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2006.03.31

勝手に負けた話

 ちょっと自分語りをさせて下さい。
 基本的にいいかげんで何でもありのこのblogでありこのサイトなのですが、ただ一つ自分への戒めというかポリシーというか、とにかく自分に課しているのは、批判にもならないような悪口は書かない、ということ。理由は色々ありますが、まずは、悪口書くひまがあったら自分も他人も楽しいことを書いていたいですからね、というくらいのいい加減なものであります。
 で、その戒めを破って書きますが、僕は大塚英志――クリエイターとしての――が好きじゃない…というかぶっちゃけ嫌い。これまた理由は色々ありますが、常に自分の(原作を担当している作品を含めて)作品に対して、一種の逃げ道というか、「お前ら商業主義に乗せられてこんな漫画読んでるんじゃありませんよ」的な態度を感じてしまうのがその最大の理由で、こちとら道楽で読んでいるんだから、思いっきり商業主義って奴にブン回されてやろうという時に、いきなり目の前に鏡を突き出されて、自分でもちょっと気にしているマヌケ面を思い切り自覚させられた気分というか何というか。
 …まあ、本当の理由は、僕が摩陀羅の連載当初からの読者だったから、ってのがあるんですがそれはいいとして。

 しかしまあ、大塚英志の本の中には色々とこちらの興味を引くものが色々とあるわけで、しかし上記の如く大塚英志のモノの売り方が嫌いな人間にとって、その本をおとなしく買うのは何ともシャク。そこで考えた末に選んだのが、新刊は買わないで絶対古本で買うという実にセコい手段。大塚英志というより大沢在昌に怒られそうな手段ですが、自分のちっぽけなこだわりを満たしつつ読書欲を満たすという点では、まあ納得していたわけですよ。

 そんな本の買い方をしていれば、当然出たばかりの新刊は手に入らず、ある程度流通した後の、大抵の場合何年か前の作品を手に入れることになるわけですが、そんなルートで今頃になって読んでいるのが小説版「木島日記」
 いずれきちんと採り上げるつもりではありますが、民俗学者・折口信夫を狂言回しに、戦前の民俗学・オカルティズムが軍国主義と絡み合っていく様を描いた奇妙な伝奇もの…と一言でいうのはためらわれるのですが、とにかくそんな作品。この作品が見事にツボったのであります。本当に見事なまでに。

 勿論、内容的にも僕な好きな題材ばかり、ということはあるのですが、それ以上に僕が心惹かれたのは、本作が、日本がある時期確かにその渦中にあった軍国主義・国家主義という現実を、史実を、そのツールとして利用された「偽史」でもって、浮かび上がらせていること。
 これはいずれ稿を改めてきちんと書きたいと思っているのですが、僕が時代伝奇ものを馬鹿みたいに読んでいるうちに遅まきながら感じるようになったのは、伝奇もの――なかんずく、既に固まって動かし得ない(と思われている)過去を舞台とした時代伝奇ものが、現実・史実を映す奇妙な鏡としての機能を持つということ。

 奇妙な、とわざわざ付けたのは、それが対象を真っ正面からありのままに映すわけではなく、時に後ろから、時に真上から、またある時には内側から対象を映し出す作用があることからなのですが、いずれにせよ、そのような作用を持つ伝奇には、現実認識のツールとしての働きがあるのだと思えるのです(そしてその現実は、読者自身にとってのもののみならず、その創り手、あるいはその作品を受け入れた周囲の環境が認識している現実をも知ることができるのがさらに面白いところであります)。
 話がくどくなりましたが、大塚英志が「木島日記」で試みていることは、僕がうすぼんやりと感じていたことを、まさに自覚的に利用していたわけで、それは上記の自分の考えをまとめる上でずいぶんと役に立ちましたし、何よりもその鏡像の見え方が実に面白かった、ということです。

 で、タイトルに戻るのですが――遂に僕はこの小説版「木島日記」の続編、さらにはコミック版「木島日記」、そしてこの作品の(時代的)延長上にある「オクタゴニアン」、さらには「くもはち」(の小説版)と、次々と買ってしまったのですよ。新刊で(「北神伝綺」はかろうじて(?)古本で揃えましたよ)。ああ、もの凄い敗北感。

 冒頭に書いたとおり、間違えても大塚英志の方向性・方法論に全面的に賛同するわけではなく(というよりアンチですが)、その作品にしても、現代もの・近未来ものについてはあまり魅力を感じないのですが、そういったことを抜きにしても、大塚英志の一連の作品の中に、色々と気になるものを見て、感じているのは事実なのでした。

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2006.03.30

「闇の傀儡師」 闇の中で嗤うもの

 藤沢周平先生というと、どうもまっとうな時代小説界の御大将、おじさんが好きな時代小説の大家というイメージ(あくまでもイメージですよ)があるのですが、本作はその藤沢先生が真っ正面から時代伝奇小説を描いて見せた作品。
 剣術の達人だが浪々の身である主人公が、瀕死の男を助けたことにより世の裏で繰り広げられる陰謀と冒険の世界に誘われるという導入部は、驚くくらい時代伝奇小説の一つの定番パターンで、ちょっと驚いてしまったことです。

 が、さすがは藤沢作品、オールドファッションな時代伝奇の世界を描きながらも、そこに登場する人物造形は実に味わい深く――例えば主人公とその元妻、そしてその妹の関係や、名家の出ながら城勤めを嫌い絵師を目指す親友のキャラ等――、そうした地に足のついたキャラクターを配することで、日常世界の裏に広がる伝奇的世界についても、一定のリアリティを与えることに成功していると言えましょう。

 そしてまた――権力の魔に取り憑かれた人々と、その野望の犠牲となる人々、そしてそれに敢然と異を唱える主人公たち(敢然と、じゃない方もたくさんいますが)と、藤沢節溢れる展開も健在。スケールの大きな伝奇小説だからこそ、その権力の闇の暗さ・深さといったものがより強く描かれているように感じられますし、史実を背景にした展開であるからこそ、必ずしも正しき(という言葉には様々な意味があるわけですが)者が勝つわけではないという冷厳たる現実が引き立つのでしょう。

 そして――主人公の剣が一つの悲劇を防いだ後に、闇の中で哄笑していたのは何者なのか…改めて、タイトルの意味について考えさせられたことです。

 何はともあれ、オールドファッションな伝奇物語+陰影に富んだ人物描写という組み合わせはまさに鬼に金棒。剣戟シーンの迫力も流石と唸らされますし、藤沢ファンでも伝奇ファンでも、同じように楽しむことができる佳品と言ってよいかと思います。
 …NHKの金庸時代劇でドラマ化してくれないかしらん。もちろん主人公はあの人で(十年近く前の正月時代劇でドラマ化されてますが、ちょっと中井貴一が主人公役ってのは、ねえ)。


「闇の傀儡師」全2巻(藤沢周平 文春文庫) 上巻 Amazon bk1/下巻 Amazon bk1

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2006.03.29

「将棋大名」 推理小説+時代小説の名品


 角田喜久雄ファンの方に、一番好きな作品を聞いてみれば、大体のところ「妖棋伝」「髑髏銭」「風雲将棋谷」の初期三部作か、久留さんもお気に入りの「半九郎闇日記」などの水木半九郎ものが挙がるのではないかと思うのですが、実は私が一番好き…というか気に入っているのはこの「将棋大名」。
 平賀源内先生とその弟子が、奇怪な連続殺人事件と、その背後の歴史の闇に挑むという、時代伝奇推理小説であります。

 主人公は、平賀源内先生の弟子の好青年・高島春作。二人が仮寓する伊藤宗印(江戸時代の将棋三家元の伊藤家の名人)の娘・お千代が、源内の遠眼鏡で覗いた彼方に、木に吊された裸女の死体が…というのが事件の発端。その死女の胸に留められた「死人詰め」なる謎の詰め将棋を巡り、次々と連続殺人が起こります。事件を探索する源内と春作ですが、謎を解き明かしていくうちに二人は、この事件の背後に隠された、幕府の、徳川家の闇の部分にまつわる秘事を知ることになります。

 ファンの方には言うまでもないことですが、角田先生は、時代小説をものされる以前に、既に探偵小説家として名を上げられていた方。そのため、時代小説であっても、推理色の強い作品が多いのですが、この作品はまさにその好例と言えます。
 一つの謎、一つの事件を巡って、個性的な登場人物たちが入り乱れ、次第次第に物語が収束に向かっていく、というのは伝奇小説の一つのパターンですが、本作はそのフォーマットの中に、謎解きの濃厚な風味を加えて、推理小説としても伝奇小説としても、実にスリリングでサスペンスフルな一級品に仕上がっています。

 そしてまた、他の角田作品同様、悪役造形が際だっている本作。春作の同門にして若衆姿の美青年、そして女に対しては残虐なサディストという妖人・下村松之丞の存在は、他の作品の悪役に比べると、一見悪役然としていないだけに、逆に、より一層の迫力と魅力が感じられることです。
 …それにしても、このキャラクターを評するのに「妖怪若衆」というワードを使って見せた春陽文庫の中の人のセンスは、神懸かっているとしか言いようがありません。
(そんな妖人が跳梁する一方で、平賀源内先生の脳天気なじじいぶりが一服の清涼剤となっているのもまた心憎い)

 いささか分量は多めではありますが、時代小説ファンにも推理小説ファンにも自身を持って勧められる快作であります。


「将棋大名」(角田喜久雄 春陽文庫) Amazon bk1

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2006.03.28

「豪談岩見重太郎」 内なる獣との訣別


 講談ヒーローの一人である岩見重太郎の半生を描いた「豪談」シリーズの一冊。
 本作は、元の講談から登場人物とシチュエーションを借り、あとは自由に物語を膨らませた「豪談」の中では珍しく、かなり原典(以前紹介したこちらを参照)に忠実な内容――すなわち、武術の達人岩見重太郎が、父の仇・広瀬軍蔵、そして妹の仇・高野彌平次を追って旅をし、後藤又兵衛・塙団右衛門の両豪傑と交誼を結び、首尾良く仇たちを討ち取る――となっています。

 そうした中で、本作ならではのアレンジとして、「己の中の獣の克服」が中核となるテーマとして描かれているのが目を引くところ。人並み優れた力を持ちながらも、己の心の中の凶暴性――獣により、過剰に力を振るってしまう業を持った重太郎が、如何にしてその獣を静め、人として力を正しく使うか、という一種の成長譚として構築されており、その角度から狒狒退治や両豪傑との出会いが描かれているのが面白いところです。
 考えてみれば永井豪作品のキャラクターには、己の中に獣=暴力性を抱える者も多く――時にはその力の前に本当に獣になってしまったりする者もいて――そんな作者の作品だからこその、このアプローチと言えるでしょう。

 そしてついに己の中の獣と訣別し、人として剣を振るうことを知った重太郎が、爽やかな心境で迎える天橋立での三千人を向こうに回しての決闘は、永井豪、ダイナミックプロならではの屍山血河の大殺陣。そしてその果てに広瀬軍蔵を追いつめた重太郎が、
「待ったぞ! この日がくるのを…どれほど待ったことか! 父…母の…兄の…そして妹の! 恨み!! 今こそ晴らしてやる!!」
という爽やかさ皆無の台詞とともに、情念溢れる素晴らしく永井豪キャラな表情で軍蔵をブッたぎる様を見たら、色々な意味で「ああやっぱりこうでなくちゃ」と思ったりしてしまってちょっと反省。
 でも本当、デビルマンに変身しそうなくらいイイ表情なんだこれが…


「豪談岩見重太郎」(永井豪 リイド文庫「豪談猿飛佐助」収録ほか) Amazon bk1


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 三豪傑ここに揃う 「岩見重太郎」

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2006.03.27

「豪談猿飛佐助」 佐助、天空を駆ける


 今から10年前(もうそんなに経つのか…)に中央公論社より書き下ろしシリーズで発表された豪談(永井豪版講談、と言えばいいでしょうか)シリーズの一作。立川文庫等、講談の「猿飛佐助」をベースにしつつも、講談の方と同じなのは、佐助が鷲尾佐太夫の子供であるということと、戸沢白雲斎の下で修行した後真田幸村に仕えたこと、忍術を悪用する石川五右衛門と対決したことくらいで、後は全く異なる伝奇アクションとなっています。

 本作での猿飛佐助は、自分に加わる重力を制御して、人間離れした跳躍力を発揮する空飛びの術の遣い手である、一種の超能力者。そして佐助の兄弟子であり、ライバルでもある石川五右衛門も、自在に地面や樹などの物質に潜り込み、移動する力を持つ同様の能力者として描かれています。
 本作(というより豪談シリーズ)においては、こうした能力者たちは、かつて自然と交感し特異な力を発揮しつつも、仏教等に追われて山に移り住んだ覡の、山の民の末裔という設定で、真田家もまた同じ血を引くものとして描かれているのが目を引きます。

 同じ師に学びながらも、幸村の下で山の民を守るための戦いに加わった佐助と、己の力を使い自儘に振る舞うために盗賊となった五右衛門の対決…というのは、まあよくあるシチュエーションではありますが、面白いのは妻子を秀吉の手の者に殺された(と思いこんだ)五右衛門が選んだ復讐の手段。
 未読の方のために詳しくは書けませんが、五右衛門釜茹での史実に絡めた、アッと驚く壮絶なものであります。そしてまた、それを阻止するために佐助が己の能力を最大限に発揮して飛翔するシーンは、緊迫したシチュエーションも相まって、なかなか迫力のあるシーンとなっていました。

 本作は五右衛門との決着までで終わりますが、それ以降の佐助と幸村の戦い、山の民サーガともいうべき物語は、「豪談霧隠才蔵」「豪談真田軍記」に続くのでした。

 なお、現在流布しているリイド文庫版の本作には、「豪談岩見重太郎」が併録されていますが、この作品についてはまた稿を改めることとします。


「豪談猿飛佐助」(永井豪とダイナミックプロ リイド文庫ほか) Amazon bk1

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2006.03.26

「怪~ayakashi~ 化猫」大詰め もしかして神作品?

 前回は憎まれ口を叩いてしまいましたが、いよいよ今回で「大詰め」の「怪~ayakashi~」「化猫」。放送直前まで全三話と気付かなかった自分の間抜けっぷりは置いておくとして、起承転結ならぬ序破急の呼吸で一気に過去の因縁と現在での決着を描いてくれました。

 大詰めで語られた過去の因縁については、ここで詳しくは述べませんが、想像を遙かに上回る陰惨なもので、見ている最中、胃にズドンと来る重い重い真実(これ、リアルタイムで見たら次の日暗ぁい気分で会社に行くことになるとこでしたよ…)。
 こういう言い方は不謹慎でありますが、時期によっては放送できなかったんじゃと思わされる題材でありますが、この作品の独特のキャラクターデザインと美術で、「毒」は「毒」として残しつつも、悪趣味な部分は最小限に抑えられていたかと思います(美術と言えば、ラスト近くで描かれる地獄絵図と化した「壁」の描写は特筆ものの見事さかと)。

 物語的にも、何故昔の因縁が今、甦ることとなったのか、その「理」をきちんと見せてくれて納得いたしましたし、ラストまで見て、もう一度序の幕から見返したくなるストーリー設計となっていたのに感心しました。
 序の幕のコミカルな印象を根底から覆すかのような結末でしたが、最後の最後に救いを見せることで、切なくも美しく、儚くも温かい余韻を残して終えてみせた点も見事でありました。

 ここでマニアの中途半端な視点で語らせていただければ、例えば鍋島の化猫は御家騒動絡みで現れた、封建社会ならではの怪物でありましたが、本作での化猫は、舞台こそ江戸時代であったものの、現代にまで通ずる人間の心の中の暗黒(実際にあったし、ねえ…こんな事件)により生み出された存在と言うべきもの。
 その点で古典怪談を現代人の視線と精神で甦らせてみせた(と私には見える)「怪~ayakashi~」に相応しい作品だと思います。

 と、そんなわかったようなわからんような話はさておき、もう一つ触れておくべきは、狂言回しとも探偵役とも言うべき「薬売り」のキャラクター。ネットで本作の感想を見ると、まずほとんどの方が絶賛していますが、確かにこのキャラクターはいい。
 キャラ自身のビジュアルや術描写の見事さに加え、声の櫻井孝宏氏の好演も光り、この陰惨な因縁の理を解きほぐす存在として――一歩間違えればご都合主義になりかねないところを巧みに回避しつつ――その正体などほとんど全てが謎の存在ながら、実に魅力的な伝奇ヒーローとして描かれておりました。
 いや、このキャラクターをこれだけで終わらせるのは勿体ないでしょう。続編(「薬売り」もの)は作られるべきであろうと強く感じた次第。


 さて、この「化猫」「怪~ayakashi~」も無事終了。放送開始前は不安半分でお手並み拝見というところでしたが、既に取り上げたように「化猫」で記録的高視聴率をマーク、さらにDVDの売り上げ(予約)も好調のようで実にめでたいことであります。このblogにも本作絡みでいらした方もたくさんいるようです。
 個人的には「天守物語」がかなりもにょりましたが、「四谷怪談」はなかなかお気に入りの作品でありますし(感想は近々アップしますです)、この「化猫」は言うまでもなく非常に楽しめましたしね。
 あと、ヒップホップに乗せて目にも綾な映像を展開して見せたOPも見事でしたな。作品のことを知らないでOPだけ見て、思わず本編が見たくなるという点では実に理想的なOPかと。

 深夜アニメでホラー、それも和物の怪談ということでどうなることかと思いましたが、いや見事に化けやがったな、という印象です。和物好き、怪談好きとして実に嬉しく目出度いことであります。



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 今日の小ネタ 視聴率と問題児

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2006.03.25

「風雲将棋谷」 時代伝奇のお手本的名作


 角田喜久雄の伝奇作品を愛好すると謳っておきながら、明らかに角田分が低いので思い出したように掲載。「妖棋伝」「髑髏銭」と並ぶ角田喜久雄初期三部作の一つ、謎の地・将棋谷を巡って善魔火花を散らす、時代伝奇小説のお手本のような作品です。

 主人公は、神出鬼没の盗賊ながら、決して非道はしない好漢・流れ星の雨太郎と、腕利きの御用聞・仏の仁吉の一人娘で将棋と縄術を得意とするお絹の二人。時は江戸後期の弘化年間、江戸の町では、十九歳の生娘ばかりが次々と何者かに攫われるという事件が続発、囮を買って出たお絹は、蠍を操る謎の怪人に襲われます。危機に陥ったお絹と、彼女を偶然救った雨太郎は、生娘の拐かしが謎の秘境・将棋谷へ至る道を求めてのことであること、そして謎の怪人が、将棋谷征服を狙う怪人、蠍道人・黄虫呵であることを知ります。
 将棋谷の謎を追ううちに惹かれ合うふたり。しかし黄虫呵の邪悪な罠により仁吉は落命、お絹はその犯人が雨太郎と誤解してしまうのでありました。恋い慕う相手が父の仇となってしまったお絹と、何とか身の潔白を晴らし、黄虫呵を倒して将棋谷の謎を解こうとする雨太郎の冒険の行く末や如何に…

 というわけで、実に由緒正しい時代伝奇活劇。秘境・怪人・義賊・恋のさや当てetc.およそ大衆文学の諸要素といえるものを全て投入し、それを煮詰めて作り出したかのような純度の高いエンターテイメントの快作であります。
 確かに、あまりに典型的すぎるという観がなきにしもあらずですが、しかしそこに、行方不明の将棋谷当主探しや、主人公二人を助ける謎の雲水の存在など、推理小説的趣向を巧みに織り込んで――角田作品の中ではこれでも推理色は薄い方ではありますが――、凡百の作品とは一線を画すものとなっています。大衆食堂に並ぶようなメニューであっても、料理人と調理法が超一流であれば、高級料亭にも負けない味になる、ということですね(あまり良いたとえではないかもしれませんが…)

 そして私が個人的にこの作品を気に入っているのは、主人公がアクの強い登場人物の中で埋没しがちな角田作品(まあ、これは角田作品に限ったことでなく、伝奇小説に登場する品行方正な主人公が陥りがちな点ではあるのですが)の中では、かなり主人公・雨太郎が活躍してくれる点。折り目正しい侍ではなく、義賊という設定が、主人公をより活動的なものにしているわけで、そこは設定の妙というものでしょう。
 そしてまた、その雨太郎たちの前に立ち塞がる蠍道人・黄虫呵の造形も楽しい。蠍道人という、いかにもいかにもなネーミングからして楽しいですが、白髪白髯に全身白ずくめ、武器として操るのは真っ赤な毒蠍というビジュアル的にもインパクトのある出で立ち。そして、蠍を操り人を襲わせる時には「蠍子(シェッ)!」と中国語で鋭く叫ぶのがまたおっかなくて良いのです。

 すぐ上で角田作品は主人公が埋没しがち、と書きましたが、その一方で悪役の輝きぶりが尋常ではないのもまた角田作品。角田作品の悪役・怪人と言えば、「妖棋伝」の縄いたち、「髑髏銭」の銭酸漿と、これまたビジュアル的にもキャラクター的にも抜きんでた存在がいますが、本作の蠍道人・黄虫呵もそれには負けていません。そして前二者が、宿命的なものを背負い、主人公とは敵対することもあるものの、単なる悪党ではなかったのと対照的に、こちらは完全なる悪のための悪。邪悪もここまで徹底してくれればいっそ気持ちがよいくらいであります。
 まあ、ぶっちゃけその最期は時代伝奇史上に残るくらいアレなんですけどね…

 何はともあれ、典型的なスタイルでありながら、その典型的な部分が逆に魅力的なエンターテイメント作品として、時代小説ファンであればぜひ一度は読んでいただきたいと思う次第です。

 ちなみに本作、数々の版がありますが、私が一番気に入っているのは富士見時代小説文庫のもの。杉本一文先生の手による、見事に時代がかったカバーイラストがもうたまらんので、もし機会があればぜひご覧になって下さい。結構古本屋さんにありますしね。


「風雲将棋谷」(角田喜久雄 春陽文庫ほか) Amazon bk1

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2006.03.24

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 逆転パターン早くも消費

 鎭明と京四郎を吸収してパワーアップした先代紅の王は狂と互角の力を発揮。しかし京四郎を気遣う狂は本来の力を発揮できない。一方、幸村・紅虎・サスケは、四方堂の雲に救われていた。四方堂は、先代を討つため、三人の持つ村正の力で禁断の扉を開こうとしていたのだ。その頃、先代の放つ四大奥義に苦しめられる狂だが、京四郎の魂が先代の動きを封じ、チャンスを作る。が、それすらも先代の誘いだった。先代の玄武に動きを封じられた狂に、黄龍が襲いかかる――

 鎭明と京四郎を吸収したら服装まで変わった先代。二人のコスチュームまで吸収して、ビジュアル系というか何というかなテイストを混ぜ合わせたその姿は、どっちかというとGBに登場しそうなビジュアルであります。
 そんなことよりも、先代が復活して再活性化して四聖天-1を取り囲んだ血の兵士の数が尋常じゃなくて爆笑。こりゃ普通死にますな…ありがとう、壬生組の出番(たぶん)を作ってくれて。

 一方、かつては愛した先代を倒す決意を固め、禁断の扉に向かう四方堂。もしかして一番この作品でいい女に見えるのはたぶん錯覚です。
 しかし、扉を開くためには四本の村正が必要なはずですが、ゆやの守り刀を加えてもここにあるのは三本(言うまでもなく残り一本は主人公が使用中)…姐さん、一本足りませんから!
 何だか十勇士合体奥義の二の舞のような感じですが、早くも「京四郎の魂が先代の動きを封じてチャンスを作る」という逆転パターンを消費してしまった以上、勝利の鍵は姐さんたちにかかっているわけで――さて。

 来週は休載。残念。

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2006.03.23

「魔岩伝説」 荒山作品ここにあり! の快作


 だいぶ以前に読んだにもかかわらず、そして非常に面白く、思い入れも十分にもかかわらず、それ故に感想が書きにくくてしかたなかったこの「魔岩伝説」。いよいよ四月に文庫化ということで、ここに紹介させていただきます。
 荒山徹先生の第三作であるこの作品は、秀吉の時代を舞台にした前二作「高麗秘帖」「魔風海峡」からぐっと時代が下った江戸時代後期を舞台とした作品。主人公は遠山景元、(これは歴史に詳しい方ならすぐわかることなので書いてしまいますが)若き日の遠山の金さんであります。さらにこの作品の景元は、かの音無しの構えで知られた高柳又四郎の愛弟子という設定で、これだけでも嬉しくなってしまいます。

 本作は、前二作が歴史上の事件を背景とした山田風太郎的秘術合戦の色彩が強かったのに比べ、むしろ歴史の背後で展開される事件を描く角田喜久雄的正当時代伝奇ものの香りが強く感じられる展開。
 もちろん、荒山テイスト漂う朝鮮妖術は健在ですが、血気盛んな青年・遠山景元が、ふとしたことから怪事件に巻き込まれ(首を突っ込み)、冒険と死闘を繰り広げていくなかで巨大な謎を解き明かしていくという展開は、定番ながらもエンターテイメントの王道とも言うべきものであります。

 もちろん、荒山作品だからして単なる楽しい娯楽もので終わるわけもなく、景元の冒険と平行して描かれるのは、権力の理不尽の前に泣き、そしてその中から雄々しく立ち上がろうとする朝鮮の民衆の姿。一種モラトリアム期の青年であった景元は、その朝鮮民衆の悲壮な戦いと、そして日朝の歴史の背後に眠る黒い影の存在を知り、悩み苦しみながらも、人間として大きく成長していくこととなります。
 そう、前二作とは時代も物語のテイストも異なりますが、物語を貫くのは、権力の暴威に抗する個人の気高き心。その心の前には、日本や朝鮮といった国家などというものは関係ない(何となれば、権力はえてして国家の形を取って現れるものであるのですから)のであります。
 そしてまた、物語終盤で景元に突きつけられるある「事実」の前に悩み苦しむ彼の姿は、個人がどこまでその想いを貫くことができるのか、また貫くべきなのか、という重い問いを投げかけているかのようにすら感じられます。

 …などと言いつつ、その「事実」ってのが、本ッ当にもう、いい意味で大バカな――冗談が通じない野暮天だと怒りだしかねない――大ネタで、これもまた荒山作品の醍醐味だよなあと、にこにこしながら感じ入った次第です(この作品を読んだ後で、「十兵衛両断」の最終話、あるいは「伝奇城」所収の氏の作品を読むと、また感慨深いものがありますよ)。これだから荒山作品はやめられない。
 ちなみに本作では、以降の作品で荒山作品で欠かせぬファクターとなった「柳生」が初登場。その名も柳生卍兵衛(ばんべえ)という隻眼の豪快児が、景元の好敵手として大活躍してくれます(そのキャラもまた、ある意味朝鮮に対する日本人の一つの典型という感じでなかなか愉快であります)。

 と、あれこれとりとめもなく語りましたが、本作の最大の魅力はエンディングに集約される、と言い切ってしまいたくなるほど見事な結末を迎えるこの物語。
 この長大な物語に心躍らせつつ最後まで読み終えた方であれば、必ずやこのエンディングにはニヤリとして、次にホロリとくるでありましょうし、そしてまた、心の底から続編希望! と言いたくなるでありましょう、と予言しておきます。


「魔岩伝説」(荒山徹 祥伝社) Amazon bk1


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 「十兵衛両断」(1) 人外の魔と人中の魔
 「十兵衛両断」(2) 剣法、地獄。
 「十兵衛両断」(3) 剣と権の蜜と毒

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2006.03.22

今週の「Y十M」と「夫婦表具師事件帖」

 今週の「Y十M」、三週連続掲載の三週目にしてようやく十兵衛先生が登場。不敵にも般若党の一人に化けて紛れ込むという思い切った手段に出た十兵衛ですが、さすがに五本槍、見ン事変装を見破って…と言いたいところですが、紛れ込まれる時点で既にいかがなものかと。
 ちなみに十兵衛が化けたのは鷲之巣廉助。気絶させられた挙げ句十兵衛に背負われていたという激しい醜態を晒した廉助さんですが、しかし何故彼がこんな目に遭わされたかと言えば、体型に関する消去法なわけで、これはちょっと不運と言えば不運な話かもしれません。
 異様にスリムな一眼房とかいたら一発でばれるからなあ…

 と、正体が暴かれた十兵衛に襲いかかる五本槍。さすがに十兵衛先生でも分が悪い戦いですが、面を割られつつも見事に凌ぎきり、かつきっちりとお返しをしながらも無事逃走。もっとも、五本槍側のプライドには大ダメージを与えたものの、本来の目的であろう敵の本拠に潜入するという目的は果たせず、痛み分けといえば痛み分けでしょうか。
 しかし、十兵衛がここで隻眼であることを悟らせなかったことが意外な展開につながっていくわけですが…それは来月のお楽しみということで。

 それにしても、疾走しながらの一瞬の攻防というものをきっちりと見せてくれて満足でしたよ。


 さて、またもや「Y十M」だけでは寂しいのでもう一本、最近雑誌に掲載された時代コミックを紹介。小学館の時代歴史コミック誌「ビッグコミック1(ONE)」の最新号に、高瀬理恵先生の「夫婦表具師事件帖」という作品が掲載されています。高瀬先生で表具師で夫婦といえば、ファンであればすぐにピンと来るのではないでしょうか。そう、「公家侍秘録」に登場する斎之介とお千香さんの表具師カップルを主人公に据えた物語です。

 二人と同じ長屋に住む地味な女性が、悪い男に唆されてお千香さんの名を騙って扇絵を描き、評判を集めるも…というストーリーで、「公家侍秘録」でもしばしば登場する(というより大半を占める)美術品テーマではありますが、庶民の立場から物語を描いたという点で、この夫婦を主人公とする意味があると言えます。
 何よりも心に響くのはこの薄倖の女性のキャラクター描写で、人間ならば程度の差こそあれ誰もが持つ「もっと愛されたい」「何であの人ばかり…」という感情から道を踏み外しかける姿は、非常にリアリティがありますし、一種共感を呼ぶものがあったと言えます。
 そしてまた、彼女を止めるのが、今は幸せそのものに見えても、かつては姫君の身から苦界に身を沈めることとなり、世の辛酸を舐めたお千香であるところがまた、実にグッとくるところで…どうも泣かせに弱い私としては、まんまと涙目にさせられてしまったことです。

 それにしても斎之介、「公家侍秘録」では準レギュラーキャラとしてしばしば登場していますが、この短編で夫婦ともども一本立ち。元々、(私の記憶では)本編の主人公・天野守武も「首斬り門人帳」のゲストキャラクターが初出で、いわば「公家侍秘録」はスピンオフして生まれた作品。ここでスピンオフのそのまたスピンオフという形で新しい作品が生まれたのも、何とも面白いことです。
 気が早いですが、そのまたまたスピンオフが生まれるくらい、この作品もシリーズ化して続いてくれればと思う次第です。

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 今週のY十M
 公家侍秘録
 「公家侍秘録」第5巻 時を越えて守り継がれるもの

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2006.03.21

今日の小ネタ 視聴率と問題児

 今日の小ネタその一。「怪~ayakashi~化猫」の第二話が高視聴率をマークしたとのこと。
 第二話についてはあまりいいこと書かなかったですが、しかし深夜アニメのホラー、しかも時代ものでこれだけ視聴率を上げたというのは、やはり凄いことですね。この勢いで後半も頑張って欲しいものです。

 その二。先日も取り上げた謎のホラーゲーム「四八」、伝説の名作ホラーゲーム「学校であった怖い話」ネタのシナリオがあるということでマニアを感涙させていますが(記事こちら)、このblog的に注目すべきは、同じ記事中の「ちなみに、転身するお方のシナリオパートも一応UPしているが」という一文。
 バンプレストでT.I.氏(正確にはT.I.氏の元会社ですが)で転身ときたら、こりゃあつい最近もここで記事にしたあのシリーズしかないわけで、これはますます気になってきました。
 というか、御大続編やる気満々ですな。…そろそろ誰かがしっかり押さえた方がいいのではないか。
 あと、全く個人的な話なんですが、 この記事にあるお祓いの際にもらったらしいお守りを何故か兄が持っていたのに驚いた。まあ仕事柄おかしくはないんですが。

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4月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュール

 4月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールを更新しました。右のサイドバーからも見ることができます。

 4月はなかなか豊作の月。小説の新刊では「闇を斬る」シリーズの新刊が早くも登場、「楓の剣!」の続編も発売されます。また、牧秀彦の新刊も2冊、それも初めてのレーベルから発売されるのが楽しみなところ。また、光文社文庫からの上田秀人の新刊「熾火」は、タイトルからして「破斬」の続編でしょうか。
 その一方で既刊の文庫化・復刊の方では、荒山徹の第3作「魔岩伝説」が遂に文庫化。これは名作ですよ。そしてまた名作といえば五味康祐の未完の大作「柳生武芸帳」が文春文庫から復活します(が、新潮→文春文庫というパターンは、つい最近「写楽百面相」で面白くもなんともないベタ復刊をしてくれたのでちょっと心配)

 そして漫画の方では、お待ちかね「シグルイ」第6巻が発売。果たしてファン騒然の「うどん玉」まで収録されているでしょうか。また、「武死道」第2巻、「オヅヌ」第1巻と朝松健原作コミックス2点が同時発売。特に後者は連載直後からちょっと大変だったのでようやく続きが読めるかと思うと感慨深いものがあります。
 その他、「無限の住人」「SAMURAI DEEPE KYO」も順調に続刊が発売、「カムイ伝全集」も第二部に突入です。また、個人的には藤田和日郎の短編集「夜の歌」の文庫化が嬉しいところ。これに収録されている「からくりの君」はいかにも作者らしい熱血怪奇アクション時代劇の佳品でおすすめですよ。

 …と、武侠小説ファンとしては、下旬に古龍の陸小鳳シリーズが刊行開始(全7巻!)、上旬に森下翠&正子公也の「絵巻水滸伝」第1巻が発売されるのが楽しみでならないところです。

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2006.03.20

「あやかし同心事件帖」 江戸の町に怪魔現る


 巷では時代小説ブームということらしく、毎月のようにかなりの数の新刊が発売され、また文庫レーベルでも非常に多くの出版社から――それまで時代小説が発行されていなかったところからも――文庫(書き下ろし)の時代小説が出ているのが現状ということは、今さら私が言うまでもない話。
 しかし個人的には、その大量の作品の中で、パッと見で食指が動くのはかなり数少ない…ってのは私が単にニッチな時代伝奇マニアに過ぎないからなのですが、しかし、例えばタイトルや作者名だけでは何が何だかわからない状況にあるのは事実。今回紹介する「あやかし同心事件帖」も、誠に失礼ながら、タイトルだけみればよくあるものにしか見えなかったのですが、何せ作者が加納一朗先生、ワンツー時代小説文庫という全く新しいレーベルながらも、これはチェックせねば! と読んでみたところ、これが見事に当たりの作品、天明期の江戸を舞台に、南町奉行所とホラーではお馴染みのあの怪魔が真っ向から激突する伝奇ホラーものでありました。

 時は天明7年、凶作が続き米価が高騰する中で、売り惜しみであくどく稼いでいた米問屋の娘が、奇怪な赤い目を持つ何者かに拐かされるという事件から物語は始まります。翌朝帰ってきた娘は、首筋に咬み傷があり、日光を嫌うという状態に。そして探索に乗り出した南町の隠密廻り同心・香月源四郎の目前で、被害者の娘が日の光に当たった途端に溶け崩れ、塵と化して消えてしまうという展開とくれば――もうこれはアレしかありません。

 物語の早い段階で明かされることなのでここに書いてしまいますが、この怪事件の背後に蠢くのは、やはりホラーではお馴染みの吸血鬼。古くは聖徳太子の時代から、新しくは幕末、それ以降まで、時代ものにおいて吸血鬼が登場する作品はそれほど数がないわけではありませんが、しかしやはり一般に西洋産の怪物を純和風の舞台に持ち込む際には、それなりの工夫が必要であることは言うまでもありません。
 その点、本作はさすがは大ベテランの加納先生だけあって、抜かりなし。本作の吸血鬼たちは、米問屋を中心に狙うという変わり種ですが、それには時代背景と吸血鬼たちの出自に根差した理由がきっちりあるのが面白いところ。もちろん、それだけでは今いちスケール感に欠けるわけで、ちゃんと(?)将軍家までをも眼中に入れた大陰謀が同時に進行するわけですが、ラストで明かされる吸血鬼たちの出自を知れば、なるほど、将軍家を狙うわけだわいと、伝奇的に納得させられてしまう仕掛けがきっちりと用意されています。

 そしてその奇怪な陰謀に立ち向かうのが、主人公・源四郎をはじめとする南町奉行所の人々と、源四郎の師である蘭学者たち。本作にはスーパーヒーローが存在しないため、主人公たちの探索も地道なものとなりますが、それがかえってリアリティといいますか、なるほど、江戸の町に吸血鬼が出現すればこういうリアクションが取られるだろうな、という時代ものとしての味を殺さない結果につながっているところであります。
 まあ、源四郎の個性が今ひとつはっきりしないのと、地に足がつきすぎてちょっと地味目な展開なのが残念なところではあるのですが…

 何はともあれ、文庫書き下ろし時代小説という、ある種保守的に(個人的には)感じられる媒体を舞台に、これだけ真っ当な時代ホラーを描いて見せたのは心からの賞賛に値します(同じレーベルの他の作品が皆人情ものなだけに特に)。いや、本当に感心しました。
 願わくば、本作をシリーズ化して、これからも江戸を襲う怪魔と南町奉行所の攻防戦を描いていただきたいものです。


「あやかし同心事件帖」(加納一朗 ワンツーマガジン社ワンツー時代小説文庫) Amazon bk1

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妖異大年表をwiki化しました

 先日も書いた大年表のwiki化ですが、ようやく幕末まで大体のデータを入力終わりました(年表wikiはこちら)。単純作業ですが結構疲れましたよ。
 が、すぐにデータの追加&他のDBとの連携にとりかかりたいし、pyukiwikiも新バージョンが出たようなので、Ver.UPもしたいし…と当面バタバタしそうです。でもまあ、形はできた!

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2006.03.19

「変身忍者嵐」第02話 「怪猿忍者!マシラ現わる!!」

 とある村で次々と起こる神隠し。それは血車党が労働力を集めるため行っていたものだった。父・太郎兵衛をさらわれた少女と出会ったことで事件に巻き込まれるハヤテとタツマキ・カスミ・ツムジ父子だが、化身忍者マシラに苦戦し、かろうじてその場を逃れる。が、村にはさらわれたはずの太郎兵衛が戻ってきていた。祝宴をはる村の一同だが、太郎兵衛はマシラの化けた偽物だった。罠に気づいたハヤテは間一髪逃れて嵐に変身、マシラの弱点の目を潰して勝利するのだった。

 ふと思い出したように続く特撮時代劇ヒーロー感想シリーズ。今回は「変身忍者嵐」第02話。

○とある村の家の軒に現れる血車党のマーク。そのマークが現れた家の主人は神隠しになるという…マシラのデザインからして狒狒伝説がモチーフですね。

○神隠しの目的は、血車党のドクロ館建設のための労働力確保だった…この先の話でも延々と、労働力確保のために人を攫う→ハヤテたちに気付かれて失敗、というコンボが繰り返されます。

○刃をはじき返す血車忍法鉄マシラ。普通にはじき返すんじゃなく、いちいち爆発するんですが、リアクティブアーマーの類なんでしょうか。

○血車党に捕らわれるタツマキとツムジ。すぐ血車党に捕らわれるタツマキたち、というパターンも今後延々と繰り返されます。

○タツマキがいないスキにカスミに笛をプレゼントするハヤテ。この涼風という笛、吹くとハヤテの愛刀早風と共鳴作用で反応するのでありました。

○何故か帰ってきた太郎兵衛さん。しかしカスミが川でボーッとしてると太郎兵衛さんがもう一人流れてきた…。「まずいところを見られたな」って、捕らえた奴の管理くらいちゃんとしましょう。

○カスミの笛が早速役に立ち、罠から逃れるハヤテ。しかし酒を飲もうとしたら刀が鳴ったというだけで酒が毒入りと気付くのもスゴイ。

○鉄マシラを破るため、秘剣影うつしで目を眩ませたうえで、小柄を投げて目を潰す嵐。お、時代劇っぽいアクション。


 上にも書きましたが、嵐前半の定番パターン、「自分たちの目的のために人をさらって(殺して)かえってハヤテたちに気づかれる血車党」が登場。泥縄な悪の組織というのは血車党に始まったことではありませんが、トホホ感漂うのは否めないところであります。


<今回の化身忍者>
マシラ(不死身のマシラ)
 着物をまとった白猿とでも言うべき姿の化身忍者。武器を一切受け付けない鋼の体を持つ(おそらくは不死身の二つ名の由来)。人間に化ける能力もあり、ハヤテを毒殺しようとしたが失敗、唯一生身だった目を潰されて倒された。

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2006.03.18

「怪~ayakashi~ 化猫」二の幕 やっぱり深夜アニメ…

 序の幕を見て思わず絶賛した「怪~ayakashi~」「化猫」ですが、二の幕に来て人物の作画がいきなり深夜アニメクオリティに。演出なのかアレなのか微妙な止め絵も多く使われていて、前回がクオリティ高すぎただけにちょっと落差が激しく感じられて残念だったことです。折角の薬売りの美形ぶりが台無しだったのが特に(険しい表情が多かったせいもありますが)。

 が、それを補うかのように、演出は相変わらず好調。薬売りが、物の怪探知機として用意した無数の天秤(ヤジロベエ)が、姿なき妖魔の接近につれて一つ一つ傾いていく様など、目に見えぬ魔を如何に描き出すかという難しい問題を軽々とクリアしていて感心しました。
 そしてまた、ふすまの向こうに近づく妖魔の気配が最高にまで高まり、遂に開いたふすまの向こうには!? と思いきや、そこにはずらりと並んだ無数の猫たちと、その中を一人往く美女という、シュールともコミカルともつかぬビジュアルには、良い意味でひっくり返ったことです。
 いよいよ次回はこの屋敷に秘められた因縁が語られる模様、相変わらず作画の方はあまり期待できないような気がしますが、どこまで演出と脚本でそれをひっくり返してくれるか、期待しておきます。


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 「怪~ayakashi~ 化猫」序の幕 ポップでカラフルな凄玉

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「源平討魔伝」 和の魅力を貫いた大名作


 時代劇ゲーム話シリーズ(いつの間にシリーズになったのか)、第二弾はナムコの大名作「源平討魔伝」であります(第一弾はこっち)。
 今ではプレイステーションパソコンでプレイできるこのゲームですが、私が今回プレイしたのはPCエンジン版。オリジナルに比べればそれは確かに落ちますが、しかしそれでも当時としてみれば実に素晴らしい移植だったPCエンジン版(その前に出たファミコン版はなぜかボードゲームになっていましたからなあ)、今プレイしてみても十分楽しむことができました。

 鎌倉幕府を樹立した源氏――実は妖魔の一族を討つために、地獄から甦った復讐鬼・平景清が、宿敵頼朝の座す鎌倉目指して死闘を繰り広げるという、これを時代伝奇と呼ばずして何を呼ぶ! というストーリーのこの作品ですが、1986年という時期に、誠に失礼ながら決してメジャーとは言えない平景清という人物を主人公に据えたスタッフの慧眼には驚かされます(余談ですが、この作品で平景清の存在を知ったゲーマーは大変多いのは間違いないはず。かく言う私のその一人であります)。
 そしてその主人公が、白塗りの顔に、つり上がった目と耳まで裂けた口というメイクなのもまたすごい。

 しかし何よりも素晴らしい点は、本作が徹底して「和物」「時代もの」にこだわった点。
 この作品が登場するまでも、忍者を題材としたゲーム、和風のゲーム時代もののアーケードゲームは色々とありましたが、キャラクター、背景、音楽等々、ゲームを構成する要素がトータルとして、和物、時代ものとして構築されていたのは、この作品をもって嚆矢とすべきではないかと思います。
 そしてまた、上記のような形として現れる部分のみならず、例えば遂に頼朝を討った景清が、その次の瞬間には自らも仮初めの生を失い、倒れ果てるというゲームのラストシーンに、ゲーム中も何度か聞くことができる「諸行無常」の理を感じさせられるように、精神的な部分さえ表現されているのがまた素晴らしいところであります。

 アーケードゲームの歴史から見ると、これはさすがに突然変異とも言うべき作品であったらしく、この路線を継ぐ作品というのはほとんど見られません。(ちなみにPCエンジンでは続編である「巻ノ弐」が発売されましたが、ゲームモードが単調となったこともあり、今ひとつの印象でありました。後にPS2の「ナムコ×カプコン」にも登場した敵キャラ・木曾義仲はこの「巻之弐」が初出なのですが…)
 それはそれで残念なことではありますが、しかしそれだからこそ、発表から20年を経た今もなお、この作品がワンアンドオンリーの輝きを持ち続けているのかもしれません。


「源平討魔伝」(ナムコ PCエンジン用ソフト) Amazon

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2006.03.17

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 やっぱり後はフュージョン!?

 一度は鬼神の血に支配されながらも、神の力も鬼神の力も屈しなかったゆやの存在により復活した狂。真の紅の王の力を得た狂は、既に真の紅眼にならないままで、鬼神の時の力のまま、先代をあと一歩まで追いつめる。が、先代は自らの血肉の分身たる鎭明と京四郎を吸収、パワーアップを図るのだった。

 おお、先代がフリーザ様のようだと思ったら、今度は狂がおだやかな心を持ちながら(中略)目覚めた伝説のスーパーMIBU人に進化。まさか狂に限っておだやかな心なんぞ持たないだろうと思いましたが、ヒロインとくっつくと人間丸くなるんですな。でも、まあ、何だかお似合いのカップルだ。

 などと呑気に思っていたら、先代が鎭明と京四郎を吸収。今度はセルかい。前回の感想で「ないない」と言いながらも鎭明が吸収されるんじゃと書いたら当たってしまいました。おまけに京四郎まで一緒に吸い込まれています。元々瀕死だった鎭明はもうアウトでしょうが、京四郎はまだ抵抗できるのか?
 こうなったら後は再び京四郎の魂が狂の体に宿って、フュージョンした最強のKYOになるしか! …でも鳴り物入りの割に時間制限とかあってあんまり強くないんだよな、フュージョン。
 あとは先代の分身の自爆攻撃で紅虎が惨死しないことを祈るばかりです。

 にしても、これまで八割くらい本気で、「本物の先代は幽閉されていて、今のあれはすり替わった京一郎」だと思っていましたが、あの吸収描写を見ていたら、やっぱり先代は本物の先代のように思えてきました。
 まあ、昔吸収した京一郎に体を乗っ取られておかしくなった、という展開も大アリだと思いますが。

 と、そろそろ阿国さんとるるを出しておかないといかんのじゃないでしょうか、と余計な心配を。

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2006.03.16

「聖八犬伝 巻之三 対牛楼の仇討」

 「聖八犬伝」の第三巻は、一度は一つ所に集まった四人の犬士が、関東に散らばり、それぞれの冒険を繰り広げていくことになります。

 本作は原作で言えば、犬坂毛野の初登場、対牛楼の仇討ちまでが描かれていますが、中心となって活躍するのは、気は優しくて力持ちの犬田小文吾。その直前の、これまた初登場の毒婦・船虫のエピソードにも絡んでくるだけに、この巻の半分以上は小文吾の活躍を描いたもの、と言ってもいいかもしれません。
 考えてみれば小文吾、かなり陰影に富んだ人物造形にアレンジされている本作の八犬士の中では、一番と言っていいほどの素直なキャラクター。混沌とした関東平野の中で繰り広げられる物語の中では、それが逆に異彩を放つように見えないでもないのがユニークなところであります。

 では他の八犬士は、と言えば、前巻でも少し語られていましたが、元不良少年(!)の犬川荘助が、子供ばかりの義賊団を率いて大暴れすると思えば、犬山道節は、自分の一族を皆殺しにした(と信じている)太田道灌を討つため、単身テロ活動を敢行。そして、初登場の毛野は、馬加大記を仇とするところは同じですが、その正体は何と何と…と、物語も半ばを過ぎたこの巻になって、オリジナル展開が目立ち始めました。
 もちろん、それはこの物語が勢いに乗り始めたということの裏返しでもあって、私としては、どれだけ八犬伝をアレンジしてくれるのか、むしろ楽しみであります。

 また、何よりも最大の驚きは、八犬伝物語で異彩を放つ悪役の一人・蟇田素藤が早くも登場すること。そしてその正体が、これまた八犬伝ではおなじみのあの人物の後身とくれば、やってくれたなあと嬉しくもなるものです。
 おそらくは、こればかりは原作同様、素藤は里見家の大敵として立ち塞がってくれるのではないでしょうか。

 そして、関東の梟雄・太田道灌も、八犬士を討ち滅ぼすよう、妖尼・妙椿(!)に吹き込まれ、これまた八犬士たちの前に立ち塞がる模様。
 虚構の大敵と実在の大敵、二つの大敵を向こうに回して、果たして八犬士たちの冒険行やいかに――


「聖八犬伝 巻之三 対牛楼の仇討」(鳥海永行 電撃文庫) bk1


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2006.03.15

今週の「Y十M」と今月の「武蔵伝」

 3週連続掲載の第2週目。
 囚われの身となり肉の地獄に引き込まれた男に声を上げさせる般若面の女の真意は、その声をカムフラージュとしてこの場がどこか男に教え、外部に知らしめんとするものでありました。文字通り体を張った策でありましたが、そこに――

 床下から司馬一眼房。

 これは、およそ床下から出てきたら一二を争うくらいイヤな奴だと思うが、どうか。

 それはさておき、哀れ男もろとも真の地獄に落とされた般若面の女。ああ、この世には神も仏もないものか? いや、神も仏もいなくても、柳生十兵衛はいると信じたいところですが、その十兵衛先生は何処へ?
 そしてまた今夜も凶賊の贄にされんとする新婚の男女が。男の方は、怪力の廉助をもってしても手こずる巨躯とのことですが――さて。あれ、半裸にされて転がされてるのは誰?


 と、週刊連載の漫画の感想ばかり書くのも気が引けるので、も一つおまけといっては失礼ながら、今月の「武蔵伝」の感想をば。
 最近「コミック乱ツインズ」を買っていないので(読んではいるのですが)、感想は単行本2巻が出るまで、と思っていましたが、いや最近の「武蔵伝」の展開は実に面白い。

 死んだはずの佐々木小次郎が登場したと思えば、武蔵たちを江戸に呼び寄せた天海こそが実は――という展開に驚くまもなく、実は今まで登場した全ての武蔵が偽物だったというどんでん返し。偽物がいれば当然本物も…というわけで、登場しましたは、その身にまとった妖気という点で、山田風太郎の「魔界転生」(石川賢の「魔界転生」とはちょっと違う気がス)を彷彿とさせる真の武蔵!

 というのが前回までの展開だったのですが、今月はさらに新免武蔵の口から驚くべき武蔵の真実が語られることに。詳しくは触れませんが、なるほど、武蔵ほどのプライドの高さであればこうするであろうという、一種のトリックには唸らされました。
 そして更にその武蔵のプライドの高さが、意外な逆転の狼煙となる展開にもまた興奮。その一方で、石川漫画といえばやっぱり爆発と崩壊でしょ、と言わんばかりにどっさりと積み上げられた火薬に今まさに火が! というところで次回の展開にも超期待。

 正直、いつ終わってもおかしくない展開ではありますが、御大が魔界とか虚無などに頼らずとも(いや、もちろんそっち系も大好物ですが)、これだけ見事な伝奇ものを見せてくれるだけで私は満足ですよ。


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2006.03.14

「怪~ayakashi~ 化猫」序の幕 ポップでカラフルな凄玉

 深夜アニメ乱立する中で、全三編の怪談話を放映しようというずいぶんなチャレンジャーな企画「怪~ayakashi~」もいよいよラストの作品に。
 他の二本は原作付きであったのに対し、この三作目「化猫」は原作なしと、海のものとも山のものともつかぬ作品だったのですが…いざ実際に作品を見てみたら驚きました。最後になって凄玉を投入してきやがったな、という印象です。

 「化猫」と聞いて、最初は鍋島の化猫騒動でもやるのかと思えば、物語は全くのオリジナル。舞台は江戸時代のとある武家屋敷、輿入れを目前に控えた娘が何者かに殺害され、その後も続く怪現象に挑むは、ふらりと屋敷を訪れた謎の薬売り。妖しげな美貌の持ち主であり、不思議な体術・妖術(?)を操る彼が、事件を起こしているのは物の怪、それも化猫――と看破するまでが第一話で、文章にすると単純なお話ではありますが、いやはやこれほど実物を見なければ意味がない作品も珍しい。

 何しろ、画面構成が実にポップでカラフル。その奇妙に様式美すら感じさせる華やかさは、歌舞伎チックなものも感じさせますが、むしろ目にも綾な絵双紙を眺めているような印象。絵柄的にも、アニメでありながら、むしろ和紙による貼り絵チックな味わいが持たされており――何しろ、よく見ていると画面上の絵に皺が寄ったり消えたりしているのだから驚き――怪談でありながら、絵を見ているだけで何だか楽しい気分になってきます。

 その世界を動き回るキャラクターたちも、何とも言えぬ戯画めいたおかしみのあるデザインで、時代劇や怪談と聞いただけで身構えてしまいそうなカタギの衆が見ても理屈抜きで楽しめるのではないかと思います。

 もっとも、そんな世界と人物が彩なす物語は、おそらくはかなりシリアスなものになる予感。登場人物たちも、皆どこか一癖も二癖もありげな印象で、そしてまた、舞台となる屋敷も、何故か猫を飼わないといういかにも化猫譚にふさわしい因縁を感じさせるものとなっています。
 そんな中でもっとも怪しい、そして妖しいのが主人公とも狂言回しともつかぬ薬売り。隈取りともつかぬメイクに、背中の笈に詰められた不思議な小道具の数々、そして、相手の形・理・真を見極めることで物の怪を斬ることができる退魔の剣を持つという彼のキャラクターは、「怪しいのはその通り」と自ら認めるほどの怪人物でありますが、ヒーロー性も十分過ぎるほどで、事件の謎を解き明かしていくであろう彼のこれからの活躍が楽しみです。

 脚本も横手美智子氏だし、これはかなり期待できそうですよ。お奨めです。

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2006.03.13

「射雕英雄伝 5 サマルカンドの攻防」 良くも悪くもの金庸イズム


 金庸先生による全5巻の長篇伝奇「射雕英雄伝」もこれで最終巻、これまでは武林(武術界)での争いがクローズアップされていた感のある本作ですが、終盤では、ジンギスカーンの征西に焦点が当てられ、歴史劇の色彩を強くしつつ、郭靖と黄蓉、二人のドラマが描かれていきます。

 …で、実はだいぶ以前にこの第5巻を読み終えていたのですが、今まで感想を書いていなかったのは、この作品をどう扱ったものかちょっと悩んでしまった、というのが正直な理由であります。
 何と言いますか、本書では良くも悪くも金庸イズム爆発。というか主に後者の意味で超爆発。

 物語的には、郭靖が義理と人情の間に板挟みになりながらも、遂に黄蓉との愛を貫くことを決意し、二人の関係も丸く収まるかと思えば、黄蓉の父・東邪の桃花島で郭靖の師たちが惨殺されているのが発見されるという急展開。傷心のうちに郭靖はモンゴルに戻り、ジンギスカーンの征西に参加、そこで郭靖が見たものは…と、いう展開。
 これだけ読むと誠に結構な内容に見えるのですが(いや、実際結構なんですが)、爆発しちゃったお方が約一名。その名も西毒・欧陽鋒。

 いや、本当に欧陽鋒の暴落ぶりは凄まじいものがありました。奸佞邪悪な妖人であったはずが、最強の秘伝書「九陰真経」を求めて郭靖と黄蓉に関わったのが運の尽き。戦場において深刻な物語が展開される一方で、何度も郭靖に挑んでは敗れて捕らえられ、挙げ句の果てに全裸スカイダイビング…ラストの扱いも壮絶で、いやはや、金庸先生のある側面が暴発してしまったか、という印象です。
 以前にも挙げた素敵なバカ映画「大英雄」は、案外金庸作品の一面を正しく把握していたのかな、と妄言の一つも書きたくなります。

 が、その一方で、快進撃を続け、遂には大帝国を樹立したジンギスカーンに対し、郭靖が英雄なんたるかを語るラストは、非常に重くかつ味わい深いものがあり、こちらもまた金庸作品の――世の人にもて囃される所以の――一面でありましょう。
 非常に失礼なことを承知で申せば、「先生、ラストは最初に決めておいて後はノリで書いたんじゃないかしらん」と思わないでもなく、その意味ではこの作品はちょっと違う方向で評価されすぎではないかと思わないでもないですが、しかしやはり、全5巻を読んでいる間、本当に楽しい時間を過ごすことができたのは紛れもない事実。まあ、私はおバカなノリも重厚な味わいも元々大好きなのですが。
 続編である「神雕剣侠」も読まなければ、と思います。


「射雕英雄伝 5 サマルカンドの攻防」(金庸 徳間文庫) Amazon bk1


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2006.03.12

「人は死んだらオシマイよ。」 山風大いに語る


 山田風太郎の文章からの名言を集めた一冊。買ったときには山田風太郎の「小説」からの名言集かと思ったのですが、その実、小説からのものは全体の2割程度で、あとは山風のエッセイからの名言でありました。

 当然ながら(?)山風のエッセイも読んでいる身とすれば、収録されている内容のほとんどが既読の文章でしたが、それでもあるテーマ毎に集められた山風の言葉を読むと、内容もさることながら、その文章を初めて読んだときのことまで思い出して、なかなか面白いものでした(大体、小説だってほとんど読んでるんだから、既読の文章ばかりなのはわかりきった話であったわけで)。
 まあ、さすがに山風のエッセイ集はほとんど読んでいる人にはお奨めしがたいものがありますが、最近山風作品に触れた方、小説しか読んだことのない方には、手頃な一冊と言うべきでしょうか。
 いきなり「サムライの美学」なぞという、素晴らしく山風らしくない章題があって脱力させられますが、まあこれはPHPクオリティと思うべきか。
 あと、文章を読んでると以外と山風も普通の戦前生まれのおっさんだよね、と神をも恐れぬ暴言を吐いてこの稿おしまい。


「人は死んだらオシマイよ。」(山田風太郎 PHP文庫) Amazon bk1

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2006.03.11

「抜け荷百万石」 雄藩を結ぶ黒い糸


 幕末直前の時期に、巨大な抜け荷の陰謀に挑む公儀隠密の姿を描いた南原幹雄先生の伝奇もの。
 南原先生は、何作か経済伝奇ものとも言うべき、大商人の経済活動と政治権力の闇の繋がりを描いた作品がありますが、本作もその一つ。また、隠密である主人公たちが所属するのは、これまた南原作品ではお馴染みの秘密捜査機関・中町奉行所なのも楽しいところです。

 物語は、時の長崎奉行が、長崎貿易会所(幕府の長崎での貿易管理所)の膨大な赤字の責を負って自ら腹を切るシーンから始まります。幕府が一手に握っているはずの対外貿易でこれほどの赤字が出るということは、その裏をかいて抜け荷を行っている者がいるはず――と、捜査に送り込まれたのは中町奉行所の腕利き・神楽八郎太と小金井兵馬。抜け荷の謎を追う二人は、薩摩が対中国輸出品目である俵物(煎海鼠・_干鮑・フカヒレなどの海産物)を大量に抜け荷し、そのため幕府には劣悪な質の俵物しか手に入らず、それが赤字につながっていることを掴みます。
 しかし、俵物の産地は遠く松前。薩摩が松前の海産物を仕入れることは困難極まりなく、その間にはもう一つ、何者かが潜んでいるはず。果たしてその正体は…
 って、タイトルでバレバレではあるのですが、時代小説では常に幕府の敵として登場する薩摩と、天下一の大藩でありながら、極めて幕府に従順であり、陰謀の影とは無縁にも思えるあの藩を結びつけて見せたのはまさにコロンブスの卵。作中の人物たちも、二つの雄藩の意外なつながりに、思わず自分の考えを疑ってしまうシーンがありますが、読者であるこちらも最初は驚き不思議に思い、次いで、そうかその手があったかと唸らされました。

 もっとも、この意外な会盟の始末については、(途中かなり盛り上げていたわりには)少々味気なかったのですが、これはまあ史実の壁ということでしょう。
 個人的には、探索の手がかりを全て失い、万策尽きたかに見えた状況を打ち破ったのが、陰謀の犠牲となった弱き者の恨みの力だったというのは、かなり好みの展開でありました。主人公たちの苦闘を目にしてきただけに、クライマックスはなかなか爽快でありましたよ。


 …ところで、登場人物の台詞回しが妙に説明口調なのがかなり気になったのですが、南原先生ってこういう文体だったかしら?


「抜け荷百万石」(南原幹雄 新潮文庫) Amazon bk1


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2006.03.10

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 ヒロインは駆ける

 鬼神と化した狂は絶大なパワーを発揮、あの先代紅の王をも一蹴してしまう。が、既に己を見失った狂は見境なく暴走を開始、止めようとした京四郎の前には、かろうじて一命を取り留めた鎭明が立ち塞がる。と、そこで狂目掛けて走り出すゆや。自分の身が如何に傷つこうとも走り続けるゆやは、遂に狂の元に辿り着くが、狂は彼女に対して刀を振り上げる。が、振り下ろされた刃を受けたのは狂自身の手だった。そしてゆやの口づけが、狂の身に変化を――

 300回記念巻頭カラー、見開きの扉絵は(味方側)オールスターが、狂チックな黒衣を着て総出演。ここしばらく固まりっぱなしの壬生勢が元気な顔をしていてちょっと安心というか何というか。妙に恥ずかしそうな時人もgood。

 と、本編の方は、案外あっさりと狂が復活したな、という感じですが、ベタベタな展開ながら、「未来が見えないから、わずかな可能性を信じることができるからこそ無茶できる」ゆやが、狂の思い出と共に走り抜けるシーンはなかなかよい感じでありました。昔は足手まといで鬱陶しいキャラでしたが、いやここまで貫けば立派なヒロインです。

 そしていきなり復活の鎭明は――正直、この前斃された時がそれなりにきれいな幕引きだと思ったので正直なんだかなあという気もしますが、まあ再登場には何かしらの意味があるのでしょう。先代に吸収されるとか<ないない

 そしてラストで狂の背中に紅十字が発現。同時に先代も不気味な笑みを見せますが――まさかこれが目的でわざとやられていた、とか言い出すんじゃあるまいな。

 それにしても真の壬生一族の真の姿、という何とも語呂の悪い言い回しはいかがなものか。あと、狂の鬼神姿を見ていたら「3×3EYES」の暴走した鬼眼王を思い出したけどこれは禁句かしら。

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2006.03.09

「コウヤの伝説」 少年たちはコウヤを目指す


 ロマンスの色濃い時代伝奇「業多姫」シリーズの時海結以と、「コミック戦国マガジン」でフレッシュな作品を描いてきたゆづか正成のコンビによる、児童向け時代ファンタジー。鎌倉幕府滅亡直後の時期を舞台に、それぞれの運命を背負った少年少女が、神の野「コウヤ」で繰り広げる冒険を描いた作品です。
 文章もイラストも、どちらも気になるクリエイターの方だったので楽しみにしていたのですが、期待通りなかなかに楽しめる作品でありましたよ。

 最後の執権・北条高時の子で、寺でその存在を隠して育てられたきじゅ丸。北条家に仕える武士の子で、自分も戦場で戦うことを夢見る少女・みさ可。そして、戦乱で両親を失い、病弱な弟を育てるために奔走する平民の子・吾郎。この生まれも育ちも、立場も信条も違う三人の子供たちが、本作の主人公であります。

 それまで全く交わることなく暮らしながら、幕府滅亡の混乱の中で出会った三人が、伝説の金竜に導かれて辿り着いたのは、神の力が眠るという禁断の地、コウヤ。しかし彼らだけではなく、コウヤの力を奪わんとする帝方のバサラなる怪人たちまでもがコウヤに入り込み、吾郎とみさ可に、他者を斬りたくなるという呪いをかけてしまいます。
 更にきじゅ丸の手には彼を血塗られた運命に導かんとする妖刀・鬼丸があり、二巻目では冒頭で新たな仲間として彼らより更に幼い子供・いぶき(その正体は後醍醐天皇の皇子・世良親王――ってまたずいぶんと珍しい人物を…史実ではこの時既に故人ですが)が加わり、いよいよ状況はややこしいことに。

 吾郎は侍の争いで両親を失い、みさ可はきじゅ丸を守って父を失い、きじゅ丸は帝方に刃を向ける運命を背負わされ、いぶきはその帝の皇子…と、一歩間違えれば大変な惨劇になりかねない人間関係ですが、そこは子供たちの素直さというべきでしょうか。仲違いはしつつも、コウヤの力を奪おうとするバサラを阻むため、三人+1の冒険が始まります。

 正直なところ、コウヤという特殊な舞台設定の解説のために金竜がいちいち出張ってくるのが物語のテンポを削いでいる部分はあるのですが(例えていうならば、自分が操作するよりもデモ画面を見ている時間の方が長いTVゲームのような感覚)、しかし二巻までで基本的な設定は出揃ったようなので、これからが本番というところなのでしょう(というか、対象年齢から二回りも上のおっさんがあれこれ言う事じゃないですな)。

 子供でなければ体験できない、そして子供の目を通してしか描けない物語というものは、確かにあると思いますが、本作がそんな物語として、これから発展することを大いに期待しますし、この先の展開を楽しみにしているところです。


 …それにしても、子供の頃親しんだフォア文庫がまだ存在している――どころかバリバリと新刊が出ていることになんだかとても嬉しくなったことですよ。


「コウヤの伝説 1 金色の竜」(時海結以 フォア文庫) Amazon bk1
「コウヤの伝説 2 まもりの刀」(時海結以 フォア文庫) Amazon bk1

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2006.03.08

今週の「Y十M」と第3巻

 久々の「Y十M 柳生忍法帖」、前回がアレなヒキだったのでどうなったかと思えば、元は優男が今は骨と皮だけになって吉田御殿の外に捨てられた哀れな花婿一人、という場面からスタート。果たして一体どんな目にあったかと思えば、それはもう見開きで何だかホラーな絵になってしまうような目にあったらしく、いや恐ろしいことです。
 そして現れる第二、第三の犠牲者。松平伊豆守や柳生宗矩の懸念をよそに、更にまた犠牲者が…というところで、またアレなシーンで今週はおしまい。というかあのハシラの文句はなんじゃ(ぶっちゃけ、ちゃんと意味はあるんですけどね)。

 また話はあまり進んでいませんが、今回をしっかり描いておかないとこの先の展開につながってこないので、まずは仕方のないことでしょう。にしても、考えれば考えるほど、わかりやすくもいやぁな陰謀ではありますな。
 そして今回初登場は松平伊豆守信綱。時代劇ではお馴染みのキャラクターですが、どうも怜悧な能吏の印象が強い人物だったので、もっと触れれば切れるようなビジュアルかと勝手に思っていましたが、見るからに食えない狸オヤジという感じで実によろしい。


 そしてまた、久々の本誌掲載と同時に単行本第三巻も発売。十兵衛先生の特訓から、凶賊般若組の跳梁開始まで…ということは前話まで掲載ということで、単行本を買った人がすぐ本誌を読んでも大丈夫という心配り。
 内容については、既に本誌掲載時に採り上げてきたので詳しくは触れませんが、やはり単行本では印刷が鮮明になっており、画の細かな陰影が綺麗に浮き彫りになっているのが実に有り難いところです。ナイトシーンの多い作品だけに嬉しいところでありますし――ここだけの話、特訓シーンの堀の乙女たちのボディラインが、実にその、何だ、美しく描かれているので(言葉選んだ)感心しましたよ。

 ちなみに帯の文句は「ご覚悟あそばせ、鬼畜ども」「天才剣士・柳生十兵衛に率いられた美女七人、超人的強さの悪鬼七人を惨死せしめんとす!!」という、何というか陳腐ギリギリ寸止めの味わいですが、これはこれでなかなか面白いと思いました。
 バジの「愛する人よ、死に候え」のような、全編通しでビシッとはまるキャッチフレーズがないのはちょっと残念ですが(「因果応報奉らん」はかなり良かったんですけどね)、次の巻でどんな文句で来るか、という楽しみはありますね。

 あと、お鳥さんに目が行っていて単行本になってようやく気づきましたが、お笛の髪型が変わっていたのですね。こちらの方がずんとよろしい。


「Y十M 柳生忍法帖」第3巻(せがわまさき&山田風太郎 講談社ヤンマガKC) Amazon bk1


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 今週のY十M

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2006.03.07

「鬼神降臨伝ONI」 鬼追う者、鎌倉に見参


 2月頭にインフルエンザで寝込んでいる間、どうにも暇で、しかしじっと寝ているのが我慢できない貧乏性だったため、今まで買い込んだ時代ものゲームを少しずつプレイすることにしました。…で、今頃になってクリアしたのが、このスーパーファミコンソフト「鬼神降臨伝ONI」。レトロゲームファンには懐かしいゲームボーイのONIシリーズが、スーパーファミコンに進出した第一作であります。

 舞台は鎌倉幕府成立直後の頃。由比ヶ浜で拾われ、源頼朝の子・頼遠(架空の人物。源頼親の子で前九年の役で戦死した同名の人物がいますが、そちらとはもちろん別人)に育てられた少年・北斗丸が、頼朝の命により頼遠と二人、妖怪退治の旅に出る…という導入部で、これだけ見るとファンタジーものRPGの世界を日本に移し替えただけ、のように見えますが、曲者パンドラボックスの作品だけに、それからは意外な展開の連続。
 主人公の出生の秘密とは(勘のいい人なら上の文章だけでわかると思いますが…)。伝説の「天下五剣」に秘められた力とは。義経の死に秘められた怨念とは。源氏の一族に秘められた力とは。本当に悪いのは妖怪と人間どちらなのか。そして真の敵とは一体――この時期のRPGは、単純な善悪二元論から脱して、それぞれにデザイナーの主張が込められた作品が多くなっていましたが、この作品もその一つとして(つうかONIシリーズは昔からこんな感じという気もしますが)楽しむことができました。

 もっとも、物語で重要な位置を占める妖怪側の副将格がぬらりひょんでちょっと興醒めだったり、ラスボスが――よく考えるとなかなか深いものを感じる存在ではあれ――かなり唐突に登場してきた感があったりと、つっこみどころやもったいない点も多いのは事実。
 とはいえ、1994年というスーパーファミコンのゲーム全体が技術的にも内容的も円熟期にあった時期の作品であるだけに、コンピュータRPGとして見れば実に標準的な――それでいてプレイアビリティは相当高い――作品に仕上がっているため、ストレスなくスムーズにプレイできた点は大きく、全体として見れば、水準以上の作品になっているのではないでしょうか。

 スーパーファミコンのONIシリーズは、この後にもう一作、幕末を舞台とした「幕末降臨伝ONI」という作品もあり、こちらも手元にあるのでこれからプレイの予定。どうやら本作とも密接に関わる内容のようですので、楽しみです。

 と…このゲームについて色々と調べていたら、シナリオを担当した早川奈津子氏の手によるノベライゼーションがあったことに今頃気づいてしまいました。これは探さにゃあ。


「鬼神降臨伝ONI」(バンプレスト スーパーファミコン用ソフト) Amazon

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2006.03.06

今週の「SAMURAI DEEPER KYO」 何段階目の限界突破?

 狂の黄龍にも無傷かに見えた先代紅の王だが、眉間に傷を負っていた。激高する先代は、圧倒的な実力差でもって狂をいたぶるかのように徐々に痛めつける。嵐のような攻撃の中で、しかし、仲間のために、強敵たちのために、先代を「斃す」という思いを貫き続けた狂は、遂に先代に一太刀浴びせる…が、その時、狂の身は異形と化しつつあった。かつて真の壬生一族たちが辿った道、破壊と殺戮を求める鬼神へと――

 何だか、ぶっちゃけドラゴンボールチックなバトルだった今週。自分がブッ飛ばした相手を追いかけて更に連撃を浴びせるというアクションが、時代劇で見れるとは思いませなんだ。先代がフリーザ様に見えてきましたよ。

 と、そんな中で狂が変な方向にGENKAITOPPA、一体何段変化するのか君は! という感じですが、ちょっとアニメ版の剣妖みたいな雰囲気。おそらくは来週無茶苦茶な戦闘力を発揮するのでしょうが、隙が大きいとか持続時間が短いとかあるのでしょう。先代も同じような変生を遂げることができるでしょうしね。うわ、ますますフリーザ。
 …まあ、おそらくもう一段階、狂がGENKAITOPPAするとは思うんですが。

 そして次回は300回記念の巻頭カラー。現在マガジンで連載中の作品の中で、三番目の長寿らしいという話を聞いてちょっと驚きました。

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2006.03.05

大年表更新しました

 本サイトの一応メインコンテンツなんですがどうにも名前が恥ずかしくていけない妖異大年表のwiki版に、鎌倉時代から安土桃山時代までのデータを掲載しました。右のサイドバーのリンクから行くことができます。
 年表データをwiki形式で書いていくのも、ようやく少しは効率よくできようになってきました。大量のページ数になる場合には、やっぱりwikiは非常に便利です。…データをよそに移行するとなったら相当の悲劇だとは思いますが。
 残るは江戸時代分の移転ですが、早いところ済ませて、新しいデータを追加していきたいところです。

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「人間勝負」 命を的の人間力勝負


 互いに殺し合うことを課せられた十人の男女が秘宝を巡って争奪戦を展開する、サスペンス色の強い柴錬伝奇。主人公は、凄腕ながらも世をすねた訳ありの無頼浪人というお馴染みのパターンではありますが、しかし物語の主眼はヒーローの活躍というよりもむしろ、群像劇としての色彩が非常に強い作品となっています。

 本作は、出だしからして非常にミステリアス。浪人・旗本の三男坊・忍者・大商人・盗人という五人の男、そして、深窓の令嬢・切支丹の遊女・舞子・くノ一・女掏摸という五人の女という、生まれも育ちも全く異なる人々が、謎の老人・空知庵により集められる所から物語は始まります。
 実は海賊として海外で暴れ回っていたという空知庵は、自分が二十年蓄え、琉球に隠した財宝を江戸まで持って帰ってきて欲しいと十人の男女に語ります。しかし、財宝を持って帰ることを許されるのは男女一名ずつ、しかも琉球に着くまでにその二人が夫婦になっていなければならないという意外の条件つきで。

 かくして、奇怪なバトルロワイヤルの旅に放り込まれた男たち女たちの人間模様がスタートするわけですが、待ち受けるのは莫大な財宝、そして男女が互いに結ばれなければならないとくれば、そこに巻き起こるのは色と欲の絡んだ死闘の数々。単なる知力や体力、戦闘力だけでなく、人間力が勝る者が勝つという、全くもって見事な、そして残酷なゲームのルールを考えるものです(柴錬作品にはこうしたゲーム的展開の作品はさほど無いような気がしますので、その点でも新鮮であります)。

 それだけでも十分に混沌とした情勢ですが、そこに柳生但馬守、土井大炊守、長曾我部家の残党、天草の乱の残党等々、様々な勢力が絡んでくるのがややこしくも面白いところ。そしてまた、主役たる男女たちにもそれぞれ意外の素顔があり、物語の全ての要素が絡まって一つの目的に収斂していく様は、まさに伝奇小説の醍醐味といえるでしょう。
 意外な正体といえば、ゲームマスターたる謎の老人・空知庵の正体には、柴錬ファンならば驚くとともにニヤリとすることでしょう(柴練作品ではお馴染みのあの名将ですよ!)

 また、運命に翻弄されることの多い柴錬ヒロインの中でも、特に数奇な運命を背負わされたのが本作のヒロイン。未読の方のために詳しくは書きませんが、よくぞまあこれほど高貴で、かつまた呪われた血筋を考えたものだとつくづく感心しました。
 そして――彼女が運命と、そして何よりも自らを利用せんとする周囲の思惑に翻弄されていく様を見るに、同様に高貴で、かつ呪われた出自の者がほとんどである柴錬主人公が、一個人として、無頼のままに活躍できるのは、あくまでも彼が己の想いを貫くだけの剣の力を持っているからであり、それがなければ血筋というものは己を縛る鎖にしかならない、ということを改めて気づかせてくれたことです。

 柴錬作品の中では異色作の部類に入るかと思いますが、しかしやはり素晴らしく面白い時代伝奇小説でありました。かなり分量はありますが、一気に読むことができること請け合いであります。


「人間勝負」(柴田錬三郎 新潮文庫全2巻ほか) 上巻 Amazon bk1/ 下巻 Amazon bk1

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2006.03.04

「山賊王」第8巻 深編笠の…


 少年漫画版「太平記」である「山賊王」の最新刊は、吉野での宮方軍と幕府軍の攻防戦。楠木正成の命で吉野に立て籠もる大塔宮の元に向かった主人公・樹長門は、そこで一徹な武士・村上義光と、その子・義隆と出逢いますが、そこに思わぬ悲劇の影が…という展開です。

 「太平記」で吉野で村上義光とくれば、太平記ファン(?)にとってはご存じでしょう、落城し落ち延びる大塔宮の身代わりとなって彼の鎧兜を身につけ、大軍を引き付けた末に、その前で立ち腹切って息絶えたという有名なエピソード(国枝史郎の「あさひの鎧」のクライマックスでもありますな)。
 そのエピソードは、本作「山賊王」のこの巻でも一番のクライマックス。義光の中に、今は亡き父の姿を見ていた長門にとって、義光の死は大きな痛手、それでもなお、その遺志を無駄にすまいと必死に大塔宮を護って落ち延びる彼ですが、悲劇はそれで終わらずなおも彼の前から仲間を奪い――というわけで、これまで正成の下に身を寄せてから、連戦連勝(まあ、千早城落城はありましたが)であった長門にとって、父の死以来の近しい人の死という展開で、今後の彼の心の動きが気になるところであります。

 が――個人的にそれ以上に気になったのは、本作があまりに善悪はっきりと分かたれすぎていること。これは連載開始当初から感じていたのですが、本作、悪くてバカな幕府軍vs知勇に優れた立派な宮方(悪党方)という構図が、どうにも目立ちます。この巻でも、吉野落城に繋がり、結果として村上義光を死に至らしめた裏切り者は、卑怯卑劣な男として描かれておりました。
 まあ、少年漫画の歴史ものとして、この手法もアリだとは思いますが、モノが「太平記」だけに、どうにも気になるというのが正直なところ。あの世界を善悪はっきりと分けるというのは、それはそれで一つの見方でありますが、果たしてそれで済ましていい題材なのかな、という気持ちが、個人的にはあります。
 この作品が、平成の御代に現れた、山田風太郎先生言うところの「深編笠の太平記読み」とは思いたくありませんが…


「山賊王」第8巻(沢田ひろふみ 講談社月刊少年マガジンKC) Amazon bk1


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 「山賊王」第6巻
 「山賊王」第7巻

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2006.03.03

「嵐山スターウォーズ」 SUPER REAL FICTION復活!?

 ということでみのもけんじ先生の「嵐山スターウォーズ」の紹介。画像は載せられませんが、できるだけ細かく紹介しますので絵ヅラを想像してみて下さい。いや本当に妄想とかじゃないんですってば。

○嵐山山中――上半身裸で断崖絶壁を登る助さんと格さんの姿が。足下を滑らせた格さんにすかさず手をさしのべる助さん。「気合いッ!! 一発ッ(いっぱーつ)!!!」と引き上げるところでタイトル「嵐山スターウォーズ 最強タッグ伝説 助&格」がバーンと登場。

○ここでナレーション。
 「舞台は江戸時代 諸国漫遊先にて鍛錬を積む助さんこと佐々木助三郎―― 格さんこと渥美格之進―― 二人は自他共に認めるベストパートナー!! 今日も黄門様の護衛をきちんと果たせるよう体作りは欠かさない!! 基礎練習を終え山中へロードワークに出かけて来ていたのだった――」…ということです。

○と、爽やかに崖の下で休憩する二人の上に転がり落ちてくる大量の石! 崖の上に現れたのは如何にも悪そうな二人の外人格闘家…いや山賊。
 「ちょろいもんだな兄者!」
 「まァ…黄門様の最強の付き人2人組 助と格も所詮この程度のものなのか…!?」
 「この山中を縄張りとする最強2人組 我等 野下猪羅(ノゲイラ)兄弟の足下にも及ばない奴等だな 兄者!!」

○と、兄弟の背後から忽然と現れる助さん格さん。二人は兄弟の悪行を聞きつけ、鍛錬しつつ兄弟を誘き出そうとしていたのだった。が、兄弟は不敵にも返り討ち宣言をすると「ついて来いッ!!」とその場から駆け去ってしまう。
 兄弟を追ってきて、林の中の空き地にやってきた二人ですが…そこに周囲から投げかけられる縄。見る間に空き地の四方の樹に縄がくくりつけられ、そこには四本ロープのリングが誕生!

○そこに現れる兄弟。
 「どうだ助に格よ これで逃げ場は無くなった 山賊の俺達に山での闘いを選ぶことの愚かさを後悔させてやるぜ」
 「これが我等野下猪羅兄弟の戦い方…“なんでもあり”ってやつで勝負をつけてやるぜッ!!!」

○兄弟の挑戦に乗った格さん、先制のローリングソバット(この時点で既に何か狂ってる)を仕掛けるが――そこに炸裂したのはケムリ玉。
 「これが“なんでもあり”ッてやつだあッ!!!!」と格さんを殴り飛ばす野下猪羅兄。間違ってないが何か間違ってます

○卑怯な手に怒る助さんに今度は弟の魔の手が。ロープの上を身軽に飛び回る弟にキックを見舞おうとする助さんの目の前で、敵の影が二つに分離! 野下猪羅兄弟のダブルクローズラインが炸裂だ! 血反吐を吐いてダウンした格さんに、さらに野下猪羅兄は木の枝にぶらさがりながらの三角締め「野下猪羅秘術 三角地獄――ッ!!!」を喰らわせる!

○意識が遠のいていく助さん。格さんも最初の一撃でダウンして動けない(弱いな)!
 と、その光景を見かけてわなわなと震える一つの影が。黄門様に言われて差し入れを持ってきたらこの場に出くわしてしまった、うっかり小鉄だ!
 「こ…このままじゃ助さんと格さんが殺されるッ…!!!」

○と、小鉄の背後から躍り出る二つの影…網代笠の僧形の巨人と虚無僧姿の男、その姿を見た小鉄は「ああッ…あの2人組はッ…!!!」と驚愕の表情を!

○リングに駆け寄った虚無僧は、勝ち誇りながらもなおも助さんを締め上げる野下猪羅兄に猛烈な延髄斬りを喰らわせる! 
 「汚ねえ技を使い最強2人組の名を手に入れようとするなんて外道のすることだな…」
 更にトップロープを一またぎにしながら僧形の巨人がリングイン!
 「2人組の真髄って奴を俺達が教えてやるよ!」

○そして二人は装束を解いて臨戦態勢に。小鉄の驚愕も臨界点だ!
 「やはりそうだッ!! あの2人組はッ…!!!」
 「徳川将軍に仕える伝説の2人組!! 馬場と猪木ッ!!!」
 「久し振りに一丁やるかい寛ちゃん!!」「ヨッシャアッー 行きますか馬場さんッ!!!」世界のBI砲が江戸時代に登場だーっ!!

○伝説の2人を前に闘志を燃やす野下猪羅兄弟。先陣を買って出た馬場に襲いかかる野下猪羅弟、馬場のチョップを「遅いッ! 遅いぞッ! ハエも殺せぬわ――ッ!!!」と無駄にガチっぽいことを言いつつかわしますが、そこに――馬場の左腕が! がっちり首元をロックしてフライングネックブリーカードロップだ! 更にひるんだところを捕まえてジャンプ一番、唐竹割り炸裂!

○一方、猪木は野下猪羅兄にドロップキックを食らわせると、間髪入れずに見事なジャーマンスープレックス
 既に完全に観客と化してしまった助さん格さん、そして小鉄も愕然とするくらいの圧倒的な強さだ!!

○そして既にグロッキー状態の兄を馬場さん目がけて投げつける猪木。そこに――十六文キック炸裂!
 「こ…これが伝説の最強2人組!! 馬場・猪木なのかッ…!!!」

○そして戦い済んで、黄門様に野下猪羅兄弟の骸?の胸を見せる小鉄。そこにはくっきりと葵の御紋が刻み込まれた「馬場の“十六文わらじの印”」が…! っていうか葵の御紋を踏みつけているのか馬場さん!?

○その様に血が熱くなったか黄門様、「ワシも昔みたいにもうひと暴れしたくなってきたわい…」と一人独り言ちつつ石灯籠に空手チョップを喰らわせる! すると石灯籠バラバラ!!
 「ウワッハッハッハッ…!!!」と両手を腰に当てて気持ちよさそうに笑う黄門様。そ、その顔はプロレスの父

○そして何処かの空の下、微笑む馬場と猪木(爽やかな“みのもスマイル”で)。
 「黄門様 助三郎と格之進はまだまだ成長するでしょう いつか私達さえも越える2人組になるでしょう!!」
 その言葉に応えるかのように、助&格の「気合いッ!! 一発ーッ!!!」の声が今日もこだまするのだった…
 おしまい


 …というわけで書いているうちになんだかとても申し訳ないことをしているような気分になってきた「嵐山スターウォーズ」紹介。水戸黄門ファン、というか普通の人がみれば正気を疑うような内容ですが、テリーの涙のスピニング・トゥホールドマーク2や、鶴田奇蹟の膝突きバックドロップなどに感動してきた「プロレススターウォーズ」ファンにとっては――観客の子供の「うわぁぁぁあん、○○さんが死んじゃうよぉー!!」が無かったことを除けば――感無量の作品でありました(今の時代だとさすがに敵役はウォリアーズじゃないんだなあ、とか)。
 というか、みのも先生の脳内世界の相変わらずっぷりに安心しましたよ。

 …いや、何かが激しく狂っているのはわかっているんだ、わかっちゃいるんだが、プロレスと時代劇は、共に「REALを超えたFANTASY」だからいいんですよ! と、一番狂ってるのはこんな文章を書いている人間だ、ということをさらけ出しつつこの稿おしまい。

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今日の小ネタ

今日の(本当は昨日書こうと思っていた)小ネタ
女性向け恋愛ADV「用心棒Yo-Jin-Bo~運命のフロイデ~」PS2に移植
 いや、こういう作品もあるんですなあ。蒙を啓かれた気分です。でも用・人・棒の三人揃って用心棒というのはちょっと面白いと思います。
 こういう世界のことは全くわからないのですが、とりあえず、何でここのお侍さんたちは、こんなに露出度が高い衣装を着ているのでしょう…と思ったけど、よく考えたらファンタジーものの女性キャラもみんな何だかしらないけど露出度が高いので、ここはおあいこと言うべきでしょうか<そうかなあ
 しかし、このゲームが何故わざわざ時代ものとして作られたのか、ということを考えると、小説の世界では壊滅的に若ェ衆に人気のない時代劇が、ゲームの世界ではそれなりに受け容れられているという現象を読み解く一つの鍵になるのではないかと思ったりするのは、すみません、一種の病気です。

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2006.03.02

「水戸黄門REVOLUTION」 これは夢か幻か…?

 二年ちょい前、TVの水戸黄門が千回記念ということで、特番が放送されたり、ムックが発売されたりとプチフィーバー(ほんとにプチ)だった時がありました。その頃にですね、一冊丸々水戸黄門ネタ、というアンソロジーコミックが発売されました。それがこの「水戸黄門REVOLUTION」
 いや、水戸黄門アンソロジーという時点で既に半ばアレなんですが、凄まじいのはその内容。あまりにもナニなのでこれは自分の妄想の産物だったんじゃないかとしばらく記憶の底に封印していましたが、部屋の片づけしていたら現物が出てきたのでここに紹介。

 アンソロジー本と言えば気になるのが作家陣ですが、それがまず凄まじい。目についた方の名前を挙げただけでも、ビック錠/江口寿史/三浦みつる/えびはら武司/みのもけんじ/泉昌之/大地丙太郎…いや、時代漫画の顔ぶれじゃないですよこれ。
 そしてこれまたアンソロジー本にはつきものの巻頭イラストも、里中満智子/一峰大二/山田ゴロetc.と謎のメンバー。里中先生なんて、かげろうお銀の入浴シーンのカラーイラスト描いているし、これは何というか、闇の組織(トップが水戸黄門ファン)が業界に圧力をかけて一冊作らせたんじゃ…と台湾とかでは実際にありそうなエピソードを思い浮かべてしまったくらい謎の本であります。

 が、もし本当にそんな組織があったら、きっと怒り狂ったろうなあ、というくらい飛ばしているのがその内容。三浦みつるの作品は、黄門様以外いつものメンバーが何故か全員女性という内容だし、えびはら武司は黄門ネタといいつつ「まいっちんぐマチコ先生」描いているし、泉昌之は黄門様一行がシブくおでん食べてる作品だし(ただし後半で大暴走)…一峰先生の巻頭イラストも、サングラスに髭モミアゲのいかにもな監督はじめとするスタッフが、黄門さまの前で笑顔で土下座するという謎イラストで、とにかく豪華な執筆陣が、そのパワーを何だか大変な方向に発散している、という内容になっています。

 その中でも、黄門様の少年・青年時代を描いたビッグ錠と、黄門様が自分の家臣・藤井紋太夫を手討ちにしたという史実(?)を搦めて柳沢吉保との対決を描いた左近士諒の両先生の作品が、時代ものとしてきちんと成立しているのですが、そちらの方が逆に浮いて見えるという…

 しかしそんなアレコレも、もうどうでもよくなってしまうのが、みのもけんじ先生の作品。「嵐山スターウォーズ」というタイトルを見ただけで何となく予感がしたんですが…あの伝説の名作「プロレス・スターウォーズ」を、水戸黄門の世界で描いてしまったという奇蹟の怪作。特訓中に山賊の野下猪羅(ノゲイラ)兄弟に襲われて窮地に陥った助さん格さんを、徳川将軍に仕える伝説の二人組・馬場と猪木が助けるという…
 何だか書いていて、自分がUFOとかUMAの目撃者になった気分になってきましたが、本当にあったんですよそんな作品が。あまりに面白いので全頁スキャンしてうpしたいくらいですが、そんなことをすると逮捕されてしまうので、この作品については稿を改めて紹介する所存。


「水戸黄門REVOLUTION」(日之出出版)

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2006.03.01

「後藤又兵衛」 個人の生き方としての武士道

 大坂の陣において、真田幸村と並んで大活躍したと言われる豪傑・後藤又兵衛の半生を描いた本作。
 朝鮮での虎退治や名槍・日本号を呑み取るエピソードから、自分のみならず息子まで辱めんとする暗君・黒田長政を見限って出奔し、乞食同然の暮らしを送りながらも、大坂の陣が始まらんとしたとき、颯爽とした武者ぶりで大坂城に入場するという、フィクションの世界での後藤又兵衛の活躍の集大成とも言える内容となっています。

 そういう意味では非常にオーソドックスであって、さほど新味はないとも言えますが、しかし、己の信念と誇りを貫くためであれば、高禄も何のためらいもなく捨てて野に下り、浪々の身となりながらも、節を曲げず義を重んじ、一朝事あらば武人として敢然と立ち上がる又兵衛の生き様は痛快の一言で、実に気分が良いのです。

 私が後藤又兵衛という武将のことを知ったのは、横山光輝先生の名作「時の行者」の一エピソードにおいてで、その中で描かれた義侠心に富んだ快男児という後藤又兵衛像が刷り込まれていたのですが、本作の又兵衛のキャラクターは(いかにも講談らしいお茶目なところはあるものの)、まさにそのイメージ通りの快男児でありました。
(余談ですが横山先生、「兵馬地獄旅」の中でも、「時の行者」の時とほとんど同じキャラで後藤又兵衛を登場させていて、かなり後藤又兵衛好きなんじゃないかなと思っている次第)

 この後藤又兵衛という人物が一廉の武士であることを疑う人は――又兵衛の事績を知る人間であれば――いないと思いますが、しかし又兵衛が貫いた武士としての道は、「君君たらざれは、臣臣たらず」を地でいくような、後世の武士道とは明らかに異なる道と言えるでしょう。
 封建社会維持のツールと化したマゾヒズム武士道でもなく、単なる格好にあこがれるだけのファッション武士道でもなく――言ってみれば、自立した、自律できる個人の生き方としての誇り高き武士道が、ここにあるのではないでしょうか。

 このような又兵衛のキャラクターが、庶民の喝采を受けていたことを考えると、昔の方が民度が高かったんじゃないの、とか思ってしまうのですが、これは蛇足でありますな。


「後藤又兵衛」(講談名作文庫)

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