「公家侍秘録」第5巻 時を越えて守り継がれるもの
貧乏公家・日野西家の公家侍にして代々の刀守・天野守武を主人公とした短編連作シリーズの最新刊。今回は、日野西家出入りの薬種問屋に着せられた濡れ衣のため守武が奔走する「身中の虫」、守武の友で表具師の斎之介が繕いを依頼された屏風が事件を招く「因果の屏風」、根付けの黒染めの技法を巡る職人の意地を描く「打ち出の小槌」、そして楽人の家の美女に一目惚れした守武が後継と名器を巡る争いに巻き込まれる「選ばれし楽人」の全四エピソード六話が収められています。
既にシリーズとして作品世界が完全に確立しているだけに、今回も安心して読むことができた本作。好男子・守武に、相変わらずがめつくて騒々しい姫様・薫子、そして妙に所帯じみた日野西の殿様と、主役トリオの賑やかさや暖かさも変わらず、前巻の発行からそれなりに時間が経っているはずなのにそれを感じさせないのは、流石かと思います。
そしてまた…時間を経ながらもその時の流れを感じさせないものと言えば、この巻のほとんどのエピソードで――そして本作全体を通して――描かれる、京の文化・伝統・芸術がまさにそれ。
人の世のうつろいに揉まれながらも、変わらず在り続けるそれらの事物は、しかし、単にそれ自身で存在しているわけではなく、それを慈しみ、愛し、守り継ぐ人々がいればこそ。もちろん、守武もその一人でありますが、そうした時を越えて守り継がれるものと守り継ぐ者の美しい結びつきが、本作の魅力の一つかと思います。
ちなみに本作は、比較的馴染みの薄い京の公家の世界の姿を、確かな考証と共に描いており、その点から見ても第一級の面白さ。普段漫画は読まないよ、という時代劇ファンの方にも、ぜひ一度触れていただきたい良作であります。
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