「陰陽師 鉄輪」 絵物語で甦る代表作
「陰陽師」絵物語の第三弾は、恋の闇に迷う女性が鬼と化す「鉄輪」。前作の「首」同様、こちらも既に発表された短編ではありますが、挿絵が付されることにより、より一層原作の味わいが引き立つ形となっています。
この「鉄輪」という作品、上記の通り短編として発表された後に、「生成り姫」として長編化されたり、舞踏劇となったり(後述)、劇場版「陰陽師」の中の一エピソードとして使用されたりと、非常に登場頻度が多く、まずは「陰陽師」シリーズの代表作と言ってもよいかもしれません。
そんなわけで既にお馴染みと言ってもよい本作などのですが、この絵物語を彩る村上氏の挿絵は、闇を闇として描きながらも、しかしどこかしっとりと柔らかい感触で、恐ろしくも哀しい存在であるヒロインの姿を、優しく、艶やかに描き出していたと思います。
また、本書には、この「鉄輪」を舞踏劇化した「鉄輪恋鬼孔雀舞」(かなわぬこいはるのパヴァーヌ)の、夢枕獏の手による脚本も収録されています。
歌が、舞いがあってこその舞踏劇ではありますが、しかし、この脚本に付された村上氏の挿絵がまた見事でして――「鉄輪」に付されたものが絵物語の「絵」であるのに対して、こちらに付されたのはむしろ装飾的・デザイン的な「絵」であり、舞踏劇というメディアの持つ躍動感を、不思議に連想させるものがあったことです。
ちなみにこの「鉄輪」、我が身の恥を晒すようですが、読む度に泣けてしまうんですなあ…作中で博雅が見せる不器用な優しさもかなりクるのですが、物語の結末で博雅がヒロインに言い聞かせる言葉がまた、心に染みて…
オリジナルでも泣きました。「生成り姫」でも泣きました。そして本書でもまた泣きました。私が単純っちゃあ単純ですが、でもこれは凄いことなのかも知れない(私の頭の回路のダメさ加減が)。
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