« 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 当代紅の王登場! しかし… | トップページ | 偕成社版「南総里見八犬伝」 »

2005.12.30

「手習十兵衛 梵鐘」 趣向を凝らした四つの物語


 「手習重兵衛」シリーズ第二弾は、短編四本から成る外伝的エピソード集。二巻目で外伝というのもかなり意表を突いていますが、レギュラー三人+新登場一人をそれぞれ主人公とした構成の本書は、キャラ立ちがしっかりしている作品だけに、むしろ作品世界を広げる形になっているのが面白いところです。

 第一話「捜し屋」は、第一巻で名前のみ登場した腕利きの人捜し屋・紋兵衛が主人公。火事場から行方知れずとなった少女捜しを依頼された紋兵衛ですが、その裏には…ということで、二段構えのひねりの効かせ方がうまいエピソードでした。
 この紋兵衛もなかなか面白いのですが、それ以上に面白いのが紋兵衛の居候の鷹蔵のキャラクター。派手な小袖に無精髭とスネ毛、しかしハンサムで似顔絵と料理の腕前は超一流という怪キャラクターで、共に訳ありらしい紋兵衛・鷹蔵コンビはなかなか面白く、これからもシリーズにはちょくちょく顔を出してもらいたいものです。

 第二話「花見」は、愛すべきぐうたら同心・惣三郎が主人公。例によって仕事をさぼって花見に繰り出した惣三郎と中間の善吉が目撃した仇討ち。しかし仇として討たれた男が「誰に頼まれた」と叫んだことから、事件は奇怪な色彩を帯び始めます。ミステリ色が強めな作品なので詳しくは述べませんが、事件の陰にあった人間心理の奇怪さが印象的な作品でした。

 第三話「女幽霊」は、重兵衛の親友の好漢・左馬助をメインに、惣三郎・重兵衛も加わって展開する物語。謎の敵に執拗に付け狙われる左馬助と、重兵衛の住む白金村の神社に現れる女幽霊の謎が、意外なところで絡み合うのが面白い一編。ちょっと左馬助が狙われた真相に無理がないかな? という気がしないでもないですが…

 そしてラストは表題作の「梵鐘」。行方不明になった教え子を捜す重兵衛の物語と、ゆすりたかり暴行何でもありのとある外道の物語が交互に展開するという一風変わった構成ですが、その構成自体が一種のトリックとでもいうべき凝った作品となっています。
 注意深い方であれば、途中でこの物語のトリックも読めてくるのではないかと思いますが、結末で明かされる重い真実は、何とも粛然とさせられるものがありました。
 ただ一点残念なのは、子供が行方不明になるというネタが、本書第一話と、前作でも使われていること。それぞれに趣向が凝らされているとはいえ、さすがに三回もネタに使われるとちょっと食傷気味かな…という気がしないでもありません。

 何はともあれ、全四話それぞれに趣向がこらされた短編で十分に楽しめたのは事実。次の巻からはいよいよ本筋、重兵衛自身の物語が展開されるようなので、こちらも楽しみです。


「手習重兵衛 梵鐘」(鈴木英治 中公文庫) Amazon bk1


関連記事
 「手習重兵衛 闇討ち斬」 謎の剣士は熱血先生?
 「手習重兵衛 暁闇」 夜明け前が一番暗い?

|

« 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 当代紅の王登場! しかし… | トップページ | 偕成社版「南総里見八犬伝」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「手習十兵衛 梵鐘」 趣向を凝らした四つの物語:

« 今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 当代紅の王登場! しかし… | トップページ | 偕成社版「南総里見八犬伝」 »