「新八犬伝」(小説版)
八犬伝特集の第二弾は、NHK人形劇のノベライゼーションである「新八犬伝」。同名の人形劇は、世代的に観ることができず、非常に残念に思っていたのですが、本書は脚本を手がけた石山透先生自らノベライズしており、内容も人形劇にほぼ忠実ということで、こうして読むことが出来て誠に有り難いことです。
この「新八犬伝」、全三巻の上巻までは比較的原作(「南総里見八犬伝」)に忠実ですが、中巻あたりから暴走開始。
嵐で漂流した信乃が辿り着いた先は、王位簒奪を狙うミズチの化身が暗躍する琉球だった…って「椿説弓張月」か! しかし、「水滸伝」の影響を受けた「南総里見八犬伝」と、「水滸後伝」の影響を受けた「椿説弓張月」は、存外親和性が高いのか、これはこれで案外楽しかったり。
そのほか、雷様の奥さん(雲の絶間姫!)に頼まれて額蔵が雲に乗ったり、見る者の精気を奪う呪われた妖珠や「痴」の玉を持つ偽犬士が登場したりと、派手で楽しい大活劇が続きます(原作との異同はこちらが非常に詳細に分析されています。さすがは八犬伝最強のサイト)。
その他、目につくのは、玉梓と役行者の出番の多さ。原作ではかなり出番の少ない玉梓、そしてそれ以上に登場シーンの少ない役行者の二者が、ここでは悪と善、それぞれの後見とも導き手とも言うべき立場で何度も登場、奇跡や怪異を連発することになります。
これは原作よりも一層ファンタジー性が増していることによるのでしょうが、その後の八犬伝リライトで玉梓が邪悪の化身として大活躍(?)しているのを見ると、それはどうもこの人形劇版が影響しているのでは、と思えるフシがあって、興味深いところです。
(リアルタイム世代だったうちの姉なんて、いまだに「我こそは玉梓が怨霊ゥゥゥ~」って真似してくれるものなあ…)
さて、こうして紹介しておいてなんなのですが、本書は既に絶版というのが悲しいところであります。しかし、元フィルム自体が存在しない人形劇に比べれば遙かにましな状況、興味をお持ちの方は、ぜひ古本屋を当たってみていただきたいと思う次第。
「新八犬伝」全3巻(石山透 日本放送出版協会) bk1
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