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2007.04.30

「大江戸ロケット」 四発目「ドキドキ無用」

 さて、「大江戸ロケット」の「ど」、第四回。前回ラストで重い決意を固めた銀次郎、再び出現した青い空の獣に立ち向かいますが――前回黒衣衆をふんどし一丁に剥いた(誤解を招く表現)あの能力を発揮して空の獣の土手っ腹に風穴を開けてしまいます。

 と、その場に現れた、もうバレバレなんだから視聴者には正体明かせばいいのに、な白い空の獣が乱入、空からの船に乗り込んで動かそうとしますが、これは青い空の獣が自爆スイッチを押してインターセプト。そこで銀次郎が再び能力を発揮して船の中から白い空の獣を救い出します。

 この銀次郎の能力は、何でも開けてしまうというもの。耳が良いとか目が良いというのはまだ常人の延長線上ですが、ここまで来るともうスタンド使いクラス。そりゃあ鳥居様が目を付けるわけです。(弱み握られてるから)言うことはよく聞くし、意外と応用効くし、もう三十九歳ダメ人間いらないよ!<それは違う番組

 さらに、先に倒された獣と合体してその場を逃れた青い空の獣に襲われた駿平とあと一人を救うため、ついに銀次郎はあの兜を装着! 謎のヒーローと化して空の獣を追い払います。銀ちゃん、かっこいい…

 そして正式に鳥居様から黒衣衆頭領として任命される銀次郎。体の一部をもってコードネームとする黒衣衆、銀次郎の名は「臍」。…へそ?
 「耳」によれば、銀次郎の体を触ってその立派な臍を確かめたと。確かに前々回、すれ違い様に触ってたけど…このネタのためか! お守り袋探ったとか、実は脱いだらスゴい体…ゴクリとかかと思ったのに!

 何はともあれ銀次郎がすっかり時代劇ヒーローになってしまったのも知らず、(ソラのこっそりフォローもあって)清吉の準備も順調。もう打上げ決行の日まで決まって何だかもう最終回ムード…ってもう決行の日!? 橋本じゅんさんは? じゅんさんはまだ出てないよ!?
 と焦るこちらは置いておいて、なおも進む打上げ準備。隅のご隠居(この人にもきっともの凄い正体があるんだろうな…)の英断で打上げは風来長屋から、そして銀次郎のフォローで赤井様もそろばん踊りで釘付けにされ――ここでそろばん踊りが再登場するとは、まったくもって油断が出来ないというか無駄がない脚本というか――この辺りの賑やかでテンポのよい展開は、やっぱり舞台譲りだなと感じさせられます。

 そしてついにイグニッション&リフトオフと思いきや、ソラは花火の先に載っけた御輿に乗って月に行くと言い、清吉を驚かせます。考えてみれば、視聴者である我々はともかく、清吉にとってソラの願いは、月まで届く花火が見たい、ということであって、月に行きたいってのは意識の範囲外にあったわけですが――そのすれ違いを、打上げ直前の高揚感と緊迫感に絡めて見せた演出はうまいものだと思います。
 にしてもソラは火薬の調合はできるのに御輿の強度計算できないのはいかがなものか…ごめん、書いてから無茶言ってると思った。

 …そして、そんなこんなで打ち上がった花火は、月には遠く届かず爆発…フィクションとはいえ、何度見てもロケットが途中で爆発するのはイヤですねえ。

 と――次回予告に登場したあの犯罪的に濃いお方はやっぱり…いやむしろ当然…ていうかじゅんさんのインパクトに気を取られてたけど、もうあれ予告でもなんでもねえよ! 次回が超楽しみ!


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2007.04.29

「戦国忍法秘録 五右衛門」 五エ門に始まり五右衛門に終わる

 昨年十一月にあまりにも突然にこの世を去ってしまった石川賢先生の最後の作品である「戦国忍法秘録 五右衛門」の単行本が刊行されました。作者と同じ姓を持つあの大盗・石川五右衛門を主人公に、信長・秀吉を敵に回しての復讐戦を描く、時代伝奇大活劇であります。

 本作については、雑誌連載時に取り上げてきましたので、ここで内容をくだくだしくは述べませんが、天正伊賀の乱に始まる冒頭からラストに至るまで、とにかく最初から最後までアクションアクションアクションの連続。天下の石川賢のパワーは、最後の最後まで全く衰えることがなかったことがよくわかる、痛快極まりないデストロイぶりです(前作「武蔵伝」が、比較的おとなしかっただけに、よりそのように感じられます)。
 本当に賢先生はこういう、善も悪もあるものかは、とにかく俺は暴れてぇんだ俺は的キャラクターを描かせると天下一品であるとつくづく感じ入ったことです。

 そしてラスト――これは雑誌掲載時の感想の繰り返しにもなりますが、物語が未完のまま中絶したことが全く気にならない(いやほら、未完自体はよくあることだから)ばかりか、ラストページがまるで計ったかのようにピタリと美しく物語のピリオドとなっているのには、悲しい偶然とはいえ、感心させられます。

 なお、この単行本では、作者の師匠(と呼ぶのは違和感あるな)であり戦友であった永井豪先生が巻末に解説を寄せているのですが、賢ちゃん(あえてこう呼ばせて下さい)が五エ門に始まり、五右衛門に終わったという、興味深い暗合について触れているのが目を引きます。
 が、それよりも何よりも、その解説に付された豪ちゃんによる賢ちゃんのイラストが実に愛が籠もっていて、思わずグッと来てしまいました。

 もうこれ以上石川賢先生の新作が読めないのは、我々にとってこの上ない不幸ではありますが、最後の作品がこの「五右衛門」であったことは、あるいは不幸中の幸い、と言うべきなのかもしれません。


「戦国忍法秘録 五右衛門」(石川賢 リイド社SPコミックス) Amazon bk1

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2007.04.28

今日の小ネタ 大河とか声優とかゲームとか

 ゴールデンウィーク突入ですが/なので淡々と小ネタですよ。
09年の大河は「天地人」
 再来年の大河ドラマは、直江兼続の生涯を描く「天地人」に決定とのことですが、この原作者はあの火坂雅志先生! 最近は真っ当な時代小説ばかりで寂しく感じておりましたが、大河ドラマ原作作家というのはやはり素晴らしいことです。これはうちのサイト的にも「花月秘拳行」とか「関ヶ原死霊大戦」(それ旧題)とかもりもり取り上げて応援していかなければ<怒られるぞそれ

 それはさておき、昔から気になっていることが一つ。直江兼続といえば「愛」一文字の兜ですが、あれ、同時代人――特に武将たちからはどう見られていたんでしょうね。今と当時では「愛」の意味も違っていたようですが…私だったら戦場にああいう人がいたら困るな、気が散って。


長瀬智也が時代劇アニメ映画で声優初挑戦
 以前にもチラッと紹介したBONESの新作時代劇アニメ映画「ストレンヂア 無皇刃譚」の主役の声を長瀬智也が当てるということですが…結構多くの方が抱いている疑問だと思うのですが、芸能人がアニメ声優を、ってどれくらい訴求力があるのかしら。どう考えても逆効果だった作品もあったりするのでドキドキしますが、公式サイトを見ると山寺・石塚・大塚とベテランどころが脇を固めているようなので、心静かに見守りたいと思います。まあ、ジャニーズで時代劇アニメの主役といったら「サムライスピリッツ」のあの人がいるしね!<それは不吉な前例ではないのかと 個人的には錦織一清さんを目指して欲しいものです。
 それはさておき、公式サイトの一枚絵がなかなか格好良くていいですね。


バーチャルコンソールに「最後の忍道」登場
 レトロゲーマーを毎月wktkさせる憎いあんちくしょう、バーチャルコンソールの五月のラインナップが発表されましたが、その中に超硬派忍者アクション「最後の忍道」が。以前このブログでも書きましたが、そのゲーム性の高さと難易度の高さでいまだにレゲーファンの語り草のあの忍者アクションが、wiiでお手軽にプレイできるようになるのはありがたい話です。
 正直、現時点では五月のラインナップ自体はかなり微妙なのですが、これだけは(嘘。野田昌宏ファンとしては「ハイブリッドフロント」がちょう楽しみ)楽しみです。


ゲームアーカイブスに「月華の剣士」「甦りし蒼紅の刃」登場
 PS3を持ってないので個人的にはアレなんですが、PS3のゲームダウンロードサービスであるゲームアーカイブスの追加ラインナップが発表されましたが、その中にSNKの時代対戦格闘「月華の剣士」「剣客異聞録 甦りし蒼紅の刃 サムライスピリッツ新章」が。
 「月華の剣士」は、現在PS2で続編とカップリングで発売されていますが、こちらは第一作のみ。が、実は尋常でなくおまけが充実しているソフトで、アーケード版に登場しない隠れキャラは何人もいるわ、OPムービーは追加されているわ、一条あかりとタイソン大屋神崎十三の掛け合いキャラ紹介はあるわと、特にキャラファンにはこちらの方がオススメかもしれません。
 そして「甦りし蒼紅の刃」は、ある意味サムスピシリーズの黒歴史、ポリゴンも今の目で見ると…ですが、ストーリーはかなり気合いが入っていて、個人的には印象深いソフトです。
 どちらも中古屋で千円くらいで買えそうなので、PS2があればアレなんですがね。


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2007.04.27

「天保異聞 妖奇士 蛮社改所入門」 妖奇士という存在の奇蹟

 約一ヶ月前に惜しくも最終回を迎えた「天保異聞 妖奇士」のムックである、公式コンプリートガイド「蛮社改所入門」が発売されました。早速入手して一通り目を通しましたが…はっきり言って、ファンなら絶対手に入れるべきもの。設定紹介やストーリーガイドはもちろんのこと、スタッフ&キャストの生の声がぎっしり詰まった、非常に満足度の高い一冊でした。

 本書の内容をざっと挙げれば――

○人物紹介(レギュラーは錦織・川元利浩・會川昇各氏のコメント付き)
○ストーリーガイド(各話毎に會川・錦織・山村竜也各氏のコメント付き)
○スタッフインタビュー(會川・山村・川元・草なぎ琢仁・ねこまたや・森大衛・山形厚史・横山彰利・大谷幸・錦織各氏へのインタビュー)
○設定画(主に妖夷のもの。草なぎ氏のコメント付き)
○キャストインタビュー(藤原啓治・川島得愛・三木眞一郎・小山力也の男性陣、新野美知・高山みなみ・折笠富美子(と藤原啓治)の女性陣に別れての座談会)

 その他、天保年間の年表や用語ガイドや、漫画版の蜷川ヤエコ氏や「大江戸ロケット」の吉松孝博氏(清吉・銀次郎と往壓の揃い踏み!)の特別寄稿、それに雑誌掲載イラストの収録などです。

 こうして見ると、ムックとしては標準的な内容かもしれませんが、その一つ一つの濃さが尋常ではなく、本編同様、その中に込められた圧倒的な情報量に驚かされます。
 特にスタッフインタビューは、質・量ともにほとんど本書のメインと言ってよいほどの内容で、メインスタッフ一人一人が、どのようにこの「妖奇士」という番組と向き合い、作り上げてきたかが実によくわかるようになっています。特に原作者であり脚本の會川昇氏のページでは、幻となった説一準備稿の全文が収録されており、元々の作品のスタイルが、実際に放映されたもの以上に(意図していたかどうかは別として)ラディカルなものであったことが見て取れます。また、幕間ラストで描かれた(そして些か唐突な印象もあった)「異界」と「物語」の関わりについても、納得のいく形で考え方が示されているところが実に興味深いところです。

 このスタッフインタビュー、そしてキャストインタビューから感じ取れたのは、彼らがどれだけ真摯にこの作品に向き合ってきたかということであり、そしてまた生まれたこの作品が――たとえ当初の予定とは異なる時期で途絶したとはいえ――どれだけ恵まれたものであったかということ。
 作品を構成するあらゆる面でこれだけのクオリティを持った「時代劇」がこうして存在すること自体、一種奇蹟的なことなのかもしれない…というのはかえって失礼な表現かもしれませんが、それが正直な今の気持ちです。


 なお…気になるDVDオリジナルエピソードについても触れられていたのですが、現時点の構想では、全五話構成で、TVの後のエピソードになる見込みとのこと。幕府の軛を逃れたことにより、幕府から追われることとなった奇士たちが北に旅する物語になるとのことですが――どうなるのだ小笠原様! ナンバーはTV版の「説」から「獄」となるようで、これはまたヘビーなお話になりそうな予感。
 もっとも構想段階の話ことですので、まだまだどうなるかは見てのお楽しみ。DVD第六巻からの収録となるらしいので、その後の奇士たちに出会えるのは、夏以降のこととなりそうです。
 本書のおかげで、いよいよますますこの作品への想いが増したところですので、楽しみに楽しみにその時を待ちたいと思います。


「TVアニメ「天保異聞 妖奇士」公式コンプリートガイド 蛮社改所入門」(スクウェア・エニックス) Amazon bk1

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2007.04.26

「不知火殺法」その二 一瞬の必殺技に照らし出される命と魂

 それでは昨日の続き、残る三作品の紹介です。

バスク流殺法
 突然ですが、本書の中で最大の問題作であります。
 本作の主人公・弥次郎は実在の人物で、作中で語られているようにザビエルを日本に導いたと言われる男。それ故ザビエルが登場する作品にはかなりの頻度で現れ、伝奇ものでも、スピロヘータ氏やら古の邪神やらの来日に一役買っているのですが、それはともかく。
 その弥次郎が日本に誘うこととなったザビエルですが、本作のザビエルは、バスク人の末裔にして、彼らの間に伝わる跳躍術と武術の達人。険しい岩山でも一瞬の間に昇降し、束ねた布で相手の武器を無力化するという怪人であります。そしてそのザビエルが日本を目指した理由というのが、かのアトランティス大陸で用いられていたという伝説の金属オリハルコンを求めてだったという…
 何だか本題そっちのけでそちらのインパクトだけで頭が真っ白になりそうですが、かつて人を殺して日本を捨てた弥次郎が、彼を仇と狙う伸縮自在の伊東流管槍の使い手と対決するクライマックスの決闘シーンはなかなかのもの。日本の槍術vsバスク流跳躍術という異次元の対決は、全く異なる武術同士の激突が生む緊張感に溢れており、また遠近死角なしの管槍の意外な弱点の面白さといい、さすがは、と言ったところでしょうか(ラストにまた妙な不条理感が漂っていて何とも言えないのですが)。


韋駄天殺法
 紀州藩で暗闘を続ける二つの権力の代表として秘事の伝令として走ることとなった長距離ランナー同士のデッドヒートを描いた本作は、手矢vs鼻捻という武術対決もあるものの、むしろ「走る」という行為に焦点を当てることに、作者の意識はあったのかな、と感じられます。
 オチが早い段階で読めてしまい、それがまたなかなか情けないものがあって、読後感は正直なところあまりよろしくないのが残念。


妖異南蛮殺法
 巻末の本作は、蒲生氏郷配下で傭兵として活躍した山科羅久呂佐衛門こと元ローマ兵・ロルテスの姿を描いた作品。全然妖異ではないロルテスの技は、いわゆるフェンシングなのですが、現代の日本人としてはどうしてもスポーツとしてのそれを思ってしまうこの武術を、戦国武士を向こうに回してもひけを取らぬ南蛮殺法として、描くのが本作の面白さでしょう。
 それほどの技を持ちながらも、武士としての栄達を求めず、己の活躍の対価としての金のみを求めるロルテスの一種ドライなキャラクターも面白いのですが、それが彼にとって仇となる幕切れの皮肉さは、最後の決闘のオチがバレバレであることを差し引いても、なかなかに印象的です。


 以上六編いずれも、凄まじい技を持ちながらも時代の流れには勝つことができなかった無名の男たちの命と魂が、一瞬の必殺技の火花で照らし出される様が印象的な作品ばかりです。
 例えば同じ作者の短編集でも、「柳生殺法帳」などに比べると豪華さという点で一歩譲るかも知れませんが、ヒーローなき世界での男たちの生きざまという新宮作品の特色(の一つ)は、むしろ本作のような作品の方がよく現れているのかなと、本書を通読して、改めて感じた次第です。


「不知火殺法」(新宮正春 集英社文庫) Amazon bk1


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2007.04.25

「不知火殺法」その一 ヒーローのいない世界で

 新宮正春先生と言えば、かの柴錬先生の後継者とも目された時代伝奇小説と、剣豪小説の名手。しかしながら私が見たところ、明らかにお二人の作風を隔てているのは、作中のヒーローの有無ではないかと思います。柴錬ヒーローについてはここで語るまでもありませんが、新宮作品においては、大袈裟に言えば、主人公はいてもヒーローはいないといったところで、そこが作品の味わいを大きく異ならせているのではないかと思います。
 この短編集「不知火殺法」も、そんなヒーローのいない世界で、己の術技に命をかけて決闘に臨む男たちの物語。彼らは皆、ヒーローでない、等身大の人間ではありますが、それだからこそ彼らの見せる必殺技は、彼らの生きざまを示す一瞬の光芒として、強く読者の胸に残るのではないかと思います。
 以下、収録の各作品についての紹介。

不知火殺法
 竿につけた糸と鉤針で巧みにムツゴロウを獲る有明海の漁師・げんざを主人公に、捨ててきた己の過去に、己の現在を傷つけられた男の怒りが描かれます。隠された過去を抱えて生きる男、というのは、時代ものに限らず様々なエンターテイメントにしばしば登場するモチーフ。大抵そのようなキャラは、実は滅法強いというのが定番ですが、本作ではその辺りに一ひねりが加えられていて、それだけにクライマックスの主人公の行動が、より印象的なものとなっています。
 ちなみにゲストとして晩年の宮本武蔵が登場。なかなか面白い立ち位置で、本作のスパイスとなっています。


少林寺殺法
 おそらくは本作がこの短編集の中で最もメジャーな人物を主人公とした作品でしょう。主人公は明から亡命し、尾張義直の客分として暮らす少林寺拳法の達人・陳元贇。その彼と対決するのは柳生十兵衛、そして二人を取り巻く登場人物の顔ぶれもなかなかに豪華であります。
 しかし単純な技比べの剣豪もので終わらず、明という祖国を失って異郷で暮らす元贇の索莫たる心中を描き出すのが味わいと言うべきでしょう(元贇と対比される存在として、朝鮮から日本に帰化し、柳生家に仕えた佐野主馬を持ってきたのが見事あります)。
 元贇と十兵衛の対決は、意外な、そして伝奇ファンとしてはニヤリとさせられる結末を迎えますが、その背後にもう一つの意志の存在をほのめかす結末が、また何とも言えぬ味を出しています。


紀州鯨銛殺法
 鯨取りの銛投げを得意とするしび六とともに、あの支倉常長を主役として描いた本作。常長の不思議な人物像が印象に残るのと同時に、祖国を捨てて海外に赴き、そこに留まることを余儀なくされた者の哀感が強く胸に残ります(その意味では丁度前の作品と対をなすものと言えます)
 常長は言うまでもなく、彼らが呂宋で出会う日本から追放された高山右近の一党もまた、帰るところを失い、ただ利用されて磨耗されていくだけの存在。その運命に、己の意地をかけて逆らおうとする常長と、クライマックスにその常長のために立ち上がるしび六の姿は、重い物語の中にあって、いやそれだからこそ、爽快とすら言えるものを見せてくれます。


ちょっと長くなってしまったので二回に分けます。


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2007.04.24

「BEAST of EAST」第三巻 画の魔力に魅了されて

 絢爛豪華平安伝奇活劇「BEAST of EAST」の新刊が発売されたことは、伝奇ファン、山田章博ファンにとっては大いなる喜び(と同時に驚き)であります。本作は、未だ現在進行中の物語でありながら、既に伝説と化していると言っても過言ではないかと思います…その刊行ペースも含めて(私の手元の単行本の発行元を見たら、一巻がスコラ、二巻がソニー・マガジンズ、この三巻が幻冬舎だったり…)。

 それはさておき、内容の方は快調そのもの。雨乞い勝負で安倍晴明を下しながらも、鬼王丸につれなくされて怒りに燃える玉藻の暗躍は続き、宮中には夜獣・鵺が跳梁。さらに帝を唆し、伝説の人魚の肉を求めようとします。
 第三巻の前半は、この玉藻の暗躍と、相馬小次郎・後の平将門の関東での受難を描き、後半では人魚の肉を奪取すべく鬼王丸一党が大暴れを演じる一幕となっています。
 正直なところ、アクションシーンが多いこともあって話の進み具合は今一つですが、しかしそれだけにケレン味溢れるアクション描写は魅力たっぷり。特に後半の乱闘劇は、藤原純友が捕らえてきた人魚を奪取すべく、鈴鹿御前と組んだ鬼王丸一党、さらに助っ人として安倍晴明(それにしてもこの晴明、ノリノリである )が宮中を騒がすという平安オールスターキャストで、それだけでもう嬉しくなってきます(時代考証からすると色々とおかしいことはあるのですが、それを言うのは野暮の極み。むしろこれは歌舞伎に厳密な時代考証を求めるのと同じことでありましょう)。

 それにしてもつくづく感心するのは、登場人物が美男美女ばかり…というのはちょっと誤解を招くので、魅力的であるという点であります。一部を除き、個々のキャラクターを描くのにそれほど紙幅が費やされているわけではないのですが、しかしその人物が物語に登場した途端に、あたかも以前からその世界で暮らしていたかのように、自身のパーソナリティーを備えたものとして見えてくるのは、これはもう画の力と言うしかないでしょう。

 さて物語の方は、「玉藻の前」から大きく離れて関東平野に、平将門の物語につながっていく模様。なるほど、鬼王丸への、この世界への怒りを露わにした玉藻が世界を滅ぼさんと仕掛ける戦とはこのことであったか、と感心いたします。
 もっとも、さてその続きを目にすることが出きるのはいつの日か…といささか不安にもなりはしますが、いつの日であろうと楽しみに待ち受けてやろう、と思ってしまうのは、これはやはりこちらが玉藻ならぬ山田先生の画の魔力に魅了されてしまったということでしょうか。


「BEAST of EAST」第三巻(山田章博 幻冬舎コミックス) Amazon bk1

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2007.04.23

五月の伝奇時代劇アイテム発売スケジュール

 春に咲く花はきっと 夏の陽炎にゆらめいては散って…というのは大袈裟ですが、こないだ花見をしたらもうゴールデンウィーク、時間の流れが速いのは結構なような寂しいような…でもう五月の伝奇時代劇関連アイテム発売スケジュール更新の時期です。

 が、現時点でわかっている限りではかなり寂しい五月のアイテム。
 小説では上田秀人先生の「織江緋之介見参」の最新刊が登場するのが目に付く程度。時代小説自体の発行点数が減っているわけではないので、これは単に伝奇ものが少ないだけではあるのですが…やっぱり時代もの全部スケジュールに載せようかしら<そういう問題か

 漫画の方では、刊行の続いていた「るろうに剣心 完全版」が、第二十二巻をもってめでたく完結。雑誌掲載以来単行本未収録だった「弥彦の逆刃刀」が遂に収録されます。「るろうに剣心」については完全版第一巻刊行時にも触れましたが、完結時にも感想を書く予定です。
 その他、完全版といえば「原作完全版 仮面の忍者 赤影」の下巻も刊行。また、「危機之介御免」の第二巻も登場します。そして長らく幻の作品だった堀江卓の「つばくろ頭巾」が復活するのも嬉しい驚きです。

 映像作品では「逃亡者おりん」DVD-BOXの下巻も発売されますが、何と言っても個人的注目は「妖刀斬首剣 デジタル・リマスター版」。日本剣法vs中国剣術を描いたこの香港映画、かの縄田一男先生も激賞した隠れた名品であります。ビデオは持っているけどやっぱりDVDでも持っておくべきかな…
 それと、ゲームの方では「THE 落武者 怒獲武サムライ登場」くらいしかないのが悲しいところです。まあ私は同じ日発売のWii版「バイオハザード4」の方を買いますが<ヒドス


あと、全然時代伝奇関係ないけど二日に「恐竜世紀ダイナクロア」の第三巻が発売されるのは覚えておくように、俺。「武装錬金∞」も。


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2007.04.22

「大江戸ロケット」 三発目「縁に縛られた銀ノ狐」

 「大江戸ロケット」第三話は、清吉・ソラから少し離れて、兄貴分の銀次郎が中心のエピソード。銀次郎自身の過去と、彼自身も知らなかった出生の秘密、そして鳥居らの行動の一端が語られていくこととなります。

 前回、白い獣に対して見せた身のこなしが元で、黒衣衆に目を付けられた銀次郎。その前に現れた鳥居が銀次郎に語った、彼も知らない出生の、血縁の秘密とは、彼が黒衣衆の頭領の生まれであるということでありました。(この時描かれる、銀次郎の守り袋を封じていたのが天海結びというガジェットが面白い)。かつて徳川家康により組織され不思議な珠を守っていた忍び目付として民の間から徳川の世を支えながらも、太平の世の中でいつしか使命を忘れ、市井の中で庶民として暮らすようになった黒衣衆。その末裔を探し出しては配下としてきた鳥居に誘われた銀次郎、もちろんそれは拒みますが、そこで問題になるのが、銀次郎の過去であります。
 実はかつて大坂でお伊勢さん(今頃気付いたのですが、お伊勢さん、今の生業は損料屋さんだったのね…また面白いところに目を付けたものです)と共に盗賊として活躍(?)していた銀次郎は、かの大塩平八郎に拾われ、世直しのために彼の下で働くこととなったのですが、ご存知の通り、大塩は蜂起に失敗して自決。その姿を目の当たりにした銀次郎は「俺はこれから一生、面白可笑しぅだけに暮らす! 何かのためになることなんぞ金輪際せぇへん!」と絶叫して――

 結局、自らの過去のとばっちりが清吉ら長屋の仲間たちが行くことを恐れた銀次郎は、清吉の夢を守るためにも、自分は自分の道――黒衣衆として空の獣と戦う道を選ぶのですが、最初見たときは結局鳥居の下=清吉の敵側についたようでどうもすっきりしなかったこの選択が、もう一度落ち着いて見直してみると、何とも切なくも重たいものに見えてきました。
 一度手ひどい挫折を味わって、清吉の夢を手助けすることによって自分の価値を見出そうとしていた男が、自分自身にできること、自分にしかできないことでもってもう一度立ち上がろうとする姿は、それが誰の下であろうが、結果的にどちらの側に立つことになろうが、大変に重みのある、貴いものに思えます。
 というかもう主人公銀次郎でいいよ! あのカッコイイヘルメットかぶって戦うの! 

 と、勝手に興奮するバカは置いておいて、この辺りの銀次郎のキャラクター設定・描写は、中島かずき節でありつつも會川昇節でもあるというなかなか面白いクロスオーバーぶりで、何というか、このキャラ一人を見ただけでもこのアニメ化の成果はあった! というのはまた言い過ぎですが、なるほど面白いことになってきたな、という気分です(個人的には、白濱屋の蔵での銀次郎とお伊勢さんの会話シーンが、ワケありまくりの過去を共有した男女ならではの空気感、距離感というものが感じられてよかったな…)。

 一方、本格的に前面に出てきた鳥居様。個人的にはバラエティに富みまくった本作のキャラクターの中で、唯一デザインが馴染めない――いや、あの声だったらあの顔じゃなきゃヤダヤダというのではなく、妙に福々しい普通の人に見えて――のですが、いずれ「なるほど!」とうなずかされる日もくるのでしょうか。来たらいいなあ。
 しかし鳥居様は相変わらず(?)自分とこだけで人外と戦いたがるんだな。

 また、南町と来たら北町、鳥居ときたら…というわけで、北町奉行の遠山景元も登場。事前情報で聞いていたとおり、えっれえ若作りな遠山様でありました(ちなみに遠山の方が鳥居より三才年上)。よく見ると遠山とOPでワンセットで登場していた10-4-10…じゃなくて、天鳳と天天は遠山の密偵という素性も明かされ、暢気に見えた清吉の長屋も、俄然きな臭い世界となってきました。

 物語の設定世界はだいぶ見えてきた感もありますが、色々と入りくんでいる世界だからこそ、清吉にはこれからスパーンと気持ちのいい活躍を見せてもらいたいという気持ちになります。が、次回一体どうなるのか、予告とタイトルからじゃまったくわからん! わからんけど楽しみ、というところでまた来週。


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2007.04.21

「吉原宵心中 御庭番宰領」 ウェットな、そしてドライな

 文庫書き下ろし時代小説として再生した「御庭番宰領」シリーズ第三弾は、吉原を巡る人の愛欲の闇に御庭番宰領(御庭番を補佐する私雇の配下)・鵜飼兵馬が巻き込まれます。

 ある晩、男たちに追われている少女を救った兵馬。薄紅という名のその少女は吉原を抜けてきた振袖新造であり、彼女を追っていたのは吉原の亡八衆…と、それに加えて薄紅を追って謎の武士たちも暗躍し始めます。
 一方、御庭番・倉地文左衛門より本業(?)である御庭番宰領の任務として、吉原通いをしていた旗本の行方不明事件の探索を命じられた兵馬は、奇しくもそれが薄紅を巡る事件に繋がることに気付きます。が、事態は刻一刻と悪化して亡八衆と旗本の対立は既に一触即発の域。兵馬はそれを何とか収めるべく奔走しますが…

 はっきり言ってしまえば、これまでのシリーズに濃厚だった伝奇色はほとんど影を潜めてしまった本作。その意味では個人的にはかなり残念ではあるのですが――もっとも、市井のある意味ミクロな事件を巧みに御庭番の任務に絡めてみせる辺りはうまいものだと感心しましたが――本シリーズの一つの特色である、ウェットなようで妙にドライな人間関係は健在で、物語の方向性は変えつつも、雰囲気としては変わらないという職人芸を味わわせてくれます。
 特に兵馬とレギュラーの一人・岡っ引きの駒蔵の間の、一歩間違えれば刃傷沙汰になりかねないギスギスフィーリングはほとんど芸の域。また、互いに惹かれ合いつつも一緒になれない兵馬と女始末屋のお艶の関係は、これまでの人生のしがらみが地層のように積み重なって自由になれない大人の切なさがあって、今回の事件の発端である若い男女の後先考えぬ愛欲とは好一対であったかと思います。

 今後本シリーズがどのような方向に向かうかはわかりませんが(本作のような方向性となるのではとは感じますが)、この人間描写はこれからも健在であろうと信じている次第です。


「吉原宵心中 御庭番宰領」(大久保智弘 二見時代小説文庫) Amazon bk1

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2007.04.20

「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」 第三回「孝養の剣」

 さて「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」。いきなりぶっちゃけますが、私は本作の、というか本シリーズでは主役よりもむしろ敵役の生き様の方に興味を覚え、共感したりするのですが、今回はそんな私には涙涙の展開。これだけ十兵衛が憎たらしく見えたことはないよ! と思わずアホみたいに熱くなってしまいました。

 今回の十兵衛の敵は、宿敵正雪の兄・吉岡。長子として生まれながら通っていた道場の主の養子となり(やっぱり紺屋だから「吉岡」なのかなあ)、武士となった人物ですが、自分が先に家を出たにもかかわらず、家を継がず兄の後に家を出て軍学者になった弟を母が悪し様に言うのに心を痛める好人物として描かれています。
 さて、正雪が駿河由比の紺屋の子というのはよく知られた説ですが、本作でもそれに準拠しつつ、それを活かしに活かしたドラマを構築してみせたのが見事。

 久々に再会した兄に、我らは既に武士であると語り(この辺、どこぞの貝殻野郎を思い出したり)、己の大望を明かす正雪。自分が、自分たちが武士として生まれなかったことに悔しさを抱きつつ、しかしそれだからこそ一層に、武士が武士らしく生きられる世を作ろうとする彼の姿には、何とも言えぬ皮肉と、もの悲しさが感じられると同時に、なるほどこういう正雪の描き方があったか、と感心させられました。
 しかし今回のエピソードが神がかってくるのはこの後。これがあの正雪の実家かと紺屋を訪れ、所詮は紺屋生まれの山師、いずれは大罪を犯すに違いないと無礼極まりない言葉を吐く武士たちの言葉に噛みついたのは、家を捨てた正雪を嫌っていたはずの母でありました。武士たちに対し、自分は正雪の母などではなく実家に奉公していた者、正雪が紺屋の子であるはずがない。正雪は本当に立派な人間だと言い続ける母…そしてそれを正雪と兄が偶然耳にしてしまうというのが切なすぎます(「お前はおっかさんの誉れだ」と言う兄に、驚いたような顔で「誉れ…」と声に出さず繰り返す和泉元彌の演技が良いんだまた)
 そして、まさに正雪がその大罪を犯そうとしていると知りながらも、彼を庇う兄の姿が、こちらの涙腺を直撃。こうやって文章で書いてみるとベタな展開なのですが、いいものはいい。ことに、見ている我々は史実を知っているだけに、本当に本当に胸が痛みます(やっぱり慶安の変の後はこの母親や妹も…)。

 と、その直後に大仰過ぎるアクションで登場する大次郎はねえよ…本当にお前の空気の読めなさは最初のシリーズから変わらなくて嬉しいよ(ため息をつきながら)。

 そして正雪の敵である十兵衛を討つため、その妻・るいを人質にとって決闘を挑む吉岡。吉岡の得物は長巻なのですが、その長い柄を使った(そして使われた)チャンバラシーンも見事でありました。クライマックスの花びらとスローモーションは余計でしたが…
 もちろん、最後は十兵衛が勝つわけですが、この決闘の裏にあった想いを知っていたるいは、十兵衛に冷たい視線を向けることに。図らずも自分が最も厭っていた父と同じ道に踏み込んでいく十兵衛の姿が痛ましい…はずなのですが、見ているこちらは声もなく慟哭する正雪に感情移入しまくりでした。ある意味、正雪の勝ち(嬉しくない勝ちだ…)

 後半盛り上がり過ぎてすっかりどうでもよくなっていましたが、紀州で十兵衛を待つものも語られ、また家光も亡くなりと虚実入り乱れて物語も大きく動き出しました。その上何だか夫婦仲までピンチな感じで、四面楚歌な十兵衛。相変わらず辛気くさい顔がいよいよますます辛気くさくなったところで来週に続く。


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2007.04.19

「相剋の渦 勘定吟味役異聞」 権力の魔が呼ぶ黒い渦

 勘定吟味役・水城聡四郎が徳川幕府の権力の闇に迫るシリーズも、もう第四巻。権力に媚びず諂わず、たとえ我が身が窮地に陥っても己を曲げない好漢・聡四郎の冒険は、いよいよもって危険域に入って参りました。
 前巻ラストで遂に新井白石に逆らい、己の正義を貫いた聡四郎は、予想通り白石に睨まれてただでさえ危うい地位がさらに危うい状況に。そんな聡四郎に宿敵・紀伊国屋文左衛門が接近、甘言でもって聡四郎を惑わさんとします。
 その一方で、いまだ幼い徳川家継の将軍就任を巡って、幕閣、さらには御三家の間で熾烈な暗闘が繰り広げられ、幾多の犠牲者が生じる状態。そんな中、多大な権力と財を生む長崎奉行の定員削減の動きが表面化し、それに不可解なものを感じた白石は背後を探ろうとしますが…結局人望・人材不足の白石に引っ張り出されて、聡四郎は探索に当たりますが…

 徳川幕府の「権力の魔」を伝奇的手法で描かせたら当代きっての名手たる上田先生ですが、今回はいつにも増して状況は混迷の一途を辿り、主人公たる聡四郎と一緒に、読者たるこちらも途方に暮れるほどです。
 何せ、権力闘争のプレイヤーからして、
・新井白石
・間部越前守と月光院
・柳沢吉保
・井伊掃部頭
・尾張吉通
・紀州吉宗
と大変な顔ぶれ。しかもそのそれぞれが相当の戦闘力の私兵を抱えているのですから、これが無事に済むわけがない。

 一方、我らが聡四郎の側では、聡四郎の師であり、武術面・精神面の後ろ盾である一放流の達人・入江無手斎に対して、前巻で存在が予告されていた数十年来の宿敵である剣魔にして一伝流興主・浅山鬼伝斎が遂に登場。しかもこの鬼伝斎、弟子が柳沢吉保配下で聡四郎の宿敵という因縁から吉保側について、聡四郎は更なる窮地に陥ることとなります。
 この一放流vs一伝流というマニア好みの達人対決が本書の一つのクライマックス、巨大な権力同士の相剋に留まらず、個対個の剣の対決をきっちり描いてくれる辺り、さすがエンターテイメントの骨法をわかっていると膝を打ちたくなります。

 もっとも、あまりに様々な要素を盛り込みすぎたためもあってか、かなりの部分を今後のヒキに回しているところもあり、シリーズ中の一巻としては十分以上に楽しめるものの、一冊の独立した作品としてはちと微妙な点はあります。
 また、本シリーズの特色である経済面からの切り口、この巻で言えば長崎奉行の定員問題が、あまり物語の本筋に絡まず、聡四郎を事件に引き寄せる導入部的役割で終わっているのが残念と言えば残念でありますが、ここまで面白い作品を前にして文句をつけるのも贅沢すぎるというものかもしれません。

 さて、本書の終盤では遂に聡四郎と徳川吉宗が接触。本作の他の人物同様、権力の魔に憑かれた吉宗との出会いが、これから聡四郎の運命に如何に影響することでしょうか(ここで「竜門の衛」とリンクしたら神なんですが…)。
 野暮を承知で年表を眺めれば、おそらくは物語の終幕となるであろう徳川吉宗の将軍就任まであと四年ほど(この巻では、月光院の侍女として歴史に名を残したあの人物も登場、まず間違いなくあの事件が今後の物語の題材となることでしょう)。果たしてそれまでに如何なる死闘が繰り広げられることか…というか、本当に我らが聡四郎は生き延びることができるのか? ちょっと本気で心配になってきました。

 そんな聡四郎さんの数少ない心の安らぎ、ヒロインの紅さんは、いつものことながら天下のお旗本を「あんた」「馬鹿」と呼んだあげく、その相手に見つめられると真っ赤になる見事なツンデレっぷりで、この二人の先行きも心配っちゃあ心配であります。


「相剋の渦 勘定吟味役異聞」(上田秀人 光文社文庫) Amazon bk1

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2007.04.18

「幕末機関説 いろはにほへと」小説版 座長が語る舞台裏

 先日めでたく大団円を迎えました「幕末機関説 いろはにほへと」ですが、その時代考証と殺陣指導を担当した牧秀彦先生によるノベライゼーションが刊行されました。ほとんどの部分をヒロインである遊山赫乃丈を語り手としたスタイルで、アニメ全二十六話の内容を一冊に収めています。

 まず最初に厳しいことを書いてしまえば本書、上記の通り一冊でアニメ全編の内容を収めているため、内容としては相当にダイジェストしたものとなっております。また、最大のウリであるはずの剣戟描写も、本編であっさりと流されていた部分(三人の守霊鬼との決着など)はこちらでも流されていたりするのが残念なところ。
 また、基本的に座長視点であるため、彼女の視界にないもの、知識のないものはスルーされており、例えば東照宮の月涙刀の正体や蒼鉄先生の出自などは、本編以上に不明なものとなっているのも、些か当てが外れた気分ではあります。

 が、そういった点はあるにせよ、アニメ本編を全て観た人間にとってはなかなかに面白いものとなっている本書。座長と接点がなかったものについてはなるほどスルーでしたが、その分、座長に関するエピソードはなかなかの充実ぶりであります。
 例えば、耀次郎に出会うまで、蒼鉄先生と赫乃丈一座で各地で悪人退治をしていたとか、
耀次郎を追って一人旅立つ直前、夢枕に恵比須が立っていたとか、お駒姐さん初登場の時に耀次郎に近づいてきたときには心中穏やかならざるものがあったりとか、本編では描かれなかった部分なども描きこまれており、なかなか興味深いものがあります。ことに、耀次郎への感情の変化などは、本編ではちょっと唐突に感じられた部分も、座長の一人称で語られてみると、なかなか微笑ましく、納得できる部分もあります(また、終盤の偽ジャンヌ状態になっていた頃などは、これまでと全く変わらぬ文体で狂ったことを書いているのが恐ろしい)。
 その反面、本編ではかなり力を入れて描かれた、戊辰戦争・箱館戦争に関する部分が、かなりサラッと触れるのみとなっているのですが、本編では史実の大きな流れの前に物語の本筋が霞がちだった面もあるため、これはこれで悪くはないように思います。
 何よりも、あのシーンはこういうことだったのか、とか、このシーンの裏側ではこんなことがあったのか、というのが楽しめるのは、本編を仕舞いまで見通した人間にとっては、嬉しいサービスでありました。

 が、この座長の一人称というスタイルで大変に割りを喰った人物が一人…
 確かに、冷静に考えてみればお互い名乗り合う機会もなかったわけであって、座長にとっては、何だか自分に妙な視線を向けてくる殿方で、秋月様に事あるごとに突っかかってくる奴にしか見えなかったのだなあと気付かされて、おかしくなったり気の毒になったり…しかもようやく名前を覚えてもらった頃には座長は首に操られて正気を失っていて(つまり、この小説中で名前が出るのは本当にラスト近く)、その死についても数行で済まされる始末…
 座長は神無に酷い事をしたよね(´・ω・`)

 そ、それはさておき、もう一人割りを喰いかねない人、すなわち本編の主人公でありながら、劇中では何を考えていたのか今一つわからなかった耀次郎については、結局座長からの視点であるため、結局彼の心中は外側から想像するしかないのが惜しいのですが、彼の場合はアニメ本編でも鉄面皮だったので、本人以外の誰が語り手でも変わらなかったでしょう…

 が、その当の耀次郎が自らの心中を語っているのが、本書のプロローグ部分。唯一座長視点でない、耀次郎が本編第一話で横浜に現れるまでを描いたこのプロローグは、作中で語られた内容と合致しつつも、オリジナルな描写となっております。そして、この部分にこそ、耀次郎の鉄面皮の理由が示されています。

 突然話が飛ぶようで恐縮ですが、本編の最終回をご覧になった方の中には、ラストで、耀次郎が、これまで口にすることがなかったある言葉を発するのに気付いた方もいるのではないかと思います。恥ずかしながら、私は人に指摘されるまで大して気にも留めずにスルーしてしまったのですが、これが実に大きな意味を持っていたことが語られるのが、この小説版のプロローグ。
 このプロローグにより、何故ラストであの言葉を口にしたのかがわかると同時に、耀次郎が竜馬から受け継ぎ、失い、そして取り戻したものが何だったのか、そして何より、何故耀次郎のキャラクターが薄く見えたのか、それに気付かされたのは、全くもって嬉しい驚きであり、かつこれまでの自分の不明を恥じたことです。
(もっとも、本編の描写だけでこの点に気付くのはかなり難しいと思いますし、この小説版のラストではあの言葉が出てこないのも不思議なのですが)

 何はともあれ、アニメ本編を一つの舞台とすれば、その主演女優が自ら語った裏舞台とも言える本書。アニメ本編全二十六話を書かさず観て、かつ牧秀彦ファンである私には、それなりに楽しめるものでありましたし、アニメ本編のファンの方(除く神無ファン)にとっても、楽しい副読本となるのではないかと思います。
 これが一つのきっかけになって、牧先生自ら熱望する続編に繋がれば、これほど嬉しいことはないと思います。


「幕末機関説 いろはにほへと」(牧秀彦&高橋良輔 光文社文庫) Amazon bk1

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2007.04.17

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 般若侠初の登場

 さて今週の「Y十M 柳生忍法帖」ですが…前回ラストで、相変わらず非道を続ける芦名衆に怒りを爆発させた沢庵和尚ですが、芦名衆にとってはこれはむしろカモネギ。領内で神出鬼没のレジスタンスを続ける目障りな沢庵を捕らえれば、この鬱陶しい追いかけっこも終わり…と思いきや、むしろ自分たちがカモだったのだから恐ろしい。
 沢庵に襲いかかってみれば、その後ろから飛び出してきたのは、よりにもよって最強のテロリスト(加藤家的には)である十兵衛般若。般若面をごそごそ取り出した上に敵三人の槍を一瞬で押さえて(こればっかりは実際に画を見ないと凄さがわからないと思いますが)相手を無力化した上で一瞬のうちにバッサリと!

 その後ちょっと感心したのが、家族を皆殺しにされ、あわや雪地獄に拉致されるところだった女子への沢庵のフォロー。死んだ者はもちろん戻ってきませんが、二度と芦名衆の魔手にかかることがないように、彼女は天樹院様の尼寺の尼僧として、文字通り自分の名でお墨付きまで発行しています。
 もちろん、お江戸のど真ん中で人さらいを大々的にやる馬鹿どもにこれがどこまで通じるかはわかりませんが、沢庵和尚の、ひいては将軍家がバックについたようなもので、これは元手要らずでナイスなフォローだと思います。こういう時に犠牲者を元気づけるにはうってつけのお笛もいるしね。
 …すみません、ここ全部お笛の台詞だと思っていました。期待外れですみません…ていうかずっとさくらじゃなくてお千絵さんだと思いこんでたよorz (ほとんど漫才みたいなやりとりですなこりゃ)

 しかし、獄門首のように死後も辱めをうけた哀れな女子たちへの怒りはよほど大きかったのか――目には目を、生首には生首をということでしょうか、十兵衛たちにヌッ殺された芦名衆の生首が今度は晒されるわけですが、その脇に立てられた高札に書かれたのは、火を噴くように激烈な斬奸の言葉。そして署名は般若侠…
 あ、もしかしてこれが作中での般若侠の呼称の初出でしょうか。原作既読者として、何も考えずにこれまでも般若侠の名前を使ってきてしまいました。堂々とネタバレしてきたのか、俺…
 それはさておき、改めてちゃんと見てみると、なかなか良いネーミングですね、般若侠。冷静に考えれば、鬼女+男という矛盾した呼び名ですが、「侠」の一文字がまた、実に十兵衛にはよく似合うと思います。一片の義心を抱き、ただ一剣を抱いて、屍山血河の修羅の世界へ、わきめのふらず馳せむかう山風十兵衛には…
 しかし考えてみれば便利な言葉ですね、「侠」。後ろに付けるだけで何だか格好いいネーミングに!

 と、間抜けな感想は置いておくとして、この報復生首晒しが思わぬ悲劇を招くことに…芦名衆の生首が晒された後には、それよりも多くの雪地獄の女子の生首が。そしてこれに対してさらに多くの芦名衆の首が晒されれば、それよりももっと多くの女子の――もうやめようよ、こういうの! と読んでいるこちらがイヤになりそうな報復の連鎖です。やっぱり、どんなに事情があっても、報復テロとかはいかんですね。ましてや、沢庵は仏教者、そして十兵衛先生は剣侠なのですから、より一層犠牲が出るような真似は慎まざるを得ないわけで…

 しかし、本当に芦名衆殺しをやめさせるためだけにあの銅伯が生首連鎖地獄を仕掛けたのかどうか。自分には大事に使えと言ったくせに…と、おゆら様は「む~」と不機嫌ですが、あの怪老人が、意地や嫌がらせだけでこんな真似をするでしょうか。何だか猛烈に悪い予感がしてきたのう、というところで再来週に続く。

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2007.04.16

「大江戸ロケット」 二発目「男は待っていた」

 前回、謎の美少女ソラが主人公・清吉の長屋に転がり込んできたところで終わった「大江戸ロケット」。第二話である今回は、そのソラの月まで届く花火を上げて欲しいという求めに応じることを、清吉が決意するまでが描かれます。
 第一話で観ているこちらを引き込んでくれた、ポップな絵柄と多彩な(多彩すぎる)キャラクター、テンポの良い展開は今回も健在で、三十分弱があっと言う間に過ぎてしまいます。冷静に考えると、冒頭に書いたように清吉がソラの頼みを受けるだけの話ではあるのですが、しょーもなくもノリのいいギャグに、 アクションに歌に踊りに、ちょっと重たくなりそうなキャラ描写もあって…と、脇を飾る要素が色々と盛り沢山で、内容が薄いという印象はありません(というか、このノリはまるっきり劇団☆新感線の舞台のノリまんまでありますね)。

 その中でおっと思わされたのは、清吉の兄貴分、銀次郎絡みの描写。長屋の隣の部屋にソラを連れ込んだ(?)清吉の様子を覗こうとして壁をブチ抜いてしまうベタなギャグ芝居もよかったのですが、その後にフッと、背負った過去と、只者ではなさそうな力を窺わせるのが心憎い(しかもその過去というのが、かの大塩平八郎絡みらしくて…滅茶苦茶やっているようでいて、いきなりこういうネタを投入してくるのがまたズルい)。
 この銀次郎というキャラクター、舞台では古田新太氏が演じた役だそうですが、このアニメ版では山寺浩一氏が声を当てています。なるほど、いささか牽強付会ではありますが、二人とも、飄々とした軽さと、過去を背負った重さを合わせ持ったキャラを演じさせたらピカイチなだけに、納得のキャスティングです。

 そして今回のクライマックス――清吉の決意のシーンですが、これがなかなかに泣かせる展開。いかに可愛らしい女の子が自分の腕を見込んでくれたとて、テストすらままならぬご禁制の花火を、月まで打ち上げるということの無謀は、清吉自身が一番よくわかっていること。それでも彼を決意させたもの…それは厳しい改革の前に日々の楽しみを奪われ、うなだれて過ごす人々の姿でありました。
 そんなみんなの顔を上げさせたい、空を笑顔で見上げさせてやりたい。ただそれだけの――しかし、素晴らしく尊い思いが、清吉の心に火をつける様は、個人的にロケットというものに思い入れがあることもあって、素直に感動しました。

 しかしこのペースで二十六話保つんかいな、という気もしますが、それは余計な心配というものでしょう。舞台と同じ、そして全く異なった楽しさを、きっと見せてくれるものと信じています。


 ちなみに…現在発売中の「オトナアニメ」誌には、本作のメインスタッフである水島・會川・近藤氏の対談が掲載されています。本作のみならず、時代劇・アニメ全体に渡る実に興味深い内容となっていますので、機会があればぜひ一読を(近藤先生の時代アニメ総まくりも実に楽しい)。
 …個人的にはこちらの見当違いを思い知らされて冷汗三斗なんですが


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2007.04.15

「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」 第二回「恩義の剣」

 「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」第二回は、夏八木宗矩大暴れで楽しませてくれた第一回のテンションを落とすことなく、伝奇色バリバリの内容。柳生十兵衛は二度死ぬ、と言わんばかりの展開で、ここまでやってくれるとは、と嬉しくなってしまいます。

 前回ラストで敵の凶弾に倒れた柳生十兵衛。江戸表に十兵衛死すの急報が届けられるのですが、その日付は三月二十一日――と、ここでニヤリとした人は好きモノです。
 この日、慶安三年三月二十一日こそは、史実における柳生十兵衛の亡くなった日。もちろん、まだ第二回で十兵衛が死んでしまうわけもなく、十兵衛は己の死を偽装していたわけですが、それが歴史上の十兵衛の死と重ねられたということは…「実は十兵衛は生きていた」ネタでこの後やりたい放題(゚∀゚)
 事前の勉強不足でお恥ずかしいのですが、今回は、「最後の戦い」というからにはシリーズラストは当然三月二十一日の十兵衛の死だと、見る前から決めつけておりました。が、それがこんな形でひっくり返されるとは、いやこれは嬉しい裏切りです。
 冷静に考えれば、今回十兵衛の宿敵となるであろう由比正雪が慶安の変を起こすのは、史実での十兵衛の死の後である慶安四年のこと。つまりそれまでは正雪は生きているわけであって、十兵衛に倒されなかった、あるいは十兵衛が敗れたということになってしまい、はなはだ面白くないわけです(正雪は既に死んでいた! という手もありますが)。
 そこをこんな手で回避してみせるとは…NHKえらい! というか、十兵衛の訃報に対して「夢じゃ!」って絶対狙ってるだろ。

 ちなみにその正雪を演じるのは、前シリーズ同様、和泉元彌。これがまた滅茶苦茶なハマリ役で…発声と所作がしっかりしているため、登場するだけでも相当な存在感なのですが、その白面ぶりとやたらと芝居がかった演技が、正雪の持つイメージと重なって実に良いのです。
 その和泉正雪と村上十兵衛が張孔堂で対峙するシーンが、やはりこの第二回のハイライトでしょう。以前から暗闘を続けてきた二人ですが、直接対話するのは初めて(…だよな?)。その結果は…どう考えても正雪の方が説得力があって困ってしまうのですが、さてそれがこの先どうなるか。
 そして正雪と並んで目が離せないのが西村雅彦演じる頼宣。前回の感想にも書きましたが、一般に剛毅なイメージのある頼宣像をブッ壊すような変態キャラで、こりゃむしろ綱吉とかの造形だよな、という感じですが、これがいいアクセントになっています。特に、大マジの正雪の話をヘラヘラ聞いているシーンが面白すぎる。

 この濃いレギュラー陣の前に、今回のゲスト剣豪の影が霞んでしまったのは残念なところですが(設定自体地味だったしなあ)、次回は何と正雪の兄が十兵衛と戦う模様で…先が読めなさすぎる。何が飛び出してくるかわからないこの作品、この先も楽しみです(水野美紀様も登場するしな! 吉田栄作の妹役で)


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2007.04.14

「鉄人28号 白昼の残月」 戦争と平和、太陽と残月

 劇場アニメ映画「鉄人28号 白昼の残月」を観てきました。いくら何でもこれは時代ものじゃないだろ、と言われるかもしれませんが、本作が、背景となる時代なればこそ成立する物語であることは間違いのないところ。昭和三十年という、戦争の爪痕がいまだ生々しく残る時代を舞台に描かれた、新たなる鉄人の物語であります。

 鉄人28号を駆って日夜活躍する少年探偵・金田正太郎の前に現れた若者・ショウタロウ。旧日本軍の秘密兵器であった鉄人の操縦者として鍛えられた彼は、南方の戦線で死んだかと思われながらも、金田博士のある遺言を携え、戦後十年を経て祖国の土を踏んだのでした。
 折しも東京各地で発見される桁外れの破壊力を持つ謎の不発弾。それこそは金田博士が遺した「廃墟弾」でした。ショウタロウはその廃棄のために帰国したのであり、彼に代わり、正太郎は、鉄人を使っての廃墟弾撤去を続けます。
 が…正太郎の背後に迫るのは、「残月」を名乗る謎の復員兵姿の怪人。さらにショウタロウも謎の行動を取る中、復興利権の独占をもくろんでベラネード財団の影が人に近づきつつありました。そして人々の様々な思惑が一つに絡み合ったとき、東京の地下からあまりに巨大な影、戦争の負の遺産が姿を現して――

 数年前に深夜枠で放映されたTVアニメ版とは基本設定の一部を重ねつつも、パラレルな物語として製作された本作は、正太郎少年に大塚署長と敷島博士、村雨一家やビッグファイア博士と、お馴染みの鉄人のキャラクターが総出演。ロボットの方も、ブラックオックスこそ登場しないものの、それ以外の人気ロボはほとんど登場という、いかにも劇場版らしい豪華さですが、本作はしかし、抑え目の、一種物静かなトーンを終始保って描かれていきます。
 この点は、オールスター総出演という触れ込み、そして何よりもあの「ジャイアントロボ THE ANIMATION」の今川泰宏監督作品ということで、派手な大活劇を期待した向きには不評かも知れません。が、今川監督の本質は、私の見たところ「情念」の二文字。ド派手な演出術も、その情念の一つの表れであり、本作はそれがまた別の形で現れたと考えるべきかと思います。

 さて、TV版では、鉄人28号が、戦争のために造られた兵器であったという点に大きくウェイトを置くことにより、かつて戦争という巨大な嵐に巻き込まれた人々が、その落とし子たる鉄人に直面した時にどのように受け止めるか――もちろんそれは戦争というものをどう受け止めるかとイコールであります――が描かれました。
 一方、この映画版では、むしろ鉄人を遠景に置き、かつてその鉄人でもって戦うことを義務づけられながらも果たせなかった者・ショウタロウに焦点を当てているのが、最大の相違点であり、またユニークな点であります。
 ショウタロウの存在、そしてその彼を襲った悲劇は、もちろんこの鉄人世界でしかあり得ないものではありますが、しかし同時に彼はあの戦争の中で何かを失い、運命を狂わされた人々、そしてその犠牲と引き替えにいま享受される平和に馴染めぬものを感じる人々の代表者であり、代弁者でもあります。
 正太郎の前に現れたショウタロウ――戦後の平和という太陽の前に今なお残る戦争の落とし子たる白昼の残月を中心に物語を描くことにより、本作は、TV版のエッジの効かせ方とは違った手法で、戦争をどう受け止めるか――戦争の価値、善悪を判断するのではなく、いまそこにある・かつてあったものとしてどう感じ行動するのか――という大命題を、浮かび上がらせていると言えます。
 正直なところ、TV版では戦争の惨禍というものが前面に出すぎており、その点で観る人を選ぶ作品ではあったのですが、本作はテーマを同じくしながらも、このショウタロウの存在をワンクッションとすることにより――さらに、親子という存在をそこに絡めることにより、ある種の普遍性を可能としたかと思います(ちなみに、これまで一貫して父性に力点を置いてきた監督が、本作ではそれと反対の立場を取っているのは、なかなか興味深いことであります。ようやく師匠の影から踏み出したといことかしら)。

 そしてショウタロウに対置される正太郎少年は、相変わらず――もちろんそれにより逆に物語の主題を浮かび上がらせる効果はあるのでしょうが――物語の真実から一歩離れたところに立たされている存在であります。だがしかし、TV版とは異なり、もう一人の正太郎、血肉の通った人間である己の兄と出会ったことにより、彼が歩む道のりは、また違ったものとなるであろうことが本作の結末からは予感されます。
 太陽の光が照らす世界の中にも、残月という存在があることを認めた正太郎。それは、戦争という事実を知りつつも、それから逃げることも無視することもなく、その存在を受け止めながら生きていく姿勢の表れであり、そしてそれはそのまま、鉄人28号の存在を真に受け入れた彼の姿に重なっていきます。
 それだからこそ、あの名曲は、冒頭ではなく結末に流されたのでしょう。そう、これは鉄人28号の物語の、一つの始まりでもあるのですから。残月以て瞑すべし。


 なお、蛇足ではありますが、本作で忘れてならないのは、その優れた劇中音楽であります。
 TV版の千住明氏に代わり、映画版の劇伴として選ばれた伊福部昭氏の楽曲(そう、使用されたのは、みな今川監督に選ばれた既存の楽曲であります)は、一種端正さを感じさせる千住節とはまたベクトルの異なる土俗的味わいを湛えており、ドラマに対し、地に足の着いたリアリティを与える効果を上げていたと思います。
 そして、何よりも印象深いのは、春日八郎の「お富さん」。物語の当時の流行歌であり、時代背景を示すという以上に、その歌詞に込められた作中人物の想いを、一度仕舞いまで観た上で改めて考えてみると胸の締め付けられるような気持ちになります。まさに本作の裏主題歌とも言うべきでしょうか。

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2007.04.13

「鳥居の赤兵衛 宝引の辰捕者帳」 スマートかつトリッキーな江戸模様

 伝奇ものではありませんが、たまには真っ当な(?)時代ものでも。ミステリの名手・泡坂妻夫先生の時代ミステリ「宝引の辰捕者帳」の現時点での最新巻、「鳥居の赤兵衛」です。
 宝引の辰親分は、神田千両町にその人ありと知られた腕利きの岡っ引き。鉤縄の名手のうえに頭の回転が早く、次々と難事件怪事件を解決する江戸の名探偵の一人であります(ちなみに「宝引」とは、今でいう福引きのようなもので、その景品作りを副業にしていることからの異名。この辺りのアイテムのチョイスがうまいですね)。

 と、これだけ見ると、よくある捕物帖のように思えますが、特筆すべきはその執筆スタイル。実はこのシリーズ、捕物帖には比較的珍しい一人称スタイルの上に、なんと毎回語り手が違うのです。
 もちろん辰親分やその子分たちが語り手になることもあるのですが、圧倒的多数は、事件に巻き込まれた江戸の住人たち。エピソード毎に全く違う語り手が登場するため、最初は戸惑うこともありますが、しかし、様々な職業・年代の人物の視点から物語ることにより、発生する事件や登場する人物・風物を様々な角度から描き出すことに成功しており、ちょっと大げさにいえば「カレイドスコープ」的な面白さが、本シリーズにはあるのです。
 泡坂先生は、作家であると同時に奇術師でもあるためか、トリッキーな内容の著作が多いように思いますが、本作はそのスタイルがトリッキーと言えるかもしれません。

 そしてもう一つ、本シリーズの魅力は、上記の様々な視点から浮かび上がる、江戸の風物の楽しさ、面白さでしょう。捕物帖と言えば、江戸の風物や人情を描くのがお決まりとなっている面もあり、それは本シリーズも同様ではあるのですが、しかし、なんと申しましょうか、本シリーズのそれは、ひどく自然なものに感じられるのです。一生懸命調べて書きました、というのではなく、まるでそれが当たり前のことのようにサラッと、あたかも今自分の目の前にあるものを写したが如くスマートに…
 それもそのはず、泡坂先生は先祖代々生粋の江戸っ子、江戸時代から受け継がれてきた紋章上絵師というもう一つの顔を持っているのですから、ちょっと悔しいですが、そんじょそこらの人間が資料と首っ引きで挑んでもこれァ分が悪いというものではないでしょうか。

 さて、それでこの「鳥居の赤兵衛」ですが、標題作のほか、「優曇華の銭」「黒田狐」「雪見船」「駒込の馬」「毒にも薬」「熊谷の馬」「十二月十四日」の全八話を収録。上で褒めちぎっておいてなんなのですが、シリーズ全体の水準からすると、ミステリとして見た場合にちょっと軽いかな、という印象があります。分量的にも短めの作品が多いためかもしれませんが…もちろん、あくまでもシリーズ全体として見た時のお話。

 そんな中で個人的にベストに挙げたいのは、珍しく辰親分自身が語り手となった「黒田狐」。さる大名家からの使いを名乗る男に招かれて屋敷に向かった辰親分ですが、先方では心当たりはないという話。これはどうも邸内に奉られたお稲荷様の仕業ではないか、という話が出たその時、屋敷に盗賊が侵入。勇躍これを捕らえた親分ですが、盗賊には捕らえられた際の記憶がなく、これもお稲荷様の神通力かと大評判になりますが、さて…
 と、題名通りに狐にまつわる一連の怪事件。もちろんその裏には種も仕掛けもあるのですが、そのトリックがなかなか面白く、読み終わってみれば、なるほどと膝を打ちたくなりました(辰親分が事件の真相に気付くきっかけとなるアイテムが、またこの作者らしいもので愉快です)。
 そしてまた、ミステリでいうところのホワイダニットの部分も実にユニークで、迷惑な事件ではあるのですが、何だか笑って許したくなるようなおかしみのある、粋な味わいでありました。特に最後のオチが面白くて…
 時代ものとしてもミステリとしても一級品の、このシリーズの象徴的作品と言ったら言い過ぎかもしれませんが、私の大好きな作品です。

 果たしてこのシリーズ、この先どれほど書き継がれるかはわかりませんが、これからもスパイスの利いたミステリの妙味と、時代ものとしての爽やかな味わいを合わせ持ったシリーズとして、楽しませていただきたいものです。


「鳥居の赤兵衛 宝引の辰捕者帳」(泡坂妻夫 文藝春秋) Amazon bk1

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2007.04.12

「中世日本の予言書 〈未来記〉を読む 」 過去の未来が現在を語る

 書名のみ見れば、一見センセーショナルな内容かと思わされる本書ですが、もちろん天下の岩波新書がそんなものを出すわけはありません。特に日本の中世期に広く流布した予言書“未来記”を通じて、当時の――そして過去から現在に至るまでの日本人の歴史観、時間意識といったものが語られる好著です。

 未来記、特に聖徳太子の未来記といえば、伝奇時代ファンとしては、山田風太郎の「室町の大予言」や火坂雅志の「神異伝」、さらには朝松健の「彌猴秘帖」が浮かびますが、実在の(という表現が適切かはわかりませんが)偽書。身も蓋もない言い方をすれば、後世の人間の捏造の産物であります。
 こうした未来記を――聖徳太子ら、半ば伝説的な偉人が遺した予言という触れ込みの文章を、様々な形で解釈して現在の現実にあてはめるという行為は、なるほど良識ある人の眉を顰めさせるかも知れません。しかし、その行為が、当時の「現在」を生きた人々が、どのようにその「現実」を受け止めていたかを語っていると、本書は教えてくれます。

 現実を語る手段は、何も真っ正面から、目に映るものを語っていくだけではありません。今ではないいつか、自分ではない誰か、そのように視点の位置を変えることにより、直接的なアプローチでは気付かない、また語れない事実を語ることもまた可能なのです。
 未来記は、偽書、偽りの存在ではありますが、そこに込められているのは、紛れもなく(真の記述者/解釈者にとっての)現実。その意味では未来記は、それ自身のアプローチでもって現在の現実を語る、一種の歴史の叙述装置と言えるのでしょう(ちなみにそれは、時代伝奇ものも同様に持っている機能なのですが)。

 もちろん、日本人がそのような未来記を生み出した、そしてその存在を許容した背後には、それなりの理由があります。その一つが、社会の複雑化、不安定化に伴って生まれた、神仏ですら絶対の存在ではないと思わせるほどの現実への不安感。そんな現実に相対するためのツールとしての未来記について語られた本書の内容は、背景となる中世神話等の面白さもあり、実に興味深く感じました。

 そして…過去の人間が未来を予言する形で現在を語るという、実にややこしい存在であるこの未来記が、しかし、決して過去のものではないことも、本書は教えてくれます。本書の終盤において語られる、近現代においてもなお生まれ、解釈し続けられる未来記の存在――その一つとして挙げられているのは、なんと上で触れた山田風太郎の「室町の大予言」でありました。
 時代伝奇小説が新たな未来記を生み出す…いささか牽強付会ではありますが、これは上で軽く触れた両者の等質性の一つの証左のように思われて、個人的には何とも愉しく感じられたことです。


「中世日本の予言書 〈未来記〉を読む 」(小峯和明 岩波新書) Amazon bk1

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2007.04.11

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 オヤジ邪魔!

 オヤジ邪魔!
 …
 …と、危うく一行で感想が終わりそうになった今週の「Y十M 柳生忍法帖」。前回ラストに登場した氷の彫像の如きものの正体が語られ、そこから明成一派の暴虐が描かれることとなります…が。
 
 その精緻な氷の彫像と見えたものの正体…それは前夜に池に追い落とされ、極寒のうちに凍り付いた女人たち。精緻なのも道理、わずか一晩前には生きていたのですから…血の一滴も流れないものの、残酷さ、無惨さではあの江戸の花地獄の犠牲者を襲った運命にも匹敵するおぞましい所業を発案したのはおゆらさん。

 そして、放っておくと太公望が立ち上がりそうな娘のその所業を諫めるでもなく、平然と城の女人の「在庫」が減りつつあると告げる銅伯も銅伯。しかしその銅伯をもってしても行方が掴めないのは、沢庵とほりにょたち。まあ、精鋭七本槍からしてアレなので、名も無き芦名衆では荷が重いのかも…まあ、見つければ見つけたで、んふ魔人の刀が待っているわけですが。
 それでも、同日同刻に目撃された人数の多さから、ほりにょが雲水に化けているのではと割り出したのはさすが。とはいえ、将軍家の帰依厚い沢庵本人をヌッ殺すのはいささかマズいというのもまた事実ではあります。
 もっとも、領内で散々女子狩りを繰り返した上に次々と惨殺しているという所業が、大名お取り潰しに血眼の幕府に知られたらもっとマズいとは思うのですが…(実際、この点は原作の唯一最大の穴であります。まあ、銅伯が天膳に匹敵するドジっ子だったと思っておきますか)
 そんなわけで黙っておくわけにもいかぬ沢庵でありますが――そこで銅伯の口から出たのは、幻法「夢山彦」なる言葉。忍法ならぬ幻法とは何か(やっぱり片手で軍艦沈めちゃったりするのかしら)。そしてその幻法でもって、どのように沢庵を縛り付けるつもりなのか…

 と、その沢庵が、見せしめに女子のたちを晒し首にした上に、さらに女子を拉致していこうとする芦名衆に怒り爆発したところで以下次号。

 …
 …と、ダラダラ書きましたが。
 今回の最大のナニは、やっぱりおゆらさんとエロオヤジのアレなわけで。
 銅伯たちと話している間中、部屋の窓からエロオヤジが上、おゆらさんが下にと、縦に並んで顔を出していたこの二人ですが、部屋の中でどうなっていたかと言えば、「ンフフフ…、ンーフフフ…つるんでやがる、コイツらつるんでやがる、つるんで、ハハハハハハ!」と銀河万丈の声でツッコミを入れたくなるような状態(元ネタがわかりにくい上に何だか下品な表現になっちゃった)。そんな状態で人の話聞くなよ! まったく、何てわかりやすいエロ悪役ぶりでしょう。

 しかしここで真面目に感心してしまうのは、せがわ先生の見せ方のうまさ。直接的に部屋の内部が描かれるのはほとんど一コマのみで、あとは窓から二人が顔を出しているという、考えようによっては間抜けな絵面のみ。それなのに、立派に――どころか猛烈に、あれだ、その、エロいのは、実に見事な演出だと思います(個人的には、その一コマも余計だったんじゃとは思いますが)。

 …だからオヤジ邪魔!

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2007.04.10

「大江戸ロケットぶっちゃけ祭り」に行ってきました

 さて、「大江戸ロケット」ネタでもう一つ。昨日、4月9日夜に、新宿のロフトプラスワンで、「大江戸ロケットぶっちゃけ祭り」というイベントが開催されました。出演は、監督の水島精二氏、キャラクターデザインの吉松孝博氏、原作者の中島かずき氏、司会はWEBアニメスタイル編集長の小黒祐一郎氏で、ゲストは第一部が声優の大川透氏(本作では遠山金四郎役)、第二部が時代劇考証の近藤ゆたか氏でした
 以下、覚えている限りの内容を箇条書きで…カッコ内は発言者です。

・対象年齢層は広く、家族で見ることが出来るよう想定している(水島氏)
・最初は舞台と同じ構成案を持っていったら中島氏に怒られたが、そこで怒られて良かったと思う(水島氏)
・遠山金四郎はアニメオリジナルキャラ。実年齢では鳥居より上なので若作りという設定。第三話で初登場し、その後少し開いて十話で再登場する。後半は幕府に関わる話もあるので、そこに絡んでくるかもしれない(水島氏)
・第一話ではわからないが、鳥居の素顔はあの頭巾には入らない。脱ぐときに膨らむ描写がある。ちなみに鳥居役に若本氏を使おうと言ったのは會川氏(水島氏)
・「妖奇士」は「大江戸ロケット」の一年後の話。だから最後は「妖奇士」につながるんだよたぶん。鳥居は水気が抜けてあんなに細くなる。第一話でで鳥居たちが倒した獣の肉を食べたらおいしくて…(中島氏)(※注:中島氏の冗談なので信じないように!)
・ラストは舞台から変わっているといえばいえるかもしれない(水島氏)
・第三話で過去話をやる。内容はぐっと大人向きになるが、いい話(水島氏)
・パクロミさんが出るのは、自分の娘がファンだから頼み込んだ(中島氏)
・「大江戸ロケット」は今度DVDになるが、高いBOXに収録されている。自分はアニメになるのだし単品で、と主張したが、この形になってしまった(中島氏)
・自分の仕事は時代考証ではなく時代劇考証。SFもので科学考証ではなくSF設定というようなもの。時代劇として正しいかを見ている(近藤氏)
・近藤氏と會川氏の発想は、時代劇ファンならではのもので、感心させられることがあるが、そういうのは実は戯曲の時点で自分が書いたものだったりする(中島氏)
・いのうえ氏は薄いので折角もじって考えたキャラクター名を変えてしまう。そこは今回戻してもらっている(中島氏)
・近藤氏の設定画は非常に緻密。リイド社や小池書院の編集部に売れるのではないか(中島氏)
・みなもと先生は、パーティーで知り合って、その時に(吉松氏に断る前に)キャラデザを頼んだ。内藤先生もその時。みなもと先生は、「大運動会」の大ファンで、スタッフ・キャストを一人一人覚えていた。それで自分の名前も覚えていただいていて、依頼することが出来た。最初はいつもの絵柄でラフにスケッチしていただいたが、後で頭身を上げて描き直したものをいただいた。が、いつもの絵がいいということで戻してもらった(水島氏)
・みなもと先生のデザイン画に、このキャラの顔は動かしにくいでしょうねと書いてあったので、意地になって第一話でCGで振り向くシーンを入れた(水島氏)
・椎名先生は吉松氏の高校時代の知り合い。依頼したいと思ったが連絡先がわからず、サンデー編集部にファンレターを送った(水島氏)
・山寺氏には、みなもとデザインの長屋の住人全員を演じ分けてもらいたいと思ったが、さすがに良い役もないとまずいということで銀次郎の役も振ったが、長屋の住人の方は断られて銀次郎だけ残った(水島氏)
・銀次郎は舞台で演じた古田新太氏の存在感が独特なので、そのままのキャラクターにはできないため、もっと掘り下げて描くこととした(水島氏)
・古田もアニメのように細かったらこっちの苦労もなかったのに。ポスターで細く見えるのは、フィルムを縦方向に引き延ばしていたから(中島氏)
・PUFFYにはアメリカでのアニメコンベンションで会ったときに直接頼んだ(まだ音楽会社も決まっていない頃)。PUFFYはデビュー以来のファン。アルバムも全部持ってる。自分はこのアーティストがよい、というのが明確にあるので決まりやすいかもしれない。ハガレンのポルノも自分で選んだ(水島氏)
・エンディングは後期で変わる。最後まで候補に残った三曲のうち一つ(水島氏)
・第一話の全員同じ顔の捕り手のモデルは、佐藤竜雄氏。ちゃんと本人に了承も取った(吉松氏)
・モーニング娘。の辻さんの前髪でデザインしたキャラがいる(「辻さんで良かったですね」と中島氏)。ミキティーをモデルに使ったキャラもいたが、劇中で他のキャラとねんごろになると聞き、差し替えた(吉松氏)
・時代考証をしっかりやると會川路線、時代劇に徹するとサムシング吉松路線になると思うが、監督はどちらに行きたいのか(質問コーナーで)→真ん中を行きたい。そのために二人いるし、近藤さんに相談することもできる(水島氏)
・時代考証は、男組の流全次郎の手錠のようなもの。その時々によって鎖の長さが変わって良い(近藤氏)
・「獣兵衛忍風帖」をやったとき、僕の肩書きはどうしようと相談したら、吉松君に「サムライマン」が良いと言われてそうなった(近藤氏)
・「闇鍵師」はある意味銀次郎のスピンオフ。銀次郎のキャラをピックアップして、魔物退治をさせた(中島氏)


 以上、かなりうろ覚えではありますが、記憶に残ったものを書き留めてみました。
 会場はほぼ満員。お客さんは、業界の方とアニメスタイルのファンの方がほとんどという印象でした。少なくとも、私みたいに近藤先生・中島先生・(欠席でしたが)會川昇先生を目当てに来た人間はあんまりいなかったのではないかな、と思います。
 平日の晩、しかも外は大雨と、会場にたどり着くまでが一苦労でしたが(そうそう、十五分ほど遅刻したのでその間の内容は書いていません)、スタッフの方が、苦労しつつも楽しんで作られている様子が伝わってきてなかなか面白いイベントでした。

 …にしても會川先生と近藤先生(そして中島先生)に挟まれる監督が羨ましすぎる。

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「大江戸ロケット」 一発目「大江戸に咲く紅い花火」

 この四月から放送開始のアニメの中でこのサイト的に一番楽しみなのが――というより唯一注目なのは――この「大江戸ロケット」。劇団☆新感線の舞台を原作とした作品ですが、この第一話を見たところでは、素晴らしく豪華なスタッフの力も相まって、なかなか…いや相当の好印象。登場人物の数は相当なものですが、賑やかな展開の中で手際よくキャラと設定が紹介されていって、あっという間の三十分でした。

 舞台は天保の世。水野忠邦の改革で、江戸の町の火が消えたようになっている中、今まで誰も見たことのない花火を打ち上げてやろうと日夜努力を続ける主人公・玉屋清吉は、ある夜、とてつもなく巨大な花火(のようなもの)が夜空に輝くのを目撃します。そして、江戸の闇の中で人外の死闘を展開する奇怪な青い獣と白い獣。その中に割って入った南町奉行・鳥居耀蔵と配下の忍びたちにより、青い獣は討ち取られますが、白い獣は、清吉の打ち上げ花火に鳥居たちが気を取られた隙に逃亡してしまいます。そして次の朝、風来長屋の清吉の前に現れた一人の美少女・ソラは、清吉に、月まで届く花火を打ち上げて欲しいと依頼するのですが…

 というのが第一話のあらすじなのですが、とにかく(特に前半の)その勢いに驚かされます。風来長屋の連中が巨大な花火(のようなもの)を夜空に見上げるシーンから始まり、南町同心の手入れに、二匹の獣&鳥居一派の三つ巴のバトルシーンと、状況説明もそこそこに次々展開されるので、見ている側はただただ「うわー」と口を開けて見入ってしまう状態。
 特に驚かされるのが、そのキャラクターデザイン陣の豪華さ…というかいい意味での無秩序さ。特に、いきなりみなもと太郎先生のキャラが登場してきた時には、事前に知っていても驚かされました。その他、みなもと先生のほかにも内藤泰弘、椎名高志…と、「おお!」と思ってしまうようなメンバーの手になるキャラが次々と登場するのですが(おっともちろんメインの吉松孝博氏は言うまでもなく)、それぞれの先生が、見て一発でそれとわかるくらい完全に自分のタッチでデザインしているので、頭身の違い(!)も含めて、一見したところではもの凄く混沌としているように見える…のですが。
 ですが、それがちょっと経てば、何だか違和感なく見えてくる不思議さ。これは、一つには脚本と演出による見せ方のうまさもあるのでしょうが、どうやら、それぞれの先生が担当するキャラ群が、物語での立ち位置に基づいてグループ分けされているらしく、それがうまくはまり合って、この違和感のなさにつながっているように感じられます。

 と、駆け足でを物語のレギュラー陣の顔見せと、事件の発端を前半で描いた後、後半は一転して、長屋を舞台として、清吉と、彼を取り巻く物語の中心となるであろうキャラクターたちの絡みをじっくりと見せてくれるのが心憎い構成。特に、清吉の兄貴分で、何やら秘密のありそうなナイスガイ・錠前屋の銀次郎と、イヤミなんだけど何だか抜けてそうな南町同心・赤井は、なかなかのキャラ立ちで好印象でありました。

 ちなみにこの赤井同心の声を当てているのが川島得愛氏というのが、「妖奇士」ファンにはちょっと嬉しい話。鳥居耀蔵はこちらでも若本規夫なので、「小笠原様が鳥居の配下に!」と誠にアホな喜び方をしてみたり…
 また、私は残念ながら原作舞台を未見なのですが(早くDVD届かないかなー)、この赤井同心のイヤミで潔癖性の陰険メガネというキャラクター、まるであのお方のキャラみたいだな、と思っていたらやっぱり舞台で演じていたのは粟根まことさんだったので噴いた。

 それはともかく、原作舞台を見てない私が言うのもなんですが――そしてこれはある意味大変失礼な表現ではあるのですが――中島かずき氏がアニメの脚本も書いているのでは、と思ってしまったほど、新感線ファンとしては違和感なくしっくりくる第一回であったのは間違いないところ。
 どうやら二クール放映のようなので、これから色々とアニメ独自のアレンジも入ってくるでありましょうし、むしろ入って欲しいのですが、この先も、安心して楽しむことができそうです。

 ちなみに今回はOPはなしでEDのみであったのですが、このEDがまた実に楽しくて…これだけでも見る価値があるかもしれませんね(と、これ第一話はラストに流れましたがOPだそうです。なるほど)。


関連サイト
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2007.04.09

「武死道」第三巻 大義持つ者持たぬ者

 朝松健先生の大蝦夷ウェスタン「旋風伝」を原作としたバイオレンス・アクション「武死道」の最新刊です。明治初頭の蝦夷地を舞台としたマカロニ・ウェスタンである原作が、ヒロモト世界と化学反応を起こした本作、以前にも書きましたがこの巻も「すげえもん見た!」としか言いようのないインパクトです。

 新選組の生き残り・原田佐ノ助との出会いにより、「そるじゃあ」として生きる覚悟を決めた新之介。しかし彼に欠けていたのは、生きるための強烈な行動原理――大義でありました。
 そんな彼が悩んでいる頃、黒田清隆はロシアの密偵と結び、蝦夷地、ひいては日本の支配に向けて、秘密鉱山でアイヌ人を使って硝石の採掘を目論みます。一方、アメリカ政府の刺客ワーナーブラザーズも活動を開始。黒田の配下となった宿敵・仙頭左馬ノ助にさらわれたヒロイン・アギを追って新之介と左之助らも秘密工場に向かい、そこで巻き起こるのは当然ながらバイオレンスまたバイオレンスの大乱闘――

 とにかく登場する連中が主人公とヒロインとあと少しを除いて全員悪人面という本作。もちろん悪いのは面だけではなく、基本的に善人は存在しない世界ですが、ヒロモト作品で善悪を云々するのが間違いであるのは言うまでもないところ。そこにあるのは、ただ強烈に己の道を往こうとする意志――本作で言えば大義――のみであり、そのぶつかり合いが暴力という形となるのは、むしろ当然と言えるかもしれません。

 その意味で、この巻で主役級の活躍(?)を見せる黒田清隆はまさしくヒロモト世界の住人。その思想と所業は間違えても賛同できるものではなく、支離滅裂ですらありますが、彼もまた、紛れもなく彼自身の大義を持って生きる男であり、時としてそれが魅力的に映ります(「ステーキの血では消せぬ血を浴びた男のようだ…」という黒田評がまた素晴らしい)。
 本作に登場する実在の人物、すなわち土方・原田・黒田は、いずれもヒロモトキャラらしいブッ飛んだ行動を見せながらも、その根底では、我々が持つその人物のイメージをきちんと踏まえているのは、驚くべきことであり、かつ讃えるべきことかと思います。

 そんな大義を持った男たちに対し、持たない新之介はいかにも非力。果たしてこの巻で起きた悲劇が、彼に大義を与えるのでしょうか。
 思えば物語の冒頭から悩み迷い続けてきた新之介。その彼が己の進むべき道を見出すとき…それが本作の一つのゴールなのかもしれません。そしてラストのアギの言葉を見れば、そのゴールが原作と重なる形になっていくのではないか――そんな気がします。


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 「武死道」第1巻 武士道とは土方に見つけたり
 「武死道」第2巻 サムライvsそるじゃあ

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2007.04.08

「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」 第一回「母恋の剣」

 私的にはTV時代劇最後の砦の一つ、NHKの木曜時代劇の新シリーズは、「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」であります。村上弘明演じる柳生十兵衛を主役に据えたこの作品もついに第三シリーズにしてラストシリーズ。晩年(って言っていいのかしら)の十兵衛が、柳生家の宿命や己の過去と対峙しつつ、様々な強敵と対決するという作品になりそうです。

 前作、島原の乱の戦いから時は流れ、柳生の里で妻(牧瀬里穂変わったなー)と暮らす十兵衛。心身ともほとんど虐待同然に父に育てられた十兵衛が子供を儲けようとしないのと、たまに功名目当ての照英とかが突撃してくるのを除けばまず平和な生活を送る十兵衛ですが…そこに届くのは一通の手紙。幼い頃に家を出た母、宗矩からは既に死んだと聞かされたその母の消息を教えるという手紙に誘い出された十兵衛を待っていたのは、彼の命を狙う罠でありました。銃声一発! 柳生十兵衛倒る!! というわけで、凶弾に倒れた十兵衛の運命やいかに、というのが第一回のあらすじ。

 津本陽先生が血相変えて飛んできそうなくらい素晴らしい伝奇っぷりに早くも充ち満ちている本作(冷静に考えるとNHKがこういうことやってくれるのですから嬉しい)。大筋としては、幕府転覆を狙う由比正雪と、その後ろ盾となった徳川頼宣の陰謀に十兵衛が立ち向かう、という構図になるようですが、第一回のハイライトが十兵衛による回想シーン、というか柳生宗矩の黒すぎるキャラクター描写にあることは、視聴者の大半が認めてくれるのではないかと思います。

 夏八木勲演じる柳生宗矩は、シリーズ第一作からのレギュラーではありますが、今回描かれたのは、十兵衛の幼少期から青年期に至るまでの姿。柳生家を大名にするためであれば、如何なる手段も辞さない(てなことを本当に宣言する)彼は、幼い頃から十兵衛を自分の手駒として使い、妻の制止も聞き入れずにひたすらスパルタスパルタ…なんだこの黒いオヤジ。
 正直に言ってしまうと、宗矩のインパクトが強すぎて、話の本筋が記憶から消えかけるほどの素晴らしさでした。遺影みたいなカットの顔がまたもの凄い悪役ヅラで…実は死んでなくて十兵衛最後の敵として立ち塞がるのはこの人、でも違和感ないような気がしてきました。いやむしろその展開希望。
 それにしても夏八木さん、最近は渋い役や枯れた役が多くて残念に思っていましたが、往年のギラギラっぷりがこの宗矩からは感じられて嬉しい限りです。

 それ以外のキャストも、さすがはNHKだけあってなかなか豪華です。特に面白く感じたのは、徳川頼宣を演じるのが西村雅彦である点。紀州頼宣と言えば人呼んで「南海の竜」、剛毅な人物という印象が強いですが、本作の頼宣はそれとかなり印象を異にする、かなり陰性の人物として描かれており、ぶっちゃけキモくて愉快です。何せ若い頃から、将軍宣下の直前の家光を唆して辻斬りをさせ、不適格者として自分が将軍に取って代わろうとしていたような人物として描かれているのですから…またこの時の辻斬り描写が妙にダイナミックでなあ。それはともかく、その時に家光の罪を被って自ら退いたのが、十兵衛の放逐の真相という展開も、実にうまいと思います。
 その他、大次郎は相変わらず頼りないし(褒め言葉)、和泉元彌の由比正雪ぶりも実に板に付いているしと、やっていることはバリバリの伝奇ものなんだけれども、キャスト・スタッフの安定感が抜群で、安心して楽しむことができる作品になりそうです。


 ちなみに、公式サイトにはかなりネタバレが紛れているので要注意。あいつにはそんな秘密がorz

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2007.04.07

「幕末機関説 いろはにほへと」 第二十六話「海の向こうへ」

 いつものOPなしでグッといつもと違う感も高まる「幕末機関説 いろはにほへと」最終回。冒頭から全力疾走体勢ですが、恩田作監だけあってクオリティが高い! 高すぎて今まで見ていたのは何だったのか、と複雑な気持ちになりますが、最終回にふさわしい素晴らしいクオリティでありました。

 浮上を開始した五稜郭に大ジャンプ(飛びすぎ)、突入した耀次郎を待ち受けるのは、首に操られた兵士たち…多い、ちょっと多すぎるよ! と言いたくなるくらいの兵士の群に真っ向から突入。まさに幕末無双状態でバッサバッサと斬り倒し、あっさり一面クリアして次のステージへ。

 が、次のステージで待つのは偽ジャンヌと化した赫乃丈…いかに月涙刀を持ち覇者の首に操られているとはいえ、所詮は素人、しかも月涙刀は小太刀。一刀の下に斬り倒しますよ! と師匠に宣言した耀次郎の敵とは思えず、戦いの焦点は本当に耀次郎が殺っちゃうか、ですが――
 予想通り座長を圧倒する耀次郎ですが、耀次郎、刀で座長のジャンヌ衣装を脱がしてる!? なにこのエロ剣術(実際この時の座長の体の曲線が妙に艶めかしい)と最初は思いましたが、これは演じる役の虚構を剥ぎ落とし、赫乃丈を元の姿に戻すということなのでしょう。
 そしてついに剥ぐものもなくなった時、その後の一撃はどうするのか、と今度こそハラハラしていたら…月涙刀の柄頭で鳩尾一撃! 剣術的にも理に叶った攻撃で、座長を無力化。実に見事な勝利です(しかし左京之介にもこれやってやれよう(´Д⊂)。
 それでもなお座長の体を操って耀次郎をズブリ、とやろうとする小太刀ですが、避けようともせず刀を掴んだ耀次郎(のよくわからないパワー)と、小太刀を止めんとする座長の、二人の心が勝利したか、小太刀も鎮まり遂に月涙刀大小が耀次郎の腰に! これは素直に格好良い。

 一方、榎本を捨てた覇者の首をその身に憑かせたのは蒼鉄先生。それならば最初からやればいいのに、と思わないでもないですが、本人は大願成就まで裏に徹する(というよりこんなキモいものは他人に憑かせとけという)気だったか、はたまたパーフェクトモードの耀次郎を待っていたか…いずれにせよこちらも体勢は万全(?)です。

 そして対峙する色男二人…耀次郎はもちろん月涙刀、蒼鉄先生は長巻チックに変形させた太刀を手に演じる剣戟は、まさに本作の集大成と言うべき華麗凄絶なもの。耀次郎も、そしてこれまでかすり傷一つ負わなかった(たぶん)先生も、互いに手傷を負いながらの死闘は、時間こそさほど長くはありませんが、実に見応えがありました。
 そんな中でも謎のスイッチを押してステージを変化させる先生は素敵すぎます。

 そんな戦いも遂に終わり、苦しい息の下で己の真意を語る先生。覇者の首を用いて造った国にどれほどの意味があるのか。かつて坂本竜馬に首を拒絶された先生は、竜馬の意志を継いだ耀次郎をもって、己が行動の正しさを測ろうとしていたと――迷惑だな、先生。いや先生のすることなので許します。

 そして時は流れ…赫乃丈は仲間とともに一座を続け(そういえば彼らは何のために蝦夷地くんだりまで来たのか…)、不知火小僧は相変わらず琴波太夫を追っかけて――って、耀次郎並みの不死身キャラだな太夫――それぞれに平和な暮らしに戻った中、耀次郎は海外逃亡、じゃなかった竜馬が見てきたものを自分も見るために一人海の向こうへ…
 うむ、実にきれいな幕切れですが、この時の耀次郎の背広姿が尋常ではない似合わなさで最後の最後に爆笑してしまってごめんなさい。


 さて、全話完結して振り返ってみれば、幕末から明治初頭の時代と人物を克明に描いてきた本作、箱館戦争の件などは、伝奇抜きの時代劇としてもなかなかよくできていたかと思います。
 また、本作のウリの一つであった牧秀彦先生による殺陣についても、回によって差が大きかった演出と作画のクオリティに左右されたところが大きかったものの、十分に楽しませていただきました。

 が、残念なところも色々あったのは事実。上記のクオリティのバラけかたもそうですが、やはり耀次郎のキャラが薄かったなあ、というのが、悪い意味で印象に残りました。発展途上の人物というには迷いが少なく、完成された人物というには魅力がいささか乏しい、そんなキャラクターであったため、特に中盤は歴史の巨大なうねりの中に埋没しがちで、ひいては本作のドラマとしての盛り上がりを欠けさせる結果にもつながったかと――彼一人の責任にするのは厳しすぎますが――感じました。終盤も、なんだか突然にパワーアップした感がありますしね(それだけ迷いがなくなった、ということなのでしょうが絵的にわかりづらかった)。

 と、厳しいことばかり書いてしまいましたが、この半年間、毎週楽しみに見ることができたのは事実。様々な悲劇はありましたが、結末は、青空をバックに「愛の剣」が流れた最終回EDのように、爽やかで後味のよいものであったかと思います。まずは、スタッフとキャストの皆様に感謝感謝です。


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2007.04.06

作品集成更新

 このサイトとブログで扱った本のデータ(ってほどでもないですが)をまとめた作品集成を久々に更新しました。四ヶ月ぶりくらい?
 もっともっと充実させて、早いところ一大データベースとしたいと思っているところです。思ってるんだ。思ってるんだが…

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2007.04.05

「幕末機関説 いろはにほへと」 第二十五話「五稜郭浮上す」

 いよいよラスト一話前の「幕末機関説 いろはにほへと」。箱館戦争の陰で――という言葉がそぐわぬほど巨大なものとなりつつありますが――繰り広げられるもう一つの戦いもクライマックス、様々な因縁の糸が、あるものは切れ、またあるものは更に絡まって、最後の舞台に集約されていきます。

 そしていきなり繰り広げられるのは、耀次郎と左京之介の因縁の、そして最後の対決。
 いきなり正直なことを言ってしまうと、バトルの内容としては、屋内での刀と銃のプチマラソンバトルを描いてみせた第八話の薩摩屋敷での決闘には及ばなかった感のある今回の対決。至近距離からの縦断をことごとく刀でブロックしてみせる耀次郎の超人ぶりもさることながら、あれだけ撃っても当たらず、ラストのジョン・ウーチックな体勢からも大して(おそらく)傷を負わせられない左京之介のナニっぷりが、もう何と言ったら…
 が、左京之介の生き様という観点からすれば、何とも考えさせられるものがありました。死闘の最中、トレードマークの眼帯を斬り飛ばされ、顔の傷を露わにした左京之介。彼のコンプレックスの象徴であるその傷を隠そうともせず、「今オレは自由だ!」と叫び、笑みを浮かべつつ戦いを続ける彼は、しかしその言葉とは裏腹に、過去の軛から逃れることはできなかったと言えます。
 彼の心に最後の最後まであったのは、自分を捨てた母ととよく似た面差しの赫乃丈の――それも覇者の首の傀儡と化した赫乃丈の――姿のみ。確かに、他者から蔑みの視線でもって使役される存在であるよりかは自由であるかもしれませんが、それはむしろ己の過去に逃避し、依存したものであります。
 確かに左京之介は安らぎの中で退場できたのかも知れませんが、一体彼は何のために生きてきたのかと、考えさせられてしまいました。

 もう一人退場したのは琴波太夫(正確にはブリュネさんもですが、こちらはたぶんに史実との整合性のためだからいいや)。こちらも最後の最後まで蒼鉄への想いを抱き、その中で死んでいったこととなりますが、本人は満足できても、不知火のように、遺された人間にとっては全くの犬死にであり、見ているこちらの心にも何ともやりきれないものが残ります。
 己が宿命に文字通り殉じた太夫、そして左京之介。…宿命って何なんでしょうね。

 そしてその己が宿命に殉じようとしている人間がもう一人。幼い頃からの宿縁に結ばれた、赫乃丈を斬ってでも覇者の首を封印する覚悟を決めた我らが耀次郎ですが、果たしてその心構えで、覇者の首に打ち勝つことができるのか。
 この物語で唯一、覇者の首の力に負けなかった人物が、何にもとらわれない、こだわらない心を持っていたことを、耀次郎は思い出すべきではないでしょうか。

 さて、その耀次郎を赫乃丈、そして榎本と共に待ち受けるのは蒼鉄先生。これまで全く正体不明であった先生の過去につながる描写が、ようやく描かれました。
 蒼鉄を「和子」と呼ぶ、奇怪な公卿姿の男。桐紋を擁し、五百年の歳月を経て、歴史の表舞台に返り咲こうとする彼らは――って、ネタかぶってませんか!?

 それはさておき、その一族の五百年間にわたる怨念や期待を一身に背負ってきたのが蒼鉄先生ということなのでしょう。それが、蒼鉄先生の宿命――また宿命です。

 その蒼鉄先生たちが行う奇怪な儀式により力を得た五稜郭は、天変地異すら引き起こしてついに浮上、覇者の首の力を日本に、世界に広げんとしますが、さて、蒼鉄先生の真意は奈辺にあることでしょうか。
 次回予告で思いっきりバレているような気がしますが、先生は、己が宿命を疎み、それから逃れようとしているようにも思えます。しかしそれが己の力ではなし得ないからこそ、誰かの力を必要としているのではないか――そしてその誰かこそは、先に述べた覇者の首の力に囚われなかった自由な精神を持つ男の、その想いを受け継いだ者ではないかと思うのですが、さて。

 微妙に最終回の後に書くべきことを書いてしまったように思いますが、果たしてこちらの予想通りとなるか、はたまた全く予想外の結末となるか――いずれにせよ、最終回が楽しみでなりません。


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2007.04.04

「耳袋秘帖 八丁堀同心殺人事件」 闇受け止める耳の袋

 「耳袋」の著者であり、元祖(?)刺青奉行の根岸肥前守を主人公とした三ヶ月連続刊行の「耳袋秘帖」、シリーズ第二弾は「八丁堀同心殺人事件」。あまりにストレートなタイトルに驚きますが、内容はまさしくその通り。八丁堀の腐敗役人ばかりを狙った見えない魔手に、根岸肥前守と配下たちが立ち向かいます。

 と、大きな物語の流れは上記の通りですが、物語のスタイルとしては前作同様、捕物帖よりも、肥前守の「耳袋」に記されるのがふさわしいように見える怪事の背後の真相を暴いていく連作短編スタイル。夜に現れる緑色の狐面、さる大名屋敷で射殺された河童、人面が浮き出た木、長屋のへっついに現れる異人の幽霊、前世を読みとる僧侶――前作同様、五つの怪事が本書では物語られています。
 シリーズ第二弾ながら既に安定感が感じられる本書、登場人物のキャラ立ちといい(北町奉行の配下時代の十返舎一九のキャラクターがなかなか愉快です)ストーリー展開といい、まったく心配なく楽しめるのですが、少々安定しすぎかな、という感もあります(もちろん、これは個人の好きずきでありましょうが)。

 一連の殺人事件の真相も、さほど意外ではないのですが、しかし、強く印象に残るのは、犯人を捕らえてからの、肥前守のその扱い方。彼には彼なりの理屈があるとはいえ、既に許されるべくもない犯人の、心中の闇、犯行動機を真っ正面から受け止め、自らの「耳の袋」に入れることで、その魂を救済する姿は、なるほど「耳袋」の生みの親ならではのものと、感心いたしました。

 シリーズの三ヶ月連続刊行も残すところあと一冊。とはいえこの楽しくもどこかほろ苦さを感じさせる物語世界とたった三冊でお別れというのはいかにも勿体ない話です。今後も連続刊行を、などとは申しませんので、是非今後も巻を重ねていっていただきたいものです。


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2007.04.03

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 恐怖の雪だるま

 立ちまくったフラグがものの見事に的中してしまった司馬一眼房の死から間に一週置いた「Y十M 柳生忍法帖」。その間、切れた吊り橋にぶら下がる羽目となったお沙和さんですが…

 同じくぶら下がった状態で、下から刀を振り回す芦名衆とすっきりしないチャンバラを繰り広げるお沙和さんを救ったのは、もちろん般若侠。何が嬉しいのか、今日は「んふ」の後に「はあと」付きです。何があったんですか十兵衛先生。
 …いや、嬉しいのは道理でしょう。文字通りのクリフハンガーの果てに、かよわい女人(と坊さん)が、自分の助勢抜きで見ン事七本槍の一つを叩き負ったのですから。しかしお笛よ、君には死者に対する畏敬の念はないのか。そしてさくらのビジュアルが大変なことに。

 そしても一つ、先生も嬉しそうだけどむしろ読者として嬉しかったのは、その後に十兵衛先生の剣の舞いを目にすることができたこと。見開きを使っての豪放華麗な描写にはうならされるばかりです。
 前作「バジリスク」もそうですが、トリッキーなバトルが多い作品だけにあまり目立たないのですが、剣戟描写を描かせても、せがわ先生は一流であります(あー、何だか「忍者月影抄」をせがわ先生の絵で見たくなって来たぞ…)

 そして後半は、本作には珍しく、頑是無く遊ぶ可愛らしい子供たちが登場。雪深い会津の地らしく、巨大な雪だるまの回りで遊ぶ子供たちですが…

 雪だるま。それも巨大な。
 何だか猛烈に悪い予感がしてきました。

 それを裏付けるように、子供たちが歌うのは「蛇の目は二つ」などと不穏な歌詞(作詞:沢庵さま)。銅伯でなくともこれはおかしい、と思うシチュエーションに、雪だるまを壊してみれば…

 もうおわかりですね。無惨、中から現れたのは一眼房の惨死体。しかもご丁寧に縄で固定して指で二の字を示した状態で(こんな感じ v('A†)v)
 雪だるまなの中から死体が出てきたというのはよくあるが(あるんかい)、こんなにもショッキングな死に様は初めてだ、という気分ですな、こりゃあ。
 と、猟奇殺人の犠牲になったタコ入道という壮絶なビジュアルに唖然としたその直後に描かれるのは、段違いに美しくも、同時に恐ろしく見える女性の氷の裸像が、幾つも…こちらは誰の仕業か、何となく想像がつきますが、以下次号。

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2007.04.02

「絵巻水滸伝」第六巻 海棠の華、翔る

 第一期全十巻の「絵巻水滸伝」もいよいよ後半戦、その皮切りとなるのは、梁山泊と祝家荘の激戦。名にしおう海棠の華、一丈青扈三娘の活躍の一幕であります。

 良くも悪くも男の世界である水滸伝にあって、一のヒロインと言えばやはりこの扈三娘であることは間違いのないところ。しかし、原典からしてこの扈三娘の扱いは、敵方として活躍していた時は格別、梁山泊に加わってからはそれほどよろしくなく、何よりもチビで好色漢の矮脚虎王英の嫁にさせられてしまうのは――物語が編まれた当時の時代背景を考えれば仕方がないのかも知れませんが――現代の日本の読者にとって、違和感なしには読むことができないエピソードであります。

 水滸伝にはこの他にも現代の日本人にとっては大きな違和感を感じさせるエピソードが幾つかあり、それをどう料理するかが、日本で描かれる水滸伝の眼目の一つであるのですが、その中でも群を抜いて巧みなのがこの「絵巻水滸伝」。この一連の扈三娘のエピソードも、原作をリスペクトしつつも見事なアレンジを加えています。

 本作における扈三娘は、旧態依然とした名家のしきたりでがんじがらめにされ、自らの意志で自らの未来を選ぶことができない少女として描かれます。生まれたときから嫁ぎ先が決められ、将来は良妻賢母であることのみを求められていた彼女にとって、唯一己を表現することができたのは武芸の道のみ。青春の鬱屈を晴らすように強さを、戦いを求めた彼女ですが――本当の戦いの果てに待っていたのは、自身の敗北と、実家の滅亡でした。

 そんな無一物になった彼女の前に現れたのは、日頃の好色ぶりも似合わず一途に彼女に恋してしまった王英で…というところで、本作一流のおかしくも切ないラブロォマンスが展開されるわけですが、原作の無理矢理カップリングを、自分の名前すら持たなかった――三娘というのは文字通り三番目の娘という意味でしかありません――一人の少女の魂の解放にまで展開してのけたのは見事の一言に尽きます。
 それも、水滸伝本来の豪快痛快な味わいは損なわず、むしろ戦時以外の平和な時期の梁山泊の好漢たちの日頃の生活ぶりも描かれるなど、原作に不足していたキャラ分の補完までやってのけるのですから、いつものことながら感心させられます。

 また、本書の終盤では、晁蓋・宋江と因縁浅からぬ插翅虎雷横と美髯公朱仝の梁山泊入りの模様が語られますが、雷横はともかく、朱仝の方はこれまた原典では一、二を争う後味の悪~いエピソード。もっとも、こちらもまた、嫌味にならない程度にアレンジしてあるのでご安心を。
 そしてその事件がまた次の嵐を呼び、続く第七巻では妖術使いの高廉に、無敵の大将軍。双鞭呼延灼という強敵が登場する予定。原典でも幾度も梁山泊を窮地に陥れた大敵との戦いが如何に描かれるか、次の巻も期待大です。


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2007.04.01

「天保異聞 妖奇士」 幕間「ヒトハアヤシ」

 前島聖天を襲撃する西の者。宰蔵の犠牲で逃れた小笠原だが、幕閣は蛮社改所を鳥居が設置したものとして諸共に葬り去ろうとする。鳥居と共に前島聖天に取って返す小笠原だが、その前で西の者はアトルの力を使い、その地に眠る巨大な百足の妖夷を復活させる。が、その場に元閥の漢神の力で人に戻り、機会を見計らっていた往壓が現れる。奇士たちの、鳥居の漢神の力は西の者と妖夷を打ち砕き、異界に去ろうとしたアトルも、往壓の想いに応え帰ってくる。幕府の機関ではなくなった奇士。しかしその後も彼らの活躍は終わることなく、人々の間に物語られていくこととなる…(完)

 ついにこの日が来てしまいました。「天保異聞 妖奇士」の最終回です。…が、悪く言えば詰め込みすぎ、良く言えば見所だらけの展開で、最後の最後まで一瞬たりとも油断できない展開、大いに楽しませていただきました。
 あまりに語るべき内容が多いので、主にそれぞれのキャラ方面から取り上げさせていただきます。

○鳥居様
 終盤に来て急に「実は善人」度が増した感のある鳥居様。身も蓋もない言い方をしてしまえば、これは終盤駆け足になった分の描写不足から来る錯覚であって、あくまでも彼にとっては幕府が大事、そのためには個人の命は軽く見るであろうことはこれまでの物語で語られた通りでしょう。それでもなお、彼もまた己の信念を持って生きてきた一個の大人物であることは言うまでもありません。
 最終決戦では、刀を抜いてまさかの戦闘を演じた上、漢神まで登場(でも捻りがない上に勝手に他人に使われる)。それ以上に、事件を闇に葬った上に返す刀で水野忠邦を失脚させ、さらに自分と小笠原におとがめなしという鮮やかすぎる戦後処理で大活躍ぶりにはただただ感心。
 史実ではこの後、復讐のためだけに復帰してきたような水野に反撃されて失脚、四国丸亀に押し込められるのですが、物語が続いていたらここまで描かれていたのかな? 何はともあれ、名優・若本規夫の演技もあって、単なる悪役ではない厚みのある人物として描かれていたのは、本作の収穫の一つだと思います。
 じゃあ次は「大江戸ロケット」で!

○えどげん
 番組打ち切りで最も割りを喰ったのは、まちがいなくこの人でしょう。往壓から宰蔵・小笠原・アビとそれぞれの過去編が描かれてきて、さあこれから、というところで…正直なところ急すぎた最終三部作での変心ぶりも(さらにラストのどんでん返しも)、えどげん過去編が描かれていれば、また違ったものとして見えたであろうことを考えると残念です(もしかすると「狼人同心」とのリンクもあったかもしれないしね)。
 漢神二つは、彼が(設定的に)陰陽合わせ持つキャラクターだからかしら?

○小笠原様
 終盤は上と下の板挟みで色々とかわいそうだった小笠原様。この辺りの描写は、一年続いていればもっとねっちり描かれていて、もしかすると軟禁どころでなく洒落にならない扱いになっていたのでは、という気もするので、まあこのくらいで良かったのではないでしょうか。
 …というか、もうファイティングナックル装着してからのはっちゃけぶりで全部吹っ飛んだよ! もうすんげえノリノリなんだもん! 「リングにかけろ」並みに敵をブッ飛ばしておいて、ファイティングポーズとともに「もはや私に刀は要らぬ!」ってそりゃ要らないよ! いやはや、この最終回の持つ爽やかさの半分くらいは、小笠原様の暴れっぷりによると思います。
 結局地下に潜った奇士たちの中で、唯一公の身分を持っているだけに、この後の方が板挟みは酷くなるんじゃないかと心配になりますが、宰蔵もいるし、身分的には一番君が勝ち組だ! …幕府が続く限りは。

○西の者
 何だか物語を終わらせるためだけに出てきたような扱いになってしまった彼ら。しかし説二十四の感想にも書きましたが、実は後南朝でした! というだけで伝奇ファンとしては満足です。朱松(ずっと赤松だと思ってたよ…)は滅んだものの、彼がリーダーであっても首領とは一言も言っていないわけで、まだ西の者全体の暗躍は続くのではないでしょうか。首もまだありそうですし。
 しかし、量産型テレホマン/´∀`;::::\になったり、宰蔵と踊り対決をするかと思ったらいきなりブッた斬られたり、全般的に彼らも(やられ役として)はっちゃけていたのが素敵。

○アトル
 ラスト近くになって中二病を発症して色々と心配させてくれた彼女ですが、よく考えたら登場したときからそんな感じだった、というか登場する度(除く日光編)に話が暗い方向に向かってたような気がします。ということはこの子のおかげで…という気もしますが、それはちょっと酷な話。重い過去を背負った登場人物ばかりの中で、掛け値なしに一番重い過去を持っていたのが最年少の彼女だったのは間違いありません。
 そんな彼女を異界から現世に引き戻すきっかけとなったのが、ある意味アトルとはネガとポジの関係とも言える往壓だったのは、当然と言えば当然ですが、さすがに「俺は君がいないとダメなので側にいてください(意訳)」呼びかけるとは思いもよらなかったなあ…が、これまで孤独の中で生きてきた彼女にとって――いや、これは人間全般にとってかなり普遍的な話かと思いますが――誰かが自分を必要としてくれているというのは、自分自身の価値を認めてくれる人がいたということであり、何よりも嬉しいことであることを考えれば、意外ではあるものの、実に納得のできる結末だと思います。

○往壓
 それはそうなんだけど、四十目前のニートが十代の娘つかまえて「俺と一緒にいてください」orzというのは、深読みしなくてもいかがなものか? という気分にもなりますが「まぁ、いいさ!」
 振り返ってみれば、三十九歳という年齢設定が十全に活かせていたとは言い難い部分もありましたが、しかし問題のアトル説得シーンなど、この年になってもダメなんだから本当にダメなんだな、という不思議な説得力があったようにも思います。
 なんだかんだいって、愛すべき主人公であったと心から思います。でも俺はこの年にはもっとまともな人間になっていようと思います<俺ヒドス


 そして奇士たちの物語はひとまず終わりを告げました。が、それは、アニメ番組という形は終わったものの、その中の世界では、逆に彼らの物語が始まるという一種メタな形でもあります。この辺り、いささか唐突ではありますし、理が勝ちすぎている感もありますが、異界に当置される、そして対極に置かれるものとして「物語」が提示されるというのは、なかなかに考えられたオチではありますし、納得できるものもあります。
 これから彼らの物語が、いつ如何なる場で語られるかはわかりませんが――語られること自体はあると信じたいものです。まあオリジナルビデオストーリーはあるようですが――私はこの風変わりで型破りで、欠点も色々あるんだけど愛すべき物語を、これからも語り伝えていきたいと、今は強く感じているところです。


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