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2006.11.30

「水鏡」 秘剣が映す剣流の発展史

 様々な時代、様々な場所の剣士・武芸者の生き様と、彼らの振るう剣を活写した戸部新十郎先生の秘剣シリーズですが、その中で私が一番好きなのが、この「水鏡」であります。
 登場する剣の特異さ、伝奇性と、クライマックスで振るわれる秘剣の鮮やかさが印象的な作品ですが、それ以上に、この作品には、剣術が、剣法となり、そして剣道となるという、剣流の発展の歴史が凝縮されて描かれているように思えるのです。

 タイトルとなっている「水鏡」とは、実在の剣豪・草深甚十郎が使ったとされる秘剣の名。そして作中でこの深甚流の技を継ぐのは三者――一つは、正当な剣として技を継承、発展されてきた一派。また一つは、「水鏡」の剣の魔性に走り、妖術同様の邪道に堕ちた一派。そして最後の一つは、野に下り、一種の芸能のような形で古流の技をつなぐ一派。
 そのうち、正道の剣を志す一派の剣士が加賀藩主の御前での演武を命じられたことから、三派の剣士が動き出し、最後に奇怪な決闘を迎えることとなります。

 と、ここで少し話を脇に逸らしますが、かつて(といっても最近ではなく、戦国時代の話)、剣術は妖術同様の扱い、すなわち奇怪で胡散臭く、正道ではない外連の技と見なされていたのは、意外と忘れ去られている話ではないでしょうか。かの剣聖・宮本武蔵ですら、「飯綱使い」と呼ばれたのですから。

 しかしながら――その剣術、一人の天才が生みだした特殊な術は、やがて体系化され普遍化された法、剣法となり、一般の(特殊でない)人々の間に普及していくことになります。そしてそれはやがて精神修養や己の高め方をも視野に入れた道、剣道へと変化していくのですが…つまり現代の我々が当たり前のように――たとい時代劇の中でも――感じている剣技剣流の在り方というのは、決して最初からああいった形だったのではなく、少しずつ洗練され、進化・深化してきたものと言えるかと思います。
(ちなみに塚原卜伝を剣法剣道の先駆者として描いた津本陽の「塚本卜伝十二番勝負」では、甚十郎は古怪な剣術を操る悪役として描かれるのですが、それは上記のような流れを踏まえてのことでしょう)。

 ここで「水鏡」の物語に目を戻せば、登場する三つの剣の流れが、必ずしも合一するものではないにせよ、ある程度上記の剣流進化史に重なってくることが見えてきます。甚十郎の剣が持っていた術の魔性に憑かれた者、甚十郎の理法を受け継ぎ、自分たちの間で伝えてきた者、そして古流を離れて満天下に胸を張れる正道として羽ばたこうとする者――この三者の姿は、剣の在り方が歴史を通じて不変ではなく、移ろい変化していくものということを示すと共に、その進化の歴史を集約したもののようにも思えるのです(その意味で、物語の端緒となる剣流を、妖術的色彩の強い草深甚十郎のものとしたのは見事な着眼点かと思います)。

 そしてラストに「水鏡」を継ぐ二つの流れが激突し、静かながら壮絶な結末を迎える一方で、正道へと向かった流れの者が、のどやかに当代の加賀藩主初のお国入りを言祝ぐ剣を披露するというのも、実に象徴的な結びであって、強く印象に残っています。


 もちろん私は剣豪小説を網羅しているわけではありませんが、このような形での剣の発展史を――潜在的にせよ顕在的にせよ――描いてみせた作品というのは、さほど多くないのではないかと思います。その意味でも本作は、貴重であり重要な作品ではないかと思うのです。


「水鏡」(戸部新十郎 徳間文庫「秘剣水鏡」所収) Amazon bk1

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2006.11.29

「絵巻水滸伝」第四巻 宋江、群星を呼ぶ

 「絵巻水滸伝」第四巻は、放浪する宋江が群星を招き寄せるかのように、様々な好漢豪傑と出会っていく展開。その中でもメインとなるのは、弓の達人・小李広花英と、無双の武人・霹靂火秦明の物語です。

 大きく分けるとこの第四巻は三つの部分から分かれます。序章的位置づけの魯智深・楊志・武松を中心とした二竜山篇、花英と清風山の山賊たちvs秦明・黄信の激突を描いた青州篇、そして李俊・穆弘・張順の江州三覇や戴宗・李逵らが顔を見せる江州篇序章…これまでの巻で登場・活躍してきた魯智深らは別として、水滸伝で人気のある・有名キャラが次々と登場します。
 そして、この綺羅星の如き顔ぶれを結びつける男が一人。そう、それが後の梁山泊首領・及時雨宋江なのですが…とにかくその無意識なトラブルメイカーぶりが愉しいのです。
 何せこの巻で宋江はとにかくよく捕まる。山賊に捕まり、官軍に捕まり、追い剥ぎに捕まり…原作では登場しなかった二竜山のエピソードにまで登場して、ここでも捕まる。捕まり回数で言えば本作のヒロインは間違いなく宋江――ってやな表現だな。

 もとより宋江のトラブルメイカーぶりは原典よりのもので、本作ではそれがほんの少し誇張されているだけ(?)ではあるのですが、その宋江の根本のキャラクターが、無私の好漢と言われつつも妙に打算の影が感じられた(これでも控えめな表現)原典に比べ、無類の、いや底抜けのお人好しとアレンジされているため、受ける印象はずいぶんと異なる気がします。
 原典でも本作でも、周囲の人間の運命をとんでもない方向に導いていくことでは同様なのですが、こちらの宋江は「なんかしょうがないか…」感がして何とも憎めない、むしろほっとけない宋江のキャラ。しかし時としてそれが逆に妙な迫力を生むあたり、原典のキャラ設定を尊重しつつもプラスアルファして、より現代にマッチした形となり、そして水滸伝マニアをも納得させる本作のキャラ造形は、宋江においても健在だなと感じさせられます。

 と、本文に感心する一方で、もう一つ感心、いや感嘆させられるのはもちろん「絵巻」の語を冠するゆえんである正子公也先生の絢爛豪華なイラストレーション。もう「鉄人」と表したくなるほどのインパクトを誇る表紙の秦明を初めとして、勇猛なキャラはさらに勇猛に、美しいキャラはさらに美しく、そしておかしなキャラはさらにおかしく(?)描きあげる正子節はいよいよ快調。上記の如き本作のキャラ造形手法と相まって、水滸伝ファンであれば挿絵を見ているだけでも幸せになれること請け合い。

 個人的にこの巻で初登場したキャラで、その絵と文章のコラボレーションがもっとも印象的・魅力的だったのは、錦毛虎燕順その人(次点は混江竜李俊)。何というか、ビジュアルといい言動といい、北欧系海賊キャラファンにはたまらんキャラなのではないかと思います。わかりやすくいえばヒゲと酒杯と肉が最も似合う男。そしてもちろんガハハ笑い。

 …何だかよくわからない文章になってしまいましたが気を取り直してこの先を眺めれば、来月発売の第五巻では、この巻で顔を見せた江州勢が、そして勿論梁山泊勢が大暴れを見せる前半のクライマックス。Web連載時に大いに楽しませていただいた件だっただけに、いまから楽しみです。


「絵巻水滸伝」第四巻(正子公也&森下翠 魁星出版) Amazon bk1

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2006.11.28

「天保異聞 妖奇士」 説八「狐芝居」

 往壓の過去篇にもひと段落ついて、新展開第一回。今回からのエピソードは、宰蔵とその過去を掘り下げるようで、またもや重い展開が待ち受ける予感。しかし、その一方で硬軟織り交ぜた描写がバランスよく配置され、エンターテイメントとして普通に楽しめる一話だったかと思います。

 今回現れるのは、数年前に火事で焼失した芝居小屋跡で、次々と人を拐かし、面に変えてしまう(?)狐の妖夷。女芝居の豊川一座という、またわかりやすい表の顔を持つ妖夷ですが、完全に自立して活動しているところを見ると、今までの妖夷とは違うタイプの存在のようです。

 そしてその妖夷に魅入られたのは、芝居一座の子として生まれ、その才能で知られながらも、女であるがために舞台に立てなくなった宰蔵。怪しげな狐顔の美女に誘われた幻の芝居小屋で舞う彼女ですが、妖夷を引き寄せる力を持つ彼女が舞えば――というわけですわ大変事の幕開けか、というところで次回に続くことになります。

 さて、折に触れては天保末年当時の時代背景、文化風俗を物語の中に取り込んでくる本作ですが、今回のエピソードでは当時の芝居周辺の状況を、鼻につかない程度に説明を加えつつ、巧みに織り込んでいて感心させられます。
 今でも舞台上に女性が上ることは決して多くない(古典)芸能の世界ですが、そのルールが慣習でなく一つの規制として存在していたのがこの時代。まさにそのために泣くこととなった宰蔵の心中は推して知るべしですが、芝居や歌舞伎を、妖夷と同じ人を惑わす化け物・罪とまで言い切るのはいかにも極端なお話です。おそらくは彼女が己の名に――すなわち己の存在の中に――見ている罪の物語となるのでしょう(その意味では、今回登場した妖夷が狐というより罪を裁くエジプトの神・アヌビスに似ていたのはなかなか意味深ですが、これは深読みしすぎでしょう)
 やっぱり宰蔵…芝居小屋に火付けた?

 と、これからの重たい展開が想像される今回でしたが、その一方でコミカルな演出も随所に盛り込まれ、うまく緩衝剤になっていた印象もありました。
 特にアビとえどげんの表情の豊かさは実に面白く、妖夷の肉喰って頬を赤らめるえどげん(その一方で面だろうが何だろうが平気で煮てしまうアビも愉快)や、二人揃って狐に泥水と泥饅頭喰わされるというクラシカルな化かされかたをするシーンなど、これはもう、この二人でなければできない芝居というか(他の面子だとちょっとイメージ崩れすぎるしね)、声優さん自身のうまさもあってずいぶんと楽しいシーンとなっておりました。

 また、前回ラストでちゃっかり現世に居残った雲七は、馬の姿になっても相変わらずの解説役っぷりが見事で愉快。「あなた、おしゃべりになったね」って、素で言ってるのか何だかわからないアトルの台詞も、妙なおかしさがありました。
 ちなみに、吉原に匿われたアトルが堂々と素顔を晒して雪輪の世話しに来たのは悪い意味でのツッコミどころかもしれませんが、地理的に吉原・浅草、さらに猿若町は遠くではないので、まあ許容範囲かもしれません(猿若町帰りの宰蔵がアトルと出会うというのも無理のない展開であります)。
 そしてラスト、異界と化した芝居小屋の空間をブチ破っていきなり登場する往壓という、本来ならばカッコイイシーンのはずが、乗っていたのがこの雲七雪輪だったおかげで、これまた微妙なネタっぽさがあってよかったと思います。本編が油断するとどんどんヘビーになってくので、これくらいのネタ度はあっていいんじゃないかな?


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 「天保異聞 妖奇士」 説四「生き人形」
 「天保異聞 妖奇士」 説五「ひとごろしのはなし」
 「天保異聞 妖奇士」 説六「竜気奔る」
 「天保異聞 妖奇士」 説七「竜は雲に」

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2006.11.27

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 鋼の肉体絶好調?

 何だかものすごいいたたまれない展開で終わった前回から一週おいての「Y十M 柳生忍法帖」、思わぬことでバラバラになった一行ですが、それが更なる危機を招くことになります。

 お品お鳥が駆け去り、お沙和は何だか怖いしと、二人残ってしまった十兵衛お圭、いつまでも呆然としているわけにもいかぬと十兵衛がお圭をおぶって走り出します。この時恥じらうお圭さんが異常にラブい表情で、このまま放っておいたら本当に激フラグが立ちそうな勢いでしたが、もちろんそんな場合ではこれなく。
 あわてて先行する三人坊主と合流した十兵衛お圭ですが、坊さんたちは暢気なもの。十兵衛は剣難よりも女難の方が恐ろしいのではないかとからかい、それでは剣難の方は自分たちで受け持とうと言い出しますが…さて。

 一方こちらもいたたまれなさMAXのお品お鳥ですが、その行く手に現れたのは騎乗の七本槍・鷲ノ巣廉助。なるほど、廉助は沢庵たちを追い抜き、先行する般若面(十兵衛)を追いかけ、お品お鳥は沢庵の方に向かえば、途中で廉助に出会うのは道理。
 今更やりすごすこともかなわず、しかし――と思いきや、これは十兵衛にならったのか、石と縄でボーラ(縄で石三つをつないだ狩猟具)に似た武器を飛ばして、見ン事廉助の馬の足を絡め取り、廉助も馬から落ちて落馬して大ダメージかと思いきや…
 かつて花地獄上の攻防戦で、放たれる矢をはじきとばした廉助の鋼の肉体は、これくらいでたじろぐこともなく、かえって闘志満々で二人の前に立ちふさがる始末。
 これまで散々繰り返しているように、私の脳内キャストで廉助は劇団☆新感線の橋本じゅんさんなのですが、もう脳内ではじゅんさんがわきわきと手の指を動かしながらエロい表情でグフフと笑っている様しか浮かびませんよ…

 そしてページ下にあるとおり、次回の展開はまったくもってとんでもなし。次回改めて書くことになるかと思いますが、この辺りの山風の振り幅の大きさにはつくづく感心というか呆れます。期待して…というのはチト憚られますが、待ちたいと思います。

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2006.11.26

12月の伝奇時代劇アイテム発売スケジュール

 本当に早いものでもう年の瀬、今年最後、12月の時代伝奇アイテム発売スケジュールを更新しました。右のサイドバーからも見ることができます。

 さて、11月に比べると少し刊行数も多いかと思われる小説。「闇を斬る」シリーズの新刊や牧秀彦祥伝社に初お目見えの「影侍」などが目に付きます。また、そろそろ関連商品等で動きが出てきた劇場版「どろろ」のノベライゼーションも刊行の予定。
 しかし、個人的に注目しているのは、竹書房から刊行の平山夢明先生の新作「江戸町怪談草紙(仮)」。下旬発売としかわからないためカレンダーには記載しておらず、また内容もまだわかりませんが、これは気になります。竹書房で怪談といえば、これは「「超」怖い話」江戸バージョンか!? という気もしますが、実はまだ単行本化されていないものの、時代ホラー小説も何作かものされている平山先生。その単行本化だとしたら非常に喜ばしいのですが…

 一方、漫画の方はシリーズものの新刊がほとんどな中で、「マガジンZ」誌で連載中の「危機之介御免」が初登場。ノリはイマ風(?)なのですが、どこか懐かしいバイタリティーも感じられる時代もので、要チェックです。

 また、アイテム数がけっこうな数に上る映像ソフトの方では、やはり「るろうに剣心」のDVD-BOXが一番の目玉でしょうか。
TVから劇場版、(問題の)OVA版まで、るろ剣のアニメ作品全作収録というのはやはり気になります。
 そしても一つ忘れちゃいけないのは遂にDVD化開始の「変身忍者嵐」。レトロ特撮ヒーロー番組が次々とDVD化される中、何故かこれまでソフト化されてこなかったあの作品が、遂に登場です。まあ、ぶっちゃけ前半の血車党篇はかなりもにょる出来ですが、これも味だと笑って見られる方向けです。
 あ、歌丸さんの「牡丹灯篭」も完全セットが発売されるのだった! これもまた楽しみです。

 最後に、なかなか発売されなかった(下手するとすぐに次のに変わるんじゃないかしら)「天保異聞 妖奇士」の第一期OPテーマ「流星ミラクル」もようやく発売。動きまくるOP映像と相まって印象的なこの曲もやはり気になります。

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「修禅寺物語」(再録)

 岡本綺堂の戯曲…ではなく、それを元に小説化されたものです。
 さほど長い作品ではありませんが、登場する人物それぞれの描き方の鮮やかさはさすがで、ことに(今さら採り上げるのも気恥ずかしいですが)あのクライマックスの夜叉王の鬼気迫る姿は、やはり何度見てもうならされます。というかうなされそうです。よくこの作品(戯曲の方)を評するのに「芸術至上主義」という言葉が使われますが、いやもう、そんな美しい言葉ではカバーしきれない凄絶さでした。
 この小説版は、綺堂が頼家の墓前で「修禅寺物語」のエピソードを幻視するという趣向で、最初それが煩わしさにつながるのではないかと失礼なことを考えましたが、それは言うまでもなく杞憂。かえって物語(それが生々しい人間の有様を描いたものであるのに)の幻想性が高まる結果となったと言えましょう。特にラストの綺堂と夜叉王の対話は、上記のクライマックスを更に押し進めたものとして、非常に印象的、というかむしろこのラストのためのこの小説構造だったのではないかとすら感じました。


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2006.11.25

「幕末機関説 いろはにほへと」 第八話「仇討本懐なる」

 このままでは歴史が変わる…という展開で終わった前回を引き継いで始まった「幕末機関説 いろはにほへと」第八回。中居屋一味の陰謀あり蒼鉄の暗躍あり、そして美形同士の激突(追いかけっことも言う)あり、赫乃丈一座の敵討ちありと、盛りだくさんの内容で、第一部完と言えそうなエピソードを盛り上げています。

 薩摩屋敷に乗り込んできた中居屋一味の操る覇者の首の力により、一触即発となった勝と西郷。覇者の首の毒気に当てられたようにいきり立つ二人は、それぞれ幕府への、島津家への恨み(西郷どん、入水自殺までしたもんな)を露わにして刀を交え、首はそのどちらかに取り憑いて世を混乱に導こうとしますが…
 その薩摩屋敷に潜入してきたのは耀次郎と赫乃丈一座。薩摩屋敷と言えば、時代ものでは難攻不落のイメージがありますが、事件が起こる前は和平ムードで酒盛りだったし、ええじゃないかの流れの中でもぐりこんできたのは頭脳プレーの勝利というべきでしょうか。

 そして耀次郎の前に立ち塞がるのは金髪碧眼のガンマン・左京之介で――耀次郎は赫乃丈を先に行かせ、ここから始まる美形対決。全般的に作画は微妙でしたが、まずはファーストコンタクトの超至近距離からの刀対銃のアクションはなかなか見応えがありました。刀の柄で左京之介の腕を払い、捌いて銃口を躱す耀次郎の動きは、なるほどこういう戦い方もありかと感心したり納得したりしましたが、これはまだ戦いの序の口。
 その後は延々と薩摩屋敷の中を走り回りながら、撃っては躱し、斬っては躱しの刀対銃のマラソンマッチ。ざっと見たところでは、こういう戦いでの経験値は上らしい耀次郎が押していたように思いますが(というより、銃弾二連発を刀で止めてみせた耀次郎が異常。刀身で受けるのは心得としてどうかと思いますが、そんなこと言っている場合じゃないか)、とにかく屋敷の中を立体的に、小道具も使いまくって展開されるバトルは実に面白い。二丁拳銃構えて飛び出しておいて一発しか撃たない(しかも躱される)左京之介は実はかなりへっぽこなのでは…という疑惑も生じましたが、それはともかく、ラストの耀次郎三角飛び斬りに左京之介十字受け、互いに武器を失ってからの隠し武器勝負という流れは実に良かったと思います。

 と、その頃、物置に籠もって怪しげな香を焚いていた蒼鉄。充満したその煙は竜の如き姿となって覇者の首を絡め取り、前回登場した壷の中に首の力を見事封印…なるほど、前回中居屋に接近したのは何故かと思いましたが、彼らをのせて直接行動に出させておいて、発現した首の力を横から奪うとはなかなかの策士ぶりであります。
 その勢いで中居屋の配下を次々と斃し、そのまま怪人・覇多冥風も蹴り飛ばした刀で串刺しにして(ずいぶんあっさりと退場したなー)そのまま脱出。追いかける耀次郎の前には無数の亡霊剣士が現れ…なんだか早くも首の力を有効利用しているようです。

 そして得意の絶頂から一人裸で放り出されたのは中居屋。折良く(折悪しく)そこに赫乃丈一座が現れ、遂に復讐の刃が叩き込まれることになりますが、止めを刺そうとした赫乃丈の刀を撃ち飛ばしたのは左京之介――なんだか格好良いことを言っていましたが、もしかしたら赫乃丈の手を汚させたくなかったのか、とも思えます。赫乃丈が屋敷に潜入してきた直後、彼女の容にロケットの中の女性(たぶん母)の面影を見てためらうシーンもありましたしね(赫乃丈を見たのは初めてかねえ? と思いましたが、舞台上は化粧してたしなあ)。

 それにしても本作、最近(特にアクションの面で)失速が感じられましたが、今回のアクションは本当によかった。毎回これくらいやってくれると神なんですが(無茶言うな)。あと、不知火小僧のおっぴろげジャンプズバットアタックには驚かされましたよ。よく見たら一番露出度高いしな、不知火。

 さて、怒濤の勢いで中居屋一味も退場して全く先が読めなくなりましたが、次回は――沖田総司登場!? おりょうさんも登場しましたが、そういえば今回のラストでは、竜馬が唯一、覇者の首の魔力に屈しなかった男だったとさらっと語られておりましたね。


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 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第二話「地割剣嗤う」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第三話「石鶴楼都々逸」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第四話「裏疑獄異聞」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第五話「守霊鬼放たる」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第六話「楽日燃ゆ」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第七話「蒼鉄動く」

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「鋼鉄忍法帖」(再録)

 信長軍の攻撃により壊滅寸前の伊賀。未来を見ることができる「定めの霊瞳」を持つ朱鷺姫は、従者の黒之介と共に一族を率いて脱出しようとしていた。と、その前に現れた三人の常人を遙かに越えた業を持つ妖人たちにより一族は壊滅、黒之介も瀕死の重傷を負ってしまう。しかしそれは、朱鷺姫と黒之介を巻き込んだ、歴史を守らんとする“楔”と、改変せんとする“転”の死闘の始まりに過ぎなかった…

 一言、傑作です。

 時代SFの定番とも言える歴史改変もの、歴史を守る者と改変しようとする者の戦い(それにも皮肉な一ひねりがあるのですが)を描いた作品でありながら、それ忍者ものと絡めることにより、物語に一層の緊迫感とある種の哀しみを与えた手法は賞賛に値します。正直、タイムトラベラーの孤独と忍法帖バトルの悲壮感が、これほど馴染むものとは思いませんでした。

 確かに、忍法描写(解説)が山風のそれそのままだったり、時空構造の概念が長谷川裕一の「クロノアイズ」のまんまであったりという点はありますが、それもご愛敬、と済ませてしまって構わないでしょう。
 ネタバレにつながりかねないので詳しく書けないのがもどかしいのですが、伏線の張りかたといい一人一人のキャラクターの設定といい、これでデビュー二作目とは思えない巧みさで、まさに一読巻を置くあたわず状態でした。
 これはお勧めです。本の帯の煽り文句もいい感じですね。

 あ、黒之介→Chronosか…。今になって気づいた。


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2006.11.24

「巴の破剣 驟雨を断つ」 結束強める卍巴

 剣豪小説の若き名手・牧秀彦氏の第三の必殺もの「巴の破剣」シリーズの第二巻が発売されました。部屋住みの身ながら直心影流の俊英、そして晴らせぬ恨みを晴らす仕置人である主人公・深谷真吾と仲間たちの活躍が描かれます。

 この巻も、前の巻同様、全三話構成となっていますが、標題作の「驟雨を断つ」は、江戸の道場を次々と荒らしていた天羽一刀流なる流派に挑戦状を叩きつけられた道場の代表として、流派の名誉を賭けた一戦に挑む真吾の姿が描かれる中盤までと、彼に破れて逆恨みの天羽一門への仕置きが描かれる終盤から構成されるエピソード。
 言ってみれば剣豪ものと必殺もの、二つの趣向の物語が同時に成立しているユニークな作品ですが、これは、その双方を得意とする牧氏ならではの業前かと思います。

 その他のエピソードも、いずれも興趣に富んでいるのですが、個人的に本書のベストは、過去に犯した罪の記憶に苦しむ者の姿を描いた「迎火」です。
 篤志家として知られる蝋燭問屋・蒲原屋の知られざる過去――元武士ながら、親友を犠牲にして今の地位についたという過去を持つ彼への仕置きを依頼された真吾たち。過去はどうあれ、現在は仏のように慕われ、本人も過去の所業を悔いている相手に仕置きはできるのか。そして過去の罪から逃れられぬと知ったとき、武士はどのように己を処すべきなのか。クライマックスで蒲原屋が見せた姿には、心打たれるものがありました。

 前の巻の感想にも書いたかと思いますが、牧先生の必殺ものは既に三シリーズ目ですが、それぞれでキャラクターも設定も、そしてもちろんエピソードもかぶっていないのが流石なところ。
 いよいよ結束を強める卍巴の仲間たちの今後の活躍も楽しみなところです。


「巴の破剣 驟雨を断つ」(牧秀彦 ベスト時代文庫) Amazon bk1

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 「巴の破剣 羅刹を斬れ」 第三の剣登場

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2006.11.23

「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」第三巻 神剣めざめる

 劇団☆新感線の「SUSANOH 魔性の剣」を原作とした本作も第三巻。この巻では、真の神の剣を求めて謎の鬼住国に向かったイズモタケルとオグナノタケルの冒険と、そして魔剣クサナギに憑かれ、不死の軍勢を率いるクマソタケルの軍勢と天帝軍の激突という、二つの局面に分かれて物語が進行していきます。

 蛇殻国の姫・ヤマトの腕から生まれた魔剣クサナギは、斬られた者を操り、無限にその配下を増していく悪魔の剣。その力に憑かれたクマソの軍の前に立ち塞がったのは、魔剣の力を狙い覇道でもって統一を図る天帝国の四道将軍・西面のキビツ。クマソの力が勝つか、キビツの計が勝つか、一進一退の攻防が繰り広げられることになります。
 一方、唯一クサナギに対抗できる真の神の剣を求めて謎多き鬼住国を訪れたイズモは、途中の鬼喰らいの森の恐るべき力に、苦闘を強いられることになります。そしてかろうじて森を抜けた先に待っていたものは、思いも寄らぬ絶望の光景。果たしてイズモとオグナは神の剣をその手に掴むことができるのか、そして彼らを導いてきた幻の女・マホロバが残した言葉の謎を解くことはできるのか!?
 というわけで三人のタケルが巻き込まれた戦乱と冒険、どちらの局面もまさに風雲急を告げる展開で、伝奇ロマンの醍醐味を存分に楽しませていただきました。
 
 しかしながら、本作が優れているのは単にそのストーリー、仕掛けのみではありません。その中で戦い、泣き、笑う、個性豊かなキャラクターたちの人間描写もまた大きな魅力となっています。
 その筆頭と言うべきは、やはり一の主人公たるイズモノタケル。脳天気でありながらもどこか飄々としていて、しかし決めるときはしっかり決めるという、絵に描いたような痛快男児たるイズモですが、この巻では、そんな彼の心の中の隠された顔と、そして彼が神の剣を求め続ける、その理由が描かれます。
 人に、己の心の中の鬼を見せるという鬼喰らいの森。その中でイズモは、魔剣クサナギに憑かれたクマソ同様、力を求め、血と殺戮を好む己の裏の顔と直面させられることになります。そして己の中の鬼にとらわれ、人の心を捨ててしまったかに見えたイズモを救ったのは――詳しい展開は伏せますが、ベタもベタ、ベタベタな少年漫画チックな展開も、この血と裏切りが満ち満ちた物語の中ではむしろ得難い妙味、たとえ何に裏切られたとしてもこれだけは裏切れないという爽快で気高い魂を見せていただきました。

 そしてまた印象に残ったのは、主人公クラスのみならず、脇を固める面子にも目を向けた人物描写の数々。特にこの巻では、天帝国の皇子オオウスノミコトと、四道将軍・西面のキビツのキャラクター描写が目を引きました。
 どちらも、三人のタケルの共通の敵である天帝国の人間、そして前者は苦労知らずのおバカなボンボン、後者は冷徹極まりない知将と、実に分かりやすい、言い換えれば一見ステレオタイプなキャラ。キツい言い方をすれば、障害物チックに散っていくだけなのだろうなと思っていた時、戦いの中で見せた意外な素顔、生きざま死にざまは、きちんとキャラが立っていて、認識を改めさせられました。

 これは、原作の持つ力ももちろんなのでしょうが、作画の唐々煙氏の絵の力によるところも大きいのではないかと思います。
 絵と言えば、連載開始当初は戦闘(戦争)シーンの描写に少々ぎこちないところもありましたが、この巻の時点ではそうした面は影を潜め、ほぼ安心して見られるレベルとなっていることも記しておくべきでしょう。

 遂にイズモが神の剣を手に入れる一方、クマソの軍勢は天帝国本国に迫り、いよいよクライマックスも近いと思われる本作。いまだ私は原作の舞台を見ておらず、それが悔しいような、嬉しいような、何とも複雑な気持ちなのですが、いずれにせよこの先の決戦が楽しみであることだけは間違いありません。


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2006.11.22

「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」 第十二話「王朝復活」

 しぐれを追ってきた獣兵衛は、闇泥と対決するが、そこに現れたヒルコ忍群の爆弾により闇泥は吹き飛ばされ、獣兵衛は宝玉の片割れを手にする。しぐれや獣兵衛らを財宝への扉である“龍の道祖岩”に案内するヒルコ忍群だが、密かに怪しい行動を見せるしぐれ。そして火口近くまで来た時、獣兵衛らにヒルコが襲いかかる。しぐれに化けていた鬼門衆・写絵により、ヒルコたちは操られていたのだ。写絵の命で次々に火口に飛び込んでいくヒルコたち。操られた濁庵により落とされかけた獣兵衛は、写絵を捕えて踏みとどまるが、闇泥は彼女を始末されてしまう。そして遂に獣兵衛までもが火口へ――

 さて久し振りに紹介。遂にラスト一話前で宝玉が一つになり、前回あまりにもあっけなく滅んだかに見えたヒルコ忍群も、リーダーの無風以下健在で(あれだけあっさり沈められたのは、鬼門衆を油断させるためだったのでしょう)、獣兵衛らと和解。話のわかりそうな無風がもっと早く前に出ていれば、こんなに揉めなかったんじゃないの、と思いつつもまあそれはいいとして。

 が、それもしぐれに化けた鬼門衆のくノ一・写絵によりあっさり集団身投げすることに。その名の如くしぐれの姿を写し、ヒルコたちの首筋に打ち込んだ針により彼らの意志を奪った写絵は、ある意味最強かもしれません(変身して敵の懐で攪乱を行う忍者は「甲賀忍法帖」の昔からいますが、これだけ大被害を与えたのは比較的珍しい)。もっとも、変身忍者の常で素顔を曝したあとは弱いのですが――

 それはともかく、無風もあっさり溶岩に飲まれ、これまたあっさり操られた濁庵にしがみつかれたまま、獣兵衛の命も風前の灯火。これこそまさしくクリフハンガー!
 そんなわけで逆転又逆転の末に、宝玉と巫女を手中に収めたのは闇公方と鬼門衆。が、柳生連夜率いる裏柳生が黙っているわけもなく、無風もおとなしく死んでいるとは思えない。そして何よりも主人公・獣兵衛がいる。
 というわけで次回三つ巴・四つ巴の混戦は必至。(ようやく)盛り上がって参りました!


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 「獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇」第十一話 「柳生連夜」

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2006.11.21

「決戦前後 陸小鳳伝奇」 決戦の地は紫禁城!

 シリーズ第二巻「繍花大盗」を読み終わったときから、いつ出るかいつ出るかと楽しみに待っていた、陸小鳳伝奇第三巻「決戦前後」が遂に刊行されました。武術界を揺るがす二人の達人の決闘が、血で血を洗う怪事件を呼び、遂には驚くべき大陰謀にまで発展する中、快男児陸小鳳が胸のすくような活躍を繰り広げます。

 江湖の話題を独占する世紀の決闘――西門吹雪と葉孤城、天下に冠たる二人の剣の達人の激突――が行われる九月十五日まであと数日と迫り、都には武芸者・盗賊・富豪・僧侶に道士といずれもいわくありげな面々が詰めかけることに。が、西門吹雪はその姿を未だ現さず、葉孤城は宿敵の流派に襲われて重傷を負ったという噂が流れます。
 俄然、不穏な空気が都を包む中にあって、決闘する二人の共通の友人である陸小鳳は、二人の身を案じてその姿を追いますが、そんな彼をあざ笑うかのように次々と引き起こされる怪事件。一連の事件の陰には巨大な陰謀ありと睨んで謎を解かんとする陸小鳳ですが、姿なき敵の魔手は、次々と周囲の人々の命を奪っていきます。
 そしてついに訪れる決戦の日。月円なる夜、紫金の頂にて――すなわち満月の晩、紫禁城(!)の屋根の上で今まさに世紀の大決闘の火蓋が切って落とされんとした時、驚くべき事件が…

 と、相変わらず一ページ先の出来事も予想できないほど目まぐるしく展開する怒濤のストーリーと、いずれ劣らぬ達人・豪傑・怪人たちが次々登場(そして退場)する様がクセになる古龍節は本作でも健在ですが、さらに一ひねり加わっている感があります。
 次々と引き起こされる怪事件に、武術の達人であるヒーローが探偵役として謎解きに挑むのが古龍作品の基本パターンですが、本作では、決闘する当事者探しや姿なき殺人者探しという側面はあるものの、それはむしろ、その二人の決闘の背後で企まれていることはわかるものの、しかしその内容は五里霧中という謎の陰謀探索の一側面でしかないのが面白いところだと思います。いわば、誰が犯人で、誰が被害者で、いつどこでどうやって起こされるかわからない陰謀を止めるための捜査という、物語の基本構造が実に面白く感じました。

 そして、セミレギュラーであっても全く油断できないこのシリーズ、登場人物の誰が、いつ裏の顔を剥き出しにしても、そしていつあっさりと殺害されてもおかしくないのですが、本作でも、ここでこの人物が? というキャラが次々と殺されていったり、実はこいつが大悪人なんじゃ? と疑わされるシチュエーションが次々と現れますし。もう読んでいるこちらまで油断できない気分で、疑心暗鬼にすらなってきますが、しかし、ここで俄然光輝くのが探偵たる陸小鳳の明るい個性。
 どんな苦境にあろうとも、希望を捨てずあきらめない。文章にするとクサいですが、そのクサさが格好良さへと奇跡的な変化を遂げるのが古龍ヒーロー、その中でもおそらく屈指の陽性の人物である陸小鳳の姿を見ているだけで、何とも言えぬ安心感と親しみが沸いてくるのは私だけではないでしょう(キャラのバックグラウンドがほとんど全く書かれていない――現在の姿しか存在しないのにこのキャラ立ちというのは、よく考えてみると奇跡的ですらあります)。
 時に間抜けですらあるほど楽観的で、しかし友や弱き者のためなら命を投げ出すことも厭わない。頭脳明晰で天下屈指の武術の達人で、しかし酒と女と、何よりも奇怪な謎に目がない。そんな快男児・陸小鳳が主人公だからこそ、少なからぬ数の人間が命を落とし、陰険で冷酷な陰謀が張り巡らされる物語であっても、爽やかで痛快な読後感を本作は、本シリーズは与えてくれるのでしょう。

 と、陸小鳳のことばかり書いてしまいましたが、本作では、冷徹な剣鬼…というか剣の求道者だった西門吹雪の心に、ある変化が現れます。それは人間としてみれば慶ぶべきことではあるのですが、剣術者としては命取りともなりかねぬものであり、それがために西門吹雪は悩むのですが――
 そこで彼を励ます陸小鳳の言葉がまた実に格好良い。ちょっと気障で、それでいて男臭さを感じさせる古龍らしい殺し文句で、なかなかよいシーンでありました(…この台詞がむしろ口説き文句に見えた私は心のどこかが汚れているのでしょう)。

 さて、非常に気持ちのよい結末を迎えた本作ですが、シリーズはまだまだ続きます。第一、二巻の時にはあった続刊予告が、この第三巻になかったのは非常に気になりますが、きっとこの先も邦訳が続いてくれることを信じて待ちたいと思います。


 …しかし堅物和尚の可愛らしさは異常だよね、と、むしろお前が異常だよ! と突っ込まれそうなことを書いておしまい。


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 「金鵬王朝」 四本眉毛の男見参!
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2006.11.20

「天保異聞 妖奇士」 説七「竜は雲に」

 さて「天保異聞 妖奇士」第七話は、この一ヶ月間続いてきたアトル・雲七篇のクライマックス。異邦の神ケツアルコアトルの正体と、過去の罪に対する往壓の(一応の)償いが描かれます。

 アトルの命と、蛮書改所の解散を賭けて飛龍に挑む奇士の面々。おお、新マンのMATみたいだと喜んだのもつかの間、往壓の力を持ってしても龍から漢神を取り出すことはできず、あっさりと逃げられてしまいます。
 ここで奇士が見せた連携は、最初は、解散を賭けた割にはあんまり迫力のない作戦だなあと思いましたが、よく考えてみると、空を自在に飛ぶ龍に往壓を取り付かせ、漢神を抜くという目的のために、まず龍を地表におびき寄せ、さらに地面よりも低い位置の川面にまで龍を降ろす作戦だったかと後になって感心しました。まあ、結局失敗したんですが。

 そして追ってきたアトルが、往壓が語るケツアルコアトルの正体。いま江戸の上空を舞うあれは本物の神ではなく、アトルの心と異界の力が結びついて生み出された作りもの、厳しい言い方をすれば偽物であると――なるほど、さすがに本物のアステカの神様が女の子に連れられてホイホイと江戸まで出張ってくるのもどうかな、と思いましたが、こういうことであれば納得。
 そしてまた、罪の記憶が異界の力と結びついて生み出された偽りの存在、という意味において、アトルのケツアルコアトルと往壓の雲七は等しい存在。何故一見関わりのなさそうなアトルと雲七のエピソードが平行して描かれたか、わかったような気がします。

 そして、ずっと自分と共に在ってくれた雲七の存在を危うくすることを覚悟の上で、雲七の中の漢神「雲」を取り出す往壓。雲の中に隠れる龍の姿を現す「雲」の漢神を与えられて本物の(?)神と化した龍神ケツアルコアトルは(ポケモンだかデジモン的雰囲気の姿で)空に消えていきます。
 このシーンの少し前に、雲七が、自分の漢神であれば龍をどうにかできるというようなことを言い出して何故? と思いましたが、それは雲七の存在を留めていた「雲」の漢神の力と同時に、上記の通り両者が等しい存在であったからなのでしょう。

 そしてアトルは肌の色を隠すことのできる地、女人国吉原で禿となり(あれ、禿ということは…と思っていたら往壓が同じ疑問を口にしてくれたのには苦笑)、まずは一件落着。そのアトルがお染たちに語った、往壓が常に雲七殺しの罪に向かい合っていたという言葉は、そうかなあと思いますが、お染さんが実は…というオチは、これはこれでそういうことってあるよな、とそれなりに納得しました。

 そして雪輪も普通の馬に――と思ったら、雲七さん、あんた何やってんの!? 半分は予想通りのオチでしたが、馬になっちゃってそれでいいのか…まあ本人(?)が納得してるならいいのかなあ。アトルは愛馬が妙にエコーのかかったおっさんの声で喋り出したら泣くと思います。
 次回予告ではさっそく往壓が乗っているみたいですし、これはこれで貴重な戦力…かなあ?


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 「天保異聞 妖奇士」 説一「妖夷、来たる」
 「天保異聞 妖奇士」 説二「山の神堕ちて」
 「天保異聞 妖奇士」 説三「華江戸暗流」
 「天保異聞 妖奇士」 説四「生き人形」
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 「天保異聞 妖奇士」 説六「竜気奔る」

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2006.11.19

「九十九眠るしずめ」 開化の時代に九十九神奔る

 かつて一世を風靡した長編伝奇アクション「3X3 EYES」や、時代伝奇ものの「幻蔵人形鬼話」の高田裕三先生が現在連載中の明治時代を舞台にした伝奇コミックです。
 東京がまだ東亰と呼ばれていた明治十六年――九十九神の力をその身に宿した少女・倉橋しずめと、警視庁の斎藤一配下の密偵・乾虎源太(通称トラゲン)が、九十九神とそれを自在に操る力である護法実を巡る謎を追って、明治の闇を駆け巡ることになります。

 ヒロインしずめは、陰陽師の父と修験者の母の血を引く少女。しかし好奇心旺盛な他はごく普通の少女であるはずの彼女は、強力な九十九神をその身に宿していたのでした。眠りの無意識のうちにその九十九神の力を暴走させていたしずめですが、別の九十九神が引き起こした殺人事件を追ううちに知り合ったトラゲンのフォローで、その力と向き合うように。が、彼女の力を狙う謎の一団・東方支天衆護神民の影が迫ってきて…というのがあらすじ。

 本作における九十九神というのは、人間の身に宿ってそれを造り替え、異形の姿と能力を与える存在。いわば一種の妖怪ではありますが、作中のアプローチはむしろ九十九神を超自然的な存在として片づけることなく、「科学的」な角度から謎に迫っていくというスタイル。しずめを診察し、その謎の解明に協力するのが若き日の北里柴三郎と南方熊楠であるところに、その姿勢が端的に現れており(まあ、南方が登場した辺りでなんとなくオチは見えた気もするのですが…)、開化の時代を舞台とした物語として意味があるのでしょう。

 高田氏の絵は、さすがにベテランだけあって、怪物描写もアクション描写も達者の一言。しずめは可愛いけど脳天気で乙女チックで大食らい、でもいざというときは勇気を振り絞って…って辺りが相変わらずの高田ヒロイン(しかもボクっ娘で眼鏡っ娘ってどんだけ業が深いのだ)だなァと苦笑しつつも、重いエピソードも少なくない作品だけに、その辺りの緩急の付け所もさすがと言うべきでしょう。

 ただ個人的には、折角明治を舞台にしているのだから、もう少し突っ込んだ物語を見たいな、とは思います。何というか、当時の事物や人物を登場させていても、それが今ひとつ皮相的に感じられてしまうというか…これはこれで計算の上、という気もまたするのですが…

 さて、単行本の方は現在第三巻まで発売されていますが、第三巻ではトラゲンが大変なことになる一方、南方がしずめたちの協力者として登場。そして連載の方では、何とも予想していなかった方向に物語が展開していて、これは一体どこまで行ってしまうのか、いよいよ楽しみです。

(ちなみに「東亰」と言うとどうしても小野不由美先生を思い出しますが、別にこの語、小野先生の造語というわけではございません。ただ、明治十六年まで使われていたかは微妙ですが)


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2006.11.18

「幕末機関説 いろはにほへと」 第七話「蒼鉄動く」

 五人の悪鬼羅刹も倒されて、話の方は一段落、今回はつなぎの話…かと思いきやさにあらず、史実を覆しかねない事件の起こった今回。サブタイトル通り、これまで自体を静観していた蒼鉄先生がいよいよ動き始めます。

 …と、何故か窯元で焼き物の注文をしている蒼鉄。えらく厳しい表情で、焼き上がる壷(?)をチェックしては、ああでもないこうでもないと叩き壊していきます。いきなり番組が変わったかと思いましたが、この窯元は高麗の里。あの耀次郎と縁の里であるからして、蒼鉄の道楽というわけでもないわけで――

 一方、悪鬼羅刹を倒して真の黒幕である中居屋の名を満天下に晒したにもかかわらず、結局大きな動きもなく無為に過ごすのは赫乃丈一座。ボーッとしながら蒼鉄の出会いなどを思い出していますが、やはり元々思うところあって一座に接近してきた様子であります。
 そんな中、何となくいい雰囲気になる耀次郎と赫乃丈ですが…まあ、赫乃丈毎回命救ってもらってたしなあ。キリコほどでないにしろ鉄面皮の耀次郎は何を考えているのかわかりませんが、しかし赫乃丈の口ずさむ唄に反応を示していましたが…

 主人公側がそんな暢気に過ごす一方で策謀を巡らすのは悪人側。品川の薩摩屋敷で行われた勝海舟と西郷隆盛の歴史的会談が平和裡に終わり、江戸城無血開城がなされるやに思われたとき…乱入してきたのは完全に中居屋側についた左京之介、西郷と勝に拳銃を突きつけ、その場を押さえます。そしてその後から現れた中居屋は「覇者の首」を携えていて――その魔力に憑かれた勝と西郷は豹変、和平が一転して全面対決ムードに。このままでは歴史が、歴史が…WJ架空戦記だけは勘弁して下さい。

 そして事態が風雲急を告げる中、一人薩摩屋敷に向かう蒼鉄ですが、その手中にあるのは、高麗の里で焼かれていた壷。それこそは、かつて徐福がこの国に「覇者の首」を封印するために運ぶ際に使われたものと同じ器で――さて、蒼鉄はこの壷を如何に使うつもりなのか、というところで以下次回。

 さて、そろそろ作画がやばくなってきた感もある今回、場面によってはキャラの顔がずいぶん違った印象になっていたりしましたが、これはまあよくあること(いや、本当はいけないんですが)。
 アクションシーンはさほど多くなく、完成した徐福の器を持ち去ろうとする蒼鉄を、高麗の里の剣士・新佐衛門が襲うシーンが目立ちましたが、このシーンが久々のちゃんとしたチャンバラ。殺すことなく新佐衛門の戦闘力を奪う蒼鉄の強さが印象的でしたが、その太刀さばきがしっかりと剣法していて、本作のウリの一つである殺陣を久し振りにちゃんと見せてもらった気がします(作画はこのシーンもナニでしたが)。

 そういえばこの徐福の器の装飾(?)であり、耀次郎の月涙刀の柄の意匠でもあるとして今回語られた「カイチ」ですが、これはおそらくこの カイチのことでしょう。中国にも朝鮮にも縁のある霊獣であって、徐福がもたらし、「高麗」の里に伝わる存在としては適しているように思えます。

 そして次回は「仇討本懐なる」。仇討ちということはやはり赫乃丈たちの中居屋に対するものかとは思いますが…第八話でもう仇討ち成就? ずいぶんと早いようにも思いますが、さて…


 ――あ、耀次郎の出番が赫乃丈といい雰囲気になるくらいしかなかった。 基本的に赫乃丈がピンチにならないと動かないんじゃないのか、この人…


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 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第二話「地割剣嗤う」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第三話「石鶴楼都々逸」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第四話「裏疑獄異聞」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第五話「守霊鬼放たる」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第六話「楽日燃ゆ」

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「黄金の忍者」(再録)

信長の攻撃により灰燼に帰した伊賀。偶然難を逃れた青年忍者・江ノ市之丞は、百地丹波らと信長暗殺を狙うが、同志のはずの鳶尾左近の裏切りにより一味は壊滅、市之丞は捕らえられる。服部半蔵配下の忍び・矢野平九郎の助けにより安土城から脱出した市之丞は、平九郎とともに信長の家康に対する陰謀を知らせるため尾張に走るが…

 新進気鋭の忍者作家による、ハード忍者活劇。地味になりすぎることもなく、かといって飛ばしすぎて化け物同士の戦いになることもなく、近頃では珍しいほどのハードな忍者アクションを堪能できる作品です。

 が、この作品の真に見事なところはそうしたアクション描写のみならず、巧みなストーリー展開。断っておきますと、上に書いたあらすじは、まだ導入部のようなもの。その後も戦国武将同士、忍者同士の二重三重の謀略戦が続き、市之丞はいつ果てるとも知らぬ泥濘のような世界を歩むことになります。
 全く先の展開が見えぬまま周囲に振り回され続け、絶望に次ぐ絶望の果て、最後に市之丞はある「境地」に達するわけですが、そのラストの大逆転は爽快の一言。その境地は、一歩間違えると単なる荒唐無稽な絵空事になりそうなものなのですが、そこまでの道のりが非常にリアルな重さを持っていただけに、一種超越したリアルさを感じさせられます。

 作者の沢田氏はこの作品がほぼデビュー作のようですが、読みやすく達者な文体といい、ストーリーテリングの巧みさといい、何よりも作品から伝わってくる忍者もの・時代伝奇ものに対する愛情といい、相当なものを感じさせられます。注目の作家がまた一人増えたということで、全くうれしい話です。


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2006.11.17

「虚無戦史MIROKU」 巨匠のターニングポイント的名作!

 …果たして今こうして石川賢作品の紹介をすることがふさわしいことなのかどうか、私にもわからないのですが、私なりの追悼の意を示すため、これまできちんと感想を書いていなかった「虚無戦史MIROKU」、私にとっても印象深いこの作品について書かせていただきます。

 物語の始まりは、大坂夏の陣直後。服部半蔵が、ある男の首を奪い取り、徳川家康のもとに届けるシーンから始まります。その首こそは真田幸村の首、それを見た家康は、豊臣方の一武将の首を見たと思えぬほどの喜びを示します。がその時、カッと幸村の首が目を見開き、生ある者の如く動き出します。更にそれを待っていたかの如く現れたのは、異形・異能の魔人たち――真田十勇士!
 そしてその頃、十勇士の別動隊は、人里を遠く離れた地に住まう九龍一族の城を襲撃。幸村が唯一存在を恐れる九龍一族を根絶やしにせんと襲いかかる十勇士ですが、彼らに勝るとも劣らぬ異能を持つ九龍一族はこれに真っ向から反撃! そして一族の長の子・夢幻美勒は、「竜の艦」なる存在を復活させ、この世を滅ぼさんとする幸村と真田十勇士に宣戦を布告、かくて九龍一族vs真田十勇士の、忍法vs妖法の凄絶な死闘が始まって――

 というのが、大きく分けて三部構成の本作の、第一部(と、便宜上ここでは呼ばせていただきます)のあらすじ。以降、禁忌の生物兵器ドグラ(小学生の私にトラウマを植え付けたドグラの再登場には驚いたり恐ろしかったり)を巡り、美勒たちが霧隠才蔵配下の六獣衆と激突する第二部、そして美勒と幸村の前に真の恐るべき敵が現れ、美勒たちの、そして人類そのものの存在の意味が描かれる第三部と、これぞまさに石川賢! と言いたくなるほどのアクションとバイオレンス、異界と化け物、伝奇とSFの世界が展開されていくことになります。

 個人的に思い入れがありすぎる作品ゆえ、どこから紹介するか(褒めたものか)悩ましいのですが、まず挙げるべきは、これでもか! とばかりに描かれる山風的トーナメントバトルの面白さでしょう。この作品の少し前に、名作「魔界転生」を描いていた石川賢ですが、本作においては、山風リスペクトの色濃いながらも、脂の乗りきった石川流アクションを炸裂させていて、アクションもの・バトルものとして超一級の面白さでありました。
 個人的には、第二部の、美勒vs六獣衆セムイの対決シーンが強く印象に残っています。宿場町を血で染める一大殺戮戦から、一転、スピード感溢れる空中戦を展開して見せたアクション設計は、今見ても神がかった完成度…というのは言い過ぎかも知れないけれど、コマ割まで思い出せるほど印象に残った名バトルでありました。

 しかし――何よりも石川賢作品として特筆すべきは、その、目眩のするほど巨大なSF的スケール感でありましょう。本作は、伝奇時代活劇であるのと同時に、もう一つの顔を秘めています。それは、希有壮大なるスペースオペラ、後に「虚無戦記」としてまとめられることとなる作品群の根幹を成す、遙か人類誕生以前よりうち続く戦いの記録であります。
 これは物語中、比較的早い段階で明かされるので書いてしまいますが、幸村が狙う「竜の艦」…それこそは、遙か太古に地球に墜落した宇宙戦艦であり、日本列島そのもの(なんとシンプルかつ豪快なイメージ!)でありました。

 幸村一党と九龍一族(そして徳川家康も!)は、みなこの艦に乗って地球に辿り着いた戦士の子孫であったのであり、彼らが繰り広げる戦いは、いわば艦の継承者――そしてそれは同時に日本の命運を握る者であるわけですが――争いという意味を持つものであったのでした。 やがて激しい戦いの中で、太古の血と記憶を甦らせた美勒ですが、その前に現れた最強の敵は、時間と空間をも操る最強最悪の存在。そして、絶望的なまでに強大な力を持つ最後の敵との決戦の中では人類誕生の秘密までもが語られることとなって――リアルタイムで連載を追っていた当時は、その怒濤の展開の前に、ただただ圧倒されるばかりでした。
 ちなみに――本作を含めた「虚無戦記」の執筆のきっかけとなったのが、「幻魔大戦」であることは作者自身が語っていますが、本作においてはそれ以上に半村良先生の「妖星伝」がバックにあることは、まず間違いないと思います(…と、ことあるごとに言っている私)。が、ラストに示される人間存在の意味については、「妖星伝」と正反対の方向をいっているのが何とも石川賢らしく、痛快でありました。

 また、時代伝奇ファン的に見ると、悪役として描かれることが非常に珍しい真田幸村と十勇士を悪役・敵役にしただけでなく、ほとんど完全に化け物として描いているのはほとんど空前絶後であって、この点にも石川賢の視点の斬新さがうかがえるかと思います。

 もっとも、全体を通してみると、連載作品だったこともあり、完璧とは言い難い部分があるのは事実。第二部終盤からの力のインフレーションが凄まじく(もっとも、これはこれで物語的に必然性があるかとは思いますが)、物語全体の構成のバランスがちょっと…なところや、第三部の展開があまりにも急展開すぎて、駆け足になった感が否めないところ(まさに「虚無った」!)はありますし、個人的には十勇士が全員登場しなかったのも大変残念なところではありました。
 …が、そんな細かいとこを気にするのが罪悪に感じられるほどのパワーと魅力に本作が溢れている(そしてそれは石川作品ほぼ全般に共通ではありますが)ことは、間違いありません。ていうかガタガタいうのは野暮だ野暮。

 何はともあれ、時期的に見ると、「魔界転生」と共に、本格的に(この辺り、異論は色々とあると思いますが…)時代伝奇漫画を量産していく始まりの時期に描かれた作品であり、ほぼ同時期に加筆復刊された「5000光年の虎」と共に、「虚無戦記」の中核となる世界観を形作った本作(特に、終盤に登場する仏教世界的デザインのキャラクターたちと、「空間の奪い合い」という戦いの概念が提示されたのは大きいのではないかと)。ある意味石川作品世界のターニングポイントというか、「虚無戦記」に見られるように、その前後の作品が集約されていく契機となった作品としても、大きな意味を持つ作品かと思われます。

 唯一残念なのは、現在「虚無戦史MIROKU」単独として読める版が絶版なことですが(いやもちろん、「虚無戦記」は大好きなのですが、作品単独としても評価していただきたいのです。特に初読の方には)、とにかく未読の方は、現在双葉文庫収録の「虚無戦記」全五巻をご覧になっていただきたいと、心から思う次第です。
 そして一緒に「いよろけん座」に思いを馳せようではありませんか!


 なお、これは蛇足ですが、かつて全六巻のOVAとして本作はアニメ化されております。前半三巻は原作第一部、後半三巻はオリジナル展開でしたが、後半は「ああ、普通の人が石川作品の材料を使って物語を作るとこうなるのか」的な味わいで、微妙と言えば微妙なのですが、原作に登場しなかった十勇士が全員勢揃いしていたりして、これはこれでなかなか楽しめる作品でした(最近徳間のOVAがDVD化されていますが、これもDVD化されないかしら…)。
 ちなみに後半三巻、「家康に仕える猿を操る剣の達人」などというオリジナルキャラが登場したりして、妙なところでマニアックだなあと思っていたら、脚本は會川昇。さもありなん…


「虚無戦記」全五巻(石川賢 双葉文庫)

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2006.11.16

石川賢先生逝去

 まだ正式に発表されていないようですが、漫画家の石川賢先生が亡くなられたとのこと…
 大都社の五巻版ゲッターに衝撃を受け、そして「魔界転生」と「虚無戦史MIROKU」でこの先ずっと追いかけていこうと誓った、遅れてきた石川ファンではありますが、本当に、本当にショックです…
 先生の業績については、到底一つの側面では語れないほど広大かつ素晴らしいものがありましたが、もちろん、時代伝奇漫画においても素晴らしい作品を綺羅星の如く遺されました。「魔界転生」「虚無戦史MIROKU」「魔空八犬伝」「爆末伝」「神州纐纈城」「武蔵伝」…現在連載中であり、遺作となった「戦国忍法秘録 五右衛門」もまた、この先が楽しみな伝奇作品でした。
 この先、先生の新作が読めることはもうありませんが、しかし、先生の業績はこの先も語り継がれていくことでしょう。もちろん、私もずっとずっと、語り継いでいきます。
 本当にありがとうございました! ご冥福を心よりお祈りします!
 最後に、失礼かもしれませんが先生の作品中のあの言葉を贈らせていただきたいと思います。「友よ また会おう」

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「天駆け地徂く」 三蔵と正純、巨人に挑む

 孤高の天才忍者・服部三蔵と、徳川家康配下の謀臣・本多正純の友情を描いた作品。本多正純と言えば、父・正信の跡を継いで家康の懐刀として辣腕を振るうも、晩年に失脚(いわゆる巷説の宇都宮釣り天井事件)した人物で、どちらかと言えば悪役のイメージのある人物ですが、本作では、架空の存在である三蔵と敵味方に別れつつも交誼を結び、自分なりのやり方で家康越えを目指す人物として描かれています。

 三蔵と正純の友情は、若き日の正純が、文臣たる自分を侮辱した大久保一門と事を構えた時に始まります。偶然そのことを知った三蔵は正純に興味を抱き、彼の貢献として決闘に参加し、結果として正純の命を救うことになります。三蔵は服部半蔵に拾われて忍者として育てられた孤児、正純は言うまでもなく家康麾下の俊英と、生まれも育ちも異なる二人ですが、不思議とうまがあい、その後数十年にも及ぶ交誼を結ぶこととなります。

 この二人に共通するのは、実は、家康に対する敵愾心であります。三蔵は、剣と忍術の腕では服部半蔵をも上回る腕を持ちながらも、自由を愛し、己を縛るものを嫌う男。そんな彼にとっては、様々な法度や制度で陰険に人々を縛り、支配しようとする家康は不倶戴天の相手であり、抜け忍となってまで家康に抗する道を選びます。実は三蔵自身、朝比奈泰朝(本作では家康の手の者に暗殺されたという設定)の遺児であったこともあり、彼が家康と対決する道を選ぶのは、むしろ当然ではあるのですが、意外なのは正純の方でしょう。
 冒頭に書いたとおり、史実では家康の懐刀として活躍した正純ですが、本作では、同様に家康第一の側近として振る舞いつつも、心中では家康に激しい敵愾心を燃やすという人物造形がなされています。父・正信がかつて三河の一向一揆に加わって出奔した後、残されたのは正純とその母(つまり正信の妻)。しかし家康は正純の母に目を付け、彼女を夜伽に召し出します。結果として家康の元に帰参叶った正信と正純ですが、しかし正純にとって家康は母を奪った憎い相手。しかし武人ではない彼は、真っ向から家康に抗してこれを討つのではなく、彼の懐に飛び込んで一体のものとして活動し、やがては家康の先手を取り、彼を操ってやろうと心に誓ったのでありました。

 かくて、江戸幕府成立、豊臣家滅亡という戦国最後の動乱期に、ある時は手を組んで、またある時は敵同士として対峙して、生き抜いていくこととなります。共に家康を敵としつつも、これを討とうとする三蔵と、生かして利用しようという正純の複雑な関係が本作の一番の特徴であり、また魅力と言ってよいでしょう。
 そしてまた、本作の第三の主役と言うべき存在が、彼らの人生に巨大な影を落とす徳川家康その人。冷酷非情で猜疑心が強く、人を人とも思わぬ家康は、確かに全く共感できない人物ではあるのですが、しかし三蔵の武も正純の智も及ばない巨大な壁として、厳然と立ち塞がる様は圧倒で、むしろ主人公二人を用いて戦国の巨人・家康の姿を描き出した作品という性格も、本作にはあります。

 秀吉存命の頃から大坂夏の陣までと、かなり長いタイムスパンを扱っているためか、個々のエピソードに食い足りない部分も個人的にはあるのですが、しかしキャラクター設定と配置の妙はやはり魅力であり、最後まで一気に読むことができました。


 ちなみに本作には、正純と三蔵の双方から愛された甲賀のお藍というくノ一がヒロイン格で登場するのですが、本作の後、同じ作者の「甲賀忍者お藍」という作品が刊行されています。未読なのですが、果たして本作のスピンオフなのか、同名異人なのか、こちらも読んでみようと思っています。


「天駆け地徂く」(嶋津義忠 講談社文庫) Amazon bk1

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2006.11.15

「落ちた花は西へ奔れ」 巨大な意志に一矢を

 名作「太閤暗殺」の岡田秀文による、大坂夏の陣秘史とも言うべき時代冒険アクションです。
 タイトルはおそらく「花のようなる秀頼様を、鬼のようなる真田が連れて、のきものいたり鹿児島へ」という有名な歌(?)から取られたもの。壊滅した大坂城から落ちのびた「花」である豊臣秀頼を鹿児島に逃すため、真田大助が苦闘を繰り広げることとなります。

 既に豊臣方の敗北は時間の問題となった大坂夏の陣。華々しく討ち死にを覚悟した真田大助に、しかし父・幸村は、秀頼を守って大坂城から落ちのびるよう命じます。かつて関ヶ原の戦での壮絶な退却戦で徳川家康の心胆を寒からしめた島津義弘が、落城の際には薩摩に秀頼を迎えることを、あらかじめ幸村に約していたのです。
 かくて、大野治長の家士・平山長十郎、淀の方付きの腰元・茜らと共に秀頼を守り、一路薩摩へ向かう大助ですが、本多正純と片桐且元はそれを察知し、追っ手を放ちます。更に、彼らが頼るべき島津の家内も一枚岩ではなく、繰り広げられる暗闘の数々。それでも幾多の危機を乗り越えて薩摩へ向かう秀頼主従ですが、その背後には、更に驚くべき陰謀が――

 というのが本作のあらすじ。時代伝奇ものにおいては、秀頼薩摩落ちというのは非常にポピュラーなネタではありますが、そこに一捻りも二捻りも加えて、ミステリやポリティカル・スリラーの趣向を加えたのが本書の特長であります。
 何せ登場人物の大半が裏の顔、裏の裏の顔を持つ本作。敵かと思えば味方、味方かと思えば敵と――状況の皮肉による意図せざる変転を含めて――目まぐるしく入れ替わり、果たして誰を信じるべきか、一寸先は闇の状況に大助と秀頼は翻弄されることになります。
 そしてまた、繰り返される死闘の陰にあって、彼ら全てを駒として操るのは、ある人物の巨大な意志の存在。「太閤暗殺」においても、最後の最後に、事件の全てをひっくり返すかのような、ある人物の妄執を描き出して驚かされましたが、本作においてもそのどんでん返しの裏にまたどんでん返しという構成で、最後まで気の抜けない物語となっておりました。

 正直なところ、主人公たる大助が受け身一方で翻弄されっぱなしな点、そして物語の視点が様々な登場人物に渡りすぎて、一部物語の興が削がれるように感じられる面もあるのですが、しかしそれらが物語の緊迫感等を高める効果を挙げているのも確かであり、これは個人の感じ方というものでしょう(また、後で最初から読み返してみたのですが、初読では気付かないミスリーディングの嵐で感心いたしました)。
 むしろ翻弄され続けたからこそ、巨大な意志に一矢を――今は小さくとも巨大な一矢を――酬いるラストが、不思議な解放感が感じられるのかもしれません。

 何はともあれ、冒頭からラストまで、緊迫感とテンションの衰えることない、興趣に満ちた佳品と言うべき本作。やはり岡田氏は、サスペンス色とミステリ色に満ちた時代ものを書かせれば屈指の存在であると、今更ながらに再認識させられた次第です。


「落ちた花は西へ奔れ」(岡田秀文 光文社) Amazon bk1

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2006.11.14

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 げにおそろしきは…

 今週の「Y十M」は、お圭さんが道で躓いたのをきっかけに、十兵衛一行が思わぬ窮地に立たされるお話。っていうか、何だかもの凄い勢いでラブコメになってます。

 躓いて足をひねったお圭さんに、自分におぶされという十兵衛先生。先を急ぐ旅でもあり、十兵衛にしてみれば当然の申し出であったはずが――いきなり脇からキツい言葉をぶつけたのは、お鳥さんとお品さん。
 あんたの不覚悟で十兵衛先生にいらん負担かけるんじゃないわよキーッ…という感じではないですが、いずれにせよいつもの朗らかなお鳥さん、おしとやかなお品さんとキャラが違ってる! いやはや、げにおそろしきは女心かな。
 そしてここまで言われてはお圭さんも黙ってはおれぬ、私を置いて先に行って下さいと自棄なことを言い出します(女の涙つきで)。

 さすがに三人をたしなめた十兵衛ですが、ここでお鳥とお品が笠を上げれば(ここまで笠の下で表情が見えないという演出が光る)二人の頬にも大粒の涙…というより涙だだ漏れ。先週描かれたあれやこれやが積もり積もって思わず爆発、さらに二人の想いは止まらず、こないだの偽祝言以来、十兵衛がお圭さんだけに親切するとほとんど子供がこねる駄々なみのこを言ってしまいます。
 さすがにこれには十兵衛も驚き半分怒り半分で思わず声を荒げ、沢庵和尚に説教されろと言えば、二人の方は悲しさ半分意地半分で、じゃあ説教されてきますとばかりに沢庵たちの方角――つまりは今来た方角に駆け戻っていきます。
 さすがに焦った十兵衛先生、唯一沈黙を守っていたお沙和さんに「そんなことないよな」と助けを求めますが…お沙和さんは、私以外のみんなに優しくしてるように見えますと、冷たく言い放ちます…って、一番おっかないリアクションだよ! これが今週のオチかい!

 いやはや、同じ男として想像するだに恐ろしい今週の展開。自分が同じ立場に立たされたら果たしてどんなことになるかと考えただけでゾッとします(ていうか私ならたぶん自分も沢庵様んとこに走る)。
 しかし、端から見る分には面白い…という表現が悪趣味であれば興味深い今回。まさか山風作品でここまでラブコメ――というより最早ギャルゲー――的展開が繰り出されてくるとはと、原作を既読であるのに感心したり驚いたり。こんな展開が何十年前の作品で描かれていたとは、全く山風世界は奥が深い。
 そしてもちろん、せがわ先生の絵が、その原作の持つ味わいを何倍にも増幅して見せているのは間違いのないところ。正直なところ、劇画タッチの絵で今回のエピソードをビジュアライズされたら、読んでいるこちらが相当いたたまれない気持ちになったんじゃないかと思いますが、せがわ先生の適度に漫画的描写のおかげで、今回の悲喜劇のおかしさせつなさが、より一層増幅されて伝わってきた印象があります。とくに、二人に駄々こねられた時の十兵衛先生のリアクションはケッサクでした。

 そして今更ながらに気付いたのは、ほりにょ七人の(というか十兵衛側四人の)チーム分けの妙。
 例えば沢庵側の三人を思えば、お千絵は責任感で己を鎧っているでしょうし、さくらも厳しく己を律するタイプ。お鳥さんとキャラが近いように見えるお笛は、しかし腹の中に貯め込む前に爆発するタイプなので、やはり今回のようなことにはなりそうにもない。
 翻って十兵衛側を見れば、お鳥さんはともかく(失礼)、分別ありそうな元人妻組が今回の取り乱しようというのは、意外のようにも思いますが、しかし、一度は男性と結ばれたことがある――すなわち男という存在を、より理解している――からこそ、胸中に溜まったものが、思ずほとばしってしまったのかと思えば、誠に納得のいく展開ではないでしょうか。
 と、一番恐ろしいのは、自分の作ったものとはいえ、キャラの女心をここまで理解し、計算(?)して物語に配置した山風先生のセンスなのでしょう――あんな顔してるのにな(超暴言)

 なにはともあれ、思わぬことで空中分解した一行、これは普通の旅であれば、まあ時間が解決してくれる気がしますが、しかし二人が走り去った方角には…というわけで、さて一体どうなることか、来週は一回休みなのが全く持って残念であります。

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2006.11.13

「平安陰陽奇譚 愁恋鬼篇」 陰陽師への遙かな道程を

 以前紹介した「外法陰陽師」の如月天音氏のデビュー作。そちらにも登場する賀茂光栄と安倍晴明の修業時代を描いた、一種ビフォアストーリーとなっていますが、作者独自の視点から描かれた、他の陰陽師ものとは一味違うなかなかユニークな作品となっています。

 大陰陽師・賀茂保憲の子で陰陽寮の暦生の光栄は、ある日同僚から、急につれない態度を見せるようになった恋人の「占」を依頼されます。恋人が鬼に憑かれているのではないかと言うのですが、単なる心変わりやもしれず、恋に疎い光栄にとっては頭の痛い話。仕方なく彼は、十八歳上の弟弟子で、色事の達人・安倍晴明に相談、二人でその恋人から事情を聞き出そうとするのですが、鬼が憑いたのは彼女ではなく実は彼女の父で…と、事態は意外な方向に展開していきます。

 このように、本作で描かれる事件は、少なくともその発端はある意味ささいなことで、主人公二人も、才能こそは十二分にあるものの、身分的には正式な陰陽師ではなく、いってみれば研修生レベル。ビジュアル的にも美形というわけでもなく、ごく普通の人間として描かれています(まあ、その他にとんでもない人がいるのですがこれは後述)。晴明なんて妻子ある三十路男ですからね。
 しかしそれでは本作が地味で面白くないか、などというととんでもなく、こうした舞台背景・登場人物だからこそ描ける、地に足の着いた物語展開が本作の最大の魅力なのではないかと思います。
 光栄に「占」を依頼してきた男もその恋人も、言ってみれば中流~下流貴族の身分。平安ものでは今ひとつスポットライトが当たりにくいこうした階層の人々の生活・人生設計といったものが本作では丁寧に描かれており、そしてそれが一つの必然性となって、物語を生み出していくことになります。

 そしてまた、光栄と晴明もまた、修行中の身であることを抜きにしても、単純に超絶の力を持ったスーパーヒーローなどではなく、平安時代の社会制度・行政制度としての陰陽師(見習い)という、一定の枠の中で行動しなくてはいけない身分として描かれます。確かに、陰陽師は一般人から見れば畏るべき力を持ってはありますが、しかし同時にその力を好き勝手に使うことはできず、むしろ厳しく己を律しなければいけない存在。そんな陰陽師への道程を、術者としても一個の人間としてもまだまだ発展途上の光栄が、どのように歩んでいくか、という一種の青春小説的な味わいもここにはあり、それが決して明るい内容ばかりではない本作の読後感を、爽やかなものにしていると言えます。

 というように、なかなか個性的で面白い本作なのですが、もう一つ、本作を語る上で避けては通れない特徴というか何というかが。それは、光栄の父であり、光栄と晴明の師である賀茂保憲がほとんど本作のヒロイン…というより女神様状態であること。この保憲、陰陽師としての才が卓越しているのは言うまでもありませんが、何よりも目立つのはその美形ぶり。もう周囲の女性はおろか男性もメロメロで、実は晴明自身があわよくば…と思っているという、凄まじくBL風味の設定であります。
 まあ、あくまでも作品の賑やかしとしての設定であり、また、江戸時代はともかくあまり馴染みのない平安時代の男色というものについて解説されているのがなかなか面白かったので別によいのですが、これはこれで本書の一つの特徴ということで一応。


「平安陰陽奇譚 愁恋鬼篇」(如月天音 学習研究社) Amazon bk1

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2006.11.12

「天保異聞 妖奇士」 説六「竜気奔る」

 「天保異聞 妖奇士」第六話は、前回の重い展開を受けてどうなるかと思えば――やはり重い中にも前向きな輝きと、そして色々とネタ成分が含まれた、なかなか面白い回となっておりました。

 前回語られた雲七の死については、特段のフェイクはなかった様子。どうやら往壓の漢神の力でかりそめの命を得ているようですが、俺にもどうなってるかわからないと汗一筋垂らす雲七の姿が愉快であります。
 が、往壓が雲七を殺したことは事実であって、その罰を受けろとお染めさんとアトルに迫られる往壓ですが…なぜアトルが、と思えば、彼女の一族が人間同士の争いに巻き込まれて、罪なくして殺されていったからなのでしょう。

 …と、今回もなかなかヘビーな展開なのですが、この辺りからだんだん怪しげな空気が漂ってきます。所変わって南町奉行所では、アトルの馬・雪輪がお白州に引き出され、その前に現れたのは鳥居甲斐守。なかなか罪を認めない雪輪に業を煮やしたお奉行様は、この桜吹雪が目に入らねえかと、ぶるわぁとばかりに啖呵を切って…ってそれキャラ違う。何はともあれ、若本規夫の声で遠山景元の真似をする鳥居耀蔵などというものがみれて、一週間の疲れも吹き飛び…はしませんが、いいものを見せていただきました。

 が、そんなことをやっているうちに雪輪が暴走、金色の龍に変化して、江戸の上空を暴れ回る羽目に。早速迎撃に向かう奇士たちですが、巫女さんルックに着替えた宰蔵は、自分の張った結界上で舞うことにより龍をおびき寄せようとするのですが――それで何故舞いがフィギュアスケートになるのだ。なんかもう、ワイルド星人が操ってる宇宙竜みたいなのが飛び回る下で、ものすごく楽しそうにすいすい滑る宰蔵の姿は実にシュールで、もし何も知らない一般人がこの光景を見たら、確実に自分の目を疑うこと間違いなしです。

 しかし、そんな戦いもむなしく龍と化した雪輪には攻撃が効かず、アトルともども南町に捕らえられた往壓たち。そこでアトルが語る、彼女が日本を目指したわけ…国を失い、放浪を続ける彼女たちアステカ(鳥居様流に言えば「あすていか」)の民が、ならず者たちの襲撃を受けたその時――そこに現れた三人の男が、日本刀を振りかざして颯爽と悪人たちを蹴散らす! …日本刀!? メキシコ柳生? いや、あまりに突然だったので、鳥居様が啖呵切り出したのと同じかそれ以上にインパクトのあるシーンでした。

 …などと不真面目な感想はともかく、実に印象的だったのはその後の…今回のエピソードのラストシーン。暴走した雪輪…ケツアルコアトルを異界に帰すため、自分の身を生贄にするというアトル。南町側はもちろんのこと、奇士たちもそれを止めぬ中、ただ一人往壓のみは、もう一度、ケツアルコアトルと戦うことを決意(この時、止めようとする小笠原様に向かっての「奇士の務めだろうこれが!」の台詞がイイ)します。妖夷の出現には人の心が関わる。ならばそれを生み出した人間を殺せば全てが済むのか。奇士の役目は「ひとごろし」なのか。雲七が笑顔で見守る中、自分に出来ること――妖夷を倒すことをするために立ち上がる往壓の姿は、まさにヒーローと呼ぶに相応しいものであったかと思います(またこの台詞からEDに雪崩れ込んでく流れがいいんだ)。
 前回あんだけ放蕩無頼を尽くした挙げ句、雲七を殺した男が言うことか、という気がしないでもありませんが、しかし、そんな彼だからこそ、「ひとごろし」を拒否して、救える命を救おう、今自分に出来ることをやっていこうという言葉が重く、説得力を持つのではないかと思います。
 往壓が戦う理由としても、以前のほかにやることがないから、という消極的なものから、非常に積極的なものになってきて実に良い感じです。

 何はともあれ、今回は重たいストーリーに、ネタっぽい演出という、(個人的には)なかなか理想的なバランスで、これで妖夷との戦いをガッチリ描いてくれれば、もう満足です(あと、いい加減アビとえどげんは牽制係から脱皮していただきたい)。
 そして次回では、一連のアトル、そして雲七絡みのエピソードに決着が付く様子。アトルはともかく、雲七は消滅フラグが立ちまくっているような気がして非常に心配ですが――

 あ、でもさすがに39歳男のSDはどうかと思いました。


 も一つおまけ。うちのサイトでの天保十四年の年表。他のフィクション作品も掲載しているのでワヤですが、武江年表によれば、今回のエピソードは旧暦二月六日の事件のようですね。


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 「天保異聞 妖奇士」 説二「山の神堕ちて」
 「天保異聞 妖奇士」 説三「華江戸暗流」
 「天保異聞 妖奇士」 説四「生き人形」
 「天保異聞 妖奇士」 説五「ひとごろしのはなし」

公式サイト

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2006.11.11

「幕末機関説 いろはにほへと」 第六話「楽日燃ゆ」

 「幕末機関説 いろはにほへと」第六話は、前回登場した三人の守霊鬼との決着戦。赫乃丈一座の芝居の楽日を舞台に、耀次郎と守霊鬼たちとの激突と、もう一つ、別の戦いが繰り広げられることになります。

 物語は前回のヒキからそのままスタート。何故か中居屋の船に乗っていた左京之介は、どうやら耀次郎と相まみえるために中居屋に近づいた様子。わかったようなわからんような行動原理です(そんなに因縁が生じるような場面ありましたかねえ)。
 一方、芝居の楽日を前に、蒼鉄ははっきりと覇者の首を求めていることを、耀次郎の前で口にします。中居屋の過去の悪行のことといい、この人の知らざるはなし、という印象ですが、さて一体この人は本当に何者なのでしょうか。

 そして相変わらず横浜で時間を過ごす勝海舟の前に現れたのは、実在の侠客・火消しの新門辰五郎。火消しとして浅草寺の新門警備を担当したことから新門と呼ばれたこのお方、本編でも触れられていましたが、徳川慶喜とユニークな関わりがあったこの方、慶喜の上洛に従ったり、鳥羽・伏見の戦や彰義隊の戦いにも参加したという、まあ快人というか怪人というかな人物です。
 しかし勝さん、左京之介がいなくなっても大して気にしていないのは、本当にどうでもいいのかはたまた裏があるのか。とはいえ、確か辰五郎に益満休之助、山岡鉄舟という面子が揃っていれば、怖いものなしではあります。

 そして始まる楽日の舞台、満場の観衆の面前で、中居屋の企みを暴露する一座。なるほど、単に仇の名だけであれば、蒼鉄が赫乃丈たちに教えればいいだけの話、そうではなく芝居の中でわざわざ示してみせたのは、その悪行を多くの人の前で暴露するため、ということでしたか。

 と、ここでまたもや舞台上で襲撃をかけてくる悪鬼羅刹…正直、三話連続で同じパターンのような気がしますが、このあたり、ちょっと微妙(今回も舞台の進行に合わせたような登場シーンでしたし)。
 それとほぼ時を同じくして繰り広げられたもう一つの戦い。それは、石鶴楼に立てこもった水戸天狗党の残党たちと、英国軍の戦闘…というより一方的な虐殺。
 さすがにここまで大っぴらに英国軍が動くのはどうかと思いましたが(前回はパレードという名目を立てられたと思うのですが)、その跡の惨状を見て、勝が、江戸を舞台に焦土作戦をやってのけようという大秘策を断念することになったわけで、それはそれで意味がある展開だった…のかな?

 さて今回、場面場面の切り替わりに特徴的に見られるように、今回はテンポと演出のキレが良くて、見ていて気持ちのいいほどでした。特にAパートの終わりのタイミングとか、大したことをしていたわけでもないのに凄かったなあ。
 ただ、チャンバラシーンについてはかなり不満で、前回のような悲惨なものではありませんでしたが、折角面白そうな技と得物を持った連中が相手なのにそれぞれ一閃でケリをつけてしまうのは勿体ない…というより、演出に逃げたようにすら思ってしまいました。
 特に二刀流との決着シーンはカット割りではぐらかされた感が強く(その直前の足運びには「おっ」と思ったんですが)、チャンバラをちゃんと描けない最近の時代劇そのまんまなことをやっていたのに愕然としました。アニメだからこそ、役者の殺陣の技量に縛られないでしっかりしたチャンバラをやってくれるものと期待したのに…

 さて、それはさておき、五人の悪鬼羅刹も倒れ、敵の手駒も薄くなってきたようにも思いますが、まだ(もう)物語は全体の1/4近くを経過、この先まだまだ数々の波乱が待ち受けていることと思いますが…さて。


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 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第二話「地割剣嗤う」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第三話「石鶴楼都々逸」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第四話「裏疑獄異聞」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第五話「守霊鬼放たる」

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「竜門の衛」(再録)

 南町奉行所の同心・三田村元八郎は、ふとしたきっかけから次期将軍と目される徳川家重暗殺の企みを知り、これをかろうじて阻止する。その功績を買われた元八郎は、寺社奉行となった大岡忠相の臣となり、次期将軍宣下を巡る陰謀に立ち向かうこととなる。天下を私せんとする敵の陰謀は天皇の身辺にも及ぶが、元八郎は父・順斎や硬骨の公家・伏見宮とともにこれに立ち向かう。そして東海道を下る天皇の勅使一行を守って江戸に向かう元八郎だが、陰謀と因縁は思わぬ形で彼のすぐ近くに迫っていた…

 ネット上でかなり評判が良い作品なので読んでみたのですが、これが噂に違わぬ痛快作。少々厚めの分量も気にならず、一気に読むことができました。

 一介の(もと)同心が将軍親子はおろか時の帝まで守ってしまうというストーリーは、一歩間違えれば荒唐無稽以外の何物でもないですが、きっちりとシチュエーションを積み重ねて物語を展開しているため、(時代小説としては)ごく自然に受け入れることができ、主人公たちの痛快な活躍を思う存分楽しむことができる作品でした(このきっちりとした、自然なストーリー展開というやつ、当たり前と言えば当たり前のことなのですが、これをおろそかにしている作品が案外多いのも事実です)。
 もちろん、単に物語構成の妙のみならず、そこに織り込まれた謎や因縁も巧みで、特にすっかり忘れていた事件が終盤に意外な伏線として生きてくるのには感心させられました。また、当時の事物――特に時代小説の世界でも意外と馴染みの薄い当時の宮中の描写など――を丁寧に(冗長にならない程度に)作中で説明しているのも好印象。

 唯一、悪役の描写、特に台詞回しがあまりに類型的なのが非常に残念ですが、作者にとってこの作品がほぼ長編デビュー作ということを考えれば、この点もおいおい改善されていくことでしょう。続編も発売されているので、絶対読みます。


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2006.11.10

「織江緋之介見参 散華の太刀」 真の剣豪ヒーローへの道を

 剣の道のサラブレッドでありながら、独り吉原に居を定め剣を振るう孤愁のヒーロー、織江緋之介の活躍を描くシリーズ第四弾は、煙硝蔵爆発にまつわる陰謀に、緋之介が立ち向かうこととなります。

 当主・正信が家禄返上を申し出たことにより領地を没収され、家名の存続も危うい堀田家の江戸屋敷で、煙硝蔵が爆発、その裏に松平伊豆守の影があることを知った緋之介は探索に当たります。一方、伊豆守は己の命が尽きる前に怨敵たる緋之介を倒さんと刺客を放ち、伊豆守の政敵たる老中・阿部豊後守も、己に従わぬ緋之介を討つため、邪悪な陰謀を巡らせることになります。
 そんな中、ある事件が基で戦う心を失った緋之介。生ける屍と化した彼の復活の時は…

 という展開の本書、無双の剣士が権力による陰謀の影に切り込むというシリーズの、いや上田作品の基本パターンはそのままながら、より力点が置かれるのは緋之介の絶望と復活という人間ドラマであります。
 小野派一刀流と柳生新陰流を極め、剣士としてはほとんど向かうところ敵なしでありながら、純粋な心を持つが故に、傷つき、苦しんできたのが緋之介という青年。かつて己を愛した三人の女性を失い、それ故にその剣は女性を、弱き者を救うため振るうと誓った彼ですが、しかしそれ故、彼を襲ったアクシデントは、彼の戦う心、いや生きる気力を奪うのに十分であったのでした。
 そして、絶望の淵に沈んだ彼を救ったのが誰か――それはここでは書きませんが、しかしその人物の放つ言葉は、読者であるこちらの目をも覚ますほど鋭く、熱く、そして暖かいもの。この言葉が緋之介にもう一度戦う意味を考えさせ、そして立ち上がらせる件は、本作のハイライトであるとともに、人を殺める武器でもって人を守り、救うという一種矛盾した存在である剣豪ヒーローが如何にあるべきか、ということをも示した名シーンかと思います。

 そして再起した緋之介の前に立ちふさがるのは、掛け値なしに最強最大の敵。前の巻からこの対決を楽しみにしつつ、一体どうやってそのシチュエーションに持っていくのか案じていましたが、その戦いに二重の意味を持たせ、そして緊迫感溢れる決闘を描いてみせた作者の手腕には脱帽です。

 シリーズ全体としては一つのクライマックスを迎えた本作。大きな試練を乗り越えた緋之介が、時の権力という強大な敵に如何に立ち向かい、守るべき者を守っていくのか、再生した剣豪ヒーローのこれからの戦いを楽しみにしている次第です。


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2006.11.09

新雑誌「KENZAN!」の荒山徹作品に一読三噴

 さて、八日発売の講談社の新雑誌「KENZAN!」。比較的若い層を狙った、比較的若い作家が執筆する時代小説誌というコンセプトのようで、話を聞いたときから非常に楽しみにしていたのですが、早速入手してきました。まだ巻頭の作品を読んだだけなのですが…たぶんこの巻頭の作品が最大の問題作でしょう。だって作者は荒山徹先生。
 いやはや、本などを評するに一読三嘆という言葉がありますが、この作品に関しては、冗談抜きで読んでいる最中に三回噴き出しました。すなわち一読三噴。以下、たぶんネットで一番早い紹介を(例によってネタバレが多いので、ご注意下さい)。

 さて、この荒山先生の最新作ですが、タイトルは「柳生大戦争」
 `;:゙;`(;゚;ж;゚; ) …早速噴きました。つまりあれですか、朝鮮妖術に操られて三大柳生が戦ったり、はたまた古代朝鮮の遺跡から復活した大妖怪と日本中の柳生が戦ったりするわけですか、と勝手な想像をしていたのですが――豈図らんや、開幕の舞台となるのは十三世紀末。すなわち日本で言えば鎌倉時代でした。

 当時の高麗の国師(その国の王が帰依する僧侶)・晦然は、元寇の際に元軍の尖兵として日本に派遣され、戦死した高麗兵の死霊を慰めるため、危険を冒して日本に渡航します。が、早速捕らえられ、スパイ容疑であわや斬首の彼を救ったのは、天狗面の謎の剣士。亀山上皇の命を受けて駆けつけたこの天狗侠、その名は柳生悪十兵衛
 `;:゙;`(;゚;ж;゚; ) はい、二回目噴きました。またこのパターンか! 「十兵衛が出せないんだったら十兵衛を作ればいいじゃない」とばかりに俺十兵衛二号登場!! もう大変です。

 そして晦然は二号と、山伏の祖父と孫に扮して博多に向かうことになります。途中、二号から「お祖父さま」と懐かれて晦然がもの凄くデレったりする心温まる描写があったり、壇ノ浦であの国民的怪談をやたら下品な方向性でファックしたり(これに関しても色々と言いたいことはありますが、ここでは一つだけ。荒山先生、平家の怨霊は柳生や朝鮮妖術よりも洒落にならんので勘弁して下さい)と色々あった末に、熊野と縁深い九州の彦山に腰を落ち着けることになった晦然は、ある事業に着手することになります。

 来日して以来、彼の心にあった疑問「何故高麗は元に敗れ、日本は敗れなかったのか?」――彼が辿り着いたその答えは、「日本には神がいたから」。しかし高麗には神が、神話というものがありません。このままでは高麗は元に占領されたまま滅んでしまう。果たして神話なき国に神話を生むにはどうすればよいか…?
 と、ここでこちらの悪い予感はピークに達するのですが、ここで、荒山ファンの間ではいつ本格的に登場するかと囁かれていたあの壇君神話が登場(これについてはここここをご参照下さい)。かくして晦然は、「神がいないんだったら神を作ればいいじゃない」とばかりに、日本の神話をアレしてせっせと神話作りにいそしむことになります。

 以下、晦然が神話を作り出すまでの一人ブレーンストーミングが描かれるのですが、正直、この辺りは荒山先生の悪い癖の「延々と一人のキャラが電波話を説明」なのですが、ここで晦然が語る、自分で決めたルール、それは「捏造で捏造を糊塗するべからず」
 `;:゙;`(;゚;ж;゚; ) 三回目噴いた。いやいやいや、してますから! 思いっきり糊塗してますから! 正直、この辺りの晦然の悩みは、荒山先生の執筆風景に(見た事もないのに)被って見えるのが実に愉快であります(と、仮に荒山先生が晦然に自分を投影しているのであれば、上記の、二号に懐かれてデレる晦然というのは、非常にナニな感じに見えてくるのですが、これはさすがに妄想が過ぎるでしょう)。

 それにしても、新雑誌の巻頭でよりにもよってこんなネタを繰り出してくる荒山先生と、それを許した(スルーした)講談社の度胸には感動したというか戦慄したというか…。いや、真面目な話、元の侵攻に対する勝敗の根元を、神の存在の有無に求めるという考え方は非常に面白いアイディアで感心しましたし、ちゃんと登場人物に「あまり自分とこの神を絶対視して調子に乗ってると国が滅びますよ」と釘を刺させておいて、それが更にラストに示される驚愕すべき伝奇的展開につながってくる点は、さすが! と言うほかありません。
 しかし、判断力のない方や、人の言うことを鵜呑みにしてしまう方が読んだら(今回も)ちょっとアレじゃないかな…と一瞬思ったのですが、冷静に考えれば「よし、高麗民族の共通始祖神は、柳生悪十兵衛である、と。」などと大真面目に書いてしまう人のことを鵜呑みにする奴ぁいませんわな。

 さて、この調子で鎌倉時代が舞台で続くのかしら? と思ったら、ラスト六行で大展開。柳生 of 柳生のあの人、ボクらのアイドルの黒い人が登場したところで次号に続く、という憎い展開となっておりました。果たしてこの先どうなってタイトル通りの展開になるのか? 数ヶ月先の第二号が非常に気になります。


 …と、期待の新雑誌が出たというのに延々と荒山話ばかり書いてしまって申し訳ないのですが今日はこれまで。その他の作品については、別途紹介させていただきたいと思います。


「KENZAN!」(荒山徹他 講談社) Amazon

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2006.11.08

「今昔物語 世にもふしぎな物語」 まだまだ面白い物語の宝庫

 小沢章友先生と言えば幻想小説の名手、特に土御門クロニクルをはじめとする平安幻想譚は私も大好きなのですが、その小沢先生が、子供向けにあの「今昔物語集」をリライトしたのがこの「今昔物語 世にもふしぎな物語」。「今昔物語集」のうち、幻想・怪奇要素の強い物語全18篇が収められています。

 「今昔物語集」といえば、些か下品な表現をすれば平安ものの元ネタの宝庫(例えば夢枕獏の「陰陽師」などがその典型ですね)。本書においては、「ふしぎな物語」に焦点が合わせられているだけに、そうした作品でお馴染みの物語、例えば瓜売りと幻術使いの老人の話、安義橋の鬼の話、源博雅と玄象なる琵琶の話、そして安倍晴明の物語等々が収録されています。
 しかし…個人的にはそういったメジャーどころ(?)の物語の印象が強かったため、「今昔物語集」については、勝手に大概の話を読んだ気になっていましたが、それが大間違いであったことに気づかされたのは本書の収穫。不勉強でお恥ずかしいのですが、まだまだ面白い――愉快な意味の「面白い」もあれば、一風変わっている、あるいは興味深いという意味の「面白い」も含めて――物語の宝庫だわいと、今更ながらに気づかされました。

 例えば「虫男がくるみ酒でとける話」(本書でのタイトル。以下同)など、寄生虫が変化した男が信濃の国守となって任地に向かうも、饗応の席で苦手な胡桃酒を飲まされて溶けてしまうという奇想天外なお話。また、「力持ちの美女の話」は、美人ながらもとてつもない怪力の持ち主である女性を人質に取ってしまった盗賊の悲喜劇で、その怪力描写の無茶っぷりが漫画チックで愉快なお話(すぐに清水あすか様の姿が脳裏に浮かんだのはナイショ)。
 この他にも、そんな話あるかい! と突っ込みたくなってしまうような話から、あまりにすっとぼけていて唖然としてしまうような話まで様々で、怪異というものを(畏れつつも)あっけらかんと受け容れていた当時の空気が伝わってきて、実に面白く感じた次第です。
(なんでえ三田の野郎、こんな話も知らなかったのかよ、と笑われそうですが、それは甘んじて受けまする)

 さて、正直なところ小沢先生の名前だけを見て手にした本書、対象年齢は小学上級からなのですが、原典自体が平易な文章ということもあり、原典の持つ一種のバイタリティをより明確にしたリライトと作品チョイスの巧みさもあって、子供向けという印象はほとんどありませんでした。もちろん、高いクオリティで書かれているとはいえ、子供向けの本を大々的に薦めるというつもりはありませんが、しかし入門書としては非常によく出来ている部類であることは間違いありますまい。
 清水耕蔵先生のイラストも、時に可笑しく、時に迫力があって物語世界によくマッチしておりますし、これをきっかけに古典の面白さに目覚める子供がいてくれれば、それはとても喜ばしいことだと思います。
 ちなみに小沢先生は、他にも同じ青い鳥文庫で御伽草子や雨月物語をリライトされているようで、こちらも探してみようと思っているところであります。


「今昔物語 世にもふしぎな物語」(小沢章友編訳 講談社青い鳥文庫)Amazon bk1

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2006.11.07

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 とりかえしのつかぬ恐ろしい敵…

 今週の「Y十M 柳生忍法帖」は、前回から引き続き沢庵和尚サイドの描写から。思わぬ天海僧正の出現に助けられておとね救出に成功した一行ですが、しかし浮かぶのは天海僧正の謎めいた言葉への疑問ばかりであります。
 そもそも天海僧正の正体は何者か? ということで沢庵と七人坊主の口から様々な説が語られます。やはりこの中でメジャーなのは明智光秀説ですが、もしそうだとすると天海僧正はかつて忍法「人蟹」でアレしたり、果心居士の弟子の術にかかってナニしたりということになってしまうんですが<それは別の作品の話
 そこで浮かび上がってくるのはかつて会津を支配していた豪族・芦名氏の出身という説。前回七本槍の口の端に上った「芦名銅伯」の名もあり、沢庵は十兵衛たちの身を心配しますが――

 が、それが本筋ではない、というわけで(本当かい?)場面は移って十兵衛サイド。秋の紅葉の下を行くご一行、何だかとても楽しそうに見えますが…
 お沙和さんは、十兵衛先生の無防備な寝姿に夜具をかけてあげた上にじっと見つめてみるという、男として一度はこういうことされてみたい攻撃を仕掛けてくるわ、お鳥さんはかいがいしく十兵衛先生の肌着を洗ってあげようとしたり…
 何というか、既に七人坊主は亡きなきものとして扱われているような気がしますが、さすがに人ができているのでこの方たちは気にしない。しかし肝心の十兵衛先生は――こちらも気にしていない、というか気づいていないようなのですが、さてこれはこれで。
 何よりも問題は、お沙和さんがかけてくれた夜具にいつの間にかお圭さんが入っていたり(これはこれで男として一度は(以下略))、お鳥さんが洗濯しようとしたら当番でもないのにお圭さんが先に洗濯してたりすることなんですが。

 そんなバランスの悪いあいのり状態で旅するうちに、ほりにょたちの間に吹き始めた微妙な隙間風。お鳥さんを除けば全員元人妻で、みな分別はありそうなんですが…むしろそれがマズいのか。先日の花地獄での偽花婿花嫁の件があり、お圭さんが何やら周囲からハブられて、修羅場的空気が漂ってきました。
 沢庵さんは「とりかえしのつかぬ恐ろしい敵」の存在を案じておりましたが、何ぞ知らん、こんなところに恐ろしい敵が居たとは。

 そしてラスト、岩だらけの道でコケたお圭さんの姿で以下次号。単にコケただけなのに、柱の煽り文句がずいぶん大仰のよういに思えますが、これが本当に一行を思わぬ窮地に立たせるのだから面白い。
 さて、果たしてこの先どうなりますか、今週原作にはないオリジナルの嫉妬シチュエーションを描いて下さったせがわ先生が、原作をどのように料理して下さるのか、非常に楽しみです。

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2006.11.06

「天保異聞 妖奇士」 説五「ひとごろしのはなし」

 「天保異聞 妖奇士」第五話は、これまでとがらりと趣を変えた往壓の過去話。往壓が過去に人を殺しているらしい、というのは前回の予告の時点でわかっていましたが、さて誰を、そして何故殺したのか、と思えばそれは――。話の展開で言えば過去話中心の地味な回ですが、内容はかなり衝撃的なエピソードでありました。

 前回登場した生き人形の怪・ギギは、人間離れした往壓の(褌チラありの)アクションによって冒頭でお役御免。アビとえどげんのちょっとだけコミカルなシーンもあって、ここまでは普通にエンターテイメントしていて油断していたのですが…やっぱり會川昇。ビデオを撮っておいて日曜日の朝に見たのですが、いやはや、さわやかな休日の朝から腹にズーンと堪える展開で参りました。

 アトルの馬は鳥居の元に連れ去られ、後始末はゴタついたものの、まずは一件落着。アトルを匿って、またふらりと現れた雲七と昔の思い出話をしていたところにアトルが雲七を悪魔呼ばわりして包丁持って斬りかかる(って大概だねこの子も)…と、あからさまに怪しいエフェクトで消える雲七ですが――
 そこにタイミング良く(悪く)現れたのは、往壓を人殺しと呼ぶ女・お篠。雲七のかつての恋人であり、往壓とも顔見知りの彼女は、往壓が雲七を十五年前に殺したと告発します。
 そして十五年前の事件を思い出す往壓(ちなみに往壓と雲七が知り合った頃のやんちゃぶりを描くシーンのBGMが妙に軽快で楽しい)ですが――お篠さんを手込め(未遂)の上、怒った雲七に斬りかかられて思わず刺してしまったと…なんてこった。

 ネット上の感想を見ても賛否両論…というか少なくとも往壓の行動には否がとても多い今回のエピソード。僕個人の印象で言えば、己が現世に居場所がないことを理由にお篠を襲った往壓の行動には共感はできないし同情もしませんが、彼がそんな行動に出たことについては(なるほど彼の立場であればこういう考え方をすることもあるかと)理解はできました。全くもって自分勝手な行動でありますが、裏を返せば自暴自棄に命知らずに暴れ回るのと、彼にとっては同じ意味を持つ行動であったのかな、と感じます。

 一方、そんな彼に斬りかかった雲七の「怖いのは、この世が嫌なのは、あんただけか!!」「誰だって死にたくねぇ。あんたも、皆も、同じだ…」も全くもって正論。確かに人間誰だって特別で誰だって普通なんだよなと、自分のことを特別扱いして棚に上げる往壓のこともそれに怒る雲七のことも、妙に納得できてしまうのはこちらが年取ったせいだからでしょうか。
(ちなみにこの時、事前にこっそり目釘を抜いておく雲七の実戦殺法(?)にちょっと感心)

 何はともあれ、意外な往壓の過去と雲七の正体(の一部?)が語られたわけですが、さてこれがどこまで素直に受け取ってよいものなのか。お篠さんを襲ったことは事実としても、雲七を殺した記憶は本物の記憶なのか。色々と想像はできますが、今回のエピソードが全て事実だったとしても、個人的には案外納得できるものがあります。
 とはいえ、さすがに雲七は往壓の良心の呵責が生んだ幻覚、というのでは、往壓が万年モラトリアム人間からサイコさんにクラスチェンジしてしまってあんまりなので、そこは何とか一つ(というより雲七は個人的に好きなキャラなのでこんなに早く退場されると悲しいのです)。

 それにしても今回のエピソード、ヤな方向にインパクトがありましたが、これだけ取り出してみると、人情もの時代ホラーの世界なら大アリなお話で、これはこれで落ち着いて見てみるとなかなか面白かったとは思います。とはいえ、前回までの伝奇活劇とはあまりにも変わった展開の上に内容は内容なので、これァメインの視聴者層からは受けないだろうなあ…
 それに前回鳥居方に量産型妖夷が出てきた時点でも思いましたが、半年どころか一クールエンドの作品といっても信じてしまうほど展開が早くて、本当に一年やるのか、余計な心配もしてしまいましたよ。


関連記事
 「天保異聞 妖奇士」 説一「妖夷、来たる」
 「天保異聞 妖奇士」 説二「山の神堕ちて」
 「天保異聞 妖奇士」 説三「華江戸暗流」
 「天保異聞 妖奇士」 説四「生き人形」

公式サイト

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2006.11.05

「幕末機関説 いろはにほへ」 第五話「守霊鬼放たる」

 「幕末機関説 いろはにほへと」第五話は、前回に引き続き真の仇を引きずり出すために芝居を続ける赫乃丈一座に、新たな刺客が、それも三人襲いかかることになります。さらに「覇者の首」の来歴も語られ、赫乃丈一座の復讐劇においても、耀次郎の使命においても、新たな展開が見られた回でした。

 今回耀次郎たちの前に立ち塞がるのは、中居屋重兵衛配下の五人の悪鬼羅刹のうち、残る三人。
 烏丸流小具足・烏丸九郎太
 火袁流青龍刀・劉火袁
 蜂須賀二刀流・蜂須賀彦斎

ビジュアル的にも使う武術も、いかにもいかにもな曲者揃いで嬉しくなってしまうのですが、ここで中居屋は彼らの更なるパワーアップを図ります。久々に登場した「覇者の首」…その力を自在に操る怪人・覇多冥風により、三人は人外の力を持つ「守霊鬼」なる存在へと変生させられることとなります。

 しかしこのシーンで真に印象に残ったのは、中居屋の口から語られる「覇者の首」の正体です。曰く、物語の時代から遡ること2004年前、始皇帝に弓を引き斬首された男が、この世に戦乱をもたらすべく悪霊と化したもの。その災いを呼ぶ力を恐れて、かの徐福によって日本にもたらされ、封じられながらも、玉藻前・平将門・織田信長らの手に渡り、幾度となく日本に戦乱を招いたもの――それこそが「覇者の首」だというのです。
 うむ、素晴らしい伝奇的アイテムです。玉藻前(九尾の狐として知られる人)だけちょっと浮いているような気もしますが、なかなか壮大で面白い設定です。

 ちなみにここで気になるのは、覇多冥風という名。かつて徐福と袂を分かった者の末裔という設定ですが、覇多(はた)で渡来人と言えば、すぐに浮かぶのは秦氏。秦氏はその由来に謎が多く、いわゆるトンデモ系にはしばしば顔を出す存在で、始皇帝の「秦」の末裔という説もあります。もちろんこれはこちらの勝手な連想ですが、少なくとも発想の源にはなっているのではないでしょうか。

 さて、耀次郎たちと守霊鬼の死闘が繰り広げられたのは石鶴楼。何者かが仕組んだ舞台に登った赫乃丈一座を襲う守霊鬼三人ですが――久々に登場した気がする赫乃丈のゴス着物、また赫乃丈を救ってしまった左京之介のスナイプ、何でも知っている蒼鉄先生などと面白い部分もあったのですが、折角の大アクションになるはずが…どうにも低調でありました。
 特にマズいのは耀次郎と蜂須賀彦斎のチャンバラシーンで…いや、折角殺陣のスタッフがいるというのに、vs二刀流というおいしいバトルなのに、アレはないでしょう。二刀流は二刀流なりの剣の振るい方があるはずで、それは人外の怪物になっても異ならないはず。リターンマッチの際にはきちんとした剣戟が見られることに期待します。

 と、そんな中で健闘していたのは、屋根の上での案山子vs烏丸の対決。対決というより一方的に案山子がやられていただけなんですが(というか案山子、守霊鬼よりよっぽど不死身)、他が他なだけに、迫力が目立ちました。ちなみに小具足とは、簡単に言えば小手や臑当て等、鎧兜を着る前に装着する防具のことで、転じてそのような姿で敵と戦うための素手の武術のことですが、さすがに刀相手だったら案山子もまずかったのだろうなあ。
 しかしよく見たら烏丸、ハイレグなのね…

 そしてラスト、中居屋の船にいたのは…左京之介? というインパクトのある引きでおしまい。次回は遂に芝居も千秋楽、真の仇の名を台本に載せる蒼鉄先生ということですが…名前知ってるならわざわざ芝居にしなくてもいいんじゃ。


「幕末機関説 いろはにほへと」第1巻(バンダイビジュアル DVDソフト) Amazon

関連記事
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第一話「凶星奔る」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第二話「地割剣嗤う」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第三話「石鶴楼都々逸」
 「幕末機関説 いろはにほへと」 第四話「裏疑獄異聞」

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2006.11.04

「鳳凰の黙示録」(その二) 荒山徹の単行本未収録長篇

 さて、「鳳凰の黙示録」紹介の続き。主人公の前に立ち塞がる妖人集団、魔別抄十人衆の陣容は――

晋陽候・崔魍:魔別抄のリーダー。無敵の刀術を操る仮面の男
権妃:相手の殺意を反射する瞳術使い
火炎獣伯爵:周囲を火の海に変えるプルガサリ使い
虎貌卿婁伯:虎の顔を持つ女剣士
蝙尤旗:恐怖こうもり男
甲賀:カッパ。…カッパ?
蛟伯夫人:伸縮・飛行自在の怪竜ヨンニムを操る美女
月池宮蟇伯:月世界を経由しての瞬間跳躍術と、最大最強の妖獣タルトゥッコビ(月の蟾蜍)使い
四天王寺成典:青龍刀使い。真田十勇士と対決
玻璃鏡伯:変幻自在の変身忍者。真田十勇士と対決

 …と、たぶん荒山徹を知らない人に言っても信じてもらえないような顔ぶれ。ノリとしては、「仮面の忍者赤影」(もちろんTV版)で、こんなの朝鮮はおろか、どこの国を探してもいねえよ! という連中が大暴れするわけで、好きモノにはもうたまりません。
 なにせ魔別抄一番手の権妃からして、自分に向けられた殺意をそのまま跳ね返して相手を自滅させるというどっかで聞いたようなバジリスク。一番最初の敵が時間を止めるオーバースキルを使ってくるくらい無茶なチョイスです。そして彼女とコンビを組む火炎獣伯爵が操るのは、「地底火獣プルガサリ」という、OPの最後に影絵で登場しそうな肩書きが付けられた怪獣で――もう絶望的な頭の悪さです。大好き。
 さらに三番手の虎貌卿婁伯は隻眼の虎面の剣士という、どうみてもタイガージョーなのに体は女性という罪深いキャラ。女体化に比べたら、ネオ歌舞伎町でヤクザの用心棒やってるなんて可愛いものであります。

 と、このように一人一人について語っているとキリがないので止めておきますが、あと一人紹介しておかねばならないのは魔別抄のリーダー・晋陽候。物語中盤で明かされる、壮一鴻やかの宮本武蔵すら戦慄させるほどの刀術を操る彼の正体とは――妖術にて他者の体を奪うことを繰り返し、数百年にわたり生を繋げてきた怪人。そして現在の体は、実は朝鮮に渡っていた伊藤一刀斎のものなのでした!
 …
 …またですか。柳生の次はあの流派が登場するのは時間の問題だったとはいえ、こんな無惨に流祖をファックしてしまうとは、荒山先生のブレイブハートに(以下略)

 まあ、戯言はさておき、さすがに敵側も――というより敵側こそ――怪能力のみならずきちんとドラマを背負っていた「魔風海峡」の壇奇七忍衆には一歩譲るものの、しかしその個性豊かな活躍ぶりの楽しさは、荒山作品でも屈指のものと言ってもよいかと思えるのです、この魔別抄の面々は。


 しかし――本作が素晴らしいのは、単に彼ら個性的なキャラクターの面白さのみならず、そのキャラたち敵味方の、戦力バランス取り方の良さ…というよりバトルシーンの盛り上げ方の匙加減が実に巧みな点であります。

 個人的な話になりますが、最近の荒山作品において些か不満に思っていたのは、戦力のバランスの悪さ。例えば「柳生雨月抄」においては、スーパーコーディネーター並みの厨めいたスペックを誇る主人公が怪人怪獣を蹴散らしていた一方で、「処刑御使」においては、朝鮮側の変態怪獣たちに、日本側はもしかしてそれはギャグでやっているのかと言いたくなるほど一方的に蹂躙されておりました。
 もちろん、それはそれで必然性のあることであり、またバトルばかりが作品の構成要素ではないだろと言われればその通りではありますが、しかし、やはり敵味方のどちらが勝つかわからない、どちらが勝ってもおかしくないシーソーゲームの方が、物語として盛り上がるのは間違いのないところであり、読んでいてそれを期待してしまうというのが人情というもの。

 そこで本作ですが――主人公である碧蓮は、父母譲りの剣の達人ではありますが、身体能力的にはあくまでも常人の範疇であって、超常の力を操るわけではありません。それは共に戦うことになる一鴻も同様ですが、しかしそこで冴え渡るのは、荒山先生の、敵味方の能力設定と、それを活かしまた制限する状況設定双方の妙。
 ある時は知恵で、ある時は技で、またある時は運でもって戦い抜く碧蓮たちと、常人の到底及ばぬ魔人の技を操る(しかし時としてその力が両刃の剣となる)魔別抄の真っ向勝負は、上記の不満を感じさせない、丁々発止という言葉がピッタリはまる、サスペンスフルな名勝負の連続で、大いに楽しませていただきました。ことバトルシーンの面白さという点では、最近の作品ではトップクラスなのではないかと思います。


 もっとも、ストーリー、キャラクターともども、本作は手放しで褒められるわけではないのも正直なところではあります。荒山作品でまま見られる、物語の根幹をなす秘密が一人のキャラの口から延々と語られる構成の不味さは本作にもありますし、また初めは頑なだった碧蓮の心境の変化が十分に描かれているか、そして主人公として碧蓮が魅力的かと言えば、これは――私個人の主観ではありますが――微妙に感じられます。

 しかしながら、いくつかの瑕疵はあったとしても、それを遙かに上回るネタ度魅力の数々でそれを吹き飛ばしてきたのが(最近の)荒山作品。本作もその例外ではなく、面白いか面白くないかと問われれば、大変面白い、とためらいなく僕は答えます。
 ことほどさように(色々な意味で)充実した内容でありながら、いまだ単行本化されていない本作。理由は色々と想像できますが、それはまあ、こちらが気にすることではありますまい。今は少しでも早く――できれば上記の問題点が解消されて――本作が単行本化されて、少しでも多くの方の手に届くことを祈るばかりです。


 ちなみに本作は臨海君や真田十勇士など「魔風海峡」と共通する人物も登場しますが、特に十勇士は相当の扱い(ヒント:ジャガられる)なので、「魔風海峡」ファンは、両作品は繋がりのない別物と思っておいた方が精神上よろしいかと思います。


「鳳凰の黙示録」(荒山徹 「小説すばる」2004年2月号,5月号,8月号,11月号,2005年2月号,5月号掲載)

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2006.11.03

「鳳凰の黙示録」(その一) 荒山徹の単行本未収録長篇

 新雑誌での作品掲載も決まったことだし(?)、荒山徹の長編中、現時点で唯一単行本化されていない「鳳凰の黙示録」を紹介。江戸時代初期の朝鮮と日本を舞台に、朝鮮王家の御家騒動が、やがて太古から相争う二つの民族の命運を賭けた戦いに発展していく、希有壮大な伝奇ロマンです(基本的にネタバレですが、あまりにもマズい部分は白色で書かせていただきます)。

 暴君・光海君は、自らの王位を脅かす永昌大君を弑せんとして、かつて同様の命を受けて臨海君を暗殺した王朝直属の女剣士集団・琴七剣を派遣します。が、琴七剣のリーダー・紅蓮は幼い永昌大君を殺害するに忍びず、王命に反抗、逃亡します。が、彼女たちは、追っ手として派遣された王家の諜報機関・魔別抄の妖獣・妖術使いたちに次々と倒され、残ったのは、メンバー中最年少の碧蓮のみ。果たして碧蓮は永昌大君を守り抜くことができるのでありましょうか!?

 というのが全体の三分の一までのあらすじ。その後、碧蓮は、母である紅蓮の遺言に従い、永昌大君を連れて白頭山の山頂湖・天池に向かうことになります。そこで彼女を待っていたのは、王家の血筋のみが封印を解くことができるという鳳凰の鍵。しかし魔別抄の怪人軍団の襲撃は続き、さらに琴七剣とは不倶戴天の間柄である義賊・洪吉童とその片腕・壮一鴻までもが現れて事態は一気に複雑化。
 共通の敵である魔別抄を倒すため不承不承壮一鴻と手を組んだ碧蓮ですが、なんと一鴻は彼女たちを日本に――それも徳川と開戦間近の大坂城に誘います。実は大坂城の地下に眠るのは、一千年間眠り続ける鳳凰の卵。天湖で碧蓮が手に入れたのは、その封印を解くカギの一つだったのでありました…!

 この辺りから物語は異常にスケールアップ、古代より千数百年にわたる、アジア秘史が語られていきます。実は、日本民族こそは、太古、大陸で平和に暮らしながらも戦に敗れて日本列島に渡ってきた、調和を重んじる鳳凰族の末裔。そして、朝鮮の宗主国たる中華民族こそは、かつて鳳凰族を大陸から放逐した、戦いと力を重んじる龍族の末裔だったのです(この辺りで一度呆れる)。
 実は明朝から送り込まれた龍族の一員・徳川家康は(今度は明か!)、大坂城を奪ってその下の鳳凰卵を手中に収め、アジアを龍族の支配する地としようとしていたのでありました。この野望を挫くには、二つある鳳凰の鍵を手に入れなければいけないのですが、未だ鍵は碧蓮の持つ一つだけ…
 碧蓮と一鴻は、果たして豊臣と徳川の決戦の前にもう一つの鍵を見つけることができるのか。そして徳川と手を組んだ魔別抄との死闘の行方は…

 と、ダラダラあらすじを書いてしまいましたが、ご覧の通り波瀾万丈にも程がある本作。荒山作品で先の展開がが読めないのはいつものことですが、ここまで主人公の、物語の向かう先が二転三転するのも珍しいのではないかと思います。


 さて、そんなダイナミックな物語ではありますが、本作はそれに負けないだけのキャラが目白押し。
 まず主人公たる美貌の女剣士・碧蓮ですが、彼女は、実は臨海君と琴七剣のリーダー・紅蓮との間の子(!)であり、父から譲られた村正を持つ剣の達人という見事に立ったキャラ設定。任務とはいえ、何の躊躇いもなく臨海君を斬った紅蓮にわだかまりを持ち、その母が救った――そしてそのために仲間が全滅することとなった――永昌大君の存在にも複雑な想いを抱く彼女が、数々の死闘を経て、どのように成長を遂げていくのかは、彼女が決して万能な人物でないだけに一層、興趣をそそります。

 そしてその彼女とは殺し合うべき立場にありながらも、やがて…という立ち位置の快男児・壮一鴻の正体は、なんと薄田隼人という、これまた荒山度の高いキャラクター。更にその主である洪吉童こそは、実は豊臣秀頼その人であった! とくれば、いつもの、書き手の正気を疑わざるを得ない荒山ワールド全開であります。
 何というか、秀頼がホイホイと朝鮮まで出かけて義賊やってるのはいいとして(よくないよくない)、よりによって朝鮮の実在の(黄山哲の創作でないという意味。ただし史実では本作の約100年前の人物)伝承中のヒーローたる洪吉童の正体を、よりによってあの人物の息子とするとは、相変わらずのブレイブハートにもうウットリです(しかし、こんな豪快な設定の秀頼、朝松健先生の「闘・真田神妖伝」以来です)。

 そして――そんな味方陣営以上に魅力的で個性的なのは、敵役たる魔別抄十人衆のキャラクター。その陣容は…というところで長くなってしまったので続きます。


「鳳凰の黙示録」(荒山徹 「小説すばる」2004年2月号,5月号,8月号,11月号,2005年2月号,5月号掲載)

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2006.11.02

新雑誌KENZAN!

 右サイドバーの掲示板でご質問いただいた件。もう講談社からのメールマガジンに掲載されているので載せても問題ないと思いますが、11月8日に講談社から「KENZAN!」というタイトルの雑誌形態の時代小説ムックが発売されます。若手・中堅クラスの作家メインとなるようですが、第一号に掲載されるのは、荒山徹、畠中恵、米村圭伍ほかの先生方の作品のようです。…滅茶苦茶食い合わせの悪そうなお三方ですな(いや、私は皆大好きですが)。
 と、それはさておき、時代小説専門で一冊出るというのは嬉しいお話。イメージ的には「メフィスト」誌に近い形式になるのかな、と思いますが、発売を楽しみに待ってます。もちろんこのblogでも紹介いたします。

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「道長の冒険」 優等生ではあるのだけど…

 若き日の藤原道長と、不思議な力を持つ楽人の少年・真比呂が不可思議な事件の数々を解決する「平安妖異伝」の続編たる「道長の冒険」が文庫化されました。
 前作のラストで真比呂が何処かへ去ってから一年、京の都で起こるのは数々の異変。そんな時に道長の前に現れたのは真比呂から遣わされたという寅麿なる男が現れます。聞けば、異変は根の国を支配する無明王の仕業、真比呂もまた、無明王に捕らわれているとのこと。友の窮地を見過ごしにはできぬと、道長は寅麿を供に、根の国へと向かいます。

 このあらすじからもわかるように、連作短編形式のゴーストハントもの的作品であった前作とは異なり、長編ファンタジーとも言うべき本作、舞台のほとんどは京の都から離れた異界で、山海経などの中国怪異譚や、本朝の霊異譚を思わせるキャラクターや事件が道長の前に現れることになります。私は読んでいる最中、諸星大次郎先生の中国ファンタジーを思い出しました。

 さて、次々と登場する不思議な世界がなかなか楽しい本作ではありますが、個人的にどうしても気になってしまったのが道長のキャラクター。一言で表せば、非常に人間が良くできた優等生なのですが、それがために個性が薄く感じられるのです。
 この道長の優等生ぶりは、前作から見られたのですが、その時にはより超然とした真比炉というキャラが傍らにいましたし、舞台も京の都ということで、平安貴族としての道長の姿も描かれていました。が、今作では、冒頭とラストを除けば舞台は異世界ということもあり、比較すべきものがなくなって前作以上に道長が「良くできた主人公」以上に見えなくなっているように思われます。
 失礼を承知でさらに言わせていただければ、道長を主人公とする必然性が薄いのではないか(もちろん、前作での真比呂との結びつきという大きな理由はあるのですが…)とすら感じてしまった次第です。

 そういった意味も含めて、ここで完結となってしまうのが何とも残念なこのシリーズ、何とか続編を――第一作目のスタイルで――書いていただけないものかと思っているところであります。


「道長の冒険 平安妖異伝」(平岩弓枝 新潮文庫) Amazon bk1

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 平安妖異伝

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今日の小ネタ(ゲームネタ二題)

 今日の小ネタですよ。今日はゲーム関連のお話二題。

飯島健男改め飯島多紀哉個人サイト開設
 しばらくゲーム業界から姿を消していた飯島健男氏が、飯島多紀哉と名を改め個人サイトを開設。
 飯島氏といえば、うちのサイトでも攻略をやった「抜忍伝説」をはじめとして、時代シミュレーションRPGの名作「戦国サイバー 藤丸地獄変」など伝奇時代ゲームをいくつも送り出してきたクリエイターであり、まあ昔っからゲームをやっている人間には色々な意味でお馴染みの方であります。

 まずは諸般の事情で中絶している「ONI零」のオリジナルストーリーを同人誌で展開するとのことですが、平安時代を舞台にしていたゲーム版と異なり、戦国時代が舞台になる模様。基本的に同人誌に興味のない私でもかなり気になる内容です。

 しかし自分の作った作品にGBとSFCのONIが入ってるのってどうなのかしら…確かに自分の会社の作品ですけどね。

Wii バーチャコンソール最初のラインナップ発表
 12月2日発売の任天堂の次世代機Wiiで過去のハードのゲームがプレイ可能となるバーチャコンソールの最初のラインナップが発表されました。

 残念ながら時代ものゲームはファミコンの「影の伝説」と「忍者じゃじゃ丸くん」だけなのですが、今回は元々時代ものが非常に少ない任天堂のタイトル中心ということなので、まあ仕方のないことなのかもしれません。これからも相当のタイトルが登場するはずですので、そちらに期待したいと思います。とりあえずPCエンジンの時代ものが出てくれないかなあ…

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2006.11.01

「無限の住人」第二十巻 不死力解明編、怒濤の完結!

 さて、「無限の住人」最新二十巻ですが、実に長々と続いてきました不死力解明編もいよいよ完結することとなりました。一時期は本当にもう、どうしようかと思ったこのエピソードですが、終わってみれば実に見事で美しいドラマとなっておりました。

 この巻では、前の巻に引き続き、ひたすらアクションとチャンバラのつるべ撃ち。これまで捕らえられて解剖されるばかりだった万次が鬱憤を晴らすかのように大暴れ、久々の万次流アクションを満喫しました。

 初めに登場するは、前の巻から引き続きの怪人・山田浅右衛門先生。斬った人数ならおそらく万次以上、鉄をも断つ秘剣を操る剣鬼に、万全の体制とはいいがたい万次が如何に立ち向かうか?
 そしてようやくこれを下したかと思えば、次に立ち塞がるのは、不死力に魅せられて狂気に走った蘭学医・歩蘭人が生み出した最強の怪物。ただひたすら戦うことのみのために改造された不死身の狂戦士に、万次・凛・瞳阿・夷作の総力戦であります。

 そしてようやく脱出に何の障害も無くなったかと思いきや、四人を襲う最後のカタストロフィ。更には倒したはずのあの人物まで登場、これをようやく突破したと思えば――待っていたのは、すっかり存在を忘れていた「ゲッハッハッ」の人。もっと忘れていた(というか再登場すると思ってなかった)キャラ、よく考えたら十年ぶりの再登場のキャラまで引き連れて、最後の最後まで先の読めない展開でありました。

 そして――数々の死闘の果てに待っていた結末は、それまでの混沌が嘘のような、あまりにも美しい結末。百琳が、偽一が、今回は出番なしだった天津が、そして虎右ェ門が狩小澤がお圭がナンダ郎が、この不死力解明編に登場したほとんど全てのキャラクターが登場し、それぞれにいかにもな出番が用意され、それぞれにふさわしい結末を迎える様は、まさに大団円と呼んでよいでしょう。

 たまたま手元に約三年前の「アフタヌーン」誌の「無限の住人」特集(この第二十巻の巻末に収録されたネタ記事の初出)が掲載された号があったので見てみると、まだ出羽介が死んだ回だったのでひっくり返りましたが、とにかく冒頭にも書いたとおり、とにかく長かったこの不死力解明編。
 正直なところ、展開は遅いはどうでもよさそうなキャラばかり増えるはと、途中で投げ出そうかと思ったことも何度かありましたが、終わってみれば、ここまで読んできて良かった! と思えるほとんど完璧な結末に感心しました(最初から結末だけ決めてたんじゃないかという気もするけどガタガタ言わない)。

 現在、「アフタヌーン」本誌ではついに最終章が連載中。これまでのキャラクターに加えて新たなる敵も登場、三つ巴、四つ巴どころでない大混戦確実の物語の結末がいかがなりますか、最後の最後まで付き合っていこうと、今は思えます(個人的にはこの巻のラストで「ラブロマ」並みにかわいい展開を見せた万次と凛の関係も気になりますが)。

 以下蛇足。この巻では、本ッ当に久々に、万次の「見開き解剖フィニッシュ」――しかも瞳阿とのコラボレーションVer.――が拝めて大満足なのですが、この時の万次のポーズがよく見ると妙にキメキメで笑いました。いや、色々溜まってたんだろうなあ。


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