「危機之介御免」第一巻 バイタリティ溢れる愛すべき作品
「マガジンZ」誌で連載中の「危機之介御免」の単行本第一巻が発売されました。1770年代の江戸を舞台に、天下御免の部屋住み(フリーター)・富士見喜亀之介が暴れ回ります。
主人公の喜亀之介は、武家の次男坊で部屋住みの身分、定職がないのをいいことに飄々と町を行く彼は、他人の危機を見過ごしにできず、「その危機 俺が引き受けた」と助っ人を買って出る厄介な性分。かくて、同じく部屋住みで親友の柳生十三、絵師の卵の少女・喜多川ウタとともに、様々な危機に首を突っ込んでは、度胸と(悪)知恵で事件を解決していく、というのが物語の基本ラインとなります。
しかし本作でユニークなのは、江戸時代を舞台にしつつも、現代の風俗を豪快に取り込んで物語の題材としている点。お互い顔を隠して会話や情報交換を行う「茶塔(ちゃとう)」、江戸中の情報が集まり、中古品の売り買いもできる「八報(やほう)」、さらには幽霊姿の給仕のお姉さんが一杯の「冥土茶屋」(ベタですなあ…)、飲み会でのお楽しみ「殿様ゲーム」など、良くも悪くも実にしょーもないネタの数々が、本作のウリの一つと言えるでしょうか。
この辺り、真面目な時代劇ファンは怒り出すかもしれませんが、僕が思い出すのは、一昔…いや二昔三昔ほど前のTV時代劇。今に比べ、遙かに時代劇の製作本数が多かった頃には、こんな風に時代考証に敢えて目を瞑って、放映当時の風俗を大胆に取り込んで見せて、その時代のパロディを描いてみせた作品が様々にあったものでした。
時代劇の製作本数が激減して、あまり冒険できなくなった当代、こんな形で現代という時代のパロディを見せてくれる作品があってよいと思いますし(多かれ少なかれ、時代劇には元々パロディの側面はあるものです)、本作からは、そんな時代劇が問答無用に元気だった頃のバイタリティが、息づいているように感じられるのです。
江戸時代から現代までトンネルを掘るのに、鑿やタガネ、あるいはツルハシではなく、ダイナマイトで豪快に吹き飛ばすかのような勢いの本作、まだまだ荒削りではありますが、愛すべき作品であります。
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コメント
マガジンZ版からギヤマンの書まで、御紹介いただきありがとうございます。細かいところまで読み込んでいただき、作者冥利につきます。また。こちらのサイトで紹介された伝奇小説やコミックス、何冊も楽しませていただきました。
危機之介、終了から二年。久しぶりに新刊が出ます。勝海舟の息子が主人公で明治十年を舞台にしたガンアクションで、かなりトンデモな展開をしつつ、でも、ギリギリのリアリティーをキープしようと試みる綱渡りな作風は相変わらずだと思います。また、ご覧いただければ幸いです。まずは御礼まで。
投稿: 富沢義彦 | 2012.04.03 16:27
富沢様:
お越し下さり、ありがとうございます。「危機之介御免」、本当に楽しませていただきました。
さて、「CLOCKWORK」第1話をまず拝見しました。これはもう、本当に私のような人間にはたまらない作品ですね! 単行本第1巻の発売を心待ちにしております。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: 三田主水 | 2012.04.05 00:38
三田主水様
CLOCKWORK第一話、ご覧いただきありがとうございます。タイトルからは全くつながりませんものね。おそらく、みなさんノーチェックだと思いますので、御紹介いただければ何よりです。連載開始時にでもお知らせすれば良かったな…。コミックブレイドオンラインだと一話と先月分が無料で読めるのですが、現在掲載分は一話と四話。ちょっと飛んじゃいます。ネタばれOKであれば、pixivに漫画担当の吉岡榊さんが、かっこいい予告編作ってくれてます。ネタばれって言ったって、だいたい予想つくあたりかもしれませんが…。
第一巻、来週4月10日発売です。お楽しみいただけることを祈りつつ。よろしくお願いいたします。
https://twitter.com/#!/Clockwork410
投稿: 富沢義彦 | 2012.04.05 17:44