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2007.03.10

「柳生大戦争」第二回 これまさに大戦争?

 十二日発売のはずが既に発売となっていた「KENZAN!」第二号。早速入手しましたが…今回の「柳生大戦争」もひどい。ひどすぎます。「荒山ファン」と胸を張って言いにくくなってきた(性的な意味で)昨今ですが、今回はそんなこちらの葛藤をハナっから無視して飛ばしまくる狂いぶりであります。今回の展開を簡単に表せば、男色⇒柳生⇒捏造⇒男色…の地獄コンボ。見よ満タンからこの減り!

 何せ冒頭からして「(あの名作をホモシーンを全カットしてお調子者の伝奇マニアしか喜ばないようなイイ話に変えやがった)生意気な漫画家コンビをシメてやる!」とばかりに濃密に描かれる友矩×家光の閨房のありさま。
 私はクリエーターの方には常に敬意を払いたい、罵詈雑言をもって当たるなどもってのほか、とは思っているのですが、どうにも我慢できないのであえて言わせていただければ、若竹じゃねえよバカ! バカ!
 いやはや、そのうち2chで「荒山徹のガイドライン」が立つんじゃないかという迷フレーズの連発に、笑えばいいのか怒ればいいのか非常に困惑しました。

 …と、いきなり乱れてしまいましたが、連載第一回では全貌が見えなかった「柳生大戦争」、この第二回で物語構造がかなりの部分見えてくることとなりました。物語の中心となるのは、これまで荒山柳生の中ではさしてスポットがあたることのなかった美剣士・柳生友矩であります。
 友矩の人となりについては本文で(先行作品を引いて!)説明されているので詳しくは省略しますが、柳生宗矩の子の中でも屈指の達人にして、徳川家光を虜にした美青年という、存在自体が伝奇キャラのような人物を描くにあたり、荒山先生はいかなるアプローチを試みたか――(というところで飛び出してきたのが、いつにもまして実在の柳生新陰流から刺客を送られかねないような内容の激烈ホモなのが業が深いというか何というか。先生密かに男色好きだよな)
 それはさておき、家光の寵愛の度が過ぎてついに宗矩に排除の意志を固めさせた友矩ですが、友矩は最後の願いとして父との真剣での立ち会いを望みます。さしもの宗矩も、従容たる友矩の姿を哀れと思い、息子との最初で最後の真剣勝負に臨むのですが…この荒山友矩、実は柳生新陰流にあらず、○○○○の流れを汲む幻の新陰流の達人。策士のくせに肝心なところで抜けている宗矩は、その剣の前に非道い目に遭わされることとなります。
 ちなみに、この○○○○を語るに際し、またも先行作品を引いての解説があるのですが、ここで戸部新十郎先生の名作短編を引いてくるあたり、出来ておる喃…とか思っていたら次のページで大惨事発生。
 私はクリエーターの方には(略)ゴメスじゃねえよバカ! バカ!

 …まあそれはいいとして、その日を境に友矩は何処かへ姿を消します…まあ、荒山作品で何処かへ、と言ったら一箇所しかないのですが、豈図らんや、彼の行動が第一回に登場した捏造文書と結びついて、柳生と朝鮮をそれぞれに危機に陥れることになるとは。
 詳細は語りませんが、この辺りの展開は時代もの、伝奇ものとして実に面白く、さすがに地力のある作家は違うわい、という印象。なるほど、冷静にバカデコレーションをはぎとって見てみれば、友矩の辿ることとなった運命は、剣と権に愛され、そして翻弄された、何とも哀しくそして残酷なものであり、その悲劇性たるや強く胸を打つものがあります。そして追いつめられた彼の取った行動は…なるほどその手があったか! と膝を打つものであり、本作品がスケールの点では荒山作品一となる可能性も出てきました。
 国と国、国と個、個と個の相克というものを、その時代ならでは、その時代でなくてはの舞台背景でもって絡めることについては、相変わらず見事としかいいようがなく、これだから荒山ファンは止められないんだよなあ。

 何はともあれ、第二回のラストで対決の構図も鮮明になり、なるほどこれはまさに「柳生大戦争」と感心した次第ですが、わざわざ「大戦争」と銘打っている以上、これで柳生勢が打ち止めとは限らないのが恐ろしいところではあります。本作は荒山作品中では友景時空の物語ということも今回明らかになっただけに、まだまだ油断はできません。
 個人的にはまだ怪獣のかの字も出てこないのが不満ですが、妖術師登場の伏線は張られており(というか上記の通り友景時空なので何でもアリではありますが)、これからいよいよ恐ろしいこととなるのでしょう。いよいよもって、今後の展開が楽しみになってきました。


 それにしても――今回つくづく感じさせられたのですが、荒山作品があれだけ朝鮮のことをクサしながらも嫌みさや不快感を生じさせないのは、例えるならば、「王様はハダカだよ!」って指さして笑っているヤツ自身が全裸(しかも何故か誇らしそうに)、みたいな印象が荒山先生から感じられるからなのでしょうね(まじめな話、日本を持ち上げるために朝鮮を貶めているわけでないところが大きいのだとは思いますが)。


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コメント

 当方も本日読めました。
もはや先行作品へのリスペクトを隠す気ゼロというか
「私の作品を読むならこの辺も読みなさい是非読みなさい」と
言わんばかりの元ネタ開陳ぶりが微笑ましいような気が。
ここいらの無邪気さ(と言っていいのか)が
変な悪意を寄せ付けない荒山先生の美点のひとつなのかなあと。
大半の感想については当方も同じような感慨に襲われて

「まとめ。そうねえ
 ”さすが荒山先生ッ!
  俺たちにできないことを平然とやってのけるッ!
  そこにしびれるあこがれるゥッ!”
 とでも言うしかないんじゃないの」
「そうですね」

 てな塩梅でありました。

 ところで今頃思い出したのですが、
一夢庵風流記で前田慶次は朝鮮に渡ってたで砂。
まだ荒山先生の毒牙にはかかっていなかったと
思うのですけど、今後、どうなるかwktkで砂。

投稿: 神無月久音 | 2007.03.11 00:02

いやいやいや、しびれるけどあこがれませんから!w

先生の先行作品への愛情は、何というか阿部定的な方向に進みつつあるのではないかと。

というか、すっかり忘れてましたけども確かにそうでした!>慶次郎
いかにも先生好みの(イジったら楽しそうな)人物だけに、今後が不安です

投稿: 三田主水 | 2007.03.12 00:08

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