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2006.06.04

「金鵬王朝」 四本眉毛の男見参!

 台湾の武侠小説作家・古龍の代表作の一つにして、数年前にシリーズ第一巻が訳されて以来、長らく音沙汰なしだった「陸小鳳伝奇」が、遂に復活しました。
 第一弾たる本作「金鵬王朝」は、「四本眉毛の男」と異名を取る江湖の快男児・陸小鳳が、滅亡した王朝の遺産を巡る暗闘の中で大活躍する痛快な伝奇活劇であります。

 陸小鳳は、天下無類の武術の腕と明晰な頭脳、そして義侠心に富んだ男として知られる好漢。鼻の下の見事な二本の髭から、「四本眉毛の男」という、ちょっとそれってどうなの? 的な渾名で呼ばれる男ですが、その四本眉毛が天下御免のパスポート、今日は東へ明日は西へ、名酒と美女と冒険を求めて江湖をさすらう毎日を送っています。
 そんな彼が、謎めいた美女に誘われて出会ったのは、数十年前に滅亡したという金鵬王朝の皇子。王朝滅亡の折り、王家復興のための莫大な財宝を預けられながらもそれを私して財を成した三人の遺臣の行方を追う老皇子の依頼を引き受けた陸小鳳は、相棒の美青年・花満楼と共に冒険の旅に出る、というのが基本的なストーリーです。

 さて本作、いやこのシリーズ、いやいや古龍作品は、登場人物の個性という点では群を抜く面白さ。主人公の陸小鳳は勿論のこと、彼の親友・花満楼は、名家の出身で武術の達人の美青年ですが、生来目が見えないという設定。それでも己の生をこよなく愛する彼は、花の香り、風の囁きにも楽しみを見出すことができる風流子であります。
 そしてまた、彼らの助っ人として登場する剣士・西門吹雪は、一度剣を抜けば己が死ぬか、阿相手が死ぬかの二つに一つという孤高の剣鬼。ひたすら己の腕を磨き、強敵との対決を愉しみとする彼は、武侠小説界の五右衛門(ルパン三世のとこのね)と言ったところでしょうか。
 その他脇役も次から次へと登場する怪人・快人のオンパレードで、キャラクターを見ているだけでも全く飽きません。

 そしてもちろん、登場人物だけでなくストーリーの面白さも折り紙付き。三人の遺臣の居所を突き止めてからが物語の本番と言うべきか、陸小鳳、そして読者の前に次から次へと現れる謎と怪事件、どんでん返しに次ぐどんでん返しの連続は、まさに一読巻を置くあたわずと言ったところ。
 元々古龍作品は、ミステリ色の強い展開が特徴ですが、本書もそれは同様で、一連の事件の背後に潜む黒幕の正体に一歩一歩迫っていく展開は、思わぬシーンに伏線が隠されていたりして感心したり驚いたり。トリッキーなキャラクター、スピーディーな展開と相まって、よそでは味わえない古龍節を構成しています。
 正直なところ、文体は少々独特ですし、かなりの超展開の部分もありますが、一度ハマれば(波長が合えば)病みつきになること請け合いであります。病みつきになっている本人が言っているのだから間違いない。

 なお、冒頭でも少し触れましたが、本作は以前にも小学館文庫から「陸小鳳伝奇」のタイトルで刊行されていましたが、その際に一部抄訳されていたものが、今回この「金鵬王朝」として目出度く完訳版として刊行されました。同時に第二巻「繍花大盗」も発売され(ちなみに、本作のラストで工エエェェ(;´Д` )ェェエエ工となった方は、ぜひこの第二巻も読んでいただきたいと思います。更なるどんでん返しが待っていますので…)、今後もシリーズ続巻が刊行されるというファンにとっては誠に嬉しい事態となっています。

 何はともあれ、一ファンとして、今後も古龍作品はいちいち採り上げていこうと心に決めている次第。


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