「柳柊二 妖怪画展」に行って参りました
そして今日は、高円寺で開催されていた柳柊二 妖怪画展に行ってきました。
柳柊二先生といえば、私たちの世代(中心はもう少し上の世代かと思いますが)ぐらいまでの人間にとって、怪談奇談妖怪談の挿し絵で子供の時分の我々を震え上がらせて下さった巨匠。
私は雑誌などの挿し絵は直撃世代ではないと思うのですが、ジャガーバックスの妖怪本の挿し絵には――水木先生のどこかユーモラスなタッチとは全く異なるリアルなタッチで――大いにおっかない思いをさせられた記憶があります。あとは、旧版のファファード&グレイ・マウザーシリーズの挿し絵とかね(今でもあのシリーズは柳先生の絵が最高にマッチしていたと確信しています)。
さて、今回の展示会は、会場がマンションの一室のようなところということもあり、展示している件数自体は多くなかったのですが、いずれも独特のタッチで彩られた素晴らしい作品ばかり。雪女や鬼婆、九尾の狐、ドラキュラなどといった定番妖怪の他、香山滋先生の秘境ものの軟体人間や、企画ものの記事とおぼしい、リャマを襲っている宇宙人(チュパカブラとメタルナミュータントを足して二で割ったようなデザインが素敵)、さらにはなんだかわからないんだけど恐ろしい挿し絵など、十分堪能させていただきました。
そしていずれの氏の作品からも感じられるのは、リアリティを突き詰めていった先に生まれるハイパーリアリティとでもいうべきものと、そしてそれを含めて作品全体を覆いつくさんばかり情念。児童書であろうがなんだろうが一切手を抜くことなく、己の脳裏に浮かんだ情景を余すところなく刻みつけたのが、あの作品群なのでありましょう。
個人的に印象に残ったのは、九尾の狐の挿し絵。ビジュアル的には、普通の(動物図鑑などに乗っている)狐に九本尻尾をつけただけのようにも見えるのですが、その目にあるのは、紛れもなく知性――それも邪悪な――という、色々な意味で一度見たら忘れられない作品でありました。
ちなみに展示会は本日が最終日、私が行った時間は終了間際で、しかも結構お客さんが多かったためか、特別に、会場に展示しきれなかった作品を、主催者の大橋博之さんが解説付きで見せて下さるという、非常に幸運な場に居合わせることができました。
これがまた、展示された作品に勝るとも劣らぬ素晴らしいものばかりだったのですが、うちのサイト的に嬉しかったのは、ラストに見せていただいた二つの絵物語の挿し絵。
一つは、少年マガジンに掲載された「忍法人外境」という作品。宮崎某氏の文の挿絵を担当したこの作品、秘境を探っていた忍者が、異形の怪人たちが棲む人外境に迷い込み、そこで自分と同じ普通の人間である美少女と出会って、彼女を連れた脱出行が始まる…ってこれ、宮崎惇先生の「魔界住人」の元ネタでは? 意外なところで意外な発見。
そしてもう一つは、少年サンデーに掲載された南條範夫先生の「燈台鬼」の挿し絵…ってオイ! と、南條ファンの方であれば突っ込みたくなるのではないかと思います。直木賞作品である本作、読んだ後でどんよりとした作品の多い南條作品の中でも特にキツい、それこそ鬼のような作品ですが、それをよりによって少年誌で、しかも柳先生に挿し絵を担当させるとは…もちろん、挿し絵の方は、それァもうこれぽっちも手抜きのない、子供時代に見たらトラウマ必至の壮絶さで、何というか昔の編集者さんの蛮勇に感心しました。
(子供時代に見たらって言えば、他のお客さんが全ていわゆるマニア層な中に、小さい子を二人連れた綺麗な若いお母さんがいらしてたのにはちょっと驚きました。あの子たちはいいお母さんを持ったなあ…?)
と、冗談はさておき、柳先生の挿し絵を堪能した上に、意外な作品との出会いまであって、実に充実した、楽しい時間を過ごすことができました。主催者の大橋博之さんと、そしてこの展示会の情報を教えてくださったケイトさんに心から感謝いたします。
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コメント
こんにちは。mixiの方から飛んで来ました。
会場に展示しきれなかった作品までご覧になれたということで、うらやましいです~。何点ぐらいあったのですか?
投稿: YUMIKA | 2006.08.21 09:32
主催者です。
ご来場、頂き、ありがとうございました。
私の解説は「カッコイイ~」とか「怖い」しか言ってない、お粗末なものでした(恥)。
YUMIKA 様
絵は150点くらいありました。
本当に駆け足でのご紹介でした。
投稿: 大橋 | 2006.08.21 21:58
YUMIKA様:
こんにちは。ようこそおこしくださいました。
先に主催者の方に言われてしまいましたが(笑)それはそれは結構な点数でありました。本当にラッキーだったと思います。
大橋様:
これはこれは主催者の方まで。楽しい時間を本当にありがとうございました。お粗末なんてとんでもない、わかりやすくて楽しい解説でした。
(ちなみに私、上の文章にも書きましたが「人外境と同じネタの小説を読んだことがある」とかブツブツ言っていた奴です)
投稿: 三田主水 | 2006.08.21 23:40
「魔界住人」は持っているはずなのでチェックしてみます。
投稿: 大橋 | 2006.08.22 22:32
『柳柊二 怪奇画帖』という本が出ることになりました。
よろしくお願いします。
http://www.garamon.jp.org/news/0002.html
『柳柊二 怪奇画帖』
著/柳柊二・編/大橋博之
サイズ/A5判並製・192頁・定価2,800 円+税
発売/2006年12月中旬
ISBN 4-947752-67-X C0071
版元/株式会社ラピュータ
http://www.laputa.ne.jp/
投稿: 大橋 | 2006.11.28 07:45
直々にご連絡いただき、どうもありがとうございます。
これは楽しみですね! きっと購入させていただきます。
投稿: 三田主水 | 2006.11.29 01:56