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2006.06.12

「熾火 勘定吟味役異聞」 燻り続ける陰謀の炎

 「破斬」でデビューした新ヒーロー・水城聡四郎が活躍する「勘定吟味役異聞」シリーズの第二弾です。
 「破斬」は、「あんまり伝奇っぽくない」という冷静に考えれば非常に失礼な評価をしてしまって反省しているのですが、そんな偏った視点に囚われずに触れた本作は、実に面白く読むことができました。

 前作で、聡四郎の活躍で勘定奉行・荻原重秀を追放した新井白石の新たなターゲットは、吉原からの運上金。年一万二千両にものぼる表に出ない金が吉原から幕府に流れていることを知った白石は、そんな不浄の金が流れるとはけしからん! というか御免色里自体が許せん! と四角四面なキャラクターを発揮して再び聡四郎に無茶なオーダーを出して…という展開。

 「吉原御免状」を初めとして、時代小説ではしばしば登場する「御免色里」としての吉原は、実は本作と同じ作者の織江緋之介シリーズでも、時代こそ違え題材とされているのですが、本作は、シリーズ自体の特長である江戸の経済・財政の観点から吉原に切り込んでいるのが面白いところ。
 吉原からの運上金についても、時代小説に登場するのは決して珍しいことではありませんが、よくよく考えてみれば確かに不思議な存在であり、そこに目を付けたのは作者の慧眼かと思います。

 もちろん、時代アクションとしての面白さも健在。聡四郎と白石を自らの存亡に関わる敵と見なした吉原の忘八衆(正統な剣術ではない暗殺術との対決シーンが見応えアリ)に加え、前作で敗れ去ったかに見えた紀伊国屋文左衛門や荻原重秀、さらにはあの柳沢吉保までも敵に回して、果たして如何に聡四郎が戦い抜くか、それは読んでのお楽しみ。
 そしてまた、ラストに示される何故吉原が御免色里となったか、という謎解きの伝奇的意外性にはなるほどと思わされましたし、ラストで姿を現す吉原の真の主の貫禄には大いに感心させられた次第です。

 さて、何とか吉原との死闘を凌いだ聡四郎ですが、まだまだ強大な敵たちは健在。さらに、唯一の後ろ盾であり、おっかない上司である白石の地位を脅かす事件がラストに発生し、果たしてこの先、聡四郎の運命が如何相成りますか、心配半分楽しみ半分で今後の展開を待っているとこです。


 あと、前作同様、相変わらずヒロインがツンデレ通り越して荒くれなのには感心しましたよ。


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