元三大師のおはなし
今日は一月三日ということで、今日の日になんだ小ネタを。
今日は、慈恵大師会あるいは元三大師会が行われる日です。慈恵大師も元三大師も、ともに平安時代の天台宗の高僧・良源のことを指しますが、前者は良源の諡号、後者は良源の命日が一月三日であることからの呼び名とのこと。
この良源、比叡山中興の祖と呼ばれる実在の人物ですが、幾つか面白い伝説を持っている人物であり、幾つかの異名を持っています。実は観音の化身であったという伝承から、観音の化身の数たる三十三体の豆粒のような姿でお札等に描かれたことから「豆大師」、また、疫神を追い払うために、角の生えた鬼と変じたという伝承から、「角大師」など…。特に後者は、巨大な角を持った黒鬼が片膝を立てているかのような姿で描かれており(こちら)、高僧の姿としては何とも不思議な印象を受けます。
このように奇瑞譚の多い平安時代の僧の中でも、異彩を放つ存在である良源ですが、伝奇世界で良源といえば、思い浮かぶのは陰陽師コミックの傑作「王都妖奇譚」の良源でしょう。本作の良源は、常日頃から奇怪な鬼の仮面をつけた有髪僧で、仮面の下は超美形。そしてその類い希なる法力を発揮する際には、額には鬼の角が現れるという、文章で書いてみると何とも奇っ怪なキャラクターであります。
が、これが一度物語の中で動き出すと実に良いキャラ…というかおいしいキャラでありまして、同じく類い希なる力を持ちながらも何かと悩み多き若き安倍晴明に、陰に日向に、進むべき道を指し示すという大人の人物として描かれています。冷静に考えると、出番はかなり後半だったのに、何だかずっと出ずっぱりでいたような印象のあるキャラクターで、角大師の伝承を巧みにアレンジしたキャラ設定ともども、作者の岩崎陽子先生の筆の冴えというものを感じさせられました。
良源と聞くと本作を思い出す人も少なくないのでは…という気がします。というか私はそう。願わくば、もっと色々な(作者の)伝奇ものに登場してもよい人物だと思うのですが――と、冷静に考えるとはなはだ罰当たりなことを書いて、今日はおしまい。
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