「陰陽師 首」 本当は恐ろしい…のに魅力的なおとぎ話
夢枕獏&村上豊「陰陽師」の絵物語第二弾は、二人の男に対する姫の無邪気な肝試しの提案が思わぬ恐怖を招く「首」。作品自体は「陰陽師 龍笛の巻」に収録されているものでありますが、村上豊氏の挿絵と組み合わさることにより、えもいわれぬ味わいが生まれています。
本作は、どちらかと言えば静かで長閑な印象のあるこのシリーズでは珍しく、かなりの血が流される物語。肝試しのために封印の石が取り除かれたことにより復活した(この辺りの展開は古今東西同じなのですなあ)餓えた生首の怪に狙われる藤原為成を救うために晴明が活躍するのですが、しかし、それでも物語全体にどこかユーモラスな印象があるのは、もちろん原作自体が持つ空気もありますが、まず大半は村上氏の挿絵の功績でしょう。
生首の怪が登場する作品は決して少なくはありませんが、本作に登場するのはその中でもかなり凶悪な部類に入る輩。自在に宙を舞って襲いかかってくる人食いの怪物(ビジュアル的には「うしおととら」で、デパートでとらと戦った飛頭蛮を想起されたし)というだけでも十分イヤですが、どうも犠牲者はこの首の仲間になって同様に獲物を求める存在になってしまうという吸血鬼的な味付けとなっているのが恐ろしい。更に、首だけで下がないので、食べても食べても満たされることがないというわけで…冷静に考えればとんでもないタチの悪い怪物のように思えるのですが――
が、それなのにこの怪物たちが、どうにもユニークに、親しみあるものに見えてしまうのです。
もちろん実際に自分が追いかけ回されたらショック死するくらい怖いのでしょうが、村上氏の筆により、どこか暖かみがあり、ちょっと抜けた印象もある愛すべき存在たちとして、この首たちは生まれ変わった感があります。単純に人に害を為すだけの怪物から、物騒ながらも血の通った存在に変わったと言えばよいでしょうか…
(まあ、ユニークな印象は、ほとんどリアクション芸人なみの素晴らしい表情を見せてくれた藤原為成どのの功績も大きいとは思いますが)
何だか、小さい頃に読んだ、恐ろしい怪物たちが登場するのに、それでも何故か怪物たちが親しみやすく魅力的に感じられたおとぎ話――例えば「三枚のおふだ」等々――を思い起こさせられたことです。
ちなみに本作では、平安のマイクロフト・ホームズこと賀茂忠行も登場(確かこのシリーズには初登場じゃなかったかしらん)。あの晴明をコキ使うことのできる貴重なキャラクターですが、その式神の黒猫がまた可愛く描かれているんですわ…と変なところで猫好きの本性をむき出しにしておしまい。
あと、やっぱりおヒゲのある晴明と博雅は、正直個人的には(ry
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