「外法陰陽師」第2巻 外法陰陽師vs姫君?
「外法陰陽師」第二巻は、朝廷での覇権を巡る暗闘の中で命を狙われた道長の娘・大姫(後の彰子)のために、半人半竜の超美形・漢耿星が活躍します…と書いてもまるっきり間違いではないのですが、やはり正しいとも言えない本作。
相変わらず耿星は人嫌い、人の命が無くなろうが、人の世が滅ぼうが全く我関せずの態度ですが、そんな彼の唯一の泣き所、藤原行成が関わってくることでしぶしぶ立ち上がることとなります。
というのも、泰山にあるという人の寿命を示す蝋燭、その中の行成と道長の蝋燭が、いかなる理由にか、溶け合って一体化してしまったため。つまりは行成と道長は、文字通りの運命共同体となってしまったということになります。
大姫の身に危難が及べば、彼女を将来入内させることにより権力を固めようという道長も没落することとなり、行成にもまた害が及ぶ。一方、行成が命を失うようなことがあれば、道長もまた同様の運命を辿るわけで、今度は日本の国が乱れる(=太上老君に告げ口される)もととなる――
そんな状況でやむを得ず、宮中を騒がす怪事に首を突っ込むこととなった耿星。大姫の身代わりとなって鬼に攫われたという侍女を捜す羽目になりますが…さらに厄介なことに、彼のやる気のなさを見抜いた大姫自身が、お目付役として耿星に張り付くことに。ほとんど無敵の力を持ちながらも仏頂面で無愛想な耿星と、無邪気で好奇心旺盛な大姫の組み合わせは、なかなかに微笑ましく、この部分がこの第二巻の魅力の一つかと思います。
それにしても、普通のお話であれば、どんな悪人や非人間キャラでも少女の無垢な魂にほだされて…というのが定番だと思うのですが、そんな状況でも全く変わらない耿星はある意味さすがだと思いました。
と、クライマックスではそんな耿星の心が唯一動く相手の行成が死地に飛び込んだことにより(ここまでアレだと、ほんとは全て計算づくでやっているんじゃないかという気がしてきました)、耿星が前巻にも登場した奇怪な蟲使い・蘆屋清高と死闘を繰り広げることとなります。
個人的に気に入っているのは、この耿星が操る術に関するルール。万物に宿る精霊(本作では「異形」と呼称)の力を借りる耿星の術の効果・使用法は、実はかなりロジカルに構成されていて、いかに竜の力を持つ耿星であっても、そのルールを破ることは出来ないという設定。いい意味で(言葉の元々の意味で)ゲーム的な描写となっていて、耿星の力に一定の歯止めをかける(むしろ耿星の力がマイナスに働くシーンもあって)と同時に、作品にリアリティを与える効果を上げているのには感心しました。
三部作の真ん中ということで、物語のまとまり的にはちょっとゆるいところはありますが、まずは十分以上に楽しむことが出来ました。
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