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2006.10.31

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 天海僧正の言葉

 さて今週の「Y十M 柳生忍法帖」ですが、予想以上に盛り上がった展開でありました。
 前回ラストで、沢庵が謎の駕籠に「大和尚」と呼びかけましたが、もちろん沢庵がそう呼ぶほどの人物といえば、南光坊天海。将軍が帰依する人物を、一大名が無視するわけにもいかず、遂に明成の駕籠の戸が開けられることに――

 そこですかさず(?)悪魔の駕籠から逃れたおとねさんですが、これは半ば偶然に助けられたとはいえ、大名に対するにそれ以上の人物の威光を持ってくるというのは沢庵和尚のナイスプレー。直接的な武力で勝る相手に知力でもって反撃するのが本作の基本コンセプトではありますが、それがここでも貫かれているように思えます。
 もっとも――これは仕方ないとはいえ満天下に落花狼藉後の無惨な姿を晒すこととなったおとねさんには本当になんと言ったらいいのやら。
(しかし原作の前回に当たる部分をいま読み返してみたら、駕籠の中の描写については、露骨な表現はほとんどなかったですね…つまり原作を読んだときに想像力で勝手に補完していたお前がナニだ、ということになってしまってorz)

 しかし今回のハイライトは何と言ってもこの後。銀四郎の相変わらず怖いもの知らずの言葉の前に、駕籠から現れた天海の顔を見た明成と三本槍の驚愕の表情たるや…普段生意気な表情をしている銀四郎が目をまんまろに見開いている様は、何というか実にインパクトのある絵面で(あと、むさい人とおもしろい人の表情も)、彼らを襲った衝撃の大きさと、次いで語られる言葉の重大さがうかがわれます。

 ここで示されたのは、
・芦名銅伯なる人物の存在
・芦名銅伯と天海が瓜二つであること
・天海が銅伯、そして芦名一族を知っていること
・天海が口にした「兵太郎」という名前
という、今後物語に大きく関わってくる情報ばかりですが(正確には、この「Y十M」では銅伯の存在は冒頭でちらりと語られていたわけですが)、おとね救出イベントと、この天海と銅伯というキャラクターを絡めて提示してくるという構成が実に見事だと今さらながらに感心しました。
 この辺りの人をそらさない呼吸というのは、エンターテイメントの基本ではありますが、やっぱり山風(とせがわ先生)は凄いですね、どうも。

 そして地味に効果を発揮している般若面トラップですが、さてそれを仕掛けた十兵衛チームの方はどうなっておりますやら…(いや、立ちションしてましたけどね)


 …と、いまケイトさんの記事見たら、一カ所ほとんど同じような書き方している箇所があって驚いた。いや、示し合わせたわけじゃないですが、やっぱり同じような趣味だと表現も似てくるのかな(笑)

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2006.10.30

「陰陽師鬼一法眼 鬼女之巻」 そして最強の鬼女が

 さて、あまり間を空けずに紹介、シリーズ第五巻「鬼女の巻」は、前の巻から引き続き、混沌たる鎌倉で重ねられる御家人たちの潰し合いの果て、遂に二代将軍頼家が鎌倉を逐われるまでが描かれます。

 前の巻の感想にも書きましたが、やはり陰謀・暗闘を続ける鎌倉武士たちの姿が、実に生き生きとしていて、ある意味魅力的とすら感じられる本作。
 もちろん争いの火種となるのは、相変わらず悪巧みを続ける後白河天狗と牛若天狗の干渉ではあるのですが、既に事態は坂道を転がる雪玉が加速度的に巨大化していくが如く、人間たち自身の手で争いが拡大していく様には、歴史というもののダイナミズムを感じさせられます。

 さて、この巻の副題となっている「鬼女」とは、その争いの中に見え隠れする、恐ろしくも哀しい女性たちの姿。争いの陰で犠牲となり、あるいは争いの火に油を注ぐ女性たちが、遂には人を捨てて鬼と化す、そんな鬼女が、この巻では幾人も登場することになります。
 屈強な武士ですら、己の血を流さなければ生きていけぬ時代、己に罪科なくとも罪に問われ命を奪われかねぬ時代にあって、女性が自身の想いを貫いて生きるというのは至難の一言。その中で心強き者のみが、鬼と化すことにより、自分自身を辛うじて保ち得るというのは、ある意味古今東西を問わず共通の真実なのかも知れませんが、しかし、やはりどうにもやりきれない気持ちになったことです。

 ちなみに、この巻に登場した中で最強の鬼女は――予想していた方も多いと思いますが――北条政子その人。幕府を、北条家を守り育てるためであれば、己の子であっても親であっても、夫であっても同族であっても利用し、棄てることを顧みないその姿は、場をひっかき回した割には法眼にあっさりと退場させられた女天狗・大鏡がかわいらしくみえるほどでありました。
 ことに、シリーズ当初から登場しており、まだ「鬼」ではなかった頃の姿から描かれていただけに、一層痛ましいものを感じさせられます。

 正直なところ、あいかわらず法眼が傍観者・狂言回しに毛の生えたような立ち位置にいる(要所要所では活躍しているんですけれども。バカ兵器で梶原軍を壊滅させたり)あたり、すっきりしないものも感じるのですが、それでもなお不思議な魅力を感じさせる作品であることです。


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 陰陽師鬼一法眼〈三〉 今かぐや篇
 「陰陽師鬼一法眼 切千役之巻」 鬼一法眼、真の力を顕す?

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2006.10.29

「天保異聞 妖奇士」 説四「生き人形」

 何だかもう毎日「いろはにほへと」とこれの感想を書いている気がしてきましたが、何はともあれ第四話「生き人形」。今回は異国の少女アトルが初登場、彼女を軸に、「異人」とは、「人」とは何かという物語が展開されます。

 偶然出会ったアトルが異人であることを知り、何くれと気にかける往壓。折しもアトルがいた見世物小屋周辺で拐かしが頻発、蛮社改所や南町奉行所はアトルと彼女の馬・雪輪を怪しいと睨みますが、往壓はそれに反発して…という展開になります。
 アトルは異人と言われつつも、往壓たちと異なるのは「人種」であって、種として異なる「異界のもの」や生き人形のような「人ならざるもの」とはもちろん別物であるのは言うまでもないこと、と思えるのは我々が現代人だから。しかし、この天保当時の人々にとっては、両者はイコールであり、小笠原様たちの反応の方がむしろ普通だったということなのでしょう。
 そんなものの見方に反発し、アトルを庇おうとする往壓(前回まで登場していた央太といい、世捨て人みたいな生活をしていたわりには意外と人間との関わりを大事にするようですが、これは異界を覗いた者や異人の存在が、他人事とは思えないからなのでしょう)ですが、そこで往壓が正しい! と単純にならないのがいかにもこの番組らしいところ。

 そんな往壓に向けられた宰蔵の厳しい言葉は、一歩間違えるとマズい内容ではありますが、しかしそれもまた一つの真実。その後の展開にも現れているように、異人を護ろう・救おうとする気持ちもまた、異人を自分と異なるモノとして見ている点では等しいわけであり、本人の意識はともかく、一種の傲慢さ、ということなのでしょう。
 …結局は往壓の言葉のように、正しいモノは一つではないのですが、そうそう簡単に答えは出ない(そしてエンターテイメントでこっちに踏み込むとドツボにはまりやすい)問題ではあります。往壓の「誰もが異人だ」というのももちろん正しい答えではありますが、それで全ての解答になるわけでもないのでしょう。おそらくは、この先も物語中にしばしば登場してくるのではないか――と個人的には思っています。
 …しかしビジュアル的には(名前も)アビが一番ナニだよなあ。

 アビと言えば、今回もほとんど全く役に立たなかった往壓以外の奇士たち。いい加減アビの銛→えどげんのバズーカ→妖夷に効かないのコンボは脱してほしいものです。そういう意味では、異界の力を使いこなしているかのように見える鳥居側の方が、より有効な手段を用意しているように思えます(しかし鳥居がこの時点で量産型妖夷を出してくるとは…何だかもう終盤みたいですね)。
 一方、今回の妖夷は、その生まれ故にか、ほぼ万能に見える往壓の漢神でも力を引き出すことができない存在で面白かったのですが、それに対する往壓の対抗策は、自分自身から漢神で武器を取り出すというもの。この手があるならば、わざわざ妖夷の正体暴く必要ないんじゃない? という気がしないでもなく、余計に往壓強し! のイメージが強くなってしまうように思えます。
 というかもっと重火器だそうよ! 重火器!

 などと突っ込みたくなるところはありますが、相変わらずそれなりに面白いこの作品。見せ物小屋――というより娯楽一般――に対する禁令の話(そしてそれに絡んで賄賂で目こぼしする岡っ引き)や、武士でなければ刀を下げられないといった、知っている人であれば当たり前だけど知らない人であれば全く知らない当時の事柄をさらりと入れ込んで、それを単なる設定説明だけでなく物語や人物描写に絡めているのは好印象です。
 そして次回は…また重い話になりそうですな。


 と、これは蛇足。今回、「四十といえば隠居してもいい年だ。なのに、居場所を探して逃げ回るのも情けないじゃないか…」と、前向き何だか強がってるんだかわからない往壓の言葉が、かなり印象に残ったのですが、これはやっぱり見ているこちらも年だからなのかなあ、とちと苦笑しました。


関連記事
 「天保異聞 妖奇士」 説一「妖夷、来たる」
 「天保異聞 妖奇士」 説二「山の神堕ちて」
 「天保異聞 妖奇士」 説三「華江戸暗流」

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2006.10.28

「幕末機関説 いろはにほへと」 第四話「裏疑獄異聞」

 何だかあっという間に一週間は終わり、もう「いろはにほへと」の第四話の配信が開始されています。今回は、悪鬼羅刹の其ノ二・雑賀孫蔵との決着編。前回ラストで孫蔵を追い詰めながらもあっさりと逃げられてしまった耀次郎ですが、果たして孫蔵のスナイプから赫乃丈を護ることができるか!? というのが今週の眼目であります。

 ストーリー的には、前回あらましが語られたとおり、真の黒幕を炙り出すため赫乃丈一座が演じる芝居と、その口を封じるために放たれた孫蔵の暗殺計画が描かれており、内容的には単純と言えば単純なのですが、静かにそこまでの過程を見せていって、クライマックスで一気に盛り上げる構成の妙に感心しました。
 そのクライマックスでは、現実と芝居、双方の復讐劇がメタに重なっていくのが実に面白い展開(舞台上の衣装も目にも綾で楽しいですね。特に和装の赫乃丈)で、遂には暗殺者たる孫蔵まで芝居の中に乱入して遂に虚実が重なり合うのは非常に面白い趣向だと思いました。

 その孫蔵、天井裏に忍び(気付かれなかったのか放置されていたのか)、黙々と飯を食いながら腕に布を巻き付けて狙撃の準備をする様は、いかにも用意周到な暗殺者的で面白かった(…が、あの細工に何の意味があったのか、作中ではよくわからなかったのが残念。サイレンサーっていう解釈で…いいのかな?)のですが、しかしあれだけプロフェッショナルに徹していたのに、最後には舞台上で自分の本名まで名乗ってしまうのは、バカ正直なのかアドリブが利かないのか、はたまた家名を背負いつつ歴史の陰を歩んできた男の最後のプライドか…やられ役ではありましたが、なかなかユニークなキャラクターでありました。

 しかし脇役がキャラを立てている一方で、相変わらず何を考えているのかわからないのが耀次郎。その鉄面皮はある意味キリコ以上で、何を考えて行動しているのか、そもそも何故赫乃丈を助けたのかはっきりわからないのがちょっとすっきりしない(まあ、根底にはかつて護るべきものを護れなかった後悔というものがあるのだとは思いますが)のは、演出としてもちょっとマイナスなのではないかなと思います。

 と、そんな寡黙ながらも仕事は着実にする主人公の見せ場を、最後の最後にミラクルショットでかっさらっていったのは、前回初登場の隻眼混血のガンマン・神無左京之介。冷静に考えると地割剣以上に有り得ない絶技ですが、仕方ないよな、サムライガンだし。
 …と、しつこいオタの戯言はともかく、公式サイトのキャラ紹介によれば、左京之介は耀次郎のライバル的存在になるようなので、美形同士の対決を今から楽しみにしましょう。

 そして美形といえばもう一人の美形、蒼鉄先生は相変わらずの謎めいた大人ぶり。第一話冒頭の剣戟シーンから、既にただ者ではないことはわかっていましたが、「覇者の首」のことすら知っている様子で、耀次郎を驚かせます。が、それ以上に気になったのは、芝居に五人の悪鬼羅刹を登場させていたこと。なぜ蒼鉄は敵の数を知っていたのか――日本の明日を憂えているのはわかりましたが、さてそれではどうするつもりなのか。
 そもそも彼は何故、赫乃丈一座で座付きの戯作者となっているのか。耀次郎と赫乃丈一座の出会いは偶然だったとしても、その後の展開は果たして偶然なのか、気になってきました。

 そして次回。この番組の次回予告は毎回絵が入らない、ナレーションだけなので今ひとつ寂しかったのですが、第五話の予告は、悪鬼羅刹の其ノ三から五までがひたすら名乗りを上げるという内容で、絵が付いていないのがかえって想像力をかき立ててくれて良かったですよ。公式サイトの予告を見ると、いよいよ「覇者の首」の力の一端が現れるようで楽しみです。


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 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第二話「地割剣嗤う」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第三話「石鶴楼都々逸」

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「抜刀復讐剣 居合の開祖・林崎重信」(再録)

 「抜刀秘伝抄」の続編。母の墓参に訪れた甚助の前に、かつて父の仇として討った坂上主膳の息子が出現、自分を父の仇と呼んで襲ってくる姿にショックを受けた彼は剣士としての生き方に疑問を感じ、剣を捨てようとするも…
 という甚助絡みのストーリーが縦糸。そしてそんな甚助に嫌気がさして飛び出した弟子の新之助が、かの伊達家の名臣・片倉小十郎の実家に転がり込んだことから最上家の御家騒動に巻き込まれる様が横糸として描かれています。

 そんな今作で――いや今作でも――浮かび上がるのは、戦国乱世にあって剣術家として、そして人間として生きていくために傷つき、それでも立ち上がり歩き続ける甚助の姿。ある者は復讐心から、ある者は忠誠心から、またある者はお家復興のために剣を振るう中で、自分を高めるために、そして自分の大事なものを守るために剣を振るう甚助の姿には共感できます。そしてそんな甚助の生き方が、ある歴史的事実につながったことを暗示するある意味非常に伝奇的なラストは、静かな感動を与えてくれました。
 もちろん、今回も見事な剣戟シーンは健在。特にクライマックスの、今弁慶の異名を取る金砕棒使いとの死闘は、剣対剣の戦いとはまた別の迫力とインパクトがありました。次回作が今から楽しみです。


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 「抜刀秘伝抄 流浪の剣聖・林崎重信」(再録)

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「抜刀秘伝抄 流浪の剣聖・林崎重信」(再録)

 タイトル通り林崎甚助を主人公に据えた剣豪小説。様々な題材が手際よく盛り込まれたストーリー運びはもちろんですが、決闘シーンのアクション描写が秀逸で実に面白い作品でした。

 作者は「剣豪 その流派と名刀」を書かれた方で、実際に居合術を修めているそうですが、その経験を生かした細かな(そして決して決闘のスピード感を損なわない)刀術の描写と、そこから生み出されるリアリティと緊迫感はなかなかのもの。また、長大な刀を抜く際の柄の動きを応用して、柄を相手の鳩尾に叩き込む技など、実際の刀の動きを理解しているからこそ生まれる技の描写もエキサイティング。

 キャラクター描写も、硬骨漢ながら心にある傷を負う林崎甚助をはじめとして、甚助の兄弟子ながらその才能に嫉妬してその命を狙う北畠具教、甚助の行く先々に現れる飄々とした美青年・佐々木小次郎、具教の御前試合で甚助と対決する十手術と二刀流の達人・新免無二斎など、皆個性的。特に、悲劇の剣聖として描かれることの多い北畠具教が卑屈ですらある小人物として、また狷介な武術狂として描かれることの多い無二斎が死闘の末に甚助と爽やかに剣術者同士のエールを交換する好漢として、それぞれ描かれているのが新鮮でした。

 また、この作品をより奥深いものにしているのが、随所にちりばめられた、戦国時代の最中に理想と現実、自らを高めることと人斬りの所行の間で揺れる、主人公をはじめとする剣術者の心の動きを描いていること。剣戟描写が真に迫っているだけにより一層、自らの理想とする道を、他者を傷つけずに目指そうという男たちの苦闘が胸に迫ります。

 …何だか褒めすぎになってしまいましたが、この作者の本は個人的にチェックしていこうと思います。


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2006.10.27

「シグルイ」第七巻 在りし日の…

 単行本派の私にとって待ちに待った「シグルイ」第七巻、この巻では虎眼先生壮絶死の後始末から始まり、藤木と虎眼先生の出会いと初陣、伊良子と藤木の(一方的な)因縁、そして虎眼の跡目を継ぐこととなった藤木と三重による伊良子への仇討ち試合が始まる直前までが描かれます。
 言ってみれば一山去ってもう一山が来るまでの、谷の部分なのかもしれませんが、しかし剣豪ものの魅力の一つが、決闘前の両剣士の個人エピソードによる盛り上げ合戦にあるのは五味康祐先生の昔から変わらぬ真理。特にこの巻では、これまで伊良子に押されて今ひとつキャラが薄かった(?)藤木の過去エピソードや、それに絡んで曖昧になる前の虎眼先生の、いい意味で人間味溢れるお姿も拝見できるという充実ぶりで、これまでの物語に比べても全くひけを取らない面白さとなっています。

 これまで、農民の出でありながら門弟となった、と簡単に説明されたのみで、過去を掘り下げられたことのなかった藤木ですが、その過去は伊良子にも負けぬ凄まじさ。そしてその藤木の運命を変えた虎眼先生が、少年時代の藤木に向けた眼差しの暖かさたるや、いかに藤木ビジョンのバイアスがかかっていたとはいえ、魔神に続く第四のモードを目にした気分にさせられたことです。もしかしてこれまでの言動がアレだったのは曖昧になってたせいで、元々はいい人だったのでは!? と危うく錯覚させられるところでした。

 そしてまた、藤木の少年時代・修業時代のエピソードに絡んで描かれるのは、在りし日の虎眼道場の門弟たちの結びつきの強さ・暖かさ。これまでにも、このような惨劇となる前の彼ら門弟たちの姿が描かれたことはありましたが、ある時は道場破りに対する藤木の初陣・初勝利に躍り上がらんばかりに喜び、またある時は、浜辺でウミガメの産卵する姿の荘厳さに皆で感動し――と、こと流派の敵に対してははっきり言って異常者としかいえない態度を見せる彼らも、普段は仲間たちと切磋琢磨しつつ剣の道に邁進する青年たちであったか、と感心させられたことです。
 そして…その彼らの結束の淵源には、彼らがみな通常の武士よりも一段も二段も劣る身分の出身だったことがあり、それが、あの伊良子をして一度は彼らに友情とも言うべき感情を生まれさせることとなったのですが――そこで生じたささいな行き違いが後々の惨劇につながるとは、いやはや何とも哀しくも切ないことです。

 言ってみれば師に対する忠誠心(=武士道)と、生の人間としての感情の間の軋みが広がっていった果てに、誠に無惨な仕儀となった彼ら虎眼流でありますが、そのようなことさえなければ、ちょっと怖いけど剣の道にひたむきな地元の剣術流派として、尊敬と畏怖の念を集めつつ、平穏に代を重ねていったことでしょう。極端なことを言えば、田舎の郷士や薬売り出身が中核メンバーだった天然理心流のような存在となっていたかもしれないと思うと(…その場合は伊良子は土方になるというのか。我ながら妄想にも程がある)、物語が始まってからここまでの彼らが歩んできた道程を、暗い気分で振り返らざるを得ません。

 …と、無理矢理真面目な文章を書きましたが、ネタ度ももちろん高いこの巻。思いつくだけでも
・珍妙な拷問(というかプレイ)にしか見えない牛股師範の特訓姿(しかも裏表紙カラー)
・放っておくと中から再生して出てきそうな虎眼フェイスの浮き出た血染めの打ち掛け
・三重の寝室に忍んで、貝殻一つ置いて何もせず出てくる藤木(ただし格好はふんどし一丁)
などと、地味に狂っているシーンが多く、そういう意味でも印象的でした。
 個人的には、自分の後ろに座った次期武芸師範役が虎眼の腕を辱める言葉を吐いたのに対し、全盛期の岡元次郎さんでもできないような「正座の姿勢からその場でジャンプ一番空中回転して斬ってまた着地」という絶技を藤木が見せるシーンが、剣豪ものとしてもネタとしても非常にハイレベルで感動いたしました。

 何はともあれ、いよいよ過去篇もラストに近づいて参りました。単行本派であることをやめて「チャンピオンRED」誌を買い始めるべきか、半分真剣に検討しているところです。


 と、これは蛇足なのですが――この巻の表紙や作中特に後半の藤木の顔。どうにもこれまでと違った顔つきに見えて気になりました。これは単に私の気のせいか、それとも画風が変わったのか、はたまた内面の変化を表すものなのか。

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2006.10.26

「松平長七郎西海日記」 そして彼の冒険は続く

 学陽書房の人物文庫で復活した村上元三先生の松平長七郎シリーズの四巻目にして最終巻がこの「西海日記」。西の果て、長崎を舞台に長七郎主従の活躍が描かれます。

 物語は、大坂に逗留していた長七郎主従の宿に、長七郎の旧知の旗本が偶然泊まったことから始まります。普段は異常なほど落ち着かない言動を見せつつも、一服吹かせば温厚な人間に変わるという、いかにもあやしいこの旗本、何らかの秘密を長七郎に語ろうとした矢先に、何者かに殺害されてしまいます。
 彼を殺害したとおぼしき謎の行者姿の男たちが長崎から来たことを掴んだ長七郎、冒険好きの彼がこれを座視するはずもなく、一路長崎に向かいますが、そこで待ち受けていたのは、人を廃人と化さしめる阿片を売りさばく謎の一味。果たして長七郎主従は姿無き黒幕の正体を暴くことができるか!? というのがあらすじであります。

 何はともあれ良くも悪くもオールドファッションな時代活劇である本作、シリーズに慣れてくると、誰が悪の黒幕か、登場した瞬間にはっきりわかってしまって苦笑させられるのですが、そこはまあご愛敬。
 話の展開がわかっていても、いやそれだからこそ楽しめるTVの「水戸黄門」のように、エンターテイメントとしてのある種の安心感がここにはあります。

 しかし、そんな単純明快な物語のラストに、フッと、長七郎の心にある――そしてそれを紛らわせるために自身を冒険に駆り立ててきた――虚無感はこれからも消えぬことを暗示する一文が挿し挟まれる辺り、さすがは村上元三先生、と感じいったことでありました。
 明朗快活なヒーローのようでありながら、やはり彼にとっての安住の地はどこにもないこと(それは彼の冒険がこれからも続くこととイコールではありますが)を予感させる結びは、これはこれでシリーズの終幕にふさわしいものではないかと感じた次第です。


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2006.10.25

「幕末機関説 いろはにほへと」 第三話「石鶴楼都々逸」

 第二話ほどは遅れずに見る事ができました、「幕末機関説 いろはにほへと」第三話。前回で両親の仇・針尾を討った赫乃丈と一座ですが、まだまだ仇討ちは終わらず。更に超有名な実在の人物は出てくるは、美形の新キャラは出てくるはと、シブい味わいながらも波瀾万丈の展開となっております。

 さて、一座を離れて一人飄然と耀次郎が向かったのは高麗の里なる地。そこで師匠(兄弟子?)の手荒い出迎え(ここで耀次郎が見せる、鞘に刀を収めたままでの剣戟がなかなかよろしゅうございました)を受けつつも、高麗の聖天なる老人に、「首は斬ったが首の思念は斬り得なかった」と報告する耀次郎。なるほど、何がどうなったか今ひとつわかりにくかった第一話のラストですが、ようやく何となく状況が飲み込めました。
 ちなみに初登場の聖天老、何者かはまだわかりませんが、耀次郎の使命の事を熟知している様子。たくあんの切り損ねてつながったのを引き合いに出して、首を斬りきれなかった飄々と耀次郎を慰める(?)シーンが何とも味わいのあるお方でありました。

 そして耀次郎が悩んでいる頃、赫乃丈一座も仇を討ったことでその先の身の振り方に悩んでいましたが、しかし、事件には裏の裏があることを指摘したのは蒼鉄先生。前回の仇討ちの際に、何者かが針尾を狙撃したのを気付いた蒼鉄先生は、黒幕を引きずり出すためにかつて赫乃丈の一家を襲った悲劇を芝居にして上演しようとします。
 それにまんまと引っ張り出されたのは当の黒幕・中居屋重兵衛、邪魔となる赫乃丈を暗殺するために、かの鉄砲集団雑賀衆の末裔・雑賀孫蔵に最新式のライフルを与えます。ライフルの癖を確かめるために試射を重ねる孫蔵、立派にスナイパーしています。

 そしてまた…同じ横浜で、天下国家の先行きを左右しかねない会談を持つのは、あの勝海舟と英国公使パークス。史実では薩長と結んだパークスと、幕府側の中心人物たる勝の会談とは穏やかならざる話ですが、そこでパークスが勝の身を案じて連れてきたボディーガードが、また実に素晴らしいキャラクター。
 金毛隻眼で当然美形、使う得物は拳銃のこの青年、名は(EDによれば)神無左京之介。今回は出番こそ多くありませんでしたが、素晴らしいキャラ立ちぶりで、実に印象的でありました。物語中の立ち位置はまだ不明ですが、おそらくは耀次郎のライバルになるのでありましょう。耀次郎、蒼鉄とはまたベクトルの違った美形ぶりで、ネット上の評判も上々のようです。
 個人的には幕末で隻眼混血のガンマンと言えば七号丸市松を思い出して(´;ω;`)ウッ…(勝もいるしな)

 それはさておき、琴波太夫の太夫道中の最中、新作芝居の宣伝を始める赫乃丈一座を狙う孫蔵の銃口。危うし赫乃丈! …と思いきや、そこに駆けつけたのは秋月様。前回に続く白馬の騎士ぶりで孫蔵を追撃、超長距離攻撃キャラの常で接近戦は弱い孫蔵はあっという間に耀次郎と一座に追い詰められますが、さて…というところで以下次回。

 さてこの第三話、冷静に考えてみるとそれほどアクションシーンが多いわけでもなく、ある意味前回以上に地味なお話ではあるのですが、耀次郎・赫乃丈らのミクロな伝奇世界と、勝海舟らのマクロな歴史(史実)の流れが横浜の地で交錯する様が楽しく、(伝奇)時代劇として、なかなか見応えある作品となっておりました。
 見ていてちょっとシブすぎるかな、という気がしないでもありませんが、左京之介みたいにケレン味が服着て歩いているようなキャラも現れたことですし、そこはいま心配することではないのでしょう。
 次回ではおそらくスナイパー孫蔵との決着となるかと思いますが、日本刀vsライフルという異次元対決がどのように描かれるかに期待したいと思います。


 しかしこれは今回隻眼混血のガンマンが出てきたから言うわけではなく、第一話の時点から密かに思っていたことではありますが――このスタッフで「サムライガン」を見たかったよ…ここで他の作品のことを言うのも何ですが、本当につくづく思います。


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2006.10.24

「天保異聞 妖奇士」 説三「華江戸暗流」

 さて少し遅れましたが「天保異聞 妖奇士」説三。先のエピソードは前後編的な扱いでしたが、今回は一話完結、とはいえ登場以来妖夷との積極的な戦いを避けてきた主人公・往壓が、遂に奇士として戦うことを決意するという意味では、一続きのエピソードと言ってよいでしょう。

 さて、冒頭から登場するのは前回倒した妖夷・山子を料理して奇士一同がそれを食らうという場面。奇士たちが、倒した妖夷を後で食らっているというのは、既に放送開始前から聞いていて、それが果たしてどのような意味を持つのか、非常に気になっておりましたが、そのまま直球で楽しそうに食べていたのでちょっと驚かされました。
 しかし、洋の東西を問わず、異界の食べ物を食べるというのは、その世界のモノと同じ存在になることを意味する伝承は多く存在します。如何にこちらの世界に現れたものとはいえ、妖夷を食べるというのは、彼らもまた…ということになるのではないかと心配なのですが、さて。既にほら、他の食べ物に魅力を感じなくなっているし…
 それにしても一番こういうのを毛嫌いしそうなイメージのある小笠原様まで嬉しそうに食べているのにはちょっと驚きではあります。

 そして物語は、奇士にスカウトされるもそれに反発する往壓の姿と、既に一度顔見せを行った巨大妖夷・列甲の跳梁が、並行して描かれます。
 前回のエピソードに登場し、下総に移り住むこととなった(妖夷による事件の関係者に新しく人別と住む所を用意して処理するというやり方が、如何にも幕府の秘密機関らしくてよいですな)たえ・央太母子と共に行き、貧しくとも平穏な暮らしを選ぶか、それとも奇士として戦うか…そのどちらにも違和感を抱く往壓が、なりゆきから戦うことになった列甲は、ある老武士の売られてしまった鎧への狂的な執着心が生み出した妖夷。
 ここで対峙することとなる往壓と老武士は、一見全く似ていないようですが、これまで異界から――それと同時に現実から――逃げていた往壓と、老いて曖昧になったとはいえ現実から逃避して架空の武勇伝の世界に閉じこもってしまった老武士とは、ある意味近しい存在と言えるでしょう。
 それまで楽な方向は気にくわないと言いつつ、奇士という立場から逃げていた彼が戦う気になったというのは、この老武士や、央太やその父のように、自分以外に異界に触れて、それに囚われた人間の姿を目の当たりにしたということが大きいのでありましょう。

 にしても、結局は自分で自分が納得できるだけの理由を探していたというのが、いかにもちょっと屈折した大人の男っぽくて良かったですね。人間、年を重ねれば重ねるほど素直な行動は取りにくくなって、世間体やら対面やらなどと言いつつ、結局は自分が納得できる理由を探すようになっていくもの。別に現実から逃避しているわけではないですが、往壓とはあまり年の変わらぬ身にとっては、彼の複雑な想いというものが理解できるような気がします。

 さて、そんな人間ドラマの一方で、奇士たちと妖夷との戦いはと言えば、これがちょっと残念なことにおとなしめ。結局アビの銛(?)撃ちも、えどげんのバズーカも、ましてや宰蔵の巫女さん変化もさして妖夷にはダメージを与えられず、往壓が半ば偶然老武士と出会って漢神の力で妖夷本体を祓わなければ、さてどうなっていたことか…(小笠原様? 彼はワイルド7における草波さんみたいなもんだからいいのだ)
 もっともこれまでは全体設定と往壓の紹介編と言うべきエピソード、これから妖夷と豪快に戦う彼らの姿が見れるのでしょう…と思ったら次回の妖夷はどうも小型のようではてさて。

 ちなみに宰蔵の巫女変化、うっかり「ほ~っ」と思って見てしまいましたが、後になって「アレ、結局あの姿に何の意味が…」と疑問符だらけに。そこで公式サイトを見てみたら「衣装を巫女に変えて舞うと妖夷を鎮めることができる」とあってまた「ほ~っ」。でも男装している時の方が可愛く見えるのがなんとも。
(個人的には宰蔵や、ましてやえどげんの巫女姿よりも、生活に疲れながらもなんかものすごく杉野昭夫キャラな眼差し(それは全員共通ですが)のたえさんが気になっていたのでここで退場は残念至極)

 あと、鳥居耀蔵の放尿シーンとか(…もしかして時代劇史上初なんじゃないか、耀蔵のそんな姿が描かれるのは)爺さんのTバック姿のアップとか、説一の男湯シーンに並ぶスタッフの限りなきチャレンジャー魂には感服いたしました。もっとやっちゃえ。

 何だかまとまりがなくなってきましたが、今回はここまで。


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 「天保異聞 妖奇士」 説一「妖夷、来たる」
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2006.10.23

先週の「Y十M 柳生忍法帖」 まさに外道!

 色々あって先週書けなかった「Y十M 柳生忍法帖」紹介。今週は休載なのをいい事に一週遅れで。
 さて、なおも続く北帰行ですが、ここに一つの凶事が出来。堀の女たちの復讐に怯える明成への供物として捧げられたのは、何の罪科もない本陣の娘・おとねでありました。

 褥に侍らされるよりなお悪い、昼日中の権門駕籠の中での辱め…正直なところ、原作を読んでいて、鎌倉東慶寺の大虐殺よりも、般若党の花嫁花婿攫いよりも、一番気分が悪くなったのは実はこのおとねさんの遭難のくだりなのですが、これは前者二つに比べると、暴力の程度がより日常に近いレベルのものだからでしょうか。
 いずれにせよ、明成の所業は(絵にされるとより一層)外道の一言、哀れなのはおとねですが、既に身も心も蹂躙されつくされた彼女のその運命は…
(と怒りつつ、石川賢の「魔界転生」で、転生した徳川頼宣が駕籠の中で…だったのは、今回の場面が元ネタなのかしら、と考えるのはマニアの業)

 さすがにこれを見過ごしにできぬ、と会津の行列の前に姿を現す沢庵様ですが(マア、冷静に考えれば明成を暴発させたのは十兵衛と沢庵のいたずら心と言えんこともない)、さすがにこれは無謀にすぎる、と思っていたところに割ってはいるようにやってきた新たな行列。
 大名行列の進路妨害するというのは、これは無茶な話ですが、行列の主に沢庵が大和尚と呼びかけたのをみると相手は…。そして、その顔を見た明成と七本槍がどのような態度を見せますか。

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2006.10.22

「蘭剣からくり烈風」(再録)

 からくり師蘭剣シリーズの最新作。実に5年ぶりの新作、しかも長編ということで、果たして「蘭剣してる」か、蘭剣が出つつも別の作品になってしまうのではないかと、少々心配な面もありましたが、ご免なさい、(やはり)私が馬鹿でした。蘭剣(の物語)の蘭剣たる由縁はしっかりと残しつつ、長編に相応しい伝奇的ネタを盛り込んで、伝奇エンターテイメント人情話という難しい物語を見事に成立させていました。短編の「蘭剣」がTVシリーズとすれば、これは劇場版という印象でしょうか。

 それにしても――菊地ファンの方であれば、よくご存じだと思いますが――菊地作品は、どれほど凄惨な世界、どれほど哀切な物語を描きながらも、その中に、人間への肯定的視線、別のよりこっ恥ずかしい表現で言ってしまえば人間という存在の善き面への希望というものが、程度の差こそあれ感じられ、そこがまた菊地作品の魅力の一つだと私は思っています。今作においてもそれは健在――というか蘭剣がああいう奴だからして尚更際だっていると言いますか――でして、やさぐれで極めて人間的な言動を見せつつもやっぱり…という今作の主人公の姿に、蘭剣ともども嬉しい気分になってしまうのでありました(それだけにラストは一層切ないのですが)。

 ひどく生意気な言い方になるのを承知を上で言わせていただければ、菊地秀行の時代小説は、「幽剣抄」前後から確実に一皮むけた、というか菊地秀行の持っていたピースが時代小説の中でピタリとはまった、という感があるのですが、今回の「蘭剣」も正しくその延長線上にあるな、と思わされました。あとがきで予告されている二つの(!)続編が、今から楽しみです。


 …と、蛇足ながら気になったのはやはり蘭剣の正体。実は今作は、これまでの蘭剣ものから相当の時間が流れていることが読みとれるのですが(「しびとの剣」も含めるとさらに蘭剣もののタイムスパンは広がるわけで)、その辺りのことや、人間に向けるまなざし、この世のものならざるものへの態度を見ていると、なんとな~く蘭剣という存在について浮かんでくる(あくまでも朧げに、ですよ)のですが、それはまあマニアの妄想ということで置いておきます。


「蘭剣からくり烈風」(菊地秀行 光文社カッパノベルス) Amazon bk1

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「Destiny 桜子姫悲恋剣」 変転する運命の中で

 絶世の美女で無双の剣士、そして天真爛漫なトラブルメーカーの桜子姫と、その背の君(という名の生贄)の無頼浪人・住之江廉十郎らのドタバタ騒動を描いた「浪漫's」の続編たる本作。今回は命を狙われた青年武士を救った二人が、秘宝騒動に巻き込まれる長編活劇となっております。

 ある日、謎の刺客たちに襲われていた青年・風倉真吾を助けた廉十郎。刺客団に加え唐人拳法家にまで付け狙われる真吾に同情した桜子は、何故彼が命を狙われるのか探るため、一肌脱ぐことになります。…となると、当然それに巻き込まれるのは廉十郎をはじめとする桜子の周囲の、いつもの面々。かくてお節介で騒々しい一団は、真吾を守りつつ、その出生の秘密にまで迫っていくわけですが、さて、真吾を待つ皮肉な運命とは。

 ここで少しだけネタばらしすると(物語の開幕すぐに語られるので大丈夫でしょう)、一連の事件の背後にあるのは、中国の王家に代々伝わるという王者の証・皇帝秘文の行方。流れ流れて鄭成功の元に渡ったというその秘文の謎と、真吾が命を狙われることの関係は、もちろんここでは書けませんが、そこには時代伝奇ものとしての興趣満点であると共に、何とも切なくもの悲しい侍の世界が描き出されていて、時代小説として二重の意味で楽しむことができました。

 元より作者は中国を舞台とした歴史小説の名手。その、自家薬籠中の題材を使いつつも、それに頼りすぎることなく、日本を舞台とした時代小説としてきちんと成立させている様には、失礼を承知で言わせていただければ、時代小説家としての進歩が感じとれたことです。

 あと、さりげなく(?)ホ○ネタを織り交ぜてくるのにはちょっと感心しました。…感心?


「Destiny 桜子姫悲恋剣」(藤水名子 ソニー・マガジンズヴィレッジブックスedge) Amazon bk1

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 「浪漫's 見参!桜子姫」 美しきトラブルメーカー見参

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2006.10.21

「幕末機関説 いろはにほへと」 第二話「地割剣嗤う」

 さてぼやぼやしているうちに第三話の配信が始まってしまった「幕末機関説 いろはにほへと」。あわてて第二回の紹介と感想をば。
 今回のメインとなるのは、赫乃丈一座による仇敵・針尾玄藩への復讐劇。ヒロインであろう遊山赫乃丈の戦う理由だけあって、この仇討ちが第二話の時点で成就してしまうのはちょっと意外、というところでしたが、玄藩は所詮走狗ということで、赫乃丈の両親の殺害を背後で命じた者が真の仇としているのでしょう(誰かは一目瞭然な気もしますが…)。

 さて、その玄藩が使う技が、今回の題名にも登場する地割剣。その刀を大地に突き刺して…ってこれは無明逆流れ!? と驚いた次の瞬間繰り出された技は、むしろビジュアル的には「サムライスピリッツ」の柳生十兵衛の喝咄水月刀。要するに地を奔る衝撃波という飛び道具でありました。
 前回の感想に書いたように、リアルなチャンバラシーンを十分期待できる本作ですが、そこでいきなり超人剣豪バトルになってしまったので、ちょっと面食らってしまいました。基本的には私は超人剣豪バトルも大好き、むしろ大いにおやんなさい、というくらいですが、(すくなくともチャンバラシーンにおいては)方向性的にリアル路線を行くかと思っていた本作で、いきなりの「必殺技」の登場は、どうなのかなと思ってしまったというのが正直なところであります。

 とはいえ、押さえるべきところはきちんと押さえているのはさすがというべきところ。最初の対決で地割剣の弱点を見切った耀次郎の策で、水場に玄藩を誘い込んでの決戦は、常識外れの技に物理法則で挑むというシチュエーションが面白く、また、それにより、赫乃丈に迫る剣を耀次郎が背中越しの水の盾で防ぐという形で二人が大接近するというシーンに繋がっていく演出の妙に感心させられました。何よりも、幕末をイメージさせる美しいメインテーマをバックに繰り広げられる戦いはなかなかに見応えがあったかと思います。

 時代ものという点でいえば、もう少し河井継之助のガトリング砲は引っぱってもよかったようにも思いますが、それはこちらの勝手な期待だったので、あれこれ言うことではないでしょう。そういう意味では、覇者の首に絡んでトーマス・グラバーが登場したのが嬉しく、これからどのように物語に絡んでくるかに期待したいと思います。


「幕末機関説 いろはにほへと」第1巻(バンダイビジュアル DVDソフト) Amazon

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 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
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2006.10.20

今月の「コミック乱ツインズ」 大ベテランの凄み爆発!?

 今月も買いました「コミック乱ツインズ」誌。久々に「黒田三十六計」が掲載されていましたが、平田弘史先生の凄みを、これまでとは別の方向から味あわされました(後述)。以下、個人的に印象に残った作品を。

「泣く侍」
 表紙は物辺を救った旅芸人一座の主ですが、いきなり怖すぎる絵面。それもそのはず、この老人は敵の忍び衆も恐れる凄腕で…そんな人に救われ、また旅芸人一座は子供たちばかりと、何だか物辺の周辺が随分賑やかになって、ちょっと違和感(ヒドス)。が、そんな中で伊藤さんの方は相変わらずの既知外っぷりで安心しました。

「真田十勇士」
 名高い真田の赤備えが家康本陣に突撃、その中で遂に筧十蔵・三好清海入道・望月六郎・三好伊佐入道の四名が壮烈な戦死を遂げることに。前回の後藤又兵衛ら同様、まさに「血笑」としか言いようのない表情を浮かべて死んでいく勇士たちの姿には、ただただ圧倒されました。
 特に印象に残ったのは、突撃前に鉄砲の達人・望月六郎が幸村に対して告げた「家康が陣中に攻め入ったその先は――鉄砲を投げ捨ててもよろしゅうございますな?」という言葉。戦場から戻ることを期しない覚悟を、サラッと言ってのけるのにはやはりしびれますし、それに対して「すまんが、みんなの命をくれ!」的に答える幸村の姿にもまたグッと来ます。こういうのを見て熱くなるのは、悔しいけど、僕は、男なんだな…という感じでしょうか。
 次回は巻中カラー44ページということで、あと連載は二回というところか。

「のざれ鴉」
 のざれ鴉の異名を持つ若き無敵の侠客を描いた読み切り短編。作者の佐藤修弘氏は、以前コアマガジンで新影の軍団のコミカライズを担当していた方ですが、あまり従来の時代劇画的でないシャープな線が印象的でした。内容は、まあ目新しいところはないのですが、こういう絵柄の作品をフッと載せてくるのが「ツインズ」誌のいいところだと思います。

「黒田三十六計」
 前回、山名豊国を自陣に迎えた官兵衛ですが、豊国は自分の誠を見せるために、つい先ほどまで自分が城主だった鳥取城攻めの先陣に加わることに…という悲壮感溢れるはずのお話しなのですが、不思議なユーモアが感じられるのは平田節というべきでしょうか。豊国についてきて、自分も馬上勇ましく奮闘する(というより豊国より明らかに強い)側室のビジュアルがいかにも平田女傑で感動しました。
 しかし今回一番印象的だったのは、織田軍と鳥取城の対峙シーンを描いた見開きページの微妙な(?)手抜きっぷり。背景を描くのが間に合わなくなってしまったのでしょうか、「二萬から六萬の軍勢を描くのは時間的に辛いので文字で省略ゴメンネ」と、あの筆文字で書いてしまうすっとぼけぶりには苦笑しましたが、その後の合戦シーンの見開き四連発は、もうほとんど絵物語状態。しかしこの見開きがまた実に迫力十分で、手抜きというよりむしろ超大ゴマで迫力を出すためにわざとやっているのでは!? と思わされるほど。対峙シーンの背景省略は、このためにインパクト配分を計算した前フリではとすら思ってしまいました。
 個人的には、何が嫌いといって、下書きのままだったり背景が真っ白だったりする原稿を出してくる作者(とそれを許す編集者)ほど嫌いなものはないのですが、今回はそんなこざかしい気持ちもどこかへフッ飛ばされました。今更ながら平田先生のパワーとテクニックにうっとりです。

「五右衛門 戦国忍法秘録」
 いきなり秀吉の元に潜入の五右衛門と服部半蔵、秀吉に肉薄しますが、何だか全般的に急ぎすぎの印象。実はネネは○○だったというネタは面白いですが、とにかく展開が急すぎて、単行本一巻ペースか!? と余計な不安が沸いてきました。しかし、天井に張り付いた秀吉のサルっぽすぎる動きは細かいギャグとして笑えますし、半蔵を人質に取られた五右衛門が巻物をくわえての「半蔵の命なんぞ屁とも思わねえ 早く殺さねえとこの巻物喰っちまうぞ!!」という石川イズム溢れすぎる啖呵は素敵でした。


 ダラダラ書いた割に今ひとつ締まらない文章ですが、今回はここまで。

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2006.10.19

指定型バトンに朝鮮…あいや挑戦

 hksk様から指定型バトンというものをいただきました。
 ネット上で一人虚空に向かって電波を発信するのが常の私ですが、たまには横のつながりというものを味わってみますか…さてお題は? と思えば、ゲェーッ『荒山徹』!?

ちなみに指定型バトンのルールは
◆廻してくれた人から貰った指定を『 』の中に入れて答える事。
◆また、廻す時、その人に指定する事。
です。

Q.最近思う『荒山徹』は?

 そろそろ誰かが止めないと色々な意味で惨劇が起こるのではないか。具体的には某剣術流派から刺客が送られるとか、ゴジラとヨンガリーが作中で激突するとか。

Q.この『荒山徹』には感動!

 真面目な方面では「魔岩伝説」のエピローグ。バカ方面では剣豪ネタの作品全部。あやまれ! 日本の剣豪にあやまれ!

Q.直感的『荒山徹』

 朝鮮・柳生・妖術・怪獣。特に見過ごされがちですが最後の要素はたぶん大きい

Q.好きな『荒山徹』は?

 分別ある大人であればとても書けないような妖術や怪獣を嬉々として繰り出してくる荒山徹。

Q.こんな『荒山徹』は嫌だ!!

 小説を書かなくなったと思ったらいつの間にか日本史の解説書とか書いてセンセーヅラし出す荒山徹。

Q.この世に『荒山徹』がなかったら?

 柳生新陰流の人と朝鮮妖術師の人たちは、世の好奇の視線にさらされることなくもっとひっそりと平和に暮らすことができたと思います。


Q.次に廻す人、5人。指定付きで!
神無月久音さん:指定『柳生』
吉梨さん:指定『山田風太郎』
mura-bowさん:指定『スパロボ』
ケイトさん:指定『妖怪』
gymnemaさん:指定『ホラー』

 みなさんすみませんねえ…(特にケイトさん)

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「天保異聞 妖奇士」 説二「山の神堕ちて」

 さて期待の「天保異聞 妖奇士」の第二話のちょっと遅れた紹介。果たして前回の引きからどのようなお話になるかと思いきや、早速…というべきか、會川昇らしい黒っぽい味わいの渋ーい展開となっておりました。
 その物の真の名の持つ性質を具象化する漢神の力で妖夷を退けた往壓ですが、その場を逃れてフラフラしていたところで川に転落(さすがダメ中年)、鳥居耀蔵に拾われて、蛮社改所に引き渡される始末。そこで妖夷に追われていた母子と再会したのもつかの間、神出鬼没の妖夷はそこにも出現。
 異界を見た少年・央太にかつての自分の姿を見た往壓は、今回だけという条件で蛮社改所の奇士として戦うこととなりますが、一連の事件の陰には思わぬ真相が…ということで、早くも一筋縄ではいかない一ひねりも二ひねりもあるストーリーで、大いに興味をそそられます。

 生贄として選ばれながら逃げた央太を追ってきたかに見えた山の神の妖夷。しかし、調べてみれば央太の村にはそんな山の神の伝承はなく、またそのような儀式をするほど不作で追いつめられてもいなかったという真実。そして、かつて同様に神に捧げられたという央太の姉はどうなったのか、姿を見せぬ央太の父は何処に行ったのか? 全てが結びついたときに浮かび上がるのは――異界よりも恐ろしい人の心の生んだ怪奇。
 はっきりとは描写されないものの、この時間帯でこんなネタをやるのか!? 的黒い黒いネタに戦慄しつつも、往壓の漢神の力が妖夷の正体を暴き、そして「文字通り」その文字が持つ力が、妖夷を討つという構成には唸らされました。
 もちろん、あまりはっきりと描ききらないことにより、人によってはわかりにくく感じる向きもあるでしょうし、私としても、終盤の少年の心の動きはちょっとわかりにくいなと感じますが、まずは時代伝奇ホラーとして及第点を遙かにクリアしていたと思います。

 何故鳥居耀蔵は往壓の存在を知っていて、彼を奇士として推薦するのか。往壓の目にしか映らないように描かれる遊び人・雲七の正体は、というシリーズを引っ張るような要素もありますし、何よりも他の奇士たちもその能力をフルに見せたわけではありません。
 第一話を見たときに感じた「地味さ」はやっぱり在りますが(が、久しぶりにバズーカをブッ放つ時代劇を見れて嬉しかったので私的には問題なし<どういう評価基準じゃ)、何はともあれ、私と同じく伝奇と怪奇を愛する方は是非一度見てご覧なさい、と強くお勧めします。

 なお、予告を見た限りでは、次回は注目のキャラ・江戸元閥の正体の一端が語られるようですが…「えどげん」と呼ばれているところを見ると、やっぱり江戸の闇の部分を司っているのでしょうか、會川昇だけに(懐かしいなあ「狼人同心」)。


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2006.10.18

「風流奉行」 名奉行、WとMの難題を裁く!?

 山岡荘八先生というと、やはり真っ先に頭に浮かぶのは「徳川家康」(柳生数奇としては「春の坂道」でしょうが)。サラリーマンの必読書と言われたこの作品の作者とあれば、当然生真面目なお人であって、その他の作品もきっと皆真面目な御本なのでしょう…と思ってしまうところですが、さにあらず。山岡先生は、洒落や笑いというものもよっくとご存知の方なんですよ、ということをしっかりと教えてくれるこの作品。実に約四十年間復刊されていなかった幻の作品が、ここに堂々復活です。

 さてこの「風流奉行」という題名、ここで指しているのは大岡越前守忠相その人。大岡越前と言えば、加藤剛のイメージが強いせいか、これまた謹厳実直で、大変にお堅い人物という印象ですが、本書のお奉行様は、人情に通じるのはもちろんのこと、男女の(本書の表現を借りれば「WとMの」)機微にも通じた、さばけたお方です。
 そんなお奉行のもとに持ち込まれるのは、いずれも不可解な怪事件である上に、WとMの悩みが複雑に絡んだ難物ばかり。「法」という、ある意味、そうした悩みと最も遠いところにあるものを駆使して、果たして如何にお裁きを下すのか、というのが本書の眼目であります。

 夏でもひんやりと冷たい肌を持つ美女を囲っているとあらぬ疑いをかけられた越前が真相を探る「添い寝籠」、邪念を持って近づけば女体に変じてしまうという美形役者との愛欲地獄にとらわれた青年僧を描いた「業平灯籠」、アレが大きすぎる医者がようやく見つけたパートナーとのかけおち資金を奪われた上に、パートナーまで消えてしまった謎を解く「かけおち奇薬」、家の中間と通じた武家の妾、自らを稲荷の眷族と称する彼女と越前がお白州で真っ向対決する「おいらん裁き」、質草がいつの間にか越前の名の質札がつけられた全裸の美女に変じていたという怪事件が、意外な方向にスケールアップしていく「美人そろばん」と、本書に収められた五つの作品は、いずれ劣らぬ怪事件。
 もっとも、どれも、事件の当事者たちにとっては全く持って深刻ながらも、端で見ていると、ごめんやっぱり笑っちゃう、といった態の妙な事件ばかりではあるのですが、しかし、それだけに単に謎を解くだけでなく、きっちりと人の心の中の問題にまでお裁きをつけねばなりません。

 そんなある意味所轄外の難事件まで、納得のお裁きをつけてしまうお奉行様のアクロバティックな手腕は、実に痛快であると同時にハートウォーミングなものがあって、読んでいて実に楽しい時間を過ごすことができました。
 そして――そんなお奉行様の、真面目ながらも情に通じた、スマートな大人ぶりを見ていると、何だか山岡先生ご自身とダブって見えてくるような気持ちになったことです。

 バカミス+艶笑譚といった趣向の本書、万人にお勧めできるとは必ずしも言えませんが(特に妙齢の女性とか)、しかし幻の作品として埋もれさせておくのはあまりにももったいない話。物語の舞台である享保期と同様、改革改革と騒がしいばかりで日々の暮らしが味気なくなりつつある今のような時代こそ、本書のような愛すべき作品が読まれていって欲しいものだと思います。

 そしてまた――書き下ろし新作ももちろん結構ですが――おそらくはまだ無数に眠っているであろう本書のような埋もれた名作群に、本書をきっかけとして、読者も出版社も目を向けてくれればと、心から願う次第であります。


「風流奉行」(山岡荘八 徳間文庫) Amazon bk1

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2006.10.17

「BRAVE10」連載開始 新生十勇士伝説始動!

 「コミックフラッパー」誌の11月号から、霜月かいり氏の戦国アクション漫画「BRAVE10」の連載が開始されました。「戦国」で「BRAVE」で「10」とくれば、そう、真田十勇士――というわけで、真田十勇士好きとしては当然見逃しにすることはできぬと読んでみましたが、これがなかなか先行きが楽しみな作品でありました。

 物語の発端は出雲から。謎の忍者群の襲撃を受け、炎に包まれる神社から神主の犠牲で逃げ延びた巫女・伊佐那海は、神主の真田幸村を頼れという言葉に従い、一人信州上田を目指します。その途中で出会ったのは伊賀にその人ありと知られた誇り高き天才忍者・霧隠才蔵(でも無職で行き倒れ)。伊佐那海への追っ手を蹴散らし、蕎麦をおごってもらった行き掛かりから彼女に同行することになった才蔵ですが、いざ上田城に近づいたところで立ちふさがったのは、真田忍群を指揮する甲賀忍者・猿飛佐助。
 腕前は才蔵と互角ながら、伊賀者を毛嫌いする佐助と才蔵は早速激突、さらにようやく対面した真田幸村は柄の悪い上にあっさりと伊佐那海への助力を拒否して、上田城を飛び出した二人ですが…もちろん幸村には彼なりの考えがあって――そして十勇士のうち、三人が集結! というところまでが第一回。

 読んでいて、あれ、才蔵・佐助はいいとして、あと一人は…と一瞬考えてしまいましたが「伊佐」那海なんですね。面白い!
(と、よく見ると、どちらかわからないけれど「六郎」(たぶん望月)もちょっと顔を出していましたが)

 作者の霜月氏は、つい先頃まで「戦国BASARA」のコミカライズを担当されていましたが、この作品の主人公の一人は真田幸村(佐助も登場)。そのすぐ後にまた幸村たちが登場する作品というのは――BASARAは原作つきで既にキャラ設定があったとはいえ――キャラの割り切り・切り替えが大変なのではないかな、と失礼な心配をしてしまいましたが、それは全くの杞憂。柄が悪くて喰わせものという、ちょっとひねくれたユニークな幸村像は、これからの十勇士たちへの主君ぶりが期待できそうです。
 絵柄的にアクションがちょっと見にくいかな? という気もしないでもないですが、一つ一つの動きのキメ方がなかなか格好良く(特に、才蔵が敵の忍びの鎖で動きを封じられてからの脱出シーンの格好良さは異常)、こちらも期待して良さそうです。

 真田十勇士ものの醍醐味といえば、十勇士が一人一人集結していく過程ですが、まず間違いなく一筋縄ではいかない連中であろう本作の十勇士が、どのように登場し、どのように「勇士」となっていくのか、これは楽しみです。
 ちなみに、扉絵をよく見ると、色々な意味でじっくりと見づらい場所に本作での十勇士のローマ字表記があったりして…(穴山小助も女性なのかな?)


 ここからは雑誌に関する蛇足。フラッパー誌、今までは特に買っていなかったのですが、今回はこの「BRAVE10」をじっくり読みたかったのと、先日時代小説オフ会でご一緒した環望先生の漫画も連載しているし(ダメなオタ特有の勝手な理由)と、11月号はちゃんと買ったのですが、よく考えてみるとかなり面白いですね。「二十面相の娘」や「キングゲイナー」も連載しているし、何と言っても「殿といっしょ」が連載されてるしな!
 この戦国四コマにも幸村が登場しているのですが、これがまた親父(昌幸)ともどもとんでもないキャラで…今回登場(?)した猿飛サスケの正体の人には、心から同情いたします。

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2006.10.16

「陰の絵図」 儚く浮かぶ幻の絵図

 大久保長安の遺金を巡る壮烈な争奪戦を描いたこの「陰の絵図」、スタイルはオールドファッションながらも、その味わいにはいささかも古びたところのない、時代伝奇活劇の佳品であります。

 大久保長安と言えば、猿楽師から身を起こして武田家、徳川家に仕え、金山銀山経営で異才を発揮し、莫大な富を幕府にもたらしながらも、その死後に謀反の疑いありとして、一族郎党撫で斬りにされたという人物。山田風太郎の「銀河忍法帖」や朝松健の「真田三妖伝」など、伝奇時代小説にもしばしば顔を見せています。
 本作の舞台となるのは、長安が没して後の時代。長安が遺したという、五百万両は下らないという莫大な財宝の在処の鍵が、長安がその子供たちに授けた青龍・朱雀・白虎・玄武の四本の太刀に隠されていたことが判明したことから、三つ巴、四つ巴の争奪戦が繰り広げられることになります。

 善悪入り乱れての秘宝争奪戦は伝奇小説の華というべきものですが、本作でこれに参加するメンバーはまさに多士済済。
 本作の主人公とも言える位置づけにあるのは、北条ゆかりの忍びの集団「風の党」(いわゆる風魔のことでしょう)。ただ一人難を逃れた長安の遺児を通じて太刀の存在を知った彼らは、その名を襲名したばかりの由比正雪や、紀伊大納言頼宣の庶子の陰守で銛の名手・源太らを仲間に加え、探索に乗り出すことになります。
 彼らに対するは、公儀隠密を操る幕閣たち。知恵伊豆こと松平伊豆守に、幕府隠密の元締めというべき中根正盛。更にこれに同じ新宮作品の「将軍要撃」で主人公を務めた石川丈山がブレーンとして加わり、これはもう幕府の裏の顔そのものと言うべき布陣で、相手にとって不足なしというところ。が、幕府側は決して一枚岩ではなく、中根正盛は、長安事件に連座して失脚した甥の服部小半蔵(三代目半蔵)と手を組み、伊豆守とはまた別の思惑で動き、石川丈山も漁夫の利を得るべく、虎視眈々と機会を狙います。

 そして、このような複雑な勢力分布を更にややこしくするのが、大久保長安に深い恨みを持つ超人的老忍者・ましらの仙蔵の存在です。かつて愛娘が長安に迫られて自害して以来長安に恨みを持ち、少しずつ罠を仕掛けて長安とその一族を地獄に引きずり込んだ(前述の長安謀反も彼が単独で仕掛けた陰謀との設定!)彼にとって、風の党に庇護された長安の遺児は、許すべからざる仇の一人。
かくてこの仙蔵もまた己の思惑を秘めて争奪戦に参加、風の党の最強の敵として立ちふさがることに相成ります。

 このような千両役者たちが入り乱れて、チャンバラ、秘術合戦、暗号解読の知恵比べに諜報戦を繰り広げる様は、これはもう古き良き伝奇時代小説の醍醐味と言うべきもので、それだけでも大いに楽しいのですが、終盤、物語は三代将軍家光の出生の秘密という意外な方向に展開。正雪がふとしたことから掴んだ家光の出生の秘密は、徳川幕府の正当性を揺らがせかねない大秘事。この秘密と長安の遺金が結びつけば、家光政権を覆すことも難しくはない…と、秘宝争奪戦が、遂には天下争奪戦にもなりかねぬ雲行きとなっていくのでした。

 そして、幾多の犠牲を払った末に、遂に発見されたのは、財宝の在処を示した隠れたる絵図、すなわち「陰の絵図」。その陰の絵図によって長安遺金を手にした者が誰で、そしてそれがどのように使われたのか、それは勿論ここでは伏せますが、しかしその結末で浮かび上がってくるのは、もう一つの「陰の絵図」――すなわち蜃気楼の如き儚く脆い権力の在りよう。
 財宝を巡る幕府内部の暗闘も、家光の出生の秘密も、全ては権力というものを巡るものであり――そしてその果てに得られた権力も、すぐ次の者の下へと移ろっていく儚い幻のようなもの。
 もともと新宮正春氏の作品は、権力というものへのクールな眼差しが一つの特徴となっておりますが、本作においても、この二重の意味を持つタイトルの中に、それは明確に込められていると言えるでしょう。

 …と、ついつい内容を書きすぎてしまったかと些か冷や汗ものですが、しかしこれしきで底が見えてしまうほど浅い作品では、本作はもちろんありません。文庫で上下巻と、決して少なくない分量もあっという間に読み終えること請け合いの本作、今は亡き時代小説の名手の快作を少しでも多くの方に楽しんでいただけたらと考える次第です。


「陰の絵図」全2巻(新宮正春 集英社文庫) 上巻 Amazon bk1/下巻 Amazon bk1

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2006.10.15

11月の伝奇時代劇アイテム発売スケジュール

 何だか毎月思っているのですが、次のの新刊情報等が出てくると、時間の経つのは早いなあとしみじみ思います。ということで11月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュールを更新しました。
 さて…11月はちょっと驚くほどアイテムが少ない月。9月も少なかったですが、それを上回る少なさに思えます。特に小説が本当に少なく…ちょっと驚きです(いえ、時代小説の冊数自体は多いのですが、その中で伝奇・ホラーに当てはまりそうなのが少ないということで)。ほとんど唯一のアイテムである「蘭剣 からくり烈風」は、お勧めではありますが、ノベルスの文庫化なので新作というわけではないのが残念。
 漫画の方は既存のシリーズの続刊がほとんどですが、その中で「泣く侍」の第1巻が遂に発売。独特の味わいと迫力を持った作品で、個人的にお勧めです。
 ゲームではPS3が発売ということで、「GENJI」「GENJI」の続編「GENJI -神威奏乱-」「GENJI -神威奏乱-」が同時発売ですが、色々と大変なよう色々と大変なようなので人柱の方の報告を待ちたいと思います(まあ私は当分PS3自体買いませんが…)

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2006.10.14

「剣聖 乱世に生きた五人の兵法者」 達人が描く達人の姿

 新潮文庫から発売されたオリジナルアンソロジーである本書は、副題にあるとおり戦国乱世の時代に剣の道を生きた五人の剣士を描いた五つの作品が収録されています。

 収録された作品は以下の通り――

池波正太郎「上泉伊勢守」(上泉伊勢守)
津本陽  「一つの太刀」(塚原卜伝)
直木三十五「宮本武蔵」(宮本武蔵)
五味康祐 「真説 佐々木小次郎」(佐々木小次郎)
綱淵謙錠 「刀」(柳生石舟斎)

 ドキュメントタッチあり、伝奇風味ありと、バラエティに富んだ作品群ですが、いずれの作品も、時代小説の達人が、後世に名を残す剣の達人の姿をそれぞれの手法で描き出しており、なるほど、あのエピソードもこの作家にかかればこう描かれるのか、と実に興味深いものがあります。

 個人的に本書の中で一番印象に残ったのは、五味康祐先生の「真説 佐々木小次郎」。大きく分けて二部構成となっている本作、前半は小次郎の師の富田勢源と梅津六兵衛との対決を中心に小次郎の富田流修業時代を描き、後半は一人立ちした柳生義仙(列堂ではなく石舟斎の二男・源二郎)との対決が描かれ、その間に小次郎晩年の物語――すなわち巌流島の決闘にまつわる挿話が語られます。
 吉川英治の「宮本武蔵」での驕慢な美剣士としての小次郎とは大きく異なり、純朴過ぎるほど純朴な精神でもって剣の修行に励む者として描かれている本作の小次郎ですが、その心があった故に、師・勢源の忠実な弟子として物干し竿の如き長刀を振るうようになったという解釈が実に面白い。
 そして、クライマックスの柳生義仙との真剣勝負において、その事実の背後にあった、非情な真実に辿り着きつつも、その更に先にあるものを知った小次郎の慟哭が、不思議な感動を伴って胸に響いたことです。

 本書、個人的には全体の半分を池波正太郎の作品が占めるどうかなと思わないでもありませんが、戦国の将として死闘を繰り広げつつ無刀の剣理を追った上泉伊勢守から始まり、その弟子として活人剣を極め、そして戦国を終わらせた男にその技を伝えた柳生石舟斎で終わるというのは、なかなか美しい構成ではないでしょうか。

 なお、本書の解説は、末國善己氏。代表的な剣豪と流派を俯瞰した上で、本書の各収録作品について述べており、なかなかにわかりやすい解説であったかと思います。


「剣聖 乱世に生きた五人の兵法者」(池波正太郎ほか 新潮文庫) Amazon

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2006.10.13

「陰陽師鬼一法眼 切千役之巻」 鬼一法眼、真の力を顕す?

 久々紹介、藤木稟の「陰陽師鬼一法眼」シリーズの第四巻。文庫化を待っていたけれどもなかなか出ないので遂にノベルズに手を出してしまいました。この巻では、頼朝亡き後の鎌倉で野心家・陰謀家・妖怪・天狗入り乱れての混乱がいよいよ深まっていくことになりますが、さて、その中で鬼一法眼はどう動くか? というところです。

 物語は、源頼朝の突然の死から始まります。しかし彼の周囲の者たちはそれを悼むどころかこれを奇貨として勢力伸長に励む始末。まさに鎌倉を呪う後白河帝と牛若の怨霊の思うつぼ、というところですが、ここで重い腰を上げたのが法眼。これ以上事態をややこしくされてはかなわんと、冥界に下り、閻魔大王を出し抜いて頼朝の魂が地獄に行くのを阻みます。
 面白くないのは後白河帝、邪魔な法眼の動きを封じるため、一度抜けば千人の首を落とす魔刀・切千役を彼が持つとの噂を流し、侍たちと法眼と争わせることを画策。さらに、配下の性魔(女天狗)・大鏡を送り込み、妖虫に憑かれて暴走する二代将軍頼家の乱行を加速させます。

 が、それ以上に複雑怪奇なのは、鎌倉で蠢く人間たちの権謀術数の有様。権力の座が空白となった今、その跡を継ぐのは我らと暗躍を開始したのは、北条政子とその弟・義時。鎌倉を北条家の掌中に収めるべく、息子や父と決別してまでも修羅の道を行く彼らをはじめとする幕府の人々が実に生き生きとした様子で(?)、陰謀を巡らせていて、むしろ爽快感すら感じさせてくれます。
 もちろん、本作においては、怨霊や天狗たちの悪意が彼らの運命を狂わせていくのではありますが、人物描写を見ていると、「この人たち天狗に操られなくてもいずれ同じようなことやったよなあ…」的な、不思議な説得力があり、何よりもこれが本作の最大の魅力なのではないかと常々思っています(もっとも、頼家だけは悪い意味で漫画チックで陳腐なキャラなのが残念…狙って書いているのだとは思いますが)。

 さて、そんな中で一人我が道を往くのが鬼一法眼。冷静に考えると初めて彼の身に危機が迫ったような気もしますが、それもあっさりと切り抜け、後はちょこちょこと活躍するくらいで、相変わらず基本的に傍観者(上記の頼朝の魂救出の下りは実にユニークでしたが)に徹しています。
 周りでは大事件が起きている時だけに、周囲の状況や人物に食われかねないところではありますが、しかし、それでは終わらないのが本作の面白さ。切千役の正体から語られていく、鬼一法眼の鬼一法眼たる所以は、実に斬新かつ納得のいくもので、まさに本作ならではの法眼像として、感心させていただきました。

 さて、頼朝亡き後の鎌倉の混乱の模様は、それこそ日本史の授業で必ず習うメジャーな内容でありますが、その中で「正体」を現した法眼と彼の力がいかなる役割を果たすのか。最後まで見守りたいと思います。

 以下蛇足。本シリーズ、この巻からナンバリングが無くなっております。これはたぶん営業上の理由によるのではないかと思いますが、却って混乱するように思うのですが…(連作長編ならば知らず、完全に続きものなので)
 あと、ウザい猿の出番があんまりなくて本当によかったです。

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2006.10.12

「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第十一話 「柳生連夜」

 鬼門衆の軍艦に乗せられたしぐれを追い軍艦を取り巻くヒルコの船群。が、軍艦からの攻撃で船群はあっけなく全滅してしまう。一方、獣兵衛らは異国船に便乗して彼女を追うが、その前に裏柳生の柳生連夜らが現れ、宝玉の引き渡しを迫る。その時、船に潜り込んでいた少女が宝玉を奪って逃走。裏柳生の剣士たちが追うが、怪老婆・傀儡により次々と殺されていく。神出鬼没の傀儡に苦戦する一行だが、遂に連夜が傀儡を両断。傀儡の後頭部には少女の顔があった。が、一命を取り留めた少女は、なおも争う獣兵衛と連夜の間に割って入り、連夜の一刀に貫かれてしまう。争いは止んだものの、重い空気で一行は九州に上陸するのだった。

 残るはラスト三回、ここで第四勢力たる裏柳生が本格参戦。裏柳生を束ねる柳生連夜が登場します。痩身に隻眼、剣の腕は獣兵衛と互角で、任務においては冷徹(ラストで少女を斬ってしまって後悔の表情を見せているので非情というわけではないのでしょうが)という、絵に描いたようなライバルキャラです。
 基本的にえらい無愛想なので今ひとつキャラクターが掴みにくい点はありますが、ようやく普通の剣士が出てきた…! という妙な感動があります。
 この連夜の名前自体は、間違いなく実在の剣豪・柳生連也斎から取っているのでしょうが、隻眼の柳生と言えばやはり連想されるのは柳生十兵衛。そして主人公である牙神獣兵衛も「じゅうべえ」の名を持つ者(…というのはいささか強引のようにも思えますが、獣兵衛のキャラクター造形には、我々が柳生十兵衛に持つ内の、陽のイメージが投影されているように思えます)であって、これはある意味(陰と陽の)十兵衛同士の対決と言えるのではないかと思います。

 そして今回のゲスト忍者・傀儡は、老婆の後頭部に少女の顔がついているという、小技ながらなかなかビジュアル的にインパクトのある怪人。上のあらすじには書きませんでしたが、途中で獣兵衛が傀儡の「右腕」に斬りつけ、その後に現れた少女が「左腕」に怪我をしていたため獣兵衛が手当てするというシーンがありました。そしてクライマックスで傀儡を追いつめた獣兵衛が、その「右腕」に手当の後を見て驚く、という展開となっており、それが傀儡の正体につながってくることになります。
 唐突に出てきた少女がどうみても姿なき敵の正体というのは視聴者なら誰でも考えるところですが、そこに一ひねり加えてきたのは面白いと思います(どうも老婆と少女で別々の意志を持っているようで、それがラストの展開につながってくるわけですが)。まあ、完全に一発屋な能力ではありますが…

 また、鬼門の軍艦に真っ正面から近づいていくヒルコ船団の無策っぷりには驚かされましたが(案の定、砲撃をくらいまくってあっという間に全滅)、これはまあ、相手を油断させるための策、ってことだったんでしょう。


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 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第五話 「金剛童子」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第六話 「雨宿り」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第七話 「蕾」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第八話 「煉獄昇天」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第九話 「はらわたに龍」
 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第十話 「ヒルコの真心」

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2006.10.11

「浪漫's 見参!桜子姫」 美しきトラブルメーカー見参

 播州三日月藩の姫君ながら新陰流の達人、もちろん見目麗しき絶世の美女――でありながら今は何故か江戸で長屋住まいの桜子姫と、その背の君(という名で巻き添えを食わされる被害者)の無頼浪人・住之江廉十郎の活躍(?)を描く、藤水名子先生の時代活劇。
 つい最近になって「Destiny 桜子姫悲恋剣」というタイトルで続編が登場しましたが、これがシリーズ第一作であります。

 とある晩、刺客の群に襲われていた桜子と乳母の楓を救ってしまった廉十郎。風光明媚流なる剣の達人であり、しかも陰のある美形の廉十郎こそ運命の人と確信した桜子は、彼の長屋に押し掛けます。設定的には柴錬チックな無頼浪人の廉十郎、ここで姫に無体を働いた挙げ句冷たく放り出せば如何にもそれっぽいですが、そうはできないのは桜子の持って生まれた品格…というよりその天真爛漫というかド天然なキャラクターに恐れをなしたため。
 しかも桜子の家である三日月藩は御家騒動の真っ最中、悪家老の奸計に立ち向かうために家を出奔してきたと言われたら、それが事実であろうがそうでなかろうが、これはまあ確かに、引いてしまっても仕方のない話、かもしれません。

 そんな廉十郎の心中などおかまいなしに天下の大道を往く桜子ですが、彼女に振り回されるのは廉十郎だけではありません。彼女を監視するうちに密かに慕うようになってしまった御庭番・左平次、表の顔は女手妻師・裏の顔は女義賊のお多香、三日月藩出入りの豪商ながらフクザツな過去を持つ高麗屋嘉兵衛、直参旗本のバカ息子・時宗弥五郎左右衛門などなど、どこかで見たような、それでいて一風変わった面々が、桜子を中心に大騒動を繰り広げるというのが基本的なストーリーラインです。

 正直なところ、雑誌掲載の連作短編というスタイル故か、はたまた古き良き時代劇のパロディ的味つけが枷となったか、各キャラクター・各エピソードについては、もう少し掘り下げて欲しかった…というところがなきにしもあらずですが、明るく楽しい(それでいてかなりシビアな部分もあるのですが)娯楽時代小説としては、まず申し分ない内容でしょう。
 個人的に印象に残ったのは高麗屋嘉兵衛のキャラクター。実は盗賊団の引き込み役でありながら、店に潜入している間に仲間が全てお縄になり、半ばヤケで店に勤めているうちにいつの間にか大商家の主となってしまった、という設定なのですが、商人として成功した今となっても、己の前身を振り返りつつ、自分の人生はなんであったかと時に虚しい思いを抱く――そして同時に今の生き方を今更変えることはできないと理解している――という陰影に富んだ人物造形で、他のキャラクターが桜子に振り回されて目を回しているのに対し、むしろ振り回されるのを楽しみにしているように描かれているのがユニークかつ味わいのある人物でありました。

 なお、本作はとりあえず物語的には一段落ついてはいるのですが、冒頭にあるとおり、最近になってヴィレッジブックスedgeというレーベル(このレーベル、ライトノベルなのかそれよりもう少し上を狙っているのか難しいところなのですが、いずれにせよ「小説すばる」連載からハードカバー化というよりはこのシリーズのムードに合っているように個人的には思います)から続編が登場しておりますので、そちらも近々紹介したいと思います。


 にしても暮林蘇芳さん、以前は謹厳実直な忠臣ホ○君だったのに、殿の側室を誑し込んでお家簒奪を狙うとは、一体彼に何があったのか…<同名の別人です


「浪漫's 見参!桜子姫」(藤水名子 集英社) Amazon bk1

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2006.10.10

「天保異聞 妖奇士」 説一「妖夷、来たる」

 いよいよ始まりました新番組「天保異聞 妖奇士」。遅ればせながら第一話を視聴しましたが、うん、これは実に面白い(個人的には、という但し書きがつきますが…)。さすがに第一話だけあってスタッフも豪華、會川昇の脚本の仕上がりもよく、新番組の導入部としてかなりよくできていたのではないかと思います。

 虚実双方の時代背景設定、主人公の経歴と性格、そして蛮社改所の奇士たちの顔見せというシリーズ全体を通しての説明部分と、陸奥の山中からやってきた親子と、それを追う妖夷・山子の出現という、おそらくはここ数回のエピソードの導入部分という、長短両方のイベントをバランスよく並べてあったという印象で、第二の妖夷・列甲の出現というサプライズな引きもあり、連続ものの第一話として十分以上に楽しめました。冒頭の密議のシーンなどをはじめとして、しっかりと時代ものしている部分もあり、好きな人・わかる人は「うむ」と頷けるのではないかなあと思います。
(もっとも、浮民の設定については、まあいかにもTBSのこの時間帯だな、という印象で苦笑しましたが、まあ主人公が「そういうことにしておこう」と言っているんだからとりあえず納得しておきましょう)

 声優陣も、主人公・竜導往壓役の藤原啓治をはじめとして、小山力也、若本規夫、三木眞一郎と実力派の面子が顔を見せており、こちらの方面では心配はなさそうだな、という印象。面白いところでは、三木眞一郎が女装の美形キャラ・江戸元閥を演じており、今回は顔見せ程度ながら、活躍が楽しみなキャラクターであります。

 ちなみに、個人的な本作の印象を一言で表せば――こういう表現はあまり良くないのでしょうが――近藤ゆたか氏の名作コミック「大江戸超神秘帖 剛神」を、思い出しました。短絡的な発想で恐縮なのですが、あの作品を、もう少しファンタジー方面に転がしたらこういう感じになるのかな、という印象があります。

 それはさておき、第一話を見た時点では、この先の展開が楽しみな本作。個人的にはこれくらいの質をキープしてくれれば(絵については贅沢言いません)もうバンバン応援していきたいとこではあるのですが、怖いのは、時代ものファンとアニメファンの間で宙ぶらりんになってしまう――あの名作「獣兵衛忍風帖」のように――こと。これはもう個人で心配しても仕方のない話ですし、放送局の売り込み方如何でありますが、その点ではかなり力を入れてくると思われますので今のところは杞憂なのでしょう(公式サイトの用語解説もわかりやすいのでお奨め)。
 …いきなりおっさんばかりの男湯シーン満載なのを見ると不安にならないでもないですが。

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2006.10.09

「絵巻水滸伝」第3巻 彷徨える求道者・武松が往く

 「絵巻水滸伝」の第三巻が発売されました。この巻では、全体の三分の一程度が後の梁山泊首領・宋江がお尋ね者になるくだり、そして続く部分が、水滸伝でも特に人気の高い豪傑・行者武松を主役としたいわゆる武十回のエピソード、という構成になっています。

 実は、百八人の好漢の中でも、武松は個人的に好きなキャラクターの一人。泥酔した猛虎と死闘を繰り広げる愛すべき豪傑らしさ、最愛の兄を殺害され計画的に復讐を遂げる冷静さ、そして鴛鴦楼で老若男女区別なしに鏖殺してのける暴走ぶり…同一人とは思えないほど多面的なキャラクターであるのは、これは複数の説話の集合体である水滸伝ならではですが、それは置いておいても、色々な意味で非常に人間くさい言動は、実に魅力的です。

 さて、本書における武松は、その他面性を――元々の魅力を失わない程度に――巧みに丸めつつ、己の中に、形容しがたい「荒ぶるもの」を持ち、それがゆえに苦しみ、悩み、流浪する男として、一本筋を通して描いているのが目を引きます。
 心にやり場のない強く激しい渇望を抱えつつも、宋江というとてつもなく懐の広い――というよりむしろ果てしなく茫洋とした――存在と出会うことにより、一度はその荒ぶる心を抑えた武松。しかし虎殺しの英雄として名を挙げた彼が、嫂である潘金蓮と出会ってしまったことから、彼の、そしてその周囲の運命が少しずつ狂っていくことになります。

 潘金蓮といえば、原典及び「金瓶梅」において希代の悪女として描かれておりますが、本書においては基本的な設定は変えず、一風変わった角度からのアプローチがなされています。
 幼い頃に纏足され、長じて後は富豪の小間使いとなるも主人に迫られ、それをはねのけたことで醜男の武大の嫁にさせられた彼女は、いわば男たちの一方的な愛情・欲望に翻弄される存在。そんな運命の中で駕籠の中の鳥の如く空しい日々を送っていた彼女にとって、武松は己を解放してくれる可能性をもった唯一の男であったといえるでしょう。
 潘金蓮の空虚な心を解放してくれるかもしれなかった武松ですが、同時に潘金蓮は武松の心の荒ぶるものを鎮めてくれるかもしれなかった女性であり――しかし、「好漢」たる武松が彼女の心に応えられようはずもなく、そのすれ違いが後に大きな悲劇を呼ぶこととなります。
(このあたり、北方謙三の「水滸伝」とどこが同じでどこが異なるのか、比べてみるとなかなか面白いものがあります)

 そして、自分にとってファム・ファタールというべき潘金蓮をその手にかけてしまったことにより、更に抱くものを大きくしてしまった武松の心が遂に弾け飛んだのが、鴛鴦楼の大虐殺なのでしょう。
 そのような武松の行動は、もちろん「水滸伝」という物語世界ならではの極端なものではありますが、しかし、その根幹にあるのは、自分は何者なのか、自分は何を為すために生まれてきたのか…という、誰もが一度ならず抱く根元的疑問であります。
 それゆえに、本書における彼の存在は、原典とはまた異なった形ではありますが、非常に人間的で共感できるものであり、そしてまた魅力的に感じられるのです。

 原典のシチュエーションをほぼ忠実に活かしつつも、そこに巧みなプラスアルファを加えていくことにより、現代日本の読者が読んでも違和感なく受け入れられるようにキャラクターたちを描いていくのが、この「絵巻水滸伝」のスタイルであり魅力の一つですが、それが最もよく働いたのが、本書の武松にまつわるエピソードであることは間違いないでしょう。

 なお、「絵巻水滸伝」のもう一つの魅力である正子公也氏による挿し絵ですが、もちろん本書でもそれは健在。特に、沈む夕日を背に、打ち倒した猛虎を頭上に掲げて凱歌をあげるシーンの勇壮さは、強く心に残りました(基本的に本書の表紙のバリエーションではあるのですが、背景等を変えるだけでこれほど印象が変わるものかと大いに感心いたしました)。


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「高麗秘帖 朝鮮出兵異聞」(再録)

 時は慶長二年、かつて亀船により日本の水軍を打ち破った英雄・李舜臣は、政争に巻き込まれて囚われの身となっていた。再び朝鮮に侵攻するにあたり、舜臣の再起を恐れる藤堂高虎らは、彼を暗殺すべく異能の戦士たちを放つ。これに対し、朝鮮との講和を望む小西行長は、この計画を阻止すべく、同じく配下を派遣するのだった。舜臣の、そして壊滅寸前の朝鮮水軍の運命は如何に。

 重厚な伝奇エンターテイメントの大傑作。李舜臣を狙う者と守る者、二手に分かれた山風チックな日本の忍者同士の死闘がメインですが、李舜臣を中心として、日本と朝鮮それぞれの登場人物たちの信念、生き様が様々に現れ、消えていく様は、ドラマとして超一流と言って差し支えないと思われます。

 それにしても秀吉の朝鮮侵略と言えば、ある意味、日韓併合以上に――特にエンターテイメントとしては――難しい題材だと思いますが、日本と朝鮮(そして明)の登場人物それぞれの美しい部分も醜い部分も、讃えるべき部分も蔑むべき部分も、分け隔てすることなくしっかりと描き出すことにより(小西行長は格好良すぎる気もしますが)、歴史ものとしてもエンターテイメントとしても、レベルの高いところで成立しているのがこの作品の素晴らしいところ。波瀾万丈な時代伝奇小説を展開しながら、理不尽な力(それが物理的なものであれ目に見えない歴史の流れというものであれ)に対して自らの信念を貫き通そうとする姿勢に、国というもの…そして性別というものは関係ないという、当たり前でありながらなかなか気付かない真実をしっかりと描き出す様には、非常に好感が持てますし、決して完全なハッピーエンドとは言い難い結末であっても爽やかさを感じさせるのは、こういった点によるのでしょう。

 ちなみに私は文禄・慶長の役の戦史の詳細についてはほとんど知らなかったのですが――開き直るわけではないですが――クライマックスの大決戦については、むしろ知らなくてよかったとすら思ってしまいました。結末のわからない戦いほど手に汗握るものはないですから…

 そしても一つ。最後の一行を読んだら、この作者の次の作品も読みたくてたまらなくなりました。というか必ず読まねば!


「高麗秘帖 朝鮮出兵異聞」(荒山徹 祥伝社文庫) Amazon bk1

 …この頃の荒山先生はまだマトモだったんだなあ

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2006.10.08

今週の「Y十M 柳生忍法帖」と単行本第五巻

 月曜日がお休みにつき土曜日に見参した今週の「Y十M 柳生忍法帖」。般若面一つに翻弄される七本槍ですが、そのうちの一人・漆戸虹七郎が街道を馬で行くうちに目に留めた怪しの雲水たちでしたが――何といきなり立ち小便を開始。

 なるほど、これならば雲水たち(の一部)が男であることは間違いなし、まさか男以外が混じっているかどうか近寄って確かめようとも思わないわけで(この辺り、比較的良識派の虹七郎が相手で助かった面はあるかもしれませんが)、これは奇策ながら見事に作戦勝ち。説明されなくても、この作戦を立てたのは十兵衛先生なんだろうなあ、と一発でわかってしまうのが愉快です。
 そして一見暢気にこの先のことを語り合う十兵衛と沢庵七人坊主のうち三人。しかしこの会話のうち、一方の言葉は嘘となり、一方の言葉は真実となってしまうのですが…

 一方、地道な嫌がらせにまんまとはまった明成は神経衰弱状態に。大変なのはバカ殿に振り回される七本槍ですが(三人減って四本槍だからそれだけ手も足りなくなってますしね)、ここでロクでもないことを思いついたは銀四郎。ここで女を差し出すにしくはなしと、外道が目を付けたのは本陣の娘で額の黒子が印象的なおとねさんですが――というところで以下次号。ああ、かわいそうに…


 さて、これとほぼ時を同じくして、単行本最新第五巻が発売されました。収録されているのは第三十一話「水の墓場(三)」から第四十話「北帰行」まで。けっこう仮面の大どんでん返しから、連載つい二回前までの七人坊主(のうち四人)の初登場まで。
 この間のエピソード、冷静に考えると十兵衛先生がほとんど活躍していないのですが、それでも十分に、いやそれを読んでいる間気付かせないのは、それだけ物語が盛り上がると共に、十兵衛以外のキャラがどんどん立ってきたということなのでしょう。
 それにしても――何度読んでも、二対一で勝ち誇る→エロ妄想→いきなり斜め上方から串刺し の丈之進(自分が)即死コンボは笑えます。

 ちなみに毎回異なる表紙のほりにょは、今回はさくらさん。個人的には、銀四郎と因縁が用意されていそうなキャラなので、ちょっと早いかな…と思いますが、「裸身」「裸身」とオビでも背表紙でも連呼されてしまったほどの大活躍を見せたことですし、これはこれで妥当なのかもしれません(と、こんな感じでいかがでしょうかケイトさま)。
 個人的にこの巻で一番活躍した女性は千姫様ではないかと思いますが…いやもうほんとうに。


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「乱舞 花の小十郎京はぐれ」(再録)

 大御所秀忠の囲碁指南となった小十郎。御前試合で柳生十兵衛を破るなど絶好調の彼だが、土井利勝はそんな彼に京を探るという密命を授ける。紫衣を巡って幕府と禁裏が火花を散らしており、禁裏の動きや、幕府に喧嘩状を叩きつけてきた沢庵の真意を探らせようというのだ。主家である佐竹家の側室を送る旅にかこつけて京に上った小十郎は、かぶき者の技と意地でもって、事態の真相を探るのだが、そこにはこの国のあり方を巡る、驚くべき企みが進められていたのだった。

 花の小十郎シリーズ第三弾ですが、物語の展開自体は一作目に近く、マクロな政事のありようを、一個人である小十郎が痛快に引っかき回し、ひっくり返していくというスタイルとなっています。
 しかし将軍相手にも一歩も引かないような男にふさわしい相手は…と思っていたら、今回登場するのは京の都の魑魅魍魎。なるほど、さしものかぶき者としても数百年の近い歴史を持つ京の都はなかなかの大敵、さらに一代の快僧沢庵とも対峙するに至っては、相手にとって不足なしと言えるでしょう。
 クライマックスに小十郎が仕掛ける相手とその方法、そしてそれが生み出した歴史的帰結については、スケールが大きいというのも愚かで十分堪能すると同時に、小十郎にも負けない本当のホラ吹きは、この作者なのではと思わされました。

 また、個人的には、本作のもう一人の主人公とも言うべき沢庵のキャラクター像と、その壮大かつ悲壮な覚悟から生み出された企みに感心させられました。むしろ小十郎との対峙では沢庵の方に感情移入してしまったほどです。
 まだまだ不勉強なので滅多なことは言えませんが、紫衣事件について、こういう切り込み方をした作品というのも少ないのではないでしょうか。


「乱舞 花の小十郎京はぐれ」(花家圭太郎 集英社文庫) Amazon bk1

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 「暴れ影法師 花の小十郎見参」(再録)

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2006.10.07

「荒舞 花の小十郎始末」(再録)

 土井大炊頭に招かれて江戸に帰ってきた小十郎。だが江戸は辻斬りや凶暴な押し込みの横行により、騒然としていた。小十郎も着いた晩に辻斬りに出くわし、犯人かと思われた相手に刃を向けてみればそれが夜歩き中の将軍家光。事件に巻き込まれた形となった小十郎は、真犯人を捕らえるべく、牢人に身をやつして探索に乗り出す。姿無き謎の忍びとの対決、宮本武蔵との決闘を経て真相を突き止めた小十郎だが…

 希に見る痛快な作品だった「暴れ影法師」の続編。今回もかぶき者・小十郎の暴れっぷりは健在で、いきなり(知らぬこととはいえ)家光と柳生十兵衛に喧嘩を売ったり、宮本武蔵と十数時間にもおよぶ決闘を演じたりと相変わらずの豪快さです。
 横行する辻斬り・押し込み事件の黒幕の正体もなかなかに「伝奇」的で言うことなし――としたいところなのですが、正直いささか不満…というよりとまどいがあったのが事実です。

 というのも、前作の基本ストーリーは、幕府のお取りつぶしの矛先を如何に他の藩にそらしていくかという、むしろ企業小説的なものであったのに対して、今作のストーリー・趣向はあまりにも「時代小説的」。
 確かに、自分の藩を救うために他の藩を蹴落とすという相当に生臭いストーリーに比べれば、今作のような(巻き込まれたとはいえ)世のため人のため小十郎が活躍する方が読んでいて気分もいいし、面白いことは面白いのですが、何となく普通の時代小説になってしまったなあ、という印象も個人的には拭えないのです。

 もちろん、まだまだシリーズ第二作。第一作のイメージをいたずらに引きずるのは厳に慎むべきですし、ここはバラエティに富んだシリーズ展開を楽しむべきなのでしょう。むしろ、ストーリーの構造、物語の趣向に引きずられることなく、どんな世界にあっても小十郎は小十郎というべきキャラ立ちの見事さを素直に讃えるべきかもしれません。いずれにせよ、次の作品を読むのが楽しみです。


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「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」

 昨日からGyaoにて放送が始まりました幕末伝奇時代劇アニメ。監督は高橋良輔、殺陣・時代考証は牧秀彦と聞いた時点で、これは見るしかない! と思っていた私、早速第一話を視聴しましたが、期待通りかなり面白い作品となっておりました。

 導入部たる第一話ということか、正直なところ、語られるのは最小限の舞台背景のみ、登場する人物の背景事情や、固有名詞等の解説はほとんどないのですが(もっとも、これはGyaoの特集ページ公式サイトを見れば済む話であり、Gyaoの番組を見れる環境であれば当然こちらも見れるはずなので問題はないでしょう)単純に、目の前で展開される物語を見ているだけで十分にスリリングであって――むしろ情報が足りないことがかえって謎めいた世界観と人物模様を想像させ、胸躍らせてくれます。

 さじ加減を間違えると、現実から離れすぎるか、はたまた渋すぎて若い衆に受けなくなってしまうこの手の作品ですが、本作ではリアルな絵柄と史実の事物人物の投入で地に足の着いた世界を描きつつも、時代劇の基本を押さえつつもアニメとしてのキャラ立てのはっきりしたキャラクターデザインなどに見られるように(主人公が普通に格好良くていいんですわ、また)、実に良い具合にケレン味を利かせていて非常に好感が持てます。

 なお――個人的に注目していたチャンバラシーンですが、これが(時間こそ長くないものの)やはり期待通りの出来。冒頭の、謎の美青年・茨木蒼鉄と益満休之助&山岡鉄舟(すごいコンビですがこれ史実通りなんですな)の対決シーンでは、鉄舟の斬撃(この時の鉄舟の気合いの発声がまた良し)を、蒼鉄が己が刀身に滑らせて躱しつつ反撃するという、今日日普通の時代劇でもなかなかお目にかかれないような美しい殺陣を見せてもらえて満足です。

 霊刀を持つ孤独な剣士、復讐劇を企む芝居一座、悪相の邪剣士に横浜の裏社会を牛耳る豪商、そしてもちろん綺羅星の如き維新の傑物たち…この先の物語がどうなるのか、まだまだ全くわかりませんが、こんな魅力的なキャラクターたちが織りなすこの先の展開が楽しみでならないことだけは間違いありません。
 第一話の放映は十月二十日の正午まで。無料なんだし(笑)これァ見ないと損…だと思います。

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2006.10.06

「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第十話 「ヒルコの真心」

 ヒルコの里から出奔した巨漢・魯怪は、山中で鬼門の下忍に襲われていたしぐれと獣兵衛と出くわし、しぐれを抱えて遁走してしまう。しぐれを無邪気に崇拝する魯怪だが、腹が減ると腐った物でも平気で食べる彼にしぐれは嫌悪感を抱き、彼から離れる。が、そこに現れた鬼門衆頭領・闇泥に彼女は攫われてしまう。一方、しぐれの後を追う獣兵衛は鬼門衆・飛猿を撃退するが、宝玉を渡せと現れた闇泥の光る黴の前に傷を負ってしまう。が、そこに現れた魯怪が獣兵衛を逃がして闇泥に斃され、獣兵衛たちはしぐれの後を追うのだった。

 ようやく鬼門衆の頭領と獣兵衛が対面、初対決するも獣兵衛は敗れ、しぐれが奪われてしまうという大きな展開がある回ですが、むしろ印象に残るのは魯怪のいい意味でのウザさ。髪を縦ロールにした超肥満漢で、常に何か食べてないと気が済まないというだけで相当なものですが、声を当てているのが何と林家こぶ平! これはもう存在のほとんど全要素がウザいというある意味希有なキャラなのですが…
 実のところ、なかなかいいキャラなのです、この魯怪。実に無邪気に光りの御子であるしぐれに憧れ、彼女に懐く様は微笑ましく、一心に彼女の気を惹こうと頑張る様は、ウザいながらもタイトル通り「真心」に溢れていて、これまでも少しずつ描かれていた、ヒルコ一族のしぐれに対するスタンスが、はっきりと示されており、ヒルコは単なる怪人集団ではないのね、とラスト近くにして再確認させられます。

 寡聞にしてこぶ平氏が他に声優として出演している作品を私は知らず、従って初めて声優としてのこぶ平氏に接したわけですが、上記の通り無邪気でだだっ子じみたな魯怪のキャラを見事に演じきっており、大いに感心いたしました。
 考えてみれば、ほとんど言葉のみで世界の全てを表現してみせるのが噺家さん。それだけに声でキャラクターを演じるのもお手のものかも知れませんが、やはり素直に感心した次第です。

 が、キャラは頑張っている一方で、すっきりしないのがストーリー展開。上記の通り、ラスト近く、闇泥に敵わない獣兵衛をかばって魯怪は斃れるのですが、魯怪がここまでして獣兵衛を逃がす理由(=獣兵衛もしぐれを守っていると、魯怪が理解するシーン)が、本編中はっきりと描かれていないのがどうにもこうにも。その前に魯怪と獣兵衛の交流も描けていれば、ここもスムーズに見ることができたのに…とつくづく思います。
 まあ、それ以上に、魯怪にかばわれておめおめ逃げ去った後、しぐれも追わずにその場に戻ってくる獣兵衛の姿にはかなりガックリ来たのですが(追いかけたけどしぐれが見つからず、魯怪が気になって戻ってきたのだとは思いますが)。

 どうも本作、キャストの名演に見合うだけの脚本・演出が足りない場面が散見されるのが実に勿体ないと思います。


「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第3巻(アミューズソフトエンタテイメント DVDソフト) Amazon

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 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第六話 「雨宿り」
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2006.10.05

「邪曲回廊」 最も恐ろしいお化け屋敷の在処

 「異形コレクション オバケヤシキ」に収録された「ぬばたま一休」シリーズの一編である本作は、齢八十を超えた一休が、その年になってもなお悩まされる少年時代の悪夢を、森侍女に語るという形式となっています。

 まだ一休が安国寺で、周建と呼ばれていた頃。その才気から周囲に妬まれていた彼は、ある晩、先輩僧たちからのいじめで、客僧が土間に置いた杖を僧のもとに届けるよう押しつけられます。
 一人夜の安国寺の回廊を行く彼ですが、その前に姿を現すのはまさしく悪夢の世界。見たことのない、その場にいるはずのない公家に「かずひと親王」と呼ばれたのを皮切りに、見慣れた寺の回廊が迷宮に変わり、魔神の如き大男に追われて逃げまどう内に出会う人々もまたこの世のものとは思われぬ者ばかり――

 もともと作者は、「悪夢」を描き出すことにかけては並々ならぬ力量と感心を持っており、一休シリーズや室町もの
においても、幾度となく悪夢の世界と住人を描き出しています(そもそも、考えてみれば代表作の根幹を為す概念であり、朝松作品において様々な姿で現れる「逆宇宙」もまた、一種の強大な悪夢でありました)。
 その作者が本作で描いた迷宮は、まさに悪夢ならではの不条理さと悪意に満ち満ちた世界。少年…というよりまだい頑是無い子供である一休の視点から描かれるその世界は、収録された異形コレクションのテーマ通りの、何がどこから飛び出してくるかわからないお化け屋敷であると同時に、歴史に興味のある読者にとっては、まさしく悪夢めいた形にディフォルメされた鎌倉末期から室町初期の狂騒であって――時代小説としてホラーとして、そしてエンタテイメントとして、物語を同時に成立せしめている作者の手腕にはいつものことながら感心させられます。

 そして悪夢世界から救い出された一休が知る、悪夢の主の正体と、迷宮の在処。「心の闇」という言葉は、ニュースなどで使い古された感があり、個人的にはあまり好きではないのですが、本作においてあれだけの圧倒的な「闇」を見せられた後では、言葉の表すものとその重さに、素直にうなづくことができます。
 また…老いてなお一休が少年時代の悪夢に苛まされるのは、その闇がまた彼の――いや全ての人間の――中にも存在するものであり、決して切り離すことができぬものであることをも示していると解すればよいでしょうか。
 我々にとって最も恐ろしいお化け屋敷の在処は、我々の、思いも寄らぬほど近くだったようです。


「邪曲回廊」(朝松健 光文社文庫「異形コレクション オバケヤシキ」所収) Amazon bk1

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2006.10.04

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 謎の軍師現る…?

 さて、ずいぶんお久しぶりな気もする「Y十M」ですが、今回も道中双六は続きます。般若侠の影に一人馬を走らせる虹七郎を後目に、明成が急遽泊まることとなった粕壁宿の本陣前にやってきたのは、沢庵と弟子の坊さんたち。さて一体何をするかと思えば――

 おもむろに読経を始める一行。しかもそれを聞きつけて表に出てきた銀四郎に対して、本陣の上に女人の影が…というようなことをいけしゃあしゃあと言ってのけます。な、なんてせこい嫌がらせなんだ(というより坊さんの地位を悪用してやしませんか)…と一瞬思ってしまいましたが、色々と夢見が悪そうな明成に、これはボディーブローのように効くのでしょう。

 結局銀四郎らに追い払われた沢庵たちですが、その前に現れたのは、見るからに尾羽打ち枯らした態ながら、いかにもいわくありげな浪人さん。経を教えてもらったその牢人、明成の一行が無理矢理横入りしてきたお陰でおん出された旅人たちに経を教え、本陣の周りでお経のゲリラ攻撃を仕掛けます。

 「これぞ甲州流十面埋伏の計」って、やってることはせこいけど言うことは格好いいなあ、浪人さん。
 …と、ネタバレ的な話になりますが、実はこの牢人の正体こそは「柳生忍法帖」(「Y十M」でなく)の最大の謎。正直なところ、この浪人先生、「Y十M」に登場するのか、別のキャラに代えられるのではとも思っていましたが、しっかりと登場です。
 これまで原作での史実に反する点等に、一つ一つ丁寧にフォローを入れてきたせがわ先生のこと、あるいは思いもよらぬ正体を用意していたり…したら嬉しいなあ(と思いきや、吉梨さんのブログによれば第一話に登場していたキャラとのこと。うぬ、それは気付かなんだ!)。

 などとマニア以外はどうでもいいことを(そして妙にさくらの寝顔がかわいいなどと)思っているうちに虹七郎は駒を進め、前方の雲水一行の中に一際体格のいいのがいるのを見て取ったところで以下次号。
 果たして十兵衛の行方は? そして一週読み逃したらボコボコにされていて驚いた十兵衛の去就は!? <ってそれは十兵衛違い

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2006.10.03

「闇を斬る 風霜苛烈」 あわやシリーズ終了!?

 「闇を斬る」も、この「風霜苛烈」でもう六冊目。既に堂々たるシリーズと言えるかもしれません。前の巻で、主人公・鷹森真九郎の宿敵である鮫島家老は自滅したものの、まだまだ暗殺集団「闇」との死闘は続きます。

 この巻では、かつての闇の四神と同じ手口で座頭が押し込み強盗に遭い、その捜査に真九郎と琢磨同心が当たることになります。果たして再び闇の跳梁が始まったのか、はたまた闇の手口を真似た盗賊の仕業なのか。
 手探りの探索が続く一方、さる武家に奉公に出ていた霊岸島の材木屋の娘が身投げするという事件が。一見全く関係ないこの二つの事件の背後には、意外な繋がりが…
 そしてまた、闇とは全く異なる悪意の存在が、真九郎の周囲に思わぬ悲劇を招くことになり、意外な結末へと物語は突き進んでいくことになります。

 どうやらこのシリーズ、全体のストーリーに大きな動きがあった次の巻は、比較的静かな内容になるということなのか、上記の通り、宿敵である悪家老が滅んだ前巻に比べると、かなりおとなしめの展開となっています。
 が、それは表面上のこと、本書で描かれる悪の姿は、これまでにも増して許せぬもの。悪党は多く登場しても外道は少なかった本シリーズですが、今回登場するのは紛れもない外道で、フィクションとは知りつつ、大いに憤りを覚えました。

 そして読者よりも何よりも、外道に憤りを覚えたのはもちろん好漢・真九郎。法で裁けぬ悪に、如何にして膺懲の一撃を食らわせるのか? と思いきや、物語は意外な方向に展開、ちょっとちょっと、これはまさかこれでシリーズ終了!? と、一瞬本気で焦ってしまいました。前言撤回、おとなしいなんてとんでもない展開であります。

 などというサプライズもありましたが、遂に闇の秘密に迫る糸口も手に入り、大きな物語の流れの方も動きあり。前巻ラストのイヤな引きもあり、果たして真九郎の前には如何なる闘いが待ち受けておりますことか…楽しみに待ちたいと思います。

 なお、この巻でも闇の「真九郎定期的に襲撃作戦」は健在。要するに、定期的に刺客たちを差し向けることにより、倒せないまでも真九郎の精神を疲弊させ、心を蝕ませてやろうというものですが、地味なようでいてこれは相当効果的な作戦かと思います。なんてたって真九郎より先に読んでいるこちらの方がすっかりイヤに…あ、いや、とにかく性格の悪い作戦を思いつくものです。


「闇を斬る 風霜苛烈」(荒崎一海 徳間文庫) Amazon bk1

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2006.10.02

「天保異聞 妖奇士」説零 奇士出陣準備OK?

 もう一昨日のことになってしまって恐縮ですが、今月七日よりスタートの「天保異聞 妖奇士」の第零話というべき紹介番組が放送されました。キャイーンの二人と熊田曜子が進行役という、まあ顔ぶれみただけで何となくどういう番組かわかるかと思いますが、そういう番組でした(個人的には、あれだ、「プレリュードZZ」思い出した)。

 内容的には山崎バニラが弁士(!)、唐沢俊一が解説役というスタイルで、登場人物紹介に舞台紹介、主人公たちの敵たる妖夷紹介と、比較的オーソドックスではありましたが、進行役が進行役なのでどうにも落ち着かず…正直なところ番組自体がその気があるのですが、どの辺りをターゲットにしているのかわからない、という印象がつきまといました。

 種にハガレンに種死に血+と、色々な意味で話題作・ヒット作が続いた時間帯だけに、スタッフの方も局の方も意気込みはあると思うのですが、やはり時代ものは色々とプレゼンしてくのも難しいのだろうなあ――主人公は三十九歳、メインキャラの中には若い女の子にはウケが悪すぎるちょんまげもいるし――と素人ながら考えさせられたことです。
 そんな中、番組での「漢字や歴史にも強くなる!!」というキャッチはさすがに苦しいなあと思いつつも、それこそ我と我が身を振り返ってみるに、荒唐無稽なTV時代劇や時代漫画で歴史というものに興味を持って勉強していくとっかかりになったということは確かにあるので、そういう方向で宣伝するのも立派に意味があることなのでしょう。

 と、そんなことはさておき、番組自体は私も非常に期待しております。妖夷と対決する妖奇士五人衆はいずれも一癖も二癖もある面子で、演じる側も芸達者揃い。天保と言えばこの人!? の天保の妖怪・鳥居耀蔵もしっかり登場、しかも声は若本規夫!
 何よりも登場する妖夷も、もっと真っ当な奴ばかりかと思ったら、ジェット推進で空飛ぶ奴(しかもそれが武士道を憂う老人の心が宿った怪物)とかも出てくるそうなので、そういう意味からも大いに期待したいと思います。
 もちろん、このblogでも出来る限り毎週紹介していきたいと思います――

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2006.10.01

「夢源氏剣祭文」 漫画連載本格スタート

 既に先月号からプレスタートしているものなので今頃紹介するのもなンですが、「時代劇漫画 刃-JIN-」誌で、「夢源氏剣祭文」が漫画化されています。

 「夢源氏剣祭文」の原作については、このblogでも以前に紹介しているのですが、鬼の毒により千年の魔鬼となる宿命を背負った少女・茨木を中心に描かれる平安御伽草子であり、平将門、藤原純友、八百比丘尼、安倍晴明、芦屋道満、藤原道長、渡辺綱、金太郎などなど、平安のオールスターとも言える豪華な顔ぶれで展開される物語には、読んでいてずいぶんとわくわくさせられたものです。

 最初漫画化の報を聞いたときには、一体誰が絵を描くのだろう、あの雑誌の執筆陣で漫画化すると、とンでもないものになるのでは…とちょっと心配しましたが(失礼な奴だな)、主に中国ものの漫画・挿絵などで活躍されている皇なつき氏が作画担当ということで、なるほど、些か意外ながら実にふさわしいチョイスだわいと感心いたしました。
 本格連載第一回の今回は、山中で病み付き倒れた母のために水を汲みに出た茨木の前に、奇怪な男が現れ…というところまで。原作で言えばまだまだほんの序章の始めの部分というところですが、可愛らしくも儚げな茨木の姿は、こちらが抱いていたイメージを壊すことなく、流石は…という印象です。

 正直なところ、月刊誌でこのペースだと完結までにどれほどかかることか…という心配はありますが、長い時の流れを背景にしたこの物語、あまり急くのも無粋な話かもしれません。こちらも腰を据えてじっくりと付き合っていきたいと思います。

 …と、最後に白状しますが、この原作、私大好きなンですが、あまりにも普段の作風と違うので、半分ネタ、半分本気で「実は小池一夫違いでは…」と思っていたのですが、ああやっぱり本当に小池せンせいの作品だったンだなあ…とホッとしたようなそうじゃないような。あ、そうすると円満完結を期待するのが間違ってるのかしら
 ――いつもの作風でやったら、それはそれでもの凄いものができるような気がしますが。とりあえず、八百比丘尼は絶対脱いで仁王立ちするンだろうなあ。

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