« 2005年11月 | トップページ | 2006年1月 »

2005.12.31

偕成社版「南総里見八犬伝」

 八犬伝特集の第三回は、偕成社の児童向け「南総里見八犬伝」。児童向けの八犬伝は多数出版されており、またそれを全てチェックしているわけでは当然(?)ないのですが、しかしこの偕成社版は、児童向け八犬伝の中でも相当レベルが高いのではないかと感じているところです。

 この偕成社版、長大な原作の物語をうまくダイジェストして、全四巻に収めています。それぞれの巻の内容は、
第一巻:伏姫の死から信乃の物語、芳流閣の決闘まで
第二巻:小文吾の登場から荘助奪還、道節の上杉定正襲撃と五犬士集結まで
第三巻:毛野の仇討ちから庚申山の化け猫退治、浜路姫の登場と船虫の最期まで
第四巻:蟇田素藤と親兵衛の対決、関東連合軍対里見軍の決戦、結末まで
という構成。さすがに原作後半(素藤と親兵衛の対決以降)は相当ダイジェストされており(親兵衛の京行きのエピソードなどは丸々オミットされていますが、これはまあ、大人向けも含め、リライト版でダイジェストしていない方が皆無なので仕方のないところでしょう)ますが、総体として、物語自体の面白さを殺すことなく、巧みにまとめてみせたナイスなリライトだと言えます。

 そのほか、この八犬伝では、八犬士のキャラクターがより個性的に描かれているのが目に付くところで、例えば弁が立って目立ちたがりの道節、遊び人でさばけた人柄の小文吾、四角四面で合戦中に相手を説教してしまう大角(こうやって書くと悪ノリしているようですが…)などなど、キャラクターをはっきり立てる方向のモディファイが楽しく感じられました。

 また、本書ならではのすごいリライトがなされているのは船虫の扱いで、(ここから先はネタバレになりますが)管領側に捕らわれた荘助と小文吾を救うために五犬士が死闘を繰り広げる中に飛び込み、管領軍を向こうに回して刀を振るっての奮闘(まあ、荘助と小文吾を殺しに行ったら乱闘に巻き込まれたわけですが)。阿修羅の如く大立ち回りを演じた果てに壮絶な斬り死にを遂げ、その死によって一切を水に流した大角をはじめとする七犬士に看取られるという、おそらく船虫史上に残る破格の扱いの最期でありました。
 さすがに児童向けで牛に突き殺されるのはないだろうと思っていましたが、ここまで大暴れしてくれるとは思いませんでした(一応、取り憑いていた玉梓が怨霊のせい、という説明ですが)。原作ファンはしかめっ面をするかもしれませんが、正直、こういうアレンジは個人的には大好きです。

 さて、もう一つ本書で忘れてはならないのは、その美麗なイラストでしょう。イラストを担当しているのは、平成の伊藤彦造とも言うべき山本タカト氏。山田風太郎作品から官能小説まで、さまざまな小説のカバー・挿絵等でお馴染みの氏ですが、ここでもその絢爛妖美なタッチは健在で、元々物語に歌舞伎的な色彩の強い八犬伝の世界には、まさにうってつけと言えましょう。
 各巻表紙を飾る八犬士たちも、目元など何とも悩ましいいずれ劣らぬ美少年ぶりで、表紙だけ見ていると絶対児童向けとは思えない色気と迫力。もちろん挿絵も多数収録されており、山本タカト氏のファンならずとも必見と言えます。

 色々と話題が拡散してしまいましたが、児童向けということで子供にだけ独占させておくのはあまりに惜しい本書。内容自体の充実ぶりといい、イラストの見事さといい、大人の読者が読んでも絶対楽しめる本だと断言できます(そうそう、第四巻の巻末には、登場人物事典が収録されているのも嬉しいところであります)。ハードカバーなのでちょっとお高いですが、見かけたら手に取ってみてもまず損はないと思う次第です。


「南総里見八犬伝」全4巻(浜たかや編著 偕成社) 
1「妖刀村雨丸」 Amazon bk1/2「五犬士走る」 Amazon bk1/3「妖婦三人」 Amazon bk1/4「八百比丘尼」 Amazon bk1
南総里見八犬伝〈第1の物語〉妖刀村雨丸南総里見八犬伝〈2〉五犬士走る南総里見八犬伝〈3〉妖婦三人南総里見八犬伝〈4〉八百比丘尼


関連記事
 「八犬伝」リスト

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2005.12.30

「手習十兵衛 梵鐘」 趣向を凝らした四つの物語


 「手習重兵衛」シリーズ第二弾は、短編四本から成る外伝的エピソード集。二巻目で外伝というのもかなり意表を突いていますが、レギュラー三人+新登場一人をそれぞれ主人公とした構成の本書は、キャラ立ちがしっかりしている作品だけに、むしろ作品世界を広げる形になっているのが面白いところです。

 第一話「捜し屋」は、第一巻で名前のみ登場した腕利きの人捜し屋・紋兵衛が主人公。火事場から行方知れずとなった少女捜しを依頼された紋兵衛ですが、その裏には…ということで、二段構えのひねりの効かせ方がうまいエピソードでした。
 この紋兵衛もなかなか面白いのですが、それ以上に面白いのが紋兵衛の居候の鷹蔵のキャラクター。派手な小袖に無精髭とスネ毛、しかしハンサムで似顔絵と料理の腕前は超一流という怪キャラクターで、共に訳ありらしい紋兵衛・鷹蔵コンビはなかなか面白く、これからもシリーズにはちょくちょく顔を出してもらいたいものです。

 第二話「花見」は、愛すべきぐうたら同心・惣三郎が主人公。例によって仕事をさぼって花見に繰り出した惣三郎と中間の善吉が目撃した仇討ち。しかし仇として討たれた男が「誰に頼まれた」と叫んだことから、事件は奇怪な色彩を帯び始めます。ミステリ色が強めな作品なので詳しくは述べませんが、事件の陰にあった人間心理の奇怪さが印象的な作品でした。

 第三話「女幽霊」は、重兵衛の親友の好漢・左馬助をメインに、惣三郎・重兵衛も加わって展開する物語。謎の敵に執拗に付け狙われる左馬助と、重兵衛の住む白金村の神社に現れる女幽霊の謎が、意外なところで絡み合うのが面白い一編。ちょっと左馬助が狙われた真相に無理がないかな? という気がしないでもないですが…

 そしてラストは表題作の「梵鐘」。行方不明になった教え子を捜す重兵衛の物語と、ゆすりたかり暴行何でもありのとある外道の物語が交互に展開するという一風変わった構成ですが、その構成自体が一種のトリックとでもいうべき凝った作品となっています。
 注意深い方であれば、途中でこの物語のトリックも読めてくるのではないかと思いますが、結末で明かされる重い真実は、何とも粛然とさせられるものがありました。
 ただ一点残念なのは、子供が行方不明になるというネタが、本書第一話と、前作でも使われていること。それぞれに趣向が凝らされているとはいえ、さすがに三回もネタに使われるとちょっと食傷気味かな…という気がしないでもありません。

 何はともあれ、全四話それぞれに趣向がこらされた短編で十分に楽しめたのは事実。次の巻からはいよいよ本筋、重兵衛自身の物語が展開されるようなので、こちらも楽しみです。


「手習重兵衛 梵鐘」(鈴木英治 中公文庫) Amazon bk1


関連記事
 「手習重兵衛 闇討ち斬」 謎の剣士は熱血先生?
 「手習重兵衛 暁闇」 夜明け前が一番暗い?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.29

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 当代紅の王登場! しかし…

 遂に地に伏した京四郎。その時、サスケの持つ紫微垣が、一同に京四郎の過去の記憶を見せる。…かつて、紅十字の守護士として先代紅の王の命ずるままに粛正を行っていた京四郎。紅の王の間の禁断の扉を開こうとしていた侵入者に刃を向ける京四郎だが、その相手は当代紅の王、そして京四郎と同じく守護士の一人だった。先代に逆らい村正に刀を打たせた咎で王の地位を剥奪された当代を、京四郎は何の躊躇いもなく朔夜の眼前で斬る。が、彼の目からは、何故か涙が流れるのだった。

 前回の感想であまり盛り上がらないと書きましたが、回想シーンとはいえ突然の(?)当代紅の王の登場に俄然面白くなってきた今回。…まあ、当代は速攻で死んでしまう訳なのですが、それでも
・先代ってことは当代がいるはずなのに何故出てこない?
・そもそも当代って誰? どんな人?
・村正に刀を打たせたのは誰?
・四守護士の残りってどんな人?
という疑問に一気に答えてしまったのはなかなか凄い話。
 村正の性格からして、いくら先代に反感を抱いたとしても紅の王をヌッ殺すための武器を自分だけの考えで作るとは考えにくいと思っていましたが、こういうことだったのですね。…四本の村正が禁断の扉を開く鍵になっているのはよくわからないですが、それはまあこれからのお楽しみなのでしょう。
 先代が生粋の壬生一族ではない京四郎を新しい紅の王に据えようとしていたのにもちょっと違和感があったのですが、昔っからこんなことしていたんですなあ。
 四守護士も、故人とはいえもう一人いるはずですが、十勇士もちゃんと全員出してきた作者のこと、何らかの形で登場する気がしてきました。

 しかし当代が狂(京四郎の躯に入っている時の)に結構似た面差しで、初め見たときは「もしかして当代が狂の父なのか!?」と思って、当代が守護士とわかってから「何で狂と守護士が似てるんだ?」と思いましたが、今までの狂は京四郎の躯だったわけで、その京四郎と当代は兄弟だからして顔が似ているのはまあ当然(?)なんですな。…ややこしい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.28

「新八犬伝」(小説版)

 八犬伝特集の第二弾は、NHK人形劇のノベライゼーションである「新八犬伝」。同名の人形劇は、世代的に観ることができず、非常に残念に思っていたのですが、本書は脚本を手がけた石山透先生自らノベライズしており、内容も人形劇にほぼ忠実ということで、こうして読むことが出来て誠に有り難いことです。

 この「新八犬伝」、全三巻の上巻までは比較的原作(「南総里見八犬伝」)に忠実ですが、中巻あたりから暴走開始。
 嵐で漂流した信乃が辿り着いた先は、王位簒奪を狙うミズチの化身が暗躍する琉球だった…って「椿説弓張月」か! しかし、「水滸伝」の影響を受けた「南総里見八犬伝」と、「水滸後伝」の影響を受けた「椿説弓張月」は、存外親和性が高いのか、これはこれで案外楽しかったり。
 そのほか、雷様の奥さん(雲の絶間姫!)に頼まれて額蔵が雲に乗ったり、見る者の精気を奪う呪われた妖珠や「痴」の玉を持つ偽犬士が登場したりと、派手で楽しい大活劇が続きます(原作との異同はこちらが非常に詳細に分析されています。さすがは八犬伝最強のサイト)。

 その他、目につくのは、玉梓と役行者の出番の多さ。原作ではかなり出番の少ない玉梓、そしてそれ以上に登場シーンの少ない役行者の二者が、ここでは悪と善、それぞれの後見とも導き手とも言うべき立場で何度も登場、奇跡や怪異を連発することになります。
 これは原作よりも一層ファンタジー性が増していることによるのでしょうが、その後の八犬伝リライトで玉梓が邪悪の化身として大活躍(?)しているのを見ると、それはどうもこの人形劇版が影響しているのでは、と思えるフシがあって、興味深いところです。
(リアルタイム世代だったうちの姉なんて、いまだに「我こそは玉梓が怨霊ゥゥゥ~」って真似してくれるものなあ…)

 さて、こうして紹介しておいてなんなのですが、本書は既に絶版というのが悲しいところであります。しかし、元フィルム自体が存在しない人形劇に比べれば遙かにましな状況、興味をお持ちの方は、ぜひ古本屋を当たってみていただきたいと思う次第。


「新八犬伝」全3巻(石山透 日本放送出版協会) bk1


関連記事
 「八犬伝」リスト

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.12.27

「神変麝香猫」 古き良き伝奇時代小説の名品


 吉川英治先生というと、どうしても「宮本武蔵」「新・平家物語」「私本太平記」などの大作が浮かびますが、デビュー当初は伝奇エンターテイメントの妙手であったことは紛れもない事実。そこで吉川先生の伝奇ものというと「鳴門秘帖」「神州天馬侠」あたりがまず浮かぶのですが、もちろんそれ以外にも面白い作品はたくさんあって、この「神変麝香猫」はまずその筆頭と言ってよいかと思います。

 時代設定は島原の乱の直後、天草四郎を討った男・陣佐左衛門(実在の人物)に近づく妖しげな美女・お林。彼女がただ者でないと見破ったのは、柳生兵庫助の一子・夢想小天治ですが、あにはからんや、佐左衛門は無惨な生首に。
 そしてそれは切支丹の残党・麝香猫のお林の復讐の幕開け。次々と怪事件を引き起こし、江戸城の抜け道の秘密を記した黒縄巻を狙うお林一党に立ち向かう夢想小天治、松平伊豆守らですが、幕府転覆を狙う由井正雪一門までが黒縄巻争奪戦に加わり、三つ巴の大乱戦に…というお話。

 侠気に溢れた正義の剣士、跳梁する怪人たちの一団、秘宝を巡る争奪戦…と、時代伝奇のお手本のような本作ですが、目を引くのは、何と言っても、ヒロインが敵の首魁という麝香猫のお林のキャラクター。
 時として冷酷な顔を見せることもありますが、お林本人とその配下は、単なるテロリストではなく、幕府によりいわれなき弾圧を受けた、一面から見れば悲劇の人々という設定がある意味現代的で、単なる憎むべき敵としていない点がさすが吉川先生、という感があります。

 もっとも、小天治とお林のロミオとジュリエット的ロオマンスが、ラストになってほとんど唐突に現れるのが残念なところで、その辺りをもう少し前面に出せば、また違った印象の作品になったのではないかな…という印象はありますが、それでも本作が古き良き伝奇時代小説の名品であるのは間違いのないところ。
 冒頭に書いたように少々(だいぶ?)マイナーなのが残念なこの作品、機会があれば是非手にとっていただきたいところです。

 あ、大事なことを忘れていました。時代伝奇データベース「異形列伝」本作の人物・用語を掲載しています。ネタバレも含んでいますが、ご覧いただけると嬉しいです。


「神変麝香猫」全2巻(吉川英治 講談社吉川英治文庫) Amazon bk1

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005.12.26

山田風太郎「八犬伝」


 新年にはTBSで「里見八犬伝」がTVドラマ化されるということで、手元にある八犬伝関係の書籍を不定期に採り上げていくことにしました。
 さて、その特集の第一弾は、山田風太郎による八犬伝記と言うべき「八犬伝」。わざわざ「八犬伝記」などという呼び名を使ったのは、この作品が滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」のリライトに留まらず、同時に馬琴が「南総里見八犬伝」を悪戦苦闘しつつ執筆する様を描き出しているからに他なりません。

 本書の構成は、八犬伝の構想を馬琴が語る形で描かれる八犬伝ダイジェスト「虚の世界」、そして八犬伝を執筆する馬琴とその周囲の人々の姿を描いた「実の世界」の、二つが交互に描かれる形となっています。
 正直なことを言えば、学生時代に本書に初めて触れた時、最初のうちは「虚の世界」だけでいいのに…と思いました。事実、ダイジェストとはいえ、山風流の美文で描かれる八犬伝の世界は実に面白く、この部分だけでも八犬伝の一流のリライトとして存在していると言えるのですから。
 しかし、「実の世界」も合わせて読み進めていくと、こちらも実に面白いのです。何せこちらで扱っている時代は、江戸の文化の爛熟期とも言える化政文化の真っ盛り。現代にまで名を残す文人画人が綺羅星のごとく群れ集っていた時代です。
 その文化人たちと馬琴の交流の様は、馬琴自体が実に波瀾万丈な人生を送っている様もあって、それ自体が一つの伝奇小説のような味わいがある、と言っても過言ではないでしょう。

 そして平行して進行する虚実二つの世界が、終盤に向けて溶け合っていき、遂には奇跡的な執筆状況の下で堂々完結の日を迎える様には、不思議な感動を覚えました。
 いささか変化球ではありますが、不世出の伝奇小説と、不世出の小説家の伝記――八犬伝の物語そのものと、その成立過程を同時に知ることが出来る本書。八犬伝には初めて触れる、という方にもおすすめできます。


 と、もう一つ忘れてはいけないのが、本作の新聞連載時を毎回華麗に飾った宮田雅之先生の切り絵。残念ながら単行本には収録されていませんが、白と黒をメインにしたわずか数色で、八犬伝と化政文化の芳醇な世界を描き出して見せたその様は、まさに光と影の魔術と言えます。
 八犬士をはじめとする登場人物たちも、こちらのイメージ通りの、あるいはそれを超えるクオリティで描き出されており、特に八犬士最年少の犬江親兵衛については、山田風太郎先生も絶賛したほど。
 この切り絵を全て収録した別冊太陽の「宮田雅之の切り絵八犬伝 宮田雅之追悼記念号」は、現在入手がちょっと困難となっているようですが、一見の価値あり、です。


「八犬伝」全2巻(山田風太郎 朝日文庫ほか) 上巻 Amazon bk1/下巻 Amazon bk1

「別冊太陽 宮田雅之の切り絵八犬伝 宮田雅之追悼記念号」(平凡社) Amazon


関連記事
 「八犬伝」リスト

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.25

「手習重兵衛 闇討ち斬」 謎の剣士は熱血先生?


 先日紹介した「読んで悔いなし!平成時代小説」で採り上げられているのを見て以来気になっていたこのシリーズ、ようやく第一巻を読むことが出来ましたが、なるほど、実に面白く気持ちのよい時代活劇ミステリーでありました。

 主人公はちと訳ありで国元を出奔してきた青年・興津重兵衛。放浪の果てに行き倒れた彼は、白金村で手習所を営む男・宗太夫に拾われ、そのまま居候になりますが、ある日その宗太夫が何者かに襲われ、背中から一突きに殺されるという事件が起きます。それと時を前後して、さる藩の目付・鳴瀬左馬助は国元から父殺しの犯人を追って江戸に到着。師匠殺しの犯人を追う重兵衛と、父殺しの犯人を追う左馬助、二人の追う事件は意外な交錯を見せ、事件の背後にある真実を浮かび上がらせる…というのが本作のあらすじ。

 さて、本作の魅力・面白さについて考えたとき、第一に浮かぶのは主人公・重兵衛をはじめとするキャラクター造形のうまさでしょう。
 何と言ってもこの重兵衛、「好漢」という言葉がこれほど似合う男もない、というほどの気持ちのいい青年。心優しく折り目正しく、爽やかな美青年でもちろん剣の腕も立つ。もちろん、これだけいい点ばかり揃ったキャラクターはややもすればいやみになりかねませんし、何よりも時代小説には珍しくもないのですが、ここで良いスパイスとなっているのが、手習所の子供たちとの交流。師匠の突然の死で、半ば本意でない形で手習所を継ぐ形となった重兵衛ですが、ここでも彼はその好青年ぶりを発揮、やんちゃ盛りの子供たちと熱血先生、という趣で、子供たちとの授業風景が微笑ましくも心温まるものがあります。
 そしてまた、脇を固めるキャラクターも面白い。本作のもう一人の主人公とも言うべき左馬助もまた、重兵衛に負けず劣らずの好漢。剣の恩師父娘との交流というサブストーリーも微笑ましく、特にラスト近くでの師匠からの粋な餞別には思わずニヤリとさせられました。
そしてもう一人、重兵衛・左馬助と一種のトリオを組むのが、酒に目がない同心の河上惣三郎。宗太夫殺しの事件をきっかけに、二人と知り合うこの同心は、やる気はないは大口は叩くは昼酒は飲むはとかなりダメ人間ですが、それでも憎めないおかしさのある名コメディリリーフといったところでしょうか。

 こうした登場人物のやりとりを見ているだけでも楽しい本作ですが、しかしもちろんキャラの魅力だけに頼った作品ではありません。鈴木作品の二本柱である「ミステリ」と「剣戟」は本作でも健在です。
 前者については、ミステリメインの作品ではないものの「そうくるか!」的ひねりを効かせた謎の配置の仕方がいつもの事ながら面白く、重兵衛の事件と左馬助の事件の意外な関わり、そして遣い手でありながら背後から一突きで殺してのける(まさに「闇討ち斬」)謎の敵の正体など、よいアクセントとなって最後まで楽しむことができました。
 その一方で、主人公である重兵衛自身のキャラクターもまだ謎めいているのが興味をそそるところ。国元で濡れ衣を着せられ、追われるうちに親友を殺めてしまったという過去を持つ重兵衛ですが、その過去にもまだまだ謎と秘密が隠されている様子で、これは今後の楽しみということでしょう。
 また、剣戟についても、回数はさほど多くないものの、要所要所で緊迫感ある剣戟が描かれ、チャンバラファンとしても十分楽しむことができました。特に、ラストの左馬助・重兵衛vs謎の刺客の死闘は、上記の通り敵の正体にも一ひねりあって、満足できました。

 このシリーズ、全六巻ということでまだまだ物語は始まったばかり。この巻で描かれた「闇討ち斬」の事件については、きちんと解決しますが、まだまだ重兵衛自身の謎は未解決。これから先、どのような謎と剣戟が描かれるのか、残りを読むのが楽しみです。


「手習重兵衛 闇討ち斬」(鈴木英治 中公文庫) Amazon bk1


関連記事
 「手習十兵衛 梵鐘」 趣向を凝らした四つの物語
 「手習重兵衛 暁闇」 夜明け前が一番暗い?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.24

「コミック戦国マガジン」第3号 ギャグの布陣が強烈無比

 「コミック戦国マガジン」第3号が発売されました。今回は表紙が「新 鬼武者 DAWN OF DREAMS」で、パッと見、ゲーム雑誌と間違えそうですが、ターゲットにしている層を考えれば、それもまあアリなのかもしれず…というのは言い過ぎかな。
 しかし今回もなかなか充実のラインナップで楽しむことができました。
 以下、印象に残った作品を。

「天使の恩寵 細川ガラシャ物語」島崎譲
 関ヶ原の戦の際に自害せんとした細川ガラシャが、死を目前として忠臣に語る少女時代の思い出を描いた作品。正直なところ、オチは途中で読めるのですが、島崎氏の絵柄が少女漫画チックなストーリーと相まって悪くない味わいでした。

戦国ギャグの陣!!
 ギャグ漫画家七人による短編ギャグ集なのですが…その顔ぶれが凄い↓
ほりのぶゆき/風間やんわり/安田弘之/川島よしお石黒正数/末弘/丘咲賢作
何というか、作者名を見ているだけで唖然とするような面子ですが(特に丘咲賢作)、どの作品も、皆自分の持ち味を存分に発揮した作品揃い。
 その中でも特に面白かったのは、時代劇と特撮というお得意ネタで攻めてきたほりのぶゆき「恐竜城光芒記」、信長をアレするだけで「信長公記」が大変なことになってしまった川島よしお「マドモアゼル信長」、そして一方的に坂本竜馬をライバル視する長宗我部家の迷走ぶりと史上稀に見るイヤな戦いとなった長篠の戦などを描いた丘咲賢作「スーパー武将列伝 天下布ぶ」でしょうか。
 それにしても、どの作品でも信長のキャラは大体近しいものがあるのですが、家康のキャラは各人で全く違っていて、意外な驚きがありましたよ(特に末弘氏の家康はヤバすぎる)。

「新 鬼武者 TWILIGHT OF DESIRE」(矢口岳)
 今回で最終回。全体を通してみれば可もなく不可もなく、そつなくまとめた作品という印象ですがクライマックスで明かされる幻魔化した豊臣秀次の心中は、なかなか皮肉な味わいが効いていて感心しました。
 何故鬼武者になれるのかなど、天海にまつわる謎については作中では明かされないのですが、それはゲームをプレイしてね、ということで、まあ仕方のないことなのでしょう。

「西地立雲」ゆづか正成
 第1号で好短編「乱風半蔵」を描いていたゆづか氏の作品。名将立花宗茂(とはまたシブいところを…)の少年時代を描いた作品で、少年の成長ものとしてはかなりベタな路線ではあるのですが、一本気な主人公とちょっとひねくれたヒロインのキャラクター造形が面白く、微笑ましくも爽やかな読後感がある作品となっておりました。

 というところで今回もなかなか面白かった「コミック戦国マガジン」ですが、ここで一区切りということか、次号はリニューアルして来年発売予定ということで、次号予告ページはなし。連載途中の作品はあるし、大丈夫だとは思いますが、少しでも早い復活を期待します。


「コミック戦国マガジン」第3号(コミックフラッパー2月号増刊 メディアファクトリー)


関連記事
 いざ、出陣! 「コミック戦国マガジン」第1号
 ユニークな存在感の雑誌に 「コミック戦国マガジン」第2号

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.23

「陰陽師 瀧夜叉姫」 晴明が晴明で、博雅が博雅である限り


 夢枕獏先生の「陰陽師」シリーズの新作は、上下二巻から成る大長編。あとがきで劇場版への言及もなされていますが、これまでの短編連作がTVシリーズだとすれば、この作品は劇場版映画、とでもいうべきでしょうか。
 登場人物も、晴明と博雅のコンビは当然として、賀茂保憲や芦屋道満といったシリーズの準レギュラーも登場、さらには俵藤太をはじめとして浄蔵、小野好古など、当代の実在の人物たちが次々と登場し、豪華な顔ぶれとなっています。

 さて、本作の特長は、史実との関連性。特に最近は、あまり背景年代を明確にせず、史実からある程度の距離を置いて描かれていたこのシリーズですが、今回は舞台となる年代が明示されており、また上記の通り、歴史上の人物たちが重要な役割を持って多数登場しているところです。
 これらは全て、今回の物語が、過去のある事件の因縁をひきずっていることによるもの。その、ある事件が何かは、タイトルからバレバレではあるのですが、過去と現在が複雑に絡み合う物語展開からすれば、下敷きとなっている事件がわかったところで、全く面白さが減じるということにはなりません。むしろ、あの事件の背後にこんな事情が!? と、余計に楽しめるのではないかとすら思います。

 そしてもう一つの本作の特長は、邪悪の存在。どうしようもない業から災いをなすもの、ある種自然現象というべき怪異は登場しても、悪のための悪、心の底からの悪人というものが基本的に登場しないのがこのシリーズでした。
 が、本作では己自身の目的のため、友を、家族を、他者を犠牲にして顧みず、残忍卑劣な陰謀を巡らす全ての黒幕、まさに「邪悪」と言うべき存在が登場します。

 が、その「邪悪」に対して、正義の味方・晴明が対決しておしまい、になるわけもなく、またそれでは凡百の陰陽師ものになってしまうのも事実。
 そこで――本書のクライマックスにおいて、その「邪悪」に対して、真っ向から人としての在り方を胸を張って語るのが源博雅。登場人物が多い今回は、ちょっと埋没しがちなところもあるのですが、最後の最後で「これぞ博雅!」と喝采したくなってしまうようなイイ言葉を語ってくれます。
 そしてそれが、その「邪悪」の本質というものを逆説的に浮き彫りにし、「邪悪」の中に存在する哀しみ・哀れさを描き出す結果となるのですから、やはり博雅は自分では決して気づかないにせよ、特別な存在なのでしょう。

 そして、長い物語を読み終えて受けるのは、いつもの「陰陽師」と同じ――もちろん良い意味で――読後感。人であろうと鬼であろうと、善なるものであろうと邪悪であろうと、この世に生まれ、生き、死んでいく存在すべてへの静かな、そして優しい眼差しがそこにはあります。
 物語が豪華に派手になろうとも、史実に密着した展開になろうとも、邪悪の塊が登場しようとも――晴明が晴明である限り、博雅が博雅である限り、この「陰陽師」という物語の軸は全く揺るぎなく在り続けるのでしょう。
 いつまでもこの心地よい空間が在り続けますように。


 そして最後に台無しの腐った話。今回の晴明と博雅の会話もすごかったですなあ…特に下巻冒頭の牛車内での会話。
 例えば牛車を牽いてる下人か何かがこの会話を耳にしたら、その場にいたたまれなくなること請け合いのものすごいアツアツっぷりでしたよ。


「陰陽師 瀧夜叉姫」全2巻(夢枕獏 文芸春秋) 上巻 Amazon bk1/下巻 Amazon bk1


関連記事
 全ては一つの命 「陰陽師 瘤取り晴明」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.22

「鬼の橋」 孤独と悩みの橋の向こうに


 小野篁の少年時代を描いた児童文学の良作。先日紹介した「読んで悔いなし!平成時代小説」で採り上げられているのを見て気になっていたのですが、なるほど、大人が読んでも(大人が読むほど?)面白い佳品でありました。
 小野篁といえば、六道珍皇寺から冥界に下り、昼は帝、夜は閻魔に仕えたという不可思議な伝説を持つ人物ですが、この作品で描かれる篁は、元服――即ち大人の仲間入り――を間近に控えた不安定な年頃の、ごくごく普通の少年として描かれます。そう、この作品はファンタジーの姿を借りた、小野篁という少年の成長物語なのです。

 自分の不注意がもとで、妹が六道珍皇寺の井戸に落ちて死んでしまったことを悔やみ続ける篁は、その井戸から冥府に続く橋に迷い込みます。そこで鬼に襲われた彼を救ったのは、死してなお、都の人々を護るさだめを負わされた大将軍・坂上田村麻呂。からくも現世に戻った篁は、ある日、非天丸という人間離れした大男に出会いますが、人間離れしたのも道理、彼はあまりの非道故に田村麻呂将軍に角を折られた鬼でありました。
 篁、非天丸、そして父が工事人足をしていた橋を守ることに執着する少女・阿子那の三人が、この物語のメインキャラクターとなります。

 この三人に共通するのは、それそれ大きな孤独と悩みを抱えているということ。篁は、妹の死に対する罪悪感と、元服を間近に控えた不安感を抱え、阿子那は親と死別し、天涯孤独の身の上。そして非天丸は、鬼にも戻れず人にもなれず、それでも襲い来る人食いの欲求を必死に耐えることになります。
 いや、孤独と悩みを抱えるのはこの三人には限りません。例えば、鬼も敵わぬ坂上田村麻呂からして、現世の肉体を失いながらも、なお冥府に行くことが敵わず、ただ現世と冥府の境を守り続ける定めを負わされた存在。例えかつての友人が亡くなり、冥府に行くことになっても、自身は友の背中を見送ることしかできないのです。
 この作品は、そんな孤独と悩みを抱えた者たちが、傷つきながらも寄り添い、お互いの隙間を埋めていく物語と言えるかもしれません。

 が、その一方で、単に寄り添って孤独から逃れるだけでなく、寄り添うことで自分以外の他者の存在を知り、尊重することによって心の強さを手に入れていく様が、しみじみと、味わい深く描かれているのが本書。
 一時は己の生に倦み疲れ、生命を投げ出そうとすらした篁が、阿子那や非天丸と触れ合ううちに、自分の中の小さな勇気と、自分なりにできることを見つけ、自分の生きる意味を見出していく姿には、素直に声援を送りたくなります。
 そしてラスト近く、篁が反目していた父に告げたある選択…それは決して派手なものでも英雄的なものでもない、人間がごく普通に生きているうちにぶつかるようなものではあるのですが、しかしそれだけに大きな一歩であり、篁が子供から大人への橋を渡ったことを示す、実に感動的なシーンでありました(油断してたら涙腺がだいぶ緩みましたよ)。

 篁と同年代の、思春期の子供(…というには少し抵抗あるな)はもちろんのこと、その年代なりの孤独感や悩みを抱えた大人の方々が読んでも間違いなく感動できる、良作と言えましょう。


「鬼の橋」(伊藤遊 福音館書店) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.21

「父子十手捕物日記」シリーズ キャラの魅力が心地よい良作


 伝奇ものではないのですが、最近読んだ中でも出色の面白さを持つ同心もの、現在のところ四巻まで発売されている人気シリーズです。

 主人公は駆け出しの同心・御牧文之介。父・丈右衛門はかつて名同心と謳われた存在ですが、文之介自身は美味い物と可愛い女の子に目がないお調子者、しかも近所の悪餓鬼たちからはタメに思われてしょちゅうからかわれているという、ちょっと締まらない人物で、幼なじみで忠実な中間である勇七はいつも頭を抱えている有様です。が、一方でそれは明るく、親しみやすい人物であることの裏返し。
 犯罪の犠牲者のために心から涙を流し、心ならずも犯罪に手を染める子供たちの身を真剣に案じる、そんな青臭くも気持ちのよい好漢です。
 そんな文之介が、様々な難事件に立ち向かいながら少しずつ成長していくというのがこのシリーズ。偉大な父にコンプレックスを感じつつも、自分にできるやり方で少しずつ成長していこうとする文之介の姿は、微笑ましくも、読んでいるこちらも勇気づけられるものがあります。

 剣豪ミステリを得意とする鈴木先生にしては謎解き要素は薄め、剣戟シーンもさほど多くはないこのシリーズですが、鈴木作品のもう一つの特長であるキャラ立てのうまさは健在。
 主人公の文之介はもちろんとして、頼もしい相棒の勇七も、苦み走ったいい男でありながら、女性の趣味は…という愉快なキャラ、さらに普段はひたすら文之介に忠実に仕えながらも、彼がいじけたり、曲がった言動を見せた際には上下の別を忘れて遠慮無くぶちのめす(各巻に一回は出てくるお約束シーン)という熱い人物で実に楽しい。
 頭脳の冴えは未だ衰えずの丈右衛門も、ある事件がきっかけで知り合った美しい寡婦によろめきまくりという可笑しさもあり、また丈之介とは互いに惹かれ合いながらも素直になれないヒロイン・お春、そして丈之介を一途に慕いながらもビジュアル的な理由(ヒント:外谷さん並み)から避けられまくるお克と、レギュラーは、どこか漫画チックながらも明るく親しみの持てるキャラクターばかりなのが嬉しくも心地よく感じられることです。
 特におかしいのはお克さん回りの人間関係。丈之介にアタックをかけまくるお克さんですが、丈之介にはその気は全くなし、しかし勇七はそのお克にメロメロで…という、当事者たちにとっては悲劇、読んでいるこちらにとっては喜劇という、フクザツな関係の描写が、お約束ながら何とも楽しいのです。

 最新刊の「蒼い月」では、そのお克さんがありえない大変身を遂げたりして、この先もますますややこしく、面白いことになりそうなこのシリーズ。肩の凝らない娯楽読み物の良作として、この先も末永く続いて欲しいな、と思う次第です。


「蒼い月 父子十手捕物日記」(鈴木英治 徳間文庫) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.20

鎧武者、歩く(膝を伸ばして)

新型2足歩行ロボット・キヨモリ
 また微妙に遅れたニュースサイトモードですよ。時代伝奇とは関係ないですが、あまりのインパクトに紹介します。武者型2足歩行ロボット・キヨモリ。

 …久々にあまりの怖さにサイト見ながら涙目になりました。どう見てもホラーものに出てくる一人でに歩き出す鎧武者です。「クロックタワーゴーストヘッド」で自分ちの二階の廊下で襲いかかってくるヤツとか。
 なぜ眼を光らせる!? それも赤く! 夜道や閉鎖されたビルの中で出会ったら発狂すると思います。

 また、このサイト、ムービーを見るまでに何ページも前フリを見せられることになって、その間に恐怖感がじわりじわりと増してくるところ、なかなか素晴らしいサイト構成だと感心しました…というのはさすがに過剰反応ですが、プレスリリースの世界初!宗像大社でロボットが安全祈願!!というのも良い具合にハジケていて素敵です。
 冷静に見れば、歩行ロボットのガワを鎧にしただけ、という気もしますが…

 そしてこのロボット、開発はどちらかと思ったら「D-LIVE!!」でも大活躍したレスキューロボ・援竜を開発したテムザック社でありました。
 色々と茶化して書いてしまいましたが、技術の素晴らしさ(さすがにロボット技術の老舗・早稲田大学の高西研究所と組んでいるだけはあります)だけでなく、こういう形で外部にインパクトを与えて、ジャンルを活性化させていこうという姿勢は大好きです。いや本当に、ロボットが神社参拝というのは見事なアイディアだな、と素直に感心している次第です。

 …でもやっぱりなぜキヨモリ。テムザック社が北九州だからなのかしら。さりげなく使われている「ロボット文明」という単語も気になります。やっぱり人間文明を駆逐して…いやいやいや

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「異形列伝」、wikiになりました。

 以前よりうちの本サイトの方で公開していた伝奇時代データベース「異形列伝」をwiki形式にしました。右サイドバーの「うちのサイト」からも行けます。
 内容的には以前から公開しているものからほとんど変更なしですが、更新しやすくなった分だけ、更新頻度を上げていきたいなあ…と思っている次第です(wikiはページ間リンクを張りやすいのがいいですね)。まだまだデータ量は増やしたいですしね。
 無料のサービスを使っているので結構重たい時もありますが、良かったら一度覗いてみて下さい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.19

2006年1月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュール

 2006年1月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールを更新しました。右のサイドバーからも見ることができます。

 さて、新年早々で何ですが、伝奇時代アイテム的にはどうにも寂しいのがこの月。特に寂しいのは小説とコミックで、前者は牧秀彦先生の新刊が2冊発売になること、後者は「修羅の刻」の最新巻、雷電篇が収録されるであろう第15巻が発売されることが目につくくらいでしょうか。

 一方、これまでの時期ほどではないにせよ、なかなか楽しみなラインナップなのがゲームソフト。SNKの二大時代格闘対戦ゲーム、「サムライスピリッツ」「月華の剣士」の二本が同じ月に発売されるというのは、昔からのファンにとってはなかなか嬉しい話。
 また、「鬼武者」シリーズの最新作「新 鬼武者 DAWN OF DREAMS」も発売。発売三日前には、ゲームのビフォアストーリーであるコミック「新 鬼武者 TWILIGHT OF DESIRE」も発売になります。

 なお、映像ソフトの方では「劇場版 仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼」のDVDソフトが発売。上映タイミング的につまらんゴタゴタがあってちょっと可哀想だった作品ですので、これを機に良くも悪くも冷静な評価がされることを期待します。私もまだ観ていないので楽しみです(ディレクターズカット版が出そうなので、買うかどうかは微妙ですが…)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.18

「魔界武芸帖サムライスピリッツ」 シリーズファンにとっては面白い作品


 ムック一つ満足に出版されない今では何だか想像しがたいことですが、一時期の「サムライスピリッツ」関連の出版物はバブルと評してもいいくらいの分量で、コミカライズも結構な種類が出ていたものでした。今日とりあげるこの作品も、その一つ。十年以上前に週刊少年サンデー増刊号(増刊と言いつつ毎月発行されていた、いわば月刊少年サンデー。「スプリガン」や「鬼切丸」を連載していた雑誌…だったかな)で短期集中連載された作品です。

 作画は週刊少年サンデーで昔「デビデビ」などを連載していた三好雄己氏(最近お見かけしませんが…)、原作は「8マンインフィニティ」や「闇のイージス」、そして私の大好きな「ARMS」「D-LIVE!!」などの原作を担当されている七月鏡一氏ということで、それなりに力のある方が担当しているためか、ゲームの漫画化にどうしてもつきまとう一種の違和感(技を出すたびにいちいち技名を叫ぶとか。まあ、ゲームの漫画化でなくてもこれはあるわけですが)や短期連載により駆け足な点はあるにせよ、なかなか面白い作品になっています。

 物語としては、ゲーム一作目のビフォアストーリー(というのがラスト近くにわかる)で、覇王丸・ナコルル・服部半蔵・シャルロットの面子が、アンブロジァ復活を目論む魔人たちに戦いを挑むというもの。
 面白いのは、この作品のオリジナルキャラクターとして、ゲームでは幻庵の家族以外登場していない(よな?)不知火一族の面々や、その不知火党を束ねる魔人・不知火魔道、実は復活した由比正雪などが登場するところで、オリジナルながら元ゲームの世界観に沿ったキャラクターに仕上がっていて、シリーズの外伝としてシリーズファンにとっては面白い作品になっていると思います(逆に、シリーズを知らない方が読むと、主人公側のキャラ描写が薄いように思われるでしょうが…)

 というわけで部屋を片づけていたら出てきた「サムライスピリッツ」ものを紹介シリーズ第二弾(第一弾はこちら)。「サムライスピリッツ」ものはあと何作かあるので、またそのうち書きます。


 ちなみに、色々と調べていたら、七月鏡一氏はデビュー直後に「陰陽剣士」なる、伝奇時代コミックの原作を執筆されていたとか。どちらかというと現代を舞台にしたアクションものの印象が強い氏ですが、時代伝奇への志向もお持ちであったとは、興味深いことです。
 残念ながらこの作品は現在に至るまで漫画化されていないようですが、いつか完成した作品を読んでみたい…という気持ちは強く感じます。


「魔界武芸帖サムライスピリッツ」(三好雄己&七月鏡一 少年サンデーコミックススペシャル) Amazon


関連記事
 「SAMURAI SPIRITS」 石川賢+サムライスピリッツ=?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.17

「蘭学剣法 影町奉行所疾風組」 敵は天保の妖怪


 天保時代を舞台とした必殺(というよりこの場合は「影同心」かな。敵味方逆ですが)的味わいのシリーズ第一弾。江戸町第三の奉行所・影町奉行所の中でも法で裁けぬ悪を討つ疾風組の活躍を描いた作品。本作「蘭学剣法」は、タイトル通り蘭学にまつわる悪の蠢動を描いた作品。天保で蘭学といえば、そう、教科書にも出ている蛮社の獄が連想されるかと思いますが、その蛮社の獄を背景に、巨悪と影町奉行所の戦いが描かれます。

 第一作目ということもあってか、主人公となるのは影町奉行所とは(当初)無関係の旗本の三男坊・一条理一郎。蘭学を志す彼と、その恋人で生来青い目を持つ大廻船問屋の娘・お蝶が参加したのは、かの渡辺崋山や高野長英がメンバーとなっていた尚歯会。身分を問わず、蘭学に興味を持つ人々が集まった研究会・同好会というべき尚歯会ですが、そこに弾圧を加えるのが、史実通り天保の妖怪・鳥居耀蔵であります。

 この時代の時代小説で悪の権力者といったらこの人、という感がある鳥居耀蔵ですが、この作品での耀蔵は、己の信奉する朱子学の理想に凝り固まった一種の偏執狂的人物。その彼が、自身が理想とする国家を生み出すための更なる権力として目を付けたのが、江戸の影を統べる影町奉行所というわけで、第一作目からいきなり影町奉行所は存亡の危機に瀕することになります。
 そして、さらに己の力を増すため鳥居が組んだ相手は、陰で悪事を働き放題の廻船問屋。その廻船問屋が乗っ取りを企んだのが、お蝶の実家という展開で、仲間を、師を、親兄弟を失った主人公カップルが、いかに影町奉行所と共に悪と戦うか? というのが本書のストーリーとなります。

 一口に言ってしまえば、必殺ものとしては少しだけ変化球かな、という印象のこの作品。蛮社の獄という史実と絡めることにより、物語の設定・展開にそれなりの厚みが出ていると言えますが、その一方で、許せぬ悪を成敗するはずのチームが最初からその悪に狙いをつけられるのは、物語の爽快感という点からはマイナスかな、と正直なところ思います。
 また、これは冒頭でヒロインを襲う運命が、物語の展開上一応必要とはいえあまりに悪趣味なもので、その点でもあまりスカッとしないものが個人的にはありました。

 とはいえ、まだまだシリーズは開幕編。つい先頃シリーズ第二弾「虹の職人」も刊行されたことですし、天保の妖怪という敵にするには不足のない存在を向こうに回して、如何に影町奉行所の面々が自分たちの正義を貫いていくか、気になるところではあります。


「蘭学剣法 影町奉行所疾風組」(中里融司 廣済堂文庫) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.16

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 そして最後に立つ者

 狂の放った黄金色の神風は、迎え撃つ京四郎の青龍・玄武を砕き京四郎を襲う。共に満身創痍となりながらも戦い続ける二人のKYO。先代紅の王の封印を砕き、先代を斃すことができるのは真の壬生一族のみ。京四郎は狂にそのための力をつけさせるため、敢えて敵に回っていたのだ。そしてついに決着の時が訪れ、立っていたのは鬼眼の狂の躯――しかしその魂は京四郎ではなく、狂に戻っていた…?

 先週以上に感想が書きづらい、というか、あまりにも京四郎の真意が予想通りでなんというか、もう。この漫画の連中、素直になれなさすぎですわ…心の内バレバレなのに。

 とりあえず京四郎もまだ息はあるようなので、遺言でこれまでの京四郎絡みの伏線解消はできるでしょう。

 しかし、これから最終決戦というのにさほど高揚感が感じられないのはマズイのでは…これから化けるの、か?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.15

今日はゲームとアニメで小ネタ二つ

PS2版「サムライスピリッツ 天下一剣客伝」追加キャラ判明

 小ネタその一。
 家庭用追加スピリッツの【魔】【獣】【祭】は以前から公表されていましたが、家庭用追加キャラが発表されていたのはこれが初めて…かな?
 家庭用追加キャラは、追加キャラ7人+EXキャラ(通常の同キャラとは性能が異なるキャラ)4人の計11人。うーん、EXキャラ込みで11人か…ちょっと残念。
 そしてその内容は、

追加キャラ:
羅刹ガルフォード/キム・ウンチェ/パピー/シクルゥ&ママハハ/チャンプル/パクパク/黒子

EXキャラ:
EX徳川慶寅/EX劉雲飛/EX妖怪腐れ外道/EX真鏡名ミナ

 羅刹ガルフォードはパピー抜きのガル、キム・ウンチェは髪のある花諷院骸羅ですな。黒子は、おお懐かしい、スクリーンショットを見た限りでは「真サムライスピリッツ」の頃の鬼キャラのようで…って、あの時はジェノサイドカッターは使ってなかったか。重ね当ても?
 動物勢はパピー以外は単独初参戦なので、何がどうなるか想像もつきません。特にチャンプル。超必で怪物化するんでしょうか、やっぱり。


深夜アニメで古典怪談「怪~ayakashi~」

 その二。フジテレビ等で、1月から深夜枠で「四谷怪談」「天守物語」「化猫」の全三作をアニメ化するとのこと。
 全何話かは不明ですが、一作四話×3というパターンかな?(「天守物語」がそんなに長くかかるか、という気はしますが)

 「四谷怪談」は天野喜孝氏がキャラクター原案というクレジットですが、気になるのは脚本の小中千昭氏。ここしばらく、作家性を出し過ぎて評価は今ひとつな氏ですが、お得意のホラーということで張り切りすぎなければよいのですが…とはなはだ失礼な心配を。
 「天守物語」については、制作元の東映アニメーションのプレスリリースに「「東京ラブストーリー」の演出として有名な永山耕三氏」が演出、という売り文句があるのが逆に不安を煽ります。監督とアニメ監督が分かれてるって大丈夫なのかしらん。
 結局一番安心して見れそうなのは横手美智子氏(って言っていいのだろうか、この方々の場合)が脚本の「化猫」かもしれません。確たる原作がない分だけ、自由に演出できそうでもありますしね。

 このシリーズ、関東では1月12日(木)より毎週24:35(初回は24:50)からの放送とのことです。とりあえずビデオ撮りますか。

 …にしても「ハチミツとクローバー」「パラダイスキス」と来て怪談ものってどういうコンボなんでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.12.14

「海賊奉行」 武芸者、南支那海に翔る


 実は武芸者の小伝のようなものを読むのが昔から好きで、時間があればちょいちょいと拾い読みしているのですが、「気になる武芸者」というのが何人かいます。いずれも万人が知っているような存在ではないですが、その事績や言動、遺した流派がユニークであったりする人物が特に気になるのですが、そのうちの一人が小笠原玄信斎、すなわち本書「海賊奉行」の主人公です。

 小笠原玄信斎は、高天神城主の小笠原家の血縁と伝えられ、奥山休賀斎に神影流を学び、また後に中国大陸に渡り、そこで張良の末孫を名乗る人物から戈の術を学び、それを剣法に応用した「八寸の延金」という術を編み出したという人物。
 正統な剣法を修めつつも、中国武術を採り入れて更なる技を編み出すというところが面白く感じられて、印象に残っていたのですが、さてその玄信斎をこの作品ではどのように描いているかと言えば…

 この作品は、関ヶ原の戦直後の時代が舞台。己の武術に倦み、山に一人隠っていた玄信斎が、長崎奉行である叔父に呼び出されるところから始まります。その叔父から、長崎で明の海賊が跳梁していること、さらに関ヶ原の西軍の残党がフィリピン・マニラに渡り、そこで再起を目論んでいることを告げられた玄信斎は、海賊奉行なる役目を押しつけられて、長崎、そして遥か南支那海にまで旅立つことになる、というお話。

 個人としては優れた力を持った人物が、お偉いさんにいいように使われて東奔西走するというのは、「御隠居忍法」にも見られる高橋義夫先生お得意のパターンと言えなくもないですが、この作品では、それ以上に、己の命を的にしながらも、まだ見ぬ武術、まだ見ぬ強敵に心躍らせてしまう玄信斎の武芸者としての本能が描かれることで、そうした受動的立場を超えた玄信斎の主体性が見えるのが、エンターテイメントとして安心できます。

 とはいえ、難しいことは抜きにして、玄信斎の波瀾万丈の大冒険に手に汗握るのが本書の正しい楽しみ方。本書の後記で作者自らが、海洋冒険活劇小説を企てたと述べているように、時代小説では珍しい…とは言わぬまでもさほど多いわけでもない海洋冒険ものとして、素直に楽しむのが良いのでしょう。


 と、これからは半可通の感想ですが、唯一本書で残念だったのは、冒頭に書いた「八寸の延金」開眼まで辿り着かなかったこと。ものの本によれば、玄信斎が大陸に渡り、かの術に開眼したのは大坂の陣後とのことですので、あるいは続編の構想があるのかもしれません。


「海賊奉行」(高橋義夫 文春文庫) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.13

今週の「Y十M」 命の長槍 朱柄の橋

 今週の「Y十M」は、十兵衛・お鳥vs平賀孫兵衛・具足丈之進の変則タッグマッチ(?)。一人でも厄介な七本槍だというのに、もう一人・孫兵衛が登場、しかも孫兵衛は以前般若侠に軽くあしらわれたことを根に持っている、いわば因縁の再戦といったところであります。

 それにしても…長いですね、孫兵衛の朱柄の長槍。原作によれば孫兵衛の槍の長さは三間。一間が約約1.818メートルですから、その三倍で約5.45メートルということになります。
 これは長柄と呼ばれて実際に戦場で使われていた槍の長さであって、孫兵衛の槍が特別に長すぎるというわけではありませんが、このタイプの槍は通常、戦場で一面に並べていわゆる槍衾を作って使用するもの。孫兵衛のようにブンブン振り回し、ましてや東慶寺で見せたように何人もの犠牲者を串刺しにして宙に放るなどと言うのはまさしく魔人の業としか言いようがありません。

 それはさておき、伸ばした槍の穂先が堀を挟んだ向こうの塀を擦りながら般若侠に向かって疾走するという、馬鹿馬鹿しいくらい格好良いアクションで迫る孫兵衛ですが、般若侠相手にいたぶりにかかるという致命的な失策を犯したのがケチのつきはじめ。丈之進の犬・地丸との連係攻撃で駕籠の一つを貫いたのもつかの間、般若侠の膝に槍を押さえつけられ、動きを封じ込められてしまいます。
 そしてそこでお鳥さんの出番、これも特訓の一つ、竹の橋渡りの成果を生かして槍の上を駆け抜け(この時、走りざまに十兵衛が差し出した刀を抜いていく描写が見事!)、素晴らしく気合いの入った表情で孫兵衛に肉薄しますが…
 孫兵衛は己の槍を途中で切り落とすという意外の挙に出たところで以下次号。

 実はこの後、お鳥さんの口から素晴らしく格好良い名言が飛び出すので、今週そこまで読めるかな、と期待しましたが、お楽しみはもう少し先まで取っておきましょう。
 って、次回は年明け!? 長い、先は長すぎるよ…


 ちなみに今回、孫兵衛の槍術描写を再チェックするために単行本第1巻を読み返したんですが、第4話で千姫様が七本槍の秘術について語るシーンでの一眼房のポーズがかなり笑撃的なのに気づいて一人爆笑しました。これからの一眼房の一挙手一投足に釘付けになりそうです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.12

「SUN-山田浅右衛門-」 心優しき斬首人の物語


 四代山田浅右衛門吉寛を主人公とした少女漫画(!)であります。
 はじめ本屋さんで本のタイトルを見たときには、失礼ながら何かの間違いかと思ってしまいましたが、手に取ってみればなかなかに味わい深い佳品でありました。

 山田浅右衛門と言えば、時代小説・時代劇にもしばしばとりあげられる有名人。徳川将軍家の刀の様斬を務めた浪人(なんですよ。時々誤解されますが)であり、町方の依頼で罪人の首斬りも行ったため、「首斬り浅右衛門」という異名を奉られた方(々)です。
 浅右衛門の名は代々受け継がれ、冒頭に書いたように本作の主人公は四代目吉寛でありますが、しかしまだうら若き美青年である彼は、罪人や刑死体を斬るという「家業」に激しい心の痛みを感じ、人を斬る度に咳き込み、血を吐いてしまう一種の神経症を患っている状態。
 そんな彼が、どのように生き、どのように自分の運命と向き合っていくのかというドラマを、彼を取り巻く人々との交流を描いたのが本作であります。

 基本設定が重い分、登場するレギュラーキャラには面白い人物が多く、
・三代浅右衛門の門弟で吉寛の兄代わりである鉄次(この人はちょっと重いキャラ)
・彼を一途に慕う元気な茶店の娘・おしず
・様斬の縁で彼とは幼なじみ状態、暇さえあれば彼のもとに押しかけてくる若き日の徳川家治(ってあなた)
・生真面目で使命感に燃える医師だが血に弱い杉田玄白
・自分の化粧品の効果を実証するために吉原で花魁に化けたり、吉寛を家業から解放したい一心でギロチンもどきを発明したりある意味最強キャラの平賀源内
などなど、個性的なキャラクターが次々と登場します。

 もちろん、主人公の家業が家業だけに重たいエピソードも多いのですが(何せ第一話からして、吉寛に恋する不幸な境遇の少女が、彼に会いたい一心で火付けをして…という救いのなさ)、常に生と死というものに接する位置にあった彼の生き様を描くことは、そのまま江戸に生き、死ぬ人々の生き様を描くことでもあり、暗さ、苦しさと同時に、暖かさ、力強さ――それこそ太陽のように――があるように感じられます。

 そんな中の個人的なベストエピソードは、将軍家重とその子であり次期将軍たる家治の物語「君萬歳」。
 普段は吉寛の身を案じつつも脳天気に彼にまとわりつく家治も、しかし吉寛同様、重い「家業」を継がねばならぬ身。しかも彼の父・家重は言葉が不自由であり、息子との意思疎通もままならぬという状態にあります(史実)。その父が、子に与えた一振りの刀。銘を消され、「君萬歳」とのみ刀身に刻まれた刀に込められた思いは…
 親から子へ、そのまた子へ。それぞれに重たいものを背負いながらも、それぞれの形で幸せを探していく人間に向けられるこの物語の優しい眼差しには、心温まるものがありました。

 …そして、そんな幾多のエピソードを積み重ねて辿り着いたラストエピソード。その中で吉寛が手にしたもの、選んだ道は、現代人から見ると倫理的に「ええっ」という印象もありますが、それは当時の時代背景からすれば許容範囲ではありますし、何よりも、自分を案ずる者の意を汲み、そのような手段に頼っても(そしてそれは直接的な意味で自分の職業を受け入れることにもつながります)前を向いて生きていこうとする吉寛の覚悟の顕れとして尊重すべきものでしょう。

 そのように吉寛が一歩踏み出したところで第一部完となったこの作品ですが、まだ決着がついていない因縁もあり、やはり物語の続きを読んでみたいと強く感じる次第です。


 最後に台無しな豆知識。「無限の住人」で不死化実験を手伝っていた怪オヤジと、この作品の主人公は同一人物。
 薬が効きすぎたのか、すっかり立派になって…!

 いや全く、「明楽と孫蔵」の伝説の変態公家と「青竜の神話」のシャピロ・キーツチックな兄ちゃんが、同じ岩倉具視ってのと同じくらいショッキングな事実(?)であります。


「SUN-山田浅右衛門-」全4巻 (津寺里可子 ボニータコミックス) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.11

「大盗の夜 土御門家・陰陽事件簿」 陰陽師、江戸の世をゆく


 京を舞台に市井の人々の姿を描く作品等、数多くの時代小説を発表されている澤田ふじ子先生が、江戸時代の京の陰陽師を主人公に描く全七話収録の連作短編集です。
 サブタイトルに「土御門家・陰陽事件簿」とあるので一見派手な展開を想像してしまいますが、さにあらず、あとがきの「おどろおどろしい陰陽師の活躍を期待するのは無理。奇怪な現象も超能力者も登場しない。市井に生きる庶民の姿を主にして、事件簿として書いているからである」という言葉が示す通りの、「おどろおどろしい陰陽師の活躍」を読み慣れた身にはちょっと意外な、しかしなかなかに味わい作品となっています。

 主人公は、陰陽師(江戸時代の易者、人相見等の占い師とほぼイコールの意味)を束ねる土御門家譜代の触頭(土御門家配下の占い師たちの統括役)・笠松平九郎。ちょっと堅物なところもありますが、文武に優れ、役目柄世情に通じた青年であります。
 その、触頭のお役目とは、京の街で活動する陰陽師たちと、彼らに救いを求める市井の人々の在りように目を光らせること。そしてそれは裏を返せば、市井の人々の心を悩ます不安・苦しみの存在を察知することであり、そしてそれを解決するために、平九郎は様々な事件と対峙することとなる、というのが物語の基本設定となっています。

 ここでつくづくと感心させられるのは、この作品が、これまでほとんど顧みられることのなかった江戸時代の陰陽師たちの存在と、彼らが果たしてきた社会的安定機能に注目していること。
 これは全く私も不勉強で初耳だったのですが、江戸時代の社会の安定、治安の維持に重要な機能を果たしてきたものが三つあるというのが本作の、澤田先生のスタンスです。
 三つ――一つは、町奉行所の与力・同心、二つ目は、長屋の大家、そして三つ目、それが市井の陰陽師たち、ということになります。本書によれば、江戸の町にいた陰陽師の数は約千人、割合からすれば各長屋に一人はいたことになるというのだから、これは結構な割合。そしてその彼らが、占いを通じて市井の人々の人生相談に乗り、様々な悩みを受け止めることが、犯罪の抑止につながっていたというのは実に興味深いお話です。

 なるほど、犯罪というものは、専業の(?)犯罪者が起こすものは勿論ありますが、おそらくはそれを遙かに上回る割合で、突発的な犯罪者によるもの、ごく普通の人間が何かの拍子に心惑い、法を犯してしまうものがあるであろうことは想像に難くありません。そのような人の心が惑っている時に占いという形で一種のカウンセリングを行った彼ら陰陽師は、当時の庶民にとって実に心強い存在であったのだろうと想像できます。

 江戸時代の陰陽師がそうした人の心を(決してオカルティックな意味(ばかり)ではなく)守る存在であったとするならば、平九郎が出会う事件もまた、皆、人の心に帰因するものであることはむしろ当然な話。冒頭に述べたとおり、「陰陽師」の語から我々が連想するような派手な存在とは全く異なりますが、しかしむしろそれ以上に尊く、また親しみやすい陰陽師の姿がここにはあります。

 それにしても、つい最近「公家侍秘録」を読んだためもあり、また何よりも舞台が重なることもあり、読みながら高瀬理恵先生の絵がずっと浮かんでいたのですが、高瀬先生、澤田先生の「花篝 江戸女流画人伝」をコミック化しているとのこと。そ、それは読みたい…!


「大盗の夜 土御門家・陰陽事件簿」(澤田ふじ子 光文社文庫) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.10

「公家侍秘録」第5巻 時を越えて守り継がれるもの


 貧乏公家・日野西家の公家侍にして代々の刀守・天野守武を主人公とした短編連作シリーズの最新刊。今回は、日野西家出入りの薬種問屋に着せられた濡れ衣のため守武が奔走する「身中の虫」、守武の友で表具師の斎之介が繕いを依頼された屏風が事件を招く「因果の屏風」、根付けの黒染めの技法を巡る職人の意地を描く「打ち出の小槌」、そして楽人の家の美女に一目惚れした守武が後継と名器を巡る争いに巻き込まれる「選ばれし楽人」の全四エピソード六話が収められています。

 既にシリーズとして作品世界が完全に確立しているだけに、今回も安心して読むことができた本作。好男子・守武に、相変わらずがめつくて騒々しい姫様・薫子、そして妙に所帯じみた日野西の殿様と、主役トリオの賑やかさや暖かさも変わらず、前巻の発行からそれなりに時間が経っているはずなのにそれを感じさせないのは、流石かと思います。

 そしてまた…時間を経ながらもその時の流れを感じさせないものと言えば、この巻のほとんどのエピソードで――そして本作全体を通して――描かれる、京の文化・伝統・芸術がまさにそれ。
 人の世のうつろいに揉まれながらも、変わらず在り続けるそれらの事物は、しかし、単にそれ自身で存在しているわけではなく、それを慈しみ、愛し、守り継ぐ人々がいればこそ。もちろん、守武もその一人でありますが、そうした時を越えて守り継がれるものと守り継ぐ者の美しい結びつきが、本作の魅力の一つかと思います。

 ちなみに本作は、比較的馴染みの薄い京の公家の世界の姿を、確かな考証と共に描いており、その点から見ても第一級の面白さ。普段漫画は読まないよ、という時代劇ファンの方にも、ぜひ一度触れていただきたい良作であります。


「公家侍秘録」第5巻(高瀬理恵 ビッグコミックス) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.09

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 無我最強

 四年前の京四郎にあって狂になかったもの。京四郎と狂の勝敗を決めたもの。それは強力な信念だった。ボロボロの体になりながらも信念の極みの無我の境地に至った狂は、真の紅眼を超えた力で京四郎を圧倒。巨大な朱雀を放つ京四郎に対し、狂は四大奥義を同時に発動させて迎え撃つ。朱雀を打ち消した四神すら無力化する京四郎だが、その時、無明神風流の究極奥義・黄金色の神風が京四郎を襲うのだった。

 今週は感想が書きにくいなあ…とりあえず、狂が遂にGENKAITOPPA。今までしていなかったとは、意外といえば意外であります。しかしいきなり真の紅眼のパワーすら上回ってしまうとは、「ドラゴンボール」でスーパーサイヤ人2とか3とか出てきた頃を思い出しましたよ。
 とはいえ、元祖GT男にして、時人戦である種の無我の境地を見せたアキラを、今回解説役にしたのはなかなかうまい配置だと思います。
 …解説役と言えば、危なく死ぬとこだったのに、なに呑気にそこで解説役やってるんですか、四方堂姐さん。

 さて四神が出た時点で出ると思っていたその上をいく究極奥義。やっぱりベタに黄龍という名前なのかな…
 そして京四郎が使っているのは自分の元の体ということを全く斟酌せずに究極奥義をブチ当てる狂はさすがだと思いました。まあアニメでは自分の元の体に東京タワー串刺しにした過去があるからな、狂<それは過去と言わない

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.12.08

「世話焼き家老星合笑兵衛 竜虎の剣」 武士として、人として


 久々に、実に気持ちのいい作品を読むことができました。将軍吉宗の時代を背景に、瀬戸内海に面した倉立藩の家老・星合家の人々の活躍を描く痛快時代活劇であります。
 といっても、普通の時代活劇とはひと味違うこの作品。何せ舞台となる倉立藩は、殿様重臣が幕府成立時に功あって武士に取り立てられた職人たちで、そのためか他藩では想像もつかないほど武士と町人たちの垣根の低いという特異な事情があります。
 そんな倉立藩で進む計画というのがまた破天荒。何せ、藩をあげて、藩政を幕府に返上してしまおうというのですから! 幕府にお取り潰しされる藩、お取り潰しを逃れようと苦闘する藩は数あり、しばしば時代劇のネタとなってきましたが、藩を返してしまおうとは、意表を突いた、という言葉では足りないほどの見事な設定です。

 もちろん、この仕掛けが単なる鬼面人を驚かす体のものではないのは言うまでもない話。詳しくはここでは書きませんが、上記の倉立藩の成り立ちを踏まえた、武士としては意外ながらも、人としてみれば実に暖かく、納得できる倉立藩の人々ならではの想いが、そこには込められているのです。
 とはいえ、そうした一種の善意に素直に納得できない者たちがいるのも当然な話。武士としての生き方に固執して反発を見せる者、彼らを利用して藩政転覆を企む者、更にその背後に潜む謎の怪人「源氏様」が登場、一気に物語はクライマックスに向けて突っ走っていきます(ちなみに源氏様の正体は、時代劇ファンであればニヤリとしてしまうものとなっています。ヒント:時代背景)

 そしてまた、この「武士として」「人として」の生き方の相克は、この作品全体を貫くテーマとでも言うべきもの。この時代から見れば、むしろ倉立藩の人々の方が異端児なのは、言うまでもないお話です。
 特に主人公・星合健吾の親友であり、武士としての矜持を貫かんとするあまりに、藩乗っ取りを企む源氏様一党に利用されてしまう沢渡典馬は、この物語のもう一人の主人公とも言うべき存在。健吾と共に倉立藩の竜虎とも称される典馬が、親友との悲劇的な対決の果てに何を見出すのか、それは物語のクライマックスの一つと言えるでしょう。

 しかし個人的に何よりも感動させられたのは、その典馬の妹で健吾の恋人・静花の存在です。
 正直言ってこのキャラクター、登場した時には、典型的な足手まといの古臭いヒロインにしか見えませんでした。美しく慎ましやかですが、自分の意見を持たず、周囲の状況に巻き込まれ主人公の救いを待つだけのお人形さんと。
 が、そのような描写すら作者の計算のうちだったと思い知らされるのがラスト。兄にも負けぬ葛藤に苛まれてきた彼女が、その果てに達した想いの、何と美しく、力強いことか。彼女の言葉は、そのまま「人として」生きることの尊さ、素晴らしさ――すなわち本書のテーマに直結するもの――の一つの表れと言ってもよいでしょう。詳しくは述べませんが、その彼女の言葉が一つの孤独な魂を救いだしたことにより、物語は見事な大団円を迎えることになります。
 いやはや全く、私の完敗です。


 ちなみにこの星合家、嫡子・健吾が井蛙流、父が空鈍流、妹が深甚流をそれぞれ修めているというマニア好み(?)のマイナー剣法一家。残念なことに、健吾以外その設定が十分に活かされているとは言い難いのですが、それはこれからの楽しみ、ということなのでしょう。

 …当然、シリーズ化されますよね? いや、されないわけがないと信じたい。それだけのポテンシャルのある良作です。


「世話焼き家老星合笑兵衛 竜虎の剣」(中里融司 小学館文庫) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.07

「十兵衛両断」(3) 剣と権の蜜と毒


 長々と書いてきました「十兵衛両断」感想ですが、今回でラストです。

「剣法正宗遡源」
 そして最終話。「十兵衛両断」の直接の続編であり、十兵衛死後の時代を描いたこの作品に限っては、詳しい展開を語ることはできません。何とか中盤までの物語を語るとすれば、全ての日本剣法の源流は朝鮮にありという奇怪な朝鮮の主張の陰に見え隠れする、朝鮮柳生の影。朝鮮柳生壊滅のために立ち上がった柳生正統の麒麟児・六丸(時代劇にしばしば登場するあの人の若い頃です)と柳生の精鋭陣は、勇躍海を渡るも、そこに待っていたのは…

 ここから先は、ぜひご自分の目で見て、そして驚きと恐怖、あるいは哀しみを味わっていただきたいところです。海の向こうで六丸が知った真実、直面した事態こそは、まさに剣法地獄。六丸の魂の慟哭が聞こえてくるかのようなラストの大殺陣は、まさにこの奇怪な作品集の掉尾を飾るにふさわしいものと言えます。

 なお、贅言を承知で言えば、本作に登場するある人物の言葉は、山田風太郎の某作品(タイトルを挙げると本作のネタバレにつながりかねないのであえて伏せますが)を彷彿とさせます。
 圧倒的な重みを持つストーリーを展開させつつも、先人へのリスペクトを忘れぬのも見事かと思います。


<最後に>
 さて、「十兵衛両断」全五編の感想をようやく書き終えることができました。
 荒山作品と言えば、日本と朝鮮という刺激的な題材がまず目に飛び込んできますが、その陰で、諸作品に共通して流れるのは、権力と個人の存在の相克、なかんづく権力の暴威に対峙する個人の意志ではないかと常々思ってきました。
 その点は、この「十兵衛両断」以前に発表された「高麗秘帖」「魔風海峡」「魔岩伝説」の三作を、なかんづく各作品の主人公の生き様を見れば感じ取れるかと思います。

 しかしながら、この作品集においては、いささか趣が異なるものがあります。何となれば、この作品集の主人公たる柳生の剣士たちは、(一部例外はあるものの)皆、権力の内側に立つ存在。その剣でもって己が仕える権力を支え、あるいは己自身が権力たらんとする者たち、それがこの作品集における柳生新陰流の姿、と言って良いでしょう。

 そこで描かれるのは、権力の暴威に対峙する個人の意志では当然ありません。そこにあるのはむしろ時として自らが権力の暴威と化しかねない個人の姿であり、権力と個人のネガティブな融合とでも言うべきものといえるのではないでしょうか。

 とはいえ、柳生新陰流に代表される剣法剣術は、本来であれば個人の力を極限まで高め、昇華すべき、いわば個人主義の極みとでもいうべきもの。その剣術が個人主義とは対極にある権力と結びつかんとした時――そこにある種の矛盾・軋みが生まれるのはむしろ当然のことかもしれません。
 この作品集に収められた各作品の主人公――十兵衛・石舟斎・宗矩・純厳・六丸――が、いずれも作中、それぞれの形でアイデンティティの危機を抱え、迎えるのは、決して偶然ではないのでしょう。

 剣と権の結びつきは、それを求める者にとっては蜜の如きものであるのかもしれませんが、その一方で、その者の身と魂を滅ぼしかねない毒ともなるのではないか。この刺激的な全五編を読了して、そう感じさせられたことです。


「十兵衛両断」(荒山徹 新潮文庫) Amazon bk1


関連記事
 「十兵衛両断」(1) 人外の魔と人中の魔
 「十兵衛両断」(2) 剣法、地獄。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.06

「吉原螢珠天神」 天才エンターテイメント作家の初時代小説

 ちょっと恥ずかしい告白になりますが…僕にとって、SFの代名詞が「山田正紀」だった時期が確かにありました。ありました、というのは別にいま氏がそうでない、ということではなくて、単に僕がいまSFを読んでいないだけなんですが、それはともかくとして、とにかく僕が山田正紀というSF作家に絶大な信頼を置いていたことだけは間違いありません。
 意表をついた、そしてセンスオブワンダー(って死語かしらん)に満ちたアイディア、それを包み込んで小説としてきっちりと成立させるエンターテイメント性、そして作品を貫く人間への、人間性への優しい眼差しと、それを傷つけようとするものへの怒り――いずれも僕にとっては非常に好ましく感じられるものであります。

 と、そんな山田正紀氏が書くのが、SFのみではないと知ったのがこの作品集。家康の江戸入りの頃、隅田川に出没する妖怪変化と戦う羽目となった野心家の侍を描く「あやかし」、朝鮮出兵の地獄から帰還して以来キムチ漬けに取り憑かれた侍の物語「辛うござる」、そして表題作、元御庭番の殺し屋が、家康の亡魂が乗り移ったという不可思議な玉を護る謎の黒衣衆と死闘を繰り広げる名作「吉原螢珠天神」…あ、最後の作品は、「SFマガジン」に発表された時代SFではありますが、とにかく氏が、時代小説においても一流の書き手であって――何よりも嬉しいことに、先に述べた氏の作品の好ましい点が、全く変わらずに残っているということを知り、初読の際はやたらと嬉しかったことを覚えています。

 と、そんなイタイタしい個人の感傷は抜きにして、いま読み返しても実に面白いこの作品集、特に表題作。殺し屋(仕事人でも仕掛人でもよろしい)テーマのアクション時代小説としても面白いのですが、重要な登場人物として浅草弾左衛門(実は正体は時代劇でもおなじみのあの人物!)を配置することにより、単純な娯楽作品に終わらない味わいを生んでいますし、何よりもやはり、結末近くで明かされる玉の正体が意表をついていて面白い。むしろ同じ姓の別の作家の作品を思わせるオチも含めて、少々力業に過ぎる観もあるこの玉の存在ですが、しかし普通の時代小説に見えたものが突然ラストでSFの地平に飛翔するのは、いかにも「SFマガジン」の時代SFらしくて、僕は好きだなあ。
 …そしてこれが氏にとって初の時代小説であったと知り、大いに驚かされた次第です。

 と、今回はちょっと個人の思い入れ先行で書いてしまいましたが、時代SFや伝奇時代劇が好きな方にはこの作品集、ぜひ読んでいただきたい…のですが、集英社から出版されていた単行本(この時のタイトルは「あやかし」)、文庫ともに現在は入手困難。うち、「あやかし」は、最近、双葉文庫のアンソロジー「妖異七奇談」に収録されましたが、その他の作品が読めないのはいかにも勿体ない…と思って検索をかけてみたら、なんとe-novelsをはじめとして色々な電子書籍で読むことが可能になっていました。いい時代になったものですね。

 氏の時代小説についてはまだまだ書きたい作品が何作もあるので、今後また色々と採り上げていくかと思います。


「吉原螢珠天神」(山田正紀 集英社文庫) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.05

「ソウルキャリバーIII」で時代劇キャラを作ろう(3)

 もしかしたら最近の記事の中で一番時間かかってるんじゃないかという気すらするこのシリーズ。今回は懐かしの「るろうに剣心」ですよ。

kenshin_shishio01 kenshin_shishio02
 まずは剣心vs志々雄。…最初っからごめんなさいだぁ。
 剣心はともかく、志々雄は上から下まで苦肉の策の固まり。っていうか志々雄が女に(女性キャラの方が使えるパーツが多いような気がします)。

kenshin_enishi
 気を取り直して、剣心vs縁。これはまあ、ましじゃないかな。縁の格好は初登場時のマント+中華服にしたかったですがうまく再現できなかったのでラストの決闘シーンのものを。

sanosuke_anji02
 も一つ。左之助vs安慈。安慈がどうみてもバンダナ着用したただの坊主です。ありがとうございました。

misao
 最後に(特に)失敗作。一応、御庭番衆の操…。なに、このオリジナルくノ一。

 次回はもっとマイナーな作品に挑戦する予定。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.12.04

「闇を斬る 刺客変幻」 堅実な作りが光る剣豪小説


 「闇を斬る 直心影流龍尾の舞い」に続くシリーズ第二弾。主家を捨て、妻と二人江戸にやってきた直心影流剣士・鷹森真九郎の死闘が再び描かれます。
 前作ラストにほんのわずか姿を見せた暗殺者集団「闇」が本格的に登場、偶然「闇」の秘密の一端に触れることになった真九郎は執拗な襲撃を受けることになります。さらに真九郎出奔の原因を作った悪家老・鮫島兵庫も懲りずに真九郎抹殺を企み、二つの敵を向こうに回して真九郎は剣を振るうことになります。

 前作でも感じられた文章・展開の生硬さは、正直なところまだ少し感じるのですが、しかし剣戟描写が達者で面白く、次から次へと様々な敵が襲い来ることもあって、剣豪小説として最後までだれることなく一気に読み終えることができました。

 ちなみに前作でも目立った真九郎の律儀さは今回も健在。襲いかかってきた敵を斃すたびにきちんと同心(知人ではありますが…そうそう、前作から登場のこの八丁堀の同心・桜井琢馬は、べらんめえ喋りの好漢で、真九郎と対照的な面白さがあります)に届け出る時代劇ヒーローというのも、ある意味斬新であります。
 また、愛妻の雪江さんとの仲も相変わらず睦まじい…のですが、今作では敵の魔手がこちらにも迫ることになり、そちらもハラハラさせてくれるところです。

 何はともあれ、ひとまず強敵を退けた真九郎ではありますが、ついに「闇」と鮫島兵庫が手を結ぶことになり、まだまだ真九郎の苦闘は続く予感。さらに「闇」には単なる暗殺者集団以上の素顔があるらしく、こちらも気になるところ。
 安心して読める堅実な作りの中で、今後の展開が気になるシリーズになってきました。


「闇を斬る 刺客変幻」(荒崎一海 徳間文庫) Amazon bk1


関連記事
 今日は二本立て 「闇を斬る 直心影流竜尾の舞い」&「新選組隊外記 無名の剣」

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2005.12.03

「ぬしさまへ」 妖の在りようと人の在りようの狭間で


 病弱な若旦那とおかしな妖たちの交流が楽しかった「しゃばけ」の続編が待望の文庫化。
 妖の手代・仁吉に届けられた恋文が思わぬ事件を呼ぶ「ぬしさまへ」、作った餅で人が死んだ親友・栄吉を救うために若旦那が一肌脱ぐ「栄吉の菓子」、生き別れになった若旦那の兄・松之助の孤独な魂を救った絆を描く「空のビードロ」、若旦那の新品の布団が泣き出すという怪異に始まる「四布の布団」、色男の仁吉の叶わぬ恋の顛末「仁吉の思い人」、そして突然若旦那の身辺から妖が消えてしまう「虹を見し事」の全六編が収録されている短編集となっています。

 紹介編でもあった長編の前作を受けて、今回は最初から若旦那のちょっと(?)変わった日常の有様が存分に描かれており、また、前作のレギュラー・サブレギュラーも健在。若旦那のヒロインっぷりも、仁吉と佐助の過保護ぶりも、脳天気な妖たちの騒々しさも変わらずで、読んでいて旧友に出会って話し込んでいる時のような心地よさが感じられます。

 と、その一方で、本書で描かれる事件は、あくまでもシビア…というよりむしろ「黒い」ものがほとんど。前作のような派手な事件ではない分、そこで描かれる悲劇の数々と、人間のどうしようもないナマの感情は、脳天気な妖と対比されることで、より一層リアリティをもって読む者の胸に迫ってきます。
 商家が舞台の場合がほとんどのためか、宮部みゆきの「あやし」のような奉公人ものホラー(そんな言葉あるのか!?)に極めて近い味わいがある、と言えば何となくわかっていただけるでしょうか。

 しかしこの世の出来事がそう悪いものばかりではないのと同様、本書で描かれる世界もまた、決して重く塞がったものばかりではありません。
 この世の法の外で脳天気に生きる妖たちの在りようと、この世の枠の中で時として重く苦しい生を過ごす人間の在りよう。その両方の世界を覗くことになる若旦那ですが、だからこそ、人として正しく、前向きに生きようとする若旦那の気持ちは、嬉しくも気持ちの良いものであり、素直に応援したくなるものがあります。
 本書に収められた「空のビードロ」のラストで松之助が見いだしたものと同じもの…と言ってはちと大げさにすぎるかもしれませんが、それに近しい感動があるのではないかと思います。

 成長小説として、妖怪小説として。もちろん時代小説・推理小説として。今後が非常に楽しみなシリーズであることは間違いありません。やっぱり文庫になるまで待っていられないですね。


「ぬしさまへ」(畠中恵 新潮文庫) Amazon bk1


関連記事
 しゃばけ

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.12.02

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 そして強くなれる理由

 ついに京四郎の刃の前に地に伏した狂だが、四聖天と紅虎はなおもあきらめず、狂の復活を信じる。その頃、生死の境を彷徨う狂は、少年時代の姿になって先代紅の王の前にいた。甘い言葉の裏側で狂を滅ぼそうとする先代だが、そこに村正の魂が現れ、先代を阻む。村正、四聖天、紅虎、幸村、これまで死合った者たち、そしてゆや…戦いの中で得た絆と、自分を信じる者の声が力を与え、再び狂は立ち上がるのだった。

 ものすごい勢いで狂復活。早っ。そしてやっぱり「精神世界で誰かに出会ってパワーアップ」のパターンでした。
 でも初代紅の王にはこないだ会ったばかりだから、一体誰に会うんだろうと思っていたら、村正…ごめん、ガチで存在忘れてました。

 しかし今週のハイライトは、京四郎に対しアキラが、人と人の絆が人を強くすると語るシーン(その手に強く握られているのが紅虎との友情の太刀というのがまた…)、そしてその言葉をなぞるかのように、狂が仲間や強敵たちとの絆を思い出すシーンでしょう。
 ベタと言えばこれほどベタな展開はありませんが、熱血少年漫画としては実に正しい展開。思えばこれまで壬生編で描かれてきたアキラの、紅虎の、ほたるの、サスケの戦いは、描き方はそれぞれ違えど、皆、己の実力を遙かに上回る敵に対し、他者と出会い触れ合うことにより心の強さを得て成長した彼らが勝利を収めるというものでありました(真面目な話、梵や幸村がいまいち地味な役回りなのは、既に彼らが成長しきった人物だからではないかと思っている次第)。
 もしかして連載当初に狂が本当にどうしようもないDQNで俺サマ主人公だったのも計算の上だったんじゃ…というのはさすがにネタですが、一番完璧(という設定)だった狂がこの終盤で成長を見せるというのも面白いことです。

 が、実際問題として気合いで致命傷をカバーするには、少年漫画であっても無理があるわけで、たとえ京四郎に勝ってもこの後は…って、本当の体に戻ればいいのか。便利だな、おい。
 ヘタすると新年早々完結しかねないのがちょっと寂しいところです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.12.01

「無用庵日乗 上野不忍無縁坂」 悪人始末のコロンブスの卵


 「花の小十郎」シリーズなど、イキのいい時代小説を執筆されてきた花家圭太郎先生の新境地とも言えるこの作品は、人情もの+必殺ものというべきちょっと変わり種。
 物語は、江戸の魚問屋の隠居・治兵衛が湯治の旅で剣の達人・田代十兵衛と出会うシーンから始まります。駆け落ちした自分の妻と弟を追って流浪していた十兵衛と治兵衛は意気投合、治兵衛は十兵衛を江戸に誘いますが、治兵衛には隠された裏の顔があって…という展開であります。

 ここまで書けばおわかりでしょう、治兵衛の裏の顔は、法で裁けぬ悪を裁く裏稼業の元締め。面白いのはその裏稼業のシステムで、依頼人の依頼を受けて、まずは綿密な調べで裏を取るというまでは普通(?)ですが、始末の方法が必ずしも殺すだけではない。相手の罪の重さ、そして依頼人を含めた関係者に与える影響を考えた上で、殺さない程度に懲らしめる、あるいは二度と表に出られないように封じ込めるという三段階からチョイスするという寸法なのです。
 冷静に考えてみれば、いくら法で裁けぬ悪だからといって、必ずヌッ殺す必要があるわけではないわけで、ちょっとしたコロンブスの卵といったところで感心させられました。

 本作では、その治兵衛一党が、大店の女房をたぶらかした役者くずれに仕掛けた裏稼業の物語を縦糸、そして妻と弟を追う十兵衛の物語が横糸として描かれますが、首尾良く終わりを迎えたはずの二つの物語が、終盤で意外な展開を見せ、苦い結末へと繋がっていくこととなります。
 おそらくはほとんどの読者が予想していた展開をあえて外して見せた一ひねりですが、それが面白いような面白くないような…ちょっと不思議な読後感の作品でありました(というか、正直に言えば、必殺ものであれば中盤あたりに入ってくるエピソードのような気もしますな)。


「無用庵日乗 上野不忍無縁坂」(花家圭太郎 双葉文庫) Amazon bk1

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2005年11月 | トップページ | 2006年1月 »