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2006.04.24

「柳生雨月抄」 これ何て民明書房?


 荒山徹先生の最新作「柳生雨月抄」をようやく手に入れました。20日辺りに発売と聞き、その前後一週間本屋日参しましたよ…(本当)
 本来であれば全部読んでから感想を書きますが、冒頭一話を読んだだけであまりに凄かったので、予定を変えてとりあえず第一話のみざっと紹介。

○いきなりタイトルが「恨流」(はんりゅう)。そしていきなり今上天皇の発言を引用。

○冒頭から本作が「十兵衛両断」の、それも「太閤呪殺陣」の直接の続編と判明。柳生矩香も登場するので、「柳生薔薇剣」とつながりがあることも判明(って、「薔薇剣」にも登場した柳生友景が主人公なので当然なのですが)

○あの崇徳上皇が突然改心。朝鮮人の恨みの深さに辟易したからというすんごい理由で。伝奇ものに登場した崇徳上皇数あれど、こんな改心したのは初めて見た…

○文字通り、やりすぎなパワーアップをする友景さん。やっぱり柳生にまともな人なんていないんだ…

○朝鮮の対日本組織・征東行中書省結成。もちろんバックには妖術師ですよ。どこの悪の帝国ですか、これは。

○日本-朝鮮の古代史に基づく征東行中書省の霊的侵略の陰謀。「日本書紀」をはじめとして色々な書物が引用されるのですが、だまされないぞ、もう(笑)

○到底美形主人公とは思えない手段で敵の陰謀を粉砕する友景さん。そして友景が仕えることになる人物が伝奇ものお馴染みのあのお方だった、というオチにびっくり。

 とにかく短編だというのにこれだけの要素が一気に詰め込まれているのでもうおなかいっぱい。先生、やりすぎです。
 さらにひっくり返った、というか大丈夫か心配になってきたのは、敵の妖術師が操る巨大な蛾の妖魔に関する解説のあたり。ちょっと引用すると、
高句麗の始祖王朱蒙の父・解慕漱が頤使した蠡であるを以て、慕漱蠡なる名前の由来とされている」
というもの。これだけ読むと別に普通なんですが…
 解慕漱は「ヘモス」、木食い虫を意味する「蠡」は「ラ」と読むので「慕漱蠡」という名前はつまり――まさかこんなに堂々と民明書房な解説を繰り出されるとは思いませんでしたよ。

 とにかく真顔でこういう遊びというか騙しを混ぜてくるのが荒山作品の恐ろしいところで、どんなに真面目な、もっともらしい解説・引用が出てきても、上にも書きましたが「だまされないぞ!」という気分にさせられてしまうのがある意味荒山マジック。まさか「日本書紀」の記載が信じられなくなるとは思いませんでしたよ(笑)
 しかし、何が書いてあっても信じられなくなる、つまり虚実の境がわからなくなるというのは、伝奇物語として、伝奇作家として、ある意味一つの極に達したとも言えるようにも思います。
 まだ単行本十冊にも満たない間にこの境地に達するとは、荒山先生、何とも恐ろしい存在ではありませんか…ってまただまされてる気がする。

 というわけで、この「柳生雨月抄」全六話、一体何が飛び出してくるのか不安と期待で一杯ですが、十分以上に楽しむことができそうです。
 …とりあえず、雑誌掲載時の「李朝懶夢譚」という表題を、単行本収録にあたり「八岐大蛇の大逆襲」に改題したりしている時点で不安。まさか荒山先生が特オタとは思いませんが…「慕漱蠡」だからなあ。

 にしても、後で読んで自己嫌悪に頭抱えそうな文章ですが、まあこの本読んで頭をやられない方が…という気もします。いやもう大好きですが。


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関連記事
 「十兵衛両断」(1) 人外の魔と人中の魔
 「十兵衛両断」(2) 剣法、地獄。
 「十兵衛両断」(3) 剣と権の蜜と毒

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コメント

三田主水さま。
こんばんは。おひさしぶりです、ケイトです。
長い間ごぶさたしちゃいましたけど、お元気でしょうか?

三田さま、『柳生雨月抄』買われたんですね! 私もとっても楽しみにしてた新作なので、三田さまがイチ早くご感想を書き込まれてるのを読んでついコメントしちゃいました(笑)。

だけど今回のご感想、タイトル読んでぎくりとしてしまいました…。実は私も、似たようなことを考えてまして…。ちゃっかり便乗してるみたいですけど、でも『魔風海峡』の紗羅骨笏覩の妖術とか「もしこれでモノスゴイ漢字とかあったらまんま民明書房だよなあ」と想ってたんです。(スミマセン白状します。とっても大好きでした『男塾』)
それで「ホントに出てきたら書いちゃお」とか冗談半分に考えてたのですが、そしたら出てるっぽいししかも民明ネタを三田さまが書き込まれててビックリしましたよ! さ、先を越された~!!
――でも、悔しがるよりも何だか安心しちゃいました。「そうか、間違ってなかったんだ」みたいな(笑)。
残りの感想は、書き込まれるのでしょうか。楽しみにしてていいですか? いいですか?(笑)(←それは暗に書けと言ってるのか…)

ちなみに私はというと、まだ買えてません(泣)。『魔岩伝説』の文庫もまだとどかないしさ~。(ブツブツ)

……ながながと(グチまで)すみませんでした。
では、また。

投稿: ケイト | 2006.04.24 20:18

ケイトさんこんばんは。お久しぶりです。
元気かどうかはナイショです。

ケイトさんは「男塾」ファンでもありましたか。つくづく趣味が重なりますね(笑)

それはさておき、最近の荒山先生はかなり大変です。「柳生薔薇剣」の「柳生忍法帖」ネタも凄かったですし、どこまで本気でどこまでネタなのか、時々不安になります。

もちろん完読の暁には感想を書きますが、その前に「薔薇剣」の感想を書かないと…あ、「魔風海峡」の感想も…

ケイトさんの「魔岩伝説」の感想も楽しみにしていますので、どうぞよろしく。

投稿: 三田主水 | 2006.04.26 01:00

 はじめまして、神無月久音と申します。
当方も、先日、「柳生雨月抄」を買って、速攻で読んで、
大いに悶絶した次第であります。

 なんというか、荒山先生は何処へ行こうというのか、
そして、我々を何処へ連れて行こうとしているのか、
楽しみでなりません。

 今から次回作が楽しみであります。
というか、今回の話でよりハッキリしましたけど、
荒山先生は、一度張った伏線を、
別の作品で丁寧に回収する向きがあるので、
これはもう「サラン」の”あの”伏線の回収を
心待ちにするばかりであります。
きっと、スーパー荒山大戦(仮)になること疑いなしですよ?

 あと、荒山作品紹介の一助として、
以下のような塩梅で高橋メソッド化してみております。
これで少しでも読者が増えれば幸甚の至りなのですが。

http://internet.kill.jp/wiki/index.php?%A4%BD%A4%CE%C2%BE%2F%B9%E2%B6%B6%A5%E1%A5%BD%A5%C3%A5%C9

投稿: 神無月久音 | 2006.05.01 22:42

神無月様はじめまして。

いやもう…山田風太郎先生ですら、「もしかしてこの人は本当にアレなんじゃ?」と思った作品は2,3作しかなかったのですが、荒山先生はその点百発百中なのでどうしましょう、という感じですね。
○○先生には死ぬかと思いました。しかも何だか唐突に出て唐突に死にますしね。

ご紹介のサイト、拝見しました。とりあえず、「朝鮮忍法」って忍法じゃないじゃん! と思っているのが僕だけでないと知り、百万の味方を得た気分です。
というか、こういうものを見せていただくと、儂の書いている文章って…と凹んでしまい、高橋メソッドの破壊力まで痛感しました。

あと、実は恥ずかしながら「サラン」をまだ読んでいないので早速本屋に走ってきます。

投稿: 三田主水 | 2006.05.02 01:15

こんにちは。少し前の記事だとは思いましたが書き込みさせていただきます~!
荒山先生の作品は実は未読なのですが、三田さんのご紹介文で、いつも「読みたい!」という気持ちが沸き起こります。ただ意気込んで図書館に行くと、毎度貸し出し中なのですが(笑)。

ところで三田さんは読売新聞・夕刊の記事をご覧になったでしょうか? 5/19(金)のものですが。
こちらの「民明書房突っ込み」が印象的で、強く覚えていたので、新聞を読んでまさにデジャヴーでした。
本田透氏が『柳生雨月抄』の書評を書いていらっしゃるのですが、突っ込みがやはり「民明書房手法」でした。
みなさん、そう思われるのですね。余計この作品が気になってきました~。(私も男塾読んでいたクチです)

荒山先生、すごそうなので、早く読んでみたいです~!!
それでは失礼します。

投稿: 朱咲りつき | 2006.05.25 00:16

朱咲様こんにちは。

しまった、うちは読売を取っているのに見事に見落としていました。探してみますね。

荒山作品は、ものによってはいきなり読むと毒気に当てられることがあるので、比較的無難な「魔岩伝説」「柳生薔薇剣」あたりから入られるのがよろしいかと…
「十兵衛両断」「柳生雨月抄」は後ろに回した方がよろしいかと(笑)

投稿: 三田主水 | 2006.05.25 01:07

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