「魔空八犬伝」
八犬伝特集第七回、今回は「南総里見八犬伝」のリライトではなく、八犬伝のモチーフを使って全く新しい物語を作り上げてみせた作品。作者はあの石川賢、ということで、果たしてどのような八犬伝世界になるかとワクワクして読んでみると…いかにも石川賢らしい時代伝奇アクションバイオレンス漫画となっておりました。
ストーリーを簡単に紹介しますと――時は戦国時代、壮絶な合戦が行われた上空に現れる黄金城、実は伏姫により魔空(魔界のようなものと思し召せ)に封印された禁断の魔城を巡り、魔空封印の八つの玉を持つ八犬士たちと、黄金城入城を目指す信玄・信長ら戦国大名たち、更に魔空解放を狙う魔物が死闘を繰り広げるというもの。
これを見れば大体わかるかと思いますが、原作(南総里見八犬伝)との共通点は、伏姫と八房、八つの玉と八犬士が登場するくらいのもの。八犬士も、犬塚信乃と犬山道節の名を持つ犬士が登場するだけで(道節は何故か「仁」の玉を持っていますが)、後の六人は完全にオリジナルとなっています。
じゃあこれのどこが八犬伝なんじゃい、と言われると困ってしまうところもあるのですが、しかし、八犬伝の道具立てを使うことによって、この作品に様々な意味で奥行きを与えているのは事実。また、この作品の背後にあるテーマが輪廻転生であることからも、作品のバックグラウンドに八犬伝を持ってきたことに意味が感じ取れます(まあ、石川賢の長篇時代伝奇はほとんど輪廻転生が絡んでくるのですが…)
と、八犬伝ものという観点から見るとあまりすっきりしない文章になってしまいましたが、八つの玉を持った勇士が戦国時代を舞台に暴れ回るというのはシチュエーションからして胸躍るものがありますし、何よりも単独で読んでも伝奇時代アクションとして面白いこの作品。八犬伝の一つのバリエーションとして、興味深い作品であることは間違いないと思います。
ちなみに伝奇好きとしてもう一つ気になるのは、この作品に登場する、虚空の黄金城というモチーフが、おそらく…というよりまず間違いなく日本の伝奇SFの金字塔、半村良の「妖星伝」から来ていると思われること。いわばこの作品の中では、近世の伝奇小説の傑作である「南総里見八犬伝」と、現代の伝奇小説の傑作である「妖星伝」が出逢っているわけで、実に興味深いことであります。
「魔空八犬伝」全3巻(石川賢 講談社漫画文庫) Amazon bk1
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