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2006.01.23

「忍法八犬伝」


 八犬伝特集第八回は、第一回でも採り上げた山田風太郎によるもう一つの八犬伝、「忍法八犬伝」。タイトルからも明らかなとおり、山風忍法帖のうちの一冊ではありますが、もちろん凡手を嫌う作者のこと、単純に八犬伝の世界に忍法を持ち込んだだけではなく、なんと八犬伝の物語を「史実」として受けた上で、その後日談を描いているのです。

 舞台となるのは江戸時代初期、お取り潰しの危機に瀕した里見家を…いやいや美しき姫を救うため、八犬士の子孫たちが死闘を繰り広げるというお話。この八犬士たちの子孫、それぞれ先祖の名前を引き継ぎながらも、それこそ人間の徳目の化身の如き品行方正なご先祖サマに似合わぬろくでなしばかり。
 そのろくでなし八犬士たちが、半端に習い覚えた忍法でもって、服部半蔵配下のくノ一衆に文字通り必死の戦いを演じるのですが、そうした本筋のみならず、随所に山風らしい八犬伝パロディが挿入されているのがなかなか面白い(やっぱり“忠孝悌仁義礼智信”が“淫戯乱盗狂惑悦弄”に変わるというのはよく考えたものだと感心しますな)。

 正直なところ、ろくでなしどもが、天真爛漫な美しき姫君を救うため、身を捨てて一世一代の勝負に挑むという基本設定は、同じ忍法帖でも「風来忍法帖」という大傑作があり、あちらと比べると、構成・展開の点で数段落ちると個人的には思っているのですが(あくまでも忍法帖として、ね)、一種の八犬伝パロディとして見た場合、実によくできていますし、何よりも一つの伝奇物語を確固とした現実として踏まえた上で、更に伝奇物語を構築してみせる神業には、ただただ感嘆するのみです。

 「八犬伝」とは別の意味で――もちろん忍法帖だからなどという即物的な理由ではなく――山田風太郎ならではの八犬伝と申せましょうか。


「忍法八犬伝」(山田風太郎 講談社文庫) Amazon bk1


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