「外法師 レイ鬼の塚」 たとえ鬼と化してでも
外法師シリーズ第三弾は、無位貴族の屋敷を舞台に起こる奇怪な事件を描く「レイ鬼の塚」(レイの時は、本来は「礪」の右側)。
帝への嘆願書の代筆のために舞台となる人里離れた屋敷を訪れた主人公・玉穂ですが(外法師の他に代筆屋もやっています)、その屋敷で開かれる法会のために招かれた高僧が、ある晩大量の血を残して姿を消すという怪事が起こり、玉穂が捜査に手を貸すこととなる、というお話。
本シリーズは、前二作も、人の心のダークサイドを丹念に描き出した作品であり、それが一つのカラーとなっていましたが、本作でもそれは変わらず。
主人公を取り巻く人物たちは、官位に固執する主人にエキセントリックなその妻、不気味な従者に外法師嫌いの検非違使と、いずれも一筋縄ではいかぬ人物たち(もちろん、玉穂にどこまでも忠実に仕える従者の綺童丸や、彼女に暖かく接する高僧師弟も登場しますが…)。
そんな人物たちが生み出すギスギスした空気の中で玉穂が知るのは、その土地で塚に封じられていた太古の怨霊・レイ鬼の存在。しかしながら、そのレイ鬼の跳梁の背後には、怨霊よりもおぞましい人の我欲と邪念が――と、待っていたのはこのシリーズらしい展開で、人の心の生み出す暗い陰に玉穂が心身ともに追い詰められていく様は、やはり非常にヘビーなのですが、しかしそれでもきっちり読ませてしまうものがあるのは、作者の筆力というものでしょうか。
未読の方のために詳しくは書きませんが、登場人物の一人が、本人自身は優れた人物で、また自らの夢を持ってしっかり生きながらも、まさにその生き方自体が、一部の他者にとっては不快であり心乱すもの、というキャラクターに設定されているのには感心しました。
微かな絆で結ばれた仲間たちとともに、かろうじて勝利を掴んだ玉穂ですが、しかしそこに残るのは、人が人である限り――その人がたとえ悪人ではなくとも――その心の中の、鬼と化してでも貫きたい願いが、同じような事件をまた引き起こすかもしれない、という事実。
それでもまあ、人は人として、自分は自分として生きていく、という結末は、厳しいけれども、何だかそれはそれでほっとさせられるものがあるように思えます。
いつもながら、重いながらも、それだけに読み応えのあるシリーズであります。
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