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2007.04.04

「耳袋秘帖 八丁堀同心殺人事件」 闇受け止める耳の袋

 「耳袋」の著者であり、元祖(?)刺青奉行の根岸肥前守を主人公とした三ヶ月連続刊行の「耳袋秘帖」、シリーズ第二弾は「八丁堀同心殺人事件」。あまりにストレートなタイトルに驚きますが、内容はまさしくその通り。八丁堀の腐敗役人ばかりを狙った見えない魔手に、根岸肥前守と配下たちが立ち向かいます。

 と、大きな物語の流れは上記の通りですが、物語のスタイルとしては前作同様、捕物帖よりも、肥前守の「耳袋」に記されるのがふさわしいように見える怪事の背後の真相を暴いていく連作短編スタイル。夜に現れる緑色の狐面、さる大名屋敷で射殺された河童、人面が浮き出た木、長屋のへっついに現れる異人の幽霊、前世を読みとる僧侶――前作同様、五つの怪事が本書では物語られています。
 シリーズ第二弾ながら既に安定感が感じられる本書、登場人物のキャラ立ちといい(北町奉行の配下時代の十返舎一九のキャラクターがなかなか愉快です)ストーリー展開といい、まったく心配なく楽しめるのですが、少々安定しすぎかな、という感もあります(もちろん、これは個人の好きずきでありましょうが)。

 一連の殺人事件の真相も、さほど意外ではないのですが、しかし、強く印象に残るのは、犯人を捕らえてからの、肥前守のその扱い方。彼には彼なりの理屈があるとはいえ、既に許されるべくもない犯人の、心中の闇、犯行動機を真っ正面から受け止め、自らの「耳の袋」に入れることで、その魂を救済する姿は、なるほど「耳袋」の生みの親ならではのものと、感心いたしました。

 シリーズの三ヶ月連続刊行も残すところあと一冊。とはいえこの楽しくもどこかほろ苦さを感じさせる物語世界とたった三冊でお別れというのはいかにも勿体ない話です。今後も連続刊行を、などとは申しませんので、是非今後も巻を重ねていっていただきたいものです。


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