人の世の「化け物」退治にいそしんでいただきたいものです。
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