「戦国戦術戦記LOBOS」第一巻 戦国プロフェッショナル駆ける
「少年シリウス」誌に連載されている時代コミックというと「乱飛乱外」が浮かびますが、もう一つ、いま密かに注目を集めているのが本作「LOBOS」。
同じ戦国時代を舞台としながらも、こちらはグググッとシリアスなお話、どの勢力にも属さず、ただ己の腕のみを頼りに戦国乱世を駆け抜ける傭兵集団の活躍が描かれます。
主人公として描かれるのは、傭兵集団「狼(ろう)」の一人・市蔵。まだ年は若いながらも、卓越した体術と、そして何よりも超ロングバレルの火縄銃を用いた射撃術の達人であります。
この市蔵が、様々な不可能ミッションに挑んでいくのが本作の基本パターン。この第一巻においては、
・大名の跡目を決める試合に介添えとして出場し、わざと負ける
・敵の大群に囲まれた砦から兵たちを逃がす
・略奪を避けるため軍勢の通り道にある村から住人を逃がす
という、三つのエピソードが収録されています。
こうしたいわゆるプロフェッショナルものの作品においては、どれだけ困難なミッションを主人公に用意するか、その中でどのような窮地に主人公を追い込むか、そして何より、そしてそれをどのように主人公がプロたる所以を見せつけて切り抜けるかが、物語の面白さの鍵となるのは言うまでもない話。
この条件を、本作はきっちりと満たしており、刻一刻と変わっていく状況の中でも常に己のベストを尽くし、ミッションをきっちりとこなしてみせる市蔵の活躍ぶりが魅力的に描かれています。
そしてさらに本作の見事なところは、さらにそこに人情話を絡めて、ちょっとイイ話に仕上げていることでしょう。
ともすれば殺伐としたものになりがちな戦国時代という背景、さらに主人公の稼業が傭兵という設定を、その基本設定の持ち味を殺すことなくきっちりと生かしつつ、うまくその尖った部分を緩和して――いやむしろ利用して――極限状況下での熱い人間ドラマを成立させているのには感心いたしました。
驚くべきは、このような作品を描いた作者が、ほぼ新人であるということでしょう。上に上げた物語構成に加え、アクション描写の点においても高いクオリティを維持しているのには、ちょっと驚かされた次第です。
個人的な趣味を言わせていただけば、ちょっと主人公が強すぎるように感じられる部分があり、もっと主人公の能力をフルに発揮しなければ達成できないようなミッションを見せて欲しいという気持ちもあるのですが、まだまだ第一巻、それはこれからのお楽しみということでしょう。
まずは、時代コミックの世界に新たな才能が登場したことを喜びたいと思います。
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