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2007.06.30

「時代伝奇」とは何か?

 本ブログの毎日更新を始めてから、二年以上が経ちました。ニッチにもほどがあるこのブログが、曲がりなりにも二年間毎日更新することができたのは、私の意地もありますが、もちろん何よりも、拙文を楽しんで下さっている方々の目あってのこと。ここに厚く御礼申し上げます。
 と、今日書こうと思っているのは以前より考えていたこと。それは「時代伝奇」とは何か? …今頃ですが。

 一体、「伝奇」「時代伝奇」と、数え切れぬくらいこれまでブログ等の中で使ってきましたが、それでは「伝奇」とは、「時代伝奇」とは何か。
 まず「伝奇」について――大上段に振りかぶっておいて何ですが――直接的ではなく、いささか迂遠な表現をすれば、それは
「現実を写す奇妙な鏡」
なのではないかと思っています。
 私にとっては、すべからく物語――いや、調子に乗って言えば芸術というものはみな――というものは、現実を写す鏡と考えています。それは、この世界に存在するある現実を映し出すこともあれば、手にした者の内面の真実を映し出すこともあり、それはもうこの世に無限に存在するものではあるのですが、直接的にせよ間接的にせよ、現実なしには存在し得ないものであります。

 それでは、ここでその鏡の一つである伝奇を表するに、「奇妙な」という語を用いたは何故か。
 それは、この鏡が、素直に目の前にあるものを映し出しはしないため。現実というやつが真っ正面に置かれているにもかかわらず、ある時は後ろ側から、またある時は真上から、さらにはその内側から――通常の鏡では映し出すことも叶わないものを、この「伝奇」というものは、映し出す(ことができる)ものなのであります。

 そしてまた、その「伝奇」の一態様が「時代伝奇」であるとして、その「時代伝奇」ならではの特質は何か、ということを考えれば、その鏡の作り手・操り手にとって、対象となる現実を(大幅に)作り替えることができない、やってはいけないということではないでしょうか。現実は――つまりここでは正史や史実と呼ばれるものは――不変であります。
 もちろん、「時代伝奇」物語の中では、「実は○○は死んでいなかったのだ」「実は××は△△だったのだ」というのは日常茶飯事ではありますが、それは鏡の映す像の姿が変わっているだけ、対象たる現実自体は変化していないのです(現実を変容させる物語というのもありましょうが、ここでは触れません)。
 わかりやすく例えれば、「実は明智光秀は生き延びて天海僧正になったんだよ!」というのは「時代伝奇」で、「織田信長が生き延びて天下統一して織田幕府作りました!」というのは別物、「架空戦記」になっちゃう、ということ。あ、何だか急にベタな話になってきた。
 もちろん架空戦記には架空戦記の良さがありましょうが、確として決して変えられぬ現実――現在の現実や未来の現実を変えることはできても、過去の現実ばかりは変えることはできません。原則的に――に対して、如何に鏡を磨き上げ、如何に配置するか、それによって変わらぬ現実の奇妙な像を映し出してみせる。その像ももちろんですが、その行為自体に、私は大いに興味と、共感を抱くものであります。

 閑話休題。さて、この奇妙な鏡を構成するもの、喩えで言えば材質は、と問われたら、それは「エンターテイメント性」というものではないかと思います。もちろん、他ので、似たような機能・効果を持つものも作れることは作れますが、それはおそらくそもそもの目的を異にする、別物でありましょう(例えば「政治性」などを材料にすると「偽史」になるのでしょう)。
 鏡像それ自体を楽しむことはもちろん、その鏡自体をも――往々にして鏡とそれに映る像を切り分けることは困難ですしあまり意味はないかもしれませんが――楽しむことができる。それが私にとっての「伝奇」「時代伝奇」であります。

 ダラダラと書いてしまいましたが、これをもう少し普遍的に、より定義らしい形で示してみれば、「時代伝奇」とは、
「史実を基盤として、エンターテイメント性の強い手法を用い、巷説や裏面史、もしくはあり得たかも知れない事物を描いたもの」
とでもいうことになるでしょうか。
 もちろん、実際に厳密に定義として見た場合には、カバーできる範囲の密度にムラがありすぎることは間違いありませんし、何よりも私のサイトで扱う作品の範囲と必ずしもイコールではありません。
 それでも、私が普段何を考えて自分のサイトで扱う作品のチョイスを行っているか、何となくわかっていただけるのではないかな、と考える次第です。

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2007.06.29

「絵巻水滸伝」第七巻 軍神独り行く

 またもや次の巻が発売されてからの紹介となってしまいはなはだお恥ずかしい話ですが「絵巻水滸伝」もいよいよ佳境、第七巻では奇怪な妖術を操る高廉、そして軍神の異名を持つ最強の敵・呼延灼将軍が梁山泊の前に立ち塞がります。

 単純に武力という点では大宋国有数の勢力となった梁山泊ではありますが、この巻で彼らが戦うこととなる高廉と呼延灼は、それぞれ全くその得意とするものは異なるものの、梁山泊と互角以上の力を持つ強敵。この辺りは、原典でも中盤のクライマックスであった件ではありますが、原典の魅力は幾層倍にも増して見せ、そして原典の足りない部分もしっかりと補ってみせる「絵巻水滸伝」だけに、やはり素晴らしい盛り上がりでした。

 原典では強敵ではありながら、謎の部分も多かった高廉を、公孫勝一清道人の破門された兄弟子と設定することにより、キャラに奥行きを持たせると同時に、クライマックスである二人の道術合戦に必然性を持たせたのは、まずお見事と言えます。
 しかしそれ以上に見事なのは、呼延灼のキャラ立てとドラマでしょう。宋建国の功臣の末裔であり、自身も歴戦の勇者。そして最強の連環馬戦術の使い手というのは、設定としては最高ですが、しかしそれが一人のキャラとしての動きを逆に縛りかねないのも事実であり、そしてそれ以上に、そんな人物が何故梁山泊に加わることになるのか、説得力を持たせるのもまた難しいところでもあります。
 本作では、その無敵であったはずの呼延灼が、規格外れの梁山泊の戦いに苦戦し、股肱と頼む部下を失い、揺らぐ中で、軍神から一個の人間として目覚め、解放されていく様が、新旧多彩なキャラクターたちとの関わりを交えて描かれているのが工夫と言うべきでしょうか。何よりも、度重なる戦いの中で、敗れ、裏切られ、全てを失った呼延灼が、最後の最後で勝利者として讃えられる結末は、幻想的とすら言える挿し絵の美しさもあり、実に熱く感動的な、本作きっての名場面と言えるかと思います(この場面は、ま晁蓋の男っぷりのよさがまた…)。

 と、ほとんど呼延灼が主人公とも言えるこの第七巻ではありますが、もちろん彼以外の英雄豪傑たちの活躍も痛快の一言。特に後半では、これまでの物語の中で主役級の活躍を見せ、梁山泊とも縁の深い魯智深・武松・楊志といった、水滸伝でも名うての豪傑たちが再登場し、新参者に負けてなるものかと大暴れしてくれるのもたまりません。
 …が、個人的に一番感動させられたのは、これまた久々に登場した打虎将李忠に魯智深が掛けた言葉。はっきり言って名前負けのB級豪傑、今はチンケな山賊稼業の李忠が、男としての誇りを取り戻した、その言葉は、本作を冒頭から読んでいる読者であれば必ずやジンワリくるであろう見事なもの。
 絵の見事さは今更言うまでもないことながら、わずか数行で、豪傑たちの個性をググッと掘り下げてみせる、その文章の力も、本作の魅力であると再確認させられた次第です。


「絵巻水滸伝」第七巻(正子公也&森下翠 魁星出版) Amazon bk1

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2007.06.28

「世話焼き家老星合笑兵衛 義侠の賊心」 奇想天外、痛快無比!

 個人的にはいま最も楽しみにしているシリーズの一つである、中里融司先生の「世話焼き家老星合笑兵衛」シリーズの最新巻が、この「義侠の賊心」。海を渡ってきた凶賊を退治るため、星合一家がまたもや奇想天外な作戦を展開することとなります。

 夜の海で溺れかけていた少女・ハンナ(花)を救った星合家の蛍と桜。折しも江戸では凶悪無惨な押し込みが続発していたところ、その賊は、実は海を渡ってきた海賊であると花は語ります。日本からの漂流民である父と異国人の母の間に生まれた花は道案内として、海賊たちに連れてこられたところを逃げ出したのでした。
 早速花を救い、凶賊を捕らえるべく活動を開始する星合一家ですが、裏の世界の相手と戦うには、同じ裏の世界の住人が必要と、笑兵衛は何と大盗・雲霧仁左衛門との同盟を画策。さらに海賊の背後に、将軍吉宗に恨みを持つ武家の存在を知った一家は、幕府御金蔵を狙う一味を一網打尽とするため、奉行所、そして盗賊と一致団結して史上類を見ない三軍合同の計略を仕掛けることとなります。

 第一作から、これはあり得ないだろうという大きすぎる難題と、それを突破する豪快な作戦で楽しませてくれる本シリーズですが、もちろん本作でもそれは健在。御金蔵破りという大胆不敵な悪事を企む一味に対して、星合一家が、頼もしい仲間たちに加え、雲霧を初めとする日本盗賊軍団と、本来であればその宿敵である大岡越前ら奉行所、さらには何と将軍吉宗まで引っ張りだして挑む作戦は、痛快無比、としか言い様がありません。
 私の勉強不足であれば申し訳ありませんが、こうした大仕掛けのギミック/トリックを全面に押し出した時代小説、特にシリーズは相当に珍しいものではないかと思いますし、それだけでも本シリーズを手にする価値はあるかと思います。

 と、もちろん、本作が単なる鬼面人を驚かす体の、珍しさだけの作品ではないことは言うまでもない話。笑兵衛をはじめとして、老若男女一人一人が十分主役を張るに足るほどに個性的な星合一家が、それぞれの能力を生かして活躍する様は、実に楽しく頼もしく、この辺りのキャラの見せ方のうまさは、さすがこの作者ならではと感じさせられます。
 そしてまた彼らの原動力となっているのが、他人を幸せにするためのお節介、世話焼きであるのが何とも気持ちの良いところ。本作で繰り広げられる星合一家の大作戦は、もちろん凶賊から江戸の町を守るためでもありますが、何よりもまず、数奇な運命に見舞われた混血の少女・花を救うためというその心意気が嬉しいではないですか。
 以前にも書きましたが、星合一家の世話焼きは、力を持つ者が力を持たぬ者のためにその力を揮うという、一種のノーブレス・オブリージュとも言うべきもの。この、真の意味での武士道とも言うべき彼らの世話焼きスピリットこそ、本シリーズの最大の魅力ではないかと思います。

 誠に口惜しいことに、そのクオリティに相応しい評価を受けているとは言いがたい本作、本シリーズではありますが、一人でも多くの方がその魅力に触れてくれることを期待している次第です。


「世話焼き家老星合笑兵衛 義侠の賊心」(中里融司 小学館文庫) Amazon bk1

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2007.06.27

「無限の住人」第二十一巻 繋がれた二人の手

 もう色々と大変だった(主に読者の方が)「不死力解明編」も完結し、いよいよ最終章突入! という触れ込みの「無限の住人」第二十一巻。実に連載開始から十三年、遂にここまで…というのが正直なところです。
 しかし物語の方はそんな感慨とは無縁に、アクションにギャグにラブコメ(?)にと快調そのもの。ただでさえ相当な人数に達しているこれまでに登場人物ほとんど全員を登場させつつ(出てきてないのは百淋と偽一くらいのもの?)、この巻でドドッと新キャラクターを登場させて、それを過不足なしに動かして見せているのは見事なものです。

 さて、束の間の平穏を手にしたかに見えた万次と凛ですが、彼らの周囲の状況は不穏の一言。
 万次と凛らの手により不死力解明実験を粉砕された上に江戸城内で大騒動を引き起こされることとなった咎で、新番頭・吐鉤群は一ヶ月後の切腹を申しつけられますが、しかし逸刀流壊滅に執念を燃やす吐は、無骸流に代わる新たな私兵として六鬼団なる剣士団を編成することとなります。
 この六鬼団、腕利きの死罪人を罪の減免と引き替えに手駒にしたもの…って、無骸流と全く同じパターンなのには驚きましたが、あえて差違を探せば、市井に紛れて活動していた無骸流に対し、六鬼団の方は初めから完全に戦闘スタイルで(雑魚構成員なんて鬼面だし)、戦闘に特化していることをうかがわせます。

 一方、逸刀流の方も、往事には及ばぬものの、その剣力を慕う剣士たちを加え、幕府に一矢報いんと暗躍を開始します(ここで、凶相手に「暴れるぞ」と耳打ちする天津さんが妙に生き生きとしていて…槇絵さんと一緒にいるときは今にも二人揃って死にそうなのにな)。

 かくて江戸の闇で激しくぶつかり合う二つの勢力。その暗闘に巻き込まれて万次は六鬼団の手で塒を焼け出され、人様の家とはいえ、凛と一つ屋根の下で暮らすことに相成ります。
 ここで大笑いさせられたのは、万次が六鬼団に襲われるきっかけとなったのが、逸刀流の馬絽佑実に間違えられてだった、というところ。この馬絽というキャラ、初登場の時から万次に印象が被っていたのですが、まさかこんなところでネタになるとは思いませんでした。

 それはさておき、うれしはずかし布団を二つ並べての夜を迎えた万次と凛ですが、ここで凛が勇気を振り絞ったことで、二人の関係についに変化が…生じるかどうかは、最初から読んでいる人間であれば容易に想像がつくかとは思います。はい、その通りです。
 しかし、互いに互いの存在を必要としつつも、素直になれない二人の姿は、何ともこそばゆくも微笑ましいもの。特に本作においてはカップルはものすごい高確率で悲劇…というより悲惨な目に遭っているだけに、この巻での万次と凛の姿を見ると、ホッとさせられるものがあります。
 もっとも、如何なる形になるかはまだわからないものの、この二人の間にやがて別れが訪れることはまず間違いがないこと。それを考えると実に切ないのですが、しかしそれだけに、凛の万次に対する想いを綴ったモノローグが胸に沁みますし、二人の手が、せめて少しでも長く繋がっていて欲しいと感じさせられます。

 そんなこちらの期待とは裏腹に、事態はますます混迷の一途。六鬼団と逸刀流の暗闘に加えて、吐の後任は逸刀流との裏取引で吐の足を引っ張ろうとするわ、相変わらず尸良は登場するだけで胸糞悪いオーラを漂わせているわ――
 この先、三つ巴どころか四つ巴、五つ巴になりかねない状況で、さてまだまだ戦いは長引きそうですが、しかしこの巻のようにバランス良く物語が展開するのであれば、長引くのも大歓迎かな、と感じているところです。


「無限の住人」第二十一巻(沙村広明 アフタヌーンKC)Amazon bk1

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2007.06.26

「江戸の妖怪事件簿」 怪異の背後に潜むもの

 集英社新書からつい先日発売されたばかりの田中聡氏の新著が、この「江戸の妖怪事件簿」です。氏の著書については、「東京戸板返し」の頃から楽しみにしつつも、同じ集英社新書の前著「妖怪と怨霊の日本史」は、概説本的内容で個人的にはちょっとノれなかったのですが、本書は、平易な語り口ながら、それ系のマニアにも楽しいディープなネタを独自の視点で描いてみせた、なかなか興味深い本でした。

 タイトルの通り、本書は、江戸時代の随筆・日記等に記録された妖怪絡みの事件に関する記述を拾い上げたもの。そういった江戸時代の著作物には、怪奇事件について言及したものが少なからずあるものですが、本書ではそうした中から興味深い記述を採り上げるとともに、それをそのまま並べてオシマイにはせずに、その現象・その記述の背後に潜むもの――時代性や人間性といったもの――を掘り起こし、語っていきます。
 私もこんな年表を作っているくらいですから、この手の話には目がないのですが、しかしそんな私にとっても本書の内容はなかなか興味深く、また収穫でした。
 例えば幽霊話。怪談といえば幽霊話、当然江戸人の頭の中には、一般常識として幽霊の存在があったのだろうな、と思えばさにあらず。幽霊などを信じるのは愚かなこと、何となればあれは狐狸の類が化けたものなのだから…
 と、思わず突っ込みを入れたくなってしまうような、ある意味現代とは正反対の怪異観が、江戸時代には存在していたというのは、全くもって目から鱗、の気分でした。

 また、上記とは別の意味で非常に興味深かったのは、ゴシップとしての怪談(怪談から生じるゴシップあるいはゴシップから生じる怪談)が生む二次被害の存在。火のないところに煙は立たぬ、いや怪異は起きぬとばかりに、怪談の被害者が面白半分のゴシップの題材とされることにより、より大きな二次被害を被る様は、群衆の心理が、いつの時代もそうは変わらぬということを、我々に突きつけてきます。
 殊に、幽霊の出没する家に、見物の群衆が石を投げ込むという有様を指して「幽霊の因縁に潜むであろう暴力性が、その噂を娯しむ人々の内なる暴力性と感応しあうのだろうか」という文章からは、現代のネット上での「祭り」やら「炎上」といった現象に通じる、人の心が暴走するメカニズムを感じさせて暗い気分にさせられます。

 そんな刺激的な内容の本書ですが、唯一残念なのは、その中でもラストの二章「妖怪のいる自然学」「アメリカから来た狐」が、スペースの関係からかかなり駆け足な内容であったこと。特に前者は当時のインテリ層による妖怪解題が、自然のみならず、神界をも含めた宇宙把握の手段と繋がっていたことを語るユニークな内容で、これだけで一冊書けるほど興味深い題材であっただけに、勿体ない…というのが正直なところです。

 冒頭に挙げた「妖怪と怨霊の日本史」では室町時代までを、そして本書においては江戸時代を扱っているところ、もう一冊、最終章で提示された怪異への畏怖や後ろめたさを失った近代以降、現代に至るまでの妖怪の姿についても語ってもらえれば…と個人的には思います。


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2007.06.25

「大江戸ロケット」 十二発目「もしも悩むのが嫌だったら」

 いきなり山手線(しかも個人的にものすごく見慣れた眺め)の映像が流れるので、ああ、CMか何かなのかな…と思ってたら
まあ、「からくり人」とかTV時代劇にはよくあることです<そんなにはありません
 さて今回は、OPラストで主役カップルと一緒に空を飛んでいるのに今まで源蔵さんのお母さんの息子並みに存在感が微妙だった駿平とおぬいのお話。とにかくいつも何故何故と悩みまくりの駿平少年の自分探しの旅話なのですが…まあただですむわけはありませんわな。

 今日も今日とて実験の成果はいまいちで何故何故と悩む駿平。そんな彼にご隠居が見せた謎のビデオは…駿平と同じように悩んでばかりいた異国の少年ナジェナジェのお話。ってここでまさかの原作舞台に登場したナジェナジェ話が!
 が、そんなことで驚くのはまだ早い。何故か途中で何だかレゲー世代には懐かしい雰囲気のRPGになったお話(さりげなくテンシノタマゴが眠り効果ってのが鬼)は、途中までで製作が間に合わなくなって中断。見ているこちらも「どう対処していいかわからない」気持ちのまま、駿平はおぬいにひきずられて山手線一周自分探しの旅へ…いや本当にどう対処したらいいんでしょう。

 一方、恒例のシリアスパートである銀さん赤井様パートは、自ら女装して囮捜査に出た銀さんを赤井様が襲ってしまい、赤井様大ピンチ! …が、銀さんの女装にコーフンした赤井様の変態パワーで窮地を脱出。いきなり耳元舐められておぞましさで力が抜けたというのもあるかもしれませんが、あれだけ殺人を繰り返してきて、赤井様も大概レベルアップしたのかもしれません。青い女に対しても何だか前ほど引いてない感じですし。

 と、この二人が淫靡な感じで引いた後に描かれるのが、縁の下で、ガチガチの膝枕で一夜過ごす駿平とおぬい(膝枕するのが駿平というのがまた何とも)というのが、何だか好対照でまた…
 そしてまだまだ続く二人旅、お伊勢さんのところでは、いつかやるかと思ってたらついにやってしまったエルリック兄弟ネタが炸裂するわ(しかしお伊勢さんの女の江呂本話は妙に生々しくて何とも)、金さんは例によって例の如くお奉行様呼ばわりされて爆発するわ、おりくさんは自分のコイバナで頭が一杯だわ…

 結局他人からは何もわからず、寂しく夕方の電車で帰ってきた駿平が思い出したのは、子供の頃に出会った喋る犬のこと。犬が喋べった!あんた信じるか
 一緒に行こうと誘われたのに、悩んだ末に自分は算術の答えが気になって行けなかった…(この時おぬいの表情がえらく微妙に見えるのがちょっと切ない)。その記憶から、結局、自分は悩んでいるからこそ自分だったと気付いた駿平は、二人仲良く手を繋いで帰ってくるのでした…

 って、しみじみとイイシーンで終わるかと思ったら、流れ出すのはスタッフ全部ご隠居のエンドロール…ってここで落とすか! というオチでしたが、確かに残ったのは二人の絆。何だか当分の間、おぬいの本当の気持ちは駿平に届かない気もしますが、それでも、微妙にすれ違いつつも二人の心は繋がっていて…うん、良い話でした。

 しかしラストに至るまでは本当に楽屋ネタ・パロディ・ギャグの嵐。冒頭のサザエさんED辺りからおかしいと思っていましたが、いや本当に全編そーいうノリで押してくるとは思いませんでした。製作が間に合わないから次週総集編とか自虐的なネタを飛ばしていましたが、絶対今回は作るのに手間かけているよなあ。
 そんな一方で普通の(?)コメディシーンもきちんとしていて、個人的には、金さんに大岡裁きの話をして怒られたり、お奉行様呼ばわりされてふくれっ面でもの凄い勢いで遊びまくっちゃう金さんという辺りに大笑いさせていただきました。

 本当に最初はどうしたことかと思いましたが、終わってみれば笑いありアクションありしんみりありと、実に本作らしいエピソードになっていたのは不思議というかさすがというか。賛否両論ありそうですが、あのラストの手を繋いだ二人の姿を見れただけでも今回の価値は確実にあったと思います。


 …しかしどこかに一緒に行こうと誘ってくる犬って、一歩間違えたら蛮社改所の出番だよな。


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2007.06.24

「極東綺譚」第一巻 土俗的怪異と南方の海洋幻想と

 明治末期を舞台に、全身に奇怪な刺青を施した異端学者・九鬼銃造が、人に咲く花の巻き起こす怪事件に挑む伝奇ホラーの第一巻です。遊郭の少女の胸から花びらがとめどなく湧き出る事件を皮切りに、奇怪な人媒花を追って、聖なる塩の力を操る九鬼の冒険が繰り広げられます。

 全体を通じての印象は――即物的な表現で恐縮ですが――大塚英志の作品から民俗学的色彩を薄めて幻想味を増したような作品、とでも言ったところでしょうか(そういえば作者の衣谷氏は、「リヴァイアサン」で大塚英志と組んでいましたな)。近代国家として成立しつつも、未だその周辺に、いやその内部に前近代的な闇の部分を抱えた明治の昏い部分を背景に、「“潮”の“難”には“南”の“塩”」と、怪異に対して塩の浄化の力で立ち向かう主人公というのはなかなかユニークだと思います(草薙剣=塩という異説には少々驚きましたが)。
 また、画力については折り紙付きの衣谷遊氏によるものだけに、次々と登場する異形のビジュアルイメージは圧倒的としか言いようがないクオリティ。特に、終盤のフジツボ人間出現から太古の海中を思わせる異界からの逃避行の件描写など、久々に漫画の絵で怖気立ちました。

 とはいえ――九鬼の過去や目的などが第一巻の段階では明確に語られることがなく、また各話の冒頭に挿入される幻想的・観念的イメージがさらに混乱を招く面があって、取っつきにくい部分はかなりあるというのが正直なところ。この辺りは、本作のスタイルかと思いますので、物語が進行してもさほど変わらぬ部分かと思いますし、その意味では、読む人を選ぶ作品かと思います。

 しかし個人的には、物語的にも画的にも、日本の土俗的怪異と南方の海洋幻想という、あまり結びつくことがなさそうな二つの要素を巧みに縒り合せるという本作のスタイルはなかなかに蠱惑的で、来月発売の二巻も読んでみたいと思います。


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2007.06.23

「幕末機関説いろはにほへと幕末活動絵巻物」 ムックから浮かび上がる思い

 Gyaoでの放送終了直後に発売が予告されながら延期となっていた「幕末機関説いろはにほへと」のムック「幕末活動絵巻物」が発売されました。書き下ろしの耀次郎と赫乃丈の表紙が目印です(裏表紙は蒼鉄先生と左京之介。色男ばかりですなあ)。
 内容としては、雑誌等に掲載のイラスト再録に、人物設定紹介に各話ストーリー紹介、時代背景(年表)紹介、そしてキャスト&スタッフへのインタビューと、まずはこの手のムックとしては標準的な内容でしょう。

 人物設定の辺りは、各キャラの服装や小道具に色々と工夫があったことがうかがわれたり、設定画の脇にちょっと書かれたコメントがまた面白かったりと、本編をただ見ているだけではわからないような部分もあってなかなか興味深く読むことが出来ました(しかしクイーンのところに「ひかえめでサド気質」なる記載が! 本編ではあんまり発揮していなかったですが、あんた一人で幾つ属性持ってるんだ!?)。また、幕末史に詳しい人は大喜びだよな、というくらいに細かく設定があったりと、史実に即した部分には相当に力を入れていたことがわかります。この辺りにはスタッフの熱意というものを相当感じますし、心意気として実に嬉しい話ではあります(が、この辺りについては後述)
 さらに年表のページでは、本作で起きた事件が日にち単位で掲載されていて――相当に史実に即した作品であったとはいえ――年表マニアとしては非常に嬉しい内容でした。

 ちなみに、個人的に拘っていた蒼鉄先生の来歴については、お公家さんたちの人物設定のところでは「五百年前の政変で都を追われた一族の末裔」と、さらっと流されていてがっかりしたのですが、チーフディレクターの大橋氏のインタビューでは明確に蒼鉄先生が南朝の末裔と明記してあって一安心(?)しました。蒼鉄先生、鷹天皇と一緒に暮らしていたんかなあ<他の作品と混同しない!

 インタビューと言えば、この手の本で一番楽しみなのはこのインタビュー。本書では、キャストでは耀次郎役の浪川大輔氏、赫乃丈役の佐藤利奈氏(本人も綺麗な方でびっくり)、蒼鉄先生役の井上和彦氏が、スタッフでは原作・総監督の高橋良輔氏、チーフディレクターの大橋誉志光氏、シリーズ構成・脚本の宮下隼一氏、殺陣・時代考証の牧秀彦氏と、本作のメインどころを網羅。
 内容でやはり面白かったのは耀次郎の台詞の少なさに関する部分で、台詞が「!」のみだったりして浪川氏が「記号声優」呼ばわりされたり、高橋監督に「僕の作品の中で、一番喋らないキャラクター」と言われたり(キリコを超えた!)耀次郎という特異なキャラクターへの周囲の接し方が微笑ましく思えました。
 その他、本作が当初は戦国時代を舞台とした「戦国機関説」の予定だったが、若い世代により親しみのある時代ということで幕末に変更したことなど、時代劇の企画作りの過程に関するエピソードとして印象に残りました(あとは高橋監督の「龍馬が今、中東に生まれてくれたらな」発言が、あまりにもらしくてちょっと受けた)。


 というように、本書自体は、作品を見てきた人間としては楽しめたのですが、作品自体について、色々な思いが浮かび上がってきたのもまた事実。
 先に述べたように、本書からは、作品における人物設定や時代考証へのこだわりが随所から伝わってきますが、しかし、それが作品そのものの面白さに必ずしも直結してこなかったのではないかな…という、作品の放送時から頭の隅にあった思いが、本書を読んでいて強く浮かんできました。もちろん、これは本作特有のことではなく、時代もの全般に言えることかもしれませんが、これは中盤以降の展開で、耀次郎らの存在感が些か薄れたことと無縁ではないかと思います。
 さらに厳しいことを言ってしまえば、スタッフインタビューを読むにつけ、本作を見ている際に感じた「ここはこういうことを表現したいんだろうけれども、今ひとつ伝わってこないんだよなあ…」という印象が(残念ながら)間違っていなかったなあ、と。耀次郎のキャラ立てや、物語のテーマ・方向性など、本編を見た後であれば、スタッフの語るところは実によくわかるのですが、しかしそれが本編のみを見たときに十全に伝わってきたかと言えば…もちろんこれは、私の読解力のなさを棚に上げての発言ではありますが。

 本書を通して、思わぬところで色々と考えさせられてしまったことです。


「幕末機関説いろはにほへと幕末活動絵巻物」(新紀元社) Amazon bk1

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2007.06.22

「討たせ屋喜兵衛 秘剣稲妻」 討たせ屋稼業始まる

 第一巻「討たせ屋喜兵衛 斬奸剣」で登場、紆余曲折の果てに吉原で「討たせ屋」を開業することとなった鈴鳴喜兵衛。その討たせ屋稼業での、喜兵衛たちの本格的な活躍がこのシリーズ第二巻「秘剣稲妻」では描かれます。同時に、第一巻ではまだ遠景にあった江戸時代最大の仇討ち事件が、いよいよ物語の前面に現れてくることとなります。

 ある日喜兵衛のもとに現れた仇討ち旅の沢田兄妹。松江藩士であった父を、藩の御番医師・半井に殺害された二人は、逐電した半井を追う途中、討たせ屋の噂を聞き、助太刀を依頼してきたのでした。早速調べに当たった喜兵衛ですが、兄妹につけられた助太刀の数が多すぎることに不審の念を抱きます。調査を進めるうちに、喜兵衛は半井が意外なほど身近にいることを知りますが、彼の逐電の陰には、かつて喜兵衛自身を罠に嵌めた巨悪の姿が…

 討たせ屋という聞き慣れない稼業――これは、喜兵衛と吉原の花魁・千歳太夫が中心となって、仇討ちに対してその背後関係を調べ、仇討ちに理があればこれを助け、非があればこれを止めさせるというものであります。無実の罪とはいえ、かつての主家で人を殺め、仇持ちとなって流れ流れて吉原に辿り着いた喜兵衛と、武家の娘に生まれながら、仇討ちのために花魁に身をやつした千歳は、追われる者と追う者という立場の違いこそあれ、仇討ちに己の運命を狂わされた者同士。仇討ちというものの辛さを骨身に沁みて知っている二人であればこそ、このような奇妙な稼業を思いつき、そして実現させたと言えます。

 その討たせ屋喜兵衛が挑んだ今回の事件、一見普通の(?)仇討ちのようでありながら、真相を探るうちにいつの間にか喜兵衛たちとも無縁でないことがわかり、やがてクライマックスの大殺陣に雪崩れ込んでいくこととなります。が、そこにもう一人絡んでくるのが、本作のヒロインの一人・久宝伊織サマ。。かつて父を喜兵衛に斬られた(もちろんやむを得ぬ仕儀ではあったのですが)彼女は、弟と共に喜兵衛を追って旅を続けているのですが、これがまた直情径行で世間知らずの武術バカという実にとんでもないキャラであります。。
 この伊織、喜兵衛を悪人と思いこんで執念深く追ってくるのですが、諸般のややこしすぎる状況で、喜兵衛に純潔を捧げてしまったというからまた大変なことに。さらに、第一巻のラストで喜兵衛が鬼面をつけての大立ち回りで悪人ばらを一掃した際に、その正体を知らずに助けて以来、その鬼面の人が気になって仕方がないという…時代劇のお約束(と反則)を体現したような見事な武闘派ヒロインで、実に愉快です(と言ったら本人にブッ飛ばされそうですが…)。

 さて、本作では本筋の事件の一方で、千歳太夫が、何者かに追われる播州浅野家の浪人(時代劇ファンであれば、なるほど、とニヤリとできる人物)を救ったことで、あの赤穂浪士の仇討ち事件に巻き込まれていくこととなります。おそらくは、いや間違いなく喜兵衛の稼業に密接に絡んで来るであろうこの「忠臣蔵」世界が、この「討たせ屋」世界でどのように描かれることとなるのか。個人的に私が「忠臣蔵」で一番好きな清水一学もずいぶんと格好良く描かれておりますし、これはこの先が楽しみです。


 …でもね、今回も一部女性キャラの扱いが非道かったのがちょっと(´・ω・`)


「討たせ屋喜兵衛 秘剣稲妻」(中里融司 ハルキ文庫) Amazon bk1

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2007.06.21

最近の小ネタ 「シグルイ」アフレコとか

 色々ともうアレなので小ネタですよ。またこの一週間デコボコくらいの。今頃になって。
収録現場も「シグルイ」なり!キャストインタビュー!!
 藤木・伊良子・虎眼・三重・いくを演じる声優の皆さんのコメントが。インタビューの内容についてはこちらにもほぼ同様の内容が掲載されていますが、合わせて読むと、「ああ、普通の人が「シグルイ」に触れるとこういう感想を持つんだな」と微笑ましいようなほろ苦いような気分になります。
 記事で面白かったのは
「加藤さんをはじめ大先輩方の迫力ある声に圧倒されて、最終話まで生きていけるか僕は不安です(笑)。」
「オーディションの時に監督から「普通の人は出てきませんから」と言われた」
「ベテラン勢が揃ったスタジオ内は、浪川さんいわく「死んでしまうんじゃ」というほどの緊迫感が漂っている」

いやー、確かにあの面子の中でヘマやったら、リアルで涎小豆とか二輪とかドォンドォンとかされそうな気がします<言い過ぎ
 また、作中カットらしきものも何点か掲載されていますが、若先生の絵の味を残しつつも、よりシャープな絵柄に仕上げているようで、こちらも楽しみですね(この作品で画面崩壊は洒落にならないので、絵のクオリティには頑張っていただきたいもの…マッドハウスなので大丈夫だと思いますが)
 しかし虎眼先生の指六本ネタもちゃんとやるのか…


な、な、なんと女が3代目・座頭市襲名
 うーん、可愛すぎるのがネックですが、うまくいけば七十年代時代劇チックな味わいにならないかしら(そういうのはVシネでやってると思う)。…時代劇にCGとか、獅童&窪塚とか、地雷がそこかしこに埋まっているようなのは見なかったことにします。
 にしてもたけしが二代目座頭市ってのは、間違っちゃいないんですが違和感が大きい。


「必殺仕事人2007」は七月七日放映
 いつの間にか放映日が決まっておりました。メインは東山紀之演じる渡辺小五郎で、中村主水は脇を締める感じになるような気がしますが、それはそれでアリではないでしょうか。石橋蓮司と佐野史郎が親子という、見ただけで逃げ出したくなるようなキャスティングもよし。
 ちなみに東山さんの妻を演じるのは中越典子さんだそうですが、どーも「サラリーマンNEO」の印象が強くて、またヘンなことをするのではないかと不安<失礼な


「少年陰陽師」舞台化
 メディアミックス絶好調の「少年陰陽師」が、今秋に舞台化とのこと。「<歌絵巻>」とあるからにはミュージカルなのでしょう。
 正直なところこの辺りは専門外なのですが、こちら辺りで女の子向けコミック&小説のミュージカル化について考察していただけないかしら。


「前田利家」と「柴田勝家」参戦――「戦国無双2 猛将伝」発売決定
 「Empires」が出たのでもうないかとも思いましたが、さすがは光栄、「戦国無双2」の「猛将伝」が登場です。追加キャラの前田利家も柴田勝家も、そういえばまだ(プレイヤーキャラとして)登場してなかったのか…という感じですが、この辺り、現代における二人のランク付けというか印象の強さがどのくらいのものかというのを語っているようで面白いですね(これはこの二人に限らず、本シリーズに登場する武将全員に言えますが)。
 しかし2ch水滸伝スレでは、「双槍に大斧か…」と水滸伝ファンが悲しんでいたのが印象に残りました。本当、そろそろ「水滸無双」作ろうよ! 無理だってわかってるけど!


「戦国BASARA」アーケードゲーム化am-net様)
 と、その一方で「戦国BASARA」の方はアーケードゲーム化。ちょっと意外ではありましたが、あのノリはアーケードでプレイしても、確かに楽しいかと思います。リリースは年末ということでまだ全く内容は不明ですが、時期的に「戦国BASARA2 ヒーローズ」に連動させてくるのでしょうね。


「バジリスク 甲賀忍法帖」パチンコ化村某様)
 DVD-BOXも発売される「バジリスク 甲賀忍法帖」がこの夏パチンコ化とのこと。新作ムービーも満載? 声優二十六名というのも気になります。半蔵やお福もいるのか…
 しかし私はこっち方面は全くわからないのですが、最近色々とアニメや特撮のキャラを使ったパチンコとか出ていますが、こういうのはどの辺りの層を見込んでいるのでしょうね? 原作ファン、だけってことはないよね…普通にパチ打ってるおじさんたちが見たらどう思うのかしら(この辺りは神無月さんが詳しいかな)。

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2007.06.20

「押川春浪回想譚」 地に足の着いたすこしふしぎの世界

 いきなり私事で恐縮ですが、たとえバンカラとは無縁であっても、十代から二十代にかけての十年間を早稲田で過ごした私にとって、大いなる憧れと親しみを感じるのが押川春浪。会ったこともない(当たり前)春浪に、そんな念を抱かせるきっかけとなったのは、もちろん(?)横田順彌先生の研究と著作あってのことなのですが、そのヨコジュン久々の押川春浪ものが、本書「押川春浪回想譚」であります。今まで、「異形コレクション」初期より掲載されていた押川春浪ものがなかなか単行本化されないことに、やきもきしたり心配したりしていましたが、よくやく(私にとっては)お馴染みの面子に再会することができて、なんだかすっかり嬉しくなってしまいました。

 本書に収められた十二編の短編「遊神女」「幽霊船」「恐怖病」「木偶人」「来訪者」「星月夜」「曲馬団」「大喝采」「飛胡蝶」「蝉時雨」「落葉舞」「花菖蒲 」は、いずれも押川春浪と、彼の弟子筋にあたる若き小説家・鵜沢龍岳、それにその婚約者・時子の会話で進行するスタイル。基本的に明治時代の新聞の切り抜きを冒頭に掲げ、語り手である龍岳が、春浪自身が経験した、あるいは耳にした、この記事にまつわるエピソードを聞くというスタイルとなっています。

 もちろん、日本SFの父たる春浪が語るものだけに(?)個々のエピソードは、いずれも現実と地続きの世界で起きながら、この世の者ならぬ存在がひょいと顔を出す、すこしふしぎな(まさにSF)物語ばかり。ミルクホールでお茶している神を自称する美女、出会った船に料理を振る舞っては消えていく幽霊船、宇宙文明の調査員を名乗る老人、子犬ほどもある蚤を育てる科学者などなど…元々がテーマアンソロジーに発表されたとはいえ、そのバラエティの豊かさには感心しますし、その一方で、変わらぬたたずまいを見せる主人公三人が、またよいコントラストとなっているかと思います。

 また、どの物語にも明治後半から大正にかけての文化風俗がふんだんに盛り込まれているのが見逃せないところ。基本的に、現代の我々には馴染みのない事物についても、用語解説は付かないのですが、あまりにも自然な形で物語中で描かれているため、その存在に違和感がなく、まるで自分の目の前に受け入れることができるのも、なかなか素敵なことではないかと思います。

 その一方で、本シリーズを初めて手にする方にとっては、ちょっと面食らう部分もあるのではないかと感じてしまうのも正直なところ。何と申しましょうか、本書に収められたエピソードの大半が、実にあっさりした味付けというか、むしろ素材そのままというか…「だからどうしたの?」「これでおしまい?」と言いたくなってしまうオチも多く、私も久しぶりなためか、うち何編かには(悪い意味で)ひっくり返りました。
 もっともこれは本書に始まったことでなく、ヨコジュンの明治もの小説の(特に短編の)、一つの味わいとでも言うべきものであり、むしろSFの原初的なアイディアを、明治時代の人間の目を通して描くというのが基本的なスタンスと思えばよいのかな、と思います。

 …考えてみれば私の場合、どうも読む本が偏っているためか、明治時代と聞くと、山風や司馬遼の作品に描かれるような、ポジでもネガでも、とかくドラマチックな時代を連想してしまうのですがが、しかし本書で描かれるのは、いささか特殊な職種に属するとはいえ、ごく普通の人々の暮らしに始まり、その中で終わる物語。確かに物語の筋立て自体は、SFやファンタジィの色濃いものですが、それがかえって、春浪たちの暮らす世界の現実感を高めているように思えます。

 さて本書で特に私の印象に残った作品を挙げれば、「星月夜」と「花菖蒲」でしょうか。
 前者は、火星との交信に成功したという学生の恩師が行方不明となった顛末を語る物語。火星からの謎めいたメッセージと、科学者の失踪というのは、実に「らしくて」良いのですが、その果てに待ち受けていたのは、およそ読者の九割九分までが想像していなかったに違いない、とてつもない展開で、いやいやひっくり返りました。
 そして後者は、春浪の未完の大作である「海底宝窟」執筆秘話と言うべき、静謐さに満ちた佳品。本作で試みられているギミックは、ある意味ベタなものではあるのですが、しかしそれが春浪の最晩年の姿と重なった時、不思議な喪失感と哀愁を生み出しています(これは、作中年代で収録作を並び変えた本書の企画の勝利かもしれません。実は本書の収録作中もっとも古い時期に書かれているのですが)。

 何はともあれ、ひさびさのヨコジュン明治ワールドを色々な意味で堪能させていただきました。本書のラストでもって、春浪の物語は一つの結末を迎えますが、なに、まだ語られざる物語はいくらでもあるはず。まだまだ春浪先生にもヨコジュン先生にも頑張っていただきたいものです。


「押川春浪回想譚」(横田順彌 出版芸術社ふしぎ文学館) Amazon bk1

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2007.06.19

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 氷もまた熱し

 十乗坊の犠牲により、追っ手の一部を退けた(同士討ち)させた一行。しかしなおも芦名衆は執拗に迫ります。そこに、お千絵お笛と薬師坊を先に行かせて残ったのは三人の坊さん。何のために残ったかは明々白々ですが、しかしどのようにしてそれを成し遂げようというのか?

 と、両手に簑笠持たせた心華坊をカムフラージュに、何処かに消えた嘯竹坊と竜王坊。ここまでは十乗坊と同じパターンですが、しかし雑魚とはいえ芦名衆、同じ手がそうそう使えるわけはなく、そうこうしているうちに、ついに上陸してしまった芦名衆の一団ですが――その足下の氷から飛び出してきたのは、二本の白刃。なんと氷の下の水中から突き出した刃は、円を描くように足下の氷を大きく丸く切り取り…ついに切り取られた氷は重みに耐えかね、芦名衆もろとも水中に没します。
 もちろん水中から氷を切ってのけたのは、嘯竹坊と竜王坊。二人は会心の笑み(本当にイイ笑顔なんだこれが)を浮かべて「心頭滅却すればァ」「氷もまた熱しィ」と、勝ち鬨を上げますが、これは先週書いてしまったとおり、沢庵と同じ臨済宗の傑僧・快川が、織田信長の軍に寺に火をかけられたときに残した「安禅必ずしも山水をもちいず,心頭滅却すれば火も亦た涼し」のもじり。
 こんな時にまで洒落を言っている余裕があるとは――いや、これは次の瞬間に襲ってくるあまりに確実な死の運命を覚悟してのものだったのでしょう、芦名衆の乱刃により二人は無惨にも血煙の中に沈むのでした。

 しかし水中に投げ出された芦名衆は、仲間に救出されるどころか、こちらの舟に寄ってくるなと白刃もて追われる始末。そういえばこいつら、前回仲間に同じことやってたのが、そのまま自分の身に返ってきたことになります。因果応報とはまさにこの時のためにある言葉でしょうか。しかし指落とされるのは本当にイヤだなあ。

 一方、二人の犠牲にも関わらず、氷の上に穴を開けるのに夢中の心華坊。まさか人一人分くらいの大きさに広げた穴を落とし穴にするわけでもあるまいに…と、芦名衆の投じた槍が全身に! 
 と思いきや、彼の身は、槍もろとも己の開けた穴から湖底深くに消えていくことに…そう、彼は敵を倒すことこそなかったものの、芦名衆にとって圧倒的なアドバンテージであった飛び道具である槍を封じたのでありました。


 …いやはや、前回の十乗坊に引き続き、今回の三人の坊さんの活躍をなんと表すべきか。己の命を代償としたとはいえ、ほとんど徒手空拳の状態で彼らが挙げた「戦果」は、常人のよくなし得るところではありません。原作者である山風先生は、後にこの場面を、氷の下から日本刀で氷を斬るというのはさすがに無理があったと評していたように記憶していますが、作者をも呆れさせた彼らの活躍、以て瞑すべしでしょう。

 そして、前回を含め、彼ら坊さんたちの「活躍」を目にしたときに、感動と、それと同時に戦慄すら感じさせられるのは、彼らがみな、己の行動の結果として確実に訪れる死に対し、莞爾とした笑みを浮かべていたことでしょう。決して自棄になったのではなく、感覚が麻痺しているのでもなく、ただ、おそらくは彼らが、沢庵と十兵衛の掛け合いに、堀の女たちのやりとりに、ごく普通に浮かべていたであろう優しい笑み――果たしてどのような修行を重ねれば、このような笑みが浮かべられるのか。あるいは彼らの行動が、堀の女たちの、そして会津の人々の未来を切り開くと信じていたがゆえのことかもしれませんが、いずれにせよ、彼らもまた、快川や沢庵にも負けぬ傑僧であったことは間違いありません。

 さて、追っ手の戦闘能力を相当なまでに奪ったとはいえ、こちらの味方はもはや三人。怒り狂った芦名衆に追いつかれれば圧倒的に不利なことは言うまでもなく、さていまだ続く窮地から如何にして逃れるか!? というところで一週空くのは、これは殺生ですがな…

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2007.06.18

「大江戸ロケット」 十一発目「埒もねえ!」

 こういう表現を使うのは心が痛むのですが、今週の「大江戸ロケット」は…正しくクソアニメでした。

 今日も今日とて打上げ試験に励む清吉ですが、悩みの種は、打上げの時は平気でも、落下の衝撃で破損してしまうノズルのこと。六兵衛さん入魂のノズルではありますが、さすがに毎回毎回壊されてはいろんな意味でたまりません。ノズルは、実際問題として、現代のロケットでもノズルはロケットでも一番難しい部分の一つで、今なお苦労の多い部分。いかに個体ロケットとはいえ、そうそうホイホイと江戸時代のテクノロジーで再現されてもこちらの立つ瀬がない…というのはさておき。

 その一方で、繰り返される青い女の凶行。すっかり自分の足で歩けるようになって、赤井のいる意味もだんだんなくなってきたような気もしますが…彼女が人間の生き血を啜るのは、どうも単なる食事以上の意味があるようで、非常に不気味であります。そして、人間体時の自分の姿を利用して、白い獣に変じたおソラさんを罠に嵌めようとするという悪知恵まで発揮。分裂能力も持っていますし、放っておくと洒落にならない怪物のような気がしてきました。

 そんな奴を相手にしつつも、おソラの秘密は守らないといけないというややこしい立場となった銀さんですが、さらにややこしいことに金さんに呼び出しをかけられ、鳥居たちを追い落とすために手を組まないかと誘われますが…きっかけは自分の過去と長屋の皆を盾に取っての半ば脅しだったとはいえ、今の銀さんには守りたいものが明確にある。そんなわけでサラリと誘いをかわした銀さん、格好良いねえ。しかしその気はなさそうとはいえ、銀さんビジョンのおソラさんは妙にフォトジェニックで、こりゃお伊勢さんも清吉も油断してられないような…

 その頃、前回ラストに登場した謎の鳩を追いかけて江戸にやって来たのは、おお久しぶり! の轟て…鉄十。相変わらず謎の生命体をお供に、気持ち悪いほどの黒光りと無駄にイイ声です(しかし今回も鉄十とソラがあの挨拶ネタをやっていたということは、舞台では没になったあの展開をやるということなのかな…)
 さてその鉄十が乗ってきた花火を推進機関にしたボートにひらめいた清吉は、飛ばさなくてもノズル試験はできると自分も舟にノズルを取り付けて、ロケットボートを製作。そしてカムフラージュ代わりに、下肥として売りに出す長屋の、その、何というか排泄物を載せたのですが…それがウンの尽き(ちなみに、実際に江戸ではこうして汲み取ったブツを近隣の農村部に下肥として売っていました。ご隠居が喜んでいたように、これも大屋の収入源となっており、その中から正月に店子に配る餅代を出していたそうで、「店中の尻で大屋は餅を搗き」などという川柳も残っております)。

 勝手に自分に対する挑戦と思いこんだ鉄十が花火船で強引にレースを挑み、さらにこれまた久しぶりに登場のおりくさんまでもが色々と勘違いした挙げ句、自前の花火玉推進船で参戦(しかしさりげなく(?)プロポーズしているのに完璧にスルーされるおりくさんが不憫すぎます)。しかしまだ制御可能なレベルの鉄十とおりくの船とは違い、清吉の船の挙動はまだまだ不安定で、無理に噴かせばそのままどっかんと…
 ここで空を飛んで清吉を救おうとするおソラさんですが、時は真っ昼間、所は大川とタイミングは最悪。それでも飛びだそうとするおソラを押さえたおぬいさんは、思わず「あたしたちは普通じゃないんですから」と意味深発言。どこがどう普通でないのか色々な意味で気になるところですが、前回描かれたように人間を動物変えるご隠居脅威のテクノロジーがあるのであれば、やはりその逆も…ということなのでしょうか(虹の反物という宝物のお話もありますしね。脚本家違うけど)。ご隠居ガールズの髪飾りが、みな動物なのも気になります。

 そんなこんなですったもんだの挙げ句、キレたおりくさんの花火爆発のあおりを食って船から放り出された清吉をおソラさんが助けに来てめでたしめでたし。…とキレイに終わるわけがなく、暖を取るために清吉の手に火をつけたところに肥のメタンガスが引火して大爆発。ものの見事に黄金の花火が…ほらクソアニメ。
 ちなみに鉄十は「屁に火をつける宴会芸は花火職人の必須科目」と言い切っておりましたが、舞台のパンフレットによれば、大学時代に鉄十の中の人は、舞台で銀さんを演じた人と一緒に、「私、ホタルよー」って生尻にドラゴン花火を挟んで点火、火花が逆噴射して大惨事になったことがあるそーです。合掌。


 あ、そういえばあの謎の鳩はどこに…


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 今週の大江戸ロケット


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2007.06.17

「柳生百合剣」第三回 柳生十兵衛 復活ッッ

「柳生大戦争」に並んで、さしもの荒山ファンをして、これはやりすぎだろ…と引かせたり苦笑させたりしてきた「柳生薔薇剣」も第三回にして最終回。
 最終回の三文字を見た時には、もう終わり? と一瞬思ったものの、読んでみればこれがまた伝奇小説として、剣豪小説として、そしてもちろんネタものとして(暴言)非常に優れた作品となっておりました。真面目な話、完成度という点では荒山作品中ではかなり上位に入るのではないでしょうか。

 柳生と伊賀という徳川幕府を支える両輪を一瞬のうちに壊滅させた大陰謀の主魁は、荒山先生が大好きな隆慶先生も大好きなあの捨て童子様こと松平忠輝。
 その忠輝こそは失われた百済王朝の末裔にしてその再興をもくろむ秘密結社・百済団の首領であり、家光を廃して自分が将軍の座に就いた後、百済復興のために朝鮮に出兵しようとしていたのでありました。
 また○○は朝鮮の血を引いていたネタですか、とか、「団」て付いただけでどうしてこうも微妙な雰囲気となるのだ、とか色々ありますが、しかし、この辺りの敵方の陰謀は、そのスケールの大きさといい、目的のわかりやすさといい、そしてその手段(の一つとしての柳生壊滅作戦)のとんでもなさといい――荒山作品の中でも出色の部類に入るかと思います。
 何よりも、百済滅亡以来、その復興のために朝廷に設けられた秘密機関・百済寮とその後身たる百済団という設定だけでも、まだ色々と書けるような気がします。

 さて、そんな敵方の巨大な陰謀に立ち向かえるのは、柳生新陰流一門が壊滅し、小野一刀流一門こぞって敵方についた今、柳生十兵衛と小野典香のみ。しかし二人は不倶戴天の敵同士。何よりも、十兵衛は典香の片目を奪っているのですから…
 さてこのような状況の下、十兵衛と典香は手を携えて戦うことができるのか? 小柳同盟成立なるか? ――まさにこの点こそが今回の、いや本作のキモ、タイトルの由来ともなる部分であります。
 ここから先の展開は、まあ「大戦争」に続いて柳生新陰流をファック(性的な意味で)、返す刀で一刀流までファックするという、何というか新作の度に喧嘩を売る相手を増やしていく荒山先生のブレイブハートにハラハラしつつも、柳生ロミオと小野ジュリエットの言動がまた馬鹿馬鹿しかったり微笑ましかったり、はたまた微妙に感動的であったりと、これはこれで本作になくてはならない、一種の名シーンであったかと思います。

 そして何より――「バキ SAGA」後の範馬刃牙の如くパワーアップした二人が百済団の秘密基地に突入して以降のクライマックスは、剣豪小説として白眉の展開。
 剣士として、いやまず当時の男女として破天荒な姿から繰り出される剣技は、おそらくは空前絶後のもの。むしろ剣豪小説というよりは、武侠小説的なものを感じますが、不思議なまでの説得力と美しさを持つ、ビジュアルで見てみたい名シーン。ここまでのアレコレは全てこのシーンのためにあったのか!? と大いに唸らされました。
 設定的にもビジュアル的にも美しい剣、というのは前作「柳生薔薇剣」にも登場しましたが、しかし本作ラストの剣戟は、それをはるかに上回ったかと思います。名実共に姉越えを果たしたか十兵衛。

 そしてラスト、思わぬ大物ゲストとのスペシャルマッチを経て、遂に対峙する小柳砲と一刀斎。すでにリアルシャドー(本当)でシミュレーション済みの魔人一刀斎に立ち向かう二人の剣は…小柳ラブラブ天驚剣?
 いや、ネタっぽく書いてしまいましたが、本作において、何でヒロインがこんなことに? と思っていた部分までもがピタリと平仄があったのにはただただ感心いたしました。

 連載第一回では、目を覆わんばかりの有様で(荒山先生を)一体どうしたものか、と思わされた本作ですが、終わってみれば実に美事な十兵衛の復活譚であり成長物語でありました。結末ではさらなる続編を匂わせる部分もあり、今後の荒山柳生サーガにも期待できそうです。


 …と、ここで綺麗に終わるのも何なのでネタ部分に触れておきます。
・剣術を失って呆然としているところを友矩に手○にされて(誤解を招く表現)いいように利用されてしまう宗矩は、つくづく(ネタ要因として)期待に違わない人だと思います。
・最後の最後まで期待通りのダメっぷりだったウラギリジョー。冷静に考えたら、彼と対になる女忍者「雪夜叉」は、「ゆき」つながりで、あの映画で恋人役をやった人が元ネタなのでしょうか。だとしたら荒山先生の怒りの深さを思うべし。
・何かもうラストでわけのわからないパワーを発揮する伊藤一刀斎ですが、
「これはもう意味不明だが、おそらく、おれは伊藤一刀斎だ! ということなのだろう」
と作者までわけがわからなくなっている辺り、素で噴きました。やっぱりそろそろ「荒山徹のガイドライン」があってもよいような気がしますよ。


「柳生百合剣」第三回(荒山徹 「小説トリッパー」 2007年夏季号掲載) Amazon


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2007.06.16

「討たせ屋喜兵衛 斬奸剣」 パターン破りのヒーロー誕生

 これだけ毎月文庫書き下ろし時代小説が発行されると、どうしてもパターンというものが出てきます。その一つが「○○兵衛 ××剣」という浪人剣士が主人公の作品。主家の陰謀に巻き込まれ藩を捨てた文武両道の主人公が、江戸の市井で暮らしながら様々な事件を解決していくというあれです。
 もちろんこれはこれで大いに楽しい、王道の一つと言って良いものではありますが、さすがに毎日毎日時代物を読んでいる身からすると、些か食傷気味になるもので、もう少し変わった味わいはないのかな…という気分にもなりますが、そこで本作。中里融司先生の代表作と言うべき「討たせ屋喜兵衛」シリーズの第一弾です。

 主人公の鈴鳴喜兵衛は、算勘に優れ、さらに剣の腕も達人クラスという男。奥州三善藩で藩政改革に燃える次席家老の下での仕事に勤しむ喜兵衛ですが、ある日藩の守旧派により家老は暗殺、かろうじて刺客を討ち果たすも、かえって自分が下手人の濡れ衣を着せられて逐電する羽目になります。わずかな伝を辿って江戸に出てきた彼ですが、その後ろからは刺客の娘たちが仇を討つべく追ってきて…

 …と、これだけ書くと、まるっきり冒頭のパターンそのままですが、しかし、本作がそんなパターンの裏をかくように愉快なのは、主人公たる喜兵衛さんが、どうにも弱気で、強気な相手にはすぐ押し切られてしまう性格という設定。自分の方が正しいとわかっていても、相手から強弁されると思わず引き下がってしまうという、時代劇の主人公にあるまじき性格なのですが、だがそれがいい。
 陰謀と悪意が縦横に張り巡らされ、その網にかかった善男善女が無惨な最期を遂げる中で(正直なところ、個人的な趣味から言えば人が死に過ぎな印象はありますが…女性キャラの殺し方も酷いにもほどがあるものがありましたし)、武士でありながら武士でない、強いけれど同時に弱い、実に人間的な喜兵衛の存在は心休まるものがあります。そして、そんな彼ですら見過ごしにできぬ悪への怒りが遂に大爆発するクライマックスは、彼の普段のキャラがキャラであるだけに、そのカタルシスも幾層倍に感じられることです。

 そしてもう一つパターン破りなのは、喜兵衛が営むこととなる稼業・討たせ屋。本作はシリーズ開幕篇にして討たせ屋誕生篇といったところで、討たせ屋の名が登場するのは物語のラストゆえここでは詳細は語りませんが、少なくとも私の浅い知識の中では似たアイディアはほとんどなかったかに思える、ユニークかつなるほどと感心させられる稼業であります。

 さて本作の幕が上がるのは元禄十四年。この年に起きたある事件が、後に史上最も有名な仇討ちへとつながっていくわけですが…まずまちがいなく、その渦中に討たせ屋喜兵衛も巻き込まれていくはず。果たしてその中で彼がどのような役割を果たすのか、楽しみです。


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2007.06.15

「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」第四巻 三人のタケルの名のもとに

 さあ三人のタケルの冒険もクライマックス。ついに真の神の剣その名もムラクモを手にしたイズモ、父との因縁を断つためイズモと共に天帝国に向かうオグナ、そして未だ魔剣クサナギにとらわれたままのクマソ…決戦の地・天帝国で、三人のタケルの、そして彼らと共に戦う人々の運命が交錯することとなります。

 ついに天帝国首都に至ったクマソの軍団。が、クマソの前に現れたオオタラシ王は、クマソと手を組み、この世の生ある者全てを討ち滅ぼさんという狂気の野望を露わにします。そこに割って入ったのは快男児イズモ。クサナギの魔を浄化する力を持つ唯一の存在であるムラクモの剣の力は、クマソの軍団を次々と正気に戻していきます。
 そして始まる最後の決戦。イズモとクマソが、オグナとオオタラシが、蛇殻の民と天帝国軍が激突し、それぞれの因縁に決着がついていくなか、思いもよらぬ結末へと物語は怒濤の如く突き進み、そして――

 本作はこれまでも述べてきたように、劇団☆新感線の舞台が原作であり、つい最近――DVD-BOXに収録された一作品という形ですが――DVD化されたばかり。私も今回、改めて舞台の方を見返してみましたが、本作「takeru」は、この舞台の方に勝るとも劣らない――いや、群像劇として、またアクションスペクタクルとして、大きく勝る見事な作品となっていました。
 何よりも、キャラクター描写の厚みがグンと増しているのが素晴らしい。舞台ではどちらかと言えば、役者のパワーに頼る面があるように感じられた(もちろんそれは舞台という媒体においては正しいことでありますし、中島氏の脚本は当て書きのはずですから、これはこれで問題ないとは思いますが)三人のタケルのドラマは、内面までより掘り下げた描写がなされていますし、それだけに、一歩間違えればベタになりかねない三人の(特にオグナのイズモに対する)友情が、実に気持ちよく感じられます。
 その掘り下げは、また、三人のタケルだけに向けられたものではなく、特に第三巻を読んだときになかなか面白いキャラになりそうな予感のあったオグナの兄・オオウスと、天帝国の将軍カワワケの二人は、期待に違わず見事にドラマを盛り上げてくれました(さらに言えば、戦い終わった後の三人の皇女の描写がまた巧くて…)

 また何よりもエキサイトさせられたのは、舞台とは全く異なる最終決戦。あまりに巨大な敵に、一致団結して最後の戦いを挑むヒーローたちというだけでワクワクしますが、それどころか、本作においてこれまで繰り返し登場したあのフレーズが、もう一度、全く意外な形で描かれるクライマックスは、本作をラストまで読んできてよかった! と心から思える痛快極まりないものでありました。

 そしてラスト――数奇な運命に操られて集った登場人物たちが、一つの戦いを終えてまたそれぞれの道を行くこととなりますが、こいつらみんな、この先もどこまでも幸せで、痛快な人生を送るんだろうな…と、こちらまで嬉しくなってしまうような堂々の大団円でした。
 特にオグナ――「oguna」を読んだ後には、なおさら彼が最後に見せた表情が、心に染みます。本当によかったなあ。

 何はともあれ、これまで全四巻、本当に楽しませていただきました。最初は荒削りな面も見受けられた作画の唐々煙氏は、物語の展開と共にぐんぐんと描写が巧みになっていったかと思いますし、中島かずき氏の原作も、上に書いたように舞台とはまた違った、そしてより深まったアプローチで、舞台を見た人も見ていない人も楽しめる、見事なものとなっておりました。
 今はただ、面白い作品に出会うことができて感謝、の一言です。


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2007.06.14

七月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 なんだかんだ言ってだんだん暑くなってきました。いよいよ夏本番です。
 ちなみに私ゃ七月に入ると同時に三十五歳。そんな歳になってもこんなことをやっている自分のことを考えると肝が冷えますが、それが夕涼みに丁度良いとかヤケクソになりつつ、七月の時代伝奇アイテム発売スケジュールを更新しました。

 さて七月の小説でまず楽しみなのは、東郷隆の「打てや叩けや 源平物怪合戦」の文庫化。副題通り源平合戦の頃を舞台とした伝奇ものですが、長らく絶版だったのが(何故か)このタイミングで光文社から文庫化です。その他、光文社文庫からは上田秀人先生の新刊が登場ですが、これは「勘定吟味役異聞」シリーズの第五巻ですね。これも楽しみ。
 また、最近えらく快調な風野真知雄先生の「耳袋秘帖」シリーズの第四巻も発売ですが、このサブタイトルだけはどうにかならないのかしら。
 と、祥伝社から久々に荒山徹先生の単行本が! 「小説NON」誌掲載の短編が収録されるのではないかと思いますが、「忍法さだめうつし」というタイトルは先日掲載された「対馬は俺のもの」のことかな…?

 そして漫画の方はあまり目立ったものが…あ、石ノ森先生の「変身忍者 嵐」が文庫化です。後半あまり変身しなくなるのでヒーローものを期待するとどうかと思いますが、怪奇時代劇としては実に面白い作品。あまりにも(一部では)有名なラストを未体験の方はぜひ。その他、「影武者 徳川家康」の完全版が刊行開始されますが…続編の「SAKON」も完全版になるのでしょうか。今から心配しても何ですが。
 あ、ドラマCD化の「危機之介御免」は、オリジナルストーリーではないみたいですね。

 一方、今月の目玉というか中心は映像ソフト。角川や東映の時代ものが色々とまとめてリリースされます。角川からは「戦国自衛隊」「妖怪大戦争」が新旧両方、再DVD化。今度こそ「妖怪大戦争」(ダイモンの方)は買おうかな…そして東映からは夏らしく怪談ものが次々とリリースされるほか(時代ものではないですが、題材的にアレなのでナニだった「犬神の悪霊」もDVD化されるのには驚いたなあ)、忍者ものも色々とリリース。そしてそれとタイミングを合わせて(?)「超忍者隊イナズマ!! SPARK」が遂に発売。私ゃ高橋光臣の侍姿のために見たいと思います。
 それとも一つ、「どろろ」がDVD化。結局劇場で見ることができなかったので、ようやく見ることができます(しかし「どろろ」と聞くとヤングチャンピオンのアレを思い出してフクザツな気分に…)

 最後にゲームは、今月ははっきり言って不作ですね。私は結構任天堂ファンではありますが、何故か任天堂(ハード)は時代ゲーが少ないのが大いに不満です。前にも書きましたが、やっぱり「謎の村雨城」がトラウマなのか<それはない

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2007.06.13

「時代小説人物事典」 企画は面白いのだけれど…

 以前発売された「時代小説用語辞典」に続く形で発売されたこの「時代小説人物事典」。様々な時代小説の名作を、登場人物の観点から取り上げようという本書は、企画的には、なかなかユニークで興味深い試みかと思います。

 収録されているのは、江戸時代を舞台とした、古今の時代小説の名作ばかり。時代小説史上に冠たる大作から、誰もが名前を知っているようなヒーローもの、剣豪ものに捕物帳、人情ものにもちろん伝奇もの…ジャンルを問わず実在虚構を問わず、様々な人物が集められている様は、実に壮観であり、それだけでも楽しくなってしまいます。
 特に、あの人物のことがちょっと気になるんだけど気軽に前に戻ってチェックしなおすには…な超大作、例えば「大菩薩峠」や「富士に立つ影」などや、真面目に読んでいてもあまりの複雑さに混乱してくる「柳生武芸帳」のような作品を読むに当たっては、かなり助かる存在になりそうです。


 が…正直なところ、全体を通してみると、残念な部分も色々と目に付きます。
 その一つが、作品と人物のチョイス。例えば捕物帳などは、多くの場合見開き二ページの掲載なのですが、主人公をはじめとするレギュラー陣の紹介…はもちろん良いとして、一話限りのゲストなどが掲載されているのですが、そのチョイスがどうにも…果たして時代小説の登場人物について語る際に、彼らの名を挙げるべきなのかしらん(というのは該当の登場人物には非常に申し訳ない話ではありますが)、もっと他の作品の他の人物についてスペースを割く必要があるのではないのかしら、という気持ちになります。
 まあこれは、ページ数や作品傾向のバランス等、色々な縛りがあって、難しい事情もあるのだとは思いますが…

 それ以上に残念なのは、索引が今一つ親切でないこと。人物名で五十音に通して、というスタイルではなく、作品毎に人物名を挙げていくスタイルの本書では、有名人の場合、同じ人物が複数の作品に――すなわち、複数のページに――顔を出すことになります。
 この場合、ある人物がどの作品に登場しているかを簡単に知るためには、索引を使うのが自然かと思いますが…この人物名索引が、全作品通しの五十音順ではなく、作品毎の掲載となっているのに驚かされました。結局、ある人物を探すには、作品を最初から最後まで読み通す必要があるわけです。これが何とも不便で――

 これは私見ではありますが、時代小説の登場人物について書くということは、ある作品にどのような人物が登場しているか――そしてそれは、その作品がどのような内容であるかとほぼイコールかと思います――と、もう一つ、同じ人物が異なる作品でそれぞれどのように描かれているか、ということを書くということではないかと思います。
 それこそが、内容や時代背景に留まらず、登場人物という角度から作品を語る意義ではないかと思うのですが…

 もちろん、上記の通りこれはあくまでも私見であり、読む方によって印象は異なるかとは思いますが、個人的には、企画は面白いのですから、もう少しアプローチで頑張って欲しかったな…という気分です。


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2007.06.12

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 そしてまた一人…

 お千絵お笛が会津から脱出する途上、猪苗代湖上を行くところを折悪しく芦名衆に発見されてしまった一行…というところで続くとなった前回(本当、足跡を消すトリックくらいは用意してしかるべきですね!)ですが、さて続々と追ってきた芦名衆の舟を相手に、いかに戦うのか、はたまたいかに逃げおおせるのか…

 当然、追いつかれればただ斬って斬って斬りまくるのみという覚悟のお千絵お笛ですが(こんな時でも語尾が「ゥ」なお笛が可愛い。ある意味原作から一番変わったのはこの子じゃないかしらん)、残念、そんなことができるのは十兵衛先生くらいのもの。何よりも彼女らには天海僧正に銅伯のことをチクるから銅伯の秘密を聞き出すという大事なお役目が…
 というわけで当然これを止めた坊さんたちですが、これが腕っ節ということであればたぶんほりにょ以上に頼りない方々。さて、一体どうしたものかと思いきや、坊さんの一人、十乗坊が、自分のことを他の四人の陰に隠れさせて、さてどうするか――と、舟の上から湖水にこっそりと入るのでした。

 これ、一見、大したこともないように見えますが、季節は冬。ましてや場所は雪深い会津で、そんなところで湖の中に入るとは――ほら、陸地と見まごうほどに氷までブ厚く張っているのに。
 そんな湖水に平然と入っていくという意表を突いた行動はさすがに盲点だったのか(もちろん、追っ手の目から隠れて水中に入ったということもありますが)、追ってくる先頭の舟に近づいた十乗坊は、水中から舟幽霊よろしく船縁に掴まって、舟をグググッと傾けます。当然、ただでさえ一杯に人が乗った舟が傾いてはたまらないわけですが、ここで当然の行動と言うべきか、芦名衆の一人が、これをズンバラリンと斬りつけるも――しかし時既に遅しと言うべきか、いやいやこれはむしろこの一撃でとうに落命していたでありましょう十乗坊の執念を讃えるべきか、舟を傾ける力は止まることなく、遂に芦名衆もろとも舟は転覆。冷たい冷たい湖水の中に彼らも投げ出されるのでありました。

 と、寒くてたまらぬと仲間の舟に這い上がろうとする芦名衆を、船上の連中は邪魔だと文字通り切り捨てて、自分たちのみ先に進もうとします。刀で十乗坊を斬った側が今度は仲間から斬られるとはもの凄いスピードの因果応報ですが、何はともあれ一種同士討ちで仲間を減らすこととなった芦名衆。所詮は悪人、仲間意識なんて薄いことで…というよりは、もちろんこれは一般人の身でありながら、梁山泊の水軍並みの奇襲をしてのけた十乗坊を讃えるべきでしょう。彼と同じ臨済宗の快川国師が火中に滅する際に「心頭滅却すれば火も亦た涼し」と残したのは有名な話ですが、これはさしずめ「氷も亦た…」あ、いやこれは今回は止めときましょう。今はただ、勇気ある最期にただただ合掌するのみ。

 何はともあれ、かつて鷲之巣廉助の動きを封じて散った二人に続いて、第三の犠牲者が…それでも、彼の犠牲にもかかわらず、まだまだ追っ手はかなりの数。ここで女人二人と薬師坊を先に行かせ、三人の坊さんが残って――というところで以下次号。今週の展開を考えれば、この二人が何をするつもりかはわからなくとも、何のために残ったかは痛いほどわかりますが…さて。

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2007.06.11

「大江戸ロケット」 十発目「怪異猫変化」

 相変わらず本筋なんだか脇を走ってるのかわからなくなるんだけれどもとにかく毎回毎回面白いのは間違いない「大江戸ロケット」ですが、今回は比較的脇っぽいお話…ながらも遂にご隠居の正体が判明、また天鳳と天天の方にも色々とドラマが…あと江戸城のお偉方も顔を出したりと、また色々と動きがありました。

 前回の超強引な影富騒動の幕引きやら何やら、とにかくギャグで済ませるにはあやしすぎるご隠居に目を付けた金さんこと遠山景元は配下の天鳳・天天(以下、変換がめんどいので緊急指令コンビ)はご隠居の正体を探るよう命令。折しも清吉とソラが行方不明で、緊急指令コンビはこれもご隠居の仕業では…と調査に当たることになります(外出したご隠居を尾行する時のアクションが地味に愉快です)。一方、鳥居様…というか赤井様の方も、黒衣衆を動かして同様にご隠居の回りを探索し始めます。

 が、そこに思わぬところから横槍が…遠山様・鳥居様にとっては上役に当たる水野越前守から捜査中止命令が、ってずいぶん展開早いなあと一瞬思ったものの、水野様のモザイクがかかるほどの素晴らしい変態っぷりにそんな疑問は遙か彼方にスッ飛びました。遠山様に問いつめられて「近う」と言っておいて、耳元に"I love you. I want you" とか囁いてるし。

 で、慌てて長屋に飛んできた遠山様…じゃなくて遊び人の金さんですが、髷の形で風来長屋の連中からあやしい奴と突っ込まれた挙げ句、フクロにされる始末…ガハハハハ、いいのかこの展開。何げに鬼のようなツッコミです。更に追い打ちをかけるように(?)遊び人の金さんと名乗った途端正体バレバレになってしまうのがとにかく愉快。
 が、正体バレると急にムクれて不機嫌になる金さん…子供ですかアンタは。扱いに困ってひそひそ話を始めた長屋の連中の会話に「いま誰か奉行って言ったろーっ!」とか面白すぎます。真夜中に声挙げて大笑いしました。

 正体バレバレといえば、ご隠居の屋敷で緊急指令コンビと鉢合わせした臍様。いくら格好良いコスチュームに身を包んでも、その口元のエロボクロ隠さないと中の人が…それはさておき、その臍様との対決の中で思わずご隠居のあやしげな装置の中に入ってしまった緊急指令コンビ、何と猫に――ってアンタ。
 さらにそこにはどこかで見たような前髪の猫が二匹。そこで猫になっても互いの言葉が通じない四匹がミュージカル始めてしまいますが、これは元が舞台だからという以上に、今回の話のノリがノリなので何だかもう全然OK…というかもう感覚がマヒしてきました。

 そしてそこに現れたのはご隠居。何だか怖い声音で取り出した光線銃(?)のおかげで人間に戻った四人は、そこに現れた金さんの口利きもあって誤解も解け、まずは騒動も一段落。遠山様も目を瞑ってくれることになったし、緊急指令コンビも今度は本当に長屋の住人として受け入れられたし、まずはめでたしめでたし。

 そして遂に明かされたご隠居の正体は何とあの平賀源内。ふとしたことから人を殺して牢に入り、そこで病死したというのが歴史上伝えられる源内の最期ですが…まあ、死んだはずの人間が生きているのは伝奇ものの基本だしな!(納得するな) ちなみにご隠居の屋敷の中には、エレキテルはもちろんのこと、「西洋婦人図」などもあったりして、うむ、実に行き届いています。さらに言ってしまえば、源内が江戸に出てきて初めて住んだのは風来長屋がある(らしい)神田、も一つ言えば源内の数あるペンネームの中に風来山人なんてのもありまして…いやはや、毎回感心していますが、こういうところで凝ってくるからこの番組は本当に楽しいですね。

 が――冷静に数えてみるとこの年、源内は百十五歳。そりゃ正体を知った面子が驚きもするわけです。もっとも、あれだけ若作りしてた遠山様も、史実であれば五十歳。そりゃー人のこと言えないわ…
 しかし、いくら正体が平賀源内だったからといって、人間を猫にしたり(おそらく前回ラストの犬も、ご隠居の仕業でしょう)するのは、世界観をさっぴいてもあまりにもオーバーテクノロジー。さてこの辺り、何か説明があるのかはたまたスルーなのか(まあ、舞台をご覧になった方はご存じかとは思いますが…)

 一方、あまりにもお偉方の面々が濃すぎて割りを喰った感もある緊急指令コンビですが、しかし、その過去はこの背景となる時代を反映したもの。回想シーンでの自分たちが思う存分に芸を披露してみせて、そしてそれを皆が喜んでくれた時の、天鳳の明るい笑顔は、今の彼女の表情と比べてみると、胸に響くものがあります。だからこそ彼女たちが清吉のために自分たちなりに力を尽くそうという心意気も伝わってきますし、そしてそれが銀さんとの和解につながった…と、まあ言わずもがなではありますが、そういうことなのでしょう。


 ところで、ラストに出てきたあの鳥は新キャラか何かですかね?(お約束)


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2007.06.10

「怪異高麗大亀獣」 地獄の三題噺!?

 来月久々に祥伝社から単行本が発売される荒山先生ですが、その中におそらく収録されると思われるのが本作。
 十四世紀末~十五世紀初頭の朝鮮を舞台にした本作は、珍しく(?)日本とはほとんど関係のないところで物語が展開していきますが、なんというか、こう…アイディアはもの凄く面白いんだけど勢いに任せてとンでもない方向にすっ飛んでいって大弱りという、正しく荒山作品となっておりました。

 何せ本作の構成要素を簡潔に表せば、
・朝鮮ターミネーター
・シルミド
・亡国霊獣ガメラ(仮称)
という地獄のような三題噺。その他、エロ妖術ありホモくさい美少年あり唖然とするようなネタ文章ありと、ああ、いつもの荒山節だねえ…としか言いようがありません。

 時は十四世紀末。クーデターにより高麗王朝を覆し、自らが王たらんとしていた李成桂のもとに、謎の白衣の女剣士の一団が現れ、彼を暗殺せんとしたところから物語の幕が開きます。
 かろうじてこれを退け、その頭目を捕らえてその口を(山風チックなエロ妖術で)割らせてみれば、彼女たち暗殺団を送り出したのは、実にとてつもない相手…その黒幕は、この時代から四百年以上前の高麗太祖・王建。自らが建国した高麗が、李成桂により滅ぼされることを予知した王建は、歴史を変えるために、妖術により暗殺者を送り込んできたのでありました。

 …と、普通の読者であれば頭を抱えるようなこの展開も、荒山ファンであれば、既視感があるはず。そう、これこそ後に少年時代の伊藤博文に対して送り込まれることとなった朝鮮ターミネーター「処刑御史」の元祖。十世紀の宮廷妖術師・安巴堅(これもまた、ファンならお馴染みの名でしょう)により編み出された秘術により、はるばる時を超えてきたこの暗殺団は、しかし、その目的を達することなく壊滅し、ここで終わっていればまだ良かったのですが…

 まあ、荒山作品の権力者がここでおとなしくしているはずもない。怒り心頭に達した李成桂は、目には目をというわけで、今度は王建に暗殺部隊を送り込んだると息巻きます。奇しくも暗殺団の頭目の口を割らせたのは当代の安巴堅(この名は代々継承されるマジカルネームのようです)、その彼に、過去を遡る秘術の完成と、暗殺部隊結成の命が下されます。

 そこで安巴堅、死刑を待つばかりの凶悪犯ばかりを集めて暗殺部隊を結成しますが…あれ、この展開どこかで聞いたぞ? と思っていたらあに図らんや、秘術が完成し、まさに暗殺部隊が派遣されることとなったその寸前、諸般の事情で計画は中止。収まらないのは暗殺部隊の面々で――はいはいシルミドシルミド。
 ここまでも大概ですが、この後はいよいよもって意表を突く展開。そう来るか! と唖然とした後に、何ともほろ苦い笑いがこみ上げてくる、そんな結末の物語でありました。

 馬鹿馬鹿しい秘術と権力者の気紛れがきっかけで、事態が意外な方向に転がり、その中で歴史と人間の本質が、皮肉たっぷりに浮かび上がってくる、というのは山田風太郎の忍法帖短編の一つのスタイルですが、本作もそれとほぼ同様の味わい。単に奇想、特に奇想天外な秘術の存在をもってのみで、荒山徹を山田風太郎の後継とみなすのには私は反対なのですが、この一種の精神性とも言うべき部分において、まさに荒山先生は山風の後継と言ってよいかと思います。

 ただ――それまでのシルミド話だけでも十分にまとまっていただけに、クライマックスの亡国霊獣出現が亀…ならぬ蛇足に見えてしまったのが何とも残念なことではありました(しかし荒山先生、無生物に命を吹き込むネタが本当に好きだなあ)。
 これはこれで荒山先生の怪獣愛が暴発していて微笑ましいのですが…オチみたいに使うにはちょっともったいないネタだったかと思います(いや、オチにしないと収拾がつかなくなる怪物ではありますが)。


 それにしても――民族とか愛国ってのは何なんでしょうねえ。


「怪異高麗大亀獣」(荒山徹 「小説NON」2007年4月号掲載)


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 「処刑御史」ノンストップアクションの快作、だけど…

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2007.06.09

「oguna takeru-SUSANOH~魔性の剣より-外伝」 その変化の重みは

 本編第四巻とどちらを先に紹介しようかと考えましたが、やはり結末のことを考えるとこちらかな――というわけでこちらを先に紹介。「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」の主人公である三人のタケルの一人、オグナノタケルの過去を描いたオリジナル外伝です。

 天帝国の第二皇子として生まれながらも国を捨て、冷徹な暗殺者として一人天帝国に戦いを挑むオグナは、原作舞台では粟根まこと氏が好演、氏の当たり役の一つと言えますが、この三人のタケルの中でも最もおいしい設定であるオグナが、何故このようなキャラクターとなったかを語るのが本書。
 オグナの天帝国出奔から本編第一話の直前まで、それぞれのエピソードの中でオグナと関わりを持つこととなる人物の名を冠した全五話から成る短編連作形式なのですが、これがまた実に暗い。

 父の野望のために体の何割かを土塊と機械に変えられた一種のサイボーグという彼が、父には道具として扱われ、兄には疎まれ、心を開いた相手を喪い、天帝国の非道を目の当たりにし…いや実に陰々滅々、こんな目に遭っていれば、それは確かにああいうキャラにもなるかと感心すらしてしまいました。

 もっとも、その基本設定からして明るくなる物語ではないのでこれはむしろ織り込み済みというべきでしょう。作品としては、個々の作品に結びつきを作りつつ、一話ごとにドラマとアクションを手際よく配置してみせた手法はなかなかのもの。また外伝としても、オグナのトレードマークである仮面やお供のカラスの由来を描いた上で、それが実に彼の存在を象徴するものであったことをきっちりと見せてくれたのは収穫でした。

 そして何より――本書においてはとことんまで人に追いつめられ、自分を追いつめていったオグナが、本編でどのように変わっていったか、そしてその変化がどれだけの重みを持つものだったのかを教えてくれたことにより、本編の(特にラストの!)味わいがまた深まったかな、と感じた次第です。


「oguna takeru-SUSANOH~魔性の剣より-外伝」(唐々煙&中島かずき マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon bk1


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 「takeru-SUSANOH~魔性の剣より-」第三巻 神剣めざめる

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2007.06.08

この一週間ばかりの小ネタ 「シグルイ」二題ほか

この一週間ほどの小ネタですよ。マイミクさんからの情報も参考にしつつ。
アニメ「シグルイ」キャスト等発表
 気がついたらアニメ版「シグルイ」のキャスト・スタッフ等が発表となっていました。
 な、浪川さんが時代劇でまた主役…あの仏頂面侍っぷりが評価されたのかしら(いや、わずかな台詞で感情の動きを見せることができるのはすごいことです)。間違えてもGUN道の方じゃないと思いますが。
 そして対する伊良子は何と佐々木望。美形声ではありますが、あんまり伊良子タイプのキャラの印象ではなかっただけにちょっと意外ですが、色々あってシブくなったあのお声の伊良子はなかなかハマるかもしれません。

 そして虎眼先生の声は、実は漫画読んでいる時に脳内アテレコしていた方だったので個人的には滅茶苦茶うれしい。というより他にいないでしょう。
 その他、虎子の皆さんがあまりにも豪華キャストで…この面子であの名(ネタ)台詞の数々を言っていただけるかと思うとワクワクします。特に、ちゅぱ右衛門の島田敏がある意味最高、ある意味最悪。

そして今回のビックサプライズ、ある意味若先生の良心を象徴するというべき堀江美都子様が特別出演! 若先生はもうすっかり血の内臓と男の裸の人になってしまったのかと思いましたが(それは昔から)、堀江美都子様のことは忘れてなかったんですね!
 …しかしよりによって涼之介に。


若本規夫氏による「シグルイ朗読CD」!?
 06月05日の項参照。あの「チャンピオンRED」誌10月号の付録として、若本規夫氏による「シグルイ」原作の「無明逆流れ」朗読CDが! これが秋田書店のサイトに書かれたものでなければ、絶対ネタとしか思えなかったであろうお話ですが、いやはや、空気を読むにもほどがある。今から購入決定。


「ONI零 -戦国乱世百花繚乱-」情報公開開始
 先日の小ネタでも触れましたが、「ONI零」最新作の情報公開が開始されました。選択できる主人公キャラが最終的には十五人以上というのは、何だか格ゲーチックですね。今のところ「転身」のての字もありませんが…ストーリーやキャラクターを見ると、強烈な飯島テイストが感じられますね。


美しい!Gackt景虎が見参
 個人的に放送開始当初の期待を遙かに上回る面白さの「風林火山」ですが、ついに六月十七日放送回からお屋方様の宿命のライバル・長尾景虎が登場。演じるのはあのGackt様でありまして…水干にロングヘアという、一体どこの陰陽師? スタイルがあまりにも期待通り過ぎて感動を覚えます。
 ちなみに動く景虎様はこちら(超ネタバレ注意)

 …これは赤マフラー以来の逸材かもしれんですよ? 

 そして毎回毎回「勘助。」とお屋方様に呼びつけられては無理難題をふっかけられている可哀想な主人公を演じている内野聖陽さんは
>迎える内野は「なんと美しい景虎。
と既に役に入っちゃっているようですが、ただでさえ味方(うち五割はお屋方様、四割は姫様)から毎回虐められているところに、ここで最大の強敵が加わるというわけで、勘助の困りっぷりにも更に磨きがかかりそうです。

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2007.06.07

「幸福を売る侍」「殿さま浪人」 幸福への第一歩

 最近身の回りであんまり楽しくないことがあったので、せめて会社の行き帰りに読む本は楽しいものにしよう、と思って手にしたのが、山手樹一郎先生のこの作品。「幸福を売る侍」「殿さま浪人」と二分冊になっていますが、元々は一つの作品、悪には強いが悩める人には優しい、楽天的で明朗快活なお侍が、周囲の人々を幸せにしていくという、山手作品の王道を行く快作です。

 ある事情から家を飛び出して浪人となった長谷村修平は、その初日から江戸で暮らす様々な人間の屑(…という表現はちょっと厳しすぎるのでは、と最初思いましたが、これはまだ人として踏みとどまっている部分がある、鬼畜外道ではないと理解すればよいのでしょう)に出くわします。しかし彼らにも彼らなりの事情があり、そして悩み苦しむ心があることを知った修平は、彼らを救うために一肌脱ぐことになります。
 そんな修平の前に現れるのは小悪党に莫連女、喰い詰め浪人に渡世人などなど…いずれもふとしたきっかけから正道を踏み外し、世間の裏街道を歩いてきた/歩くところだった人間たちですが、その彼らの沈んだ心を、修平の明るい心が照らし出し、救い出して幸福への第一歩へと踏み出させる――本作は、そんな物語です。

 もっとも、世の中にゃこんな善人は滅多にいないし、人間そうそう簡単に立ち直れたら苦労はないって…と、私みたいに、(人一倍こういうお話が好きなくせに)陳ねこびた拗ね者は思ったりもするのですが、しかし、本作が優しさと甘さを勘違いしたような腑抜けた作品かといえば、もちろんそんなことは断じてありません。
 世の中辛いことだらけ、どれだけ真面目に暮らしてきても、それが報われないことなんて山ほどある。いや、それ以前に真っ当に暮らしたくても暮らせないことだってあるし、そんなことなどハナっから考えずにしたい放題して暮らす外道どもも山といる。本作で描かれる江戸の町は、決して楽園でも天国でもなく、こんな、現代の現実とさして変わらない世界であります。
 しかし、そんな中にも楽しいこと、素敵なこと、嬉しいことは必ず――それまでが辛ければ辛いほど一層明るく――輝くのですし、そして人がその輝きを掴むことができるのは、他者とのポジティブな関わりにおいてのみ、ということを、本作は高らかに謳っているのです。

 そんな点からも、この連作中最も印象に残ったのは、「若き狼たち」というエピソード。町にたむろってはやくざ顔負けの悪事を働く外道の若造たちに、修平が挑むというストーリー…のはずが、物語の焦点はいつしか、彼らに付け狙われる若い浪人と、元・掏摸の美女へと移っていきます。全くの偶然で出会って以来、やがて互いが気になる存在になっていく二人。しかし浪人の方はかつて女性に手酷く裏切られた過去があり、また女の方も、既に足を洗ったとはいえ、自分の過去を常に引け目に思って、一歩を踏み出せない有様。
 普通であれば愛の力は無敵で、あっさりと二人の間の障壁を尽き崩してしまうのでしょうが、しかし本作ではなかなか二人の間の距離は縮まらない。こと、いかに好意を抱き合っている美女が相手とて過去が過去、そして自分自身の明日の暮らしもままならぬ状況では、一線を越えて、相手を背負ってこの先を生きていくことはどうにもためらわれる…という男性側の悩みが非常にリアルで、何というか、大いにうなづけるものがあったというか…
 まあ、何だかんだいって二人の間には意外な因縁があって(本作はこれが異常に多いのですがまあご愛敬)、めでたく二人は結ばれるのですが、そこに至るまでのさりげない心の動きがまたよく書けていて、今更ながら山手先生の筆力というものを感じました。

 何はともあれ、読み終わった後は自分まで明るい気持ちになって、何だか良いことがあるような気持ちになってくる本作。主人公が幸福を売る、そのお代は登場人物の、そして読者の笑顔――というのはあまりにもクサすぎるかもしれませんが、こういう作品だってあっていい、いや是非ともあってほしいという気持ちになる…これはそんな作品です。


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2007.06.06

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 第二ラウンド先制パンチ?

 前回、やたらと凄みの加わったおとねさんの登場で幕となった「Y十M 柳生忍法帖」ですが、沢庵和尚がいけしゃあしゃあと語るには、おとねさんはどこぞの大名を騙る偽物の慰みものにされて以来、哀れ気が触れてしまったとか…おいおい、計略(たぶん)とはいえ何ということを、という言いぐさですが、さしもの明成も目の前で沢庵の口からそんなことを言われては冷や汗一斗というところでしょう。
 ところでおとねさんの凄みは、言いたい放題の沢庵様に対してムッとしているからではあるまいね?

 そんな沢庵様の精神攻撃に弱りまくった明成は、ようやく戻ってきて銅伯と二本槍の姿を目の当たりにしてあからさまにホッとするという小物っぷり。そんなバカ殿は置いておいて、真ボス(たぶん)の銅伯は、表向き降参してきたも同然の沢庵をいたぶろうとしたようですが…そこに「うふっ 負けたよ」と沢庵のカウンターパンチ炸裂。銅伯のぬらりひょん顔の額に皺だか血管だかが浮かび上がるのは、失礼な表現かもしれませんが、なかなか愉快な眺めでした。第一ラウンドは銅伯の自殺ショーに一本取られた沢庵様ですが、第二ラウンドは見事に先制の一撃…といった印象です。
 それにしてもこの二人の側にいる人たちは色々といたたまれないだろうな…

 そして舞台は変わって会津領外へと向かう女人雲水の群れ。あわや明成の毒牙にかからんとした女人たちを、沢庵が墨染めの衣を方便として逃がそうというのがこれですが、その陰にはもう一つの意図が…
 そう、この騒ぎに紛れてお千絵とお笛を江戸に向かわせようというのですが、しかしさすがに芦名衆もバカではない(今のところ)。湖へと向かうお千絵一行の足跡を見つけて、追いかけてきます。
 既にお千絵お笛と五人坊主は湖上を行く「わしらの舟」の上ですが、しかしこれは見方を変えれば、他に逃げ場のない、追いつめられたも同然の状況。守護神般若侠も、軍師沢庵もない状況下で、果たして…というところで以下次号。

 これはいささかネタバレになりますが、これから繰り広げられる戦いは、私が山風作品の中でも最も感動させられたものの一つ。「柳生忍法帖」が漫画化されると知って以来、どのように描かれるか楽しみでならなかったシーンの一つだけに、期待せずにはおれません。

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2007.06.05

「大江戸ロケット」 九発目「恋愛で勝負」

 何だかどんどん黒い方向にお話が向かっていた前回までとはうって変わり、今回は再び清吉サイドに中心が移っての展開。空の獣が現れない=アクションほとんどなしのお話ではありましたが、今回は今回で色々と進展もあったように思えます。

 職人チームの櫓ランチャー完成により、いい感じで開発が進んできたかに見える清吉のロケット。そんな清吉を拉致ったお伊勢さん(しかし算盤ダンスは気に入ったんだろうか)、何をするかと思えばどうやら銀さんの様子が気になる様子で…清吉に銀さんの近況を(それもポジティブなところを)聞かされた時のお伊勢さんの微妙な表情の動きが素敵です。第三話では銀さんを厳しく叱咤していましたが、やっぱり銀さんのことを案じていたんだねえ…

 と、その直後に銀さんとソラのお安くない感じのところを目撃してしまった二人。まあ、銀さんソラさん二人とも余人に聞かれてはマズイ話をしていたわけではありますが、童…いや純情な清吉はともかく、お伊勢さんまで二人が逢い引きしてると思いこんでしまったのは(ここの微妙な演技がまた素敵)、いやはやナントカは盲目です。
 とはいえ、清吉くらいの年頃だと、好きな女の子に年上の男が近づいてくるというのは重大な脅威であるわけで――自分がまだまだ未熟なのがわかっているからこそ、自分より「大人」の男に対して、憧れと嫉妬と諦めとが入り交じった感情を抱いてしまうという…いや、あくまでも想像ですよ? 喩えればほら、憧れのクラスメートが流れ者のエクソダス請負人と仲良くしてるの目撃したゲームキャンプみたいな(全然わかんねえ)。
 冷静に考えれば、山寺銀次郎ならその辺りは大丈夫な感じなのにねえ。古田銀次郎ならもうアウトですが。

 そんな複雑な心中を抱えつつもロケット開発は進み、お伊勢さん差し入れ(?)のでかくて堅くて重いい釣り鐘を機体に使うことによって強度問題はクリア、どこの誰だか知らない人のアイディアで重量問題もクリアしていよいよテストフライト間近、と思いきや…そこで思わぬところから足を掬われる…というか足が付きそうな展開に。何と打上げを記念しての「影富」が密かに売りさばかれていて――
 と、ここで一切解説はない(この辺り、「妖奇士」の公式サイトは頑張ってましたね)「影富」とは、主催者が勝手に売り出して勝手に抽選する、というのとはちょっと違い、幕府などの許可を得た寺社が売り出す正式の富くじ(「本富」)の当たり番号を予想してこれに賭けさせるというもの(いわゆる「ノミ屋」…みたいなものと言えばいいのかしら)。まあ、話の本筋には関係ないのですが、たまには細かいところに解説を付けてみました。

 閑話休題、この影富に目を付けたのが赤井様だったからさあ大変、これは臭いと捜査を開始していまいます。時同じくして影富のことを知った銀次郎も、影富の背後にお伊勢さんがいると知って、委託を受けた元締めの名前を聞き出して(ついでに自分とソラの誤解を解いて)飛び出していきます。
 しかしお伊勢さん、何やかや言いながら物質面でロケット打上げのフォローをしてあげる、ツンデレぶりが見事ですな。

 ここから先は同時並行のクライマックス。清吉たちは、影富から足がつく前にと釣り鐘を使った打上げ試験を強行、そして赤井様と銀次郎は影富の元締めを追いかけてデッドヒートを繰り広げますが…
 影富の方は何とご隠居が無数の猫を操って富札を盗み…いや買い取って集めては証拠隠滅。ご隠居、あなたは一体…前にボタン一つで倒壊した長屋を再建したのはギャグの一つと言えますが、今回は一応(?)シリアスなシーン。しかも悔しがる赤井様の前に現れた犬の姿をよくよく見ると、これが冒頭でお伊勢さんと影富の相談をしていた元締めにそっくり…まさかとは思いますが、ご隠居は想像以上に恐ろしいパワーの持ち主なのかもしれません(まあ、舞台の方でも○○○を××にしたのはご隠居でしたが)。
 一方、釣り鐘ロケットの方は無事テストフライト成功、しかし本体として使った鐘が、内圧の変化でゴンゴン鳴ってしまって一同大焦り…とこれは、時代もの的にもSF的にも実に面白い展開。こういうネタが飛び出してくるから、この番組は侮れません(元もと侮ったことはないですが)。
 結局、現在のタイプのロケットでは月飛行は無理とわかって、残念がるかと思えば何だか嬉しそうなソラに、童…純情ハートを引っかき回された清吉を、えらい古典的な映像手法で写して今回おしまい。


 さて今回の影富は、舞台の方でも登場するネタ。舞台ではこれが原因で…という展開だったのでちょっと心配しましたが、あまりにとんでもないご隠居パワー爆発でまずは一安心でした。
 その一方で、清吉の誤解は基本的にアニメオリジナル。実は舞台の方では意外とソラと清吉の間の関係は淡泊だったりしたのですが、やはり長帳場のアニメでは、その辺りもきっちりと描いてくれるのでしょう。

 そして次回は…化猫? 化犬なら心当たりはありますが、さて何が何だか…


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2007.06.04

「危機之介御免」第二巻 危機スケールアップ!?

 「マガジンZ」誌で連載中の時代劇コミック「危機之介御免」の第二巻が発売されました。第一巻に引き続き、喜亀之介に十三(表紙の美形っぷりに噴いた)にウタのフリータートリオが、時にゆる~く、時に大マジに、上は老中暗殺から下は悪徳商法退治まで、江戸の危機を引き受けて大暴れします。

 第一巻では現代の風物をネタにしたパロディが多かった本作ですが、この巻では(セキュリティ対策の悪徳商法ネタはありましたが)、田沼意次暗殺計画というシリアスなエピソードが半分以上を占めていることもあってか、その辺りは控えめ。
 もちろん、それでも物語のテンションには変わりなく、むしろスケールアップした危機の中で喜亀之介たちが活き活きと暴れ回る姿は、より魅力的に感じられます。その一方でキャラクターの心情描写については――ベタな部分もありますが――よりしっかりと描かれるようになったように感じられるところで、ことにこの巻では、喜亀之介と十三それぞれに肉親の情が絡む中、彼らが悩み、戦う姿が一つの見所かと思います。
 また、新登場の田沼意次(と一応、平賀源内)も、いかにも本作らしい味付けが施されつつも、従来のイメージからも違和感のないキャラクターとして描かれており、感心いたしました。

 おそらくは、田沼意次や平賀源内は、本作における大人の/現実の象徴、モラトリアム期にある喜亀之介らと対比される存在なのではないかと想像するのですが、そんな巨大な相手を前にして、喜亀之介たちはこれからどうするのか。これから本作がどのような展開を見せるのかはわかりませんが、この辺りが主眼として描かれることとなるのではないかと――いさかか深読みかもしれませんが――感じた次第です。


 ちなみに本作において考証を云々するのは野暮の極みなんですが、一点だけ、日本刀がほとんど完全に直刀として描かれているのだけは違和感があるなあ…


「危機之介御免」第二巻(富沢義彦&海童博行 講談社マガジンZKC) Amazon bk1

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2007.06.03

「コウヤの伝説 4 ふぶきの山」 そして少年たちの旅は終わる

 時海結以ゆづか正成の児童向け時代ファンタジー「コウヤの伝説」の最終巻です。この巻では、これまで異世界コウヤの神の力の顕現である四神・朱雀と白虎を救い出した主人公四人が、サブタイトルにある「ふぶきの山」にて玄武と出会い、そして宿敵バサラと最後の四神・青竜との決戦に臨むこととなります。

 激しいふぶきが続く玄武の山にて遭難しかかった吾郎・きじゅ丸・みさ可・いぶきの四人は、山腹の洞窟で、四神の持ち物である法具のうち三つを手にします。四神の力が籠もった強力な法具の力でパワーアップした一行は、玄武を解放し、残る青竜を求めて旅立ちますが、青竜はバサラに操られるどころか逆にバサラを操り、自らの意志で人間を憎み、滅ぼそうとしていたのでありました。かくて四人はバサラ、そして青竜と死闘を展開することとなります。

 今回は最終巻ということでバトルシーンが多かったせいか、これまで以上にアイテムやガジェットの設定消化に懸命で、正直なところ、戦っている時以外は説明を受けていたような印象があるのですが、しかしその分(?)クライマックスの青竜戦の迫力はかなりのもの(ちょっとビジュアルで見てみたいと思ってしまいました)。
 何よりも、戦いの中でそれぞれがそれぞれの戦いの目的を自覚し、守るべきもののために全ての力を奮って立ち上がる様は、やはり実に気持ちのいいものがありました。

 物語が終わってみれば、吾郎とみさ可にかけられた呪いが今回はあまり目立たないうちに消えてしまったりと、消化不良の部分もなきにしもあらずですが、伝奇バトルと成長物語と、二つの側面がバランスよく盛り込まれ、また結末も――後の歴史を知る者にとってはいささか複雑に感じる部分もありますが――全て収まるべきところに収まった、後味の良いものであったかと思います(きじゅ丸の本当の(?)名前に今頃気付かされてちょっと驚きました。今頃気付く自分が間抜けすぎる)。

 対象年齢の約三倍のおっさンがあれこれ言うのも痛々しい話ではありますが、粗い部分はあるものの、時代ものの根っこを残しつつ、ファンタジーとして自由に世界と物語を展開して見せた様は、理屈抜きに楽しく、なかなか良くできた作品ではないかと思った次第です。

 なお、時海結以先生のサイトでは、本作のバックグラウンドの解説が掲載されており、なかなか興味深く拝見させていただきました(いぶきは世良親王だけど世良親王じゃないんだ…など。どうも「実は○○は生きていた!」なお話ばかり読んでいるので、歴史上の人物の生死に無頓着になってきていかんです)。
 また、時海&ゆずかコンビは、現在毎日小学生新聞で「おうばがふところ」なる平安ファンタジーを連載中とのこと。なかなかおっさンには読みにくい媒体なので、単行本にならないかな…と期待しているところです。


「コウヤの伝説 4 ふぶきの山」(時海結以 フォア文庫) Amazon bk1

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2007.06.02

「夢幻紳士 迷宮篇」 夢幻紳士、悪夢の迷宮を往く

 「ミステリマガジン」に連載された早川書房版「夢幻紳士」も、「幻想篇」「逢魔篇」ときて、この「迷宮篇」が、三作目にしてひとまずの完結篇となります。夢幻紳士こと夢幻魔実也氏が本作で対峙するのは、伝染する死魔とも言うべき奇怪な殺し屋たちと、その背後で蠢く夢魔の如き存在。形を持たない悪意を相手に、さしもの夢幻紳士も危機一髪…となるかどうかは、シリーズの愛読者であれば言うまでもありませんが、我らが魔実也氏は、本作でも相変わらず魅力的であります。

 大まかに言ってしまえば、二部構成といった趣もある本作、前半は、次から次へと人から人に伝染していく悪意・殺意に取り憑かれた人々に狙われる魔実也の姿を描き、後半は、遂にその悪意の源を突き止めた魔実也が、幽体離脱して幼女の姿となった女性の魂と共に、悪夢の迷宮の中心に迫っていくこととなります。
 個々の物語のクオリティの高さについては、今更言うまでもないことですが、特に前半部分においては、いつ誰が残忍な殺し屋になるかわからない状況下で、その殺し屋たちの意識の深層下にあった秘められた欲望を描きつつ、魔実也の危機と反撃を毎回見事に描き出していて唸らされます。(冷静に考えてみると今回の魔実也氏、毎回のように殺されるわ魂を奪われかかるわ――怪奇篇の系譜に連なる作品では大変珍しい、ぽや~んとした魔実也氏の顔が!――と、受難の度合いについてはシリーズ随一やもしれません)。
 また、その物語を描き出す画という点で見た場合、本作は三部作の中でも随一のクオリティと言えるでしょう。ムンクの「叫び」をモチーフとした第一話に代表されるように、その画に込められた妖気と狂気はあまりにも圧倒的で、誠に失礼ながら、思わず作者の体を案じてしまうほどの迫力でありました。

 が、作品一冊としての完成度となると、正直なところ、ちょっと首をかしげざるを得ない部分もあります。前半と後半で、はっきりと趣向が異なってしまっている点については、個々人の趣味によるところがあるとは思いますが、物語の果てに待ち受けている相手が、以前の作品を読んでいなければよくわからない上に、いささかインパクト不足というのはどう考えても残念なところです。
 また、結びのアレについても、さすがに毎回やられても…という印象があり、先に述べた大ボスの存在と合わせて、一種の連環構造となっているのだとは思いますが、ちょっと苦しいな、と思わざるを得ません。

 尤も、これはひねくれたファンの斜に構えた見方、先に述べたとおり、個々のエピソード自体のクオリティの高さについては文句を言ったらバチがはありませんし、むしろ三部作を通してご覧になっている方であれば、大ボスの存在には唸らされるのではないかと思います(全体構成については、これまでが――特に「幻想篇」が神懸かって良すぎたということもありますし)。

 何はともあれ、夢幻魔実也氏とはこれにてひとまずのお別れ。なにぶん気まぐれが服を着て歩いているような人物だけに、今度はいつ逢えるかはまだわかりませんが、いずれまた飄々と、あのいっそ小気味いいほどに澄ましかえった顔を、我々の前に見せてくれることでしょう。
 まずはその日を楽しみにしつつ―― 


「夢幻紳士 迷宮篇」(高橋葉介 早川書房) Amazon bk1

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2007.06.01

「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」 第八回「最後の剣」

 さて「柳生十兵衛七番勝負 最後の戦い」も最終回。正真正銘のシリーズ全体の最終回であります。迫る正雪一党の決起を、十兵衛は阻止することができるのか!
 …あっさり阻止してしまいました、ハイ。
 いや、第七回後半からの続きと思えば、これはこれでよいのだと思いますが、丸橋忠弥との決闘を含めて、正雪との対決以降はちょっと後片づけ感が強かったかな…と思います。

 と、いきなり厳しいことを書いてしまいましたが、追い詰められた正雪と十兵衛の対話シーンは実に良かったです。…主に正雪が。
 相変わらずマクロな話をしている正雪に対し、ミクロな話でしか返さ(せ)ない十兵衛にはイライラさせられましたが(社会制度としての侍の扱いの話をしている時に、自分自身の剣の話をされてもな…もちろん、十兵衛の方の気持ちもよくわかるのですが)血管を浮き上がらせまくった和泉正雪の熱演だけでもう満足です。
 特に、十兵衛が介錯すると言った(=武士としての死を許した)時の、喜びと悲しみの入り交じった表情が絶品で――ぶっちゃけ和泉正雪目当てに本作を見ていた私の偏った視点は抜きにしても――今回のクライマックスはこのシーンだと言っても皆同意してくれるのではないかと思います。

 その後の一連のシーンは、冒頭に書いたとおり詰め込み過ぎというか後かたづけが多すぎたというか…特に、忠弥がキャラクター的に構成的に本当に十兵衛最後の勝負の相手に相応しかったか、というとちょっと悩んでしまう部分はあります。いっそのこと正雪を剣の達人にしても良かったと思うのですが…いや、そうすると前二シリーズの悪役と同じようなキャラになってしまうのかな? 母や妻との再会の件も、再会したところで終わった方が余韻が残った気もします。
 とはいえ、十兵衛・又十郎・伊豆守三人の事後処理の件はちょっと面白かったので、これはこれで良いのかな、という気がしないでもありません。…大次郎がちょっと良いこと言ってるときに、早速自分のために働けみたいなこと言って空気嫁とか思っていたら、最後の最後で男を見せた又十郎格好良いよ又十郎。
 でも「お前たち兄弟は、まことにあの但馬のせがれか?」とか言われちゃうのには笑いました。いくら助九郎や十兵衛がとってつけたようなフォローしても、やっぱり宗矩は宗矩だよなあ。

 何はともあれ、これまでのシリーズのファンにはあまり評判は良くないようですが、私はなかなかに楽しませていただきました。個人的には、剣を捨てるのではなく、父と異なった形で振るい続けることが、十兵衛の父超えになるのではないかとも思ったのですが、おるいさん(色々とファンから言われていましたが、この人のキャラがあったからこそ、なんとか話が丸く収まったように思えます)と一緒に、人として幸せになる、愛する人を幸せにするというのも、これはこれで立派な父超えではありますね。


 さて、来週からは宮本昌孝先生原作の「夏雲あがれ」であります。爽快さでは右に出るもののない宮本作品だけに、これは気持ちの良い作品になりそうです。
 ちなみにこちらの主演の石垣佑磨さん、どこかで見た顔だと思ったら、先日観たばかりの「大江戸ロケット」の舞台での駿平役の方でした。特技はテコンドー(「大江戸~」でもすんごいイイ蹴りを出してました)とのことで、アクション面でも期待して良さそうですね。来週からも楽しみです。


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