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2006.02.28

「聖八犬伝 巻之二 芳流閣の決闘」


 八犬伝特集その十の続き、「聖八犬伝」の第2巻です。前巻は終盤に信乃が登場した他は、八犬士は登場しませんでしたが、今回は信乃・荘助・道節・現八・小文吾そして親兵衛と一挙に六人の犬士が登場します。

 前巻同様、基本的な「八犬伝イベント」は押さえているこの作品、今回は浜地くどきから副題にもなっている芳流閣の決闘、小文吾と房八の確執のくだりなどが再現されていますが、その一方でこちらも前巻同様、関東騒乱の様子も平行して描かれます。
 今回描かれるのは、関東管領・山内上杉氏の家宰・長尾氏の跡目争いをきっかけとした長尾景春の乱。古河公方を後ろ盾にした長尾景春と、山内・扇谷の両上杉家の激突でありますが、そこに登場するのがかの太田道灌、そしてこの道灌が、乱世の梟雄とも言うべき一癖も二癖もある人物に描かれているのが面白いところです。

 そしてまた――設定上、この長尾景春の乱と関係する八犬士が、犬山道節。犬山家は、景春方についた豊島泰経・練馬平左衛門に仕える家柄ですが、この乱によって豊島家が滅ぼされたことにより浪々の身となります。
 と、この辺りは原作とさほど変わりはありませんが、面白いのは犬山家と道節の設定が大きくアレンジされているところ。犬山家は代々練馬家の下に仕えて不思議な術を操る方士の家系であり、道節はその嫡男でありながら、何故か妖術を操れぬおちこぼれで、そのため家を離れて関東を駆けめぐる間諜として暮らす、という設定といなっています。基本的に設定自体は原典とさほど変わらない八犬士たちの中で、今のところ唯一道節だけが大きく設定を異にしているのが面白いところです。

 また、感心したのは、どんなヴァージョンの八犬伝でも必ずと言っていいほど登場する色悪・網乾左母二郎が、都から流れてきた青侍という設定になっていたこと。
 「南総里見八犬伝」において、室町時代の関東に、左母二郎のような江戸時代の素浪人姿の浪人がいて、しかも近隣の女性に遊芸を教えているというのは、さすがにいかがなものかなあと、その辺にはかなり無頓着な私も思ったりしたものですが、その辺りのナニをうまく解消しつつ、左母二郎のキャラクターを立てているのはなかなかうまい手だと思った次第です。

 そして物語自体も、きっちりと当時の史実を追う一方で、太田道灌に仕える謎の忍び・風魔や、水の妖術を操る怪しの男など、伝奇的なキャラクターも次々登場してファンタジックな色彩も強まっていきます。違和感なく史実と虚構を共存させる、この辺りのバランス取りはなかなか難しいのではないかと思いますが、今のところその試みは成功しているのではないかと思います。
 なお、これまで触れてきませんでしたが、本作においては伏姫の八玉に浮かぶのは仁義礼智忠信孝悌の文字ではなく、オン阿味羅ウンキャ左洛の八字真言に変更されています。この世を調伏するという文殊菩薩の八字真言(調伏は六字真言だったような気もしますが、まあいいや)を持って生まれた八犬士たちの行く末がどうなりますか…楽しみです。


「聖八犬伝 巻之二 芳流閣の決闘」(鳥海永行 電撃文庫) Amazon bk1


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 「八犬伝」リスト

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2006.02.27

3月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュール

 3月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールを更新しました。右のサイドバーからも見ることができます。

 3月は、特にコミックが豊作のように思える月で、「Y十M~柳生忍法帖~」「影風魔ハヤセ」などの最新刊の他、短期連載に終わってしまったのが残念だった「伊庭征西日記」(おお、森田作品が一月に二冊も)、あまりのスピードに驚きつつもちょっと嬉しい石川賢版「神州纐纈城」の文庫化、そして何よりも、その名の通りまぼろしと化していた桑田次郎の「まぼろし城 完全版」が発売! されるのが本当に嬉しいところです。
 なお、これを時代ものと言うと怒られそうですが、中旬には「雨柳堂夢咄」の最新刊が発売されるのも嬉しいところです(それにしても何で朝日ソノラマと創元推理ははっきりした発売日を書いてくれないのでしょう…)

 DVDは、正月に放映され、このサイトでも採り上げました「里見八犬伝」が登場。しかしこのサイトの人間として「俺は忍者の孫の孫」が猛烈に気になる気持ちは、わかる人だけわかって下さい。

 その他、ゲームも結構な本数が発売されますが、個人的に一番楽しみなのは、「デビルサマナー 葛葉ライドウ対超力兵団」であります。元々メガテンの中でも伝奇色が強かった「デビルサマナー」シリーズですが、今回は大正ロマンですよ。…まあ、舞台は大正20年なんですが、太正でなかっただけよしとします。しかし最高すぎるなあ、このパッケージ絵

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2006.02.26

「悲願千人斬」 明日なき復讐劇


 戦国時代の美濃を舞台に、斎藤道三に滅ぼされた土岐頼芸の遺児・土岐太郎頼秀を巡り、双子の豪傑が繰り広げる壮絶な復讐劇。かの白井喬二先生をして「古今絶無」と言わしめた題名があまりに印象的な名作であります。

 主人公となるのは、美濃稲葉山城下で名僧と讃えられた白雲上人と、その双子の弟の郷士・土佐青九郎。土岐家の臣・稲葉家の血を引く上人が、天狗の面を被って、今まさに処刑されんとする頼秀を奪還するところから物語は始まります。頼秀を追う斎藤家の老臣・日根野備中守に対し、弟・青九郎と共に戦う上人ですが、備中守の追求はあくまでも執拗。替え玉となった甥・多聞の犠牲により、一度は追求を逃れたかに見えた頼秀ですが、運命のいたずらの前に遂に…
 そして主家復興の望みが時、上人と青九郎の怒りが爆発、かくて斎藤家の侍千人斬りを悲願とする般若面と天狗面の二人の怪剣士が出現、稲葉山城下に血風が吹き荒れる、という物語。

 タイトルになった千人斬りが始まるのは、物語も終盤に近づいた頃からとだいぶ遅いのですが、しかしそれまでに丹念に登場人物たちの心の動き、生き様が活き活きと描かれるため、そこに辿り着くまでに飽きることがありません。
 そしてまた、本書を印象的なものとしているのが、その千人斬りの復讐劇が、全く未来に繋がらず、得るものもない、極端な言い方をすれば、単なる腹癒せ以上のものではない点。たとえ千人の侍を斬り捨てようとも、死んだ者が戻ってくるわけでもなく、主家が甦るわけでもない。ましてや名誉や金、あるいは平穏な暮らしが待っているわけでもない。そこにあるのは、命が消費されていく虚しい剣戟のみであります。
 もちろん復讐劇とはそういったもの、と言えばそれまでかもしれませんが、しかしその復讐者が、前身は武辺者とはいえ、今は名僧と讃えられる人物である点、さらにまた、二人の復讐者が、その般若と天狗の面を奪った能楽師の子からまた、復讐の刃を向けられるという設定は、例えばその約十年後に描かれた、時代小説における復讐劇という点では共通である「雪之丞変化」が、復讐の虚しさを描きつつも、あくまでも優美華麗な空気を持っていたのとは全く異なる、乾いた味が読後に残ります(どっちかというと同年の「敵打日月双紙」と比べるべきだって? いやそれはそうなんですが…)。

 実は、純文学出身であった作者自身はあまり気に入っていなかったという本作、確かに各章のタイトルの付け方など、如何にも昔の大衆小説的な空気が濃厚で、その気持ちもわからないではないですが、しかしその「文学的」素養が、本書を単なる大衆小説に終わらせず、一味も二味も違う(もちろん限界はありながらも)生きた人間を描いた名品と化さしめた、というのは興味深いことであります。


「悲願千人斬」全2巻(下村悦夫 講談社大衆文学館) 上巻 Amazon bk1/下巻 Amazon bk1

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2006.02.25

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 ああ懐かしの居合い抜き

 遂に玉座を立つ先代紅の王。が、腕組みをしたままの先代に、紅虎が、幸村が、サスケが次々と打ち倒される。先代に刃向かうことができない京四郎は、先代を羽交い締めにすると自らに向けて四神を放つが、先代に傷一つ負わせることもできず、先代の腕組みを解かせただけに終わる。が、そこに狂の四神が発動、それをも防ぐ先代だが、更に天空から黄金色の神風・黄龍が先代を襲う。が――

 もの凄い勢いで雑魚扱いされる狂以外の人たちが本当にかわいそうになってきた今回。まあ、完璧に予想通りなわけですが。
 しかしそれ以上にデフレ状態なのが京四郎と狂の奥義。GENKAITOPPAにGENKAITOPPAを重ねて会得したはずの究極の奥義すら効果なしとは、折角名前(これも完璧に予想通りでしたが)を出してもらったのにあまりにも不憫です。

 …まあ、狂の場合、敵と互角以下の戦いをしながらハアハア汗かきつつ強がりいうのがデフォなので、勝負はこれからです。

 そんなことよりも、先代の腕組み居合い抜き戦法(?)に、牡牛座のアルデバランを思い出した人は多いのではないかと思います。が、先代は腕組みを解かせたくらいで負けを認めてくれるくらい男気ある人ではないようで残念でした。
 っていうか、普通、腕組んでいる状態より、腕組み解いた状態の方が強くて当たり前のような…

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2006.02.24

「松平蒼二郎無双剣 陰流・闇始末 流浪斬り」 そして新たなる旅へ


 復活した松平蒼二郎シリーズ第二弾が発売されました。前作で白河藩から死闘を続けた果てに江戸に帰り着いた蒼二郎は、修羅の道を離れた一人の華道人・花月庵蒼生として、西へ修行の旅に出ますが、その彼の前に現れたのは、白河松平家の継嗣である弟。謎の刺客に狙われているという弟の言葉も、既に松平家とは縁を切った身と、一度はすげなく振り切った蒼二郎ですが、しかし罪のない弟を害さんとする敵を見過ごすことはできず――と、再び剣を持って立ち上がる、という趣向。

 実は蒼二郎の弟が狙われる背後には、二人の父・松平定信が関わった、いわゆる尊号事件――光格天皇が実父・典仁親王に太上天皇の尊号を贈ろうとしたのに定信が待ったをかけた一件――が。この時の恨みを定信の一族を相手に晴らし、更には王政復古を狙って暗躍する一党を倒すために、蒼二郎は西に、京に向かうことになります。
 形上は、またもや蒼二郎が父の尻拭いをする形ではありますが、父の言いなりの暗殺行ではなく、己に関係のないことで命を狙われる弟への情と、道理に外れた主張を、力を持って通さんとする一党への怒りから、自発的に立ち上がるのがこれまでとは異なるところ。そしてまた蒼二郎が、あれほど憎んだ相手であっても、道理に外れたことはたとえ朝廷が相手でも毅然と跳ねつける父の態度に敬意を払う描写があるのも、また彼の心の変化・成長を示すものかもしれません。

 この「陰流・闇始末」、前巻も含めて考えてみるに、第一シリーズとも言うべき「陰流・闇仕置」全5巻が、いわゆる必殺もののテイストであったのに対し、時代ロードノベル路線で行くのかな、という印象。前巻から登場のはぐれ忍び・百舌丸との道中で見せるすっかりくつろいだ蒼二郎の姿は、前シリーズからはあまり想像できない――もちろんいい意味で――姿で、なかなか愉快でした。
 往年のTV時代劇をこよなく愛する作者のこと、本シリーズも前シリーズと同様、時代劇が最も熱かった時代の味わいを思い起こさせる快作となることを期待します(正直、もう少し文体のくどさがなくなれば…と思わないでもないのですが)。


 …にしても、百舌丸の蒼二郎ラヴっぷりはもの凄いものがあると感心しましたよ。


「松平蒼二郎無双剣 陰流・闇始末 流浪斬り」(牧秀彦 学研M文庫) Amazon bk1


関連記事
 「陰流・闇仕置 隠密狩り 松平蒼二郎始末帳」(再録)
 陰流・闇仕置 悪党狩り
 陰流・闇仕置 夜叉狩り
 いよいよ佳境? 「陰流・闇仕置 悪淫狩り」
 そして怨讐の果てに 「陰流・闇仕置 怨讐狩り」
 松平蒼二郎再び 「陰流・闇始末 悪人斬り」
 今日も二本立て 「大江戸火盗改・荒神仕置帳」&「破斬 勘定吟味役異聞」

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2006.02.23

やはりあの人は…

 時代伝奇ネタとは直接関係ないですが、今後色々と関係してくるような気もするので取り上げるお話。現在開発中のホラーゲーム「四八」スタッフブログから
 以前から発売がバンプレストでホラーノベルもの、そしてイニシャルがT.I. ということで、シナリオライターの正体はもしかして…と囁かれておりましたが、どうも皆の予想通りの方だったようです。
 色々とアレなことがあった末に業界から姿を消し、あの人は今…状態だった方ですが(専門学校の講師をやってらっしゃるようですが)、かつて次々と――本人自身の作品はもちろんのこと、その傘下の会社から――斬新かつイキのいい時代伝奇ゲームを世に送り出していた方だけに、これが復活の第一歩になって欲しいものです。
 それはさておき、「バンプレスト様にも問題作家呼ばわりされておる者でござるが」って…頑張って再びバンプレストからONIを出して下さい。オリジナルスタッフはいなくなったけど、ご自分が中心になってた「ONI 流転」なら出せるんじゃないですか、飯島先生(あ、書いちゃった)。

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「怪~ayakashi~」天守物語 二ノ幕 浮気はやはりいかんです

 ほとんど一週間遅れですが、深夜アニメ「怪~ayakashi~」の「天守物語」第二回の感想を。
 私は鏡花のあまりいい読者ではないので、あまり変なことを言って笑われるのも恥ずかしいのですが、今回見ての感想は、「ああ、鏡花する気ないんだ…」といったところ。

 主君に鷹を取り戻すことを厳命された(この時「失敗したら腹を切れ」と大刀を渡されるんですが、これってどうなのかしら)図書之助が、もののけの盗賊二人組と共に白鷺城に潜入するも、妖しの術を操る女たちに襲われてとらわれの身に。そこで富姫に助けられた図書之助は、彼の求める鷹が、人間に恋して禁忌を犯して死んだ姫の母の生まれ変わりと聞かされます。しかし富姫の心にもまた、その母同様人間を恋い慕う気持ちがあると知った図書之助は、己の中の恋情を押さえきれず姫を抱きしめ、姫もまた彼に応えて――
 ううむ、これを「天守物語」と題されるのはいかがなものなのかしら、と思ってしまった、というのが正直なところ(いや、真面目なファンの方が見れば、ちゃんと鏡花しているのかもしれませんが…)。まさか図書之助と姫の濡れ場(の後)を見せられるとは思わなんだ。

 いや、「天守物語」を下敷きにしたファンタジックな恋愛ものとしてみれば、作画もそれほど悪くないしそれなりに楽しめるのですが、登場する女妖魔たちがバトルものっぽい術を使ったり、狂言回しらしい二人のもののけが実にうざかったりと、他の要素に浮気していて、どっちつかずの印象が強いのが残念なところです。

 おそらくはあと二回、ここまで来たら余計な要素は省いてベタな展開に徹して欲しいとも思ってしまうのですが、さてどんなものでしょうか。

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2006.02.22

今月の「シグルイ」 狂星墜つ

 「シグルイ」という作品については、基本的に雑誌掲載時ではなく、単行本になってからまとめて読むことにしています。単行本で一気に勢いに乗って、それでいて物語の隅から隅まで丹念に味わうのがこの作品に対してはふさわしい態度だと思っているのですが(いや、別に「チャンピオンRED」は付録のおかげで紐がかかっているから立ち読みできないからとかそういうわけではないのです)、ネットで今回何が起こったか知るに至って、どうにも我慢できず「チャンピオンRED」の最新号を手に取りました。

 巨星…いや狂星墜つ、と言うべきでしょうか。虎眼先生と伊良子清玄の死闘に決着が、遂についたのです。原作読者にとっては――というよりも「シグルイ」読者にとっては――ここで虎眼先生が死ぬ、死なねばならぬというのはよく理解しているわけですが、しかしそれでもなお、強い衝撃を受けた今回。
 本作の剣戟描写が、既に漫画界でもトップクラスに位置していることは今更言うまでもなく、例えるならば、高速で回転する独楽が止まって見えるかのように、紙上に描かれた絵でありながらもその中に強く鋭い動きを感じさせる、そんな本作の、作者のパワーは、秘剣流れ星対無明逆流れという魔剣と妖剣の一瞬の交錯を、見事に描ききっていたかと思います。

 しかし…敗れてもなお、無惨極まりない姿となってなお、虎眼先生が強烈な求心力を――言い換えれば魅力を持っているのには驚かされます。凄絶な私刑を経て、妖人として生まれ変わったかに見えた伊良子、紙一重の差ながら勝利を掴んだ伊良子ですら遠く及ばない強い何かを虎眼先生は持っていると、今更ながら感じ入った次第。
 岩本虎眼という人物の命はここで終わったとしても、これから先、その名は(ナニな漫画好きの間で)語り継がれていくことでありましょう。

 しかしながら――自分でも少し不思議なことに――私の読後の第一印象は「ようやく始まった…」というものでありました。虎眼が退場したとしても、その巨大な狂気が振りまき、その周囲の者たちの心身の奥深くに埋め込まれた種は、今まさにこれから、虎眼の流した血を糧にして芽吹き、育ち、大輪の花を咲かせるのでしょう。…おそらく、この惨劇の場に唯一居合わせなかった男の中からも。


 それにしても…豆腐とか白子という表現はありますが、うどん玉、という形容は初めて見ましたよ。


関連記事
 「シグルイ」第1巻
 シグルイ 第2巻
 「シグルイ」第3巻
 凶刃対妖刃 「シグルイ」第4巻
 今月の「シグルイ」

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2006.02.21

「花の十郎太」 赤槍天狗純情記


 文武に優れながらも自らの巨大な鼻にコンプレックスを持った勇士が、美しい姫に恋いこがれつつも、姫の恋を成就させるために尽力する…と書くと、あれ、と思う方も多いと思いますが、「シラノ・ド・ベルジュラック」を日本の戦国時代に翻案した作品であります。
 が、単なる翻案には終わらない魅力を持っているのがこの作品。まさに柴錬ならではの美しい男の心意気というものを描ききった、熱くも哀しい名作となっております。

 主人公・修羅十郎太は、名家の出ながらこれを惜しげもなく捨てて戦国の世に旅立った快男児。赤槍を持たせれば天下無双、更に古今の典籍に通じた文武両道の士で、その気になれば一国一城の主も夢ではないという男ながら、これが極めつけのロマンチストというのが面白い。
 男の本懐は富でも名誉でもなく、美しい女性に恋することと広言してはばからず、ただひたすらに美女に出会うことを夢見て旅する彼ではありますが…悲しいかな、彼の鼻はあまりにも大きすぎるのでありました。
 そしてプラトニックな女性遍歴(?)の果てに出会った理想の女性・由香里姫は、かつて彼が救い出した少女が美しく成長した姿。これぞ運命の女性! と思いつつも、自分の鼻へのコンプレックスから素直になれない十郎太。そうこうしているうちに彼女は復従兄妹のの美青年・醍醐主馬に恋してしまうという…嗚呼。
 しかも姫の幸せを願う十郎太は、風流など解さない主馬に代わり、名前を偽って由香理姫に手紙を書き、送り続けるという…シラノだ、やっぱりシラノだ。

 しかしそこは柴錬作品、己の心根を貫くためであれば信長であろうと秀吉であろうと屈しない十郎太の剛胆な男ぶりは実に爽快でありますし、その十郎太が己の知勇で戦国の世を渡っていく部分の物語は、実に面白く、決して分量の少ない作品ではありませんが――他の柴錬作品同様――ラストまで全く飽きることなく一気に読み通すことができました。
 そして何よりも…終盤に見せる十郎太の男ぶりは天下一品、最後の最後まで自分の誇りと生き方を捨てなかった十郎太が物語の最後に残す言葉には、もう涙ナミダの他ありません。
 一環して無頼=ダンディズム=男の心意気を描いてきた、柴錬先生ならではの、見事な男ぶりでありました。

 …まあ、やっぱり人間素直にならないと自分も周囲も不幸にしますわね、と身も蓋もないことを感じないでもないですし、何よりもこんなblogを書いているような非モテの毒男が読むと過剰に感情移入して大変なことになりかねないので要注意だなとも思うのですが、その一方で、柴錬ファン、時代小説ファンはもちろんのこと、世の純愛ものファンにもこの作品を読んでもらったら楽しかろうなあと感じたのも正直な気持ちであります。

 それにしても柴錬先生、若さ故の未熟・暴走というものに対していつもながらに厳しいと思います(大抵ロクな目に合わないんですよね、青臭いダメ人間キャラは)。


「花の十郎太」(柴田錬三郎 集英社文庫) Amazon bk1

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2006.02.20

「変身忍者嵐」 第01話「猛襲!! 怪魚忍者毒うつぼ」

 その毒煙で、とある村の庄屋屋敷を襲う血車党の化身忍者・毒うつぼ。その場に駆けつけた父・谷の鬼十と共に駆けつけたハヤテは、血車党の姿に強い憤りを覚え、自らも変身忍者にして欲しいと父に願う。自らの生み出した化身忍法が悪用されることを悲しんだ鬼十はそれに応え、ハヤテに術を施すが、骸骨丸に命を奪われる。一方、血車党の動きを探っていた公儀隠密タツマキは、首領・魔神斎の野望を知り、毒うつぼの襲撃を受ける。その前に現れたハヤテは変身忍者嵐に変身、毒うつぼを倒すのだった。

 今日は特撮時代劇ヒーロー紹介。今回は、それなりにメジャーなはずなのに何故か今ひとつ見ている人が少ないように思われる「変身忍者嵐」の第1話を。

○「血車党は狂ってしまった…」。骸骨丸や魔神斎を見ていると元々…

○血車党の平和のために化身忍者を作ったという谷の鬼十。あれをどのように平和利用するつもりだったのか、激しく気になります

○特撮ものの子役にしては妙に演技がうまいカスミ…と思ったら若き日の林寛子さんでした。

○天井に潜んでいるタツマキたちに気付いた魔神斎。床を叩くと、そこからミサイルが天井に向かって発射! …どういう仕組みなんだかわかりませんがとにかく凄い仕掛けだ

○初見参の嵐。この回だけ下半身がもさもさしたバージョンのスーツになってます。こっちの方が鳥っぽくて良かったんだがなあ

○周囲に縄をからみつけて檻を作り相手の動きを封じる、嵐の忍法自在縄。この辺の技をうまく見せていけば、いかにも忍者らしいアクションで面白かったと思いますが。

○ラストのナレーションの一節「果たして嵐は嵐を呼ぶか!?」。ベタですがなかなかうまい

○めちゃくちゃフレンドリーというか子供向けのしゃべりの次回予告。正直、キモいです


 ヒーローものの第1話としてはごく標準的な展開の今回。この時点では、嵐のファイトスタイルにまだ時代劇の味わいがあります。
 しかしハヤテの真っ青な忍者ルックは今の目で見ると(いや、同時期に放映されていた「快傑ライオン丸」の獅子丸の格好と比べても)どうにもこう、正直に言ってチープというか何というか…子供向け時代劇って考えてみれば色々と難しそうですね。


<今回の化身忍者>
毒うつぼ
 忍び装束に、顔と手のみがウツボの姿という異形の忍者。口から人間を溶かす黄色い毒煙を出す。体に巻き付けた巨大ウツボは着脱可能で、相手に投げつけてその動きを封じる。
 美輪明宏みたいな黄色い長髪が気になりますが、忍び装束から怪人の顔と手足が飛び出しているというのは、この作品での敵が単なる怪人ではなく、「忍者」が化身したという設定を体現した見事なデザインだと思います。

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2006.02.19

「暁けの蛍」 禅道と芸道と、現実と幽玄と


 ここ数年、一貫して室町伝奇小説を書き続けてきた朝松健が、世阿弥と一休宗純を中心に据えて描きあげた室町幻想小説。
 一休の方は、いわば氏の室町もののレギュラーであり、そのキャラクターはこれまでの室町伝奇ものでお馴染みのものでありますが、世阿弥の方は、私の記憶が正しければ、名品「「俊寛」抄 ――あるいは世阿弥という名の獄――」で――物語の中心でありつつも――遠景として描かれたくらいであり、直接的に描かれるのは初めてではないかと思います。
 そしてこの日本人であれば誰もが知るであろう二人の不思議な一夜を描いたこの作品は、今までの朝松室町伝奇の世界を踏襲しつつも、それを超えた新しい世界を予感させるような物語となっておりました。

 物語のストーリーは、いたってシンプルで、とある渡し場で偶然出逢った一休と世阿弥が、船を待つ一晩、互いの半生を語り合ううちに、不思議な舟のおとないをうけ、48年に一度、二十三夜にのみ現れるという幻の遊郭・暁蛍楼へと誘われるというもの。
 しかしその構成は複雑かつ趣向が凝らされており、一休の半生と世阿弥の半生、それぞれが少しずつ語られるうちに、それが次第に交錯し溶け合い、暁蛍楼で一つのクライマックスを迎えることになります。
 世阿弥により極められた能の世界では、一つの物語の中で現在と過去が絡み合い、生者と死者が交錯することは珍しくないことではありますが、まさに本作の物語自体が能の世界の中で描かれることどものように感じられたことでありました(そしてまた、終盤で二人の人生が根深いところで交わっていた――それが本当に現か幻かはわかりませんが――と明かされる件には、唸らされた次第です)。

 しかし本作で何よりも目を引くのは、作中で描かれる世阿弥像。幼い頃から、現実を超えた幽遠で玄妙な世界と交感する能力を持った世阿弥は、かつて天空を舞うのを見た美しく奔放な「風の乙女」の姿に取り憑かれ、能を通じて美なるものに近づき、そして一体化しようとする、一種狂熱的な人物として描かれます。そして、室町三代将軍義満や、幾多の女たちとの間に愛を交わし、美と芸の至高を求めつつも、過酷な運命の前に落魄し、どこまで行っても極め切れぬ幽玄の世界の追求に疲れ果てた時に出逢ったのが、一休であり暁蛍楼であった、ということになります。

 本作は、一言で言えば「愛と救済」という側面を一方に持つ物語。「さまよえるオランダ人」の如き暁蛍楼の遊君は、48年に一度、現世に現れた際にのみ魂の救済を受けられるという運命を背負わされた者ども。そしてその救済にあたるべき一休と世阿弥が作中で語る半生もまた、言い換えれば愛の記憶であり、そしてその記憶ゆえに苦しみ、自らも救済を待つ存在として描かれます。
 が、物語のクライマックスにおいて、己のファム・ファタル(一休の前に現れた彼女の名前にはニヤリ)に出逢った一休と世阿弥の、それぞれの救済の姿、魂の行方はあまりにも対照的。
 未読の方のために詳細を書かずにこの辺りを語るのは非常に難しいのですが――一休が現実の中でどこまでも真っ直ぐに相手を見つめ、その中に愛と救済を見出していくのに対し、世阿弥は現実を遙かに超えた永遠の世界の中に己の美を求め、そしてそれを愛した者、とでも言えばよいでしょうか。朝松健の読者であれば、終盤に世阿弥が己の本質を語るシーンに、(本作同様、朝松作品の新たな世界を予感させた)「荒墟」のある人物の姿を見て取るのではないでしょうか。
 そして、現実の中でどこまでも厳しく己を見つめ、鍛え上げる禅道を行く一休がロマンチストに描かれる一方で、幽玄の中に己を遊ばせ、美を求める芸道を行く世阿弥が、峻厳たるリアリスト――例えば岡本綺堂の「修善寺物語」を想起させる――に描かれるのは、単に二人のキャラクターの違いに留まらず、二人の往く「道」の本質の違いに思えるのが興味深いところです。

 朝松健の室町伝奇は、いわば室町時代という狂熱に浮かされたような時代の諸相を、怪奇や伝奇といった刃で切り取って提示し、その極端な姿の中に、現実の真相を見る、描き出すもの、と言えるかと思いますが、本作はその基本姿勢は変えることなく、時代の狂熱の奥の、より本質的な、現代にまでつながる部分にまで深く刃を進め、切り取っているかのように感じられます。
 そのアプローチは、以前にも、上に名をあげた「荒墟」で試みられていましたが、本作は、それをより深め、かつまろやかな形に仕上げたものと言えるかと思います。

 朝松作品世界の新しい方向性・手法が、本作において完全に自家薬籠中のものとなっているかと言えば、それはよくわかりませんが、しかし、その行く末が非常に楽しみであることは、間違いありません。


「暁けの蛍」(朝松健 講談社) Amazon bk1


 なお、本作については、本文中でも名をあげた以下の二作品をご覧になると、更に楽しめるかと思います。
「「俊寛」抄 ――あるいは世阿弥という名の獄――」(光文社文庫「百怪祭」所収) Amazon bk1
「荒墟」(光文社文庫「闇絢爛」所収) Amazon bk1

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2006.02.18

「SAMURAI DEEPE KYO」第36巻 十勇士解説もあるよ


 今週はマガジンでの連載はお休みでしたが、その代わりに? コミックスの最新巻が発売。収録されているのは、丁度第283話からの、狂と京四郎の対決がメインに描かれる「「陰」と「陽」」篇の途中…というかクライマックス、狂が復活して黄金色の神風をブッ放すまででした。

 連載で読んでいたときはあまり面白いと思わなかった狂vs京四郎ですが(途中でインサートされるサスケ&幸村vs鎭明は個人的に相当ヒットだったのですが)、こうして単行本でじっくり読んでみると、細かい描写が頑張っていてなかなか面白い。特に序盤戦での、狂の太刀筋を尽く相殺していく京四郎の太刀の描写は、アキラも言っているように、エネルギーとエネルギーのぶつけ合いに終始しているこの漫画のバトルシーンの中ではなかなか珍しい剣戟描写で感心しました。

 さて、毎週毎週この作品のことは採り上げているので、基本的には単行本のことはいちいち採り上げないようにしようと思っていたのですが、今回この第36巻のことを書いたのは、単行本のおまけページで、この巻で勢揃いした真田十勇士の解説記事があるため。
 十勇士ひとりひとりの裏設定…というか経歴を書いたこのコーナー、もちろんこの漫画オリジナルの設定ではあるのですが、かなりの部分「史実」…というか、先行するフィクション(本文中でも名前が挙げられている立川文庫など)を尊重しているのが面白いのです。
 戸沢白雲斎、浅井長政の侍大将、滋野三家、出羽亀田城etc.(最初のお方は別として、って、白雲斎先生がいたのか、この世界観に!)この作品絡みで名前を見るとは、失礼ながら思っていなかったネタばかりで、何だか新鮮な驚きがありましたよ。
 この漫画で初めて十勇士を知った人が、いつか別のところで、この記事の中の言葉を見かけて、「あの時のあれは…」と思ってくれたら、とても楽しいことですね。

 …ところでやっぱり鎌之助は男なんだろうか。幸村のコメントを見るに。


「SAMURAI DEEPER KYO」(上条明峰 講談社週刊少年マガジンKC) Amazon bk1


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 今週のSAMURAI DEEPE KYO
 限界突破を超えて 「SAMURAI DEEPER KYO」第32巻

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2006.02.17

「外法師 レイ鬼の塚」 たとえ鬼と化してでも


 外法師シリーズ第三弾は、無位貴族の屋敷を舞台に起こる奇怪な事件を描く「レイ鬼の塚」(レイの時は、本来は「礪」の右側)。
 帝への嘆願書の代筆のために舞台となる人里離れた屋敷を訪れた主人公・玉穂ですが(外法師の他に代筆屋もやっています)、その屋敷で開かれる法会のために招かれた高僧が、ある晩大量の血を残して姿を消すという怪事が起こり、玉穂が捜査に手を貸すこととなる、というお話。

 本シリーズは、前二作も、人の心のダークサイドを丹念に描き出した作品であり、それが一つのカラーとなっていましたが、本作でもそれは変わらず。
 主人公を取り巻く人物たちは、官位に固執する主人にエキセントリックなその妻、不気味な従者に外法師嫌いの検非違使と、いずれも一筋縄ではいかぬ人物たち(もちろん、玉穂にどこまでも忠実に仕える従者の綺童丸や、彼女に暖かく接する高僧師弟も登場しますが…)。

 そんな人物たちが生み出すギスギスした空気の中で玉穂が知るのは、その土地で塚に封じられていた太古の怨霊・レイ鬼の存在。しかしながら、そのレイ鬼の跳梁の背後には、怨霊よりもおぞましい人の我欲と邪念が――と、待っていたのはこのシリーズらしい展開で、人の心の生み出す暗い陰に玉穂が心身ともに追い詰められていく様は、やはり非常にヘビーなのですが、しかしそれでもきっちり読ませてしまうものがあるのは、作者の筆力というものでしょうか。
 未読の方のために詳しくは書きませんが、登場人物の一人が、本人自身は優れた人物で、また自らの夢を持ってしっかり生きながらも、まさにその生き方自体が、一部の他者にとっては不快であり心乱すもの、というキャラクターに設定されているのには感心しました。

 微かな絆で結ばれた仲間たちとともに、かろうじて勝利を掴んだ玉穂ですが、しかしそこに残るのは、人が人である限り――その人がたとえ悪人ではなくとも――その心の中の、鬼と化してでも貫きたい願いが、同じような事件をまた引き起こすかもしれない、という事実。
 それでもまあ、人は人として、自分は自分として生きていく、という結末は、厳しいけれども、何だかそれはそれでほっとさせられるものがあるように思えます。
 いつもながら、重いながらも、それだけに読み応えのあるシリーズであります。


「外法師 レイ鬼の塚」(毛利志生子 集英社コバルト文庫) Amazon bk1


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2006.02.16

「闇を斬る 四神跳梁」 闇の四神、江戸を騒がす


 「闇を斬る」シリーズももう三冊目。好漢・鷹森真九郎と、前巻で比喩でなく登場した謎の敵“闇”との死闘もいよいよ佳境、裏の世界の住人であったはずの闇一党が、公然と幕府に牙を剥きます。それと並行して繰り返される真九郎とその周りの人々への襲撃。果たして真九郎と闇一党との対決の行方は…というお話です。

 非常に正直に言ってしまいますと本作…というよりこのシリーズ、基本的なストーリー展開が

 真九郎の日常→盟友の同心・桜井琢馬に呼ばれて事件の話→情報収集→敵の襲撃→琢馬と話す→日常→情報収集or襲撃…

のループだけでほとんど構成されているのですが、それでも面白いものは面白い。

 本作では、裏世界の暗殺者集団と思われた“闇”が、江戸の四方で徒党を組んで高利貸しや座頭たちを襲撃、それぞれの凶行の現場に青竜・玄武・白虎・朱雀の四神の名を残すという派手な活動を開始、さらには江戸市中の警護にあたっていた先手組(江戸城本丸各門の守護や将軍警護に当たった役職)たちまでも血祭りに上げるという、ある意味幕府に宣戦布告とも言える大胆な所業に出ます。
 その目的は何か、そして次の四神出現の場所と時は…というサスペンス的な面白さが加わったのが、前二作と大きく変わって面白くなった点であります。

 そしてその一方で――これは未読の方のために詳細は伏せておきますが――真九郎に対して繰り返される刺客たちの波状攻撃の裏に、真九郎殺害以外のもう一つ意外な狙いが隠されていたりと、シリーズのルーチン的な部分を逆手にとったかのような展開が待っているのも面白い。

 もちろん、これまでも魅力的だった剣戟描写についても一層磨きがかかっており、上記の刺客たちが操る諸剣術流派の剣と、真九郎の直心影流の激突シーンは、詳細に過ぎることなく適度に抑制の効いたスピーディーな描写で、迫力十分。
 特にクライマックスでの闇一党との決戦で真九郎が複数の剣客相手に見せた刀の冴えは、まさに大殺陣にふさわしいものであったかと思います。

 死闘の果てに闇一党に大打撃を与えた真九郎ではありますが、しかし敵の真の狙いとその背後の黒幕の正体の謎はいまだ謎のまま。おそらくは起承転結の“転”にあたるであろう本作ですが、さてその先に待ち受ける“結”はいかがなるでありましょうか。楽しみです。


「闇を斬る 四神跳梁」(荒崎一海 徳間文庫) Amazon bk1


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2006.02.15

「聖八犬伝 巻之一 伏姫伝奇」

 今回取り上げるのは電撃文庫で全5巻のシリーズとして刊行された鳥海永行の「聖八犬伝」――電撃文庫だからして当然ライトノベル版八犬伝…と思いきや、単純にそうとは言えない、数ある八犬伝物語の中でもなかなかユニークな存在となっているのが面白いところであります。

 ではこの「聖八犬伝」のユニークな点とは何かと言えば――まだ全巻読んでないところで言うのもよく考えたら如何なものかとは思いますが――史実とのリンク、という点。もちろん原作「南総里見八犬伝」自体、舞台となる室町時代の史実をそれなりに踏まえているのは言うまでもありませんが、あくまでもそれは主人公たちの活躍の遠景としての史実。しかしこの「聖八犬伝」では、史実がかなり密接に、物語の構造の中心にまで関わってくるのではないか、という印象があります。

 この第1巻は、終盤にようやく犬塚信乃が登場するものの、その大半を費やして描かれるのは永享の乱に始まり、以後、結城合戦から延々と続くこととなる関東騒乱の世界。
 歴史の教科書などでは、たださえややこしい騒乱の続く室町時代の政治文化の中枢である京周辺で起きた騒乱が中心に描かれ、関東でのそれは、中央に関係のあるもののみクローズアップされて描かれている感がありますが、しかし当時の関東は、中央に負けず劣らずの無法地帯…と言っては言い過ぎかもしれませんが、プレ戦国時代ともいうべき状況であったかと思います。

 本作では、その状況を背景にして――というよりその状況の中に、八犬伝の設定とキャラクターをブチ込んだ、といったところ。そしてこれがなかなか面白いのです。
 特に感心したのは、第1巻の実質的主人公ともいうべき里見義実のキャラクター描写。原作では名君仁君のイメージのある里見義実(そういえば正月の「里見八犬伝」では長塚京三がえらく理想主義な義実を演じていましたっけ)ですが、本作では知略縦横…と言えば聞こえがいいが、むしろ陰謀謀略の人ともいうべきキャラクター像となっているのが実に面白い。
 考えてみれば結城合戦でボロ負けした状態から安房に逃れ、当時四者が割拠していた中に入ってあれよあれよという間に安房を統一してしまった人間が、人の良い正義の味方であったとは思えませんですね。

 更に面白いのは、このように史実をよりクローズアップして描き、登場人物をより生臭く描きつつも、八犬伝として抑えるべき点はきちんと抑えている点。もちろん、本作ならではのアレンジは随所に為されているのですが、イベント進行――こういう言葉の使い方はあまり良くないとは思いますが――とその(表面的な)結果は原作とほぼ同じ、というのが、かえって原作との違い――というよりもむしろ原作で描かれたものを、別の側面から見た場合に浮かび上がるものを明確にしているように思えます。

 史実に虚構をぶつけた時に生じる火花でもって、隠された史実の陰の部分を照らし出すのが伝奇物語とすれば、本作は、伝奇物語の虚構に史実をぶつけることにより、虚構の陰の部分を照らし出そうとしている、というようにも感じられることです。

 と、まだ第1巻しか読んでいない時点で思いこみで語りすぎたような気もしますので今回はこれまで。次巻以降、八犬士たちが登場する中でこの印象がどこまで変わるのか、はたまた変わらないのか。これもまた一つの楽しみであります。


「聖八犬伝 巻之一 伏姫伝奇」(鳥海永行 電撃文庫) bk1


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2006.02.14

「怪~ayakashi~」天守物語 序ノ幕 美しき隠れ神の姫

 深夜のアニメ枠で怪談・幻想譚を描こうというユニークな試みである「怪~ayakashi~」、今月初めまで全四回で「四谷怪談」を放送しましたが、この10日からは泉鏡花の「天守物語」が放送されます。
 「四谷怪談」は全話ビデオに撮ったもののまだ見ていないので(いずれきちんと見て感想書きます。ものがものだけにいい加減なもの書けないので(汗))、順番が前後してしまいますが、「天守物語」第一回の感想を。

 「天守物語」と言えば、白鷺城の妖しの女城主・富姫と若侍・図書之助の奇妙な恋の物語。主人公カップルをはじめとして、様々な登場人物…というか妖魔の登場するこの作品を、どのように調理してみせるのか、気になっていましたが、第一回を見た限りでは、鏡花してないなあ…というのが正直なところ。
 姫をはじめとして、城に巣くう妖魔たちのビジュアルはなかなか良く描きだせていたと思うのですが、冒頭に登場した山賊たちのキャラクターや、彼らが城の住人たちに貪り食われるシーンは、正直言って蛇足なのでは…と思わざるを得ませんでした。

 とはいえ、鷹を探して城に近づいてきた図書之助と、彼に興味を持って現れた姫(天守からホイホイ出てくるのはいかがなものかと思いますが)が会話を交わすシーンは、無感情に見える姫の中に恋情が芽生えていく様が見て取れるようで、なかなかにいい感じでありました。
 …というかここまでくると姫は別人ですが、それもそのはず、本作の中では姫をはじめとする白鷺城の住人は、かつて人界に入り交じった神の裔「隠れ神」と呼ばれる存在。人の肉を喰らわねば命を保てず、そして人に恋したときその命を失うという存在――何だか終盤の展開が見えてきたような気がしますが、さて。

 第一回ではまだ図書之助は天守には向かわず、城の周辺で鷹を探しているのみ。果たして彼が天守に足を踏み入れたとき物語はどう動きますやら。上記の隠れ神の設定の他、姫の過去らしきものや図書之助の(人間の)恋人の存在など、様々に改変された箇所があり、それがどのように作用するか、色々な意味で興味がわきます。
 …まあ、どんな展開になろうと原作のラストを考えれば全く心配ないわけですが。ちゃんとこちらの方にも天守に獅子頭はありましたし。

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2006.02.13

妖異大年表をwiki化していますよ

 時代伝奇年表「妖異大年表」をwiki化しました。といってもまだまだ試験運用なので平安時代の一部を掲載したのみですが、基本的なスタイルはこれで出来たと思います。
 一応うちのサイトのメインコンテンツであるはずの妖異大年表でしたが、データを集めるのに手間がかかる以上に、更新に手間がかかっていたので(さらにこのblogの毎日更新を最優先していることもあり)、何とか省力化したいと思っていました。結局、html化していると手間がかかりすぎるため、更新が比較的簡単でデザインやリンクもいじりやすいwikiの形にすることにしました。

 まだまだ現在html版にて公開中のデータの移行&手持ちのデータ入力には時間がかかりそうですが、少しずつデータを増やしていくつもりです。あとは異形列伝のwiki作品集成の方と連携を取っていきたいのですが、それは一番最後の作業かな。
 …あと、コーナー自体の名前が昔からあまり好きではなかったので、何とか変えたいと思っているのですが、なんぞいい名前はないでしょうか。

 ちなみに、異形列伝のwiki化の際にはフリーのwikiサービスを使いましたが、今回はniftyのサーバ上に自前でpyukiwikiというwikiエンジンを使用して設置しました。
 フリーのサービスは運営の安定性や機能の面で不安感が常につきまとうので、色々と試した末、機能の拡張性もあって、何よりもniftyに設置可能な(これ本当に大きい)pyukiwikiを選びました(本当は一番いいのはpukiwikiだと思いますが、niftyだとLaCoocanでも使わないことには動作しないし、かと言って立ち上がったばかりの有料サービスに飛びついても痛い目に遭いそうだし…)。
 何故かInterWikiがうまく動かないのを除けば、まずはきちんと動作していると思います。

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2006.02.12

「手習重兵衛 道中霧」 そして道はクライマックスへ続く


 手習重兵衛シリーズ第五弾は、濡れ衣を晴らし、宿敵との決着もつけた重兵衛が、ついに侍を辞める決心をして江戸を発ち、郷里の諏訪に帰るまでの物語。タイトルにあるように道中を行くシーンがメインの、極端な言い方をすればそれだけのストーリーなのですが、しかしもちろんその中には面白さが詰まっていることは言うまでもありません。

 剣鬼・遠藤恒之助を破り、既に後顧の憂いなし、と思われた重兵衛ですが、恒之助の背後にいた謎の忍び集団は暗躍を続け、幾度となく道中で重兵衛を襲います。そしてまた、一度はどん底に落ちた恒之助も、再起を賭けて重兵衛をつけ狙うことに。
 一方、江戸では重兵衛の藩の重役が謎の死を遂げ、諏訪でも藩の目付頭が忍び集団の襲撃を受けるという変事の連続。背後には諏訪を揺るがす陰謀が隠されているのか、遂に一連の事件の黒幕である天狗面の男が登場、いよいよ物語はクライマックスに向けて突き進んでいきます。

 が、肝心の主人公は道中の最中、それでは江戸と諏訪の物語はどうやって進行するかと言えば、それはもちろんこれまで登場した重兵衛の頼もしい仲間たちがいるわけで、江戸では重兵衛の親友・ぐうたら同心・惣三郎が事件を捜査、遂には同じく親友の左馬助と共に、重兵衛を追って諏訪に旅立つことになります。
 そして諏訪では、かつて重兵衛を兄の仇と狙った天才剣士・松山輔之進が、重兵衛の元許嫁・吉乃の兄である目付頭のボディーガードとして活躍。更に面白いことに、吉乃と何やら微笑ましいムードになってきて…というおまけ付きであります。

 と、もう一人、憎むべき剣鬼であったはずの恒之助もまた、己の誇りを取り戻すために、今一度重兵衛の前に立つために再度腕を磨くというドラマを見せます。更に、単なる体の繋がりだけがあるはずだった女忍との間に不思議なロマンスも生まれ、何だか彼もまた、悪役ではなく、きちんとした一人の人間として、その先行きが気になるキャラクターとなってきたのが面白いところ。

 つまり本作は、これまで描かれてきた物語のキャラクター・要素が、クライマックスに向けてグッと集約されていく様を描いた作品とでも言えばよいでしょうか。大河ドラマのクライマックス寸前の盛り上がりがここにはあります。
 そして本シリーズも残すところあと一巻。…さて、いかが相成りますか。


「手習重兵衛 道中霧」(鈴木英治 中公文庫) Amazon bk1


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2006.02.11

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 炸裂サムライブロー

 先代紅の王の血から生み出された兵士たちは、壬生の都をも蹂躙し、外の世界をも侵さんとしていた。一方、狂たちは、未来視の巫女と信じるゆやに迫る先代の前に辿りつく。紅虎・サスケが、幸村が、京四郎が三連続攻撃を仕掛けるが、先代は玉座から微動だにしない。更に仕掛けた狂の刃も先代には届かないかに見えた次の瞬間、狂の拳が先代の顔をとらえる。久々の自分の体で、刀より拳の方がうまく扱えるとうそぶく狂に対し、遂に先代が立つ――

 某所で愉快なやりとりがあったので一体どんなことになっているかと思われた今週のKYO、確かに話に進展はないっちゃあないですが、狂渾身のワンパンがやはり爽快でありました。

 それにしても、今回も真っ先に仕掛けた紅虎は、そんなに雑魚扱いされるのが好きなのかと思いますが、自分の生みの親である先代に対して刃を向けられない(ようにインプットされている)京四郎の方が雑魚度が高く感じられたことです。紫微垣はサスケから京四郎に返されなくて正解かも知れん…まあ、京四郎が(そして今の壬生一族たちが)GENKAITOPPAして先代に反抗するという展開もアリだとは思うのですが。

 それにしても、自らは無から有を生み出す、まさに神に等しい力を持ちながらも、未来視の巫女たちに執拗にこだわる先代が不思議。たとえ神様であっても不確定な未来はわからないということなのか――この辺りに先代打倒の鍵があるのだと思いますが、今のままだと、予言ができる時人の方が上のような気がしてきた(あれはあれでいつの間にか忘れ去られた予言ばかりでしたが)

 ちなみに次号は休載。

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2006.02.10

「鴉婆 土御門家・陰陽事件簿」 進む道は違えども、挑むは同じ…


 土御門家・陰陽事件簿の第二弾は、大黒党なる陰陽師集団が登場し、波乱含みの展開。
 江戸幕府の庇護の下、全国の陰陽師を体制下に組み入れたかに見える土御門家ですが、その支配を快く思わない陰陽師集団が大黒党。ついには土御門家当主へのテロに走った大黒党の刺客を斬った主人公・笠松平九郎ですが、斬った相手にはあと三人の兄弟がいて…と、市井の事件に加えて大黒党の報復の刃にも目を光らせることになった、というのが今回の基本設定。

 もちろん、基本は陰陽師の視点を通して市井の人間の心の襞を描いたこのシリーズ、突然土御門家vs大黒党の術合戦、剣戟合戦になったりはしないことは言うまでもない話。また、土御門家に反発しているとはいえ、大黒党もまた、人の心の悩みを癒し・救う陰陽師であり、人々を苦しめる許せぬ悪には、平九郎同様、怒りを燃やし、仕置きすることに躊躇うものではありません。
 そんなわけで、本作は平九郎と大黒党の里村三兄弟が、時に対立しつつ、時には協力しつつ、市井の人々の心を悩ます様々な闇に対決を挑むというスタイルになります。

 物語を構成する要素が増えただけに、ややもすると、それぞれの要素が消化不良になりかねないこの展開ですが、しかし本作においてはそれは全くの杞憂。主人公の平九郎と対立する存在が現れたことにより、物語と、そして何よりも平九郎自身のキャラクターに、より一層の深みが生まれたと感じられます。

 と、その一方で、本作を何とも楽しく、味わい深いものとしているのが、タイトルにもなっている「鴉婆」こと、大黒党兄弟の母・お勝婆さんの存在。
 最初は自分の息子を討った平九郎を討つため、素性を隠して近づくお勝さんですが、平九郎のあまりに人を疑うことを知らない優しさと思いやりに触れて復讐を思いとどまることに。元々、夫同様大黒党が土御門家と対立することに反対していたお勝さんは、平九郎の存在に、土御門家と大黒党の架け橋となる希望を見出して、やがては平九郎の理解者かつ頼もしい味方として活躍する、という次第なのですが、このお勝婆さんのキャラクターが何とも良いのです。

 気に入らぬことがあれば、大の男を口で言い負かす…どころかぶん殴りかねない強烈さを持ちつつも、豊かな教養と、強い正義感、そして恩人のためならば自らの命を投げ出しても悔いないほどの人情の篤さを見せるという、実に気持ちの良い人物。さらに、歳はとっても女性として可愛らしい面を見せたり、かと思えば酒に関してはうわばみ並みだったりと、何とも「おいしい」キャラクターであります。
 彼女がいなければ、本作の雰囲気も、展開もまず間違いなく変わっていたでありましょうし、本作のヒロインはまず間違いなくこのお方、と言い切ることができます。

 物語そのものの魅力はいわずもがな、主人公や脇役たちの個性もいよいよ引き立ってきたこのシリーズ、第一作を読んだときにはここまで楽しい作品になるとは思ってなかった、というのが正直なところですが、何はともあれ、既に刊行されているシリーズ第三作を読むのがいよいよ楽しみになってきました。こりゃ文庫化を待っていられないかな。


「鴉婆 土御門家・陰陽事件簿」(澤田ふじ子 光文社文庫) Amazon bk1


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2006.02.09

「書院番殺法帖」 主役設定の妙が光る


 もうじきシリーズ第3巻が発売されるのにまだ第1巻すら紹介できていなかったので慌てて紹介。面白いのにどうもすみません。
 さて、本作はタイトルの通り幕府の書院番――若年寄の下で、城内警備・儀式の世話役・将軍の外出時の随従等に携わった役職――同心である加納左馬ノ助の活躍を描く痛快時代小説であります。

 時は天保の改革の直後、改革の中で経費削減のため多くの旗本が役を解かれた時代。ふとしたことから二ヶ月前に死んだはずの間宮林蔵の生存を知った左馬ノ助。林蔵を訪ねてその訳を尋ねた左馬ノ助ですが、林蔵は何者かに殺害され、左馬ノ助は林蔵の娘・お凛と共に林蔵殺害の犯人と、彼が生前探索していた事件の謎を追うことになります。やがて、役を解かれた旗本たちが、不穏な動きを見せていると知った左馬ノ助たちですが、その陰謀は薩摩、そして水戸にまで繋がり、果ては江戸城中にまで魔手が及ぶという大事件に…というストーリー。

 内容的にはかなり手堅い作品、という印象で、時代小説のツボをきちんきちんと押さえて丁寧に作られている作品と言えるでしょうか。陰謀あり、剣戟あり、恋愛ありと娯楽時代小説の要素をうまく盛り込み、また、キャラクター面でも、左馬ノ助を助ける仲間たちとして島田虎之助や勝麟太郎が、更に物語の重要な鍵を握る人物として調所広郷や藤田東湖も登場し、史実虚実織り交ぜてバラエティに富んだ顔ぶれとなっています。

 しかし何よりも感心したのは、主人公を書院番という役職に設定したこと。書院番という役職自体は、もちろん私も知っていましたが、その書院番が逮捕権を持って市中見回りを行い、また遠国調査で遠く旅に出ることもあったというのは、恥ずかしながら初めて知りました。つまり、その気になれば、江戸城内から江戸市内、はたまた江戸を離れて遠国までと、自由かつ自然に舞台を設定し、主人公を活躍させることができるわけで、これは作者の着眼点の勝利と言えるでしょう。

 しかしながら左馬ノ助の冒険はまだ始まったばかり。シリーズ第2巻では、左馬ノ助の前に意外な人物が次々登場するのですが…そちらの紹介はまた後日。


 と、今気づいたけどここの名前はやっぱりミスなのでしょうなあ…自分が間違えたかと思ってちょっと焦ったよ。


「書院番殺法帖」(えとう乱星 大洋時代文庫) Amazon bk1

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2006.02.08

今週の「Y十M」 般若党跳梁

 花嫁行列を、新婚初夜の二人を襲う者たち。いずれも奇怪な術を操る彼らは、皆一様に般若面を付け、自らを般若組と名乗る。そして彼らに捕らわれた新郎の一人が目を覚ましたのはいずこかの屋敷。そして彼の前に妖しの影が…

 うわ、あらすじにしてみると相変わらずひどく分量少ないですが、今回は謎の(笑)般若組の一団が出現の巻。鞭を操る般若面、拳法を使う般若面、残忍に剣を振るう般若面、網のようなものを使う般若面、あと猿みたいな般若面と、彼ら般若組の跳梁がじっくりと描かれています。
 相変わらず掲載誌の紙質の関係で、ナイトシーンが読みにくいのは困ったものですが、弱い奴には滅法強い(´Д⊂五…いや般若組のアクションは、なかなかダイナミック。特に一番最初に登場した鞭使いの般若面のアクションはえらく豪快で、これが般若面をつけてなかったらかなり笑撃的なシーンだったと思います。
 って、呑気なこと考えてしまいましたが、冷静に考えたらこりゃ滅茶苦茶陰惨な展開ではないですか。笑ってる場合じゃないや。

 そしてラストは、金はあるけども力はなさそうな色男の前に、頭隠して…な、けっこう仮面みたいな般若面の登場したところでつづく。いや、青年誌の漫画みたいになってきましたなあ<青年誌だもの
 ちなみに今回までが、一ヶ月後に発売の第三巻に収録分とのこと。こんなところで単行本がヒキになるとは、うぬ、考えおったな。そして三月は何と隔週ではなく連続掲載とのことで、こりゃかなり出版社側も本腰入れてくれるようですね。

 と、今回お休みの十兵衛先生+堀の女たちは、表紙見開きにのみ登場。前回とはまた違ったタッチで、実に格好良い八人の姿が描かれています。今回もさくらの男前っぷりにクラクラしましたが(位置まで主役みたいです)、注目は、今まで穏やかな表情が多かったお品さんが、実にいい闘志に満ち満ちた顔を見せていること。こりゃこの先の活躍が楽しみですね。


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2006.02.07

「悪滅の剣」 さらに味わい深まる裏稼業譚


 前作「辻風の剣」に続く裏稼業シリーズ第二弾。辻番所の老爺・留蔵、辻謡曲の浪人・田部伊織、そして記憶喪失ながら抜群の剣の冴えを見せる青年・辻風弥十郎の三人が、法で裁けぬ悪を討つ裏稼業を営むという基本ラインはそのままですが、今回は、彼らのライバルである凄腕の岡っ引き・佐吉の描写と、その佐吉と裏稼業チームとの関係が変化していく様が特に面白く感じられました。

 留蔵とはかつて兄弟分であり、悪を強く憎む心も同じという佐吉。しかし所詮岡っ引きと裏稼業は水と油、しかも佐吉自身、表だっては裁けぬ悪党を密かに懲らすという裏の顔を持つ、いわば留蔵たちとは商売敵の関係であります。隙さえあれば相手を出し抜き、ひっくくってやろうという佐吉は、言ってみれば裏稼業を扱う作品としてみれば定番のキャラクターとも言えるのですが…

 が、そんな両者の関係、特に佐吉の心に変化が見えてくるのが今回の物語。それまでいがみ合っていた両者が、様々な事件に立ち向かい、解決していくうちに徐々にお互いを理解し合い、心が結びついていくという、定番ではありますが熱い展開が繰り広げられます。
 その佐吉の変化は、仇敵に陥れられ、命の危機が迫るところを弥十郎らに救われたことが、その端緒となっていることは間違いありませんが、しかしそれは単に自分を救ってくれたから、などということではなく、自分と弥十郎たちに同じ熱い血が流れていることが感じ取れた、ということなのでしょう。

 そしてまた、佐吉と弥十郎たちの心が結びついていくのを、嬉しいような寂しいようなな心境で見守る留蔵、というキャラ配置も、また何とも味わいがあってよいのですよ。

 必殺もの+人情ものというベースに男泣き度高めの味付けを加えたこの物語、江戸の社会の裏側を描きつつも、どこか安心できる、そして心地よい空気が流れているように感じられます。果たしてこの先、留蔵チームと佐吉との間がどのように変化していくかはまだまだわかりませんが、安心して続巻を楽しむことができそうです。

 ちなみに本作には、牧秀彦ファンならにやりと出来る隠れキャラが登場。よかった、あの人はちゃんと元気に生きていたんだ…とちょっと嬉しくなりましたよ。


「悪滅の剣」(牧秀彦 光文社文庫) Amazon bk1


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2006.02.06

「菅原幻斎怪異事件控」 水面に映る彼岸の影


 江戸に暮らす拝み屋・菅原幻斎が、様々な怨霊・変化が引き起こす事件と対峙する連作怪奇短編集です。
 主人公幻斎は、その名字が示すとおり菅原道真公の血を引く霊能力者ですが、しかしいかにも伝奇チックな設定と裏腹に、自身はくたびれた初老の男。その幻斎が住処の近くを流れる川面に不思議な影を感じ取ったときが、奇怪な事件の前触れであり――望むと望まざるとに関わらず、事件の渦中に彼も巻き込まれていく、というのが毎回のパターン。

 と書くと、いわゆるゴーストハンターもの的な活劇ムードを想像されるかもしれませんが、本編から受ける印象は、どこかのどかであると同時にどぎつく、そしてまた陰鬱なもの。これに近いムードのものを探せば、江戸時代の怪談・諸国奇談が挙げられるでしょうか(もっとも、本作に登場する事件・怪奇現象は、いずれもまさに江戸時代の怪談・奇談を含めた古典から引かれているものなので、当たり前といえば当たり前の話なのですが)。

 しかしながら本作、物語の構造としては、それら先行する怪談・奇談と大きく異なってると言えます。そうした作品の主人公・語り手のほとんどが、ごく普通の人間であり、自らや周囲が体験した怪異に怯えるばかりなのに対して、幻斎は霊能力者。言ってみれば、此岸に立ちながらも、同時に彼岸の者の声を聞き、彼岸の者の目で此岸を見ることができるのです。
 つまりは、同じ(ような)事件を扱いながらも、本作では、原典よりも複層的で、多角的な視点からそれを描き出しているのです。

 正直なところ、私は霊能力者を主人公とした物語があまり好きではありません。一般にそうした物語は、主人公がその異能ゆえに、普通の人間であれば当然感じるであろう恐怖心に薄く、その怪異の存在に疑問を持たないという点が物語の興趣を殺いでいるように感じられるのです(あくまでも個人の印象ですよ)。
 その点からすれば、本作はまさに「そうした物語」ではあるのですが、しかし上で述べたように、そのような主人公だからこそ、彼岸から見た此岸の姿に目を向け、その怪異の根本にある人間というものの真実を浮き彫りにすることができるという視点には、なかなか感心させられました。

 すごく面白いか、と聞かれると素直に応とは言いかねるのですが(それはあくまでも上記の僕の個人的な趣味によるのだと思いますが)、しかし何だか不思議と心に残る読後感が印象的なこの作品。続編も最近発売されましたので、こちらも読んでみようと思っているところです。


「菅原幻斎怪異事件控」(喜安幸夫 徳間文庫) Amazon bk1

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2006.02.05

「仮面の忍者赤影」第02話 「甲賀の悪童子」

 織田家からの使者に変装し、藤吉郎暗殺を狙う霞谷七人衆・傀儡陣内。その企みを察知して陣内の前に立ち塞がる青影だが、救援に現れた七人衆・悪童子に捕らえられてしまう。一方、赤影も七人衆・闇姫の忍法髪あらしの前に大苦戦。意識を失った赤影が目覚めてみれば、そこには湖上の船の上に捕らわれ、爆破されようとする青影の姿があった。救援に向かうも上空からの悪童子の攻撃に苦戦する赤影。しかしそこに大凧で駆けつけた第三の影・白影により悪童子は倒され、青影も無事救出されたのだった。

○竜巻に飛ばされる織田家の使者。後になってみれば、これは闇姫が起こしたものとわかります。

○忍法顔盗みで使者そっくりに変更する傀儡陣内。おお、如月左衛門! しかし陣内のインパクトあるキャラクターが相まって、既にオリジナルの風格が(少なくともビジュアル的にちょっと似てる「SHINOBI」の如月左衛門より遙かに上ですじゃ)

○しかし詰めが甘い陣内、使者を生かして転がしておいたのを青影に発見され、おかげで藤吉郎暗殺は大失敗。しかも肉弾戦では青影に圧倒されてしまう。

○青影の鎖で城から吊され、恥も外聞もなく助けを呼ぶ陣内。だめだこりゃ…とそこに登場した悪童子、ビニール袋みたいなので青影を捕獲。

○これまでに登場した七人衆は、比較的(時代劇的には)まともな格好でしたが、この悪童子はおかっぱ頭に青黒いメイク、水玉模様のピエロ服と、もの凄い変態ぶり。言動も異常で、いや全く忍んでいません。

○武家に化けて旅する赤影を襲う陣内と闇姫。武家の姿が消えたかと思えば、樹の上から「お目当ての赤影が現れては迷惑かな?」と現れる赤影。いちいち格好良すぎます、赤影さん。

○湖上の船に爆薬と乗せられ、導火線に火をつけられる青影。最初はおいらに構わないでと気丈に叫ぶも、爆発寸前には助けを求めちゃう青影がかわいい。

○船に繋いだ綱の上を渡る赤影を、上空から爆弾矢で狙う悪童子。「ウヒョッウヒッウヒャハヤヒャ」と奇声をあげながら矢を射まくる悪童子の姿は、どう見ても変質者です。ありがとうございました。

○赤影青影絶体絶命のピンチに、颯爽と大凧で駆けつける白影。バックに流れる爽快な主題歌と相まって、身震いするほど格好良い名シーンです。

○ラストに現れる異常に貫禄のある覆面姿の武士…おお、幻妖斎様だ。こっちの装束も格好良いです。


 今回は何と言っても爽快極まりない、「颯爽」という言葉はこのためにあるかのような登場シーンを見せる白影初登場が非常に印象に残ります。
 白影役の牧冬吉氏は、確かこの時まだ30代半ば。それなのにこの老成した存在感…そこにいるだけで安心できる、気分が明るくなる素敵なおじさんであります。

 また、赤影が闇姫の忍法の前に、敗北に等しい(七人衆が青影と一緒に殺そうなどと思わなければとっくに死んでいたところですな)結果に終わるのも面白いところ。主人公であろうとどれだけ強大な能力を持とうと、組み合わせが悪ければあっさりと敗れ去ることもある。ある意味横山光輝イズム溢れる展開です。


<今回の忍者・怪忍獣>
傀儡陣内
 霞谷七人衆の一人で、その名の通り傀儡師姿の男。真っ黒で無表情な顔を持つが、忍法顔盗みで他人の顔をコピーして変身することができる。また、くぐつの術で相手の体の自由を奪い、操ったり、分身たる傀儡変化を使役する能力を持つ。青影一人に対し、傀儡変化を連れて戦いを挑んでも圧倒されるなど、直接戦闘はあまり強くないかもしれない。

傀儡変化
 傀儡陣内が操る分身人形たち。小さな黒い木の人形が、陣内の念で人間大に変じる。戦闘力はいまいちの様子。箱形の頭に上から下までの黒装束、さらにアクションの度にホイッスルが鳴ったりして妙にかわいい

闇姫
 霞谷七人衆の一人のくノ一。黒髪を連獅子の如く振り回して竜巻を起こす髪あらしの遣い手で、赤影をダウンさせる大金星を挙げる。

悪童子
 霞谷七人衆の一人で、ヘリコプターのような音を立てる黒凧を操り宙を舞う。おかっぱ頭に水玉模様のピエロ服、異常な言動と、キャラ立ちまくりだったが、白影との空中戦!――というか凧を絡ませての取っ組み合いに敗れて地表に落下、武器の爆弾矢が暴発したか、大爆発してたぶん死亡。

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2006.02.04

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 そして最後の死闘へ

 己の意に逆らう者たちに罰を与えんとする先代紅の王は、自ら撒いた血の中から不死身の兵士たちを生み出す。さらに先代は、朔夜の心臓に力を加え、徐々に死に至らしめんとする。朔夜と魂を失ったほたるたちを護る四聖天(マイナス1)。村正の力で兵士たちを蹴散らす幸村・紅虎・サスケ。そして、一直線に先代を目指して駆ける狂と京四郎――大切なものを護るため、皆で生きて帰るため、今最後の死闘が始まった。

 あらすじでこうやって書くと全然なんてことないように思える回なのですが、漫画として読むと、ラストバトル直前! という高揚感が非常に感じられる、相当盛り上がる回でありました。特に先代に(文字通り)捕らわれたゆやに対して叫ぶ狂は、ベタですが実に少年漫画らしくてよろしい。

 個人的には四聖天…というか梵天丸が結局ザコ退治(武器の関係でそれにすらならないのか…)で終わりそうなのが残念ですが、本人たちはもの凄く納得しているようなのでこれはこれで良し。というか、四聖天が狂のサポート役だということ、言われるまで真剣に忘れてましたよ。
 四聖天といえば、アキラがこの期に及んでまた成長の証とも言える格好いいこと言い出すのにもやられました。本当、初登場時のあまりにテンプレ通りの「キザでクールでヤな奴」キャラがここまで熱く育つとは…感慨深いものがあります。

 さて今回は一コマだけのチョイ役や回想コマなどで懐かしいキャラのオンパレードでしたが(四方堂も何とか生存確認)、そこに登場できなかったあの人の消息がそろそろ気になるところであります…阿国さんの行方が。
 いや、本当にレギュラー・サブレギュラー陣それなりに出番をもらっている時に、初期キャラで唯一消息不明な阿国さんが不憫でなりません。何やら密命を帯びているらしい十勇士たちのフォロー役で登場しそうな気もしないではないですが、ことこの漫画について私の予想はとことん当たらないので静かに待ちます。

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2006.02.03

「現代語訳 南総里見八犬伝」


 八犬伝特集その九は、白井喬二による現代語訳「南総里見八犬伝」。滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」を現代語で抄訳して文庫二冊に収めた、いわばダイジェスト版ではありますが、さすがは大衆文学の祖の一人であり、自身優れた伝奇時代小説作家であった白井喬二先生だけあって、ダイジェストにありがちな食い足りなさやドタバタ感とは無縁な、一個の作品としてきちんと面白い本となっています。

 ご存じの方も多いと思いますが、元々の「南総里見八犬伝」は、相当に長大な物語。一番手に入れやすかったと思われる岩波文庫版で全10巻というボリュームで、しかも、全体の後半部分、最後の犬士・犬江親兵衛が本格登場した後は、物語のペースがそれまでより目に見えてスローダウンしていることもあり、その存在が人口に膾炙している割りには、現代の読者が気軽に手を出してみるにはあまりにも厳しい作品であります。

 自然、抄訳版の「南総里見八犬伝」が、児童向けも含めて様々に出版されるわけですが――そしてその全てをチェックしたわけではもちろんないですが――この白井版が特に優れて感じられるのは、大半の抄訳版でオミットされる親兵衛の京での物語をはじめとして、抄訳ながら原典全体をほぼ収録することに成功していること。また、構成が原作と同じように一回毎に区切ってあるのは、原作との対象がし易くて個人的にはかなりありがたいところです(上記の後半部分については、やはりかなりダイジェストされて30巻くらい一気にまとめられていたりしますが…)

 もちろん、単に構成の問題だけでなく、現代語訳についても、原典のエッセンスを活かしつつも、現代語としてきちんとわかりやすく読みやすいものとなっており、八犬伝に興味を持った方が全体を俯瞰するために手に取るにはうってつけの本かと思います(もっとも、文庫二冊とはいえ、文庫としては桁外れの厚さと分量があるのですが…)。
 注釈や作品解題等、付録も充実していますので、興味のある方は是非。そしてこの作品を文庫に収めてくれた河出書房新社には個人的に拍手を送りたい気分です。


「現代語訳 南総里見八犬伝」全2巻(白井喬二&曲亭馬琴 河出文庫) 上巻 Amazon bk1/下巻 Amazon bk1


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2006.02.02

「新鬼武者 NIGHT OF GENESIS」第1巻 夜明けに向けての旅立ち


 つい先日発売されたばかりのPS2用ゲームソフト「新 鬼武者 DAWN OF DREAMS」の書き下ろしプレストーリーコミックです。同作品のプレストーリーコミックとしては、「コミック戦国マガジン」誌に連載され、南光坊天海と豊臣秀次の戦いを描いた「新 鬼武者 TWILIGHT OF DESIRE」がありますが、こちらは時間軸的にそれよりも後の話、ゲーム本編の主人公でもある“灰燼の蒼鬼”こと結城秀康と、柳生石舟斎の孫娘・柳生十兵衛茜の、それぞれが鬼武者として覚醒し、旅立つまでが描かれています。

 既に天下を手中におさめつつも、かつての主君同様、幻魔の力を利用して世界制覇を目論む秀吉。その養子でありながら、朝鮮出兵で地獄を経験し秀吉を憎む秀康は、秀吉に刃を向けるも、その前には異形に変生した加藤清正(虎縞に変身するのが愉快)が現れ…というのが秀康サイドのストーリー。ゲームの製作発表当初から物語の重要な要素として語られていた“桜”の正体が描かれますが、これはなるほど秀康でなくとも怒りに震えそうな鬼畜の所業、秀康が鬼武者に開眼するのも納得できます。

 ここまでがこの巻の1/3弱、残りで描かれるのは茜の物語。同門とのバトルロワイヤルを勝ち抜いて栄えある“十兵衛”の名を継承した(こういう設定なので納得して下さい)彼女の前に現れたのは、柳生を捨て、豊臣方に付いた(!)柳生宗矩と淀君。二人の力で地獄と化した柳生の里で死闘が繰り広げられるわけですが、ここでは「TWILIGHT OF DESIRE」の主人公・天海が登場、相変わらず謎めいた存在感できっちり脇を固めています。
 しかしそれ以上に目をひくのは、かつて「鬼武者2」で主役を張った元・柳生十兵衛の石舟斎が老いた姿で登場すること。考えてみれば石舟斎はこの16世紀末の時点でまだ存命だったわけで、登場自体は全く不思議ではないのですが、なるほど、松田勇作が年取るとこういう風になるのか…というのは冗談としても、かつての主人公がこうして登場するというのは、大河シリーズの醍醐味でありますし、感慨深いものがあります(石舟斎が、淀君にその母・お市の方こと小谷のお邑の姿を見るのも面白い)。

 ちなみにここで登場する宗矩は、DQN以外の何者でもない言動を見せる、個人的にははっきり言って不快なだけの存在でしたが、どうやらこいつも鬼武者の力を持つ様子。悪の鬼武者という設定は実に面白いと思いますし、石舟斎との間にも何やら確執がある様子。史実との整合性をどう取るかということも含めて(…期待しない方がいいか? やっぱり)気になるキャラではあります。
 というか鬼武者パワー発揮で館をぶっ壊した茜に対し、「女の子が家ぶっ潰すさんてなァ!! 縁起悪くてお嫁に行けねーぞ!!」と叫ぶ辺り、意外と面白い奴かもしれません。

 …とここまであれこれ書いてきて何ですが、白状すると私、実は残念なことにまだ本編である「DAWN OF DREAMS」はプレイしていません。いませんが、それでも十分に楽しめるコミックであることは間違いありません(個人的にはあまり好みの絵柄ではありませんが、まあそれは個人の感覚でしょうか)。
 何というか、このテの時代劇がダメな人には全くオススメしませんが(そういう方はまあこのシリーズに手は出さないことと思いますが)、シリーズファン、ゲーム本編をプレイしている方は読んで全く損はないのではと思う次第。
 個人的には、茜と技を競い合う同門の少年の名が「助九郎」だったり、柳生の番頭格の剣士が「庄田」だったりというような小ネタにニヤリとさせられましたよ。


「新鬼武者 NIGHT OF GENESIS」第1巻(大崎充 CAPCOM COMICS) Amazon bk1


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2006.02.01

「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」第1巻 三人のタケル、ここに出逢う


 劇団☆新感線の座付き作家・中島かずきの3作目の――ある意味氏の本拠である双葉社以外では初めての――原作コミックの第1巻が発売されました。

 舞台は古代の日本――を思わせるファンタジックな世界・大八州。その大八州の制覇を目論む天帝国と、それに抗する蛇殻国との戦が繰り返される中、大陸から蛇殻国にあるというスサノオの剣を求めてやってきたのは、脳天気で人なつっこい笑顔を見せながらも底の知れぬ青年・イズモノタケル。
 そしてそのイズモと戦いの中で出会い、行動を共にすることになるのは、豪快で強力の大男、クマソノタケルと、寡黙ながら恐ろしい腕の冴えを見せる、訳アリの美青年・オグナノタケル――この、奇しくも行動を共にすることになった三人のタケルが、本作の主人公であります。
 そんな彼らの前に現れるのは、また個性豊かな、いずれもいわくありげなキャラクターたち。誰が味方で誰が敵か、誰が善で誰が悪か、わからぬままで展開される物語は、スリリングで魅力的です。

 その物語を形にした唐々煙氏の画は、アクションシーン――特に乱戦――では、正直何が起こっているかわかりにくいという大きな欠点はあるものの、しかし上記の個性的なキャラクターの描き分けはしっかりとしているので、まずは物語を楽しむには十分な画力があるといってよいでしょう。

 …と、この作品、他の中島かずき原作コミックと異なり、新感線の舞台「SUSANOH~魔性の剣」が原作という扱い。恥ずかしながらこの舞台は観ていないのですが、それだけに新鮮な気持ちで楽しむことができそうです。
 第1巻は、三人のタケルが蛇殻国に潜り込み、女王の課した三つの試練を突破して、剣の神の予言に謳われた三人の益荒男として認められるまで。物語的には序章といったところか、まだまだ謎と秘密だらけで全く先が読めませんが、これから先の物語が非常に楽しみです。


 おまけでどうでもいい話。本作を読みながら舞台でのキャスティングを想像してみたんですが、イズモとクマソのキャストは当てることができた(というよりこの二人しかいないでしょ、という方々ですが)、オグナは当てられなかったよ…てっきりサグメの役をやっているものだと思っていました、あの方は。うう、やっぱり舞台も観たい。

 それとも一つ。単行本の左ページ上に入っているタイトルが全て「SUSAHOH」になってた…


「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」第1巻(唐々煙&中島かずき ブレイドコミックス) Amazon bk1

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