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2006.07.31

「碧燕の剣」 敵はオランダの外道剣士

 留蔵・伊織・弥十郎のトリオによる悪人仕置きのシリーズも四作目。今回は、江戸を離れて展開されるオランダ剣士との対決をはじめとして、バラエティに富んだ全三話が収録されています。

 第一話「笑う門から邪を払え」は、自分の邪魔になる者を次々と殺めてきた商家の悪手代と、その手足となる外道仕置人を討つエピソード。
 弥十郎らの仕置き代が、手代に兄を殺された長屋の子供が差し出したなけなしの小遣いというのが泣かせ&燃えさせてくれますが、ターゲットが一度私利私欲のために仕置きを利用して以来、その力に溺れて転落していく者という、仕置きというシステムのダークサイドを描いているのが面白い。このあたり、いかにも作者らしいひねり方だな、と感心します。

 そして初めて江戸を飛び出し、遠く異郷長崎で弥十郎がオランダの無頼剣士と死闘を繰り広げる第二話「対決・異人剣」は、それまでのエピソードとは趣を大きく変えた、いわばスペシャル編的味わいの作品となっています。
 記憶を喪失して以来初めて、一人で(さすがにチーム三人揃って旅に出るのは表の顔の関係で不可能なので)長旅にでる弥十郎の「はじめてのおつかい」ぶりや、オランダ剣士のフェンシング殺法との対決、そして旅先で出会い、心を一にする男たちの登場と、見所は十分。
 …が、話の深みは今一つで、そういう意味でもスペシャル編と考えればいいのかな。

 そしてラストの「学び舎は誰がために」は、伊織が娘と共に暮らす長屋に越してきた出張指南の好青年を狙う外道学者との対決を描いた一幕。
 自らの私塾をナンバルワンにするため、よその生徒を引き抜く&脅す・学者に自分の傘下に入れと甘言を弄す・それでもだめなら腕自慢の弟子を使って痛めつけるというルール無用の悪党ぶりは、ちょっ、そんな学者いねえwwwと突っ込みたくなりましたが、何というか、その外道学者に、劇団☆新感線の粟根さんを脳内で当てはめてみたら、やたらと似合っていたのでOKとします。

 と、まとまりのない感想になってしまいましたが、安心して読めるという点ではかなりのクオリティに達している本作、弥十郎の記憶も徐々に戻りつつありますが、末永く続いていただきたいという気持ちは強くあります。


「碧燕の剣」(牧秀彦 光文社文庫) Amazon bk1

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2006.07.30

「外法陰陽師」第3巻 これも一つのハッピーエンド!?

 異国渡りの外法陰陽師・漢耿星の活躍(?)を描くシリーズも第三弾。三部作のラストとなる本作では、中宮定子の身ごもった帝の子を巡って、奇怪な術合戦が展開されます。が…

 これまでもシリーズの敵役として暗躍してきた蟲使いの播磨流陰陽師・蘆屋清高は、中宮定子の心を奪い、その腹心の座を射止めます。
 既にその権勢に陰りの見えた定子一派ですが、定子の身ごもった帝の子が男であれば、立場は大きく逆転、言うなれば赤子の性別でこの国の権力の趨勢が決まることになります。
 定子を擁する藤原伊周方に蘆屋清高がつけば、対する藤原道長方には安倍晴明と賀茂光栄ありと、権力争いがそのまま術争いとなりますが…災難なのは耿星の方。

 一切我関せずの立場にいるつもりが、例によって例のごとく、この国の乱れは耿星のせい、と脅され、しぶしぶ重い腰をあげるのですが、しかし、更なる力を求める清高は、耿星の龍の力に目を付けて己が物にせんと狙います。

 そして…その渦中に巻き込まれた耿星の親友・藤原行成を襲う悲劇。
 かつて耿星が探索のために女装した姿である史君に、それとは知らずに恋い焦がれる行成ですが、思わぬことから、史君=耿星であることが明らかになってしまい、さあ大変。二人の間には決定的な亀裂が入ってしまいます。
 更に耿星を誘き出し、さらには己の術のための材料として行成に目を付けた清高は彼を誘拐、かくて物語は決戦の地・紫香楽宮へと舞台を移し、二人の死命――そして我が国の運命――が決せられることになります。

 ここで繰り広げられる最後の決戦は、シリーズの集大成と言うべき内容で実に充実。超常の力を発揮しながらも、超自然法則とでもいうべきルールに縛られる外法と、霊地たる紫香楽宮の力を借りて無双の力を発揮する清高の陰陽術の激突は、その最中のドラマチックな展開も含めて、紛れもなく本作、いや本シリーズのハイライトと言えましょう。

 そして死闘が終わり、いくつかの不安の種を残しつつも全てが平穏のうちに終わるかと思いきや…とんでもないオチが。
 ちょっ、行成それ実質プロポーズ! 耿星も素直についてくんじゃねえ! と、思わず取り乱してしまうような展開に砂を吐きそうになりましたよ。ある意味こちらが真のハイライトやも知れません。

 それはいいとして(よくない)、ひとまずの決着はついたものの、まだまだ幾らでも続けようがある本作、これで耿星の冒険を幕にするのはもったいないお話。本作の刊行からだいぶ間は空いていますが、続編を期待したいところです(その際は男性でも手に取れるレーベルでお願いいたしますです)。


「外法陰陽師」第3巻(如月天音 学研M文庫) Amazon bk1

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2006.07.29

「小坂部姫」 伝奇小説家としての綺堂を見よ

 ここのところ綺堂づいているので、まだきちんと紹介していなかったこの作品を。姫路城天守閣に住まうという伝説の小坂部姫(刑部姫)を題材とした伝奇物語です。

 本作は、小坂部姫が人ならざる存在となるまでの物語。時は南北朝の頃、高師直の娘として生まれた小坂部姫を襲う悲劇の物語でもあります。
 高師直と言えば、塩谷判官の美しい妻に懸想して、遂には判官を滅ぼしたことで知られ、「仮名手本忠臣蔵」では悪役として登場する人物。本作では、まさにその事件を背景にしつつ、父の所業に悩みつつも、自らも悲恋に苦しむ可憐な女性として小坂部姫は描かれます。
 ここまでは、綺堂一流の、物静かながら、情に訴えてくる文章で描かれて、歴史ロマンス(ロマンスも伝奇じゃ、とか言わない)としての色彩が強くでています。

 が…異人の導きで遂に家を捨てた彼女を襲うのはあまりに過酷な運命。そして絶望に沈んだ彼女が、異人の囁きに耳を傾けた時、物語は一気に壮大なスケールの伝奇物語へと変貌を遂げます。
 何となれば、その異人こそはまさしく悪魔の使徒。長きにわたり人類の歴史の陰にうごめき、この世を悪しき方向へと傾けんとするものたちの本朝に対する先鋒であり、小坂部姫はその女王たるべき存在なのでありました。

 …初読の際には、この辺りで、あまりの物語の変容、スケールアップぶりに愕然としてしまったのですが、いやはや、何とも凄まじい伝奇ぶり。上記の如く、綺堂には物静かな、抑え目の物語展開の印象があり、また、本作を読むまで、
伝奇よりも怪奇の文脈で捉えていたのですが、その思いが一気に覆されました。
 本作のこうした感覚の根源には、江戸時代の伝奇文学のみならず、西洋的な伝奇ロマンの香りも感じるのですが、西洋の怪奇小説にも通暁していた綺堂のこと、それもあながち考えすぎではないように思えます(そして、同じ題材でも鏡花が書けば「天守物語」になり、綺堂が書けばこの作品となるというのが実に興味深い)。

 いずれにせよ、伝奇小説家としての綺堂の凄みを見せつけてくれる本作、知名度の点では他の作品に一歩譲るものの、伝奇ファンであればぜひ手に取っていただきたい名品です。


「小坂部姫」(岡本綺堂 学研M文庫「岡本綺堂妖術伝奇集」所収) Amazon bk1

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2006.07.28

「罰当て侍」 己の生き様と死に様の間に

 最近は人情もの…それもペーソスの強い作品を多くものされている風野真知雄先生の新作は、最後の四十七士・寺坂吉右衛門を主人公に据えた作品。既に七十歳を越えた吉右衛門が、ふとしたことから老骨に鞭打って許せぬ悪に向かいます。

 寺坂吉右衛門と言えば、四十七士の中で唯一討ち入り後も生き残り、天寿を全うした人物。何故死を免れたかについては諸説ありますが、時代小説の題材として面白い人物であることは間違いありません。
 ただし本作の吉右衛門は、上記の通り既に老人、今は麻布で寺男として静かに暮らす彼ですが、そろそろ自分の人生の終わりを感じるようになっています。
 が、そんな彼の元に、上杉家のバカ殿が、今頃になって討ち入りの恥を漱ぐために刺客を送り込んだという知らせが。更に、馴染みのうどん屋の店主が死に、娘は身売りすることに…と、にわかに周囲が慌ただしくなります。

 そして、その店主が死の直前、隣の長屋の庭木に逆さ吊りにされた死体を目撃したと周囲に語っていたことを知った吉右衛門は、事件を探るうちに、背後に思わぬ悪の影があることを知ります。最後に死に花咲かせてくれんと、親友の神主の神社の境内に祀られた「バチ当て様」に成り代わって、悪人を討とうとする吉右衛門の運命やいかに…

 というわけで、一種の「必殺もの」としても読むことのできる本作ですが、しかし、やはり主人公の設定の特異性が強く目を惹きます。老いてなお盛んな老剣士が活躍する作品はあまたありますが、本作の吉右衛門は、単なる老剣士ではなく、その歳まで「生き残ってしまった」人物。仲間たちの間でただ一人生き残ってしまったことに引け目と無念さを感じたのは過去の話、今は己に生あることを感謝して暮らしつつも(この辺りの心理描写がリアル)、しかしそれでも己の死に場所をと、つい考えてしまう彼だからこそ、端から見ると無謀にすら見える冒険に、一定のリアリティと共感を感じてしまうのです。

 そしてまた、作品のもう一つの流れとして、彼の孫の、若き力を持て余すモラトリアムな悩みが平行して描かれるのも、吉右衛門の生き様をより一層際だたせていて――もちろん、こちらの悩みにも大いに共感できますし――この辺りはベテランの筆運びだな、と感心いたしました。
 私の歳で読んで面白いのですから、読者が吉右衛門の年齢に近いほど、より一層楽しめるのではないかと思います。

 と、このように書くと何やら非常に重たい作品のようですが、基本は吉右衛門の日々の暮らし同様、どこかのんびりした、肩の力を抜いて読める作品であり、もちろん悪人退治の痛快さも味わうことができます(個人的には、ラストの対決で吉右衛門が見せる歴戦の勇士としての心構えに感心)。
 実はまだまだ片づいていない事件もある本作、史実では吉右衛門もまだまだ生きることでありますし、ぜひシリーズ化していただきたいものです。


「罰当て侍 最後の赤穂浪士寺坂吉右衛門」(風野真知雄 祥伝社文庫) Amazon bk1

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2006.07.27

「吉宗影御用」 伝説の終わりと始まり

 約十年前に単行本化された時代アクションの快作が文庫で復活しました。将軍吉宗の秘命を受けた老隠密とその仲間たちが、幕閣を向こうに回して暗闘を繰り広げます。
 
 物語は、余命幾ばくもない大岡忠相のもとを、一人の老人が訪れるところから始まります。忠相邸に幾重にも張り巡らされた罠をかいくぐって出没自在のこの老人、名は植畠喜平こそが、将軍の側近すらその存在を知らなかった隠密中の隠密であります。

 彼が吉宗の命で集めたもの、それは、諸大名や幕臣の秘事ばかりを集めた陰武鑑。その存在を忠相から知らされた将軍家重の御側衆・大岡忠光は、己の秘事が暴かれるのを恐れ、密かに公儀御庭番を動かし、喜平を襲います。
 さらに、若き日の田沼意次も、手足として使う乞胸衆(香具師や見せ物師たちのギルド)を動かして何かを企む様子。かくて、喜平とその仲間たちは、江戸の裏側を舞台にして死闘を展開することになります。

 と、その死闘と並んで、いやそれ以上に物語の中心となるのは、一切が謎に包まれた――その仲間たちですら一部しか知らない――喜平の正体。
 ある日忽然と吉宗の前に現れ、吉宗の死とともに己も表舞台から姿を消そうとする彼の正体は。何処からきたのか、何故吉宗の隠密となり、何故陰武鑑を遺したのか。そして何故吉宗の死とともに消えようとするのか――
 喜平の謎めいた姿が徐々に明らかにされていく終盤は、ただただ驚きの連続で、まさかこんな方向(ヒント:黄算哲)に物語が広がっていくとは! と、嬉しい悲鳴を上げたくなりました。

 そして戦いの果てに、かつて己が来た地へと還っていく喜平。しかし、この老虎は去ったものの、その意志を継ぐ者は残り、新たな冒険を始めようとしています。
 いわば本書は、伝説の隠密の活躍のエピローグであると同時に、彼の意志を継ぐ者たちの活躍のプロローグ。
 このシリーズは三部作のようですが、少しでも早く続編を読まなければ、という気持ちにさせられたことです。

 ちなみに文庫版のイラストは、いい意味で書き下ろし文庫らしくらい、なかなかの味わいがあってなかなか良いので気に入ってます。


「吉宗影御用」(磐紀一郎 ベスト時代文庫) Amazon bk1

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2006.07.26

「新桃太郎侍」第一話 伝統のヒーロー、装い新たに復活!

 昨日から放送の「新桃太郎侍」、TVシリーズでは久し振りの桃太郎侍ということで期待していたのですが、良くも悪くもテレ朝の時代劇という感じで楽しく観ることができました。

 高島政宏演じる桃太郎こと桂木新二郎は、普段ダラダラしているところは浮浪雲の旦那や両手両目が揃っている丹下左膳みたいな感じ――要するに社会的にはダメ人間――で、美女とみるや途端に目尻を下げる脳天気な男(「後家!」とか興奮しちゃうシーンに笑った)ですが、美女の不幸な境遇を聞いてオイオイ泣き出すような好人物。
 桃太郎侍と言えばこの人! という高橋英樹の桃太郎侍に比べるとやっぱり違和感はありますが、かえってこれくらいイメージが変わる方が昔を引きずらなくていいのかも知れません。

 個人的には、左とん平演じる使用人の爺さん(実はかつての大盗賊)が渋くて実に良いですね。この人が惚れるのが桃太郎の(育ての)母の中村玉緒ってのはどうかなあと思いましたが。

 さて、第一話のストーリーは単純明快、盗賊の汚名を着せられて処刑された夫の敵討ちをしようとするゲストヒロインに一目惚れした桃太郎が、事件の裏の絡繰りを知り、その邪悪の所業に怒り爆発。黒幕の悪家老の元にド派手なコスチュームで殴り込み! というところ。
 その衣装センスはいかがものか(お面の代わりに襟巻きで覆面してるのはなかなか良いですが)とか、天魔不動剣って何!? とか色々ありますが、それも味のうち。悪人どもは実に悪い顔をしている上に頭が悪いのですが、それもまたトラッドというやつですよ。ただ、殺陣が豪快を通りこして荒い(もちろんそういう演出なのですが)のは、賛否がわかれるのでは…という気はします。

 と、ビデオ観ながら書いたら実にまとまりのない文章になってしまいましたが、おいおい桃太郎の出生の秘密なども語られるでありましょうし――いや、視聴者にはバレバレなのですが――これからの展開を、肩の力を抜いて楽しみにしたいと思います。何よりも、ゴールデンタイムにこういう時代劇をやってくれるというのが嬉しいじゃありませんか。


 しかし…ぶっちゃけ一番の目当ては矢場の女役の清水あすか様だったのですが、放送開始直後からセクシーショットを嫌というほど見せつけられるとは思いませんでしたよ。毎週視聴決定。
 が、単純な戦闘力ではおそらく出演者一のお方を単なる端役に使うとは何たる無駄遣いか。悪侍に店に乗り込まれてあたふたするシーンに全くリアリティがなくて困る。この点だけは是非とも改善していただきたいと強く訴えたい所存。

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2006.07.25

山風と隆慶とあと一人に関する論考(戯言)

 今回のお話は、タイトルにある作家の作風に対して個人の偏った視点で針小棒大に採り上げながら語りますので、不快に思われた方はごめんなさい。既知外に目を付けられた不幸だと思ってあきらめてください。まあそれだけネタがないのです。

 荒山徹の「柳生雨月抄」の帯には、氏を指して「隆慶一郎のスケールと山田風太郎の奔放さを併せ持った超新鋭」という表現があるんですが、これには前から違和感があったのです。いえ、表現の内容というより、隆慶と山風を並び称するというか、荒山徹を語るのに隆慶をもってする、ということに。
 隆慶一郎と山田風太郎が、どちらも時代伝奇界の巨峰であることにまったく疑いはないのですが、そのベクトル、というか作品への思想――というと大変に大袈裟ですが、とにかくスタート地点から正反対のように思えるのですね。非常に簡単に言えば、「目的のために手段がある」か、「手段のために目的があるか」。

 隆慶先生においては、手段(題材、キャラクター、ガジェットetc.)というのはあくまでも目的(テーマ、ストーリーetc.)のためにあります(いや、それが当たり前なんですけどね)。まずテーマやストーリーありきで、それに合ったネタが仕込まれていくという…時々手段が行き過ぎてしまうことがありますが(ほとんど公開処刑な味わいの秀忠描写とか)、それはまあご愛敬ということで。

 対して山風先生においては、目的が手段に先行・優先することが多々あります。例えば「アレが二本あったらどうなるのかナ?」という疑問というか無責任な面白がりをそのまま作品にしてしまった「怪異二丁根銃」など、忍法帖短編に多い「一発ネタ」的忍法・体質を中心に据えた作品などまさにそれかと。

 要するに「目的のために手段は選ばん」な方と、「手段のために目的は選ばん」な方の違いというわけですが――いや、あくまでも個人の偏った視点なんですが。

 そして…荒山徹氏がどちら側の人間かは今さら言うまでもないですね?
 例えて言うなら、料理を作るときに、まず自分の好きな材料を集めて鍋にブチ込んで、味付けと盛り合わせはそれに合わせて後から決めているというか――もちろんその味付けと盛り合わせが絶妙なのでみんなだまされる納得するわけですが――その手段に対する目的の奉仕ぶりたるや、「ヘルシング」の少佐並みのアレっぷりなわけですよ。…とか言っていたら、神無月さんが既にこういうものを作られていました(ネタバレ注意)。さすがです。

 色々と失礼なことを書きましたが、とにかく、やはり荒山徹は隆慶よりはあきらかに山風寄りの方なんではないかな――とつくづく思う次第です。その辺りを念頭に置くと、「柳生雨月抄」でのRK先生の扱いに何となく納得がいくような…と最後にもの凄く失礼なことを書いておしまい――にしようと思っていたら「処刑御使」ではもっと大変なことになっていて、もう何が何だか…

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2006.07.24

「異人街変化機関」 江戸・横浜を覆う影

 竹河聖先生の時代伝奇小説第二弾は、幕末の横浜と江戸を舞台とした怪奇譚。旗本の次男坊の美青年・小三郎が、幇間の藤八と共に、異国からの奇怪な魔物と対峙することになります。
 藤八を伴って横浜の外国人居留区を訪れた小三郎は、そこで、マントにフードの巨漢が、一瞬の間に巨大な犬のような獣に変わるのを目撃します。それからほどなくして、江戸で次々と発生する猟奇殺人事件。犠牲者は皆、巨大な獣に噛み裂かれたような傷を受け、事件が起きるのは水場の近く、そしてその前後に異貌の巨漢が目撃されたことから、その怪物は「川獺天狗」と呼ばれることとなります。
 実はお庭番という前身を持つ藤八は、同じくお庭番出身の小三郎の父から、川獺天狗の正体を探るよう依頼され、小三郎ともども事件を追いますが、やがて事件は意外な展開を迎えることとなります。

 冒頭に記した通り、作者にとっては二作目の時代小説ではありますが、とてもそうとは思えないほど、幕末の江戸と、横浜とという、二つの舞台を描く筆致は安定していて、スムーズに物語世界に入っていくことができました。
 また、さすがにホラー・ファンタジーのベテランだけあって、恐怖につながっていく雰囲気の盛り上げ方や恐怖の描写は巧みの一言。特に本作の怪異の中心たる「川獺天狗」は、その時代もの的にナイスなネーミングをはじめとして、なかなかに魅力的な怪物であったかと思います。
 登場人物も、決して派手ではないのですが、地に足が着いた堅実な描写で描かれる様々な階層の人々は、なかなかに生き生きとして楽しめました(特に、小三郎に遊びを教えるという密命を背負わされた藤八の悪戦苦闘ぶりはなかなか愉快であります)。

 が――失礼ながら、どうにも中途半端な印象のある本作。ホラーファンであれば、怪異の正体はすぐ思い当たるでありましょうし(その翻案の仕様は実に見事だと思うのですが)、レーベル的に対象として想定しているであろうライトノベル読者にとっては、正直なところ「地味」の一言で評されてしまうのではないかと思います。
 何よりも、終盤で提示される敵の正体とその背後のからくりも、長編のオチとしては――シリーズ化を視野に入れていることを視野に入れても――パンチが足りないかな、という思いが拭えませんでした。

 作者の目指すところや資質というものもあり、一概にばっさりと言い切るわけにはいきませんが、色々な意味でもったいない作品であったかな、とい印象があります。
 ちなみに本作の登場人物である藤八や芸者の音丸は、作者の時代伝奇第一作「江戸あやかし舟」でも活躍したキャラクター。厳しいことも書きましたが、これからも彼らが怪異に立ち向かう姿を見守っていきたいという気持ちも、また正直な気持ちであります。


 ちなみに、作者は村垣淡路守の弟の子孫、という話を聞いたことがありますが、それって…


「異人街変化機関」(竹河聖 富士見書房) Amazon bk1

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2006.07.23

「激・戦国無双」 携帯機で大乱戦

 もう半年以上前に発売されたゲームを今頃紹介するのもなんですが、いまPSPの「激・戦国無双」をプレイしています。「戦国無双」といえば、敵がワラワラ沸いてくる中に文字通り一騎当千の豪傑が躍り込んでちぎっては投げちぎっては投げ…というのが醍醐味であって、どうしても性能的には見劣りする携帯機でその辺りのアクションは大丈夫なのかな、と最初は思いましたが、アクションシーンのプレイ感覚はPS2版とさほど変わらず、携帯機ならではのアレンジが成されたなかなか面白い作品に仕上がっているかと思います。

 PS2版と一番大きく異なるのは、いわゆるストーリーモードの構成。PS2版では、基本的に一ステージが巨大な戦場であり、その中をリアルタイムで駆け回りながら、刻一刻と変わる戦況に対応しつつ敵と戦っていくという展開でしたが、こちらでは、一ステージがタクティカルパートとアクションパートに分かれています。
 簡単に言えば、タクティカルパートは戦場を小さなエリアに区切ったマップ画面で、その中で主人公武将を動かして、敵陣に入ったり敵武将に攻め込まれるとアクションパート(いつもの無双バトル)に突入、アクションパートをクリアするとまたタクティカルパートに戻って…という展開。そして各アクションパートの長さは、基本的に1,2分で終了するものばかりで、携帯機を強く意識したゲーム設計となっています。

 PSPのゲームは、正直なところPS/PS2のベタ移植が多いのですが、本作では、無双のアクションの楽しさと、携帯機ならではの手軽さ・気軽さのバランスを取るために上記のように大幅にゲーム展開をアレンジしていて、好感が持てます。
 もっとも、上記の通りアクションパート一回当たりの時間が短いのも善し悪しで、いい具合に盛り上がってきたところで終了になることが多く、もっと暴れ回りたいのに! という気分を抱えつつタクティカルパートに戻ってしまうという、無双が本来持つ爽快感と裏腹の状態になってしまうという両刃の刃ではあります。

 ちなみに本作の売りの一つとして「書き下ろし新ストーリー」というのものがありますが、これが何というか、一言で言えば「スーパー戦国武将大戦」という感じで…信玄・謙信・政宗連合軍vs織田軍とか、前田慶次・石川五右衛門・雑賀孫市・出雲の阿国チームの活躍とか、まあ、深く考えた方が負け、という感じであります。
 そして内容的には基本的にベタなのですが、突然そんな中に信玄が合戦を繰り広げながら四国のお寺参りをするという、その名も「信玄お遍路さん」という奇ステージもあったりするのが個人的にはツボでした。

 また、PSPと言えば、携帯機としては破格のロード時間の長さという弱点がどうしても気になりますが、本作ではステージ開始・終了時に集中的に読み込みを行う形となっていて、その弱点をかなり解消しているのではないかと思います。
 最初は、「なぜ携帯機で無双?」という気持ちもありましたが、寝る前とかのちょっとした空き時間に、ちょっとずつプレイすることができるのは、存外に楽しいものでありました。登場武将も「戦国無双 猛将伝」に登場する面子は揃っていて賑やかですしね。
 PSPをお持ちで、無双が好きな方はプレイしてみてもいいのではないかな、と思います。…が、このためにわざわざPSPを買うほどか、というと「…」なのが地獄なんですが。


「激・戦国無双」(コーエー PSP用ソフト) Amazon

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2006.07.22

「鷲」 綺堂怪談の全体像がここに

 連続で復刊されてきた岡本綺堂の怪談集もこれで三冊目。表題作の「鷲」をはじめとして、主に幕末を舞台にした作品と、いわば当時のモダンホラーたる開化以降の作品と、大きく分けて二つの作品群が収められています。

 正直なところ、先に刊行された「影を踏まれた女」「白髪鬼」に比べると知名度の点では一歩譲りますし、質の点でもいささか…というものもありますが、しかしあくまでも綺堂作品の中での比較の話。失われた江戸東京の情緒を漂わせつつ(まあ、今回は僻地や外地を舞台とした作品も多いのですが)、淡々とした筆致の中で恐怖感を募らせていく綺堂節は相変わらず見事というほかありません。

 個人的にお薦めの作品は、「黒ン坊」「兜」の二作品。前者は、綺堂には比較的珍しい御庭番を狂言回しとして登場させつつも(いや、登場させることにより)、民話めいた因縁譚を、凄愴の気漂う、リアルな質感を持った作品として成立させた名品であります。
 一方後者は、とある武家の一門の前に幾度となく姿を表す兜一つと、それとともに現れる謎めいた母娘を巡る物語で、本書のみならず、綺堂怪談全体の中でもまず名作と言ってよいかと思います。ベースとなる兜の由来(?)は江戸時代の奇談に見られるものですが、そこから長きにわたる因縁めいた物語を構築して見せたのはまったく綺堂の独創かと思います。また、時代ものファンとしては、上野戦争の描写にも注目したいところです。

 何はともあれ、本書を含めた三冊で、綺堂怪談の全体像はほぼ掴めるようになるかと思います。これを機に、老若男女安心して読むことができる、誰が読んでもそれぞれに面白く、発見のある綺堂怪談に、一人でも多くの方が触れてくれることを期待します。


 と、これは余談ですが、文庫の帯の惹句は、旧版と同じなのですね。実は先に出た二冊については、うちにあるものは帯がついていないので不明なのですが、こちらでも同じなのかしらん。


「岡本綺堂怪談コレクション 鷲」(岡本綺堂 光文社文庫) Amazon bk1

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2006.07.21

写真で小ネタ

 おまけで昨日とか一昨日の小ネタ。

田中麗奈の猫娘お披露目!
 いや、その、これは何というか…確かに田中麗奈が猫娘っぽいのは同意しますが、それをそのままの格好をさせればよいかというと――いや、何だかすごい時代になったなあ。
 あと、室井滋さんの砂かけはとてもよいと思います。子泣きは赤星さん以外認めん。


日本は赤忍者
 このサイト的には大OKだけど、民族衣装審査でこれはいかがなものか! 日本が忍者の国と誤解されたらどうするのか! 素晴らしい。
 ていうかこの忍者、露出度が格ゲーのくノ一さんみたいですね。…といいつつ、色合いと手にした刀からむしろこっちだったり。

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「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」第2巻 魔剣クサナギ覚醒す

 劇団☆新感線の舞台をベースとしたジャパニーズ・ファンタジー第二巻は、起承転結の承とも転とも言える内容。神の剣を守る女戦士たちの国・蛇殻国で伝説の男たちとして認められた三人のタケル――イズモノタケル、クマソノタケル、イズモノタケル――に、運命の変転が襲いかかることとなります。

 三人のタケルの歓迎の宴に沸く蛇殻国。しかしその隙を突くかのように、神の剣を狙う大国・天帝国の軍勢が襲いかかります。そしてその混乱の最中、遂に目覚める剣。だがしかしそれは神の剣などではなく、人の心を狂わせて殺戮に向かわせ、そしてその血を吸った相手を己の僕に変えるという呪われた魔剣でありました。
 そしてその魔剣、名をクサナギ(ここで「薙」がれる「草」が何を指すか、にはちょっと感心しました。なかなかうまいネーミングです)に、あろうことかクマソが魂を奪われ――という急展開。かくて、天帝国、クマソ率いる呪われた死者の軍団、そして真の神剣を手に入れるべく急ぐイズモとオグナの二人のタケル、という三つ巴状態となって、物語はいよいよ混沌とした様相を呈してきたところです。

 このあたりの殺戮と裏切りにまみれた混沌たる舞台設定、場面描写、そして人間関係は、なるほど新感線テイストだな、と感じますが、面白いのは、下手に描くとどうしようもなく生臭くなってしまいそうなこの世界観・ストーリーが、本作ではドラマ性を失わせない程度にうまく緩和されて――舞台上の新感線作品がそうであるように――いるところ。
 この辺りは、中島かずき氏の脚本もさることながら、むしろ絵を担当する唐々煙氏の力ではないかな、と感心いたしました。

 さて、いよいよ物語は佳境に突入。正体が明かされたオグナ、出自の一端が語られたイズモ、そしてクマソにも何やら因縁がある様子で、ドラマ的にもキャラクター的にも、この先がいよいよ楽しみでなりません(個人的には、寡黙な暗殺者・オグナがイズモと触れ合うことで徐々に人間的な感情に目覚めていくくだりが、ベタではありますがやはり印象に残りました)。
 原作舞台を見ていないので、先が全く読めない、というのもこれはこれでちょっと得した気分ですね。


「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」第2巻(唐々煙&中島かずき マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon bk1

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2006.07.20

「白髪の女」 近世と近代が交わるところに

 短編一本で一つ記事を書くのも少々気が引けるものがありますが、少々本業が多忙なのと、そして何よりも「白髪鬼」「夢幻紳士」と語ってきてこの作品を語らないのはむしろおかしいというわけで高橋葉介氏による「白髪鬼」の漫画化「白髪の女」を。

 「夢幻外伝 2 夜の劇場」に収録されている本作、基本的なストーリーは原作と同様、弁護士志望の青年の前に現れる白髪の女の怪を描いたもの。個人的には、作品では和装よりも洋装のイメージが強い(…のは夢幻紳士の印象だと思いますが)高橋葉介氏と、やはりどうしても和装のイメージの強い岡本綺堂というのは果たして組み合わせとしてどうなのかしらん、と思いましたが、ごめんなさい、実によい仕上がりとなっておりました。
 高橋葉介氏がレトロな世界を舞台に描いた物語を読むとき――かつてそこに確かに存在しながらも、今では決して手の届かないものを見るような――妖しくもどこかもの哀しい印象を受けるのですが、それが近世と近代が交わるところに蟠る陰を描いた綺堂先生の「モダンホラー」とよくマッチしていたと思います。

 原作の、直接的な怪が描かれるのは語り手の伝聞としてのみ、あとは客観的な事実のみというスタイルは、さすがに完全に再現というわけにはいかないようでしたが、しかしそれは一人称の小説と、漫画という媒体にそもそも起因するところゆえ仕方がないでしょう。
 むしろ、ヒロイン(?)伊佐子の素顔を読者に見せないでおいて、最後に…というような演出は、漫画ならではのものであって、あの印象的な結末をうまく飾っていたと思います。

 と、綺堂ファン的には、その伊佐子の素顔を隠すために使われた小道具が驚きで、むしろあんなものを被ったから伊佐子さんはあんなことに…と思わないでもないですがそれはさておき。

 ちょっと今では手に入れにくい本かもしれませんが、「夜の劇場」自体が優れたホラー短編集でもあり、機会があれば一度ご覧いただきたいものです。


 …そういえば本作を読み返していて、近代合理性のある意味化身と言うべき法律家たちを生み出す司法試験の場に、白髪の和装の女の幽霊が現れるというのは、何だかとても象徴的だな、と今さらながらに気付かされましたよ。


「白髪の女」(高橋葉介&岡本綺堂 ソノラマコミック文庫「夢幻外伝 2 夜の劇場」所収) Amazon bk1


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2006.07.19

「闇を斬る 霖雨蕭蕭」 親子の想いが生む悲劇

 文庫書き下ろし剣豪小説「闇を斬る」も、はや第五巻。謎の暗殺集団“闇”と好漢・鷹森真九郎の死闘が続く中、真九郎の国元・今治でも不穏な動きが…というわけで、いよいよシリーズとして佳境にさしかかった感があります。

 これまで同様、基本的な物語の流れは
真九郎の日常→同心・桜井琢馬に呼ばれて事件の話→情報収集→敵の襲撃→琢馬と話す→日常→情報収集or襲撃…
というワンパ繰り返しですが、この巻ではこれに今治での暗闘も加えて描かれることにより、物語に、これまでと異なるリズムを与えることに成功しています。
 そもそも、真九郎が国元を出奔して江戸に出て、“闇”と対決することとなったのも、きっかけは自らの孫のために権力の地盤固めを図らんとした家老・鮫島兵庫の陰謀によるもの。さらにその“闇”に兵庫が真九郎抹殺を依頼したために状況はさらにややこしくなっていたのですが、今回は真九郎の活躍に力を得た国元の心ある者たちの反撃が始まって…という展開になります。

 その一方で、江戸では裕福な商人たちを狙った辻斬りに見せかけて“闇”が暗躍。前の巻でもそうでしたが、一見何も関係のない事件のように見せかけて、その奥にはある目的を秘めているのが“闇”の作戦の恐ろしいところで、その謎解きに真九郎と琢馬が活躍することになります。
 そしてその中で浮かび上がるのは、封建社会という軛の中で、親を想い、子を想う心が、ちょっとした運命の悪戯から生み出してしまう悲劇の数々。一見無関係に見えた事件の数々から浮かび上がる真相は、どうにもやりきれない人間心理の哀しみと、それをもてあそぶ“闇”の悪辣さを強く感じさせます。
 また、今治での暗闘も、その発端といい意外な結末といい、これもまた親を想い、子を想う心が生み出した悲劇、とまた言えるかと思います。

 あえて本作に苦言を呈すれば、真九郎を襲う敵たちが、ごく一部を除けばあまりにノッペラボウで個性に乏しく、そのため随所に挟まれる剣戟シーンから(描写自体はよく描けているにもかかわらず)何となく作業感が感じられてしまうのが残念なところ。この辺りは、本作の内容からすればある意味仕方のない、必要性があって行っていることというのはわかるのですが、そろそろ違ったパターンで描いて欲しいな、という気持ちはあります。

 とはいえ、独立した物語として魅せながらも、シリーズの中でも大きな転換点となった本作。いよいよ“闇”と真九郎たちの全面対決も間近、という印象で、引き続きシリーズの展開を楽しみにしたいと思います。


 と――こうして今回の感想をまとめているうちに、よく考えればシリーズ第一作から「親と子」が題材となっていることに気付きました。あるいはシリーズの隠されたテーマということなのかもしれませんね(何となくですが、シリーズのラストは真九郎に子供が生まれて〆、という気がします)。


「闇を斬る 霖雨蕭蕭」(荒崎一海 徳間文庫) Amazon bk1

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2006.07.18

今週二回目の「Y十M 柳生忍法帖」 縛りと小物感に関する考察

 十兵衛が春花の術(白土流)を使ったので驚きました<それは違う漫画
 さて、一週間に二回の「Y十M」は、加藤明成恥辱編の後編。これまでの悪行を考えればもっとねっちり晒されっぷりを描写しても良いような気もしますが、やっぱりいいです、絵的に楽しくないから。

 が、短いページ数の中でも面白かったのは、松平伊豆守の登場。原作では伊豆守は、無言でまじまじと明成の様子をながめるだけで、言葉責めは因縁の伊達政宗の役だったのですが、漫画の方では伊豆守が声をかける、という形に変更されています。このあたり、ケイトさんのところでも触れられていますが、ネチネチぶりが原作よりパワーアップしていて、それでいて短いページにまとめあげられているのはなかなかうまい演出かと思います。

 ついでに原作と比較してみると、後半の明成と七本槍の会話シーンも、かなり編集されていることに気付きます。原作と比べるとちょっとあっさりかな、と思わないでもないですが、漫画としてのテンポという点から考えれば、これは正解かと思います(正直、庄司甚右衛門が登場した辺りはテンポがかなりナニでしたからね)。

 ただ、これは原作からして仕方ないのですが、今回の描写から浮かび上がってしまうのは、七本槍の悪役としての限界といいますか。結局は江戸の幕藩体制・封建体制の縛りの中で動かざるを得ない、お家大事になってしまう辺りから、やはり小物感漂います。原作ではあまりそういう印象はありませんでしたが、漫画になって動きがついたことで、コミカルさが増したからそう思うのかもしれません。これはこれで面白いし、一種ギャグパートなので気にしすぎかもしれませんが…
 が、よくよく考えてみれば、こうした縛りには敵方のみならず味方側にも存在していること。こうした縛りを利用して物語を面白くするのは山風の真骨頂ですし、何よりも、この縛りがあってこそ、後半に飛び出す、十兵衛の時代小説史上に残る名台詞が生きてくるので、それとの対比という点からも、これはこれでいいのでしょう。

 それはさておき、ここ数週の丈之進は面白すぎる。存在自体が面白いシバQや、最近一挙手一投足が愉快な廉助さんなどに負けず劣らずの体を張った活躍には、思わず応援したく…はなりませんが、今週の明成様からのしばかっれっぷりなどはGJの一言に尽きます。


 あと、せがわ先生の更新日記この記事に吹いた。

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2006.07.17

最近の時代ネタニュースまとめ

 今日はここしばらくの時代ネタのニュースをまとめて。今頃かよ、とか、最近小説の紹介してないな、とか言わないで。

椿三十郎:織田裕二主演でリメーク
 まずは、久々に(?)地雷感漂う素敵なニュース。織田裕二と森田芳光。うーん。
 織田裕二は嫌いではないですが、椿三十郎が似合うかというと、どんなものでしょうか(桑畑三十郎よりかは似合うと思いますが)。どっちかというと加山雄三の若侍の方のような…こちらの記事にもあるように、コミカル方面に力を入れるようなので、そういう意味ではよいのかも知れませんが。
 森田芳光監督の経歴を見るに、まあ、商売的にはそれほど外さないものを撮るんだろうな、とは思いますが、さて。


幕末機関説 いろはにほへと
 こちらは秋からネット配信される時代劇アニメ。監督は高橋良輔、キャラデザはコザキユースケ、そして殺陣は牧秀彦(!)と、スタッフ的にはかなり面白いことになっていますが(「碧燕の剣」の後書きに高橋監督が登場したのはこういうわけだったんですね)、ストーリー的にもなかなか期待できそうです。
 それにしても、TV放送ではなくてまずネット配信して、その後DVDで発売というビジネスモデルが、今では当たり前のようにできているんですねえ(確かに、深夜に無理に放送するよりかはむしろネットの方が多くの人に見てもらえるのでしょうね)。
 しかし、GyaO配信の時代劇アニメというと、どうしてもこれが思い出されるから困る。


天保異聞 妖奇士 <あやかしあやし>
 こちらも秋の新番組。…が、公式サイトも一枚絵が出ているだけの状況なので、まだ内容については全く不明です。実は時代ものですらない可能性もあるのですが、まあ脚本が時代劇大好きの會川昇なのできっと大丈夫(どういう根拠じゃ)。制作はBONES、キャラデザは川元利浩と、一流どころなので、安心はできそうです。
 しかし時間枠的には「BLOOD+」の後番組となる本作、仮に来年秋の種3(既定事項のように書くな)までの一年間の放送とすれば、時代劇アニメとしては比較的珍しい長丁場になるのかもしれませんね。


「るろうに剣心」特別番組放送
 しかし長期放映された時代劇アニメと言えば、「るろうに剣心」という巨峰があるわけで、そのDVD-BOXサイトから特別番組放送のお知らせ。そういえば最近中川翔子が剣心のコスプレしていたのはこのためだったのかな。
 何はともあれ、原作完全版ゲーム化「武装錬金」アニメ化と、最近は一時期の冷遇ぶりがウソのようです、和月伸宏先生。
 あと、今まで完全にスルーしていたんですが、アニメ完結編である「星霜編」で剣心と薫が梅毒(らしき病気)で死亡、という話を聞いて、猛烈に見たいような見たくないような気分になってきました。

いっき萌バイル
 ネットのごく一部で話題沸騰。懐かしの時代バカゲー「いっき」が萌え要素追加で復活! …orz
 以前知人から、いま携帯で「いっき」の企画をやっていて…と聞いたときには、ファミコンの移植ものかな、と軽く考えていましたが、こんなことになっているとは想像もしませんでした。お、俺たちの権べと田吾を返せ…(ごめん、田吾の方は今回調べて初めて名前知った)。
 大体、いっきのヒロインっていったら腰元と相場が決まっておろうに(しかし、城に乱入してきた百姓を追いかけ回して抱きつく腰元って、色々な黒いドラマを考えさせられて恐ろしいですね)…などと言っていたら腰元のグラもありそうで怖くなってきた。
 ちなみにパワーアップして竹槍装備になった方が弱くなる、というのは健在らしくて、それなら一安心。


PS3発売予定
 最後に、ニュースと言いますか、この11月に発売のプレイステーション3ソフト発売予定表から。ざっと見たところ、時代ものソフトは
「仁王」(コーエー)/「侍道3」(スパイク)/「新時代劇アクション(仮)」(アクワイア)/「コミカル時代劇アクション」「コミカル時代劇シミュレーション」(グローバル・A・エンタテインメント)/「和風剣術シリーズ」(元気)/「GENJI 2」(SCE)
といったところでしょうか。しかし正式名称はなくても、アクワイアは「忍道」、グローバルは「悪代官」、元気は「剣豪」と容易に予想がついてしまうのはいかがなものでしょう。
 何故か時代ものゲームに乏しい任天堂ハード(「謎の村雨城」がトラウマ…ってことはないよねえ)に比べると、時代ものが色々発売予定なのは嬉しいですが、正直ハード購買欲までもそそるものかというと正直微妙な地獄。


 と、楽するつもりが結局普通の記事何本分かの労力になってしまったエセニュースサイトモードおしまい。

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2006.07.16

8月の時代伝奇関連アイテム発売スケジュール

 8月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールを更新しました。今月は質・量ともにかなり充実した印象があります。

 小説では、上田秀人の「勘定吟味役異聞」、加野厚志の「将軍まかり通る」、かたやま和華の「楓の剣!」といったシリーズものの最新刊が登場。個人的には何度もタイトルだけ挙がりながら延び延びになってきた「将軍まかり通る」の続編の登場が特にうれしいところ。
 さらに文庫化・復刊ものとして、柴錬の「顔十郎罷り通る」「眠狂四郎京洛勝負帖」や新宮正春の「島原軍記」が登場します。柴田錬三郎賞を主催している集英社はともかく、講談社文庫でもコンスタントに柴錬作品を復刊してくれるのはありがたい話ですね。

 そしてコミックでは、なんといっても「Y十M~柳生忍法帖~」の第4巻が登場。花地獄での攻防戦が描かれることになるかと思います。また、「影風魔ハヤセ」「乱飛乱外」の最新刊も発売されますが(偶然とは言えこの忍者漫画二つが同じ日に発売というのも何かおかしいですね)、なんと言っても目玉は横山光輝の「少年忍者 風よ」の登場。
 幕末を舞台とした忍者ものである本作、ファンの間でも幻中の幻と称されてきた本作が、文庫で復活するのですからいい時代になってものです。なお、本作の原作は葉山伸氏が担当しているのですが、これはやはりあの羽山信樹氏のことなのでしょうね。
 その他、「カムイ伝」「るろうに剣心」なども順調に刊行される予定です。

 なお、ゲームについては今のところX360で「戦国無双2」が発売されるくらいなのですが、ゲームのサントラで「サムライスピリッツ零」「サムライスピリッツ天下一剣客伝」が発売されるのはうれしいですね(まあ、むしろ今まで出ていなかったのがおかしなくらいではあったのですが…)。「天下一剣客伝」の方はPS2版で追加された楽曲も収録されるとのことです。

 あと、時代伝奇ではないですが、25日には「おとぎ奉り」の第8巻も発売になるので、妖怪ファンや白虎の人ファンの人は要チェック。

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2006.07.15

「SAMURAI DEEPER KYO」 これが最後の限界突破

 「SAMURAI DEEPER KYO」の最終巻、第38巻が発売となりました。先日好評のうちに連載を終了しました本作、このブログ7でも毎週毎週採り上げて、その度に好き放題書かせていただきましたが、こうして単行本最終巻を手にすると、やはり感慨深いものがあります。

 これまでもファンサービスに力を注いできた作者らしく、この第38巻はカバー描き下ろし、付録のシールに、雑誌掲載時のカラー扉絵収録、書き足しページに、最終回の後日譚エピソードの描き下ろしと大盤振る舞い。作者の本作に対する愛着と、読者への誠意を感じます。

 ちなみに書き足しページは(私の記憶が正しければ)狂と先代紅の王の決着前後に集中、連載時はちょっとだけ詰め込み感があった辺りだけに、これは嬉しいサービスであります(作者としても不満だったのかな、と思う)。
 個人的には連載時に、先代紅の王の最期のくだりで、彼を最も愛していたはずの四方堂に関する描写がほとんどなかったのを残念に感じていたのですが、今回書き足された先代紅の王の最期のシーンは、そんな思いを吹き飛ばしてくれるような神演出で、胸のつかえがとれた思いであります。

 そしてまた、描き下ろしエピソード「「道」の途中」は、狂と二人平和に暮らすゆやの元をレギュラー陣が訪れるという、本作のエピローグとも言うべき内容。庵里の天狗ランドや海賊王ほたるといった小ネタを笑いつつも、最後の一コマになるまで一切台詞なし、それでいて全く違和感や不足感なしというのにちょっと感心いたしました。


 それにしても――本作との付き合いも、連載当初からですから約七年。
 以前も書いたかと思いますが、初めのうちはこの作品が嫌いで嫌いで本当に嫌いで――魅力のない俺様DQN主人公にありがちなキャラとストーリー、時代ものとしての必然性もないファッション時代劇という印象で――それでも、曲がりなりにも時代ものだから、と思いつつ読んでいました。
 それが、樹海編辺りからだんだん面白くなってきて、壬生編に入る頃には、当世珍しいほどの熱血少年漫画として(そして希代のネタ漫画として)先が楽しみな作品の一つとなり、そしてサイトやブログでほとんど毎週取り上げるほどになったのは、我ながら大した変わりようだわいと苦笑したくなりますが、しかし、それだけ面白い作品であった、いや、それだけ面白い作品になったのは間違いのないところ。

 もちろん、基本的にファッション時代劇ではあるのですが――ラストに物語を過去の歴史の一ページとして描くことにより、この物語自身を、本作のキーワードの一つである「道」そのものとして封じ込めてみせたのには大いに感心いたしましたが――しかし、本作が、現代に少年漫画というメディアで時代ものを描く際の、一つの成功した事例であることは間違いのないことかと思います。

 何はともあれ、ラストまで数限りない限界突破が描かれてきた本作。本当に限界突破を繰り返してきたのは、他の誰でもない、作者たる上条明峰氏自身であったのだろうなと感じ入った次第です。正直なところ、今後時代ものを描かれることはないだろうと想像しますが、しかし、新作が楽しみであることは間違いないところかと思います。

 上条氏には心からの賛辞と、「お疲れ様!」という言葉を贈りたいと思います。

 …と、これだけでは単なる一ファンで終わってしまうので、最終回で紅虎が朝鮮通信使を迎える準備をしているのを見て、「つまり次の敵は朝鮮壬生!?」とか思ってしまいました、と恥の上塗りを白状してこの稿おしまい。


「SAMURAI DEEPER KYO」第38巻(上条明峰 週刊少年マガジンKC) Amazon bk1

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 今週のSAMURAI DEEPER KYO

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2006.07.14

「戦国忍法秘録 五右衛門」第一回 石川イズム爆発

 全国の石川賢ファン(というかジャンキー)が一日千秋の思いで待ちこがれていた新作「戦国忍法秘録 五右衛門」が、「コミック乱ツインズ」誌の今月号から連載開始となりました。
 戦国です。忍法です。石川五右衛門です。敵は信長です。というわけで、否応なしに期待は高まるわけですが…

 いや、久々に石川賢らしいバイオレンス主人公を見た気分です。舞台は天正伊賀の乱、伊賀軍vs織田軍の殺戮戦の最中という、ある意味説明無用の世界。背景事情の説明もキャラクター設定も見ればわかる! とばかりにとにかく主人公の暴れっぷりを前面に押し出して見せたのは大正解でしょう。まずは石川イズム爆発だったかと思います。

 その五右衛門、鎧の上に陣羽織(…なんだけどドテラにしか見えないのがラブリー)、首元にはボロ布を巻いて、手には双頭の狼牙棒を持った見るからに豪快なビジュアル。登場するやいなや当たるを幸い薙ぎ倒し、ほとんどイシカワ無双状態ですが…この後はなかなかインパクトのある展開の連続なので、実際の作品をどうぞ。
 それにしても、何でケン・イシカワキャラって「わし」「~じゃ!」って台詞回しが似合うんですかねえ(いや、「極道兵器」の岩鬼将造のインパクトが強すぎるだけなのだろうとは思いますが)。

 もちろん、そんな五右衛門の暴れっぷりを描く一方で、織田軍えの草でありながらも裏切った伊賀忍者の存在や、単なる敵対勢力の掃討以上の理由をもって伊賀を攻めた信長の思惑など、今後のストーリーのおそらく軸となる部分もぬかりなく描いてあるのは、前作「武蔵伝」で読者を唸らせたストーリーテラーとしての手腕かと思います。

 そして今月号のラストは、織田軍の追撃から逃れて馬もろとも谷底に落下しながら歌舞伎チックな見得を切るという(すげぇ、あの五右衛門落ちながら見栄切ってる…)豪快な〆で次号に続く。次号は表紙&巻頭カラーということで、雑誌の方の期待の大きさもうかがえます。
 まだタイトルにある「忍法」らしい「忍法」は登場していませんが、思いっきり期待しますよ。とんでもない奴を。


 ちなみに最近はすっかり普通の時代劇画雑誌になってしまった感のある「コミック乱ツインズ」誌ですが、岡村賢二の「真田十勇士」と中山昌亮の「泣く侍」はいいですね。前者は実にイイ忍者バトルでしたし、後者は救いようのない黒さが素晴らしい(あとあの覆面(?)のビジュアル)。

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2006.07.13

「松平蒼二郎無双剣 陰流・闇始末 宿命斬り」 新旧レギュラー集結!

 松平蒼二郎が活躍する第二シリーズ「松平蒼二郎無双剣 陰流・闇始末」の第三巻にして最終巻が発売されました。第二巻に引き続き、京の悪公家・綾小路公望の倒幕テロの標的とされた弟たちを守るため京に向かった蒼二郎と相棒の忍者・百舌丸の死闘旅が描かれます。

 個々人の力量は抜きんでいても、敵は奸計と、数にものを言わせる布陣で蒼二郎らを迎撃。大井川の渡しでは蒼二郎に押し込み強盗の濡れ衣を着せ、鈴鹿峠では山賊に身をやつして二人を襲撃するなど、バラエティに富んだ(?)作戦で蒼二郎と百舌丸を苦しめます。
 しかし、本作のクライマックスは京についてから。更なる策として、蒼二郎のかつての仲間たち――伝説の侠客で今は船宿の主の辰次、町医者ながらその体躯を活かした豪剣の遣い手・丈之介、そして茶道具による戦闘術・武家手前を操る美女・澄江の、三人の闇仕置の仲間たち――に目を付けた公望は、蒼二郎を愛する澄江を誘き出し人質に取るという手段に出ます。

 …が、澄江を、そして何よりも蒼二郎の危機を見過ごすことの出来る辰次と丈之介ではなく、彼らもまた京へ。かくて、ラストは新旧レギュラーが入り乱れての大殺陣が展開される次第であります(しかしこれ、完全に公望の作戦ミスだよな…)。
 この辺りの盛り上がりは、自身も時代劇ファンであり、どうすればファンがヒートアップするか知り尽くしている作者ならではの見せ方だなと感心いたしました。

 個人的には、いつの間にか澄江さんが随分と剣呑な人になっていたり、丈之介がいつの間にか澄江さんに想いを寄せていたり、相変わらず百舌丸が心配になるくらい蒼二郎ラヴだったりと気になるところがないでもないですが、それは全体の面白さ・魅力からすれば小さいところにすぎないでしょう。
 シリーズラストを大盛り上がりで終えてくれたのは本当に嬉しいことですし、ようやく人としての幸せを掴んだ蒼二郎には、まずはお疲れ様と言いたいところです(…などと言いつつも、第三シリーズの開幕を心待ちにしていたりもするわけですが)。


「松平蒼二郎無双剣 陰流・闇始末 宿命斬り」(牧秀彦 学研M文庫) Amazon bk1

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 「陰流・闇仕置 隠密狩り 松平蒼二郎始末帳」(再録)
 陰流・闇仕置 悪党狩り
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 いよいよ佳境? 「陰流・闇仕置 悪淫狩り」
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 松平蒼二郎再び 「陰流・闇始末 悪人斬り」
 「松平蒼二郎無双剣 陰流・闇始末 流浪斬り」 そして新たなる旅へ
 今日も二本立て 「大江戸火盗改・荒神仕置帳」&「破斬 勘定吟味役異聞」

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2006.07.12

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 もの凄いオーラでした

 さて今週の「Y十M」、しばらく大活躍だった十兵衛先生もホリにょ(byせがわ先生公式)もお休み。が、その代わりに(?)千姫様が久々の登場です。が…

 怖い! 怖いよ千姫様!! 千姫様というキャラは、原作(というか山風作品全般)でも、美しさの底で怨念が燐光を放っているような怖さを感じるのですが、何というかこちらではもう燐光どころか破壊光線を放っているみたいな? というか、全身から沸き立つように発散されるドSオーラに感動しました。せがわ先生GJ。
 ぜひこのノリで「伊賀忍法帖」とか「海鳴り忍法帖」とか「室町お伽草紙」とか漫画化して欲しいものです(あと千姫様と言えばもちろん短編のアレも)。

 そして明らかに役者が違う千姫様の前に明成もタジタジ、いわんや丈之進においてをや。許せない悪人ばらではありますが、今回だけは同情いたします。まあ、地獄は始まったばかりなのですが。あと、飼い主に邪険に扱われて恨めしそうな犬君の表情がかわいい。

 と、千姫様のナニっぷりに感動しているうちに今回分が終わってしまいましたが、実は来週月曜がお休みのため、今週はもう一回「Y十M」が読めるというまことに結構なお話。明成が恥辱の限りを味あわされる次回を待て…ってヤなヒキですが。


 さて、今週の「Y十M」に加えて個人的に非常に楽しかった記事を。一週間遅れの紹介で恐縮ですが、吉梨様のところの「突然企画! 新感線で七本槍」が、新感線ファンには実に愉快でありました。
 いやはや、確かに納得の顔ぶれですが(個人的には銀四郎は川原正嗣さんがいいかな)、特に一眼房の逆木圭一郎には脱帽しました。確かにシバQのあの体型を再現できるのはどう考えても…。
 そして粟根さんの加藤明成に高田聖子様の千姫にも納得。ふんぞりかえる聖子様に目ェひん剥いて絶叫する粟根さん――うわ、今週号の辺りとか超見たい(あと、チョン切られちゃってしょんぼりの粟根さんとかも見たい)。

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2006.07.11

ココログがメンテに入ります

 こちらにある通り、ココログが7月11日(火)14:00~7月13日(木)14:00の間、メンテナンスに入ります。その間、ブログの閲覧は可能ですが、投稿、コメント、トラックバックなどは一切不可能となります。
 毎日更新を謳うこのブログにおいては大いに困ってしまうのですが、その間、以前も一度お知らせいたしましたとおり、こちら(http://denki.art.coocan.jp/blog/)の避難所にて更新を続けたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 にしても…金を払っているお客様なのだから神様扱いしろ、などと言う気は毛頭ありませんが、最近のココログの状況は、商売としていかがなものかしらと思わざるを得ません。正直なところ、メンテナンスが上記の期間で終わるとは到底思えないので、避難所生活も長引くかもしれません。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、変わらぬご愛顧のほどをよろしくお願いします。

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「処刑御使」速報 今度は朝鮮ターミネーター

 既にネット上の荒山徹ヲチャーの間で話題沸騰の最新作「処刑御使」、私も伝奇既知外の端くれとして見逃すわけにはいかんと、早速手に入れて参りました。半分くらいまで読みましたので取り急ぎ速報を。ネタバレだらけなので、お覚悟のほどを。

 さて、この「処刑御使」、その(半分まで読んだ限りでの)特徴を簡単に述べると――
○一言で言えば、朝鮮ターミネーターvsヤング博文。さすがに敵はアンドロイドではないですが、全裸でタイムスリップしてきます。もちろん妖術で
○主人公は少年時代の伊藤博文、当時の名を伊藤俊輔。とにかく最初からもの凄い勢いで巻き込まれまくります。
○柳生は出ないっぽい。
○長州の侍は両班並み。
○やっぱり今回も怪獣が…あ、「魔風海峡」で読者を笑い死にさせかけたあいつまで!
○っていうか思いっきり歴史改変しかかってるんですが。○○○○がいきなり惨死。
○惨死と言えば、今回もどこかで聞いたような名前の方々――日本を代表する剣豪作家二名を合成したような名前とか、時代伝奇の大家と明朗時代ものの大家を合成したような名前とか、残酷ものの名手と忍者・剣豪ものの名手を合成したような名前とか――がひどい目に合わせられまくります。

 で、結論から言えば、比較的普通ですね。↑こんだけやっといて普通かい! と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、局所的にネタが暴発していることを除けば、存外真っ当な冒険活劇となっています。雰囲気的には、そう、長谷川裕一先生の熱血少年SF漫画的といいますか。長谷川裕一と荒山徹って絶望的に食い合わせ悪そうですが、とにかくそんな感じです。いや、単に私がどっちも好きなだけかもしれませんが。
 中盤に至るまで、とにかくアクションの連続、ひたすら妖術師たちに追いかけ回される主人公という展開ですが、それでも全く飽きないのはさすが、かと思います。


 さて――こういうサイトを運営している人間が、あまり歴史上の人物について好悪を(「好」はともかく)明らかにするのはよくないのかもしれませんが――正直なところ、私は歴史上の人物の中で一、二を争うくらい伊藤博文が嫌いなんですが、果たしてこの作品を読み終わる頃には、好きになっているでしょうか。
 こういう言い方はなんですが、もし好きになっていれば、それはこの作品の大勝利かと思います。そうでなければ…さて。
 少なくとも、歴史が(ちょっと)変わって伊藤博文がいい人になりましたオチだけは勘弁していただきたいところです。


「処刑御使」(荒山徹 幻冬舎) Amazon bk1

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2006.07.10

「夢幻紳士 逢魔篇」 百鬼夜行は夢まぼろしの中に

 そういえばだいぶ以前に手に入れて面白く読んだにも関わらず、まだ紹介していなかったこの「夢幻紳士 逢魔篇」。もう何十年も描き継がれている夢幻紳士サーガ(という言葉が全く似合わないなあ)の最新作であり、また長きに渡って夢幻紳士こと夢幻魔実也氏に魅了されてきたファンにとっても満足のいく名品です。

 一風変わったラブロマンスとも言える前作「幻想篇」とはうってかわり、本作はラスト直前まで、うらぶれた料亭の離れの一室で物語が展開するという何とも人を喰った展開であります。そして、その彼の前に次々と現れるのは、人を喰ったり化かしたりの妖怪変化、確かにこれは「魔」に「逢う」話だわい…と思いきや、むしろひどい目に遭わされるのはいつも妖怪の方。なるほどこれは、夢幻「魔」実也氏に逢った妖怪の話なのでありましょう。

 ジャンルで言えば、本作は妖怪退治ものと言えるのかもしれませんが、それが全く妙な方向に突っ走っていて(いや主人公は一カ所に座り込んでいるのですが)――そしてそれでいて全く作品の面白さが失われることがない、というよりむしろ「これぞ夢幻紳士!」と言いたくなるような、妖気と色気と洒落っ気に溢れる作品になっているのは、冷静に考えればすごいことのように思えます。

 そしてまた…終盤に至り、あたかも夜が明けて(実際に物語中の時間軸でも夜が明けるのですが)、それまでの賑やかな百鬼夜行が日の光の中に姿を消していくように、物語は夢まぼろしの中に静かに一端幕を降ろし――そしてラストで趣は一転して「ちょっとイイ話」に転じて美しく終わってみせるのにはつくづく感心させられました(にしても本当に女の子には優しいな、魔実也氏は)。
 前作の構成が神過ぎただけに、ほんの少しだけ見劣りする部分はありますが、それはあくまでも構成の話。内容のバラエティという点では――空間的には限定されているにもかかわらず――勝っているように思えました。

 さて、夢幻魔実也氏は一旦夢の中に姿を消しますが、もちろん彼の冒険は永遠、今現在も本作に続く「ミステリマガジン」連載第三弾として、「迷宮篇」が連載中です。単行本化にはまた一年かかるかと思いますが――楽しみに待つとしましょう。


 なお…ラスト一話前での、ある人物と魔実也氏の会話の中には、この夢幻紳士という存在の本質に迫るものがあるように思われて、ハッとさせられたことです。


「夢幻紳士 逢魔篇」(高橋葉介 早川書房) Amazon bk1

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 夢幻紳士 幻想篇

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2006.07.09

「からくり東海道」 ユニークかつトリッキーな物語の妙

 泡坂妻夫先生の奇想横溢な時代伝奇ミステリ。どこかノスタルジックな角兵衛獅子のシーンから始まり、尾張藩下屋敷の不思議なからくりの数々を覗いたと思えば、時間は跳んで十年後、舞台は小田原・箱根に移り、かの大久保長安の埋蔵金を巡って、様々な人物と謎・からくりが複雑に入り乱れる不思議な味わいの作品となっています。

 物語の始まりは尾張徳川家の江戸下屋敷、その広大な庭園に招かれた角兵衛獅子の一座の文吉とおみつが不可思議なからくり仕掛けを見せられ、そしてその直後に思わぬ惨劇が起きるという導入部から、時は流れて十年後、それぞれの道を歩んでいた市次(文吉)とおたか(おみつ)が再会し、おたかの弟分の美少年・又十と三人で、大久保長安の残したという莫大な埋蔵金探しに乗り出すことになります。

 大久保長安と言えば、武田家から徳川家に鞍替えし、金山奉行として徳川に莫大な富をもたらすも、その死後に私腹を肥やし、謀反を企んだとして、一族郎党が罰せられたといういわく付きの人物。そんな人物だからして古今の伝奇時代劇にもしばしば登場するのですが…その長安の遺産が、箱根山中に眠っているというわけで、なるほどタイトルの通り東海道を舞台に埋蔵金探しの物語が繰り広げられるのかと思いきや、そこはさすがにマジシャン泡坂妻夫先生。事態は全く予想外の方向に転がりまくり、舞台と物語は二転三転。長安の埋蔵金のみならず、十年前の惨劇の真相から、尾張徳川家の戸山からくり庭園の謎、さらには又十のとんでもない出生の秘密まで――あれよあれよという間に物語は海を越えて遙か異境の地まで広がりを見せるのでありました。

 自身のどの作品にも、独自の趣向を凝らして我々読者を楽しませると同時に煙に巻いてしまう泡坂先生の作品らしい、ユニークかつトリッキーな物語の妙を存分に楽しませていただきました。

 なお、本作は全編文章が「ですます」調というユニークなスタイル。「ですます」調と言えば、野村胡堂先生が思い浮かびますが、ここではこの一風変わった文体が、この物語の一種浮世離れした、磨りガラス越しに向こう側を眺めているかのような不思議な物語の感触を、より強めている印象があります。

 ラストのすっぽ抜けぶりも、賛否あると思いますが、一つの物語がまたからくり仕掛けの物語に化けてしまったかのような、いかにも泡坂先生らしい人を食った結末のように感じられて、私はそれなりに気に入っています。


「からくり東海道」(泡坂妻夫 光文社文庫) Amazon bk1

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2006.07.08

「闇鍵師」第2巻 既にクオリティは安定の域へ

 赤名修と中島かずきという、豪華コンビの伝奇時代コミックの第2巻が発売となりました。江戸に出没する魔物を錠前に封印する力を持った「枢り屋」錠之介の活躍を描く本作、この第2巻では、次々と猟奇殺人を引き起こす三匹の魔物を追う錠之介が奉行所から思わぬ疑いをかけられる「十手と錠前」、魔物に母を殺された姉弟の心を錠之介が救う「大晦の母影」、そして錠之介の盟友・鉄拾が記憶喪失の美女を救ったことから奇怪な忍びたちとの対決が始まる「秘錠の密偵」開幕編の三編が収録されています。

 既に基本的な物語のスタイルは第1巻で語られており、後は物語を膨らませていくだけという、連作短編スタイルの物語として安定した域に達しているだけに、安心して読むことが出来ました。
 もちろん、物語だけでなく、相変わらず赤名氏の絵のクオリティは高く、虚構の中のリアリティとでも言うべきものを存分に描きあげているのにはいつもながら感心させられます。「勇午」の印象で、現実世界を描くのに長けた人、という印象があったのですが、どうしてどうして、本作に登場する魔物たちの異形ぶりはなかなかのものであります。
 錠之介も、指抜き手袋をはめて、先に鍵を付けた鋼線を敵に向かって放つという「必殺」っぷりが実に見事で、アクションにもいい具合でけれんが効いていて満足(あと、奉行所に捕まったときには、「やっぱり赤名主人公は拷問されるのか!」と感心しました)。

 さて、この巻に収録されたうちでは、「大晦の母影」が出色。目の前で魔物に母を殺され、その場に駆けつけた錠之介を仇と呼ぶ姉と、鏡に浮かぶその母の姿をこの世に留めるため除夜の鐘を鳴らすのを止めようとする弟という、哀しい姉弟の姿を描いた作品ですが、二人のために、そしてその母のためにラストで錠之介がみせた優しい計らいが何とも気持ちよく、また、枢り屋が単に魔物を封じるだけの存在でないことをも示すものとして印象的でした。
 そしてまた、そのシーンを描いた赤名氏の絵がまた実に美しく――当たり前のことながら、優れた漫画は物語と絵が相まって生まれるものだと感じ入った次第。

 伝奇ものとしても人間ドラマとしても、読者の期待を裏切らない、奥行きのある物語として楽しめたことです。


「闇鍵師」第2巻(赤名修&中島かずき 双葉社アクションコミックス) Amazon bk1

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2006.07.07

「カーマロカ 将門異聞」 奇跡など起きない世界で

 実は関東で死んでいなかった平将門と、彼を追う者たちが死闘を繰り広げる時代伝奇アクションの快作である本作。「本の雑誌」で採り上げられるなど評判は高かったものの、なかなか読めずに今まで来てしまったのですが、ようやく読むことができました。激しく後悔しましたとも。今まで読んでいなかったのを。

 物語は、豪放な武人・鬼王丸、菅原道真の子を名乗る青年・菅原景行、そして異貌の美女・柊の三人が甲斐国に現れるところから始まります。何者かに追われるように旅を続ける彼らこそ、実は生きていた平将門とその腹心たち。そして、如何なる理由においてか甲斐から諏訪に入った彼らを追うのは、天台宗の不死身の暗殺僧・愚彊、異能を誇る甲賀一族を束ねる望月三郎兼家、天才の名を欲しいままにする若き陰陽師・賀茂保憲、かろうじて逃げ延びた将門の娘・夜叉姫、そして将門の従兄弟であり藤原秀郷と共に将門を「殺した」平貞盛――かくて、敵も味方も強者揃いの錚々たる面々が、それぞれの想いを胸に激突することとなります。

 何だか最初っから最後まで戦いっぱなしという印象もある本作ですが、しかし、その中にもきちんと登場人物それぞれの戦う理由、言い替えればそれぞれの存在理由が描き込まれているため、退屈することはありませんし、大味という印象も全くありませんでした。…いやむしろ、己の命を賭けた戦いという、ある意味、人が最も己をさらけ出す場を数多く描いているからこそ、善も悪もなく、ただ己の信念を貫くために戦う登場人物たちが、それぞれに魅力的で、生きた存在として感じられるのでしょう。

 と、もちろん、アクションシーンがきちんと描き込まれているの本書の魅力の一つ。個性的な登場人物それぞれが、またそれぞれに己の戦闘スタイルを、特殊能力をもって暴れ回るため、戦いの一つ一つの展開が全く予想が付かず、なかなかに刺激的です(個人的には、物理的な戦闘術としての陰陽道という、ありそうでなかったアイディアには唸らされました)。
 また、本書の特長の一つとして「奇跡が起きない」という点があります。これはすなわち、一見どれほど人間離れした術に見えても――例えばその最たるものと思える保憲の陰陽道、方術でも――その裏には必ずきちんとしたロジックが、種があるということなのですが、簡単に戦況をひっくり返すことのできるご都合主義が存在しないため、アクションシーンにも更なる緊張感が生まれていると感じました。

 その一方で、伝奇ものとしても光るものを持つ本作。将門が生きていた、という発端部分、基本設定からしてもちろんその最たるものですし、将門と道真公との意外な繋がりも実に興味深かったのですが、何よりも、なぜ将門は立ち上がったのか、なぜ討たれねばならなかったのかという、将門という人物の本質、天慶の乱という事件の本質に踏み込んで一定の伝奇的解答を出しつつ、そしてそれがまた登場人物たちの行動原理と密接に関わってくるという構成に感心した次第です。

 そして――「奇跡が起きない」はずの本作で、たった一つ最後に起きた、素晴らしい奇跡。奇跡それ自体は、まあドラマ的に予想できるものではありましたが、しかしそこに至るまでの重く哀しい物語からすれば、大いなる救いとして実に気持ちよいものでありましたし、そして何よりも伝奇的に、思わず「やりやがった!」と叫びたくなるくらいにインパクトのある、見事な幕切れでした。

 個人的には将門のキャラクターが今ひとつ響いてこないように感じた点もあるのですが、それは個人の感覚というべきもの(も一つ、ある人物の設定に、伊藤勢の「ラゴウ伝」の影響を強く感じたのですが、これもマニアの穿った見方以外の何ものでもないでしょう)。
 何はともあれ、ドラマ的にもアクション的にも伝奇的にも実に内容の濃い、骨太の魅力に富んだ本作。作者の三雲岳斗氏のホームグラウンドはライトノベルのようですが、これからもこのような作品を書いていっていただけたら、と心から期待する次第です(いや、ライトノベルで保憲とあいつが活躍するお話でももちろん大いに歓迎いたします)


「カーマロカ 将門異聞」(三雲岳斗 双葉社) Amazon bk1

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2006.07.06

避難所を設置しました

 最近あまりにココログの調子が悪いので――来週のメンテナンスの結果も、おそらくろくなことにならないでしょうし――MOVABLE TYPEを導入して避難所を作ってみました。
 本当に作っただけなので、全然殺風景で読みにくいですが、まずはこれで一安心、かな…何しろ(これまでに比べれば)非常に軽快に動くので助かります。当分は二本立てで行きますかね(投稿する記事は同じものですが)。

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「るろうに剣心」完全版刊行開始によせて

 和月伸宏先生の明治剣劇アクション漫画「るろうに剣心」の完全版コミックが、今月から全22巻の予定で刊行されることとなりました。週刊少年ジャンプに連載され、漫画としてだけでなく、アニメ化され、海外でも高い人気を誇る本作について、今更くだくだしく述べるのも野暮というものですが、完全版刊行開始を記念して本作について思うところを少し。

 かつて薩長方の人斬りとして恐れられながらも、明治の今は決して人を殺さない不殺を貫く剣士・緋色剣心の姿を描いた本作は、正直なところ、生真面目な時代ものファンからの評判はあまり芳しからぬものがあるかと思います。絵柄がアニメ的過ぎる、アクションが現実離れしすぎている、考証が云々…冷静に考えれば言いがかり同然のものもありますが、まあ時代ものファンにはとてもとても真面目な方が多いので、それもある意味やむなしかもしれません。

 さてかくいう私はと言えば、最初のうちはあまり好きになれなかったんですなあ、この作品。初期のえらく可愛らしい絵柄が正直苦手で、ちょっとなあ…と思っていた時期がありました。 が、後に剣心の無二の戦友となる、背中に「悪」一文字を背負った好漢・相良左之助の登場エピソードまで来て、その印象が一変しました。
 完全版では第一巻に収録されているこのエピソード、雇われの喧嘩屋として左之助が剣心と対決するのですが、戦いの中で、雇われた以上に、彼に剣心と戦う理由があることが描かれていきます。
 実は少年時代に相良総三の赤報隊に参加していた左之助。皆が平等に暮らせる新しい世の到来を信じ、総三と共に希望に胸膨らませていた彼を待っていたのは――偽官軍として処刑された総三の姿。以来、赤報隊を、総三を切り捨てて成立した明治政府に激しい怒りを抱く左之助は、あえて己を「悪」と呼び、無頼の暮らしを送る毎日。そんな時に現れた維新の密かな立役者たる剣心は、彼にとっては憎き新政府の象徴とも言える存在であって…

 と、ここまで読んで当時の私はかなり驚いたものでありました。歴史ファン、幕末ファンであれば常識ながら、少年漫画の題材とするにはまだまだマイナーな赤報隊を出してきたから、というのもありますが、それ以上に驚かされたのは、左之助の行動原理が、その赤報隊の悲劇を背景としてぴたりとはまって、説得力あるものとして感じられたからでありました。
 全く個人的なお話ですが、私にとって理想の、優れた「時代もの」というのは、歴史上のある時代を舞台とするのに必然性があって――そして何よりも、登場人物たちの行動原理が、その時代背景に基づいて説得力ある形で描かれている作品と思っています。どれほど作中の時代考証が行き届いていようが、この条件を満たしていなければ、それは「時代もの」としては××なのです、私的には(もちろん、そんなチンケな条件などブッちぎって優れた作品も山とあるのは言うまでもないことですが)。

 話が長くなりましたが、このエピソードに触れたことで、私にとっては本作が単なる時代ものの皮を被ったファッション時代劇ではなく、作者がこの時代で漫画を描くことに、それなりの意義と愛着とを持っていることが感じ取れた…と、そういうことです。
 その後も、登場するキャラクターのほとんどが、明治という時代、あるいは幕末という時代をしっかりと背負って設定され、作中で行動していた本作、その辺りのことを考えれば――他のメディアであってもその辺りがいい加減な作品が山とあるわけで――少年漫画として、という一定の限界はあるかもしれないものの、「時代もの」としてもっと本作をポジティヴに評価してもよいのではないかな、と私は思っています。

 と、結局くだくだしく痛々しい話を書いてしまいましたが、今回の完全版刊行を機に、少しでも多くの人が「時代もの」としての本作の魅力に触れていただければ、と心より願う次第です。


「るろうに剣心」完全版(和月伸宏 集英社ジャンプコミックス) 第1巻 Amazon bk1/第2巻 Amazon bk1

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2006.07.05

「絵巻水滸伝」第2巻 正しきオレ水滸伝ここにあり

 絵巻水滸伝第二巻は、副題を「北斗の党」。水滸伝ファンならピンとくるでしょう、托塔天王晁蓋と、彼の下に集った好漢たちが、知恵でもって不義の財を奪い取る「智取生辰綱」がメインのエピソードとして描かれます。

 まず本書の幕開けとなるのは、青面獣楊志vs豹子頭林冲のドリームマッチ。本書の前半の主役とも言うべき楊志と、第一巻後半の主役であった林冲の対決は、好漢たちが次々と現れ、リレー形式で物語を紡いでいく「水滸伝」ならではの展開ですが、ため息が出るほど…いやそれすらも忘れるほど美しい挿絵に飾られて、実に印象的なシーンとなっています。

 そして物語の中心は楊志へ、そして晁蓋と仲間たちへと移っていきますが、基本的なストーリーラインは原典と同じものの、そこに施されたデコレーションは、本書ならではの味わい。原典にあったエピソードを掘り下げ、さらにオリジナルのエピソードを追加することにより――一部のキャラクターを除けば原典ではかなり薄かった――人物造形や物語展開をより掘り下げるとともに、さらに新しい魅力を加えることに成功していると言えるかと思います。
 まあ、一言で表現してしまえば「オレ水滸伝」なのかもしれませんが、しかしそれが水滸伝ファンならば誰もが感じた点を解決し、夢見たものを実現しているとくれば、問題にはなりますまい。

 そのアレンジぶりが最も発揮されているのは、この巻のクライマックスである「智取生辰綱」の件でしょう。原典では、楊志が差配する生辰綱輸送隊を、晁蓋の一党が罠にはめて奪取するという比較的シンプルなエピソードでありましたが、本書ではそこに林冲ら梁山泊勢も参加して三つ巴の混戦模様に。さらに楊志の側には北京で彼と好勝負を演じた急先鋒索超が加わり、一方晁蓋の側では智多星呉用にライバル心を抱く公孫勝一清道人が別行動を取り…と人間模様も複雑になって、数多くの魅力的なキャラクターがある時は敵に、ある時は味方になって大暴れするという「水滸伝」の魅力を凝縮したような…というのはさすがに大袈裟かも知れませんが、豪傑好漢の活躍を腹一杯になるまで読むことができて満足です(もっとも、胸焼けを起こす方もあるかもしれませんが…)。

 そして――本書のアレンジで一番得をしたのは、何と言っても智多星呉用でしょう。その渾名の通り、知謀に富んだ天才軍師…のはずが、原典ではどうもパッとしない、というかぶっちゃけ役立たず。北方版水滸伝でも、「ジャイアントロボ The Animation」でも「ダメ人間」「うっかり」「泣き虫」と実に愉快なキャラとして描かれていたあの呉先生が、本書(のオリジナルエピソード)では大活躍。普段は何を考えているかわからないが、やることなすこと間違いなし、いざという時これほど頼もしい人物はない、というくらいの格好良さで…何だか自分で書いていてこれはさすがに美化しすぎなんじゃないかと心配になってきました。

 ちなみに、口絵ページでは第一巻同様、主立った好漢の渾名が英語表記されております。第一巻では林冲の「Leopard the Great」に吹きましたが、ここでも呉先生は大活躍。他の好漢がほとんど直訳なのに対して、彼一人「Sir Intelligence」って…かっこいい、かっこいいよ呉先生…

 と、それはさておき。林冲による粛正で梁山泊の頭領の座に晁蓋がつき、いよいよ梁山泊も星の豪傑たちの本拠として活動開始…というところまででこの第二巻は幕。続く第三巻では、「水滸伝」でも指折りの豪傑・行者武松が主役となっての「血戦鴛鴦楼」ということで、乞うご期待、であります。


 …そういえば、百八星のトップの方がほとんど登場しなかったけど気にしない。公式サイトで配布している壁紙にもいないような気がするけど気にしちゃいけない。


「絵巻水滸伝」第2巻(正子公也&森下翠 魁星出版) Amazon bk1

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「水戸黄門」漫画化…?

「水戸黄門」38年目初マンガ化
 …どの辺りから突っ込みを入れればいいものやら。「小学五年生」に掲載、という点もさることながら、個人的には鬼若や夜叉王丸が11歳の主人公と同年代のキャラとして登場、というところが何とも…あの目付きの鋭さで11歳とか言い張る山口馬木也を想像したら凄く愉快な気分になりました<それ想像するもの間違ってます
 ――が、一番ショッキングだったのは次の一文。
>ドラマ公認の漫画化は今回が初めて。
これは?

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2006.07.04

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 ある意味見所だらけでした

 さて一週挟んで今週の「Y十M」。久々の見せ場と勇躍十兵衛に襲いかかった廉介さんでありましたが…怒りで頭に血が上っていたか、はたまた名にも考えていなかったか、後ろに仲間を数珠繋ぎにした不安定な状態で回し蹴りなど放つものだから、あっさりとかわされた上に軸足を狙われ、よけたと思ったらそのまま花地獄へまっさかさま。うっかり廉ちゃんの誕生です。

 もちろん、他の五本槍もご同様の運命を辿ったわけですが…ここから物語の雰囲気はギャグっぽいノリに突入。こういう時に俄然輝くのはもちろん司馬Qで、落ちた仲間と上に残った仲間の間にあって絞首刑状態。もちろん面白い顔で。
 やむなく(?)他の五本槍も歯噛みしつつ花地獄に下ったわけですが、一人十兵衛先生に捕まったのはここのところいいことなしの孫兵衛ですが…ここで畳に転がされた孫兵衛丈之進、転がった先は全裸で仁王立ちのお千絵さんの足下で、思わず目を上にやると――なんですか、この青年誌というより月刊少年誌チックな展開は。
 もちろん速攻で怒りの踏みつけをくらうわけですが(あの状態でそれはさらにまずい気もしますが)、まあ孫兵衛丈之進にもたまにはいいことがあったということで…

 それはさておき、一息ついた十兵衛先生と四人のホリガールズですが…ここからがある意味今週のハイライト。よりによって見開きで一糸まとわぬ立ち姿を描かれた三人、十兵衛先生のいい加減服着れ(意訳)発言に、自分たちの姿を思い出して――お千絵とさくらは、仁王立ち(で固まった?)状態のお笛の後ろにコソコソと。そしてお圭さんは、後ろから十兵衛先生に手で目隠しと…わはは、お圭さんGJ!(でもよく考えたら十兵衛はこの時両目を閉じているわけで…それでも目隠ししてしまうのは女心でしょうか)
 正直なところ、このシーンが漫画でどう描かれるか密かに期待していたのですが、四人とも期待を上回る可愛らしさでよかったですよ。

 何だかもうこれだけでおなか一杯になってしまいましたが、物語の本筋である復讐劇はこれから。「かよわい、やさしい女の手で」仇は討つと、ある意味宣戦布告というべき言葉が印象に残ります。
 その手始めに明成を気絶させ、孫兵衛丈之進を脅してまんまと正面から(もちろん再び捕まってしまった女性たちを連れて)加藤屋敷を後にした十兵衛一行、向かうは竹橋御門で――これからバカ殿恥辱ショーの始まりというところで以下次号。ううむ、続きが見たいような見たくないような…

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2006.07.03

「白髪鬼」 時代を超えて在り続ける怪

 先日ご紹介した「影を踏まれた女」に続く光文社文庫の岡本綺堂怪談新装版の第二弾は「白髪鬼」。「近代異妖編」の全十三話中十話(三話は「影を踏まれた女」に収録)と、「異妖新編」から三話の、全十三話が収録されています。

 綺堂怪談と言えば真っ先に頭に浮かぶ「青蛙堂鬼談」には知名度の点で譲るところのある「近代異妖編」「異妖新編」ですが、内容の充実度、面白さ、恐ろしさといった点では、勝るとも劣らぬレベルかと思います。「木曾の旅人」「西瓜」「白髪鬼」…これまで幾度となくアンソロジー等に収録されてきた名品をはじめとする作品群は、どれも綺堂らしい、前近代的な因果因縁から解放されたところに存在する恐怖や不可思議さに満ち満ちていて、今読んでも、何度読んでも、まったく古びたところのない面白さがあります。

 古びた…と言えば、江戸時代の怪談をベースにしたものが少なくない綺堂怪談、本書の中でも「西瓜」「百物語」などがそれにあたります。どちらも、ベースになっているのは比較的有名な怪談なので、そちらをごらんになった方も多いかと思いますが、しかし並べて読むと、綺堂のそれは単なる現代語訳や翻案に留まらず、原典があろうとあるまいと、一種綺堂節とも言える味わいをきちんと漂わせているのには感心させられます。まさに自家薬籠中の物、と申せましょうか。

 と、古色蒼然たる怪談を甦らせる一方で、(作者にとっての)現代、近い過去を舞台にした怪談にも健筆を振るった綺堂先生。巻末の都筑道夫先生の解説にもあるとおり、本書は明治以降の作品が多いのが一つの特徴と言えるかと思いますが、魑魅魍魎が幅を利かせていた江戸は過去に、文明開化を経た明治はおろか大正の世に至っても、人の世に潜む怪異は尽きず存在することを、本書はまた教えてくれます。
 そしてまた――「指輪一つ」が、作者や同時代の読者にとってあまりに生々しかった関東大震災を描いた「現代」の作品であるのと同時に、平成の世に生きる我々にとっては、当時の貴重な記録の一つとなっているのには、何やら不思議な感慨を抱かざるを得ません。

 何はともあれ、古典怪談好きからモダンホラー(ってのももう死語ですわね)ファンまで、マニアから初心者まで、広く読んでいただきたい作品集であります。

 と、これはマニアのたわごとですが、旧版の表紙絵は堂昌一先生。これがまた、何気ない中に「ひっ」と思わされる素敵に恐ろしい名作で、機会があれば一度ごらんいただきたいものです。


「白髪鬼」(岡本綺堂 光文社文庫) Amazon bk1

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2006.07.02

「深雪の剣」 過去を超えることと現在を生きること

 既にシリーズ第四巻「碧燕の剣」が発売されているのに、今頃第お恥ずかしいのですが、何ごとも順番ということでシリーズ第三巻の「深雪の剣」の紹介を。根津の辻番所に集う裏稼業の面々を描く牧秀彦先生の剣豪アクションです。

 記憶喪失の好漢・辻風弥十郎、彼の親代わりとなった老辻番・留蔵、辻謡曲の浪人・田部伊織の三人のチームの活躍を描くこのシリーズ、この巻では、隠居所の女中を次々と毒牙にかける外道の仕置に弥十郎の意外な過去の一端が絡む「夏越の一閃」、加熱する万年青ブームが悲劇を招く「茂れや青葉」、そして弥十郎の通う道場主の過去が血で血を洗う死闘を呼ぶ「寒稽古」の全三編が収録されています。既に三巻目ということもあって、レギュラーキャラクターの描写の安定感はかなりのもの。安心して(?)許せぬ悪を闇で裁く弥十郎たちの活躍を楽しむことができました。

 個人的に唸らされたのは、「夏越の一閃」で描かれた弥十郎関連の描写。剣を取らせれば無敵の弥十郎の思わぬ弱点、それは彼がまったくのカナヅチだった…というエピソードが、物語の一方の極として描かれるのですが、これが単なる彼のキャラクター立てに終わらないのが素晴らしいところ。
 実はこの話では、弥十郎の過去を知る者が登場。弥十郎がかつて自分の知る男ではないかと探りを入れてくるわけですが、そこで上記の弥十郎のカナヅチが意外な意味を持ってきます。つまり、カナヅチは、彼が彼であることを示す、重要な過去の手がかりとしての意味を持つのです。
 が、面白いのはここから。今回の仕置のチャンスは船上と知った弥十郎は、ライバルであり戦友でもある岡っ引き・滝夜叉の佐吉の特訓を受けて、見事水練に開眼。仕置を成功させると共に、本人はそうと意識せぬまま、彼の過去を知る者の目を眩ませることとなるのでした。
 つまり、カナヅチの克服という、本人は真剣だが端から見ると結構可笑しいイベントが、現在の関門の突破と同時に、過去の相克という二重の意味を持たされている(更に言えば、謎であった弥十郎の過去の一端をも示している)わけであって、この辺りは構成の妙と言うべきではないかと感心した次第です。

 もちろんこれで弥十郎が過去と完全に訣別したわけではなく、過去と直面することが先送りになった、ということではあるのですが、しかしそれはそれだけこの物語を長く楽しむことができるということでもあり、そしてまた弥十郎が何者なのかということ以上に、彼がどこに向かうのか、ということが本作の魅力であるということを再確認できたようにも思えたことです。


「深雪の剣」(牧秀彦 光文社文庫) Amazon bk1

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2006.07.01

「武蔵伝 異説剣豪伝奇」第2巻 石川賢の力量を再確認

 「何だかものすごく綺麗に終わっちゃったよ、おい!」と、私を含む世の石川賢ファンを(冷静に考えたら随分失礼な感じに)驚かせた「武蔵伝」の第二巻(最終巻)が発売されました。
 箱根の関所での柳生羅刹衆との死闘から、江戸に入ってはまさかの佐々木小次郎の登場、天海一党の陰謀に、「宮本武蔵」の正体と、短いながらも猛烈に密度の濃い作品世界を味あわせてくれた本作。最近は虚無るかゲッター線暴走で終わることが多かった(暴言)石川作品ですが、本作では超伝奇系統に暴走することもなく、純粋な(?)伝奇時代作品として見事に走り抜けた感があります。

 何よりも圧巻なのは、やはり終盤で遂に語られる「宮本武蔵」の真実。どこまでここでネタバレしてよいものか、大いに悩むところではありますが、幾人もの「宮本武蔵」を登場させた末に描かれるその真実は、内容はもちろんのこと、その明かされるタイミングとその後の展開も相まって素晴らしいインパクトでありました。
 既存の宮本武蔵譚からすれば、まことに意外でありながら、しかし、「武蔵ならばこれくらいやるだろう」と思わせるその内容には、伝奇ものとして感心しましたが、そこに留まらず、ラストで武蔵が見せた生き様の苛烈さと覚悟でもって、その印象を更に一転させてみせる様には、剣豪ものとしても大いに唸らされた次第です。

 そしてまた、ストーリー面の充実と同時に、ド派手な剣戟アクションが堪能できたのも、実に嬉しいところ。武蔵が、武蔵たちが、コマの中を所狭しと駆け回り跳び回り、文字通り屍山血河の大殺陣を繰り広げる様は、アクションの名手としての石川賢の面目躍如たるものがあったかと思います。
 これは全く個人的な印象なのですが――「真説魔獣戦線」や「ゲッターロボアーク」は、ストーリーや世界を語ろうとするあまり、野放図に暴れ回るキャラクターの魅力がちょっと後退した感があったのですが、この「武蔵伝」ではその辺りのバランスがうまく取れていたように感じました。

 何はともあれ、武蔵複数説や天海僧正××××説といった、時代ものではメジャーな題材を扱いつつも――いや、虚無や魔界を出さずとも――きっちりと石川賢ならではの波瀾万丈の伝奇時代活劇を作り上げて見せた本作、作者の力量というものを再確認させられました。

 そして…物語をラストまで読み終えて、正しく本作が「武蔵伝」であったことに、改めて感じ入った次第です。


「武蔵伝 異説剣豪伝奇」第2巻(石川賢&ダイナミックプロ リイド社SPコミックス) Amazon bk1

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